バブ50
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「見てんじゃねーよ、ぶっ殺すぞ」
――オレの名前は山村 和也。
――聖石矢魔学園に通う一年にして、目下、不良の修業中。
「うーん、なんか違うな…男鹿さんはもっと、こうぐわっと…」
店の鏡の前で、山村は険悪な顔つきの練習をする。
――夏休みデビューなんてクラスの奴は笑うが、言いたい奴は言わせておけばいい。
――俺は変わると決めたんだ…そう――…。
まるで、魔王との決戦前に意気込む勇者のような気持ちで山村は歩く。
「――…」
――強くなると――…!!
痛い目に遭いながらも改めて不良になると強く決意し、目的地までもう少しと歩いた先、
「ん?」
初めて彼女を見た時のことが脳裏を過ぎり、どくんと揺れた。
「え……?」
何度かまばたきして、息を呑む。
「え……!?」
『男鹿』と表札が掲げられた家に、ずば抜けて目立っている物凄い美少女がいた。
とても印象的な、腰まで届く長く艶やかな髪。
見間違えようがない。
――あれは、あの人は……!
徒歩のスピードから急いで走り、息を荒げながら姿勢を正す。
「おはようございます、"黒雪姫"さん!!」
姿勢を正し、深く頭を下げた山村の目の前、ゆっくりと振り向き、彼の姿を認めると、張りつめた表情を微かに緩めた。
「――あ、確か昨日、あたし達を尾行してた一人だよね。ケガとかない?」
闇夜を思わせる瞳が向けられる。
山村の戸惑いなんてなんのその、響古は涼しげな顔をして声をかけた。
「は、はいっ!昨日は尾行し、しかもオレと梓が捕まって二人に迷惑をかけて……すいませんでしたぁ!」
「いいよ、いいよ。あたしとしては捕まった事よりも、尾行の方が気になるし――ただ尾行するだけならいいけど、もしも襲いかかってきたら、あいつらに捕まるどころの恐怖じゃなかったよ」
聞き捨てならないつぶやきが響古の口から漏れている。
これは聞かなかったことにしよう、と山村は思った。
そして、ごく普通の一戸建てを見上げる。
「ここが男鹿さんち…思ったより…普通だな…」
彼が思う男鹿の家は常に薄暗く、大勢のカラスが鳴き喚く不吉な屋敷。
――思った。
「何コレ?」
その図を見た響古は、ごく普通の家とは思い切り違う幽霊屋敷につっこむ。
「案外、家族は普通の人達なのかも…いやいや、油断しない方がいい。どんな化け物が出てくるか…」
おそるおそる、インターフォンを鳴らそうとした瞬間、二階の窓が小さく光るや否や、激しい電撃が突き抜けて外に広がった。
「ダーーーッ」
「ぎゃああああっっ!!!」
屋内からの電撃と共に、震動が響古と山村を揺さぶった。
顔を強張らせた後、今の現象から不安を露にする。
「………やっぱり、心の準備は必要だな…うん。てゆーか、何?今の…」
すると、響古は躊躇なく玄関の扉を開けて入っていった。
「じゃ、あたしはお先にー」
「ええ!?この状態でオレ一人っスか!?待って下さいよ!!」
響古の後に続くようにインターフォンを押すと、ヒルダが出迎える。
「はーい、ただいまー」
黒髪の美少女と金髪の美女、そして赤ん坊というあり得ない光景に大口を開けた。
「む?どちら様でしょうか?」
――予想外の、きた。
「グ、グッモーニング」
英語で話しかけるが、ヒルダは疑問符を浮かべる。
外見のせいか、外国人だと思われているようだ。
