第七十訓
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着物を片側だけ脱ぎ、さらしを巻いた女は左手に壺、右手の指の間に二個の賽 を挟む。
「どちら様も、ようござんすね」
賭け金として使う現金を博徒が用意したコマ札で取り引き。
コマが揃うと、募集を締め切る。
壺に賽を投げ入れ、床に叩きつける。
「ちょうか、はんかァ!!」
男達を見据え、壺振りの女は声を張り上げる。
「ちょう!」
「はん!」
「はん!」
「はん!」
次々と男達が賭けていく中、そこには銀時、響古、長谷川の姿があった。
「はん」
響古が涼しげな声音で奇数の半を賭け、
「「ちょおォォォォ!!」」
銀時と長谷川は声を揃えて偶数の丁を賭ける。
色とりどりの光、騒がしい音と話し声。
活気溢れる煌びやかなその場所に、パンツ一丁の男が二人。
銀時と長谷川は下着一枚で佇んでいた。
「いやぁ~、冬じゃなくて良かったな。凍えるところだぜ」
「そーだな。財布の方は一足早く冬を迎えちまったがな」
スロットやコインの弾ける音で満ちた空間は今すぐ賭けたくなる衝動を駆り立てる。
だが、身ぐるみ全部剥がされた二人にとっては無理な話。
「いやぁ~ホントついてるぜ」
「そーだな、ついてるな。貧乏神的なモノが絶対、憑いてるな」
銀時のポジィテブな発言に、長谷川のネガティブな発言が相槌を打つ。
一方、負けた二人の斜め後ろの響古だけは賭博に大勝ち、紙袋を手にして上機嫌だった。
「そーいや、最近左肩が重いんだよね、意味もなく。なんか乗ってるカンジなんだよね、貧乏神的なモノが。曲がってない?左肩なんか曲がってない?」
憑りついた人間やその家族を貧困にする貧乏神。
しきりに肩を気にする長谷川に、響古は心配なさそうに言う。
「気にしすぎですよ。陰気な顔してたら、ツキが逃げてしまいますって」
いくら言葉をかけても、長谷川は悄然と肩を落としたままだ。
「響古ちゃんは俺らの辛さを知らないから、そんなことが言えるんだ」
「俺もよォ、最近なんか、デケー鎌もった不気味なオッさんが視界にちらつくんだけど、もう気にしないことにしたよ」
「それは気にした方がいいと思う!!」
不幸を招く貧乏神よりも強大で死の象徴。
一般的に巨大な大鎌、もしくは小ぶりな草刈鎌を持ち、黒を基調にした傷んだローブを身にまとった人間の白骨。
ところが、響古はにっこり笑って言い放つ。
「ダメよ、銀。そんな不気味なオッさんが首筋に大きな鎌を触れさせてきたら、魂魄の髄まで後悔させてあげればいいんだから」
それはとても可憐で印象的な、さすが篠木 響古と賞賛すべき、華やかな笑顔だった。
しかし銀時には、不遜な笑みに思えて見えてしまった。
妙に悪魔的と言おうか……。
「骨が全て粉々に砕けるまで、この熾烈な怒りを注ぎ込んであげれば――」
「も、もうやめてぇ!死神さんが可哀想すぎるからァァァ!!」
死の象徴も泣いて逃げ出すほど熾烈ぶりに、長谷川は思わず同情してしまう。
「ホラ。言ってるそばから、アンタの後ろに…」
銀時が背後を指差した。
そこには、黒いマントを頭から被った怪しい人物の姿がいた。
まさしくイメージ通りの死神である。
「ギャアアアアアアア!!悪霊退散!妖魔降伏!えろいむえっさむ!てくまくまやこん!」
なりふり構わず呪文を唱えまくると、いきなり服を投げつけた。
重さに耐えかね、
「ぬお!!」
長谷川は服の下敷きになる。
「…ついてるだ、ついてねーだ。アンタら、それでも博打(バクチ)打ちかィ?」
黒いマントの下、その男の口から紡ぎ出されたのは呆れた問いかけ。
「?これは、二人の着物」
