第七十六訓
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空き地では、子供達が昔懐かしい缶蹴りで遊んでいた。
鬼となった少年は声をあげる。
「かーぐらちゃん、みーっけ!!」
お団子頭の少女がいつも持ち歩く番傘が出ていた。
ドラム缶の陰に隠れている少女を見つけ、急いで戻る。
「缶ふんー」
缶を踏む前に、神楽は地響きを立てて爆走する。
少年が後ろから響いてくる足音に気づいて、振り返った瞬間だった。
「だぱんぷ!!」
「ちょおお!!」
威勢のいいかけ声と共に前へ繰り出された足がよっちゃんを蹴飛ばし、ぎゅおんっと跳ね飛ばされる。
「よっちゃーん!!」
「しっかりしろォォ、よっちゃん!」
子供達は遊びを一旦中止。
神楽の前蹴りを受けて倒れるよっちゃんのもとへ駆け寄る。
「てめっ、この女 ァ!!缶から1メートル付近に入ったら、もう蹴るのナシって言ったべやァ!!」
「しらんなァ、そんな甘っちょろいルール」
「もうヤダァ~、こいつ手加減ってもん、しらねーんだもん!!」
「缶蹴り如きでムキになりやがって、バーカ!!」
「お前なんか、もう遊んでやんねーからな、バーカ、バーカ!!」
なんとか復活し、鼻血を垂らすよっちゃんと子供達は捨て台詞を残して去っていく。
そんな子供達に、神楽は腰に手を当てて吐き捨てる。
「…フン、シャバい奴らアル。遊びはムキになって、やるから面白いネ」
「ムッフッフッフッ。よう言った、その通りじゃ」
実に愉快な笑い声が聞こえ、神楽は振り向く。
視線の先に、白髪に眼鏡をかけた老人が杖を持って材木に座っていた。
「ムキになればこそ、人は力量以上の力を出せる。なんでも必死にやれば、つまらぬ事も面白き事になろうて。世の事、これ全て遊びと同じよ」
その語り口には、命がけの戦いを飄々と楽しんでさえいる。
ニヤッと笑いかける謎の老人は、缶蹴りをやらないかと持ちかけた。
「嬢ちゃん、どうじゃ、俺と缶蹴りやってみんか?」
「しらないオッさんと遊んじゃダメって、銀ちゃんと響古が言ってたネ」
「しらないジジイならエエじゃろ?」
「ダメネ、男はみんな獣ネ」
きっぱりと誘いを跳ね除ける神楽に、老人はますます興味を示す。
「若いのにガードがかたいのう、ますます気に入ったわ。ならば、保護者同伴ならどうじゃ?」
「ガキ扱いすんじゃねーヨ。クソジジイ」
子ども扱いをされ、むっとする神楽が毒を放つ。
その時、銀時達が通りかかった。
「あっ、アレ、神楽ちゃんじゃないスか」
「神楽ー」
「あっ、いたいた、おーい」
神楽がいるだろうと予想していた空き地で、目当ての少女を呼ぶ。
ほぼ同時刻、大きくそびえ立つ屋敷に、黒い喪服を着た人々がぞろぞろと入ってくる。
門の前には『服部家 告別式』の看板が掲げてあった。
「この度はご愁傷様です。びっくりしたわー、この前まで、あんなに元気だったのにねー」
「おとついの晩、急に倒れまして。僕等は勿論、当の本人が一番びっくりしてると思いますよ」
「ホントねー。人間、明日はどうなる身かわからないわホント。まァ、全ちゃんもあんまり気をおとさないで。なにかあったら、私達に相談してよ、ご近所さんなんだから」
「ハイ、ありがとうございます」
ねぎらいの言葉をかけて屋敷へ入っていくのを見送ると、服部は肩の力を抜いて不服そうにつぶやく。
「…ったく、めんどくせーな。なんで、あのクソ親父のために、こんな堅苦しい事やんなきゃいけねーんだ」
空き地にいたのは、子供達と遊び回る神楽の姿などではなく、謎の老人に絡まれている場面だった。
