第八十七訓
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
その日、原付の修理が終わったと聞いて銀時と響古はある場所にやって来た。
内部構造が剥き出しになっていて、修理するのもお手上げ状態にもかかわらず、すっかり元通りになっている。
「おうおう、キレイに直ってるじゃねーか。ほとんど全壊してんのに、スゲーな、オイ」
「買うより直す方が安いもんね。まあ、どっちにしても高いけど」
そこは、テロリストとして指名手配されている源外が隠れ住む庵――通称『からくり堂』。
以前、大破してしまった銀時の原付は修理され、見事な腕前に二人は感嘆の声をあげた。
(詳しくは第八十一訓を読んでね)
見事な腕前に惚れ惚れしていると、源外は満更でもなさそうに言う。
「あったりめーよ。俺を誰だと思ってんだ」
「指名手配犯」
銀時は臆せず、堂々と告げる。
「お前は、人の傷口ほじくって楽しいか?」
「冗談だよ~ホラァ、バイクの傷口ほじくってくれた、お礼にさァ、俺もアンタの傷口を…」
「ほじらんでええわい!」
高杉に焚きつけられたとはいえ、将軍暗殺を計画した源外。
触れられたくない過去をほじくる銀時は間違いなくSである。
「ごめんなさい、源外さん。銀もあたしと同じようにSだから」
すると、響古が銀髪の恋人の発言に苦笑して謝る。
謝っているつもりなのだが、いまいち説得力に欠けるところだ。
「いやいや、アリガトよ、じーさん。さすが江戸一番のからくり技師、平賀源外だ」
銀時はヘルメットを被って帰る準備を始め、響古も自分の原付に乗る。
「わかりゃいいんだよ。で、金のことなんだが」
「またなんかあったら、よろしくメガドッグな」
「いや、金のことなんだがな。お嬢、コイツの代わりに金払ってくれ」
銀時の代わりに修理代を払ってくれと言われ、響古は美貌を歪めた。
「冗談じゃありませんよ!あたしにそんなお金ありません」
まさか代金も払わずに帰るんじゃないだろうな…と危惧する。
嫌な考えが頭を過ぎるが、最悪なことに予想通りの結果だった。
「じゃーな」
「いや、金…」
唖然とする源外を置き去りに、二人は原付を運転して去っていく。
「……」
すると、彼は取り出したボタンを無表情で押した。
途端、銀時の乗る原付の後輪が外れる。
「ん」
「ワォ」
最初はなんの音だと後ろを見て……まっすぐ運転できなくなりパニックに陥る。
「うごぉぉぉぉぉ!!ジジー、てめっ、細工してやがったな!」
「フン…金の切れ目が縁の切れ目だ。あばよ」
こっそり細工をしていた源外のつぶやきに言い返す余裕もない。
後輪が外れた状態で運転する銀時は完全にパニック、猛スピードで邁進する。
「おわわわわ!!」
「銀、ブレーキ!ブレーキ!」
その時、長屋の影からジャージを着た女性が運転する原付が現れた。
マズイと思った二人は目を見開き、一瞬遅れて女性も気づく。
ブレーキも間に合わず、二台は衝突してしまう。
「うわァァァァァァァァァァ!!」
銀時の絶叫と激しい衝突音で、源外は何事かと振り返る。
ぶつかったせいで銀時は道路に投げ出され、巻き込まれた響古も顔をしかめていた。
「いでで」
「いった~」
衝突してしまったものの、ひどい怪我はなく原付から転んだ痛みのみ。
源外は急いで駆け寄ると、銀時の頭を叩く。
「オメー、一般人に迷惑かける奴があるかァ!!」
「アンタが、車輪に細工なんかしなきゃ、こんな事にならなかったんだよ、クソジジー!!」
「ちょっと、大丈夫!?」
響古は女性の身体を揺さぶり、源外も声をかける。
「しっかりしろ、ネーちゃん、オイ!!」
「大丈夫です。ちょっと転んだだけなので…」
起き上がった彼女の額からは血が溢れていた。
「大丈夫ですって、血だらけだぞオイ、動くな!」
「いや、ホント大丈夫です。私、ホントちょっといかなきゃダメなんで」
気丈に言ってハンドルを握る……が、車体は煙をあげて割れ朽ちている。
「どこへ!?無理無理!違う所いっちまうぞ!!」
「よく見なさいよ。車体とハンドルが分裂してるわ」
