バブ54
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三人がいない間に何があったのか、詳しく事情を聞くべく、教室を移動しようとする。
特別活動室とプレートが掲げられた教室を前に、葵に手招きされた響古は続いて入室し、男鹿も入ろうとして、刺々しい声をかけられた。
「…ちょっと、ついてくるつもり?」
「オレ達についていった奴が言うセリフじゃ……いや、なんでもない」
剣呑な眼光に打たれて、反論を即座に撤回する。
そのまま、平然と言う。
「響古に変な事しねーよな?」
「しないわよ!私は痴女か!」
不機嫌をあからさまに眉間の皺に残して、葵は怒鳴る。
響古の方は、その姿を不思議そうに眺めていた。
ベル坊を背負った男鹿は真面目な顔になって扉の前で待つ間、響古と葵の二人が事情を聴く。
「何があったの――…?」
「――はい。実は私達が…」
マスクをつけた女子生徒は言いにくそうに口を開こうとして、花柄の髪飾りが特徴的な女子生徒が声を張り上げる。
「カラまれたんスよ!チャラい奴らに」
「アイツら、ウチが手ぇ出せないの知ってて…」
葵は怪訝そうに眉を寄せる。
(アイツら…?)
彼女達は、朝にしては遅い弁当を食べた時の経緯を話した。
「――…さっき外で弁当食ってた時の事っス…」
教室には、神崎の好物であるヨーグルッチが無造作に床に落ちていた。
飲料の口にストローが刺さっているところから、彼が勘忍袋の緒が切れたことが如実に物語っている。
時は遡り、中庭で朝にしては遅い弁当を食べている時、頭上から声が降ってきた。
「うおっ、見ろよ、スケバンだスケバン!!」
「すげー、初めて見た。本当にいんだな、こーゆーの」
まず目についたのは、好奇と羨望の眼差し。
まじまじと自分達を見つめる彼らの視線に居心地の悪さを感じたのか、二人は無言を通す。
「なんかよくね?」
「おー。思った思った」
「何この新鮮なカンジ」
その時、偶然通りかかった城山が絡まれている石矢魔女子を目撃する。
「君タチ何年生?オレ1年3組」
「その弁当、手作り?」
「引いてんじゃん」
後半は、半ば独り言だった。
新学期、一癖も二癖もある生徒が次々と登場したせいか、無意識に期待していたのか、少年らの、よく言えば打ち解けた、悪く言えば馴れ馴れしい口調が影を潜めている。
気弱そうな口調と外見である茶髪の少年が、一方的に話す二人に注意する。
「ま…まずいよ、石ヤバの人だよ」
「へーき、へーき」
「そうそう。ど-せこいつら、何も出来ねーし」
仲間に対するそれ以上の関心をなくし、視線を正面に戻すと、大柄な男が乱入した。
「おい。ウチのもんに何か用か?」
「はわっ」
鋭い眼光と周囲に漂わす重厚な存在感、190はあろうかという長身が、威圧感をありありと感じさせた。
「でた…ほらっ。だから言ったんだ」
「うおっ。でかっ」
自分の喉から危うく漏れかけた悲鳴を、茶髪の少年はなんとか抑え込み、他の二人は動揺を押し隠して、精一杯不取り繕った表情をつくる。
「……別にぃー」
「オレら、おしゃべりしてただけっスけど…なんかマズイっスか?」
城山は、そんな彼ら……特に黒髪の二人の少年をじっと観察し、次に彼女達に退却を命じる。
「お前ら、行け。こんな所でモメても、なんにもならんぞ」
「………」
二人は弁当を持って、素直にこの場から立ち去る。
「あぁっ!?ちょっと、ちょっと!!」
「あきらめろ。お前らとは住む世界が違う」
名残惜しげに呼び止めようとするが、城山は無情に告げた。
すると、二人は勢いよく振り返り、城山に抗議した。
「何してくれんスか!!」
「そーっすよ、オレ達、けっこう真剣だったのに!!」
「む?」
さすがに反発されるとは予想していなかったため、城山は小さく唸る。
「人の恋路をジャマするなんて、男のやる事っスか!?」
「そーだそーだ!!これでも、すげー勇気だしたのにっ!!」
「やめなよ、二人共…」
猛抗議する二人に歩み寄り、茶髪の少年は止めさせようとする。
「オレ達の純情を返せっ!!」
「………」
巌 のような表情の城山、その眉尻が微かにつり上がる。
心底嘆き、次々と反逆してくるので、
「…そいつは悪かったな。詫びに一発ずつ殴らせてやる。それでチャラだ」
城山は自分を殴らせることで、謝罪と共に解決しようとした。
その発言の威力に、一人は胸中で爆笑する。
――ぶはっ!!
