バブ41
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八月下旬。
夏も盛りを過ぎ、それでもまだ蒸し暑さが残る空気。
男鹿宅の部屋で、古市は二人から告げられた話の内容に顔をしかめる。
「魔界に帰る?誰が?」
「医者だよ、医者。いただろ、あの小っこいのとてきとーなやつ」
「ラミアちゃんとフォルカスさん、だよ。辰巳」
当たり前のように名前を覚えようとしない男鹿に苦笑いをして、響古は教えてやる。
「そうそう、なんかそんな名前。ベル坊も回復して、もう、やる事ねーからな。そろそろ、魔界に帰るんだとよ」
「ふーん、ほんまかい」
何気なく放たれた一言が、その場の空気を凍りつかせる。
男鹿と響古は顔を見合わせてから、発言者の方へと移す。
――ほん、まかい?
古市は真っ青になった顔を、勢いよく逸らした。
ちょうど部屋にやって来たラミアが瞳を細め、冷ややかに歪めた顔で吐き捨てる。
「――…さむっ。何、あんた、今の…ジョーク?もう一回言ってみてよ、ほれっ。あたし達、魔界に帰るんだー」
「うるせーよ!!とっとと帰れよ!!」
自分でも恥ずかしい発言を聞かれた失態に、古市は顔を真っ赤にさせる。
(くっ、不覚…)
響古の姿に気づくと、ラミアは剥き出しにしていた冷たさを消して、別に汚れてもいない白衣やスカートをぱたぱたはたいた。
それから、喜色満面の笑顔で話しかける。
「お姉様!今日もお綺麗ですね!」
「あ…ありがとう、ラミアちゃんは今日も元気だね」
ぎこちない笑みで答える響古の本日の服装は、Tシャツと短パン。
頭の上でまとめられた、長い髪の隙間からちらりと見える、透けるような白いうなじがまぶしい。
露出の少ないTシャツだが、よりその胸の形を強調。
短パンからこぼれる脚は長く引き締まっていて、無駄な肉が存在しない。
――うおぉ。
健康的な肢体に苦しんで……じゃなく、喜ぶ二人。
「うむ。そのつもりなのだが、アランドロンがつかまらんのだ。一緒に住んでる君なら、何か知っていると思ってな…」
「はぁ…」
フォルカスに言われ、溜め息のような相槌を打ち、古市は同居しているはずのアランドロンについて口を開く。
「――いや、知らないっスよ、オレも。大体、あのおっさん、ほとんどうちにいねーし」
「…そうか、困ったの…」
すると、ラミアが嬉しそうに両手を叩き、魔界に帰る日を延期しようと言い出した。
「……師匠。やっぱり今日は、やめにしましょーよ!!お姉様とベルゼ様と、もう少し…」
「ばかもんっ、魔界にも患者はわんさかいるんだぞ」
「ブー」
すぐさま提案を却下され、唇を尖らせると、腕を組んだヒルダが現れる。
「呼んでみればよいではないか」
「ヒルダさん!!」
「アランドロンを呼び出すには、私も通信機器を使っておるのだが、さっきから通じん」
アランドロンについて話し合う中、男鹿は布団に顎をのせて思う。
(ジャマ)
魔界のことなど何も知らない彼にとっては、常人には入り込めない世界であった。
響古は黒髪に指を絡ませていると、ベル坊が髪を面白げに触る。
最近のベル坊の遊びだ。
それを見て、男鹿はむっとする。
赤ん坊に嫉妬するのはやめましょうよ。
「――きゃっ!?」
すると、男鹿は無言で響古を後ろから抱きしめる体勢を取る。
背中から回す腕の力を強めると、響古の頬は赤く染まっていく。
そして、ほんのすぐ近く、頬も触れ合う距離で、恥ずかしげにうつむく。
「………っ」
男の子的ながっしりとした骨格というか、逞しい身体に思わずキュンとしてしまったようです。
長い髪と柔らかい身体、ほのかに漂う甘い匂いに埋めて、場違いな動悸を抑えきれない。
何より、身体の前で組んだ両腕が微妙な場所に当たり……。
(響古との肌の触れ合いが多すぎて、オレ、どうにかなってしまいそうだ………!)
