バブ51~53
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
朝、登校中の生徒が葵の前を少し距離を取って横切っていく。
通り過ぎていったその後ろから、無邪気な悪意がこぼれ落ちた。
「さっそく、もめ事起こしたって」
「かんべんしろよなー」
聞きたくもない会話が、耳に流れ着く。
彼女含む石矢魔生徒に向けられる視線、その主成分は昨日までなら関わり合いになりたくないもの、という意識だった。
今は忌々しげな反感と、微妙に見え隠れする、恐怖。
「マジ、消えてくれっつの」
「わっ、こっち見た」
「にげろにげろ」
強者に対する畏れ、ではなく、未知な者に対する、恐れ。
わざわざ聞こえよがしに思い知らせてくれる必要はない、本当に余計なお世話だ、と思いながら葵は歩くスピードを速めた。
バブ51
ちょっとつき合って
石矢魔高校が配属となった特別クラス――周りを見渡せば、明らかに生徒の数が減っていた。
「…………なんかさ…人数減ってね?二日目にして…」
「あん?」
「んー…」
ジトッと目線を教室に向けた古市に聞かれ、男鹿と響古は振り向いて疑問の声をあげる。
「そうか?」
「そうだよ、見ろよ。東条とか前列のMK5とか丸々いねーぞ」
「東条さんだ。バイトの虫だからな、あの人」
教室に目をやっていた古市は、思いがけず注意をされて硬直した。
声の主は、彼の横を通り過ぎる相沢だった。
「"黒雪姫"」
「……何?」
話しかけられた響古の顔は、あながち演技にも見えないほどの不機嫌さだ。
冷ややかな視線を受けても、相沢の澄ました顔は崩れない。
「東条さんが『昨日話してた、お前の家に興味がある。今度、教えてくれよ』だとよ」
「…『誰があんたに教えるもんですか。もし、不法侵入したら警察に通報してそのまま刑務所にぶち込んで二度と来んな』って伝えて」
見惚れるほど綺麗だが、背筋が凍るような怖い笑顔に、男達は身体を震わせる。
対して、相沢はこの反応が当たり前だというように笑みをこぼす。
「――ま、そんなこったろうと思ったよ。MK5はどーかは知らねーが、妙な噂が流れてる。お前らも気をつけな」
「妙な噂?」
その言葉に首を傾げると、寧々が会話に入ってくる。
「六騎聖…あたしも聞いたよ。ウチら石矢魔を追い出そうとしてる奴らがいるってさ」
「それ、六騎聖なんですか?」
「そんなに強いのか?そいつら」
反応する。
「…わかんないケド。意外なくいつきね、響古…」
「ちょっと気になるようで…」
「もしかしたら、MK5も、そいつらにやられたのかも」
「ハッ。何、びびってやがる。情けねーだけの話じゃねーか」
弱気な気配を感じたのか、神崎は鼻で笑う。
「はぁ?」
「要するにMK5がザコだって話だろ。その噂が本当だったとして、こんなショボイ学校の奴にやられるなんてよ。石矢魔の恥だぜ」
余裕の表情で首を突っ込んできた神崎を、寧々はやや怒り気味に口を開く。
「てゆーか、何あんた?かまってほしーんですか?」
「あ?」
「入ってくんじゃないわよ」
「どこ、つかんでんだ。クソアマ。殺すぞ、コラ」
澄ました嘲笑を浮かべて胸ぐらを掴む寧々と、青筋を立てて今にも殴りかかそうな神崎。
「お、ケンカか!?」
「いいぞ、やれやれ」
元々、旺盛な喧嘩っ早さが刺激された男達は面白そうにはやし立てる。
「姐さん、助だちしますよ!!」
寧々が総長になったレッドテイルのメンバーも加勢に入る。
「すぐこーなるね」
一触即発な空気に、仲裁よりもむしろ挑発する皆の行動に、古市はしみじみとつぶやく。
その横で、ベル坊にミルクを飲ませる響古の手つきは前より上達している。
男鹿は、そんな響古を幾分か和らいだ表情で見つめる。
「表、出ろこら」
「上等だ」
「………」
威嚇とも取れる台詞に大声で応じる教室へ、静かに扉を開けて入ってきた彼女は硬質な声で命じた。
「やめなさいっ!!」
声の主を認めて、その場の全員は一斉に振り返った。
「姐さん…」
警告を発し、大乱闘を阻止したのは表情を硬く引き締めたレッドテイル前総長の葵だった。
ここで抵抗の素振りでも見せれば、即座に実力が行使されることは想像に難くない。
雰囲気に呑まれて動けなくなった生徒を横にして、葵は泰然とした足取りで響古の前へ歩み出た。
「響古…おはよう」
「おはようございます、葵さん」
頬を赤らめて葵が挨拶すると、響古は笑顔で返す。
ある者は呆然と、またある者は頬を赤らめ、そしてある者は口笛を吹く。
「クイーンが"黒雪姫"相手に真っ赤になってる……」
「ヤベ、オレまで変な気分になってきた…」
「ヒューヒュー」
面白おかしく言ってくる男達の反応に、葵はかなり焦った。
まさか響古への恋心がバレたのか!?
