第六十六訓
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「ぶェくしょん!」
「はくしゅん!」
「はくしょん!」
「まいけるじゃくそん!!」
いきなり盛大なくしゃみをする万事屋四人。
共に鼻を赤くしてはくしゃみの連続、鼻をすすってティッシュを求める。
「オイ、まいけるじゃくそんはないだろ。篠木を見習え。それはお前、くしゃみじゃ…じゃねっとじゃくそん!!」
銀時は神楽につっこむが、くしゃみのせいで最後まで言い切れない。
「へくしゅん!」
「まえだたいそん!」
「うるせーよ、普通にしろ!」
くしゃみまでもボケてしまう二人に、新八のツッコミが飛ぶ。
こんなに酷い花粉症は初めてのようで、ティッシュで鼻をかむ。
「あー、ムズムズする。今年の花粉は例年にも、ましてヒドイなァ」
「もう街中、みんな花粉症でグジュグジュになってるわよ。どーなってるのかしら?」
――一歩外に出ればくしゃみは止まらず、目は痒 くて涙を溢れさせ、マスクをしてもなんの効果もない。
「スギ花粉じゃねーらしいよ、今年は。なんかどこだかの星の植物らしくて、タチ悪いらしい、ブェークション」
くしゃみも鼻水も多少出る程度で済むのだが、今年は倍以上なんてものではない。
「あー、チクショ、この作品は…フィクショーン!!であり、非公式同人サイトです。実在の人物・団体・事件などにはいっさい、関係ありません」
フィクションの作品によく書かれる、いわば常套句をわざわざ言う銀時。
しかしながら、あからさまにフィクションであることがわかるような作品というよりは、舞台としては地球であったりする場合によく用いられる。
「余計な気を回さんでいいわ!」
「なんかババァもよォ、寝こんじまって店休んでるらしいよ」
「これは、当分家、出ない方がいいみたい」
言ってる傍から、神楽が新しいティッシュを買ってくるよう新八に言いつける。
「あっ、ティッシュきれた、新八、買ってこいヨ」
「話きいてた!?」
「いいから買ってこいヨ。どうせティッシュ買ってくるしか能がないくせに」
あまりに理不尽なジャイアン発言。
新八と神楽の取っ組み合いが始まった。
「お前やっぱ、星に帰れェェェ!!」
篠木は鼻をすすりながら仲裁に入り、銀時はティッシュの代わりになるものを探し始める。
「ぶェっくしっ。あー、なんか内も外も変わんねー気がしてきたぜ。オイ篠木、トイレットペーパーがあったぞ」
「ワォ。マジで」
銀時は篠木を呼んで、何故か和室にあったトイレットペーパーを渡す。
捻りっぱなしの水道のごとく放水する鼻水に苦しむ篠木は、花粉の原因について考える。
「それにしても一体、どこから入ってくるのかしら?この花粉。意外と近場で花粉まき散らされてるのかも」
「いや、でも、このかぶき町に植物なんて…ん」
銀時は言いかけて、開けっ放しだったベランダに視線を移し、言葉を失う。
「銀、どうし…ワォ」
様子のおかしな彼に首を傾げていた篠木もベランダの外を見て、絶句した。
万事屋のすぐ近くに、見慣れない建物が存在していた。
建物の至るところから枝が伸び、蔦 が絡まり、葉が生い茂っている。
歌舞伎町の街並みとはあまりにミスマッチだ。
「あり?うそ?あり?」
「え?何アレ?え?」
外の光景を信じられない思いで眺める銀時は目を擦り、篠木は目を見開き、何度も確認する。