男鹿のテンションが物凄い高いです。
今まで心の奥底に溜め込んでいたものが、全部出てきたという感じでしょうか。
前にも増してラブラブな二人を、皆はなるべく視界に入れずに、侍女悪魔の話は終盤に差しかかる。
「しかし、奴は次元転送悪魔。おそらく、近しい者が呼べばとんでくると思うぞ、古市」
「そんなまさか…」
その発言に、信じられない思いだった。
微妙な含みを感じ、
「近しいって…ははっ」
不審げな眼差しで乾いた笑いをあげる古市を、ラミアは指を差して命じる。
否と言わせるつもりはない。
「呼びなさいっ!!それとも、あの寒いギャグ、連呼してあげよーか!?」
「寒いギャグ?」
ヒルダは首を傾げて聞き返す。
「はい、実は…」
「わー、わーっ、わかったから!!ヒルダさんに言うのはやめろ!!」
恥ずかしいギャグを暴露される相手がヒルダと知るや、真っ赤な顔で遮り、古市は仕方なく応じる。
「呼んでくれるのか」
「そりゃもう…ヒルダさんの頼みとあらば…っ!!」
このまま無事に進行していれば、いい感じになってたに違いありません。
しかし、そこでヒルダが言い放ちました。
「うむ。まぁ、それはそれとして、ほんまかいはないと思うぞ」
もう計ってたんじゃねーか?
って感じのタイミングですが……実際、計ってました。
「ぷっ」
小さく吹き出す声と共に、よく見ればその肩は小刻みに震えていたりするわけで。
まさか、ツボなのか。
まさかあのギャグがツボなのか、響古。
「ほんまかい……ほんま……くっ、ふふふ」
ああっ、やっぱり!
――いやぁぁぁっっ、ドSが二人……!!!
ちなみに男鹿とベル坊も、口許を押さえて笑いを堪える。
ここにもドSがいましたよ。
「早く呼べよ」
「おめーは黙ってろ!!」
人を苛つかせる言動を取る男鹿を怒鳴ってから、古市は汗を滲ませて考える。
――くっ…近しい者が呼べば来るだぁ?
――そーゆー設定なら、ヒルダさんやベル坊が呼ぶべきだろ。
――つーか、これで来ちまったらどーすんだ、すげー気持ち悪い事になるじゃねーか。
古市的には女の子なら大歓迎だろうが、相手は男。
生理的嫌悪しかしない。
――いや、来ない!!
――来るはずがない!!
古市は必死の表情で、こちらの呼びかけに応じるはずがないと断定する。
かつてないほどうろたえ、強く願った。
――てか、くんな。
「あたし、来る方に賭けるー」
何やら賭けが始まっているのを極限に無視。
口をすぼめてなるべく声を抑えて呼び出す。
「ア…アランドローン」
「お呼びですかな?」
古市の呼びかけに応じて、アランドロンがベッドの下から姿を見せた。
――ぎぁぁぁぁっ。
まさかのベッドの下からの登場に、男鹿と古市は目を剥いて後ずさる。
そりゃもう、訳がわからない。
いつからそこにいたのか。
どうして、そこにいるのか。
それは悲鳴をあげる理由には十分だった……響古が。
「きゃああああっ!!」
いきなり抱きついてきた響古を、男鹿は反射的に受け止める。
その非常においし……もとい、涙目で文字通りあわあわ言っている響古に代わって、ヒルダが抗議する。
「アランドロン、もっと別の場所で登場できないのか」
「おや、驚かせてしまいましたか」
相変わらず男鹿に抱きついている響古だったが、皆の視線に気がつくと慌てて離れる。
「ごめん、辰巳、重いでしょ!?」
「重いとゆーか……ちょうどいい重さだな」
え?と目を丸くする響古の顔を見つめ、きつめの相貌を僅かに緩めて言い放った。
「ほら、好きな女を受け止めるくらいの甲斐性は、男として持っておきたいし」
「…………ぐはっ」
真正面の至近距離からそんなことを言われ、響古はいきなり仰け反った。
「おい、響古!?どうした!?」
「は、破壊力が……」
「ていうか、お前なに!?鼻血出てんじゃん!」
「だ、大丈夫……大丈夫」
驚いて声をあげる彼氏を手で制して、響古は鼻を押さえる。
「貧血か?それとも、熱さでやられたのか?」
「ううん、何でもない、すぐに収まるから。まったく……辰巳って、時々こーゆー天然な事するから油断できないんだよね……」