――まじかよ、こいつ、こんなセリフ、リアルに言うんだW。
――ダッセェェェェWWWW。
ネットスラングを使いたくなるほど、笑いのテンションがハイとなる。
それでも、平面上は怪訝な顔をした。
「そんな…オレ達、そんなつもりじゃ…」
そしてもう一人も、完全無欠の嘲笑いが爆発する。
――はずっ…恥ずかしいーー。
――オレを殴れって、さすが石ヤバWWW。
今時、こんな恥ずかしい台詞を放つ城山に、さすが不良校の石矢魔だと皮肉げに感嘆する。
「ホ…ホントにいいんすか?じゃ、じゃあ、オレから」
「いきますよ?」
「おう…」
その直後、彼は危うく悲鳴をあげそうになった。
後頭部に強烈な打撃を受けて、城山は絶句して振り返る。
「………………」
ダンベルを投げた相手は、顔を青ざめた茶髪の少年。
それを笑って眺める二人は、満足げに少年を褒める。
「うははは、ナーイス!!」
「ひ、ひいっ」
「…よぉし。あと二人だ…さっさと来い」
一瞬、呆然としていた二人だが、すぐに感嘆と嘲り、二つの声が降りかかった。
ここまでまともに食らうとは、思っていなかったらしい。
挑発とも本気とも取れる声は次第に悪化して、ぶつける物は鈍器と化す。
「すっ、すげぇっ。こいつ、マジで何も、しねぇぞ!!」
「よーし、じゃあオレこれ、いっちゃおうかな?」
「おおっ!!それ、いっちゃう!?男だな、おいっ」
「いやいやいや、さすがに、それは死んじゃうでしょー」
歯止めの利かない二人は非常階段を昇って、ダンベルを城山の頭めがけて落とした。
「……って、おぉおぃっ!!」
制止を聞き入れず、真上から落としたダンベルは重力と共に加速して強力な鈍器と成り変わる。
事情を聴き、教室に戻った男鹿達を待っていたのは、神妙な面持ちで残っていた不良共。
「――それで、城山は…?」
「ウチらが救急車呼んで…」
「意識を失ったまま、今は病院のベッドの上です」
葵は神妙な面持ちで訊ねると、二人は急いで救急車を呼んだらしい。
「まずい事になったわね……」
葵のつぶやきには、苦みが混じっていた。
二人の回答には、響古も驚かずにはいられない。
思いの外 、聖石矢魔の生徒が石矢魔を排除したいという根の深い話のようだ。
「あいつって、あんな仲間思いの性格だったっけ……?」
彼女としては、当然の疑問だった。
(詳しくは、バブ4を読んでね)
その疑問に直接答えたのは姫川だった。
「まったくだ。勝手な野郎だぜ。てめーが一番ボロカスに扱ってたくせに」
すかさず響古は眉に皺を寄せて、じろりと睨みつける。
困った反応ではあるが、姫川はたいして気にせず、笑みを深めた。
「こんなところでゆっくりしていられないわ!!早く神崎を止めなきゃ!!」
一旦言葉を切って、葵は立ち尽くす二人に言う。
「何ボケッとしてるの、行くわよ!!響古、男鹿!!」
男鹿と響古は目線を合わせてから、ようやく自分達も同行するのだと思い至る。
どうやら拒否は、はなから選択肢に含まれていないらしい。
城山が救急車で運ばれたなど知らずに授業を受け、器用にシャーペンを回しながら愉快そうに話す二人へ、もう一人は困惑を覚えた。
「いやーー。いい事をした後は気持ちがいいなー。不良、死すべし!!」
「でも、大丈夫かな…後で、仕返しに来るんじゃ」
抑制が利いた中にも、微かに怯えが感じられる口調。
しかし、二人は少しも罪悪感といった様子がなく、むしろ嗜虐心が覗いているように見えた。
「大丈夫だって。そんな事になりゃ、奴らが退学だ」