響古が半眼でつっこみ、源外も大声をあげてつっこむ。
突如、女性は胸を押さえて苦しみ出した。
「!!うごっ…苦し」
「なっ!?なんなの、いきなり!」
「オィぃ!!しっかりしろ!」
慌てて抱きかかえると、女性は顔面蒼白になり、息も絶え絶えに言葉を紡ぐ。
「バ…バイク。早く、私をバイクに。私…走り続けないと…風を感じないと…死んじゃうん…」
青臭い走り屋のような言葉を最後に、女性は倒れた。
「…なんだ、コイツ?」
「…風?」
まるで意味がわからず、困惑するように首を傾げる二人であった。
破損した原付を修理する源外は、女性の免許証に目を通す。
「魔破 のり子、快速星出身。職業、飛脚か……噂にきいたことがあったが、こんな厄介な種族がホントにいたとはなァ」
彼女――のり子は天人で、種族としてはかなり珍しい部類だ。
包帯を額に巻き、絆創膏を貼ったのり子が訂正する。
「そんな言い方、やめてください。私達は風の精霊とも呼ばれる由緒正しき、風の民なんです」
風と共に生きる快速聖の出身で、その身に風を浴びないと発作を起こし吐血してしまうという、かなり特殊な種族であった。
「いつも、風をまとってないと身を保てない、繊細な、ホントッ、もうほとんど妖精みたいな可憐な種族なんです」
「快速星……きいたことあるわ。物凄い速さで移動しないと死んでしまう種族よね、確か」
捕捉するように言い足した響古は、改めてのり子の免許証をまじまじと見る。
これを聞いた銀時は、皮肉っぽくコメントした。
「いやいや、そーいうロマンチックなのは、もういいからよ。要するに何?いつも走ってないとダメってこと?常に泳いでねーと死んじまう、サメみたいな連中ってこと?」
「いえ、バイクとか、とにかく風を浴びれる乗り物に乗っていればなんとか…自分の足で走るのは…あの、タルいんで」
「じゃあ、自分 で走れや!なんで俺が、バイク役やんなきゃいけねーの!?」
風を感じ続けないと死んでしまう、ロマンティックかつ面倒な体質の彼女は今、銀時の背中の上にいた。
仕方なくのり子をおぶってその場を走り回っていたが、スピードを上げろと言ってくる。
「くっ、苦しい。スイマセン、もうちょっとスピードを…」
「誰が一番苦しいと思ってんだ!!」
荒い息を吐いてぐるぐると走り回る銀髪の恋人を、響古は激励する。
「銀、大変ね。でも頑張って」
「無理!もう無理!響古、ちょっと代わって!」
いい加減疲れてきた銀時は交代を求めるが、黒髪の恋人はニッコリと笑って告げる。
「嫌」
すると、源外からものり子をおぶってやれと告げてくる。
「手負いの女を走らせる訳にはいかねーだろ、しばらく足になってやれ。もうちょっとでバイクも直るからよ」
「てめーはガチャガチャやってるだけだからいいけどよォ」
原付の修理をする源外に、銀時は不満をぶつける。
「ごめんなさい、迷惑おかけして、あの…私、なにもできないから『サライ』歌います!」
「24時間走れってか!?」
チャリティー番組でタレントや芸人が24時間で走り、エンディングで歌われる有名な歌。
歌のチョイスにつっこむと、響古もマラソンのゴール直前に出演者で合唱する歌を歌おうとする。
「だったら、あたしは『負けないで』を歌うわ」
「歌わんでいい!」
のり子はおそるおそる、自分のバイクを直してくれるよう頼む。
「あのォ…そのオンボロバイクは後にして、先に私のバイクを直してくれませんか。私、仕事が…」
「オイ、オンボロってなんだよ」
「オメーのバイクは大破しちまって、直すのに時間がかかる。代わりにコイツ乗ってけ」
「オイ、代わりにってなんだよ、それ。俺のなんですけど」
自分を無視して話が進み、こめかみが痙攣する。
「銀、ちっちゃいことは気にしないの。ワカチコ、ワカチコ」
「いや、全然ちっちゃくないし。それ、芸人のセリフだろ」
ひとまず原付の修理が終わったらしく、源外はのり子に訊ねた。
「だが、オメー、その怪我でバイクになんて乗れるのかィ?」
「乗れます。郵便受けの向こうで、私を待ってくれる人達がいるんです」
すると、のり子は目を伏せ、悔しさから唇を噛む。
