第八十三~八十四訓
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アルバイト。
早い話が、お金を稼ぐための労働である。
今の二人――陽太と美月にとってはまさに初体験だ。
行き倒れになった自分達を助けてくれた蓮が経営する茶屋に連れて来られた。
そこまではいい。
そこまでは、正直ちょっとわくわくしていた。
「美月ちゃん!」
「陽太くんこっち来てー!」
来てすぐに放り込まれたのは茶屋の給仕。
二人が一つのテーブルで注文を取り終えると、すぐさま別のテーブルから声がかかる。
距離などお構いなしに大声で呼ぶ。
まさに休む暇もないほど店内を行ったり来たりしている。
「ロリショタには適いませんね…」
「いやだわ、私は響古ちゃんも守備範囲よ」
響古がまぶしそうに双子を見たので、蓮はおっとりと微笑む。
ようやく客の出入りが落ち着き、響古に買い物を頼んでいると、休憩していたはずの陽太と美月が、
「僕達に行かせてください!」
「お願いします!」
と言った。
蓮は頬に手を当て、困った様子を見せる。
「でも、まだ江戸 に来たばかりだし、土地勘はわからないんじゃ……」
「いいんです!」
「お世話になるんですから行かせてください!」
口調も表情も『行かねばならぬ!』という義務感に満ちている。
「うーん……」
双子の押し問答を見ていた響古が手をポンと打ち、提案を出した。
「わかりました。だったら、三人で行きます」
その提案に頷いた蓮の顔は幾分か緩み、三人に買い物を頼んだ。
最近、子供達の間である遊びが流行っている。
場所は空き地。
樽の底を土俵にして、二匹のカブトムシが相撲を取っていた。
「いけっ!」
「そこだ、やれ!!」
白熱するカブトムシ相撲を見守る子供達も興奮気味になる。
「あっ、ヤバイ!ヤバ…あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙!!」
すると、一回り大きなカブトムシが対戦相手を跳ね飛ばした。
「また負けたァ、チキショォォ、完敗だよ!!」
「強 ェェェ!!マジで強くね?よっちゃんの曙X!本物の曙とは大違いだよ!」
子供達は普通よりも大きい昆虫に目を輝かせる。
大型のカブトムシの飼い主・よっちゃんは自慢げに言い放つ。
「ムフフ。お前らの貧相なカブトとは、食べてるものが違うんだよ。ホラ、次は誰だ?曙Xは、いつ何時誰の挑戦でもうけるぞ」
自信満々に言うと、観戦をしていた神楽が手を挙げる。
「ハイ!ハイ!次、私が行くアル」
「おぅ、神楽か。いいぜ~、その生意気な鼻、へし折ってやる」
「私の定春28号だって、お前らの奴とは食べてるものが違うネ。いくぜ、定春28号!!」
勢いよく土俵にのせた昆虫は後ろ足が長く、丸い物体を転がしていた。
たぶん……いや、明らかにカブトムシとは異なる昆虫である。
「食べ物っつーか、種類が違くね?なにコレ」
「フンコロガシ」
(※説明しよう。フンコロガシとは、餌となる動物の糞を丸めて後ろ足で転がす生物なのだ)
「おいイイイ!!食べるもん違うって、それ、ウンコ食う奴じゃねーかよ!」
動物の糞を食べる昆虫から、子供達は慌てて後ずさる。
だが、神楽は素手で鷲掴みにして自慢げに披露する。
「そーだヨ、スゴクね?自給自足じゃね?スゴクね?」
「それを、わし掴みしてるお前がスゲーよ!つーか、どっから拾ってきたんだよ!この島国に、そんなもん生活してんのか!?」
「お前さァ、ルールわかってんの!?これは、カブト虫同士で相撲をとらせる遊びなんだぞ!」
虫相撲のルールを唱えると、皮肉げな口調と共に笑って見せた。
「おやおや。そういう閉鎖的な考えまで、相撲界と酷似しているのですなぁ」
「オメー、どこの世界にクソまみれで土俵にあがってくる力士がいるよ!!もういいよ!帰れお前!」
「オゥオゥ、仲良く遊ばなきゃいけねーよ」
突然届いてきた声に、神楽達は揃って見上げる。
そこにいたのは、私服である袴姿の沖田が屋根に膝をついていた。