実は魔界の人間なのだが、先入観というものは恐ろしい。
山村は腰を低くし、頭を下げる――まるで任侠のような格好で自己紹介をする。
「お、お初にお目にかかりますっ!!あねさん!!自分、今日から男鹿さんの舎弟やらせて頂きます!!山村和也と申します!!男鹿さんの彼女は"黒雪姫"と聞いてましたが、愛人ですか!?以後、お見知りおきを!!」
感じ入ったように、ヒルダは何度も相槌を打つ。
「…ほう、ほうほう!!舎弟!!」
「アー」
「てめぇ…マジで来たのかよ…」
後からやって来た男鹿はご飯を食べた状態で固まる。
恭 しく頭を下げる山村は男鹿に気づくと、ぱっと表情を輝かせる。
「男鹿さん、お迎えにあがりました!!」
珍しく尊大さのない笑みを浮かべて、ヒルダは男鹿に近寄る。
「舎弟というと、家来の事だな。フン、少しは出世したではないか」
「ダーッ」
「そんなんじゃねーよ」
期待に膨らませるヒルダの追求から逃れる男鹿に、マイペースな声で響古が朝の挨拶をした。
「おはよー。辰巳、ベル坊、ヒルダ」
「……はよ」
「ダ!」
「おはよう、響古」
山村の目は純粋で憧れの色があり、なんだか微笑ましくすらなってくる。
あくまでも部外者には、とつくが。
当事者の男鹿にはそれどころではない。
「いってらっしゃいませ」
山村が訪れてから終始、笑顔のヒルダは男鹿達を送る。
そんな彼女に男鹿は顔をしかめ、響古は素直に思ったことを口に出す。
「………ナンだ、ありゃ」
「ワォ。見事な猫かぶり」
二人は歩き出す。
山村が慌ててそれについていく。
「いやー、さすがアニキ!!まさか外国人の方と同居してるとは…しかも、すんごいグラマー美人!!」
「あのなー…」
口を挟む暇もなく、至れり尽くせりで話しかけてくる。
ここまで人の世話になる彼ではない。
響古に視線を移すと、困った笑みを浮かべていた。
やはり彼女も、山村の急な出現に辟易しているようだ。
「あ、カバン、持ちます!!」
二人の荷物を持とうし、ついに男鹿は言い切った。
「昨日から言ってんだろ。オレは、てめーのアニキじゃねーし。ついてくんなっつーの!!朝からうっとーしーんだよ!!」
「そんなー。待って下さいよ、アニキー!!」
冷たくあしらうと、勢いあまりすぎて空回りな自称子分は小走りで駆け寄ってくる。
――ったく、なんなんだ、こいつ。
――妙になつきやがって…。
事態が読み込めない男鹿は眉を寄せて胸中でつぶやく。
「んー、ちょっと困るかなぁ」
男鹿の気持ちを鋭敏に読み取り、彼が口を開くより早く、響古は言う。
「だよなぁ。響古だけで十分だってのに」
少しも冗談めかしたところがない男鹿の言葉に、響古が少し頬を赤らめた。
「……朝のお迎えも、一緒の登校もあたしだけに許された特権なのに、今さら誰かが入る隙なんてないんだから!」
頬を膨らませる顔で告げるその理由に、男鹿は呆れた……本音を言えば、わがままなところも強引なところも、慣れると可愛く思えてくるのだ。
これだけ振り回されても、不思議と憎めない。
「…お前のまっすぐで正直な性格、周りはどう思ってるかわかんねーが、オレは好きだけどな」
「――っ!?」
涼しい顔で熱い台詞を放つ男鹿に、響古の頬が本格的に赤く染まっていく。
恥じらいながら、それでも嬉しそうに上目遣いにこちらを見る眼差しを受けて、目下の問題を懸案する。
(これ以上、響古との自由を奪われてたまるか)
「大体――…えーと…」