神楽はこちらに駆け寄り、唐突な勧誘の一言を放つ。
「あ~、缶蹴り?」
「ウン。あのジジイが、みんなそろってやろうって!やろうヨ」
神楽の指差す先で、老人が缶を踏んで待っている。
「何言ってんの、お前。しらねーおっさんと遊ぶなって脇がすっぱくなる程、言ったろ。バカか、お前」
「脇じゃなくて口だっつーの」
言い間違える銀時につっこみ、響古は改めて言い聞かせる。
「神楽、さらわれたいの?」
「おっさんじゃなくて、ジジイじゃぞ。エエじゃろ?」
説教の傍ら、言われ放題だった老人が変わらずの笑顔で口を挟んできた。
「「だまれ。男はみんな獣だ」」
銀時と響古は同時に毒を吐くと、笑みを絶やさず誘ってくる老人に背を向ける。
「もう、いくぞ。しらねージジイより、しってるババアだ」
「お登勢さんが焼肉おごってくれるみたいよ。珍しく」
お登勢が食事に誘ってくれた。
しかも焼き肉だ。
豚や鶏といった安い肉ではなく、普段ならありつけないご馳走だ。
「これからの時代、ジジイよりババアだ。スゲーぞ、このババアは『苦しい時、そんな時、頼りになるババア』。略して…」
「クソババーじゃねーか、コノヤロー!」
照れ隠しなのか……お登勢に向かって恩を仇で返す辺り、銀時らしい。
このままなし崩しに老人の誘いを流して、この場を終わらせられると思っていた。
「おーい、俺が鬼やってやるからやろーぜ。缶蹴ってくれよ、缶!!」
だが諦めがつかないのか、まだしつこく誘いを投げかけてくる老人。
こういう手合いは下手に関わると本当にしつこい。
銀時達は無関係を装い、無視をしようとしていたが、そのあまりのしつこさに、キャサリンがキレた。
「シツケーナ、クソジジー」
「オイ、ほっとけって!!」
痺れを切らしたキャサリンは思い切り缶を蹴り飛ばす。
「ソンナニ缶ガ蹴ッテホシイナラ、蹴ッテヤラァァ!!」
缶は宙高く舞い上がり、空き地を越え、屋根を飛び越えていった。
「アレ、20秒以内ニ拾ッテキナ。ソシタラ、遊ンデヤルヨ、クソジジイ」
煙を吐き、老人に無茶な条件を突きつけた。
思いやりの欠片もない年増である。
「ワルッ!ワルだよ!!」
「キャサリンてめー、年寄りいじめてんじゃねーヨ!」
「オ黙リ、アタイハタンパク質ガトリタクテ、ウズウズシテンダ。サァ!ババアノ気ガ変ワラナイウチニイクヨ!!」
「キャサリン、お前は帰って店番な。年寄りをいたわれない奴が、年寄りに優しくされると思うなよ」
「ナニ言ッテンスカ。オ登勢サンハ、年寄リナンカジャナイッスヨー。マダマダ、ピチピチヨ」
空き地を去ろうとした時、杖を振り上げる老人の元気な声があがった。
「よーし、缶、拾ってきたぜー!!缶蹴り開始ィィ!!」
5秒で戻って来た老人の下駄の下には、キャサリンが蹴った缶がちゃんとあった。
葬儀が始まるまで、まだ少し時間がある。
大広間には弔問客が続々と集まり、あっという間にいっぱいになる。
これだけの人数が集まる大規模な葬儀。
「しかし、惜しい人を亡くしたな。お庭番衆最強の男も、年には勝てなんだか」
しみじみと故人を偲 ぶ剛の言葉に対して、服部は恐ろしくドライであった。
「なーに言ってんだ。あんなモン、年中チャラついてる、ただの遊び人じゃねーか。おかげで、俺がどれだけ迷惑したか。親戚連中に、いつも怒られて…」
「いやいや、ただの遊び人に、忍者学校の教官はつとまらんぞ。それと、遊び人と言うが、俺はあの人の、そーいう茶目気のあるところが大好き…」
恩師の印象・思い出を語る剛であったが、蹴破られた障子の下敷きになる。
「お師匠ォォォォォ!!」