「ってことで、俺も混ぜてくれねーかィ?もう隊内じゃ、俺の相手になる奴ァ、いなくなってまってねェ。誰か、こいつと闘 り合わねーかいィ?俺のサド丸21号と」
不敵に微笑み、ドS皇子がカブトムシ相撲に挑戦する。
第八十三訓
少年はカブト虫を通し生命 の尊さを知る
買い物の帰り道、響古は隣を歩く双子に微笑みかける。
「今まではあたし一人で大変だったけど、あなた達が来てくれて助かるわ。ありがとね」
最近、雇ったばかりの双子――明るい性格の美月は顔を緩めて、気合いばっちりで答えた。
「お役に立てて嬉しいです!」
「いいえ」
対照的に、陽太は相変わらず表情が乏しいが、誉められるとやっぱり嬉しいらしく、照れたようにうつむいた。
美月の可愛らしい笑顔と陽太の初々しい反応に、響古はたまらず抱きしめたい衝動に駆られる。
「なんて可愛いの~~~!!美月の愛らしい笑顔も勿論いいけど、陽太の照れた表情、メニアック~~~!!」
「「ひゃあっ!」」
響古に抱き寄せられ、陽太と美月は声をあげた。
浴衣の大きく開いた胸元から覗く谷間。
そこに顔を押しつけられた二人は、あまりの驚きやら興奮やらでわけがわからなくなった。
頭に血が上って死にそうになる。
――や、や、柔らかい……。
「……うん?あなた達……結構いい体してるのね」
抱きしめる腕にぎゅぅっと力を増し、さわさわと二人の背中、腕、腰を撫で回す。
「「ひゃ、ひゃひゃひゃ……」」
双子は響古にいじくられ、その幼い身体をくねらせる。
川岸に定春28号の墓が立てられ、悲痛な表情でしゃがみ込む神楽の後ろから、子供達は慰めの言葉をかける。
「神楽ちゃん、もう帰ろうよ」
「そっとしておいてやれよ。無理もねーよ、フンコロガシとはいえ、あんなにもかわいがってた相棒なんだから」
ガキ大将な存在だが、どこか憎めないよっちゃんは苦々しく表情を歪める。
「それにしてもあの野郎、俺達のカブト全部もっていっちまいやがった。まさか、曙Xまで負けるとは…」
「あいつ、最近巷 でカブト狩りをしまくるっていう男に違いねーよ」
「大人げねーよな」
「一体、何考えてんだ?」
口々に、謎の"カブト狩り男"の話で持ちきりになる子供達。
これらを橋の上で聞いていた響古は顎に手を当て、双子は眉をしかめる。
「ふーん…子供たちからカブト虫を奪う、謎の男ねェ」
「なんとかしてあげたいなぁ……」
「……楽しみを奪う権利は、誰にもないのに」
近くに響古達がいるとも知らずに、神楽は悔しそうに唇をかみしめる。
「う…うう、定春…うぉぉぉぉぉぉ!!定春27…あ、間違った、28号ォォォ!!」
せっかくのシリアスな場面なのに、ペットの名前を間違えると言う失態を犯した。
その翌日。
麦わら帽子を被り、虫かごと網を装備した神楽が宣言する。
「カブト狩りじゃああ!!」
静かな万事屋に響く少女の雄叫び。
「カブト狩りじゃああ!!」
銀時はジャンプに顔をのせて居眠りし、響古はその膝枕をやっており、新八はソファに座って新聞を読んでいた。
いずれも、三人は少女の方を見向きもしない。
「カブト狩りじゃああ!!」
「うるせェェェェ!!」
神楽は銀時の顔からジャンプを奪い、至近距離で叫ぶ。
しつこい叫び声に青筋を立て、銀時は仕方なく響古の膝枕から身を起こした。
「なんなんだよオメーは、さっきから一人でゴチャゴチャと」
「私は、これからカブト狩りに行こうと思います。どーですか?」
「どーですかって、行けばいいじゃない」
「行けばいいじゃない、じゃない!」
適当にあしらう新八へと、
「ぶべり」
怒りのビンタを食らわす。
めらめらと怒りの火を燃やす神楽に、仕方なく響古が問いかけた。
「――で、どーして神楽はそんなに殺気立っているの?」
その言葉に待ってましたとばかりに神楽は、ぱぁっと顔を輝かせ、途端にくしゃりと顔を歪ませる。
「響古、きいてヨ!私、もう堪忍袋の緒が切れたネ。私のカワイイ定春28号が憎いあんちきしょーにやられちまってヨー。それでさァ、曙Xまでやられちゃってね、みんな、もっていかれちゃったアル」
神楽は昨日の出来事を思い出したらしく、悔しさに涙ぐむ。
(憎いあんちきしょー?……あぁ、総悟のことね。アイツ、子供にまでいじめてるの?)
