第五~六訓
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特にこれといった依頼はなく、閑古鳥が鳴いているような状態の万事屋。
のんびりとくつろいでいると、突然銀時が立ち上がり、瞳孔開き気味で宣言する。
「俺が以前から買い溜めていた、大量のチョコが消えた。食べた奴は正直に手を挙げろ。今なら3/4殺しで許してやる」
その宣言に茶を飲みながら新八が厳しく言い、湯飲みに茶を注ぎながら、響古が冷静に指摘する。
「3/4って、ほとんど死んでんじゃないスか。っていうかアンタ、いい加減にしないと、ホント糖尿になりますよ」
「そーよ。それに、瞳孔開いてそんなこと言ったって、手ェ挙げる人いないわよ」
二人が溜め息と共に言うのを、神楽はすぐ隣で拝聴していた。
「またも狙われた大使館、連続爆破テロ凶行続く…」
三人はだらだらと鼻血を垂らしながら、新聞を読み上げる少女を凝視する。
「物騒な世の中アルな~。私恐いヨ、パピー、マミー」
「恐いのはオメーだよ。幸せそーに鼻血たらしなくやがって。うまかったか、俺のチョコは?」
銀時はすぐさま容疑者の頬を掴み、厳しく問いつめる。
「チョコ食べて鼻血なんて、そんなベタな~」
「とぼけんなァァ!!鼻血から糖分の匂いがプンプンすんぞ!!」
「キモいわよ、それ」
「バカ言うな。ちょっと鼻クソ深追いしただけヨ」
「年頃の娘がそんなに深追いするわけねーだろ、定年間際の刑事 か、お前は!!」
「喩 えがわかんねーよ!!っていうか、おちつけ!!」
今にも殴りかかろうと拳を握る銀時を新八がなだめ、神楽は響古に抱きつく。
次の瞬間、ズンという音と共に強烈な震動と衝撃が襲ってきて、四人の身体がぐらつく。
「なんなんだ、オイ」
「事故ね…」
何事かと玄関を出て視線を落とすと、一階のスナックに原付が突っ込んでいた。
第五訓
ジジイになっても あだ名で呼び合える友達を作れ
下の方からがやがやと物音が聞こえ、人だかりができていた。
原付が衝突したせいでガラスや外装が破損したスナックで、怒声が響き渡る。
「くらあああああ!!」
お登勢が原付を運転していた男の襟首を掴んで激しく揺さぶっていた。
「ワレェェェェェ!!人の店に何してくれとんじゃァァ!!死ぬ覚悟できてんだろーな!!」
「ス…スンマセン。昨日から、あんまり寝てなかったもんで」
「よっしゃ!!今、永遠に眠らしたらァァ!!」
「お登勢さん、怪我人相手にそんな!!」
握った拳を振り下ろそうとするお登勢に、新八が慌てて止めに入る。
「…ずいぶん派手にやったわね。神楽、救急車呼んで」
すると、神楽は口許に手を当てて天を振り仰ぎながら叫ぶ。
「救急車ャャアアア!!」
「誰がそんな呼び方しろっつったよ」
銀時は冷静につっこむと、周囲に散乱していた手紙を一枚拾う。
「飛脚か、アンタ。届け物エライことになってるぞ」
「こ…これ…これを…俺の代わりに、届けてください……お願い」
そう言って、一つの小包みを差し出してきた。
「なんか大事な届け物らしくて、届け損なったら、俺…クビになっちゃうかも。お願いしまっ…」
飛脚は息も絶え絶えに言葉を紡ぐが、途中で力尽き、気絶した。
「おいっ!!」
呼び止める間もなく意識を失っている。
銀時は小包みを持ち、響古達と顔を見合わせる。
頼まれた届け物を渡すため、四人は戌威 星の大使館の門の前に立っていた。
「ここであってんだよな」
「うん」
小包みの宛先を確認して神楽が相槌を打つ。
区画丸ごとを覆う塀と、その中央につけられた大きな門。
これが大使館の概観である。
「大使館…これ、戌威星の大使館ですよ」
門の前には四人の他に、編み笠を被った僧侶が座っている。
正面の立派な建物を見上げ、新八は目を見張る。
この地に構えられた自国の大使を駐在させて公務を執行する施設……通称大使館である。