血相を変えて、文字通り飛んできたさっちゃん。
だが、そこに恩師の姿はなく、正面には棺が横たわっていて、さらにその前には大量の献花と、それに埋もれるようにして朗らかに笑っている故人の写真が並んでいた。
「ア…アレ?お師匠、今夜が峠だってきいて、飛んできたんだけど」
「親父なら、もう死んだぞ」
「え」
「一昨日の夜が峠だ」
話が食い違って呆然と立ち尽くすさっちゃんに踏まれ、
「うがあああ」
剛は悶絶する。
「そんな!!お師匠ォォ!!峠のあんちきしょォォ!!」
「オイ、お前の下の奴も峠をむかえてるぞ。今夜はVの字になってるぞ」
地面に置かれた缶に煙草の灰を落として、お登勢はうんざり気分で溜め息をつく。
「ハァー。さっさと終わらせてくれよ」
キャサリンと一緒に座り、缶蹴りの終了を待つ。
「ムッフッフッフッ。たまらんぞ、この緊張感。まるでガキの頃に戻ったようじゃ」
空き地の真ん中で自ら鬼を志願した老人は楽しそうに飛び跳ねる。
まるで子供のようなはしゃぎっぷりだ。
「準備はできたか、よい子のみんな!!じじい!いっきまーす!!」
狭い路地にあったドラム缶の陰から、胡乱そうに眺める万事屋四人。
「どこへだ?あの世にか」
「…ったく、なんであんな見ずしらずのジジイにつき合わなきゃならないの」
「焼き肉、食べに来たのに」
約束は約束だ。
不本意ながらも老人に付き合い、缶蹴りに参加するもテンションは上がらない。
外に出たのは焼き肉を食べに行くためで、遊ぶためではないからだ。
「もう僕、おなかペコペコなんで、おじいちゃんには悪いけど、適当につかまって早く切り上げません?」
やる気のない新八を、神楽は眉を険しくさせて烈火のごとく怒鳴る。
「ふざけるなァァァ!!何の努力もせずに自ら負けを選ぶとは、貴様それでも軍人か!!貴様のような奴を総じて、負け犬と言うんだ!!」
またテレビに影響されたのか、軍隊口調で銀時を『軍曹』、響古を『曹長』と呼ぶ。
「軍曹!!曹長!!この負け犬を軍法会議に!」
「でかい声で鳴くな、チワワ」
大声で喚かれ、うるさいと思った銀時は頭を叩く。
だが神楽にそうつっこんでおきながら、彼が一番負けず嫌いなのを響古はよく知っている。
横顔は既に闘志が見え隠れ状態だ。
「なんであれ、やるからには負けるつもりはねェ」
勿論、勝負という言葉が二人の心に火をつけた。
「たとえ遊びでも、真剣勝負よ」
「焼き肉も、負けて食うより買って食う方がうまいであります。軍曹、曹長」
響古は不遜に笑い、神楽はやる気を見せる。
「その通りだ、チワワ一等兵」
「曹長、絶対に勝利を捧げてみせます!」
「期待してるわ」
「缶蹴りなんざ、しょせんガキの遊びよ。鬼に見つかる前にあの缶を蹴れば勝ち」
あくまで子供の遊びだと言い切り、熱量の少ない口調で言う。
その間、老人はせわしなく辺りを見回す。
「でも懐かしいわ~。よく子供の頃、遊んだものね」
「そーいや、そーだな。よくヅラを穴に落として遊んだな」
「最高で五回くらい、穴に落ちたわよね」
ほのぼのとした表情を浮かべて昔を思い出す二人。
子供の頃は無邪気に遊んだとしても、大人になってからだと悪意があるとしか思えなくなる。
「どんな遊びしてんスか!?つーか、アンタら缶蹴りする気ないよね!!桂さんイジメたいだけだよね!!」
イジメにしか思えない遊びを語る二人に新八がつっこむ。
「要は見つからずに、あの缶を倒す方法を見つければいい。そーいうことで、発射用意」
そう言うと、銀時は掌ほどの大きさの石を持ち、神楽もそれにならって持ち上げる。
「あいあいさー」
「それは缶蹴りというんですか、軍曹ォォ!!」