沖田のことか。
この場にいる人間の中で、響古だけがなんなのか知っていた。
「ねェ、きいてる?」
ジト目の神楽が、残る二人に問う。
「「あー、きいてる、きいてる」」
面倒くさそうな顔つきの銀時と、ティッシュで鼻血を拭う新八は視線をテレビに固定し、適当に返す。
タイムリーなことに、テレビではちょうど≪ブーム再燃、カブト虫≫と特集を組んで放送している。
「それでネ、私、みんなの仇を取ろうと思ってネ……ねェ、きいてる?」
「「あー、きいてる、きいてる」」
「それでネ、デッカくて強いカブト虫つかまえて、野郎のマゾ丸?サド丸?ねェ、どっちだっけ?」
「「あー、きいてる、きいてる」」
「野郎のネ、キテイル丸をやっつけようとおもってネ。でも私、カブトムシのとり方なんてしらないネ、だから教えてヨ」
神楽からの頼みごとを聞き流す二人は、物珍しそうにテレビを見ている。
「カブトムシブームだとよ、時代は繰り返すね」
「なんか、カブトムシ同士で相撲をとらせる遊びがはやってるらしいですよ」
「ねェ、教えてヨ」
「「あー、きいてる、きいてる」」
「きいてるじゃなくて、教えてヨ」
スルーの態勢に入っていた銀時だったが、少女の剣幕に押されて渋々教える。
早い話が、お金を稼ぐための労働である。
今の二人――陽太と美月にとってはまさに初体験だ。
行き倒れになった自分達を助けてくれた蓮が経営する茶屋に連れて来られた。
そこまではいい。
そこまでは、正直ちょっとわくわくしていた。
「美月ちゃん!」
「陽太くんこっち来てー!」
来てすぐに放り込まれたのは茶屋の給仕。
二人が一つのテーブルで注文を取り終えると、すぐさま別のテーブルから声がかかる。
距離などお構いなしに大声で呼ぶ。
まさに休む暇もないほど店内を行ったり来たりしている。
「ロリショタには適いませんね…」
「いやだわ、私は響古ちゃんも守備範囲よ」
響古がまぶしそうに双子を見たので、蓮はおっとりと微笑む。
ようやく客の出入りが落ち着き、響古に買い物を頼んでいると、休憩していたはずの陽太と美月が、
「僕達に行かせてください!」
「お願いします!」
と言った。
蓮は頬に手を当て、困った様子を見せる。
「でも、まだ
「いいんです!」
「お世話になるんですから行かせてください!」
口調も表情も『行かねばならぬ!』という義務感に満ちている。
「うーん……」
双子の押し問答を見ていた響古が手をポンと打ち、提案を出した。
「わかりました。だったら、三人で行きます」
その提案に頷いた蓮の顔は幾分か緩み、三人に買い物を頼んだ。
最近、子供達の間である遊びが流行っている。
場所は空き地。
樽の底を土俵にして、二匹のカブトムシが相撲を取っていた。
「いけっ!」
「そこだ、やれ!!」
白熱するカブトムシ相撲を見守る子供達も興奮気味になる。
「あっ、ヤバイ!ヤバ…あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙!!」
すると、一回り大きなカブトムシが対戦相手を跳ね飛ばした。
「また負けたァ、チキショォォ、完敗だよ!!」
「
子供達は普通よりも大きい昆虫に目を輝かせる。
大型のカブトムシの飼い主・よっちゃんは自慢げに言い放つ。
「ムフフ。お前らの貧相なカブトとは、食べてるものが違うんだよ。ホラ、次は誰だ?曙Xは、いつ何時誰の挑戦でもうけるぞ」
自信満々に言うと、観戦をしていた神楽が手を挙げる。