「戌威星っていったら、地球に最初に来た天人ですよね」
中でもこの、戌威星という名の天人は、江戸城に大砲を撃ち放って無理矢理開国させた異邦人だった。
「ああ。江戸城に大砲、ブチ込んで無理矢理開国しちまった、おっかねー奴らだよ」
「嫌なトコ来ちゃったわねェ」
「オイ」
近寄りがたい場所で声をかけたのは、門番である犬の天人だった。
「おっ、姉ちゃん美人だな~。どうだ?俺と食事でもいかねーか?」
「は?なんであたしが、ドッグフードが主食で手も使わずに食べる犬と食事しなきゃいけないの?アンタみたいな犬は、雑巾に染み込んだ牛乳をチューチュー吸えばいいのよ」
響古は鋭い視線で、さらっと罵倒する。
あまりの言われように、少しだけショックを受けている門番。
いや、少しのようでかなりショックを受けている。
地味に涙目だし。
「そっ、そこまで言うか?」
響古に泣かされた門番は気にしてないふりで脅す。
「つーか、こんな所で何やってんだ、てめーら。食われてーのか、ああ?」
「いや…僕ら、届け物頼まれただけで」
「オイ、神楽。早く渡…」
銀時が急かすと、神楽は門番に向かって手招きをしていた。
「チッチッチッ。おいでワンちゃん、酢昆布あげるヨ」
どうやら響古の"犬"発言に感化されたのだろう。
ペット扱いで門番が怒鳴る前に、銀時は神楽の頭を叩く。
「届け物がくるなんて話きいてねーな。最近は、ただでさえ爆弾テロ警戒して厳戒体制なんだ。帰れ」
「ドッグフードかもしれねーぞ。もらっとけって」
「だから、そんなもん食うか」
冗談交じりに小包みを渡すが、門番はすげなくそれを払う。
それは宙を舞い、頑丈な門を飛び越えて大使館へ入ってしまった。
『あ』
小包みが地面に落ちた瞬間、爆発した。
コンクリートや木の破片が爆風に吹かれて散らばり、頑丈そうな門も曲がって使い物にならなくなった。
五人は案外冷静だったり、驚いたり、心底動揺したりして爆発の一部始終を網膜に焼きつける。
「…なんかよくわかんねーけど、するべきことはよくわかるよ」
しばらくして、銀時が最初に口を開く。
「逃げろォォ!!」
「待てェェ、テロリストォォ!!」
その言葉を合図に一斉に走るが、新八の腕が門番に掴まれた。
咄嗟に銀時の腕を掴む。
銀時は響古の腕を掴む。
最後に彼女は神楽の腕を掴んだ。
「新八ィィ!!てめっ、どーゆうつもりだ。離しやがれっ」
「嫌だ!!一人で捕まるのは!!」
「俺のことは構わず行け…とか言えねーのか、お前」
誰もが犠牲にはなりたくないと腕をがっちりと掴み、そこから抜け出そうと互いの力が拮抗する。
「バカ銀、あたしの腕離しなさいよ!」
「そして、私達に構わず逝って。二人とも」
響古は銀髪の恋人の命を斬り捨て、神楽がさらに続けて言う。
「ふざけんな、お前も道連れだ。響古、墓の下まで一緒っつー約束しただろ!」
「そんな約束してないし!!つーか、ブタ犬が離せばすむことじゃない!犬は犬らしく、さっさと四つん這いになりなさいっ!」
響古は強烈な眼光で睨みながら、容赦ない罵倒を吐く。
「ブタ犬、四つん這い…言われると悪い気もしな…」
最初はぶるぶる震えていた門番だが、それはないと言い切る。
「――ってオイぃぃぃ!!この場合、俺が離す確率一番低いから!!」
ブタ犬って、どんな動物ですか。
そこだけアブノーマルな世界になっています。
先程の爆発音から事態を察して、屈強な天人達が門前に駆けつけてきた。
「ぬわぁぁぁ!!ワン公一杯来たァァ!!」
大騒ぎとなった大使館の横に、未だ座っていた僧侶が初めて口を開く。
「手間のかかる奴らだ」
呆れた様子で錫杖を持って地を蹴ると、僧侶とは思えない身のこなしで颯爽と躍動する。
「ぶっ!!」
「ぼっ!!」
「ばっ!!」
「げう!!」
次々と彼らの頭上を踏みつけて、驚く四人の前に着地する。
「逃げるぞ。銀時、響古」
編み笠を取った僧侶の顔に、銀時は目を見開いた。