落ち着かせようと深呼吸し、どうにか平静を取り繕えた。
「それと、男鹿…君」
すると葵は目を泳がせ、しどろもどろになりながら男鹿に声をかける。
「ちょ…ちょ、ちょ…ちょ、ちょっとつき合いなさいよ」
あまりの突拍子のなさに、男鹿はいまいち意味が把握できない。
隣で響古の目許が、ひくっ、と痙攣する。
「クイーンが男鹿を誘ったぁぁあぁああっ!!」
「ライバル宣言かぁぁ!?」
石矢魔内でも、そのガードの圧倒的な堅さで有名な美少女――"女王"葵が異性に声をかけた。
たちまち教室内に響き渡る、不良共のどよめきと女子生徒達の悲鳴。
「姐さぁぁん、はやまっちゃいけませんっ!!」
「ちっ…違うわよっ!!」
騒がしさに紛れて聞こえるか聞こえないくらいの声で、葵は慌てて抗議する。
しかし、その騒がしさは葵の言葉に反比例するように大きくなる。
「しかも相手は、最近バカップルと噂される最凶彼氏だぞ!?」
「すでに茨の道は目に見えてると言うのにっっ!!」
「違うったら!!」
ある程度の騒がしさは新学期から覚悟していたが、予想を遥かに飛び越えている。
(中学生か…このクラス)
どこまでも騒ぎ立てる石矢魔組にもはや、溜め息しか出ない古市であった。
「――…お前ら…帝毛の奴らとモメたんだって?」
そんなつぶやきが教室に響いた。
ほとんど、ぽつりといった感じの口調だったにもかかわらず、ざわめきの間隙をつく見事なタイミングではっきり届いた。
携帯をいじる姫川の発せられた声音は、抑揚を押し殺したものだった。
「ヤバいんじゃねーの、転校初日に。けっこー問題になってるらしーじゃねーか」
――あぁ…あれか…そりゃ、石矢魔とは違うもんなー。
学校自体が世間の鼻つまみの集団という、悪名高い石矢魔高校と比べて、素行の悪さで不良となった帝毛工業とはレベルが違い過ぎる。
すると、響古は目を細めて微かに笑って言い放つ。
「売られたケンカはきちんと買って、正々堂々と正面から身勝手なく叩きつぶしてやらなきゃどうするの」
「まともに相手する必要はない、と言いたんだが」
姫川は皮肉げに口の端をつり上げる。
「――と、とにかく!!呼び出されてるんだから」
響古が返事をするより先に手を掴まれ、
「きゃあ」
葵は赤くなった顔を誤魔化すように、少女の手を引っ張ってずんずん歩いていく。
「おい」
そんな葵の後を、慌てて男鹿が追いかける。
「一緒に職員室いくわよ!!」
なんだかよくわからなかったが、二人は教室を出た。
「姐さん…」
「ケッ」
寧々は物言いたげに眉を下げて見送り、神崎は忌々しげに舌打ちを鳴らす。
(いいなー――って、あれ?オレは?)
