バブ29
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話がまとまったところで、ラミアがどこからか取り出した銃に弾倉を詰めた。
「話は、まとまったようですね――では、始めましょうか」
「ん?」
「え?」
その行動に疑問符を浮かべる二人へ、フォルカスが頷いて進行する。
「――うむ。では、やってくれ」
室内は、今や異常な雰囲気に包まれていた。
「はあっ!?ちょっ…まてまて、始めるって何を…」
「なっ、何をしようとするの!?」
なんの説明もなしに拳銃を取り出し、その間にも淡々と促す――そんな光景は、二人の思考が色々と追いついていなかった。
「――ってか、お前何、持ってんだ、それ…!!おいっ!!」
「うるさい、黙れ」
抵抗するように喚く男鹿へ、ラミアは銃を突きつける。
いつの間にか、ヒルダが逃がさない、というふうに彼の腕を掴む。
「案ずるな、ただのショック療法だ。坊っちゃまと貴様のリンクをつなぎ直すためのな」
「あぁ!?」
その瞬間、響古がラミアの両手首を捻り掴むと、そのままの勢いで一本背負い、床に容赦なく叩きつけた。
「ふぎゃっ」
背中を思い切り打ち据えて、ラミアは小さな悲鳴をあげる。
「あなた、自分が何をしているのか、わかってるの!?」
銃を突きつける幼い悪魔へと声を荒げ、次いでヒルダに焦燥に満ちた顔を向ける。
「ヒルダ!いくらショック療法だと言え、辰巳にこんな事……!!」
「ちょっ、痛い痛いっ」
声を荒げる響古だったが、急に身体の力が抜けたように、うつ伏せに転んだ。
「………あれ…?」
「お嬢さん…死ぬぞ?今、ヘタに動かない方がいい」
冷ややかな声以上に情感に乏しい外見のフォルカスに忠告され、冷や汗が流れる。
なんとか這って逃れたラミアは拳銃を構える。
「ふざけんなよ!!誰が、ベル坊を取り戻すって言った!!んなもん、どーでもいいんだよ!!オレは、ただ東条のやろうをぶっとばしたいだけ…」
「黙れっての」
次の瞬間、ラミアが躊躇なく銃の引鉄を引いた。
叫び声をもかき消されて、弾丸を受けた男鹿の身体が、床に倒れる。
響古にはその光景が、スローモーションのように見えた。
「――っ!」
直後、底抜けの虚脱感の中の身体が、一瞬で持ち直す。
背筋はまっすぐ伸び、四肢の隅々、指先まで力が行き渡る。
「ウロボロスの骨から作った霊薬を撃ちこみました。魔王の親を成長させるには、これが一番です。薬によってループ状に固定された精神世界。今、彼はその中にいます」
「そこから脱出するにはベルゼ様とのリンクを修復するしかない――うむ、一歩間違えれば、戻ってこられなくなる。危険なかけだ」
飄々と受け答えする師弟。
並の人間には扱えぬはずの魔具を使いこなし、弾丸を撃ち込んだ者を精神世界へと誘 う。
「戻ってこれないというと…」
表情を曇らせながら、ヒルダは医者の回答を待った。
ラミアは満面の笑顔で言い切る。
「はい、死にます」
「………」
その言葉を聞き、ヒルダは無言になる。
「あたしの言葉の裏が理解できなかったようね。これは"お願い"じゃない"命令"よ」
彼女の漏らした、殺気に満ちた低い声が、ラミアの動きを止める。
刹那、響古はラミアの上に跨って引きずり倒す。
「きゃ……っ!」
息を詰まらせる、次の瞬間、眼球に揃えられた指先が置かれていた。
「さっきの言葉を覚えてる?辰巳は、あたしの最も大切な人。暴言や侮辱は、許さないと言った……それなのに、あなたは……!」
なんなんだろう、と思った。
ぞわりと全身が震え、押し潰されそうな殺気に汗が流れる。
訳がわからないパニックに襲われかけ、何が起こったのか理解するのに数秒を要した。
「いい機会ね。今後、辰巳を傷つけるという事が、どういう事かを。ラミア……って言ったわね。今ここで、目を潰しておいた方が幸せかも」
倫理的には不適切な、しかし堂々たる宣言。
「響古!」
ラミアが失明になることさえ厭 わない彼女の脅迫に、ヒルダは血相を変える。
「そうか、成程な。それがお嬢さんの最も大切な感情。恋愛や愛情への陶酔……つまり、彼への執着こそが……」