当たり前のように殺傷能力がありそうな体制に新八は異議を唱える。
「二人とも、それはさすがに危ないわ!投げるなら、もうちょっと小さい石にしなさい」
鬼となった少年は声をあげる。
「かーぐらちゃん、みーっけ!!」
お団子頭の少女がいつも持ち歩く番傘が出ていた。
ドラム缶の陰に隠れている少女を見つけ、急いで戻る。
「缶ふんー」
缶を踏む前に、神楽は地響きを立てて爆走する。
少年が後ろから響いてくる足音に気づいて、振り返った瞬間だった。
「だぱんぷ!!」
「ちょおお!!」
威勢のいいかけ声と共に前へ繰り出された足がよっちゃんを蹴飛ばし、ぎゅおんっと跳ね飛ばされる。
「よっちゃーん!!」
「しっかりしろォォ、よっちゃん!」
子供達は遊びを一旦中止。
神楽の前蹴りを受けて倒れるよっちゃんのもとへ駆け寄る。
「てめっ、この
「しらんなァ、そんな甘っちょろいルール」
「もうヤダァ~、こいつ手加減ってもん、しらねーんだもん!!」
「缶蹴り如きでムキになりやがって、バーカ!!」
「お前なんか、もう遊んでやんねーからな、バーカ、バーカ!!」
なんとか復活し、鼻血を垂らすよっちゃんと子供達は捨て台詞を残して去っていく。
そんな子供達に、神楽は腰に手を当てて吐き捨てる。
「…フン、シャバい奴らアル。遊びはムキになって、やるから面白いネ」
「ムッフッフッフッ。よう言った、その通りじゃ」
実に愉快な笑い声が聞こえ、神楽は振り向く。
視線の先に、白髪に眼鏡をかけた老人が杖を持って材木に座っていた。
「ムキになればこそ、人は力量以上の力を出せる。なんでも必死にやれば、つまらぬ事も面白き事になろうて。世の事、これ全て遊びと同じよ」
その語り口には、命がけの戦いを飄々と楽しんでさえいる。
ニヤッと笑いかける謎の老人は、缶蹴りをやらないかと持ちかけた。
「嬢ちゃん、どうじゃ、俺と缶蹴りやってみんか?」
「しらないオッさんと遊んじゃダメって、銀ちゃんと響古が言ってたネ」
「しらないジジイならエエじゃろ?」
「ダメネ、男はみんな獣ネ」
きっぱりと誘いを跳ね除ける神楽に、老人はますます興味を示す。
「若いのにガードがかたいのう、ますます気に入ったわ。ならば、保護者同伴ならどうじゃ?」
「ガキ扱いすんじゃねーヨ。クソジジイ」
子ども扱いをされ、むっとする神楽が毒を放つ。
その時、銀時達が通りかかった。
「あっ、アレ、神楽ちゃんじゃないスか」
「神楽ー」
「あっ、いたいた、おーい」
神楽がいるだろうと予想していた空き地で、目当ての少女を呼ぶ。
ほぼ同時刻、大きくそびえ立つ屋敷に、黒い喪服を着た人々がぞろぞろと入ってくる。
門の前には『服部家 告別式』の看板が掲げてあった。
「この度はご愁傷様です。びっくりしたわー、この前まで、あんなに元気だったのにねー」
「おとついの晩、急に倒れまして。僕等は勿論、当の本人が一番びっくりしてると思いますよ」
「ホントねー。人間、明日はどうなる身かわからないわホント。まァ、全ちゃんもあんまり気をおとさないで。なにかあったら、私達に相談してよ、ご近所さんなんだから」
「ハイ、ありがとうございます」
ねぎらいの言葉をかけて屋敷へ入っていくのを見送ると、服部は肩の力を抜いて不服そうにつぶやく。
「…ったく、めんどくせーな。なんで、あのクソ親父のために、こんな堅苦しい事やんなきゃいけねーんだ」
空き地にいたのは、子供達と遊び回る神楽の姿などではなく、謎の老人に絡まれている場面だった。
神楽はこちらに駆け寄り、唐突な勧誘の一言を放つ。
「あ~、缶蹴り?」