「ハイ!ハイ!次、私が行くアル」
「おぅ、神楽か。いいぜ~、その生意気な鼻、へし折ってやる」
「私の定春28号だって、お前らの奴とは食べてるものが違うネ。いくぜ、定春28号!!」
勢いよく土俵にのせた昆虫は後ろ足が長く、丸い物体を転がしていた。
たぶん……いや、明らかにカブトムシとは異なる昆虫である。
「食べ物っつーか、種類が違くね?なにコレ」
「フンコロガシ」
(※説明しよう。フンコロガシとは、餌となる動物の糞を丸めて後ろ足で転がす生物なのだ)
「おいイイイ!!食べるもん違うって、それ、ウンコ食う奴じゃねーかよ!」
動物の糞を食べる昆虫から、子供達は慌てて後ずさる。
だが、神楽は素手で鷲掴みにして自慢げに披露する。
「そーだヨ、スゴクね?自給自足じゃね?スゴクね?」
「それを、わし掴みしてるお前がスゲーよ!つーか、どっから拾ってきたんだよ!この島国に、そんなもん生活してんのか!?」
「お前さァ、ルールわかってんの!?これは、カブト虫同士で相撲をとらせる遊びなんだぞ!」
虫相撲のルールを唱えると、皮肉げな口調と共に笑って見せた。
「おやおや。そういう閉鎖的な考えまで、相撲界と酷似しているのですなぁ」
「オメー、どこの世界にクソまみれで土俵にあがってくる力士がいるよ!!もういいよ!帰れお前!」
「オゥオゥ、仲良く遊ばなきゃいけねーよ」
突然届いてきた声に、神楽達は揃って見上げる。
そこにいたのは、私服である袴姿の沖田が屋根に膝をついていた。
「ってことで、俺も混ぜてくれねーかィ?もう隊内じゃ、俺の相手になる奴ァ、いなくなってまってねェ。誰か、こいつと
不敵に微笑み、ドS皇子がカブトムシ相撲に挑戦する。
第八十三訓
少年はカブト虫を通し
買い物の帰り道、響古は隣を歩く双子に微笑みかける。
「今まではあたし一人で大変だったけど、あなた達が来てくれて助かるわ。ありがとね」
最近、雇ったばかりの双子――明るい性格の美月は顔を緩めて、気合いばっちりで答えた。
「お役に立てて嬉しいです!」
「いいえ」
対照的に、陽太は相変わらず表情が乏しいが、誉められるとやっぱり嬉しいらしく、照れたようにうつむいた。
美月の可愛らしい笑顔と陽太の初々しい反応に、響古はたまらず抱きしめたい衝動に駆られる。
「なんて可愛いの~~~!!美月の愛らしい笑顔も勿論いいけど、陽太の照れた表情、メニアック~~~!!」
「「ひゃあっ!」」
響古に抱き寄せられ、陽太と美月は声をあげた。
浴衣の大きく開いた胸元から覗く谷間。
そこに顔を押しつけられた二人は、あまりの驚きやら興奮やらでわけがわからなくなった。
頭に血が上って死にそうになる。
――や、や、柔らかい……。
「……うん?あなた達……結構いい体してるのね」
抱きしめる腕にぎゅぅっと力を増し、さわさわと二人の背中、腕、腰を撫で回す。
「「ひゃ、ひゃひゃひゃ……」」
双子は響古にいじくられ、その幼い身体をくねらせる。
川岸に定春28号の墓が立てられ、悲痛な表情でしゃがみ込む神楽の後ろから、子供達は慰めの言葉をかける。
「神楽ちゃん、もう帰ろうよ」
「そっとしておいてやれよ。無理もねーよ、フンコロガシとはいえ、あんなにもかわいがってた相棒なんだから」
ガキ大将な存在だが、どこか憎めないよっちゃんは苦々しく表情を歪める。
「それにしてもあの野郎、俺達のカブト全部もっていっちまいやがった。まさか、曙Xまで負けるとは…」