フォルカスが、妙に老成した仕草で、顎に手をやってつぶやく。
「うぐっ。そ、そんな事より、ひっく、早くこの状況をどうにかしてー!!」
響古の恐ろしい殺気に当てられたラミアが、鼻をすすりながらで叫ぶ。
気を抜くと、涙が出てしまうらしい。
ようやく響古は、ラミアの上から退いた。
焦りと共に、倒れる男鹿を見やる。
彼女の愛する少年を呑み込んだ、精神世界――無謀とも思えるアイデアが誕生したのはこの時だった。
だが、チャレンジする価値はある。
響古を決断させたのは、男鹿を助ける、東条を親にさせたくはないという思い。
勝算のない戦いは、可能であれば避けるのが響古の信条。
だが、これを避けたら絶対に後悔する。
その想いをフォルカスに伝えると、帽子を深く被って、冷たい打算として、同時に温かな思いやりとして、気休め程度の前提を言い放つ。
「この場合、既にお嬢さんはベルゼ様とリンクは繋がっている。もし精神世界に行くのであれば、それなりの覚悟が必要だ」
地上から精神世界への移動は、極めて難度の高い魔術。
しかも、事前に貴重な霊薬を服用しなくてはならない。
これは、精神の働きを活発化させ、順応させる薬だ。
精神世界に足を踏み入れた者は滅多にいない。
「しかし、響古、わかっているのか?自ら危険や頓挫 が潜んでいるかもしれない行動に移すのは、自殺行為だぞ。ここは奴に任せておけ」
ヒルダが突き刺すような眼光を放ち、語気強く告げる。
だが、響古の気持ちは既に決まっていた。
時間は数秒、しかし決意も覚悟も――そして、それらを生み出す、小さな一つの気持ちも浮かぶ。
「――でも……それでも、辰巳はあたしの大切な人で、初めて好きになった人なの。彼のためなら、この命を差し出しても構わないわ」
ただ、あなたに憧れていたのです。
あなたがあたしの生きる理由だったのです。
慕うあなたのためなら、この命、獄火に投げ出そうとも喜んで差し出します。
あなたの為に咲き誇り、あなたの為に散りましょう。
かくして、二人は精神世界に揃って突入したのである。
男鹿は、どことも知れない空間にいた。
銃で撃たれた後、気づいたらここにいたのだ。
その場景は――あってないようなもの。
自分にもなんだかわからない。
風景はわかるが、これは描写できるようなものじゃない。
説明すると、白黒の道とアイスの棒と当たりとハズレと、ゲーム機のコントローラー『明日やる』の看板。
「…な、なんだ…?ここ」
「心の中だよ、お前のな」
「古市――って、ムキムキ!?」
聞き覚えのある顔に振り返る。
顔は古市だが、これほど逞しく野性味のある肉体に男鹿は仰天した。
これだけアンバランスだと、どうしても背ばかり高く、顔が小さく見えてしまう。
「オレは古市じゃない、モンテスキューだ」
「はあっ!?」
「三権分立っっ!!」
「がはぁっ」
いきなり、古市(モンテスキュー)は意味不明な言葉を放っていきなり殴った。
「ちょっ、まてまてっ!!なんだ、そりゃ!?技名!?なんか、お前今、ノリで殴ったろ!?」
「殴ってないっ!!」
「殴ったよ!!そこを否定すんなよ!!」
男鹿の反論を無視し、古市は真剣な表情で今が危険な状態であることを説明する。
「いいか、よくきけ相棒。今、お前さんはとてつもなく危険な状態にあるんだぜ?オナラでいうとちょっと、しめったすかしっぺってとこだ」
「何故、オナラ!?」
「あのお嬢ちゃんが撃ちこんだウロボロスってのは、自分の尾を飲みこみ続ける蛇の事だ。わかるか?今、お前のいる、この世界も同じ状態だ。つまり――」
ウロボロス。
それは蛇が自分の尾を噛んで円形になっている構図だ。
始まりと終わりが同一であることから、永遠性も現していて、無限ループを象徴している。
そんな説明を流れるように語る古市だったが、突然、身体がロボットのように変形。
――時間だ!!
背中に、ミサイルのような安定翼が広がり、遥か彼方へ飛んでいってしまった。
「つまり、なんだーーっ!!おーいっっ!!」
話の核心な部分を聞けぬまま、男鹿は立ち尽くした。
「……っ」
結局、一番肝心なことはわからないので、脳をフル回転していく。
――なんだ、これ…なんだ、これ!?