「あんた…」
「ババアの炊き出しじゃねーんだ、待ってるだけじゃツキは回ってこねーよ。ギャンブルの女神は自分 で口説きおとさなきゃあよ」
そう言ってフードを取ると、長く伸ばした白髪を後ろに流したオールバックの男。
右目に大きな傷跡を残した顔立ちは、ややワイルドな印象だ。
大きなルーレット台につく、金ボタンのチョッキを着たディーラーは賭け開始を告げる鐘を鳴らす。
プレイヤーは積み上げたチップをマスメに置く。
莫大な賭け金に、周囲の歓声が盛り上がる。
ディーラーは頷き、募集締め切りを示す。
そしてルーレットを回転させ、純白の球を転がした。
球はクルクルとルーレットの縁を滑ってから、数字を示す区域の仕切り板の上を跳ね始める。
天国か、地獄か。
ディーラーは男が賭けた大量のチップを配当し、あっという間に積み上がる。
「おおおおおおお!!」
「スゲーよ、あの男!!さっきから勝ちまくってるぞ!!何者だ!?」
周囲の客達が賛嘆の声を響かせる。
「オイ、アレ、あの傷の顔…もしかして、ツキヨミの勘兵衛」
「ツキヨミ?」
誰かが男の名を口にすると誰かが訊ね、瞬く間に噂が広がる。
「恐るべき強運をもつ伝説の博徒 。奴はその名の通り、ツキの流れを読めるって話だ。どんな劣勢も自分の流れに変えてしまう、ギャンブラーのカリスマよう」
ギャンブルを生業とし、生活を立てる博徒は組織をつくり、それぞれ縄張りをもって博打を打つ。
驚きに目を見開くギャンブラー達は、彼の名を伝説に聞き知っていた。
どんな劣勢も覆す強運の証。
その呼び名は、ツキヨミの勘兵衛。
「確か、しばらく江戸から姿を消してたはずだが、まさかこの目でおがめるたァ」
狂喜乱舞する人ごみの中に混ざり、銀時達は勘兵衛の正体を初めて知った。
「…伝説の博徒だかなんだかしらんが、ギャンブルの女神様がこんな尻軽だったとはよ。俺があんなに必死に口説いても、見向きもしなかったのに」
「妻帯者には興味ねーんだろ」
「ハツなんて、実家に帰ったきり、全然帰ってこねーよ。一夜の過 ちぐらい、犯してくれてもいいだろ」
元々勝負運がない銀時と長谷川。
素人同然から見ても、惨敗して当然な負けっぱなし。
「だったら、ギャンブルの女神はあたしに微笑んでいるのも当然ね」
一方、唯一の勝者・響古は得意げな顔で語る。
ギャンブルは運否天賦 だけじゃなく、戦略的に進める頭脳も必要なのだ。
「なんだろ。響古ちゃんをしればしるほど、残念美人って思えてきた」
「ああいうワイルドなカンジが好きなのかね?女神様は。ああそーだ、きっとそ-だ。ワイルドでいってみよう」
二人は性懲りもなく賭博に挑み、手堅い響古は賭博を切り上げる。
勘兵衛のワイルドを参考に、二人は意気揚々と博打する。
「ちょうか、はん!」
「「ちょオオオオ!!」」
カツラを被り、傷を描き、葉巻を吹かして変装しての結果は前回と同じ。
衣服を剥ぎ取られ、ボロ負けである。
「…なんだ、何が悪いんだ、ワイルドさが足りねーのか。なんかもっと『俺なんてどーでもいいんだ』みたいなカンジ出ねーかな。長谷川さん、パンツ脱げ」
「オイオイ。いいけど、あんまワイルドじゃねーぞ。俺のはどっちつかつーと、マイルドだ」
「アンタら、何してんだァァ!!」
そこに偶然通りかかった勘兵衛、せっかく取り返したはずの着物を再び没収された二人を発見。
怒りの態度で歩いてくる。
「人がせっかく着物とりかえしてやったのに、バカかァァァ!!もう帰れェ!!お前ら、博打向いてねーんだよ!」
「アンタが勝手にやったことだろう。頼んだ覚えはねぇ」
「それともアレか。ワイルドさに垣間見えるその優しさが、女神をおとすコツなのか。大層なもんだなコノヤロー。健康に気をつけろよ」
