バブ61
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それは、石矢魔高校が配属となった特別クラスに掲示された貼り紙が発端だった。
――素行不良 器物破損により、以下の者は退学処分とす――。
そこには、東邦神姫や夏目、男鹿達の名前も載せられている。
「もちろん、ウチの生徒にも非はあった。それは認めよう――だが君達は、厳重注意を受けた上での過失だ」
木戸は両手を組んで話を続ける。
「何か言い分はあるかね?」
生徒指導室に呼び出された八人、その最後尾に立つ古市は勇気を振り絞り、微妙に声をすぼめて発言する。
「あの…僕…何もしてないんですケド…正直、ここに呼び出された意味が分からないというか…」
「とぼけるな!!お前が、あれこれ入れ知恵しただろ」
「いわば主犯格じゃないか!!」
「何が智将だ!!」
だが、そんな前では言い訳にしか聞こえず、教師達に厳しく糾弾される。
「そんな……」
古市は悲しみに打ちひしがれる。
退学処分に加わっていることを不思議に思った響古はこっそり聞いてみた。
「古市って、あの時ずっと何してたの?」
「……屋上の影に身をひそませてた」
直後、響古の冷たい眼差しで全身を貫かれた。
古市はそれ以上何も言うことができず、口を堅く閉ざす。
「待って下さいっ!!彼は本当に無関係です」
その時、凜とした声が響く。
一歩、踏み出して葵が弁護に回る。
「邦枝先輩!!」
古市は感激する。
「――いえ、そもそもの責任は、全て皆を止められなかった私にあります」
葵は険しい表情ながらも、真摯に謝罪する。
「私が退学になるのは仕方のない事です――ですが、ここにいる者はせめて、聖石矢魔の方々と同じ処分であるべきです」
「――ほう」
言葉を飾らず、誠実に物事を語る葵の言葉に、木戸は腕組みさえ解かず、切り出された処罰について答える。
「――ちなみに、うちの生徒で処罰の対象となったのは3人。城山君にケガを負わせた1年3組の生徒、仲代君・森君・角田君ら、それぞれ2週間の停学処分となった。部長連に関しては、特に処罰はない」
「おいおいおい」
明確な処罰の有無の違いに、姫川は納得できない気持ちを言葉で表す。
「残念だが、彼らと君らでは、全く立場が違う。彼らには校内の秩序を守る為、多少の制裁行為が認められている。今回の件も、その範疇だ」
学園の秩序を守るために結成された六騎聖は、生徒だけではなく教師の信頼も高い。
学校自体が世間の鼻つまみの集団という、悪名高い石矢魔高校は、素行の悪さで不良となった男達とはレベルが違い過ぎる。
その結果、現実を突きつける。
「特に、君達が来る事が決まってからは、その権限を強く行使するようこちらからも、はたらきかけた。彼らに落度はないよ」
「――…そんな、納得出来ません!!」
葵が最初に声を張り上げ、神崎と夏目も文句や不満を漏らす。
「話にならねーな」
「じゃ、何か?こっちはやられっぱなしで黙っとけって話ですか?」
処罰の不遇に苛立ちを巻き起こす中、男鹿、響古、東条の三人はずっと無言だった。
葵はたまらず、三人に向けて怒声をあげる。
「ちょっと!!」
「んぁ?」
「あんた達も何か言いなさいよ!!」
「あー…」
その怒声を受けて数秒か考え込んだ後、それぞれが同じ意見を告げた。
「とりあえず、あのメガネとケンカしに行きてーんだけど」
「もういいか?オレもあのチビ、ぶっとばさねーと」
「今、思い出しても腹立つわ。更正がてら腐った性根を叩きつぶさないと」
三人の似通った思考、その片鱗を垣間見て、古市は頭が痛くなってきた。
「………」
「話きいてたっ!!?それと響古、叩きつぶしてたら更正にならないでしょ!叩き直すが正解!!」
全て同じ意見、ゴーイングマイウェイぶりに、葵は猛烈なツッコミを浴びせる。