――えーと…。
苦悩に満ちた表情で男鹿は頭を抱え、呻く。
「おちつけ、オレ」
思考がずれている、もう一回だ。
この世界にきた直前の行動と、その軌跡を考えるんだ。
そうしないと導き出せない。
思考しろ。
今までの材料を、しっかりと摘み取れ。
――要するになんだ?
――あの、ラミアとかいうガキに撃たれて、オレは今、昏睡状態って事か?
つぼみの部分が神崎と姫川の顔、身体が茎という花が植えてある。
「ヒヒヒヒヒヒヒヒ」
「エヘヘヘヘヘヘヘ」
しかも、変な笑い声をあげているが、それを無視して走る。
――って事は、これ全部、オレの頭ん中!?
――何考えてんのオレ!!?
次に、ヒルダと葵の顔を模した汽車が互いに速さを競っている。
――何考えてんの!?
――まじで何考えてんの、オレ!!?
「メエエエエェ~」
胴体が羊、顔がアランドロンの奇妙な動物が鳴いている。
(――あっ!?)
不意に、気がついた。
今の今まで、何故そのことに気がつかなかったのだろう。
普通に考えれば、彼女もいるのだ。
(響古――!)
彼女がどうなったのか不安になりながら、これら、自分の目を疑い、正気を侵食されそうな光景の中で、男鹿は再び走る。
響古もウロボロスの霊薬を撃ち込み、精神世界へと飛び込んだ。
その果てに辿り着いたのが清閑であり、俗世から切り離された神聖な空間がそこにあった。
木漏れ日の揺らめきと池の水面に踊る波紋が、和の世界に踏み込んだ感覚に囚われそうになる。
「ここ、どこ……?」
地面に膝をつきながら、響古は喘ぐ。
おそらく、肉体がこの世界に適応できていない。
だが、仕方のない話だった。
舌打ちしながら響古は崩れ落ち、全身に力が入らず、呼吸もせわしくなる。
だが、霊薬のおかげでだいぶ楽になった。
「よく来たな、響古。ここはあなたの頭の中だ」
そこに、傘を差したヒルダがやって来た。
「ヒルダ!」
黒いゴスロリ衣装の金髪女性と和風空間。
似合いそうもない組み合わせのくせに、不思議と違和感がない。
ヒルダの横柄さ故だろうか。
「話は、まとまったようですね――では、始めましょうか」
「ん?」
「え?」
その行動に疑問符を浮かべる二人へ、フォルカスが頷いて進行する。
「――うむ。では、やってくれ」
室内は、今や異常な雰囲気に包まれていた。
「はあっ!?ちょっ…まてまて、始めるって何を…」
「なっ、何をしようとするの!?」
なんの説明もなしに拳銃を取り出し、その間にも淡々と促す――そんな光景は、二人の思考が色々と追いついていなかった。
「――ってか、お前何、持ってんだ、それ…!!おいっ!!」
「うるさい、黙れ」
抵抗するように喚く男鹿へ、ラミアは銃を突きつける。
いつの間にか、ヒルダが逃がさない、というふうに彼の腕を掴む。
「案ずるな、ただのショック療法だ。坊っちゃまと貴様のリンクをつなぎ直すためのな」
「あぁ!?」
その瞬間、響古がラミアの両手首を捻り掴むと、そのままの勢いで一本背負い、床に容赦なく叩きつけた。
「ふぎゃっ」
背中を思い切り打ち据えて、ラミアは小さな悲鳴をあげる。
「あなた、自分が何をしているのか、わかってるの!?」
銃を突きつける幼い悪魔へと声を荒げ、次いでヒルダに焦燥に満ちた顔を向ける。
「ヒルダ!いくらショック療法だと言え、辰巳にこんな事……!!」
「ちょっ、痛い痛いっ」
声を荒げる響古だったが、急に身体の力が抜けたように、うつ伏せに転んだ。
「………あれ…?」
「お嬢さん…死ぬぞ?今、ヘタに動かない方がいい」
冷ややかな声以上に情感に乏しい外見のフォルカスに忠告され、冷や汗が流れる。
なんとか這って逃れたラミアは拳銃を構える。
「ふざけんなよ!!誰が、ベル坊を取り戻すって言った!!んなもん、どーでもいいんだよ!!オレは、ただ東条のやろうをぶっとばしたいだけ…」
「黙れっての」
次の瞬間、ラミアが躊躇なく銃の引鉄を引いた。
叫び声をもかき消されて、弾丸を受けた男鹿の身体が、床に倒れる。
響古にはその光景が、スローモーションのように見えた。