「無理矢理優しさ、垣間見せてんじゃねーよ!!」
結局、勘兵衛のおかげで着物は取り返され、バーカウンターに移動した。
カード・ルーレット・パチンコなどには目もくれず、響古は紙袋を抱えて歩いていく。
一通り、遊んで稼いだので満足だ。
「オイ、アレ見ろ…」
「うわ、スゲー勝ちまくってる」
「バカ、それもそうだけど、スゲー美人だぜ」
「うお……」
艶やかな黒髪に凜とした美貌。
さらには、手にする紙袋がよく目立っていた。
(それにしても、あたし以上に勝っていたわね、あの男…)
そんなことを考えている響古とすれ違った、あるいはギャンブルに熱中している者達が思わず、その黒髪な後ろ姿を二度見して異性であれ同性であれ、見惚れてしまう。
「すげぇ、アレすげぇ!」
「超勝ってるわよ、あの人!」
「それにしても、綺麗…モデルかしら?」
カジノの2階――特等ルーレット・フロア。
この特等フロアの賭け金は最低額がなんと100万円。
会員パスを持つ金持ちだけが賭けに参加でき、見物にすら別途入場料がかかる。
響古は貸与されたパスでフロアに入り、奥へと進む。
そうして辿り着いた場所は『VIP』と掲げられた、豪華な一角だった。
そこに、黒スーツを着た天人が立ちはだかる。
「お客様失礼ですが、ここは一般人以外、立ち入り禁止なのですが」
いきなりの申し出に、響古は一瞬だけ目を丸くする。
が、微笑みを浮かべ、すぐに鷹揚に頷いて見せた。
「友人が遊びに来たから……ではダメ?」
その一言に天人は血相を変えて、
「――失礼いたしました」
深々と頭を下げ、響古を通路の奥へと案内する。
ネオン煌めく夜に、一際目立つ城『カジノ えどべがす』――ギャンブラー達が集まる賭博場――が建っていた。
その天守閣に陣取る、かぶき町四天王が一人、華陀 の部屋にノックの音。
「華陀様、お客様を連れて参りました」
「……入らせろ」
華陀に許され、客人が入ってくる。
後ろに控えている黒服がドアを閉めると、冷酷かつ厳しい雰囲気が一変。
嬉しさ全開に歩み寄る。
「どちら様も、ようござんすね」
賭け金として使う現金を博徒が用意したコマ札で取り引き。
コマが揃うと、募集を締め切る。
壺に賽を投げ入れ、床に叩きつける。
「ちょうか、はんかァ!!」
男達を見据え、壺振りの女は声を張り上げる。
「ちょう!」
「はん!」
「はん!」
「はん!」
次々と男達が賭けていく中、そこには銀時、響古、長谷川の姿があった。
「はん」
響古が涼しげな声音で奇数の半を賭け、
「「ちょおォォォォ!!」」
銀時と長谷川は声を揃えて偶数の丁を賭ける。
色とりどりの光、騒がしい音と話し声。
活気溢れる煌びやかなその場所に、パンツ一丁の男が二人。
銀時と長谷川は下着一枚で佇んでいた。
「いやぁ~、冬じゃなくて良かったな。凍えるところだぜ」
「そーだな。財布の方は一足早く冬を迎えちまったがな」
スロットやコインの弾ける音で満ちた空間は今すぐ賭けたくなる衝動を駆り立てる。
だが、身ぐるみ全部剥がされた二人にとっては無理な話。
「いやぁ~ホントついてるぜ」
「そーだな、ついてるな。貧乏神的なモノが絶対、憑いてるな」
銀時のポジィテブな発言に、長谷川のネガティブな発言が相槌を打つ。
一方、負けた二人の斜め後ろの響古だけは賭博に大勝ち、紙袋を手にして上機嫌だった。
「そーいや、最近左肩が重いんだよね、意味もなく。なんか乗ってるカンジなんだよね、貧乏神的なモノが。曲がってない?左肩なんか曲がってない?」
憑りついた人間やその家族を貧困にする貧乏神。
しきりに肩を気にする長谷川に、響古は心配なさそうに言う。