「退学よ!?退学!!分かってんの!?」
しかし、三人はあっさりと言う。
「えー、だってしょーがねーじゃん」
「決まっちゃったもんはなー」
「だよねー」
そして、こんな言葉まで平然と付け加えた。
済んだことを悔やんでも仕方ない。
それ以上のコメントを差し控えると、古市も叫ぶ。
「しょーがなくねーよ!!あがこーよ!なんだ、それ!!」
男鹿と東条はやる気なさげに全身から脱力しきり、欠伸などこぼしていた。
どこまでも投げやりでおざなり態度に、古市も声を荒げる。
「響古もさぁ、よく考えようよ!」
古市からダメ出しされ、仕方なく考え直す。
すると響古は、それだけで男を奴隷に変えられそうな愛らしい笑みを浮かべた。
「…あたしだけ在学で辰巳が退学になるなんて、そんなの考えられない。辰巳の後を追いかけて退学にするよう直談判だね」
「うーわ、響古がむっちゃ爽やかな笑顔だよ…」
やはりこれか。
既に予測済みだったのか、古市は思い悩んだ。
「――いや、案外、そいつらの言う通りだぜ…」
一転、肯定的な姫川の一言で気圧されたのか、全員は振り向く。
「どーせ退学になるんだ。だったら、奴らと決着つけてからってのも悪くねェ」
「姫川…」
これ以上の話し合いが無意味と悟ったか、木戸は何やら考え込んだ後、
「待ちなさい」
別方向から切り込んだ。
その声に、踵を返していた八人の足が止まる。
木戸は肩をすくめ、困ったように話しかける。
「――やれやれ。確かに、このままではまた、騒ぎを起こされかねないね…」
できるだけ事態を穏便に済ますべく、一つの提案を行う。
「では、こうしよう…1か月後、本校で行われる学園祭、そこで君達8人対部長連で決着の場を設けよう。ただしケンカではなくスポーツだ。学生らしくね」
「スポーツ…?」
「競技に関しては、部長連の有利にならぬ様、一考 しよう。そして、もし君達が勝った場合、今の処分も考え直す。退学は、それまで保留だ――どうだね?破格の条件だと思うが――…」
「――いいや、まだだね」
姫川は異論を唱えた。
今、木戸が口にした単語は、そう簡単に聞き流すわけにはいかなかった。
「あいつらにリスクがねぇ。オレ達が勝ったら、六騎聖の権限とやらをとり下げて貰うぜ」
その提案に危険なものを感じ、教師達は警戒の度合いを上げた。
「おいっ」
「調子にのるなよっ…」
怒りを露にする教師達とは対照的に、木戸は冷静に対応する。
「いいだろう。ただし勝敗がどうであれ、その後は、一切もめ事を起こさないと誓って貰うぞ」
「当然」
全く物怖じせず、姫川は不敵な態度で教師陣と対峙する。
(こーゆー時は頼もしいな…)
姫川の強引なやり方に、古市は頼もしい発言とは逆に恐怖で顔を引きつらせる。
六騎聖との決着を持ち越した教師との交渉を経て、八人は指導室を出る。
「ざっとこんなもんよ」
交渉が成立して得意げに言い放つ姫川を、神崎は嫌味ったらしく唇を尖らせ、夏目は感嘆の声をあげる。
「けっ」
「さすが姫ちゃん、かけ引きがうまいねー」
そして、古市は一気に緊張が解けたのか脱力する。
「首の皮一枚、つながりましたね」
そんな、口々に言う男達とは対照的に、伸ばした背筋を崩さない葵は丁寧な対応で頭を下げる。
「失礼しました」
「姐さん!!どうでしたか!?」
そこへ、待っていた寧々と千秋がすぐさま駆け寄る。
「えーと…」
なんと言ったらいいものか、口を開こうとしたその時。
「で、そろそろ行っていいのか?」
『いいわけねーだろ!!』
終始喧嘩のことで頭がいっぱいだった男鹿と東条は当然、周りからつっこまれる。
「何聞ーてたんだ、ボケ!!」
「死ね」
「バカか、お前ら」
男達から繰り出される暴言に近いツッコミをスルーする男鹿。
隣に立つ彼女に、六騎聖との勝負はどうなったかを訊ねる。