「つーか、最初にやったのお前だし」
「あれは二人がやれって言うから――…」
石矢魔の報復に恐れる友人に対し、むしろ誇らしげに学校のためだと言い張る。
「何ビビってんだ。正義の鉄槌じゃねーか。ケケケ」
「そうそう。どーせ、みんな石ヤバ追い出して―と思ってんだ」
「いわば、ボランティアだよなー」
自分達の行動を美化して授業の内容を聞き流し、
「であるからして!」
教える側、教壇に立つ教師は淡々と授業を続ける。
「なんならこの調子で、もう2~3人いっとく?」
「おっ、いいねー」
「石ヤバ全員で報復に来たりして…そうすりゃ、全員退学だ!!」
なんということのない、バカなやり取り。
退屈な日常、いつもの風景。
そして、しかし、逆襲が来た。
刹那、物凄い音と共に、窓枠やガラスを吹き砕いて教室になだれ込んだ。
『キャアァ』
廊下側に位置する生徒の内――女子の絶叫が聞こえ、生徒と教師は動揺と驚愕の声を出した。
「な…何…?」
「どうしたー?」
「どーもー。ウチの組の者が世話になったみたいで…全員、ブッ殺しに来ましたーー」
授業中に乱入したのは、割れた窓枠に両足をかけ、金属バットを持った神崎だった。
見る者に刻みつけられる、眼差しに満ちた殺気の脅威に、茶髪の少年はつい口を滑らせる。
「ひっ…ほらぁ、だから言ったんだ」
「「バカっ」」
神崎は目を細め、まっすぐに彼らを見た。
「――…そーか…お前らがやったのか…」
いきなり乱入してきた神崎に、教師は口を二度ほど開け閉めしてから、ようやく裏返りかけの声を出した。
「なっ…なんだね、君は!!授業中だぞ!!」
突如、飛来してきた金属バットが彼の頬ギリギリを掠めて、黒板に突き刺さった。
「………」
机上 に飛び乗り、こちらへ近づいてくる姿に、完全に油断していた彼らは動転した。
「………っ」
悪戯から引き起こしてしまった、最悪の事態。
彼らの胸に、恐怖と後悔が押し寄せた。
ところが、神崎に詰め寄り、石矢魔に通じないはずの、権威による攻撃を始める。
「こ…こんな事して…分かってんのか?」
猛り狂う怯えた彼らの前で、平然と立って見下ろす神崎は、ただ一言。
「あ?」
「退学だぞ!!!」
「そ…そーだ!!」
「殴れるもんなら殴ってみろよ!!クビになってもいいならなぁ!!」
「………」
神崎は、怯える彼らを、ただじっと見ている。
「もう拾ってくれる学校 なんてねーぞ!?」
「………知るか」
その場にしゃがみ込み、目の前、双方の鼻先が触れそうな距離で強烈な眼光が放たれ、嘲るように言い放つ。
「分かってねーのはてめーらの方だ。うちには、後先考えねーバカが、うじゃうじゃいんだよ!!」
「はうっ、はっ…」
叫びをあげるための空気が喉を通る前に、神崎の剣幕で食い止められる。
「そいつら全員、相手にする覚悟もねーのに、笑わせんなよ、こらっ!!殴ったら退学?それが、どーした!!石矢魔ナメンじゃねぞ!!!」
恐れはしない。
ためらいもない。
「ひいいっ」
腰を抜かしたか、と思わせる無様な悲鳴で、少年は失禁する。
遅れて教室に乗り込んできたのは、寧々と千秋、そして彼の部下。
「神崎っ!!待ちなさいっ!!」
「神崎さん!!」
「てめーらも邪魔すんな!!城山の分は、きっちり返さねーと」
強制的に黙らせると、不意に静かな声がかけられた。
「………まずいですね、先輩…」
「あ?」
「これじゃあ、いくらなんでも、僕が止めなきゃいけいない…」
石矢魔による奇襲の出来事に戸惑い、また今の雰囲気に縮こまってしまっている教師と生徒達の前に出たのは、見た目の強さを感じさせない三木の出現だ。