「ウン。あのジジイが、みんなそろってやろうって!やろうヨ」
神楽の指差す先で、老人が缶を踏んで待っている。
「何言ってんの、お前。しらねーおっさんと遊ぶなって脇がすっぱくなる程、言ったろ。バカか、お前」
「脇じゃなくて口だっつーの」
言い間違える銀時につっこみ、響古は改めて言い聞かせる。
「神楽、さらわれたいの?」
「おっさんじゃなくて、ジジイじゃぞ。エエじゃろ?」
説教の傍ら、言われ放題だった老人が変わらずの笑顔で口を挟んできた。
「「だまれ。男はみんな獣だ」」
銀時と響古は同時に毒を吐くと、笑みを絶やさず誘ってくる老人に背を向ける。
「もう、いくぞ。しらねージジイより、しってるババアだ」
「お登勢さんが焼肉おごってくれるみたいよ。珍しく」
お登勢が食事に誘ってくれた。
しかも焼き肉だ。
豚や鶏といった安い肉ではなく、普段ならありつけないご馳走だ。
「これからの時代、ジジイよりババアだ。スゲーぞ、このババアは『苦しい時、そんな時、頼りになるババア』。略して…」
「クソババーじゃねーか、コノヤロー!」
照れ隠しなのか……お登勢に向かって恩を仇で返す辺り、銀時らしい。
このままなし崩しに老人の誘いを流して、この場を終わらせられると思っていた。
「おーい、俺が鬼やってやるからやろーぜ。缶蹴ってくれよ、缶!!」
だが諦めがつかないのか、まだしつこく誘いを投げかけてくる老人。
こういう手合いは下手に関わると本当にしつこい。
銀時達は無関係を装い、無視をしようとしていたが、そのあまりのしつこさに、キャサリンがキレた。
「シツケーナ、クソジジー」
「オイ、ほっとけって!!」
痺れを切らしたキャサリンは思い切り缶を蹴り飛ばす。
「ソンナニ缶ガ蹴ッテホシイナラ、蹴ッテヤラァァ!!」
缶は宙高く舞い上がり、空き地を越え、屋根を飛び越えていった。
「アレ、20秒以内ニ拾ッテキナ。ソシタラ、遊ンデヤルヨ、クソジジイ」
煙を吐き、老人に無茶な条件を突きつけた。
思いやりの欠片もない年増である。
「ワルッ!ワルだよ!!」
「キャサリンてめー、年寄りいじめてんじゃねーヨ!」
「オ黙リ、アタイハタンパク質ガトリタクテ、ウズウズシテンダ。サァ!ババアノ気ガ変ワラナイウチニイクヨ!!」
「キャサリン、お前は帰って店番な。年寄りをいたわれない奴が、年寄りに優しくされると思うなよ」
「ナニ言ッテンスカ。オ登勢サンハ、年寄リナンカジャナイッスヨー。マダマダ、ピチピチヨ」
空き地を去ろうとした時、杖を振り上げる老人の元気な声があがった。
「よーし、缶、拾ってきたぜー!!缶蹴り開始ィィ!!」
5秒で戻って来た老人の下駄の下には、キャサリンが蹴った缶がちゃんとあった。
葬儀が始まるまで、まだ少し時間がある。
大広間には弔問客が続々と集まり、あっという間にいっぱいになる。
これだけの人数が集まる大規模な葬儀。
「しかし、惜しい人を亡くしたな。お庭番衆最強の男も、年には勝てなんだか」
しみじみと故人を
「なーに言ってんだ。あんなモン、年中チャラついてる、ただの遊び人じゃねーか。おかげで、俺がどれだけ迷惑したか。親戚連中に、いつも怒られて…」
「いやいや、ただの遊び人に、忍者学校の教官はつとまらんぞ。それと、遊び人と言うが、俺はあの人の、そーいう茶目気のあるところが大好き…」
恩師の印象・思い出を語る剛であったが、蹴破られた障子の下敷きになる。
「お師匠ォォォォォ!!」
血相を変えて、文字通り飛んできたさっちゃん。
だが、そこに恩師の姿はなく、正面には棺が横たわっていて、さらにその前には大量の献花と、それに埋もれるようにして朗らかに笑っている故人の写真が並んでいた。