「それに、私実はこれが地球 での初仕事なんです。こんな私じゃ、まともに働ける所がなくて、あちこちの星を回って、もう、私にはここしかないんです。失敗なんかできないんです」
風を感じ続けないと死んでしまう、面倒な体質の彼女には働く場所が限られる。
そして、いつしか宇宙一の飛脚になるため江戸を訪れたのだ。
「負けられない。私、絶対負けられないんです。宇宙一の飛脚になるって、もう心に決めたんです、下ろしてください!私は、こんなところでモタモタしてる暇はないんです!」
語る内に熱くなってしまったのり子は下ろせと言い出した。
「オメーがおぶってくれって言ったんだろーが」
「あなた達みたいな暇人につきあってる暇なんてないんです!早く下ろしてって言ってん…」
あまりにもヒートアップしてしまったのか、耳元で大声をあげられ、うるさくて仕方ない。
ここは彼女に頼るべきか。
銀時は目で助けを請う。
響古は頷いた後、銀時に言った。
「銀、下ろして」
「はいよ」
彼女に言われた通り、のり子を下ろす。
「うがァァァァ!!」
直後、発作を起こして苦しむ様子を、響古はニヤニヤと見つめた。
そんな悪魔的な微笑みを、銀時は恐ろしいものを見るような目で見ていた。
飛脚の手伝いをすることになった銀時と響古。
修理した原付には銀時が運転し、後ろには響古とのり子が乗っていた。
「すいません。仕事の手伝いまでさせる事になって」
「もう、いいよ。元はといえば、俺の責任だしな」
「でも、銀のスクーターにあたしが乗って運転すれば、それでよかったんじゃないの」
「お前だけにしたら心配なんだよ」
それは確実に来ると予想された質問だったので、銀時の方も答えを用意してあった。
「で、どっから回れりゃいいんだ?パッパッと回って、さっさと終わらせようぜ」
そう言って後ろへ流し目を送ると、
「フォォォォォォ」
彼女は立ち上がり、両腕をあげて叫んでいた。
「ああああああ、風が気持ちいいィィィ!!止めてみろォォ!誰か私を止めてみろォォォ!!」
「……オイ、きいてんのか?」
「危ないっつーの」
次の瞬間、街路樹の枝に顎を強打、勢いよく血が噴き出すのり子は後ろに倒れて原付から落ちてしまう。
「何してんだァァ、お前ェェ!!」
「うがァァァァ!!苦しいィィ!!」
「ああ、もう、何やってんのよ!」
悶え苦しむのり子の異変に気づいた二人は焦ったふうに呼びかける。
「バカだろ、お前バカだろ!早く乗れ、こっちだ!」
そうして原付に跨った途端、信号が赤になる。
『あ』
次の瞬間、のり子が噴水のように血を吐く。
「ギャアアアアア!!止まらないで!!止まらないで!!」
「これは無理、これは無理だ。しばらく我慢しろ、スグだから」
「スグだからって…ぐはァ!!もっ…もうダメェェ!!我慢できません!!」
交通ルールのためにと言い聞かすが、のり子はガタガタと震えながら滂沱と涙を流す。
すると、身を乗り出して強引にアクセルを握った。
「あっ、バカ、お前ェェ!!」
未だ信号は赤。
それにもかかわらず急発進する原付の前を、トラックが横切る。
『ギャアアアアア!!』
あわや激突すると思われた、その直後。
原付は荷台に積まれた藁 に突入。
そして――そのまま突き抜けた。
心臓が浮き上がるような感覚。
髪が風圧で舞い上がり、まるで空を飛んでいるような気分に大興奮。
「キャアアアア、坂田さん、篠木さん、スゴイですゥ!!風!!わたしたち、風になってます!!」
「なるほど!!風を感じるって、こ-ゆーことなのねェェェ!!」
キャーキャーはしゃぐ女性達とは対照的に、銀時は恐怖に顔を強張らせる。
「ちょっ、ダメ、もうタンマ!一旦タンマ!下りるわ!俺もう下ります!!認識が甘かった!!」
先程の衝撃でヘルメットが飛んで、ノーヘルとなっている。
早くも飛脚の手伝いを受けたことを後悔していると、後ろから叱責が飛ぶ。
「何言ってんですか!!まだ一軒も配達してないじゃないですかァ!!」
「そーよ!一度やるって決めたら、最後まで走り切ろうじゃないの!」