「あ?」
「三木ぃ、た…助けてくれ!!」
「なんだ、てめーは…」
少年の存在に苛立ちのようなものを感じつつ、神崎は口を開いた。
言葉の途中で真正面、神崎の額めがけて突き出した掌が打ちつけられた。
無人の廊下を、ひたすら神崎が奇襲した教室を目指して邁進する。
「何してるの!!急いで!!私達で神崎を止めなきゃ」
「いやー。もう、手遅れだと思うぜ?」
「自分の部下、ボロカスに扱うくせに、いざ他人がやるとなるとなんでキレるんだか……それなら普段から優しくしてやればいいのに」
語気荒く言う葵に対して、男鹿は困ったようにつぶやき、響古は皮肉と共に告げる。
「それでも走る!!はやくっ!!」
「うー…さっさと次の六騎聖、捜してーのに」
やる気なさげに走る男鹿と響古の後ろ姿を、ジュース片手にサボっていた古市が見つけた。
「何、何?なんで走ってんの?」
「おう、古市」
「のんきそーだね、古市は。けっ、こっちは忙しいってのに」
「え、響古、ひどくない!?何!オレが悪いの!?」
舌打ちを鳴らされて哀れ、古市。
ガラスの破片が飛び散る教室に男鹿達は寧々、千秋と合流した。
「姐さん!!響古!!」
「神崎は?」
「――それが…」
並んで足を踏み入れた瞬間、目に飛び込んできたのは散乱した机と、その真ん中で倒れている神崎。
「神崎!!」
視線を動かすこともできずに固まっていると、寧々から胡乱に付け足される。
「あの男…六騎聖にやられたんです」
「「六騎聖?」」
顔を険しくさせて紡がれた言葉に、二人が声を揃え、後からやって来た古市は目を見開く。
――げっ…三木…。
そこには、六騎聖の一員である三木が飄々とした笑みを浮かべて立っていた。
ふと、三木は響古の姿を確認すると、過剰に尊敬したような……そんなふうに表情を輝かせた。
「……?」
それに気づいたように見つめ返すと、慌てて元の表情を取り戻す。
「………ふぅん…ベル坊、どうだ、あいつは?六騎聖だってよ」
ベル坊は、今まで見せたことのない表情――嫌悪感を剥き出しにした、歪んだ顔で首を横に振った。
「ダウ」
一体、ベル坊の心情にどんな変化があったのか、とにかく三木を一目見ただけで気持ちを変えたのは間違いない。
「「………お前だけはないってさ…」」
二人自身、こんなベル坊を初めて見たことにうろたえた様子で硬直し、とりあえず心情を訳す。
「………?」
勿論、三木は訝しげに疑問符を浮かべた。
特別活動室とプレートが掲げられた教室を前に、葵に手招きされた響古は続いて入室し、男鹿も入ろうとして、刺々しい声をかけられた。
「…ちょっと、ついてくるつもり?」
「オレ達についていった奴が言うセリフじゃ……いや、なんでもない」
剣呑な眼光に打たれて、反論を即座に撤回する。
そのまま、平然と言う。
「響古に変な事しねーよな?」
「しないわよ!私は痴女か!」
不機嫌をあからさまに眉間の皺に残して、葵は怒鳴る。
響古の方は、その姿を不思議そうに眺めていた。
ベル坊を背負った男鹿は真面目な顔になって扉の前で待つ間、響古と葵の二人が事情を聴く。
「何があったの――…?」
「――はい。実は私達が…」
マスクをつけた女子生徒は言いにくそうに口を開こうとして、花柄の髪飾りが特徴的な女子生徒が声を張り上げる。
「カラまれたんスよ!チャラい奴らに」
「アイツら、ウチが手ぇ出せないの知ってて…」
葵は怪訝そうに眉を寄せる。
(アイツら…?)