「え?なんだって?」
「なんでもない。辰巳の介抱で、あたしは大満足したわ」
鼻血の始末を終えてから、響古は赤く染まった顔で言う(血の色ではない、念のため)。
その横で、古市とヒルダとラミアは二人から距離を取り、声をひそめて話し出す
「……私の言いたい事は、だいたい察しているな」
「まったく、ひどいものですね」
「お姉様はわかっていたけど、あいつのアレさ加減は、ちょっと想像を超えていたわね……」
まだつき合いが短いラミアまで困惑していると、ヒルダは眉をひそめて続ける。
「とにかく、二人そろってあのようじゃ、こっちとしてはどうにもならない。今のままだと、私もお手上げだ」
「あの二人、放っておくといつの間にか二人だけの世界を作るんだから。勘弁してもらいたいよ」
古市は真摯な思いを込めて訴える。
「このままでは、私と響古のラブラブな未来が遠ざかってしまう……」
「ヒッ、ヒルダさん、響古の事狙ってんスか!?」
全くの初耳だった古市へ、涼しげな顔の金髪の悪魔は、
「ん、それが何か?」
的な仕草で言葉を紡ぐ。
「男女問わず見惚れるくらいの美貌と圧倒的な強さ、聡明な智力をもつ響古に心を奪われたのは、あっという間の出来事だ」
すると、ヒルダは目を細め、慈しむような眼差しを向けてきた。
妙に艶っぽい表情と仕草だ。
「ちなみに、響古の愛人第一号希望だ。あ、別に私が受けでも構わないぞ」
「変な事言うな!そもそも、響古にはオレ一人で十分だ!」
「そーそー!愛人なんか必要ないし!ってか、あたしが攻め!?」
妙な発言をし出したヒルダに、すかさず男鹿と響古がつっこむ。
サドだけでなくマゾもいけるらしいヒルダ、実に芸風の広い悪魔です。
それよりも、かなり逸れた話の内容を一旦、戻そう。
「いや、失敬失敬。家族と連絡とってたもので…」
「だから、いつも『キャッチホン』にしろと言っておるのだ。おろか者め」
呼び出しに応じなかった理由を話すアランドロンに、ヒルダが叱りつける。
(「キャッチホン」…?)
「……っ」
聞き慣れない単語に男鹿は首を傾げ、古市は自分の声でアランドロンが来たことにショックを受け、絶句。
「うふふ」
うっわ~、響古、今あなた凄く悪い顔してますよ?
夏も盛りを過ぎ、それでもまだ蒸し暑さが残る空気。
男鹿宅の部屋で、古市は二人から告げられた話の内容に顔をしかめる。
「魔界に帰る?誰が?」
「医者だよ、医者。いただろ、あの小っこいのとてきとーなやつ」
「ラミアちゃんとフォルカスさん、だよ。辰巳」
当たり前のように名前を覚えようとしない男鹿に苦笑いをして、響古は教えてやる。
「そうそう、なんかそんな名前。ベル坊も回復して、もう、やる事ねーからな。そろそろ、魔界に帰るんだとよ」
「ふーん、ほんまかい」
何気なく放たれた一言が、その場の空気を凍りつかせる。
男鹿と響古は顔を見合わせてから、発言者の方へと移す。
――ほん、まかい?
古市は真っ青になった顔を、勢いよく逸らした。
ちょうど部屋にやって来たラミアが瞳を細め、冷ややかに歪めた顔で吐き捨てる。
「――…さむっ。何、あんた、今の…ジョーク?もう一回言ってみてよ、ほれっ。あたし達、魔界に帰るんだー」
「うるせーよ!!とっとと帰れよ!!」
自分でも恥ずかしい発言を聞かれた失態に、古市は顔を真っ赤にさせる。
(くっ、不覚…)
響古の姿に気づくと、ラミアは剥き出しにしていた冷たさを消して、別に汚れてもいない白衣やスカートをぱたぱたはたいた。
それから、喜色満面の笑顔で話しかける。
「お姉様!今日もお綺麗ですね!」
「あ…ありがとう、ラミアちゃんは今日も元気だね」
ぎこちない笑みで答える響古の本日の服装は、Tシャツと短パン。
頭の上でまとめられた、長い髪の隙間からちらりと見える、透けるような白いうなじがまぶしい。
露出の少ないTシャツだが、よりその胸の形を強調。
短パンからこぼれる脚は長く引き締まっていて、無駄な肉が存在しない。
――うおぉ。
健康的な肢体に苦しんで……じゃなく、喜ぶ二人。