そんな二人の後ろでは、神楽に殴りかかるが、逆に返り討ちにされた新八。
その時、呼び鈴の音が鳴った。
神楽と必死の攻防をしていた新八が鼻血を垂らして玄関の戸を開ける。
「ハーイ」
万事屋に訊ねてきたのは、獅子の頭をもつ凶相としか映らない男だった。
黒い鬣 から太く尖った角を伸ばしている。
頭頂部には、あまりにも似つかわしくない花が一輪、咲いている。
「どうも初めまして、となりに越してきました。屁怒絽 屁怒絽です」
丁寧な口調の割に、遠雷のように重く低い声。
尋常じゃない恐ろしさの形相により、垂れ流していた鼻血がより大量に出血。
後から続いて玄関を覗いた銀時も同様。
屁怒絽の顔面に後ずさる。
「今日はごあいさつにあがりました。僕、花屋をやっていまして。お近づきの印にこれ、どうぞ」
差し出された植木鉢。
誰も近づくことができず、受け取ることもできない。
「まぁ、それはどうも、ありがとうございます。お気を使わせてしまってすいません」
その時、素晴らしい笑顔をその美貌に貼りつけた篠木が前に出た。
「篠木と言います。困ったことがあったなら、気軽に声をかけてくださいね」
「篠木さんですか。ありがとうございます」
輝くような笑顔で言われ、屁怒絽は恐ろしい相貌を歪めて笑った。
だが、それは逆効果で、ついに静かに泣き出す銀時。
「いろいろと御迷惑をおかけるかもしれませんが、なにとぞ、よろしくお願いします」
くわっ、と顔の影を濃くして屁怒絽は帰っていった。
銀時と新八は顔を見合わせて、思ったことを全力で叫ぶ。
「恐ェェェェェェェ!!」
「恐ェェェェェェよ!なんだよアレよォォ!!となりのヘドロ、めっちゃ恐ェェェェ!!」
今まで笑顔で屁怒絽と話していた篠木が、頭を前後にゆらゆら揺らしていた。
しかも目は虚ろ。
「……篠木さん?」
「篠木?なんか変ネ、大丈夫アルか?」
なんかヤバイ、と銀時が不安を抱いた瞬間、崩れ落ちるように座り込んだ。
「うわっ!」
「「篠木!」」
いきなり座り込んだ彼女の顔を覗き込むと、なんと怯えるように青ざめていた。
銀時達は驚いた。
「くっ…このあたしでさえも、笑顔でいても震えが止まらないわ」
圧倒的な美貌と社交術に関しては全く隙がない彼女。
そんな資質の持ち主でさえ、恐いものは恐かった。
「ひょっとしてアレかァァ!!アレ、ヘドロの森か、おいィィ!!」
「うわっ、なんスか、アレ!?メッチャ花粉飛ばしてるじゃないスか!」
二人が騒ぐ視線の先へ目を向けると、木々が生い茂るその場所は……なんとお隣さん。
屋根のあちこちから突き出した植物が、多くの花粉を撒き散らしていた。
見てるだけで鼻が悲鳴をあげそうな光景に、銀時達の顔が恐怖に引きつる。
「江戸の花粉騒ぎは、アレが源 だったのか…どうりで、みんなほったからしにしてるハズだ、クレームつけたら殺されそうだもん」
「あの顔で花屋やってますって聞いた途端『それ、なんてホラー映画?』って思っちゃったわよ」
唯一、普通にしている神楽が首を傾げる。
「でも、お花屋さんって言ってたヨ」
「バカ言ってんじゃねーよ。どう見てもあのツラ、地球征服しにきたツラだろーが」
銀時は大げさに、屁怒絽の外見で人物像を評価。
そして、険しく表情を引き締めて憶測を測る。
「昼間は花屋で、夜は本業の地球征服してんだよ。花粉で人々を弱らせてから、地球征服するつもりなんだよ」