「響古、あいつらとの勝負は結局どーなったんだ」
その質問にマイペースな声をかけ、響古は微笑んでみせる。
「1か月後に開催される学園祭で決着をつけるんだよ。ただし、ケンカじゃなくてスポーツ対決だけど」
「は?スポーツ対決?何だそりゃ」
「いいからおめーら、大人しくしてろよ」
「つーか遅ぇよっ!!」
これら、自分のことしか考えていない人間ばかり、協調性皆無な集団に、葵は軽い頭痛を覚える。
「頭痛い」
「姐さん?」
騒がしい集団が去り、静かになった指導室に居座る木戸は、姿の見えない誰かに話しかける。
「………これでよかったのかね?」
「…ええ、有難 うございます」
いつからそこにいたのか、出馬が表情の読めない顔つきで礼を述べ、鳩に餌を撒きながら話を続ける。
「これで彼らも必死になるやろし、久也らも、納得のいく舞台が作れると思います」
「…すまないね。話の流れ上、ああいう条件がついてしまった」
「いやいや、かまいませんって」
次の瞬間、出馬から膨大な殺気と闘志が迸る。
それを敏感に感じ取った鳩が一斉に飛び立ち、彼はズボンの汚れ払って立ち上がる。
「負けませんから」
どこか歪んだ心根が生み出す笑み。
しかし、そこに宿る自信は紛れもない本物だ。
「それにしても、篠木ちゃんのあれはすごかったねー。あっという間に六騎聖の二人を倒しちゃったんだから」
自分達の教室に向かう途中で、夏目はにこやかな顔を響古へ向けてそう言った。
彼の言いたいことは、郷と榊を一人だけで倒した件だろう。
「あの時は倒す事が目的じゃなく、先に進む事が目的でした。できるだけ薙ぎ払いたかったんです」
謙遜するように言うと、夏目はなんとなく――興味深めに見える笑みを浮かべた。
「でも、彼の竹光を素手で叩き落とした技……あれは本当にすごかったわ」
「あたしや千秋も遠くで眺めてたけど、瞬殺だったわね」
揃って申し出た葵と寧々に、千秋も頷いて同意する。
「『ケンカはビビった奴の負け。たとえ相手をブチのめしても、ビビったら負け』――要は自信と度胸の問題ですね」
自分を励ましてくれた男鹿の発言を思い出したのだろう。
――素行不良 器物破損により、以下の者は退学処分とす――。
そこには、東邦神姫や夏目、男鹿達の名前も載せられている。
「もちろん、ウチの生徒にも非はあった。それは認めよう――だが君達は、厳重注意を受けた上での過失だ」
木戸は両手を組んで話を続ける。
「何か言い分はあるかね?」
生徒指導室に呼び出された八人、その最後尾に立つ古市は勇気を振り絞り、微妙に声をすぼめて発言する。
「あの…僕…何もしてないんですケド…正直、ここに呼び出された意味が分からないというか…」
「とぼけるな!!お前が、あれこれ入れ知恵しただろ」
「いわば主犯格じゃないか!!」
「何が智将だ!!」
だが、そんな前では言い訳にしか聞こえず、教師達に厳しく糾弾される。
「そんな……」
古市は悲しみに打ちひしがれる。
退学処分に加わっていることを不思議に思った響古はこっそり聞いてみた。
「古市って、あの時ずっと何してたの?」
「……屋上の影に身をひそませてた」
直後、響古の冷たい眼差しで全身を貫かれた。
古市はそれ以上何も言うことができず、口を堅く閉ざす。
「待って下さいっ!!彼は本当に無関係です」
その時、凜とした声が響く。
一歩、踏み出して葵が弁護に回る。
「邦枝先輩!!」
古市は感激する。
「――いえ、そもそもの責任は、全て皆を止められなかった私にあります」
葵は険しい表情ながらも、真摯に謝罪する。
「私が退学になるのは仕方のない事です――ですが、ここにいる者はせめて、聖石矢魔の方々と同じ処分であるべきです」
「――ほう」
言葉を飾らず、誠実に物事を語る葵の言葉に、木戸は腕組みさえ解かず、切り出された処罰について答える。