羨ましげに見つめる古市は今になって、取り残されたことに気づいた。
葵に引っ張られた二人は案内された教室に入る。
この場にいるのは、全く見覚えのない教師。
「――さて、生活指導の木戸です。三人共、何故呼びだされたかはわかってるね?」
三人と向かい合うように、木戸と名乗った教師は両手を組んで話を続ける。
「おそれいったよ。転校早々、暴力事件とは。君らを退学にするのは簡単だ」
帝毛との喧嘩は既に教師陣の耳にも入り、素行の悪い不良共が在学する石矢魔と違って教養に厳しい聖石矢魔の場合、退学処分を下される。
だが、すぐさま判断をするのはいささか性急すぎる。
「――が、それでは聖石矢魔 に来て貰った意味がない」
木戸は落ち着いた物腰で、石矢魔でも特に影響力の高い三人を確認する。
「そこで――…聞けば、君達は石矢魔でもリーダー的存在だというじゃないか。丁度いいと思ってね」
「あ?」
「………」
男鹿は疑問の声をあげ、響古は厳しい表情で黙り込む。
「――どういう、意味でしょうか…?」
葵からわざとらしい質問をされた木戸は口を開いた。
「名づけて、石矢魔再生計画…なんつって…」
「「……?」」
意味不明な言葉に男鹿は疑問符を浮かべ、響古と葵は不審な表情を浮かべた。
話し合いを終え、廊下を歩きながら先頭を歩く葵は先程の話し合いの、本当の意味を理解する。
「ようするに、うちの連中が悪さしないよう、取り締まり役になれって事よね」
「あ?そうなの?響古、話、聞いてわかったか?」
「うーん、あんまり頭に入らなかった」
男鹿は面食らった顔を響古に向けて訊ねると、彼女も首を捻る。
「まったく…退学をおどしに使ったりして、カンジ悪いわね!!まったく!!」
葵の頭上辺りに、もわもわと一緒に行動する響古の姿が浮かぶ。
(やたーっ)
というか葵さん、考えてること丸見えですよ。
背後に想像を浮かべたまま拳を握って力説する一方、頭を掻く男鹿は、
(めんどくせー)
風紀を押しつけられたことにテンション低い顔。
「ま、オレらやる事あるから。後はまかせたわ」
「はぁっ!?ちょっ…何言ってんの!?待ちなさいよ、せめて響古を置いていきなさいよ!!」
葵の制止をよそに、二人はどこかへ一緒に歩いていく。
通り過ぎていったその後ろから、無邪気な悪意がこぼれ落ちた。
「さっそく、もめ事起こしたって」
「かんべんしろよなー」
聞きたくもない会話が、耳に流れ着く。
彼女含む石矢魔生徒に向けられる視線、その主成分は昨日までなら関わり合いになりたくないもの、という意識だった。
今は忌々しげな反感と、微妙に見え隠れする、恐怖。
「マジ、消えてくれっつの」
「わっ、こっち見た」
「にげろにげろ」
強者に対する畏れ、ではなく、未知な者に対する、恐れ。
わざわざ聞こえよがしに思い知らせてくれる必要はない、本当に余計なお世話だ、と思いながら葵は歩くスピードを速めた。
バブ51
ちょっとつき合って
石矢魔高校が配属となった特別クラス――周りを見渡せば、明らかに生徒の数が減っていた。
「…………なんかさ…人数減ってね?二日目にして…」
「あん?」
「んー…」
ジトッと目線を教室に向けた古市に聞かれ、男鹿と響古は振り向いて疑問の声をあげる。
「そうか?」
「そうだよ、見ろよ。東条とか前列のMK5とか丸々いねーぞ」
「東条さんだ。バイトの虫だからな、あの人」