「おまっ…ヅラ小太郎か!?」
次の瞬間、盛大に名前を間違われた僧侶――桂の拳が銀時の顎を勢いよく打った。
「ヅラじゃない、桂だァァ!!」
「ぶふォ!!」
アッパーカットが直撃した銀時は顎をさすりながら訴える。
「てっ…てめ、久しぶりに会ったのにアッパーカットはないんじゃないの!?」
「そのニックネームで呼ぶのは止めろと、何度も言ったはずだ!!」
男達が言い合う一方、初対面の新八と神楽は怪訝そうに様子を窺う。
「ヅラ!どうしてここ…」
ようやく事態を把握できたらしい、驚きのあまり硬直していた響古は桂に抱きしめられる。
「ああああ!!てめっ…何してやがる!!」
自分以外との異性との接触に激怒する銀時。
「響古…今までどこにいたんだ」
それを無視して桂が訊ねると、響古は困ったように笑った。
「……ごめん。心配かけて」
「いい加減、離れろ!つーか、お前、なんでこんな所に…」
そう言い終わる前に、桂の踏みつけから回復した門番が数体、起き上がる。
そして、ヒートアップする銀時達へと殺到した。
「話は後だ、銀時、行くぞ!!」
「え――きゃあ!」
桂は抱きしめていた響古を横抱きにして走る。
「ヅラ、いいよ!一人で走れるから!」
抱き寄せた腕の中であたふたと動揺し、頬を赤くする。
色々な意味で納得がいかない。
しかし、詮索している暇はない。
「チッ」
銀時はさも不愉快だと言わんばかりの態度で舌打ちし、逃げることを優先して走り始めた。
一目散に駆け抜ける銀時達の後ろから、
「まて、コラァァ」
門番が猛然と迫ってくる。
その逃走の様子を、建物の上から眺めている人影があった。
影は煙草を吹かしながら双眼鏡を下ろす。
「とうとう尻尾出しやがった。山崎、何としても奴らの拠点おさえてこい」
「はいよっ」
山崎と呼ばれた男が返事をして部屋から出ていった後、男は紫煙を吐き出すと、持っていた紙に目を落とす。
そこには指名手配として桂の写真が載っていた。
「天人との戦 で活躍した英雄も、天人様様の今の世の中じゃ、ただの反落分子か。この御時世に天人追い払おうなんざ、たいした夢想家だよ」
男は紙を丸めると、なんとも面白いアイマスクをつけて寝る青年の頭に投げる。
「オイ、沖田起きろ。お前、よくあの爆音の中、寝てられるな」
沖田と呼ばれた青年は起き上がると、アイマスクを取った。
「爆音って…またテロ防げなかったんですかィ?何やってんだィ、土方さん。真面目に働けよ」
「もう一回眠るか、コラ」
不機嫌な声を出した男――土方は腰に提げていた刀を鞘から抜くと、不適な笑みを浮かべた。
「天人の館がいくらフッ飛ぼうが、しったこっちゃねェよ。連中泳がして、雁首 揃ったところをまとめて叩き斬ってやる。真選組の晴れ舞台だぜ、楽しい喧嘩になりそうだ」
それから数時間後。
桂に案内されるがままに向かった先は高級ホテル『IKEDAYA』だった。
そして四人は桂が予約した一室に避難、備えつけのテレビからは早速、テロの情報が流れる。
《――に続き、今回卑劣なテロに狙われた戌威星大使館。幸い死傷者は出ていませんが…え…あっ、新しい情報が入りました。監視カメラにテロリストと思われる一味が映っているとの…あ~~、バッチリ映ってますね~~》
アナウンサーの実況と共に冷静な表情の銀時と響古、眼鏡がずれて驚きまくる新八、口を開けて驚く神楽の姿が映し出される。
「バッチリ映っちゃってますよ。どーしよ、姉上に殺される」
「テレビ出演。実家に電話しなきゃ」
新八は顔を青ざめ、神楽は故郷の実家に電話しようとする。
テレビに釘付けになる後ろで、響古の膝に銀時が寝転び、くつろいでいる。
「何かの陰謀ですかね、こりゃ。なんで僕らがこんな目に」
不意に新八が訊ねてきた。
明らかに困惑し、不安そうに訴える。