「あいつ、最近
「大人げねーよな」
「一体、何考えてんだ?」
口々に、謎の"カブト狩り男"の話で持ちきりになる子供達。
これらを橋の上で聞いていた響古は顎に手を当て、双子は眉をしかめる。
「ふーん…子供たちからカブト虫を奪う、謎の男ねェ」
「なんとかしてあげたいなぁ……」
「……楽しみを奪う権利は、誰にもないのに」
近くに響古達がいるとも知らずに、神楽は悔しそうに唇をかみしめる。
「う…うう、定春…うぉぉぉぉぉぉ!!定春27…あ、間違った、28号ォォォ!!」
せっかくのシリアスな場面なのに、ペットの名前を間違えると言う失態を犯した。
その翌日。
麦わら帽子を被り、虫かごと網を装備した神楽が宣言する。
「カブト狩りじゃああ!!」
静かな万事屋に響く少女の雄叫び。
「カブト狩りじゃああ!!」
銀時はジャンプに顔をのせて居眠りし、響古はその膝枕をやっており、新八はソファに座って新聞を読んでいた。
いずれも、三人は少女の方を見向きもしない。
「カブト狩りじゃああ!!」
「うるせェェェェ!!」
神楽は銀時の顔からジャンプを奪い、至近距離で叫ぶ。
しつこい叫び声に青筋を立て、銀時は仕方なく響古の膝枕から身を起こした。
「なんなんだよオメーは、さっきから一人でゴチャゴチャと」
「私は、これからカブト狩りに行こうと思います。どーですか?」
「どーですかって、行けばいいじゃない」
「行けばいいじゃない、じゃない!」
適当にあしらう新八へと、
「ぶべり」
怒りのビンタを食らわす。
めらめらと怒りの火を燃やす神楽に、仕方なく響古が問いかけた。
「――で、どーして神楽はそんなに殺気立っているの?」
その言葉に待ってましたとばかりに神楽は、ぱぁっと顔を輝かせ、途端にくしゃりと顔を歪ませる。
「響古、きいてヨ!私、もう堪忍袋の緒が切れたネ。私のカワイイ定春28号が憎いあんちきしょーにやられちまってヨー。それでさァ、曙Xまでやられちゃってね、みんな、もっていかれちゃったアル」
神楽は昨日の出来事を思い出したらしく、悔しさに涙ぐむ。
(憎いあんちきしょー?……あぁ、総悟のことね。アイツ、子供にまでいじめてるの?)
沖田のことか。
この場にいる人間の中で、響古だけがなんなのか知っていた。
「ねェ、きいてる?」
ジト目の神楽が、残る二人に問う。
「「あー、きいてる、きいてる」」
面倒くさそうな顔つきの銀時と、ティッシュで鼻血を拭う新八は視線をテレビに固定し、適当に返す。
タイムリーなことに、テレビではちょうど≪ブーム再燃、カブト虫≫と特集を組んで放送している。
「それでネ、私、みんなの仇を取ろうと思ってネ……ねェ、きいてる?」
「「あー、きいてる、きいてる」」
「それでネ、デッカくて強いカブト虫つかまえて、野郎のマゾ丸?サド丸?ねェ、どっちだっけ?」
「「あー、きいてる、きいてる」」
「野郎のネ、キテイル丸をやっつけようとおもってネ。でも私、カブトムシのとり方なんてしらないネ、だから教えてヨ」
神楽からの頼みごとを聞き流す二人は、物珍しそうにテレビを見ている。
「カブトムシブームだとよ、時代は繰り返すね」
「なんか、カブトムシ同士で相撲をとらせる遊びがはやってるらしいですよ」
「ねェ、教えてヨ」
「「あー、きいてる、きいてる」」
「きいてるじゃなくて、教えてヨ」
スルーの態勢に入っていた銀時だったが、少女の剣幕に押されて渋々教える。