「「マジでか!!」」
ひどく真面目な表情で告げられて、篠木と神楽はすっかり信じてしまった。
「あっ、そういえば花置いていったけど、アレ……」
テーブルに置かれた花に視線が集まる。
次の瞬間、四人は居間を飛び出した。
一匹、鼻ちょうちんを膨らましてソファを占領する定春が取り残される。
「あっ、定春、早く来るアル、爆発するヨ!!」
「えっ!!爆発すんの!?」
「定春のことは諦めろ、早くしねーと毒ガスが!」
「えっ!?毒ガス出るの!?」
勿論、ただの植木鉢なので爆発や毒ガスなど出ない。
「定春ゥゥ!!そんな、これでお別れなんて、ひどいヨ!!」
滂沱と涙を流しながら連れ戻そうとする神楽は、銀時に止められる。
「回覧板デース」
すると、マスクをつけたキャサリンが乱暴に回覧板を放り投げてきた。
「キャサリンあんた、回覧板なんて回してる場合じゃないでしょーが!」
「地球が征服されっかもしれねーんだぞ!」
狼狽する二人に、新八が声をかける。
「あっ!!銀さん、篠木さん!大変だ!!回覧板、次…となりのヘドロさんちだ!!」
様々な花と植物が彩る鉢に水をやっているのは、エプロンをつけている屁怒絽である。
店の顔であるはずの看板が怖い。
『ヘドロの森』と書かれているが、血が滴っているようにも見える。
四人は今、キャバクラの看板の影に隠れ、屁怒絽の様子を窺っていた。
「ホントに花屋やってますよ」
「誰が買いにくるんだよ。あんなおっかねー店」
どうしてそんなことをしているのかといえば、キャサリンが持って来た回覧板から全てが始まったのだ。
「でも、なんかスゴク楽しそうにしてるアル。とても地球を征服しにきたようには見えないネ」
「そりゃ楽しいだろうよ。地球を征服するための尖兵(センペイ)たる、悪魔の花を育てているんだから」
銀時論では、屁怒絽は植物を使って地球征服をしにやって来たとのこと。
そんな恐ろしい屁怒絽とはお隣同士。
つまり、回覧板をあの魔の植物園の主へ届けなくてはならないのだが……。
「それより、どうやって回覧板渡す?」
話し合いの結果、四人はジャンケンをして決める。
『ジャンケーン、ポン!』
結果、新八が負けた。
「うわっ、マジすか!?うわっ、僕っすか!?」
「直接渡す必要はねェ。なにより、危険だしな。通行人Aのふりをして、通り過ぎざまに回覧板を置き去ってこい」
うろたえる彼へ、銀時は直接渡すのではなく、通行人のフリをして置いてこいとアドバイスする。
「通行人Aって、BもCもいないじゃないスか。恐がって、誰も歩いてねーよ、明らかにAが浮くよ」
新八の言う通り、屁怒絽の悪人面からか道路には誰一人、いや動物一匹もいない。
これでは普段、視界を通り過ぎるだけの者もピンポイントで注目の的になってしまう。
「心配するな。通行人ならいる」
だが、銀時は自信たっぷりに答えた。
「ちゃーん」
髪を頭頂部で一つに結った神楽が入った乳母車を、編み笠を被り袴姿の銀時が引いていた。
ぶっちゃけ、子連れでさすらう狼である。
「ちゃーん、ちゃーん」
――いねーよ、そんな、通行人B。
二人の姿……というか、場違いな格好を見た新八は胸中でつっこむ。
屁怒絽の様子を窺うと、コスプレした二人をじっと見つめていた。
――ヤバイ!
――ヘドロ見てる!
――ヘドロ、メッチャ見てる!
――Bィィ、見られてるよ!!
――Bィ!!