教室に目をやっていた古市は、思いがけず注意をされて硬直した。
声の主は、彼の横を通り過ぎる相沢だった。
「"黒雪姫"」
「……何?」
話しかけられた響古の顔は、あながち演技にも見えないほどの不機嫌さだ。
冷ややかな視線を受けても、相沢の澄ました顔は崩れない。
「東条さんが『昨日話してた、お前の家に興味がある。今度、教えてくれよ』だとよ」
「…『誰があんたに教えるもんですか。もし、不法侵入したら警察に通報してそのまま刑務所にぶち込んで二度と来んな』って伝えて」
見惚れるほど綺麗だが、背筋が凍るような怖い笑顔に、男達は身体を震わせる。
対して、相沢はこの反応が当たり前だというように笑みをこぼす。
「――ま、そんなこったろうと思ったよ。MK5はどーかは知らねーが、妙な噂が流れてる。お前らも気をつけな」
「妙な噂?」
その言葉に首を傾げると、寧々が会話に入ってくる。
「六騎聖…あたしも聞いたよ。ウチら石矢魔を追い出そうとしてる奴らがいるってさ」
「それ、六騎聖なんですか?」
「そんなに強いのか?そいつら」
反応する。
「…わかんないケド。意外なくいつきね、響古…」
「ちょっと気になるようで…」
「もしかしたら、MK5も、そいつらにやられたのかも」
「ハッ。何、びびってやがる。情けねーだけの話じゃねーか」
弱気な気配を感じたのか、神崎は鼻で笑う。
「はぁ?」
「要するにMK5がザコだって話だろ。その噂が本当だったとして、こんなショボイ学校の奴にやられるなんてよ。石矢魔の恥だぜ」
余裕の表情で首を突っ込んできた神崎を、寧々はやや怒り気味に口を開く。
「てゆーか、何あんた?かまってほしーんですか?」
「あ?」
「入ってくんじゃないわよ」
「どこ、つかんでんだ。クソアマ。殺すぞ、コラ」
澄ました嘲笑を浮かべて胸ぐらを掴む寧々と、青筋を立てて今にも殴りかかそうな神崎。
「お、ケンカか!?」
「いいぞ、やれやれ」
元々、旺盛な喧嘩っ早さが刺激された男達は面白そうにはやし立てる。
「姐さん、助だちしますよ!!」
寧々が総長になったレッドテイルのメンバーも加勢に入る。
「すぐこーなるね」
一触即発な空気に、仲裁よりもむしろ挑発する皆の行動に、古市はしみじみとつぶやく。
その横で、ベル坊にミルクを飲ませる響古の手つきは前より上達している。
男鹿は、そんな響古を幾分か和らいだ表情で見つめる。
「表、出ろこら」
「上等だ」
「………」
威嚇とも取れる台詞に大声で応じる教室へ、静かに扉を開けて入ってきた彼女は硬質な声で命じた。
「やめなさいっ!!」
声の主を認めて、その場の全員は一斉に振り返った。
「姐さん…」
警告を発し、大乱闘を阻止したのは表情を硬く引き締めたレッドテイル前総長の葵だった。
ここで抵抗の素振りでも見せれば、即座に実力が行使されることは想像に難くない。
雰囲気に呑まれて動けなくなった生徒を横にして、葵は泰然とした足取りで響古の前へ歩み出た。
「響古…おはよう」
「おはようございます、葵さん」
頬を赤らめて葵が挨拶すると、響古は笑顔で返す。
ある者は呆然と、またある者は頬を赤らめ、そしてある者は口笛を吹く。
「クイーンが"黒雪姫"相手に真っ赤になってる……」
「ヤベ、オレまで変な気分になってきた…」
「ヒューヒュー」
面白おかしく言ってくる男達の反応に、葵はかなり焦った。
まさか響古への恋心がバレたのか!?