「唯一、桂さんに会えたのが不幸中の幸いでしたよ。こんな状態の僕ら、かくまってくれるなんて、銀さんと響古さんの知り合いなんですよね。一体どーゆー人なんですか?」
「「んー。テロリスト」」
「はィ!?」
声を揃えた二人の言葉を理解できず、新八は素っ頓狂な声をあげる。
「そんな言い方はよせ」
心外な言われように、ひそかに憤慨する。
襖が開き、桂と共に大勢の男達が入ってきた。
「この国を汚す害虫"天人"を討ち払い、もう一度、侍の国を立て直す。我々が行うは国を護るための攘夷だ、卑劣なテロなどと一緒にするな」
「攘夷志士だって!?」
「なんじゃそらヨ」
驚愕する新八に、神楽が煎餅をバリバリ食べる。
「攘夷とは二十年前の天人襲来の時に起きた、外来人を排そうとする思想で、高圧的に迫ってきた天人に危機を感じた侍は、彼らを江戸から追い払おうと一斉蜂起 して戦ったんだ」
江戸に舞い降りた"天人"を討滅するため、侍達は刀を掲げて戦場に赴いた。
「でも天人の強大な力を見て弱腰になっていた幕府は、侍達を置き去りに、勝手に天人と不平等な条約を締結。幕府の中枢 を握った天人は、侍達から刀を奪い彼等を無力化したんだ」
だが、奮起する侍とは裏腹に天人の強大な力に怯え、弱腰になっていた幕府は不平等条約を締結。
結果、天人は幕府に対して従属に近い地位を強制した。
その後、攻城砲による砲弾が叩き込まれて江戸城は半壊し、幕府の体制はもはや成す術はない。
「その後、主 だった攘夷志士は大量粛清されたってきいたけど…まだ、残ってたなんて」
すると、黙って控えていた二人が表情を引き締めた。
「…どうやら、俺達ァ、踊らされたらしいな」
「そうでしょ。ねェ、飛脚のお兄さん」
二人の視線の先に、浪士達に混じって申し訳なさそうに頭を掻く――飛脚の男がいた。
「あっ、ホントネ。あのゲジゲジ眉デジャヴ」
「ちょっ…どーゆー事っスか、ゲジゲジさん!!」
銀時と響古は厳しい眼差しで桂を見据える。
「全部てめーの仕業か、桂」
「最近、世を騒がすテロも今回のことも」
二人の視線を受けて、桂は静かに口を開く。
「たとえ汚い手を使おうとも手に入れたいものがあったのさ」
対等の相手へ問いかける革命家の風格で、持っていた刀を前へ差し出した。
「……銀時、響古。この腐った世の中を立て直すため、再び俺と共に剣をとらんか。白夜叉、紅天女と恐れられたお前達の力、再び貸してくれ」
のんびりとくつろいでいると、突然銀時が立ち上がり、瞳孔開き気味で宣言する。
「俺が以前から買い溜めていた、大量のチョコが消えた。食べた奴は正直に手を挙げろ。今なら3/4殺しで許してやる」
その宣言に茶を飲みながら新八が厳しく言い、湯飲みに茶を注ぎながら、響古が冷静に指摘する。
「3/4って、ほとんど死んでんじゃないスか。っていうかアンタ、いい加減にしないと、ホント糖尿になりますよ」
「そーよ。それに、瞳孔開いてそんなこと言ったって、手ェ挙げる人いないわよ」
二人が溜め息と共に言うのを、神楽はすぐ隣で拝聴していた。
「またも狙われた大使館、連続爆破テロ凶行続く…」
三人はだらだらと鼻血を垂らしながら、新聞を読み上げる少女を凝視する。
「物騒な世の中アルな~。私恐いヨ、パピー、マミー」
「恐いのはオメーだよ。幸せそーに鼻血たらしなくやがって。うまかったか、俺のチョコは?」
銀時はすぐさま容疑者の頬を掴み、厳しく問いつめる。
「チョコ食べて鼻血なんて、そんなベタな~」
「とぼけんなァァ!!鼻血から糖分の匂いがプンプンすんぞ!!」
「キモいわよ、それ」
「バカ言うな。ちょっと鼻クソ深追いしただけヨ」
「年頃の娘がそんなに深追いするわけねーだろ、定年間際の
「
今にも殴りかかろうと拳を握る銀時を新八がなだめ、神楽は響古に抱きつく。
次の瞬間、ズンという音と共に強烈な震動と衝撃が襲ってきて、四人の身体がぐらつく。
「なんなんだ、オイ」
「事故ね…」
何事かと玄関を出て視線を落とすと、一階のスナックに原付が突っ込んでいた。