口を開こうとして、山村の名前を言いあぐねる。
「あっ…カズっす!!」
「カズは何年だよ?」
「一年です、一年六組十五番!!」
「ほらみろ…オレ達と同い年じゃねーか。つまりだ――ここから導き出せる答えは…オレは、お前のお兄ちゃんじゃない」
「いや…そりゃあ、まぁ…」
男鹿の答えに困惑すると、山村は目線を合わせずにストレートにさらけ出す。
「――でもオレ、男鹿さんの強さに本気で憧れてるんス」
こんな会話に割って入ることは、自分にはできない。
嬉しそうな表情にならないよう気をつけながら、同時に笑顔と見破られないように注意しながら眺める。
そんな傍観者の顔でいられたのは、山村の口から次の一言が出てくるまでだったが。
「それに、男鹿さんの彼女にして自身も"黒雪姫"の呼び名で有名ですよ」
「あたし?」
「黒髪乙女で容姿も超がつく美人だけど、あの人とケンカして無事だった人間はいない。今まで告白してきた男達は見事に全滅+撃沈」
立てば芍薬 、座れば牡丹、歩く姿は百合の花。
ただし、胎の中には虎と蛇。
「ただ性格に難ありで、とにかく無愛想。そもそも打ち解ける気がない。それでもあのルックスだから寄る男は数知れず、恋の花が咲いては散る毎日」
「……そこまで言う?」
驚きに浮かんだのは一瞬、すぐに青筋が立ち、目つきは鋭くなる。
「オレが言ったんじゃありませんよ!」
噂というのは元来、無責任でいい加減なものなので、いちいち気にしない。
いちいち気にしてはキリがない、とわきまえている。
しかし、あの一件が目立っていたとは……自分の認識が甘かったと言わざるを得ない、と響古は思った。
「不良の間では、もはや伝説ですよ、マジで!!たった一人であの石矢魔を制した最強の一年生!!しかも、その容姿とケンカの強さで有名な"黒雪姫"さんの彼氏だなんて、同じ男としてうらやましいです!!勝ち組じゃないスか!!」
その言葉は、なんの躊躇も打算もなく、すんなりと彼の中から湧き出した。
「辰巳を尊敬する気持ちはすごいわかるし、あたしとしてもすごい嬉しいんだけど、あたし達は子分とか持たないから……」
響古のこの言葉は遠慮ではなく本心だった。
いや、遠慮であることは間違いないのだが、上辺ではなく本気で遠慮していた。
本気だからこそ、山村にこんなことを言われても響古としては困ってしまうだけだ。
「強くなりたいんです、オレも!!男鹿さんみたいに、そんな男鹿さんを兄貴と呼ぶのは当然っス!!いえ、呼ばせて下さいっ!!」
――オレの名前は山村 和也。
――聖石矢魔学園に通う一年にして、目下、不良の修業中。
「うーん、なんか違うな…男鹿さんはもっと、こうぐわっと…」
店の鏡の前で、山村は険悪な顔つきの練習をする。
――夏休みデビューなんてクラスの奴は笑うが、言いたい奴は言わせておけばいい。
――俺は変わると決めたんだ…そう――…。
まるで、魔王との決戦前に意気込む勇者のような気持ちで山村は歩く。
「――…」
――強くなると――…!!
痛い目に遭いながらも改めて不良になると強く決意し、目的地までもう少しと歩いた先、
「ん?」
初めて彼女を見た時のことが脳裏を過ぎり、どくんと揺れた。
「え……?」
何度かまばたきして、息を呑む。
「え……!?」
『男鹿』と表札が掲げられた家に、ずば抜けて目立っている物凄い美少女がいた。
とても印象的な、腰まで届く長く艶やかな髪。
見間違えようがない。
――あれは、あの人は……!