「一軒も、配達してないのに既にこんな目に遭ってるから言ってるんだろ―が!!こんなもんアレだよ、入学式でいきなり先生に『みなさんには殺し合いをしてもらいます』と言われてるようなもんだよ!!」
(バトルロワイアルみたいなもん?by.響古)
その衝撃的な内容が物議を醸し、中学生が孤島で殺し合いをさせられる物語。
内部構造が剥き出しになっていて、修理するのもお手上げ状態にもかかわらず、すっかり元通りになっている。
「おうおう、キレイに直ってるじゃねーか。ほとんど全壊してんのに、スゲーな、オイ」
「買うより直す方が安いもんね。まあ、どっちにしても高いけど」
そこは、テロリストとして指名手配されている源外が隠れ住む庵――通称『からくり堂』。
以前、大破してしまった銀時の原付は修理され、見事な腕前に二人は感嘆の声をあげた。
(詳しくは第八十一訓を読んでね)
見事な腕前に惚れ惚れしていると、源外は満更でもなさそうに言う。
「あったりめーよ。俺を誰だと思ってんだ」
「指名手配犯」
銀時は臆せず、堂々と告げる。
「お前は、人の傷口ほじくって楽しいか?」
「冗談だよ~ホラァ、バイクの傷口ほじくってくれた、お礼にさァ、俺もアンタの傷口を…」
「ほじらんでええわい!」
高杉に焚きつけられたとはいえ、将軍暗殺を計画した源外。
触れられたくない過去をほじくる銀時は間違いなくSである。
「ごめんなさい、源外さん。銀もあたしと同じようにSだから」
すると、響古が銀髪の恋人の発言に苦笑して謝る。
謝っているつもりなのだが、いまいち説得力に欠けるところだ。
「いやいや、アリガトよ、じーさん。さすが江戸一番のからくり技師、平賀源外だ」
銀時はヘルメットを被って帰る準備を始め、響古も自分の原付に乗る。
「わかりゃいいんだよ。で、金のことなんだが」
「またなんかあったら、よろしくメガドッグな」
「いや、金のことなんだがな。お嬢、コイツの代わりに金払ってくれ」
銀時の代わりに修理代を払ってくれと言われ、響古は美貌を歪めた。
「冗談じゃありませんよ!あたしにそんなお金ありません」
まさか代金も払わずに帰るんじゃないだろうな…と危惧する。
嫌な考えが頭を過ぎるが、最悪なことに予想通りの結果だった。
「じゃーな」
「いや、金…」
唖然とする源外を置き去りに、二人は原付を運転して去っていく。
「……」
すると、彼は取り出したボタンを無表情で押した。
途端、銀時の乗る原付の後輪が外れる。
「ん」
「ワォ」
最初はなんの音だと後ろを見て……まっすぐ運転できなくなりパニックに陥る。
「うごぉぉぉぉぉ!!ジジー、てめっ、細工してやがったな!」
「フン…金の切れ目が縁の切れ目だ。あばよ」
こっそり細工をしていた源外のつぶやきに言い返す余裕もない。
後輪が外れた状態で運転する銀時は完全にパニック、猛スピードで邁進する。
「おわわわわ!!」
「銀、ブレーキ!ブレーキ!」
その時、長屋の影からジャージを着た女性が運転する原付が現れた。
マズイと思った二人は目を見開き、一瞬遅れて女性も気づく。
ブレーキも間に合わず、二台は衝突してしまう。
「うわァァァァァァァァァァ!!」
銀時の絶叫と激しい衝突音で、源外は何事かと振り返る。
ぶつかったせいで銀時は道路に投げ出され、巻き込まれた響古も顔をしかめていた。
「いでで」
「いった~」
衝突してしまったものの、ひどい怪我はなく原付から転んだ痛みのみ。
源外は急いで駆け寄ると、銀時の頭を叩く。
「オメー、一般人に迷惑かける奴があるかァ!!」
「アンタが、車輪に細工なんかしなきゃ、こんな事にならなかったんだよ、クソジジー!!」
「ちょっと、大丈夫!?」
響古は女性の身体を揺さぶり、源外も声をかける。
「しっかりしろ、ネーちゃん、オイ!!」
「大丈夫です。ちょっと転んだだけなので…」
起き上がった彼女の額からは血が溢れていた。
「大丈夫ですって、血だらけだぞオイ、動くな!」
「いや、ホント大丈夫です。私、ホントちょっといかなきゃダメなんで」
気丈に言ってハンドルを握る……が、車体は煙をあげて割れ朽ちている。
「どこへ!?無理無理!違う所いっちまうぞ!!」