「――っ!」
直後、底抜けの虚脱感の中の身体が、一瞬で持ち直す。
背筋はまっすぐ伸び、四肢の隅々、指先まで力が行き渡る。
「ウロボロスの骨から作った霊薬を撃ちこみました。魔王の親を成長させるには、これが一番です。薬によってループ状に固定された精神世界。今、彼はその中にいます」
「そこから脱出するにはベルゼ様とのリンクを修復するしかない――うむ、一歩間違えれば、戻ってこられなくなる。危険なかけだ」
飄々と受け答えする師弟。
並の人間には扱えぬはずの魔具を使いこなし、弾丸を撃ち込んだ者を精神世界へと
「戻ってこれないというと…」
表情を曇らせながら、ヒルダは医者の回答を待った。
ラミアは満面の笑顔で言い切る。
「はい、死にます」
「………」
その言葉を聞き、ヒルダは無言になる。
「あたしの言葉の裏が理解できなかったようね。これは"お願い"じゃない"命令"よ」
彼女の漏らした、殺気に満ちた低い声が、ラミアの動きを止める。
刹那、響古はラミアの上に跨って引きずり倒す。
「きゃ……っ!」
息を詰まらせる、次の瞬間、眼球に揃えられた指先が置かれていた。
「さっきの言葉を覚えてる?辰巳は、あたしの最も大切な人。暴言や侮辱は、許さないと言った……それなのに、あなたは……!」
なんなんだろう、と思った。
ぞわりと全身が震え、押し潰されそうな殺気に汗が流れる。
訳がわからないパニックに襲われかけ、何が起こったのか理解するのに数秒を要した。
「いい機会ね。今後、辰巳を傷つけるという事が、どういう事かを。ラミア……って言ったわね。今ここで、目を潰しておいた方が幸せかも」
倫理的には不適切な、しかし堂々たる宣言。
「響古!」
ラミアが失明になることさえ
「そうか、成程な。それがお嬢さんの最も大切な感情。恋愛や愛情への陶酔……つまり、彼への執着こそが……」
フォルカスが、妙に老成した仕草で、顎に手をやってつぶやく。
「うぐっ。そ、そんな事より、ひっく、早くこの状況をどうにかしてー!!」
響古の恐ろしい殺気に当てられたラミアが、鼻をすすりながらで叫ぶ。
気を抜くと、涙が出てしまうらしい。
ようやく響古は、ラミアの上から退いた。
焦りと共に、倒れる男鹿を見やる。
彼女の愛する少年を呑み込んだ、精神世界――無謀とも思えるアイデアが誕生したのはこの時だった。
だが、チャレンジする価値はある。
響古を決断させたのは、男鹿を助ける、東条を親にさせたくはないという思い。
勝算のない戦いは、可能であれば避けるのが響古の信条。
だが、これを避けたら絶対に後悔する。
その想いをフォルカスに伝えると、帽子を深く被って、冷たい打算として、同時に温かな思いやりとして、気休め程度の前提を言い放つ。
「この場合、既にお嬢さんはベルゼ様とリンクは繋がっている。もし精神世界に行くのであれば、それなりの覚悟が必要だ」
地上から精神世界への移動は、極めて難度の高い魔術。
しかも、事前に貴重な霊薬を服用しなくてはならない。
これは、精神の働きを活発化させ、順応させる薬だ。
精神世界に足を踏み入れた者は滅多にいない。
「しかし、響古、わかっているのか?自ら危険や
ヒルダが突き刺すような眼光を放ち、語気強く告げる。
だが、響古の気持ちは既に決まっていた。
時間は数秒、しかし決意も覚悟も――そして、それらを生み出す、小さな一つの気持ちも浮かぶ。
「――でも……それでも、辰巳はあたしの大切な人で、初めて好きになった人なの。彼のためなら、この命を差し出しても構わないわ」
ただ、あなたに憧れていたのです。
あなたがあたしの生きる理由だったのです。
慕うあなたのためなら、この命、獄火に投げ出そうとも喜んで差し出します。
あなたの為に咲き誇り、あなたの為に散りましょう。
かくして、二人は精神世界に揃って突入したのである。
男鹿は、どことも知れない空間にいた。
銃で撃たれた後、気づいたらここにいたのだ。
その場景は――あってないようなもの。