彼女達は、朝にしては遅い弁当を食べた時の経緯を話した。
「――…さっき外で弁当食ってた時の事っス…」
教室には、神崎の好物であるヨーグルッチが無造作に床に落ちていた。
飲料の口にストローが刺さっているところから、彼が勘忍袋の緒が切れたことが如実に物語っている。
時は遡り、中庭で朝にしては遅い弁当を食べている時、頭上から声が降ってきた。
「うおっ、見ろよ、スケバンだスケバン!!」
「すげー、初めて見た。本当にいんだな、こーゆーの」
まず目についたのは、好奇と羨望の眼差し。
まじまじと自分達を見つめる彼らの視線に居心地の悪さを感じたのか、二人は無言を通す。
「なんかよくね?」
「おー。思った思った」
「何この新鮮なカンジ」
その時、偶然通りかかった城山が絡まれている石矢魔女子を目撃する。
「君タチ何年生?オレ1年3組」
「その弁当、手作り?」
「引いてんじゃん」
後半は、半ば独り言だった。
新学期、一癖も二癖もある生徒が次々と登場したせいか、無意識に期待していたのか、少年らの、よく言えば打ち解けた、悪く言えば馴れ馴れしい口調が影を潜めている。
気弱そうな口調と外見である茶髪の少年が、一方的に話す二人に注意する。
「ま…まずいよ、石ヤバの人だよ」
「へーき、へーき」
「そうそう。ど-せこいつら、何も出来ねーし」
仲間に対するそれ以上の関心をなくし、視線を正面に戻すと、大柄な男が乱入した。
「おい。ウチのもんに何か用か?」
「はわっ」
鋭い眼光と周囲に漂わす重厚な存在感、190はあろうかという長身が、威圧感をありありと感じさせた。
「でた…ほらっ。だから言ったんだ」
「うおっ。でかっ」
自分の喉から危うく漏れかけた悲鳴を、茶髪の少年はなんとか抑え込み、他の二人は動揺を押し隠して、精一杯不取り繕った表情をつくる。
「……別にぃー」
「オレら、おしゃべりしてただけっスけど…なんかマズイっスか?」
城山は、そんな彼ら……特に黒髪の二人の少年をじっと観察し、次に彼女達に退却を命じる。
「お前ら、行け。こんな所でモメても、なんにもならんぞ」
「………」
二人は弁当を持って、素直にこの場から立ち去る。
「あぁっ!?ちょっと、ちょっと!!」
「あきらめろ。お前らとは住む世界が違う」
名残惜しげに呼び止めようとするが、城山は無情に告げた。
すると、二人は勢いよく振り返り、城山に抗議した。
「何してくれんスか!!」
「そーっすよ、オレ達、けっこう真剣だったのに!!」
「む?」
さすがに反発されるとは予想していなかったため、城山は小さく唸る。
「人の恋路をジャマするなんて、男のやる事っスか!?」
「そーだそーだ!!これでも、すげー勇気だしたのにっ!!」
「やめなよ、二人共…」
猛抗議する二人に歩み寄り、茶髪の少年は止めさせようとする。
「オレ達の純情を返せっ!!」
「………」
心底嘆き、次々と反逆してくるので、
「…そいつは悪かったな。詫びに一発ずつ殴らせてやる。それでチャラだ」
城山は自分を殴らせることで、謝罪と共に解決しようとした。
その発言の威力に、一人は胸中で爆笑する。
――ぶはっ!!
――まじかよ、こいつ、こんなセリフ、リアルに言うんだW。
――ダッセェェェェWWWW。
ネットスラングを使いたくなるほど、笑いのテンションがハイとなる。
それでも、平面上は怪訝な顔をした。
「そんな…オレ達、そんなつもりじゃ…」
そしてもう一人も、完全無欠の嘲笑いが爆発する。
――はずっ…恥ずかしいーー。
――オレを殴れって、さすが石ヤバWWW。
今時、こんな恥ずかしい台詞を放つ城山に、さすが不良校の石矢魔だと皮肉げに感嘆する。
「ホ…ホントにいいんすか?じゃ、じゃあ、オレから」
「いきますよ?」
「おう…」
その直後、彼は危うく悲鳴をあげそうになった。
後頭部に強烈な打撃を受けて、城山は絶句して振り返る。
「………………」
ダンベルを投げた相手は、顔を青ざめた茶髪の少年。
それを笑って眺める二人は、満足げに少年を褒める。
「うははは、ナーイス!!」
「ひ、ひいっ」
「…よぉし。あと二人だ…さっさと来い」
一瞬、呆然としていた二人だが、すぐに感嘆と嘲り、二つの声が降りかかった。