第五訓
ジジイになっても あだ名で呼び合える友達を作れ
下の方からがやがやと物音が聞こえ、人だかりができていた。
原付が衝突したせいでガラスや外装が破損したスナックで、怒声が響き渡る。
「くらあああああ!!」
お登勢が原付を運転していた男の襟首を掴んで激しく揺さぶっていた。
「ワレェェェェェ!!人の店に何してくれとんじゃァァ!!死ぬ覚悟できてんだろーな!!」
「ス…スンマセン。昨日から、あんまり寝てなかったもんで」
「よっしゃ!!今、永遠に眠らしたらァァ!!」
「お登勢さん、怪我人相手にそんな!!」
握った拳を振り下ろそうとするお登勢に、新八が慌てて止めに入る。
「…ずいぶん派手にやったわね。神楽、救急車呼んで」
すると、神楽は口許に手を当てて天を振り仰ぎながら叫ぶ。
「救急車ャャアアア!!」
「誰がそんな呼び方しろっつったよ」
銀時は冷静につっこむと、周囲に散乱していた手紙を一枚拾う。
「飛脚か、アンタ。届け物エライことになってるぞ」
「こ…これ…これを…俺の代わりに、届けてください……お願い」
そう言って、一つの小包みを差し出してきた。
「なんか大事な届け物らしくて、届け損なったら、俺…クビになっちゃうかも。お願いしまっ…」
飛脚は息も絶え絶えに言葉を紡ぐが、途中で力尽き、気絶した。
「おいっ!!」
呼び止める間もなく意識を失っている。
銀時は小包みを持ち、響古達と顔を見合わせる。
頼まれた届け物を渡すため、四人は
「ここであってんだよな」
「うん」
小包みの宛先を確認して神楽が相槌を打つ。
区画丸ごとを覆う塀と、その中央につけられた大きな門。
これが大使館の概観である。
「大使館…これ、戌威星の大使館ですよ」
門の前には四人の他に、編み笠を被った僧侶が座っている。
正面の立派な建物を見上げ、新八は目を見張る。
この地に構えられた自国の大使を駐在させて公務を執行する施設……通称大使館である。
「戌威星っていったら、地球に最初に来た天人ですよね」
中でもこの、戌威星という名の天人は、江戸城に大砲を撃ち放って無理矢理開国させた異邦人だった。
「ああ。江戸城に大砲、ブチ込んで無理矢理開国しちまった、おっかねー奴らだよ」
「嫌なトコ来ちゃったわねェ」
「オイ」
近寄りがたい場所で声をかけたのは、門番である犬の天人だった。
「おっ、姉ちゃん美人だな~。どうだ?俺と食事でもいかねーか?」
「は?なんであたしが、ドッグフードが主食で手も使わずに食べる犬と食事しなきゃいけないの?アンタみたいな犬は、雑巾に染み込んだ牛乳をチューチュー吸えばいいのよ」
響古は鋭い視線で、さらっと罵倒する。
あまりの言われように、少しだけショックを受けている門番。
いや、少しのようでかなりショックを受けている。
地味に涙目だし。
「そっ、そこまで言うか?」
響古に泣かされた門番は気にしてないふりで脅す。
「つーか、こんな所で何やってんだ、てめーら。食われてーのか、ああ?」
「いや…僕ら、届け物頼まれただけで」
「オイ、神楽。早く渡…」
銀時が急かすと、神楽は門番に向かって手招きをしていた。
「チッチッチッ。おいでワンちゃん、酢昆布あげるヨ」
どうやら響古の"犬"発言に感化されたのだろう。
ペット扱いで門番が怒鳴る前に、銀時は神楽の頭を叩く。
「届け物がくるなんて話きいてねーな。最近は、ただでさえ爆弾テロ警戒して厳戒体制なんだ。帰れ」
「ドッグフードかもしれねーぞ。もらっとけって」
「だから、そんなもん食うか」
冗談交じりに小包みを渡すが、門番はすげなくそれを払う。
それは宙を舞い、頑丈な門を飛び越えて大使館へ入ってしまった。
『あ』
小包みが地面に落ちた瞬間、爆発した。
コンクリートや木の破片が爆風に吹かれて散らばり、頑丈そうな門も曲がって使い物にならなくなった。