徒歩のスピードから急いで走り、息を荒げながら姿勢を正す。
「おはようございます、"黒雪姫"さん!!」
姿勢を正し、深く頭を下げた山村の目の前、ゆっくりと振り向き、彼の姿を認めると、張りつめた表情を微かに緩めた。
「――あ、確か昨日、あたし達を尾行してた一人だよね。ケガとかない?」
闇夜を思わせる瞳が向けられる。
山村の戸惑いなんてなんのその、響古は涼しげな顔をして声をかけた。
「は、はいっ!昨日は尾行し、しかもオレと梓が捕まって二人に迷惑をかけて……すいませんでしたぁ!」
「いいよ、いいよ。あたしとしては捕まった事よりも、尾行の方が気になるし――ただ尾行するだけならいいけど、もしも襲いかかってきたら、あいつらに捕まるどころの恐怖じゃなかったよ」
聞き捨てならないつぶやきが響古の口から漏れている。
これは聞かなかったことにしよう、と山村は思った。
そして、ごく普通の一戸建てを見上げる。
「ここが男鹿さんち…思ったより…普通だな…」
彼が思う男鹿の家は常に薄暗く、大勢のカラスが鳴き喚く不吉な屋敷。
――思った。
「何コレ?」
その図を見た響古は、ごく普通の家とは思い切り違う幽霊屋敷につっこむ。
「案外、家族は普通の人達なのかも…いやいや、油断しない方がいい。どんな化け物が出てくるか…」
おそるおそる、インターフォンを鳴らそうとした瞬間、二階の窓が小さく光るや否や、激しい電撃が突き抜けて外に広がった。
「ダーーーッ」
「ぎゃああああっっ!!!」
屋内からの電撃と共に、震動が響古と山村を揺さぶった。
顔を強張らせた後、今の現象から不安を露にする。
「………やっぱり、心の準備は必要だな…うん。てゆーか、何?今の…」
すると、響古は躊躇なく玄関の扉を開けて入っていった。
「じゃ、あたしはお先にー」
「ええ!?この状態でオレ一人っスか!?待って下さいよ!!」
響古の後に続くようにインターフォンを押すと、ヒルダが出迎える。
「はーい、ただいまー」
黒髪の美少女と金髪の美女、そして赤ん坊というあり得ない光景に大口を開けた。
「む?どちら様でしょうか?」
――予想外の、きた。
「グ、グッモーニング」
英語で話しかけるが、ヒルダは疑問符を浮かべる。
外見のせいか、外国人だと思われているようだ。
実は魔界の人間なのだが、先入観というものは恐ろしい。
山村は腰を低くし、頭を下げる――まるで任侠のような格好で自己紹介をする。
「お、お初にお目にかかりますっ!!あねさん!!自分、今日から男鹿さんの舎弟やらせて頂きます!!山村和也と申します!!男鹿さんの彼女は"黒雪姫"と聞いてましたが、愛人ですか!?以後、お見知りおきを!!」
感じ入ったように、ヒルダは何度も相槌を打つ。
「…ほう、ほうほう!!舎弟!!」
「アー」
「てめぇ…マジで来たのかよ…」
後からやって来た男鹿はご飯を食べた状態で固まる。
「男鹿さん、お迎えにあがりました!!」
珍しく尊大さのない笑みを浮かべて、ヒルダは男鹿に近寄る。
「舎弟というと、家来の事だな。フン、少しは出世したではないか」
「ダーッ」
「そんなんじゃねーよ」
期待に膨らませるヒルダの追求から逃れる男鹿に、マイペースな声で響古が朝の挨拶をした。
「おはよー。辰巳、ベル坊、ヒルダ」
「……はよ」
「ダ!」
「おはよう、響古」
山村の目は純粋で憧れの色があり、なんだか微笑ましくすらなってくる。
あくまでも部外者には、とつくが。
当事者の男鹿にはそれどころではない。
「いってらっしゃいませ」
山村が訪れてから終始、笑顔のヒルダは男鹿達を送る。
そんな彼女に男鹿は顔をしかめ、響古は素直に思ったことを口に出す。
「………ナンだ、ありゃ」
「ワォ。見事な猫かぶり」
二人は歩き出す。
山村が慌ててそれについていく。
「いやー、さすがアニキ!!まさか外国人の方と同居してるとは…しかも、すんごいグラマー美人!!」
「あのなー…」
口を挟む暇もなく、至れり尽くせりで話しかけてくる。
ここまで人の世話になる彼ではない。
響古に視線を移すと、困った笑みを浮かべていた。