「――ちなみに、うちの生徒で処罰の対象となったのは3人。城山君にケガを負わせた1年3組の生徒、仲代君・森君・角田君ら、それぞれ2週間の停学処分となった。部長連に関しては、特に処罰はない」
「おいおいおい」
明確な処罰の有無の違いに、姫川は納得できない気持ちを言葉で表す。
「残念だが、彼らと君らでは、全く立場が違う。彼らには校内の秩序を守る為、多少の制裁行為が認められている。今回の件も、その範疇だ」
学園の秩序を守るために結成された六騎聖は、生徒だけではなく教師の信頼も高い。
学校自体が世間の鼻つまみの集団という、悪名高い石矢魔高校は、素行の悪さで不良となった男達とはレベルが違い過ぎる。
その結果、現実を突きつける。
「特に、君達が来る事が決まってからは、その権限を強く行使するようこちらからも、はたらきかけた。彼らに落度はないよ」
「――…そんな、納得出来ません!!」
葵が最初に声を張り上げ、神崎と夏目も文句や不満を漏らす。
「話にならねーな」
「じゃ、何か?こっちはやられっぱなしで黙っとけって話ですか?」
処罰の不遇に苛立ちを巻き起こす中、男鹿、響古、東条の三人はずっと無言だった。
葵はたまらず、三人に向けて怒声をあげる。
「ちょっと!!」
「んぁ?」
「あんた達も何か言いなさいよ!!」
「あー…」
その怒声を受けて数秒か考え込んだ後、それぞれが同じ意見を告げた。
「とりあえず、あのメガネとケンカしに行きてーんだけど」
「もういいか?オレもあのチビ、ぶっとばさねーと」
「今、思い出しても腹立つわ。更正がてら腐った性根を叩きつぶさないと」
三人の似通った思考、その片鱗を垣間見て、古市は頭が痛くなってきた。
「………」
「話きいてたっ!!?それと響古、叩きつぶしてたら更正にならないでしょ!叩き直すが正解!!」
全て同じ意見、ゴーイングマイウェイぶりに、葵は猛烈なツッコミを浴びせる。
「退学よ!?退学!!分かってんの!?」
しかし、三人はあっさりと言う。
「えー、だってしょーがねーじゃん」
「決まっちゃったもんはなー」
「だよねー」
そして、こんな言葉まで平然と付け加えた。
済んだことを悔やんでも仕方ない。
それ以上のコメントを差し控えると、古市も叫ぶ。
「しょーがなくねーよ!!あがこーよ!なんだ、それ!!」
男鹿と東条はやる気なさげに全身から脱力しきり、欠伸などこぼしていた。
どこまでも投げやりでおざなり態度に、古市も声を荒げる。
「響古もさぁ、よく考えようよ!」
古市からダメ出しされ、仕方なく考え直す。
すると響古は、それだけで男を奴隷に変えられそうな愛らしい笑みを浮かべた。
「…あたしだけ在学で辰巳が退学になるなんて、そんなの考えられない。辰巳の後を追いかけて退学にするよう直談判だね」
「うーわ、響古がむっちゃ爽やかな笑顔だよ…」
やはりこれか。
既に予測済みだったのか、古市は思い悩んだ。
「――いや、案外、そいつらの言う通りだぜ…」
一転、肯定的な姫川の一言で気圧されたのか、全員は振り向く。
「どーせ退学になるんだ。だったら、奴らと決着つけてからってのも悪くねェ」
「姫川…」
これ以上の話し合いが無意味と悟ったか、木戸は何やら考え込んだ後、
「待ちなさい」
別方向から切り込んだ。
その声に、踵を返していた八人の足が止まる。
木戸は肩をすくめ、困ったように話しかける。
「――やれやれ。確かに、このままではまた、騒ぎを起こされかねないね…」
できるだけ事態を穏便に済ますべく、一つの提案を行う。
「では、こうしよう…1か月後、本校で行われる学園祭、そこで君達8人対部長連で決着の場を設けよう。ただしケンカではなくスポーツだ。学生らしくね」
「スポーツ…?」
「競技に関しては、部長連の有利にならぬ様、
「――いいや、まだだね」
姫川は異論を唱えた。