五人は案外冷静だったり、驚いたり、心底動揺したりして爆発の一部始終を網膜に焼きつける。
「…なんかよくわかんねーけど、するべきことはよくわかるよ」
しばらくして、銀時が最初に口を開く。
「逃げろォォ!!」
「待てェェ、テロリストォォ!!」
その言葉を合図に一斉に走るが、新八の腕が門番に掴まれた。
咄嗟に銀時の腕を掴む。
銀時は響古の腕を掴む。
最後に彼女は神楽の腕を掴んだ。
「新八ィィ!!てめっ、どーゆうつもりだ。離しやがれっ」
「嫌だ!!一人で捕まるのは!!」
「俺のことは構わず行け…とか言えねーのか、お前」
誰もが犠牲にはなりたくないと腕をがっちりと掴み、そこから抜け出そうと互いの力が拮抗する。
「バカ銀、あたしの腕離しなさいよ!」
「そして、私達に構わず逝って。二人とも」
響古は銀髪の恋人の命を斬り捨て、神楽がさらに続けて言う。
「ふざけんな、お前も道連れだ。響古、墓の下まで一緒っつー約束しただろ!」
「そんな約束してないし!!つーか、ブタ犬が離せばすむことじゃない!犬は犬らしく、さっさと四つん這いになりなさいっ!」
響古は強烈な眼光で睨みながら、容赦ない罵倒を吐く。
「ブタ犬、四つん這い…言われると悪い気もしな…」
最初はぶるぶる震えていた門番だが、それはないと言い切る。
「――ってオイぃぃぃ!!この場合、俺が離す確率一番低いから!!」
ブタ犬って、どんな動物ですか。
そこだけアブノーマルな世界になっています。
先程の爆発音から事態を察して、屈強な天人達が門前に駆けつけてきた。
「ぬわぁぁぁ!!ワン公一杯来たァァ!!」
大騒ぎとなった大使館の横に、未だ座っていた僧侶が初めて口を開く。
「手間のかかる奴らだ」
呆れた様子で錫杖を持って地を蹴ると、僧侶とは思えない身のこなしで颯爽と躍動する。
「ぶっ!!」
「ぼっ!!」
「ばっ!!」
「げう!!」
次々と彼らの頭上を踏みつけて、驚く四人の前に着地する。
「逃げるぞ。銀時、響古」
編み笠を取った僧侶の顔に、銀時は目を見開いた。
「おまっ…ヅラ小太郎か!?」
次の瞬間、盛大に名前を間違われた僧侶――桂の拳が銀時の顎を勢いよく打った。
「ヅラじゃない、桂だァァ!!」
「ぶふォ!!」
アッパーカットが直撃した銀時は顎をさすりながら訴える。
「てっ…てめ、久しぶりに会ったのにアッパーカットはないんじゃないの!?」
「そのニックネームで呼ぶのは止めろと、何度も言ったはずだ!!」
男達が言い合う一方、初対面の新八と神楽は怪訝そうに様子を窺う。
「ヅラ!どうしてここ…」
ようやく事態を把握できたらしい、驚きのあまり硬直していた響古は桂に抱きしめられる。
「ああああ!!てめっ…何してやがる!!」
自分以外との異性との接触に激怒する銀時。
「響古…今までどこにいたんだ」
それを無視して桂が訊ねると、響古は困ったように笑った。
「……ごめん。心配かけて」
「いい加減、離れろ!つーか、お前、なんでこんな所に…」
そう言い終わる前に、桂の踏みつけから回復した門番が数体、起き上がる。
そして、ヒートアップする銀時達へと殺到した。
「話は後だ、銀時、行くぞ!!」
「え――きゃあ!」
桂は抱きしめていた響古を横抱きにして走る。
「ヅラ、いいよ!一人で走れるから!」
抱き寄せた腕の中であたふたと動揺し、頬を赤くする。
色々な意味で納得がいかない。
しかし、詮索している暇はない。
「チッ」
銀時はさも不愉快だと言わんばかりの態度で舌打ちし、逃げることを優先して走り始めた。
一目散に駆け抜ける銀時達の後ろから、
「まて、コラァァ」
門番が猛然と迫ってくる。
その逃走の様子を、建物の上から眺めている人影があった。
影は煙草を吹かしながら双眼鏡を下ろす。
「とうとう尻尾出しやがった。山崎、何としても奴らの拠点おさえてこい」
「はいよっ」
山崎と呼ばれた男が返事をして部屋から出ていった後、男は紫煙を吐き出すと、持っていた紙に目を落とす。