「ア…アレ?お師匠、今夜が峠だってきいて、飛んできたんだけど」
「親父なら、もう死んだぞ」
「え」
「一昨日の夜が峠だ」
話が食い違って呆然と立ち尽くすさっちゃんに踏まれ、
「うがあああ」
剛は悶絶する。
「そんな!!お師匠ォォ!!峠のあんちきしょォォ!!」
「オイ、お前の下の奴も峠をむかえてるぞ。今夜はVの字になってるぞ」
地面に置かれた缶に煙草の灰を落として、お登勢はうんざり気分で溜め息をつく。
「ハァー。さっさと終わらせてくれよ」
キャサリンと一緒に座り、缶蹴りの終了を待つ。
「ムッフッフッフッ。たまらんぞ、この緊張感。まるでガキの頃に戻ったようじゃ」
空き地の真ん中で自ら鬼を志願した老人は楽しそうに飛び跳ねる。
まるで子供のようなはしゃぎっぷりだ。
「準備はできたか、よい子のみんな!!じじい!いっきまーす!!」
狭い路地にあったドラム缶の陰から、胡乱そうに眺める万事屋四人。
「どこへだ?あの世にか」
「…ったく、なんであんな見ずしらずのジジイにつき合わなきゃならないの」
「焼き肉、食べに来たのに」
約束は約束だ。
不本意ながらも老人に付き合い、缶蹴りに参加するもテンションは上がらない。
外に出たのは焼き肉を食べに行くためで、遊ぶためではないからだ。
「もう僕、おなかペコペコなんで、おじいちゃんには悪いけど、適当につかまって早く切り上げません?」
やる気のない新八を、神楽は眉を険しくさせて烈火のごとく怒鳴る。
「ふざけるなァァァ!!何の努力もせずに自ら負けを選ぶとは、貴様それでも軍人か!!貴様のような奴を総じて、負け犬と言うんだ!!」
またテレビに影響されたのか、軍隊口調で銀時を『軍曹』、響古を『曹長』と呼ぶ。
「軍曹!!曹長!!この負け犬を軍法会議に!」
「でかい声で鳴くな、チワワ」
大声で喚かれ、うるさいと思った銀時は頭を叩く。
だが神楽にそうつっこんでおきながら、彼が一番負けず嫌いなのを響古はよく知っている。
横顔は既に闘志が見え隠れ状態だ。
「なんであれ、やるからには負けるつもりはねェ」
勿論、勝負という言葉が二人の心に火をつけた。
「たとえ遊びでも、真剣勝負よ」
「焼き肉も、負けて食うより買って食う方がうまいであります。軍曹、曹長」
響古は不遜に笑い、神楽はやる気を見せる。
「その通りだ、チワワ一等兵」
「曹長、絶対に勝利を捧げてみせます!」
「期待してるわ」
「缶蹴りなんざ、しょせんガキの遊びよ。鬼に見つかる前にあの缶を蹴れば勝ち」
あくまで子供の遊びだと言い切り、熱量の少ない口調で言う。
その間、老人はせわしなく辺りを見回す。
「でも懐かしいわ~。よく子供の頃、遊んだものね」
「そーいや、そーだな。よくヅラを穴に落として遊んだな」
「最高で五回くらい、穴に落ちたわよね」
ほのぼのとした表情を浮かべて昔を思い出す二人。
子供の頃は無邪気に遊んだとしても、大人になってからだと悪意があるとしか思えなくなる。
「どんな遊びしてんスか!?つーか、アンタら缶蹴りする気ないよね!!桂さんイジメたいだけだよね!!」
イジメにしか思えない遊びを語る二人に新八がつっこむ。
「要は見つからずに、あの缶を倒す方法を見つければいい。そーいうことで、発射用意」
そう言うと、銀時は掌ほどの大きさの石を持ち、神楽もそれにならって持ち上げる。
「あいあいさー」
「それは缶蹴りというんですか、軍曹ォォ!!」
当たり前のように殺傷能力がありそうな体制に新八は異議を唱える。
「二人とも、それはさすがに危ないわ!投げるなら、もうちょっと小さい石にしなさい」