すると、時代がかった物言いで銀時が口を開く。
「ああ。なんてことでござる。妻がいなくなってからというもの、息子が…」
「ちゃーん」
「しか、しゃべらなくなってしまった」
「ちゃーん」
「『ちゃん』とは、父の意を指す。母を失って拙者しか頼るもののない今、これは仕方なきことだが、このまま直らなかったらどうしよう。例えば…」
――例えば、父が新聞紙を読んでいた時、
「ちゃーん。ちゃんちゃんこ貸してちゃん」
「え?何?何?もっかい言って」
――ということが起きるかもしれない。
「…このままじゃ、生活もままならないぞ。でも直すのもなァ、ちゃんちゃん呼ばれるのも、なんか尊敬されてるみたいで気分いいし」
――父はしらなかった。
「はくしゅん!」
「はくしょん!」
「まいけるじゃくそん!!」
いきなり盛大なくしゃみをする万事屋四人。
共に鼻を赤くしてはくしゃみの連続、鼻をすすってティッシュを求める。
「オイ、まいけるじゃくそんはないだろ。篠木を見習え。それはお前、くしゃみじゃ…じゃねっとじゃくそん!!」
銀時は神楽につっこむが、くしゃみのせいで最後まで言い切れない。
「へくしゅん!」
「まえだたいそん!」
「うるせーよ、普通にしろ!」
くしゃみまでもボケてしまう二人に、新八のツッコミが飛ぶ。
こんなに酷い花粉症は初めてのようで、ティッシュで鼻をかむ。
「あー、ムズムズする。今年の花粉は例年にも、ましてヒドイなァ」
「もう街中、みんな花粉症でグジュグジュになってるわよ。どーなってるのかしら?」
――一歩外に出ればくしゃみは止まらず、目は
「スギ花粉じゃねーらしいよ、今年は。なんかどこだかの星の植物らしくて、タチ悪いらしい、ブェークション」
くしゃみも鼻水も多少出る程度で済むのだが、今年は倍以上なんてものではない。
「あー、チクショ、この作品は…フィクショーン!!であり、非公式同人サイトです。実在の人物・団体・事件などにはいっさい、関係ありません」
フィクションの作品によく書かれる、いわば常套句をわざわざ言う銀時。
しかしながら、あからさまにフィクションであることがわかるような作品というよりは、舞台としては地球であったりする場合によく用いられる。
「余計な気を回さんでいいわ!」
「なんかババァもよォ、寝こんじまって店休んでるらしいよ」
「これは、当分家、出ない方がいいみたい」
言ってる傍から、神楽が新しいティッシュを買ってくるよう新八に言いつける。
「あっ、ティッシュきれた、新八、買ってこいヨ」
「話きいてた!?」
「いいから買ってこいヨ。どうせティッシュ買ってくるしか能がないくせに」
あまりに理不尽なジャイアン発言。
新八と神楽の取っ組み合いが始まった。
「お前やっぱ、星に帰れェェェ!!」
篠木は鼻をすすりながら仲裁に入り、銀時はティッシュの代わりになるものを探し始める。
「ぶェっくしっ。あー、なんか内も外も変わんねー気がしてきたぜ。オイ篠木、トイレットペーパーがあったぞ」
「ワォ。マジで」
銀時は篠木を呼んで、何故か和室にあったトイレットペーパーを渡す。
捻りっぱなしの水道のごとく放水する鼻水に苦しむ篠木は、花粉の原因について考える。
「それにしても一体、どこから入ってくるのかしら?この花粉。意外と近場で花粉まき散らされてるのかも」
「いや、でも、このかぶき町に植物なんて…ん」
銀時は言いかけて、開けっ放しだったベランダに視線を移し、言葉を失う。
「銀、どうし…ワォ」
様子のおかしな彼に首を傾げていた篠木もベランダの外を見て、絶句した。
万事屋のすぐ近くに、見慣れない建物が存在していた。
建物の至るところから枝が伸び、
歌舞伎町の街並みとはあまりにミスマッチだ。
「あり?うそ?あり?」