「気にしすぎですよ。陰気な顔してたら、ツキが逃げてしまいますって」
いくら言葉をかけても、長谷川は悄然と肩を落としたままだ。
「響古ちゃんは俺らの辛さを知らないから、そんなことが言えるんだ」
「俺もよォ、最近なんか、デケー鎌もった不気味なオッさんが視界にちらつくんだけど、もう気にしないことにしたよ」
「それは気にした方がいいと思う!!」
不幸を招く貧乏神よりも強大で死の象徴。
一般的に巨大な大鎌、もしくは小ぶりな草刈鎌を持ち、黒を基調にした傷んだローブを身にまとった人間の白骨。
ところが、響古はにっこり笑って言い放つ。
「ダメよ、銀。そんな不気味なオッさんが首筋に大きな鎌を触れさせてきたら、魂魄の髄まで後悔させてあげればいいんだから」
それはとても可憐で印象的な、さすが篠木 響古と賞賛すべき、華やかな笑顔だった。
しかし銀時には、不遜な笑みに思えて見えてしまった。
妙に悪魔的と言おうか……。
「骨が全て粉々に砕けるまで、この熾烈な怒りを注ぎ込んであげれば――」
「も、もうやめてぇ!死神さんが可哀想すぎるからァァァ!!」
死の象徴も泣いて逃げ出すほど熾烈ぶりに、長谷川は思わず同情してしまう。
「ホラ。言ってるそばから、アンタの後ろに…」
銀時が背後を指差した。
そこには、黒いマントを頭から被った怪しい人物の姿がいた。
まさしくイメージ通りの死神である。
「ギャアアアアアアア!!悪霊退散!妖魔降伏!えろいむえっさむ!てくまくまやこん!」
なりふり構わず呪文を唱えまくると、いきなり服を投げつけた。
重さに耐えかね、
「ぬお!!」
長谷川は服の下敷きになる。
「…ついてるだ、ついてねーだ。アンタら、それでも博打(バクチ)打ちかィ?」
黒いマントの下、その男の口から紡ぎ出されたのは呆れた問いかけ。
「?これは、二人の着物」
「あんた…」
「ババアの炊き出しじゃねーんだ、待ってるだけじゃツキは回ってこねーよ。ギャンブルの女神は
そう言ってフードを取ると、長く伸ばした白髪を後ろに流したオールバックの男。
右目に大きな傷跡を残した顔立ちは、ややワイルドな印象だ。
大きなルーレット台につく、金ボタンのチョッキを着たディーラーは賭け開始を告げる鐘を鳴らす。
プレイヤーは積み上げたチップをマスメに置く。
莫大な賭け金に、周囲の歓声が盛り上がる。
ディーラーは頷き、募集締め切りを示す。
そしてルーレットを回転させ、純白の球を転がした。
球はクルクルとルーレットの縁を滑ってから、数字を示す区域の仕切り板の上を跳ね始める。
天国か、地獄か。
ディーラーは男が賭けた大量のチップを配当し、あっという間に積み上がる。
「おおおおおおお!!」
「スゲーよ、あの男!!さっきから勝ちまくってるぞ!!何者だ!?」
周囲の客達が賛嘆の声を響かせる。
「オイ、アレ、あの傷の顔…もしかして、ツキヨミの勘兵衛」
「ツキヨミ?」
誰かが男の名を口にすると誰かが訊ね、瞬く間に噂が広がる。
「恐るべき強運をもつ伝説の
ギャンブルを生業とし、生活を立てる博徒は組織をつくり、それぞれ縄張りをもって博打を打つ。
驚きに目を見開くギャンブラー達は、彼の名を伝説に聞き知っていた。
どんな劣勢も覆す強運の証。
その呼び名は、ツキヨミの勘兵衛。
「確か、しばらく江戸から姿を消してたはずだが、まさかこの目でおがめるたァ」
狂喜乱舞する人ごみの中に混ざり、銀時達は勘兵衛の正体を初めて知った。
「…伝説の博徒だかなんだかしらんが、ギャンブルの女神様がこんな尻軽だったとはよ。俺があんなに必死に口説いても、見向きもしなかったのに」
「妻帯者には興味ねーんだろ」