「よく見なさいよ。車体とハンドルが分裂してるわ」
響古が半眼でつっこみ、源外も大声をあげてつっこむ。
突如、女性は胸を押さえて苦しみ出した。
「!!うごっ…苦し」
「なっ!?なんなの、いきなり!」
「オィぃ!!しっかりしろ!」
慌てて抱きかかえると、女性は顔面蒼白になり、息も絶え絶えに言葉を紡ぐ。
「バ…バイク。早く、私をバイクに。私…走り続けないと…風を感じないと…死んじゃうん…」
青臭い走り屋のような言葉を最後に、女性は倒れた。
「…なんだ、コイツ?」
「…風?」
まるで意味がわからず、困惑するように首を傾げる二人であった。
破損した原付を修理する源外は、女性の免許証に目を通す。
「
彼女――のり子は天人で、種族としてはかなり珍しい部類だ。
包帯を額に巻き、絆創膏を貼ったのり子が訂正する。
「そんな言い方、やめてください。私達は風の精霊とも呼ばれる由緒正しき、風の民なんです」
風と共に生きる快速聖の出身で、その身に風を浴びないと発作を起こし吐血してしまうという、かなり特殊な種族であった。
「いつも、風をまとってないと身を保てない、繊細な、ホントッ、もうほとんど妖精みたいな可憐な種族なんです」
「快速星……きいたことあるわ。物凄い速さで移動しないと死んでしまう種族よね、確か」
捕捉するように言い足した響古は、改めてのり子の免許証をまじまじと見る。
これを聞いた銀時は、皮肉っぽくコメントした。
「いやいや、そーいうロマンチックなのは、もういいからよ。要するに何?いつも走ってないとダメってこと?常に泳いでねーと死んじまう、サメみたいな連中ってこと?」
「いえ、バイクとか、とにかく風を浴びれる乗り物に乗っていればなんとか…自分の足で走るのは…あの、タルいんで」
「じゃあ、
風を感じ続けないと死んでしまう、ロマンティックかつ面倒な体質の彼女は今、銀時の背中の上にいた。
仕方なくのり子をおぶってその場を走り回っていたが、スピードを上げろと言ってくる。
「くっ、苦しい。スイマセン、もうちょっとスピードを…」
「誰が一番苦しいと思ってんだ!!」
荒い息を吐いてぐるぐると走り回る銀髪の恋人を、響古は激励する。
「銀、大変ね。でも頑張って」
「無理!もう無理!響古、ちょっと代わって!」
いい加減疲れてきた銀時は交代を求めるが、黒髪の恋人はニッコリと笑って告げる。
「嫌」
すると、源外からものり子をおぶってやれと告げてくる。
「手負いの女を走らせる訳にはいかねーだろ、しばらく足になってやれ。もうちょっとでバイクも直るからよ」
「てめーはガチャガチャやってるだけだからいいけどよォ」
原付の修理をする源外に、銀時は不満をぶつける。
「ごめんなさい、迷惑おかけして、あの…私、なにもできないから『サライ』歌います!」
「24時間走れってか!?」
チャリティー番組でタレントや芸人が24時間で走り、エンディングで歌われる有名な歌。
歌のチョイスにつっこむと、響古もマラソンのゴール直前に出演者で合唱する歌を歌おうとする。
「だったら、あたしは『負けないで』を歌うわ」
「歌わんでいい!」
のり子はおそるおそる、自分のバイクを直してくれるよう頼む。
「あのォ…そのオンボロバイクは後にして、先に私のバイクを直してくれませんか。私、仕事が…」
「オイ、オンボロってなんだよ」
「オメーのバイクは大破しちまって、直すのに時間がかかる。代わりにコイツ乗ってけ」
「オイ、代わりにってなんだよ、それ。俺のなんですけど」
自分を無視して話が進み、こめかみが痙攣する。
「銀、ちっちゃいことは気にしないの。ワカチコ、ワカチコ」
「いや、全然ちっちゃくないし。それ、芸人のセリフだろ」
ひとまず原付の修理が終わったらしく、源外はのり子に訊ねた。
「だが、オメー、その怪我でバイクになんて乗れるのかィ?」
「乗れます。郵便受けの向こうで、私を待ってくれる人達がいるんです」
すると、のり子は目を伏せ、悔しさから唇を噛む。
「それに、私実はこれが
風を感じ続けないと死んでしまう、面倒な体質の彼女には働く場所が限られる。