今、木戸が口にした単語は、そう簡単に聞き流すわけにはいかなかった。
「あいつらにリスクがねぇ。オレ達が勝ったら、六騎聖の権限とやらをとり下げて貰うぜ」
その提案に危険なものを感じ、教師達は警戒の度合いを上げた。
「おいっ」
「調子にのるなよっ…」
怒りを露にする教師達とは対照的に、木戸は冷静に対応する。
「いいだろう。ただし勝敗がどうであれ、その後は、一切もめ事を起こさないと誓って貰うぞ」
「当然」
全く物怖じせず、姫川は不敵な態度で教師陣と対峙する。
(こーゆー時は頼もしいな…)
姫川の強引なやり方に、古市は頼もしい発言とは逆に恐怖で顔を引きつらせる。
六騎聖との決着を持ち越した教師との交渉を経て、八人は指導室を出る。
「ざっとこんなもんよ」
交渉が成立して得意げに言い放つ姫川を、神崎は嫌味ったらしく唇を尖らせ、夏目は感嘆の声をあげる。
「けっ」
「さすが姫ちゃん、かけ引きがうまいねー」
そして、古市は一気に緊張が解けたのか脱力する。
「首の皮一枚、つながりましたね」
そんな、口々に言う男達とは対照的に、伸ばした背筋を崩さない葵は丁寧な対応で頭を下げる。
「失礼しました」
「姐さん!!どうでしたか!?」
そこへ、待っていた寧々と千秋がすぐさま駆け寄る。
「えーと…」
なんと言ったらいいものか、口を開こうとしたその時。
「で、そろそろ行っていいのか?」
『いいわけねーだろ!!』
終始喧嘩のことで頭がいっぱいだった男鹿と東条は当然、周りからつっこまれる。
「何聞ーてたんだ、ボケ!!」
「死ね」
「バカか、お前ら」
男達から繰り出される暴言に近いツッコミをスルーする男鹿。
隣に立つ彼女に、六騎聖との勝負はどうなったかを訊ねる。
「響古、あいつらとの勝負は結局どーなったんだ」
その質問にマイペースな声をかけ、響古は微笑んでみせる。
「1か月後に開催される学園祭で決着をつけるんだよ。ただし、ケンカじゃなくてスポーツ対決だけど」
「は?スポーツ対決?何だそりゃ」
「いいからおめーら、大人しくしてろよ」
「つーか遅ぇよっ!!」
これら、自分のことしか考えていない人間ばかり、協調性皆無な集団に、葵は軽い頭痛を覚える。
「頭痛い」
「姐さん?」
騒がしい集団が去り、静かになった指導室に居座る木戸は、姿の見えない誰かに話しかける。
「………これでよかったのかね?」
「…ええ、
いつからそこにいたのか、出馬が表情の読めない顔つきで礼を述べ、鳩に餌を撒きながら話を続ける。
「これで彼らも必死になるやろし、久也らも、納得のいく舞台が作れると思います」
「…すまないね。話の流れ上、ああいう条件がついてしまった」
「いやいや、かまいませんって」
次の瞬間、出馬から膨大な殺気と闘志が迸る。
それを敏感に感じ取った鳩が一斉に飛び立ち、彼はズボンの汚れ払って立ち上がる。
「負けませんから」
どこか歪んだ心根が生み出す笑み。
しかし、そこに宿る自信は紛れもない本物だ。
「それにしても、篠木ちゃんのあれはすごかったねー。あっという間に六騎聖の二人を倒しちゃったんだから」
自分達の教室に向かう途中で、夏目はにこやかな顔を響古へ向けてそう言った。
彼の言いたいことは、郷と榊を一人だけで倒した件だろう。
「あの時は倒す事が目的じゃなく、先に進む事が目的でした。できるだけ薙ぎ払いたかったんです」
謙遜するように言うと、夏目はなんとなく――興味深めに見える笑みを浮かべた。
「でも、彼の竹光を素手で叩き落とした技……あれは本当にすごかったわ」
「あたしや千秋も遠くで眺めてたけど、瞬殺だったわね」
揃って申し出た葵と寧々に、千秋も頷いて同意する。
「『ケンカはビビった奴の負け。たとえ相手をブチのめしても、ビビったら負け』――要は自信と度胸の問題ですね」
自分を励ましてくれた男鹿の発言を思い出したのだろう。