「ハツなんて、実家に帰ったきり、全然帰ってこねーよ。一夜の
元々勝負運がない銀時と長谷川。
素人同然から見ても、惨敗して当然な負けっぱなし。
「だったら、ギャンブルの女神はあたしに微笑んでいるのも当然ね」
一方、唯一の勝者・響古は得意げな顔で語る。
ギャンブルは
「なんだろ。響古ちゃんをしればしるほど、残念美人って思えてきた」
「ああいうワイルドなカンジが好きなのかね?女神様は。ああそーだ、きっとそ-だ。ワイルドでいってみよう」
二人は性懲りもなく賭博に挑み、手堅い響古は賭博を切り上げる。
勘兵衛のワイルドを参考に、二人は意気揚々と博打する。
「ちょうか、はん!」
「「ちょオオオオ!!」」
カツラを被り、傷を描き、葉巻を吹かして変装しての結果は前回と同じ。
衣服を剥ぎ取られ、ボロ負けである。
「…なんだ、何が悪いんだ、ワイルドさが足りねーのか。なんかもっと『俺なんてどーでもいいんだ』みたいなカンジ出ねーかな。長谷川さん、パンツ脱げ」
「オイオイ。いいけど、あんまワイルドじゃねーぞ。俺のはどっちつかつーと、マイルドだ」
「アンタら、何してんだァァ!!」
そこに偶然通りかかった勘兵衛、せっかく取り返したはずの着物を再び没収された二人を発見。
怒りの態度で歩いてくる。
「人がせっかく着物とりかえしてやったのに、バカかァァァ!!もう帰れェ!!お前ら、博打向いてねーんだよ!」
「アンタが勝手にやったことだろう。頼んだ覚えはねぇ」
「それともアレか。ワイルドさに垣間見えるその優しさが、女神をおとすコツなのか。大層なもんだなコノヤロー。健康に気をつけろよ」
「無理矢理優しさ、垣間見せてんじゃねーよ!!」
結局、勘兵衛のおかげで着物は取り返され、バーカウンターに移動した。
カード・ルーレット・パチンコなどには目もくれず、響古は紙袋を抱えて歩いていく。
一通り、遊んで稼いだので満足だ。
「オイ、アレ見ろ…」
「うわ、スゲー勝ちまくってる」
「バカ、それもそうだけど、スゲー美人だぜ」
「うお……」
艶やかな黒髪に凜とした美貌。
さらには、手にする紙袋がよく目立っていた。
(それにしても、あたし以上に勝っていたわね、あの男…)
そんなことを考えている響古とすれ違った、あるいはギャンブルに熱中している者達が思わず、その黒髪な後ろ姿を二度見して異性であれ同性であれ、見惚れてしまう。
「すげぇ、アレすげぇ!」
「超勝ってるわよ、あの人!」
「それにしても、綺麗…モデルかしら?」
カジノの2階――特等ルーレット・フロア。
この特等フロアの賭け金は最低額がなんと100万円。
会員パスを持つ金持ちだけが賭けに参加でき、見物にすら別途入場料がかかる。
響古は貸与されたパスでフロアに入り、奥へと進む。
そうして辿り着いた場所は『VIP』と掲げられた、豪華な一角だった。
そこに、黒スーツを着た天人が立ちはだかる。
「お客様失礼ですが、ここは一般人以外、立ち入り禁止なのですが」
いきなりの申し出に、響古は一瞬だけ目を丸くする。
が、微笑みを浮かべ、すぐに鷹揚に頷いて見せた。
「友人が遊びに来たから……ではダメ?」
その一言に天人は血相を変えて、
「――失礼いたしました」
深々と頭を下げ、響古を通路の奥へと案内する。
ネオン煌めく夜に、一際目立つ城『カジノ えどべがす』――ギャンブラー達が集まる賭博場――が建っていた。
その天守閣に陣取る、かぶき町四天王が一人、
「華陀様、お客様を連れて参りました」
「……入らせろ」
華陀に許され、客人が入ってくる。
後ろに控えている黒服がドアを閉めると、冷酷かつ厳しい雰囲気が一変。
嬉しさ全開に歩み寄る。