「え?何アレ?え?」
外の光景を信じられない思いで眺める銀時は目を擦り、篠木は目を見開き、何度も確認する。
そんな二人の後ろでは、神楽に殴りかかるが、逆に返り討ちにされた新八。
その時、呼び鈴の音が鳴った。
神楽と必死の攻防をしていた新八が鼻血を垂らして玄関の戸を開ける。
「ハーイ」
万事屋に訊ねてきたのは、獅子の頭をもつ凶相としか映らない男だった。
黒い
頭頂部には、あまりにも似つかわしくない花が一輪、咲いている。
「どうも初めまして、となりに越してきました。
丁寧な口調の割に、遠雷のように重く低い声。
尋常じゃない恐ろしさの形相により、垂れ流していた鼻血がより大量に出血。
後から続いて玄関を覗いた銀時も同様。
屁怒絽の顔面に後ずさる。
「今日はごあいさつにあがりました。僕、花屋をやっていまして。お近づきの印にこれ、どうぞ」
差し出された植木鉢。
誰も近づくことができず、受け取ることもできない。
「まぁ、それはどうも、ありがとうございます。お気を使わせてしまってすいません」
その時、素晴らしい笑顔をその美貌に貼りつけた篠木が前に出た。
「篠木と言います。困ったことがあったなら、気軽に声をかけてくださいね」
「篠木さんですか。ありがとうございます」
輝くような笑顔で言われ、屁怒絽は恐ろしい相貌を歪めて笑った。
だが、それは逆効果で、ついに静かに泣き出す銀時。
「いろいろと御迷惑をおかけるかもしれませんが、なにとぞ、よろしくお願いします」
くわっ、と顔の影を濃くして屁怒絽は帰っていった。
銀時と新八は顔を見合わせて、思ったことを全力で叫ぶ。
「恐ェェェェェェェ!!」
「恐ェェェェェェよ!なんだよアレよォォ!!となりのヘドロ、めっちゃ恐ェェェェ!!」
今まで笑顔で屁怒絽と話していた篠木が、頭を前後にゆらゆら揺らしていた。
しかも目は虚ろ。
「……篠木さん?」
「篠木?なんか変ネ、大丈夫アルか?」
なんかヤバイ、と銀時が不安を抱いた瞬間、崩れ落ちるように座り込んだ。
「うわっ!」
「「篠木!」」
いきなり座り込んだ彼女の顔を覗き込むと、なんと怯えるように青ざめていた。
銀時達は驚いた。
「くっ…このあたしでさえも、笑顔でいても震えが止まらないわ」
圧倒的な美貌と社交術に関しては全く隙がない彼女。
そんな資質の持ち主でさえ、恐いものは恐かった。
「ひょっとしてアレかァァ!!アレ、ヘドロの森か、おいィィ!!」
「うわっ、なんスか、アレ!?メッチャ花粉飛ばしてるじゃないスか!」
二人が騒ぐ視線の先へ目を向けると、木々が生い茂るその場所は……なんとお隣さん。
屋根のあちこちから突き出した植物が、多くの花粉を撒き散らしていた。
見てるだけで鼻が悲鳴をあげそうな光景に、銀時達の顔が恐怖に引きつる。
「江戸の花粉騒ぎは、アレが
「あの顔で花屋やってますって聞いた途端『それ、なんてホラー映画?』って思っちゃったわよ」
唯一、普通にしている神楽が首を傾げる。
「でも、お花屋さんって言ってたヨ」
「バカ言ってんじゃねーよ。どう見てもあのツラ、地球征服しにきたツラだろーが」
銀時は大げさに、屁怒絽の外見で人物像を評価。
そして、険しく表情を引き締めて憶測を測る。
「昼間は花屋で、夜は本業の地球征服してんだよ。花粉で人々を弱らせてから、地球征服するつもりなんだよ」
「「マジでか!!」」
ひどく真面目な表情で告げられて、篠木と神楽はすっかり信じてしまった。
「あっ、そういえば花置いていったけど、アレ……」
テーブルに置かれた花に視線が集まる。
次の瞬間、四人は居間を飛び出した。
一匹、鼻ちょうちんを膨らましてソファを占領する定春が取り残される。
「あっ、定春、早く来るアル、爆発するヨ!!」