やはり彼女も、山村の急な出現に辟易しているようだ。
「あ、カバン、持ちます!!」
二人の荷物を持とうし、ついに男鹿は言い切った。
「昨日から言ってんだろ。オレは、てめーのアニキじゃねーし。ついてくんなっつーの!!朝からうっとーしーんだよ!!」
「そんなー。待って下さいよ、アニキー!!」
冷たくあしらうと、勢いあまりすぎて空回りな自称子分は小走りで駆け寄ってくる。
――ったく、なんなんだ、こいつ。
――妙になつきやがって…。
事態が読み込めない男鹿は眉を寄せて胸中でつぶやく。
「んー、ちょっと困るかなぁ」
男鹿の気持ちを鋭敏に読み取り、彼が口を開くより早く、響古は言う。
「だよなぁ。響古だけで十分だってのに」
少しも冗談めかしたところがない男鹿の言葉に、響古が少し頬を赤らめた。
「……朝のお迎えも、一緒の登校もあたしだけに許された特権なのに、今さら誰かが入る隙なんてないんだから!」
頬を膨らませる顔で告げるその理由に、男鹿は呆れた……本音を言えば、わがままなところも強引なところも、慣れると可愛く思えてくるのだ。
これだけ振り回されても、不思議と憎めない。
「…お前のまっすぐで正直な性格、周りはどう思ってるかわかんねーが、オレは好きだけどな」
「――っ!?」
涼しい顔で熱い台詞を放つ男鹿に、響古の頬が本格的に赤く染まっていく。
恥じらいながら、それでも嬉しそうに上目遣いにこちらを見る眼差しを受けて、目下の問題を懸案する。
(これ以上、響古との自由を奪われてたまるか)
「大体――…えーと…」
口を開こうとして、山村の名前を言いあぐねる。
「あっ…カズっす!!」
「カズは何年だよ?」
「一年です、一年六組十五番!!」
「ほらみろ…オレ達と同い年じゃねーか。つまりだ――ここから導き出せる答えは…オレは、お前のお兄ちゃんじゃない」
「いや…そりゃあ、まぁ…」
男鹿の答えに困惑すると、山村は目線を合わせずにストレートにさらけ出す。
「――でもオレ、男鹿さんの強さに本気で憧れてるんス」
こんな会話に割って入ることは、自分にはできない。
嬉しそうな表情にならないよう気をつけながら、同時に笑顔と見破られないように注意しながら眺める。
そんな傍観者の顔でいられたのは、山村の口から次の一言が出てくるまでだったが。
「それに、男鹿さんの彼女にして自身も"黒雪姫"の呼び名で有名ですよ」
「あたし?」
「黒髪乙女で容姿も超がつく美人だけど、あの人とケンカして無事だった人間はいない。今まで告白してきた男達は見事に全滅+撃沈」
立てば
ただし、胎の中には虎と蛇。
「ただ性格に難ありで、とにかく無愛想。そもそも打ち解ける気がない。それでもあのルックスだから寄る男は数知れず、恋の花が咲いては散る毎日」
「……そこまで言う?」
驚きに浮かんだのは一瞬、すぐに青筋が立ち、目つきは鋭くなる。
「オレが言ったんじゃありませんよ!」
噂というのは元来、無責任でいい加減なものなので、いちいち気にしない。
いちいち気にしてはキリがない、とわきまえている。
しかし、あの一件が目立っていたとは……自分の認識が甘かったと言わざるを得ない、と響古は思った。
「不良の間では、もはや伝説ですよ、マジで!!たった一人であの石矢魔を制した最強の一年生!!しかも、その容姿とケンカの強さで有名な"黒雪姫"さんの彼氏だなんて、同じ男としてうらやましいです!!勝ち組じゃないスか!!」
その言葉は、なんの躊躇も打算もなく、すんなりと彼の中から湧き出した。
「辰巳を尊敬する気持ちはすごいわかるし、あたしとしてもすごい嬉しいんだけど、あたし達は子分とか持たないから……」
響古のこの言葉は遠慮ではなく本心だった。
いや、遠慮であることは間違いないのだが、上辺ではなく本気で遠慮していた。
本気だからこそ、山村にこんなことを言われても響古としては困ってしまうだけだ。
「強くなりたいんです、オレも!!男鹿さんみたいに、そんな男鹿さんを兄貴と呼ぶのは当然っス!!いえ、呼ばせて下さいっ!!」