「うむ。そのつもりなのだが、アランドロンがつかまらんのだ。一緒に住んでる君なら、何か知っていると思ってな…」
「はぁ…」
フォルカスに言われ、溜め息のような相槌を打ち、古市は同居しているはずのアランドロンについて口を開く。
「――いや、知らないっスよ、オレも。大体、あのおっさん、ほとんどうちにいねーし」
「…そうか、困ったの…」
すると、ラミアが嬉しそうに両手を叩き、魔界に帰る日を延期しようと言い出した。
「……師匠。やっぱり今日は、やめにしましょーよ!!お姉様とベルゼ様と、もう少し…」
「ばかもんっ、魔界にも患者はわんさかいるんだぞ」
「ブー」
すぐさま提案を却下され、唇を尖らせると、腕を組んだヒルダが現れる。
「呼んでみればよいではないか」
「ヒルダさん!!」
「アランドロンを呼び出すには、私も通信機器を使っておるのだが、さっきから通じん」
アランドロンについて話し合う中、男鹿は布団に顎をのせて思う。
(ジャマ)
魔界のことなど何も知らない彼にとっては、常人には入り込めない世界であった。
響古は黒髪に指を絡ませていると、ベル坊が髪を面白げに触る。
最近のベル坊の遊びだ。
それを見て、男鹿はむっとする。
赤ん坊に嫉妬するのはやめましょうよ。
「――きゃっ!?」
すると、男鹿は無言で響古を後ろから抱きしめる体勢を取る。
背中から回す腕の力を強めると、響古の頬は赤く染まっていく。
そして、ほんのすぐ近く、頬も触れ合う距離で、恥ずかしげにうつむく。
「………っ」
男の子的ながっしりとした骨格というか、逞しい身体に思わずキュンとしてしまったようです。
長い髪と柔らかい身体、ほのかに漂う甘い匂いに埋めて、場違いな動悸を抑えきれない。
何より、身体の前で組んだ両腕が微妙な場所に当たり……。
(響古との肌の触れ合いが多すぎて、オレ、どうにかなってしまいそうだ………!)
男鹿のテンションが物凄い高いです。
今まで心の奥底に溜め込んでいたものが、全部出てきたという感じでしょうか。
前にも増してラブラブな二人を、皆はなるべく視界に入れずに、侍女悪魔の話は終盤に差しかかる。
「しかし、奴は次元転送悪魔。おそらく、近しい者が呼べばとんでくると思うぞ、古市」
「そんなまさか…」
その発言に、信じられない思いだった。
微妙な含みを感じ、
「近しいって…ははっ」
不審げな眼差しで乾いた笑いをあげる古市を、ラミアは指を差して命じる。
否と言わせるつもりはない。
「呼びなさいっ!!それとも、あの寒いギャグ、連呼してあげよーか!?」
「寒いギャグ?」
ヒルダは首を傾げて聞き返す。
「はい、実は…」
「わー、わーっ、わかったから!!ヒルダさんに言うのはやめろ!!」
恥ずかしいギャグを暴露される相手がヒルダと知るや、真っ赤な顔で遮り、古市は仕方なく応じる。
「呼んでくれるのか」
「そりゃもう…ヒルダさんの頼みとあらば…っ!!」
このまま無事に進行していれば、いい感じになってたに違いありません。
しかし、そこでヒルダが言い放ちました。
「うむ。まぁ、それはそれとして、ほんまかいはないと思うぞ」
もう計ってたんじゃねーか?
って感じのタイミングですが……実際、計ってました。
「ぷっ」
小さく吹き出す声と共に、よく見ればその肩は小刻みに震えていたりするわけで。
まさか、ツボなのか。
まさかあのギャグがツボなのか、響古。
「ほんまかい……ほんま……くっ、ふふふ」
ああっ、やっぱり!
――いやぁぁぁっっ、ドSが二人……!!!
ちなみに男鹿とベル坊も、口許を押さえて笑いを堪える。
ここにもドSがいましたよ。
「早く呼べよ」
「おめーは黙ってろ!!」
人を苛つかせる言動を取る男鹿を怒鳴ってから、古市は汗を滲ませて考える。
――くっ…近しい者が呼べば来るだぁ?
――そーゆー設定なら、ヒルダさんやベル坊が呼ぶべきだろ。
――つーか、これで来ちまったらどーすんだ、すげー気持ち悪い事になるじゃねーか。
古市的には女の子なら大歓迎だろうが、相手は男。
生理的嫌悪しかしない。
――いや、来ない!!
――来るはずがない!!