ここまでまともに食らうとは、思っていなかったらしい。
挑発とも本気とも取れる声は次第に悪化して、ぶつける物は鈍器と化す。
「すっ、すげぇっ。こいつ、マジで何も、しねぇぞ!!」
「よーし、じゃあオレこれ、いっちゃおうかな?」
「おおっ!!それ、いっちゃう!?男だな、おいっ」
「いやいやいや、さすがに、それは死んじゃうでしょー」
歯止めの利かない二人は非常階段を昇って、ダンベルを城山の頭めがけて落とした。
「……って、おぉおぃっ!!」
制止を聞き入れず、真上から落としたダンベルは重力と共に加速して強力な鈍器と成り変わる。
事情を聴き、教室に戻った男鹿達を待っていたのは、神妙な面持ちで残っていた不良共。
「――それで、城山は…?」
「ウチらが救急車呼んで…」
「意識を失ったまま、今は病院のベッドの上です」
葵は神妙な面持ちで訊ねると、二人は急いで救急車を呼んだらしい。
「まずい事になったわね……」
葵のつぶやきには、苦みが混じっていた。
二人の回答には、響古も驚かずにはいられない。
思いの
「あいつって、あんな仲間思いの性格だったっけ……?」
彼女としては、当然の疑問だった。
(詳しくは、バブ4を読んでね)
その疑問に直接答えたのは姫川だった。
「まったくだ。勝手な野郎だぜ。てめーが一番ボロカスに扱ってたくせに」
すかさず響古は眉に皺を寄せて、じろりと睨みつける。
困った反応ではあるが、姫川はたいして気にせず、笑みを深めた。
「こんなところでゆっくりしていられないわ!!早く神崎を止めなきゃ!!」
一旦言葉を切って、葵は立ち尽くす二人に言う。
「何ボケッとしてるの、行くわよ!!響古、男鹿!!」
男鹿と響古は目線を合わせてから、ようやく自分達も同行するのだと思い至る。
どうやら拒否は、はなから選択肢に含まれていないらしい。
城山が救急車で運ばれたなど知らずに授業を受け、器用にシャーペンを回しながら愉快そうに話す二人へ、もう一人は困惑を覚えた。
「いやーー。いい事をした後は気持ちがいいなー。不良、死すべし!!」
「でも、大丈夫かな…後で、仕返しに来るんじゃ」
抑制が利いた中にも、微かに怯えが感じられる口調。
しかし、二人は少しも罪悪感といった様子がなく、むしろ嗜虐心が覗いているように見えた。
「大丈夫だって。そんな事になりゃ、奴らが退学だ」
「つーか、最初にやったのお前だし」
「あれは二人がやれって言うから――…」
石矢魔の報復に恐れる友人に対し、むしろ誇らしげに学校のためだと言い張る。
「何ビビってんだ。正義の鉄槌じゃねーか。ケケケ」
「そうそう。どーせ、みんな石ヤバ追い出して―と思ってんだ」
「いわば、ボランティアだよなー」
自分達の行動を美化して授業の内容を聞き流し、
「であるからして!」
教える側、教壇に立つ教師は淡々と授業を続ける。
「なんならこの調子で、もう2~3人いっとく?」
「おっ、いいねー」
「石ヤバ全員で報復に来たりして…そうすりゃ、全員退学だ!!」
なんということのない、バカなやり取り。
退屈な日常、いつもの風景。
そして、しかし、逆襲が来た。
刹那、物凄い音と共に、窓枠やガラスを吹き砕いて教室になだれ込んだ。
『キャアァ』
廊下側に位置する生徒の内――女子の絶叫が聞こえ、生徒と教師は動揺と驚愕の声を出した。
「な…何…?」
「どうしたー?」
「どーもー。ウチの組の者が世話になったみたいで…全員、ブッ殺しに来ましたーー」
授業中に乱入したのは、割れた窓枠に両足をかけ、金属バットを持った神崎だった。
見る者に刻みつけられる、眼差しに満ちた殺気の脅威に、茶髪の少年はつい口を滑らせる。
「ひっ…ほらぁ、だから言ったんだ」
「「バカっ」」
神崎は目を細め、まっすぐに彼らを見た。
「――…そーか…お前らがやったのか…」
いきなり乱入してきた神崎に、教師は口を二度ほど開け閉めしてから、ようやく裏返りかけの声を出した。
「なっ…なんだね、君は!!授業中だぞ!!」
突如、飛来してきた金属バットが彼の頬ギリギリを掠めて、黒板に突き刺さった。
「………」
「………っ」