「えっ!!爆発すんの!?」
「定春のことは諦めろ、早くしねーと毒ガスが!」
「えっ!?毒ガス出るの!?」
勿論、ただの植木鉢なので爆発や毒ガスなど出ない。
「定春ゥゥ!!そんな、これでお別れなんて、ひどいヨ!!」
滂沱と涙を流しながら連れ戻そうとする神楽は、銀時に止められる。
「回覧板デース」
すると、マスクをつけたキャサリンが乱暴に回覧板を放り投げてきた。
「キャサリンあんた、回覧板なんて回してる場合じゃないでしょーが!」
「地球が征服されっかもしれねーんだぞ!」
狼狽する二人に、新八が声をかける。
「あっ!!銀さん、篠木さん!大変だ!!回覧板、次…となりのヘドロさんちだ!!」
様々な花と植物が彩る鉢に水をやっているのは、エプロンをつけている屁怒絽である。
店の顔であるはずの看板が怖い。
『ヘドロの森』と書かれているが、血が滴っているようにも見える。
四人は今、キャバクラの看板の影に隠れ、屁怒絽の様子を窺っていた。
「ホントに花屋やってますよ」
「誰が買いにくるんだよ。あんなおっかねー店」
どうしてそんなことをしているのかといえば、キャサリンが持って来た回覧板から全てが始まったのだ。
「でも、なんかスゴク楽しそうにしてるアル。とても地球を征服しにきたようには見えないネ」
「そりゃ楽しいだろうよ。地球を征服するための尖兵(センペイ)たる、悪魔の花を育てているんだから」
銀時論では、屁怒絽は植物を使って地球征服をしにやって来たとのこと。
そんな恐ろしい屁怒絽とはお隣同士。
つまり、回覧板をあの魔の植物園の主へ届けなくてはならないのだが……。
「それより、どうやって回覧板渡す?」
話し合いの結果、四人はジャンケンをして決める。
『ジャンケーン、ポン!』
結果、新八が負けた。
「うわっ、マジすか!?うわっ、僕っすか!?」
「直接渡す必要はねェ。なにより、危険だしな。通行人Aのふりをして、通り過ぎざまに回覧板を置き去ってこい」
うろたえる彼へ、銀時は直接渡すのではなく、通行人のフリをして置いてこいとアドバイスする。
「通行人Aって、BもCもいないじゃないスか。恐がって、誰も歩いてねーよ、明らかにAが浮くよ」
新八の言う通り、屁怒絽の悪人面からか道路には誰一人、いや動物一匹もいない。
これでは普段、視界を通り過ぎるだけの者もピンポイントで注目の的になってしまう。
「心配するな。通行人ならいる」
だが、銀時は自信たっぷりに答えた。
「ちゃーん」
髪を頭頂部で一つに結った神楽が入った乳母車を、編み笠を被り袴姿の銀時が引いていた。
ぶっちゃけ、子連れでさすらう狼である。
「ちゃーん、ちゃーん」
――いねーよ、そんな、通行人B。
二人の姿……というか、場違いな格好を見た新八は胸中でつっこむ。
屁怒絽の様子を窺うと、コスプレした二人をじっと見つめていた。
――ヤバイ!
――ヘドロ見てる!
――ヘドロ、メッチャ見てる!
――Bィィ、見られてるよ!!
――Bィ!!
すると、時代がかった物言いで銀時が口を開く。
「ああ。なんてことでござる。妻がいなくなってからというもの、息子が…」
「ちゃーん」
「しか、しゃべらなくなってしまった」
「ちゃーん」
「『ちゃん』とは、父の意を指す。母を失って拙者しか頼るもののない今、これは仕方なきことだが、このまま直らなかったらどうしよう。例えば…」
――例えば、父が新聞紙を読んでいた時、
「ちゃーん。ちゃんちゃんこ貸してちゃん」
「え?何?何?もっかい言って」
――ということが起きるかもしれない。
「…このままじゃ、生活もままならないぞ。でも直すのもなァ、ちゃんちゃん呼ばれるのも、なんか尊敬されてるみたいで気分いいし」
――父はしらなかった。