自分にもなんだかわからない。
風景はわかるが、これは描写できるようなものじゃない。
説明すると、白黒の道とアイスの棒と当たりとハズレと、ゲーム機のコントローラー『明日やる』の看板。
「…な、なんだ…?ここ」
「心の中だよ、お前のな」
「古市――って、ムキムキ!?」
聞き覚えのある顔に振り返る。
顔は古市だが、これほど逞しく野性味のある肉体に男鹿は仰天した。
これだけアンバランスだと、どうしても背ばかり高く、顔が小さく見えてしまう。
「オレは古市じゃない、モンテスキューだ」
「はあっ!?」
「三権分立っっ!!」
「がはぁっ」
いきなり、古市(モンテスキュー)は意味不明な言葉を放っていきなり殴った。
「ちょっ、まてまてっ!!なんだ、そりゃ!?技名!?なんか、お前今、ノリで殴ったろ!?」
「殴ってないっ!!」
「殴ったよ!!そこを否定すんなよ!!」
男鹿の反論を無視し、古市は真剣な表情で今が危険な状態であることを説明する。
「いいか、よくきけ相棒。今、お前さんはとてつもなく危険な状態にあるんだぜ?オナラでいうとちょっと、しめったすかしっぺってとこだ」
「何故、オナラ!?」
「あのお嬢ちゃんが撃ちこんだウロボロスってのは、自分の尾を飲みこみ続ける蛇の事だ。わかるか?今、お前のいる、この世界も同じ状態だ。つまり――」
ウロボロス。
それは蛇が自分の尾を噛んで円形になっている構図だ。
始まりと終わりが同一であることから、永遠性も現していて、無限ループを象徴している。
そんな説明を流れるように語る古市だったが、突然、身体がロボットのように変形。
――時間だ!!
背中に、ミサイルのような安定翼が広がり、遥か彼方へ飛んでいってしまった。
「つまり、なんだーーっ!!おーいっっ!!」
話の核心な部分を聞けぬまま、男鹿は立ち尽くした。
「……っ」
結局、一番肝心なことはわからないので、脳をフル回転していく。
――なんだ、これ…なんだ、これ!?
――えーと…。
苦悩に満ちた表情で男鹿は頭を抱え、呻く。
「おちつけ、オレ」
思考がずれている、もう一回だ。
この世界にきた直前の行動と、その軌跡を考えるんだ。
そうしないと導き出せない。
思考しろ。
今までの材料を、しっかりと摘み取れ。
――要するになんだ?
――あの、ラミアとかいうガキに撃たれて、オレは今、昏睡状態って事か?
つぼみの部分が神崎と姫川の顔、身体が茎という花が植えてある。
「ヒヒヒヒヒヒヒヒ」
「エヘヘヘヘヘヘヘ」
しかも、変な笑い声をあげているが、それを無視して走る。
――って事は、これ全部、オレの頭ん中!?
――何考えてんのオレ!!?
次に、ヒルダと葵の顔を模した汽車が互いに速さを競っている。
――何考えてんの!?
――まじで何考えてんの、オレ!!?
「メエエエエェ~」
胴体が羊、顔がアランドロンの奇妙な動物が鳴いている。
(――あっ!?)
不意に、気がついた。
今の今まで、何故そのことに気がつかなかったのだろう。
普通に考えれば、彼女もいるのだ。
(響古――!)
彼女がどうなったのか不安になりながら、これら、自分の目を疑い、正気を侵食されそうな光景の中で、男鹿は再び走る。
響古もウロボロスの霊薬を撃ち込み、精神世界へと飛び込んだ。
その果てに辿り着いたのが清閑であり、俗世から切り離された神聖な空間がそこにあった。
木漏れ日の揺らめきと池の水面に踊る波紋が、和の世界に踏み込んだ感覚に囚われそうになる。
「ここ、どこ……?」
地面に膝をつきながら、響古は喘ぐ。
おそらく、肉体がこの世界に適応できていない。
だが、仕方のない話だった。
舌打ちしながら響古は崩れ落ち、全身に力が入らず、呼吸もせわしくなる。
だが、霊薬のおかげでだいぶ楽になった。
「よく来たな、響古。ここはあなたの頭の中だ」
そこに、傘を差したヒルダがやって来た。
「ヒルダ!」
黒いゴスロリ衣装の金髪女性と和風空間。
似合いそうもない組み合わせのくせに、不思議と違和感がない。
ヒルダの横柄さ故だろうか。