悪戯から引き起こしてしまった、最悪の事態。
彼らの胸に、恐怖と後悔が押し寄せた。
ところが、神崎に詰め寄り、石矢魔に通じないはずの、権威による攻撃を始める。
「こ…こんな事して…分かってんのか?」
猛り狂う怯えた彼らの前で、平然と立って見下ろす神崎は、ただ一言。
「あ?」
「退学だぞ!!!」
「そ…そーだ!!」
「殴れるもんなら殴ってみろよ!!クビになってもいいならなぁ!!」
「………」
神崎は、怯える彼らを、ただじっと見ている。
「もう拾ってくれる
「………知るか」
その場にしゃがみ込み、目の前、双方の鼻先が触れそうな距離で強烈な眼光が放たれ、嘲るように言い放つ。
「分かってねーのはてめーらの方だ。うちには、後先考えねーバカが、うじゃうじゃいんだよ!!」
「はうっ、はっ…」
叫びをあげるための空気が喉を通る前に、神崎の剣幕で食い止められる。
「そいつら全員、相手にする覚悟もねーのに、笑わせんなよ、こらっ!!殴ったら退学?それが、どーした!!石矢魔ナメンじゃねぞ!!!」
恐れはしない。
ためらいもない。
「ひいいっ」
腰を抜かしたか、と思わせる無様な悲鳴で、少年は失禁する。
遅れて教室に乗り込んできたのは、寧々と千秋、そして彼の部下。
「神崎っ!!待ちなさいっ!!」
「神崎さん!!」
「てめーらも邪魔すんな!!城山の分は、きっちり返さねーと」
強制的に黙らせると、不意に静かな声がかけられた。
「………まずいですね、先輩…」
「あ?」
「これじゃあ、いくらなんでも、僕が止めなきゃいけいない…」
石矢魔による奇襲の出来事に戸惑い、また今の雰囲気に縮こまってしまっている教師と生徒達の前に出たのは、見た目の強さを感じさせない三木の出現だ。
「あ?」
「三木ぃ、た…助けてくれ!!」
「なんだ、てめーは…」
少年の存在に苛立ちのようなものを感じつつ、神崎は口を開いた。
言葉の途中で真正面、神崎の額めがけて突き出した掌が打ちつけられた。
無人の廊下を、ひたすら神崎が奇襲した教室を目指して邁進する。
「何してるの!!急いで!!私達で神崎を止めなきゃ」
「いやー。もう、手遅れだと思うぜ?」
「自分の部下、ボロカスに扱うくせに、いざ他人がやるとなるとなんでキレるんだか……それなら普段から優しくしてやればいいのに」
語気荒く言う葵に対して、男鹿は困ったようにつぶやき、響古は皮肉と共に告げる。
「それでも走る!!はやくっ!!」
「うー…さっさと次の六騎聖、捜してーのに」
やる気なさげに走る男鹿と響古の後ろ姿を、ジュース片手にサボっていた古市が見つけた。
「何、何?なんで走ってんの?」
「おう、古市」
「のんきそーだね、古市は。けっ、こっちは忙しいってのに」
「え、響古、ひどくない!?何!オレが悪いの!?」
舌打ちを鳴らされて哀れ、古市。
ガラスの破片が飛び散る教室に男鹿達は寧々、千秋と合流した。
「姐さん!!響古!!」
「神崎は?」
「――それが…」
並んで足を踏み入れた瞬間、目に飛び込んできたのは散乱した机と、その真ん中で倒れている神崎。
「神崎!!」
視線を動かすこともできずに固まっていると、寧々から胡乱に付け足される。
「あの男…六騎聖にやられたんです」
「「六騎聖?」」
顔を険しくさせて紡がれた言葉に、二人が声を揃え、後からやって来た古市は目を見開く。
――げっ…三木…。
そこには、六騎聖の一員である三木が飄々とした笑みを浮かべて立っていた。
ふと、三木は響古の姿を確認すると、過剰に尊敬したような……そんなふうに表情を輝かせた。
「……?」
それに気づいたように見つめ返すと、慌てて元の表情を取り戻す。
「………ふぅん…ベル坊、どうだ、あいつは?六騎聖だってよ」
ベル坊は、今まで見せたことのない表情――嫌悪感を剥き出しにした、歪んだ顔で首を横に振った。
「ダウ」
一体、ベル坊の心情にどんな変化があったのか、とにかく三木を一目見ただけで気持ちを変えたのは間違いない。
「「………お前だけはないってさ…」」
二人自身、こんなベル坊を初めて見たことにうろたえた様子で硬直し、とりあえず心情を訳す。
「………?」
勿論、三木は訝しげに疑問符を浮かべた。