古市は必死の表情で、こちらの呼びかけに応じるはずがないと断定する。
かつてないほどうろたえ、強く願った。
――てか、くんな。
「あたし、来る方に賭けるー」
何やら賭けが始まっているのを極限に無視。
口をすぼめてなるべく声を抑えて呼び出す。
「ア…アランドローン」
「お呼びですかな?」
古市の呼びかけに応じて、アランドロンがベッドの下から姿を見せた。
――ぎぁぁぁぁっ。
まさかのベッドの下からの登場に、男鹿と古市は目を剥いて後ずさる。
そりゃもう、訳がわからない。
いつからそこにいたのか。
どうして、そこにいるのか。
それは悲鳴をあげる理由には十分だった……響古が。
「きゃああああっ!!」
いきなり抱きついてきた響古を、男鹿は反射的に受け止める。
その非常においし……もとい、涙目で文字通りあわあわ言っている響古に代わって、ヒルダが抗議する。
「アランドロン、もっと別の場所で登場できないのか」
「おや、驚かせてしまいましたか」
相変わらず男鹿に抱きついている響古だったが、皆の視線に気がつくと慌てて離れる。
「ごめん、辰巳、重いでしょ!?」
「重いとゆーか……ちょうどいい重さだな」
え?と目を丸くする響古の顔を見つめ、きつめの相貌を僅かに緩めて言い放った。
「ほら、好きな女を受け止めるくらいの甲斐性は、男として持っておきたいし」
「…………ぐはっ」
真正面の至近距離からそんなことを言われ、響古はいきなり仰け反った。
「おい、響古!?どうした!?」
「は、破壊力が……」
「ていうか、お前なに!?鼻血出てんじゃん!」
「だ、大丈夫……大丈夫」
驚いて声をあげる彼氏を手で制して、響古は鼻を押さえる。
「貧血か?それとも、熱さでやられたのか?」
「ううん、何でもない、すぐに収まるから。まったく……辰巳って、時々こーゆー天然な事するから油断できないんだよね……」
「え?なんだって?」
「なんでもない。辰巳の介抱で、あたしは大満足したわ」
鼻血の始末を終えてから、響古は赤く染まった顔で言う(血の色ではない、念のため)。
その横で、古市とヒルダとラミアは二人から距離を取り、声をひそめて話し出す
「……私の言いたい事は、だいたい察しているな」
「まったく、ひどいものですね」
「お姉様はわかっていたけど、あいつのアレさ加減は、ちょっと想像を超えていたわね……」
まだつき合いが短いラミアまで困惑していると、ヒルダは眉をひそめて続ける。
「とにかく、二人そろってあのようじゃ、こっちとしてはどうにもならない。今のままだと、私もお手上げだ」
「あの二人、放っておくといつの間にか二人だけの世界を作るんだから。勘弁してもらいたいよ」
古市は真摯な思いを込めて訴える。
「このままでは、私と響古のラブラブな未来が遠ざかってしまう……」
「ヒッ、ヒルダさん、響古の事狙ってんスか!?」
全くの初耳だった古市へ、涼しげな顔の金髪の悪魔は、
「ん、それが何か?」
的な仕草で言葉を紡ぐ。
「男女問わず見惚れるくらいの美貌と圧倒的な強さ、聡明な智力をもつ響古に心を奪われたのは、あっという間の出来事だ」
すると、ヒルダは目を細め、慈しむような眼差しを向けてきた。
妙に艶っぽい表情と仕草だ。
「ちなみに、響古の愛人第一号希望だ。あ、別に私が受けでも構わないぞ」
「変な事言うな!そもそも、響古にはオレ一人で十分だ!」
「そーそー!愛人なんか必要ないし!ってか、あたしが攻め!?」
妙な発言をし出したヒルダに、すかさず男鹿と響古がつっこむ。
サドだけでなくマゾもいけるらしいヒルダ、実に芸風の広い悪魔です。
それよりも、かなり逸れた話の内容を一旦、戻そう。
「いや、失敬失敬。家族と連絡とってたもので…」
「だから、いつも『キャッチホン』にしろと言っておるのだ。おろか者め」
呼び出しに応じなかった理由を話すアランドロンに、ヒルダが叱りつける。
(「キャッチホン」…?)
「……っ」
聞き慣れない単語に男鹿は首を傾げ、古市は自分の声でアランドロンが来たことにショックを受け、絶句。
「うふふ」
うっわ~、響古、今あなた凄く悪い顔してますよ?