そこには指名手配として桂の写真が載っていた。
「天人との
男は紙を丸めると、なんとも面白いアイマスクをつけて寝る青年の頭に投げる。
「オイ、沖田起きろ。お前、よくあの爆音の中、寝てられるな」
沖田と呼ばれた青年は起き上がると、アイマスクを取った。
「爆音って…またテロ防げなかったんですかィ?何やってんだィ、土方さん。真面目に働けよ」
「もう一回眠るか、コラ」
不機嫌な声を出した男――土方は腰に提げていた刀を鞘から抜くと、不適な笑みを浮かべた。
「天人の館がいくらフッ飛ぼうが、しったこっちゃねェよ。連中泳がして、
それから数時間後。
桂に案内されるがままに向かった先は高級ホテル『IKEDAYA』だった。
そして四人は桂が予約した一室に避難、備えつけのテレビからは早速、テロの情報が流れる。
《――に続き、今回卑劣なテロに狙われた戌威星大使館。幸い死傷者は出ていませんが…え…あっ、新しい情報が入りました。監視カメラにテロリストと思われる一味が映っているとの…あ~~、バッチリ映ってますね~~》
アナウンサーの実況と共に冷静な表情の銀時と響古、眼鏡がずれて驚きまくる新八、口を開けて驚く神楽の姿が映し出される。
「バッチリ映っちゃってますよ。どーしよ、姉上に殺される」
「テレビ出演。実家に電話しなきゃ」
新八は顔を青ざめ、神楽は故郷の実家に電話しようとする。
テレビに釘付けになる後ろで、響古の膝に銀時が寝転び、くつろいでいる。
「何かの陰謀ですかね、こりゃ。なんで僕らがこんな目に」
不意に新八が訊ねてきた。
明らかに困惑し、不安そうに訴える。
「唯一、桂さんに会えたのが不幸中の幸いでしたよ。こんな状態の僕ら、かくまってくれるなんて、銀さんと響古さんの知り合いなんですよね。一体どーゆー人なんですか?」
「「んー。テロリスト」」
「はィ!?」
声を揃えた二人の言葉を理解できず、新八は素っ頓狂な声をあげる。
「そんな言い方はよせ」
心外な言われように、ひそかに憤慨する。
襖が開き、桂と共に大勢の男達が入ってきた。
「この国を汚す害虫"天人"を討ち払い、もう一度、侍の国を立て直す。我々が行うは国を護るための攘夷だ、卑劣なテロなどと一緒にするな」
「攘夷志士だって!?」
「なんじゃそらヨ」
驚愕する新八に、神楽が煎餅をバリバリ食べる。
「攘夷とは二十年前の天人襲来の時に起きた、外来人を排そうとする思想で、高圧的に迫ってきた天人に危機を感じた侍は、彼らを江戸から追い払おうと一斉
江戸に舞い降りた"天人"を討滅するため、侍達は刀を掲げて戦場に赴いた。
「でも天人の強大な力を見て弱腰になっていた幕府は、侍達を置き去りに、勝手に天人と不平等な条約を締結。幕府の
だが、奮起する侍とは裏腹に天人の強大な力に怯え、弱腰になっていた幕府は不平等条約を締結。
結果、天人は幕府に対して従属に近い地位を強制した。
その後、攻城砲による砲弾が叩き込まれて江戸城は半壊し、幕府の体制はもはや成す術はない。
「その後、
すると、黙って控えていた二人が表情を引き締めた。
「…どうやら、俺達ァ、踊らされたらしいな」
「そうでしょ。ねェ、飛脚のお兄さん」
二人の視線の先に、浪士達に混じって申し訳なさそうに頭を掻く――飛脚の男がいた。
「あっ、ホントネ。あのゲジゲジ眉デジャヴ」
「ちょっ…どーゆー事っスか、ゲジゲジさん!!」
銀時と響古は厳しい眼差しで桂を見据える。
「全部てめーの仕業か、桂」
「最近、世を騒がすテロも今回のことも」
二人の視線を受けて、桂は静かに口を開く。
「たとえ汚い手を使おうとも手に入れたいものがあったのさ」
対等の相手へ問いかける革命家の風格で、持っていた刀を前へ差し出した。
「……銀時、響古。この腐った世の中を立て直すため、再び俺と共に剣をとらんか。白夜叉、紅天女と恐れられたお前達の力、再び貸してくれ」