落ち着かせようと深呼吸し、どうにか平静を取り繕えた。
「それと、男鹿…君」
すると葵は目を泳がせ、しどろもどろになりながら男鹿に声をかける。
「ちょ…ちょ、ちょ…ちょ、ちょっとつき合いなさいよ」
あまりの突拍子のなさに、男鹿はいまいち意味が把握できない。
隣で響古の目許が、ひくっ、と痙攣する。
「クイーンが男鹿を誘ったぁぁあぁああっ!!」
「ライバル宣言かぁぁ!?」
石矢魔内でも、そのガードの圧倒的な堅さで有名な美少女――"女王"葵が異性に声をかけた。
たちまち教室内に響き渡る、不良共のどよめきと女子生徒達の悲鳴。
「姐さぁぁん、はやまっちゃいけませんっ!!」
「ちっ…違うわよっ!!」
騒がしさに紛れて聞こえるか聞こえないくらいの声で、葵は慌てて抗議する。
しかし、その騒がしさは葵の言葉に反比例するように大きくなる。
「しかも相手は、最近バカップルと噂される最凶彼氏だぞ!?」
「すでに茨の道は目に見えてると言うのにっっ!!」
「違うったら!!」
ある程度の騒がしさは新学期から覚悟していたが、予想を遥かに飛び越えている。
(中学生か…このクラス)
どこまでも騒ぎ立てる石矢魔組にもはや、溜め息しか出ない古市であった。
「――…お前ら…帝毛の奴らとモメたんだって?」
そんなつぶやきが教室に響いた。
ほとんど、ぽつりといった感じの口調だったにもかかわらず、ざわめきの間隙をつく見事なタイミングではっきり届いた。
携帯をいじる姫川の発せられた声音は、抑揚を押し殺したものだった。
「ヤバいんじゃねーの、転校初日に。けっこー問題になってるらしーじゃねーか」
――あぁ…あれか…そりゃ、石矢魔とは違うもんなー。
学校自体が世間の鼻つまみの集団という、悪名高い石矢魔高校と比べて、素行の悪さで不良となった帝毛工業とはレベルが違い過ぎる。
すると、響古は目を細めて微かに笑って言い放つ。
「売られたケンカはきちんと買って、正々堂々と正面から身勝手なく叩きつぶしてやらなきゃどうするの」
「まともに相手する必要はない、と言いたんだが」
姫川は皮肉げに口の端をつり上げる。
「――と、とにかく!!呼び出されてるんだから」
響古が返事をするより先に手を掴まれ、
「きゃあ」
葵は赤くなった顔を誤魔化すように、少女の手を引っ張ってずんずん歩いていく。
「おい」
そんな葵の後を、慌てて男鹿が追いかける。
「一緒に職員室いくわよ!!」
なんだかよくわからなかったが、二人は教室を出た。
「姐さん…」
「ケッ」
寧々は物言いたげに眉を下げて見送り、神崎は忌々しげに舌打ちを鳴らす。
(いいなー――って、あれ?オレは?)
羨ましげに見つめる古市は今になって、取り残されたことに気づいた。
葵に引っ張られた二人は案内された教室に入る。
この場にいるのは、全く見覚えのない教師。
「――さて、生活指導の木戸です。三人共、何故呼びだされたかはわかってるね?」
三人と向かい合うように、木戸と名乗った教師は両手を組んで話を続ける。
「おそれいったよ。転校早々、暴力事件とは。君らを退学にするのは簡単だ」
帝毛との喧嘩は既に教師陣の耳にも入り、素行の悪い不良共が在学する石矢魔と違って教養に厳しい聖石矢魔の場合、退学処分を下される。
だが、すぐさま判断をするのはいささか性急すぎる。
「――が、それでは
木戸は落ち着いた物腰で、石矢魔でも特に影響力の高い三人を確認する。
「そこで――…聞けば、君達は石矢魔でもリーダー的存在だというじゃないか。丁度いいと思ってね」
「あ?」
「………」
男鹿は疑問の声をあげ、響古は厳しい表情で黙り込む。
「――どういう、意味でしょうか…?」
葵からわざとらしい質問をされた木戸は口を開いた。
「名づけて、石矢魔再生計画…なんつって…」
「「……?」」
意味不明な言葉に男鹿は疑問符を浮かべ、響古と葵は不審な表情を浮かべた。
話し合いを終え、廊下を歩きながら先頭を歩く葵は先程の話し合いの、本当の意味を理解する。
「ようするに、うちの連中が悪さしないよう、取り締まり役になれって事よね」
「あ?そうなの?響古、話、聞いてわかったか?」
「うーん、あんまり頭に入らなかった」
男鹿は面食らった顔を響古に向けて訊ねると、彼女も首を捻る。
「まったく…退学をおどしに使ったりして、カンジ悪いわね!!まったく!!」
葵の頭上辺りに、もわもわと一緒に行動する響古の姿が浮かぶ。
(やたーっ)
というか葵さん、考えてること丸見えですよ。
背後に想像を浮かべたまま拳を握って力説する一方、頭を掻く男鹿は、
(めんどくせー)
風紀を押しつけられたことにテンション低い顔。
「ま、オレらやる事あるから。後はまかせたわ」
「はぁっ!?ちょっ…何言ってんの!?待ちなさいよ、せめて響古を置いていきなさいよ!!」
葵の制止をよそに、二人はどこかへ一緒に歩いていく。