そして、いつしか宇宙一の飛脚になるため江戸を訪れたのだ。
「負けられない。私、絶対負けられないんです。宇宙一の飛脚になるって、もう心に決めたんです、下ろしてください!私は、こんなところでモタモタしてる暇はないんです!」
語る内に熱くなってしまったのり子は下ろせと言い出した。
「オメーがおぶってくれって言ったんだろーが」
「あなた達みたいな暇人につきあってる暇なんてないんです!早く下ろしてって言ってん…」
あまりにもヒートアップしてしまったのか、耳元で大声をあげられ、うるさくて仕方ない。
ここは彼女に頼るべきか。
銀時は目で助けを請う。
響古は頷いた後、銀時に言った。
「銀、下ろして」
「はいよ」
彼女に言われた通り、のり子を下ろす。
「うがァァァァ!!」
直後、発作を起こして苦しむ様子を、響古はニヤニヤと見つめた。
そんな悪魔的な微笑みを、銀時は恐ろしいものを見るような目で見ていた。
飛脚の手伝いをすることになった銀時と響古。
修理した原付には銀時が運転し、後ろには響古とのり子が乗っていた。
「すいません。仕事の手伝いまでさせる事になって」
「もう、いいよ。元はといえば、俺の責任だしな」
「でも、銀のスクーターにあたしが乗って運転すれば、それでよかったんじゃないの」
「お前だけにしたら心配なんだよ」
それは確実に来ると予想された質問だったので、銀時の方も答えを用意してあった。
「で、どっから回れりゃいいんだ?パッパッと回って、さっさと終わらせようぜ」
そう言って後ろへ流し目を送ると、
「フォォォォォォ」
彼女は立ち上がり、両腕をあげて叫んでいた。
「ああああああ、風が気持ちいいィィィ!!止めてみろォォ!誰か私を止めてみろォォォ!!」
「……オイ、きいてんのか?」
「危ないっつーの」
次の瞬間、街路樹の枝に顎を強打、勢いよく血が噴き出すのり子は後ろに倒れて原付から落ちてしまう。
「何してんだァァ、お前ェェ!!」
「うがァァァァ!!苦しいィィ!!」
「ああ、もう、何やってんのよ!」
悶え苦しむのり子の異変に気づいた二人は焦ったふうに呼びかける。
「バカだろ、お前バカだろ!早く乗れ、こっちだ!」
そうして原付に跨った途端、信号が赤になる。
『あ』
次の瞬間、のり子が噴水のように血を吐く。
「ギャアアアアア!!止まらないで!!止まらないで!!」
「これは無理、これは無理だ。しばらく我慢しろ、スグだから」
「スグだからって…ぐはァ!!もっ…もうダメェェ!!我慢できません!!」
交通ルールのためにと言い聞かすが、のり子はガタガタと震えながら滂沱と涙を流す。
すると、身を乗り出して強引にアクセルを握った。
「あっ、バカ、お前ェェ!!」
未だ信号は赤。
それにもかかわらず急発進する原付の前を、トラックが横切る。
『ギャアアアアア!!』
あわや激突すると思われた、その直後。
原付は荷台に積まれた
そして――そのまま突き抜けた。
心臓が浮き上がるような感覚。
髪が風圧で舞い上がり、まるで空を飛んでいるような気分に大興奮。
「キャアアアア、坂田さん、篠木さん、スゴイですゥ!!風!!わたしたち、風になってます!!」
「なるほど!!風を感じるって、こ-ゆーことなのねェェェ!!」
キャーキャーはしゃぐ女性達とは対照的に、銀時は恐怖に顔を強張らせる。
「ちょっ、ダメ、もうタンマ!一旦タンマ!下りるわ!俺もう下ります!!認識が甘かった!!」
先程の衝撃でヘルメットが飛んで、ノーヘルとなっている。
早くも飛脚の手伝いを受けたことを後悔していると、後ろから叱責が飛ぶ。
「何言ってんですか!!まだ一軒も配達してないじゃないですかァ!!」
「そーよ!一度やるって決めたら、最後まで走り切ろうじゃないの!」
「一軒も、配達してないのに既にこんな目に遭ってるから言ってるんだろ―が!!こんなもんアレだよ、入学式でいきなり先生に『みなさんには殺し合いをしてもらいます』と言われてるようなもんだよ!!」
(バトルロワイアルみたいなもん?by.響古)
その衝撃的な内容が物議を醸し、中学生が孤島で殺し合いをさせられる物語。