第五十六訓
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――人々の見上げる頭上で、夜空に乱れ咲く大輪の花火が打ち上げられる。
――河川敷には、差し渡された裸電の明かりとスピーカーの喧騒、これでもかという雑踏で、光と音と人、全てをごった返しにして、祭りという非日常の熱狂を現出させていた。
「オーイ、見てるか、アレ、アレ!」
――河川敷に溢れ返る人波の中、男が打ち上げられる破裂の音に負けないくらいの大声で花火を指差す。
「アレ、俺つくった花火!!見た?見た?」
「うるっさいねー、恥ずかしいから、デカイ声出すんじゃないよ!!」
――傍らに座る女性はその大声に耐えかね、怒鳴る。
「なんだか、いびつな形してるねェ」
「小さい事、ガタガタ言うなや~。冷めるわ~、ホント冷めるわ~」
「フフ。でもやっぱり、花火ってキレイね」
――女性は目を細めて、夜空を鮮やかに染める大輪の花火を見つめる。
「ほんの一瞬だけ、キレイな花咲かせて、あっという間に散ってしまう。まるで、私ら人間みたいじゃないか」
――一抹の寂しさを胸に抱く間にも次の花火が上がり、闇を照らした。
豪華な和風造りの屋敷に招待された万事屋四人は食堂に通されるなり、豪華な料理を振る舞われた。
「オイオイオイ。なんだ、こりゃ。コレ、どう見てもかたつむりじゃねーか。何?いやがらせ?」
「コレ、アレですよ。『えすかるご』だかなんだかいう、高級料理っスよ。多分」
落ち着かない気分を持て余しながら、たくさんの料理が並べられたテーブルを観察する。
中でも目を惹くのが、皿に置かれた食用カタツムリ。
前菜として食卓に供されるフランス料理のエスカルゴである。
「マジでか」
「きいたことがあるわ。確か『ふるこーす』とかいうの…」
響古は優雅な振る舞いを心がけてはいた。
しかし、落ち着かないのも事実だった。
割と空腹ではあったが、料理を食べるのもなんとなくためらわれる。
何しろ食べ方がわからない。
「ちょっと、ちょっと。コレ、今回の仕事は期待できるんじゃないスか、いきなりのおもてなしがコレだもん」
貧乏人丸出しの会話を繰り広げ、期待を膨らます新八。
すると、銀時は諭すように言った。
「バカヤロー、舞いあがってんな。こんなモン食ったら大恥かくぞ。俺達はなァ、マナーを試されてるんだよ」
四人の後ろには、坊主頭の執事がにこやかな笑みを浮かべて控えている。
「見ろ、お手伝いさん、半笑いだろ?」
「ホントネ。でも、そしたら、このでんでん虫、何に使うアルか?」
「観察かしら?」
響古が難しい顔で言えば、新八は胡乱な表情になる。
「料理に出されてる、生命反応のないものの何を観察するんスか」
「皿だよ響古、これに食い物 乗せて食うんだよ。きっと」
「皿って…皿の上に乗ってるじゃないスか、既に」
「コーヒーカップだって、皿の上に乗ってるんだろーが。なんかそんなんがオシャレなんだよ」
依頼人を待つ合間に低く響く、貧乏人丸出しの会話。
「お前らホントッ、田舎モノな」
呆れた口調で毒を吐いたのは勿論、神楽だった。
「あ、響古は違うアルヨ。私の見とくネ」
男達にだけ毒を吐き、唇を笑みの形に歪める。
すると上半身を捻って、後ろめがけてエスカルゴを投げた。
「すいませーん、水おかわりィィ!!」
ブーメランのように回転するエスカルゴは執事に命中する。
「あー、なるほど。お手伝いさん呼ぶ時に使うんだ。だから円盤状なんだ」
次いで、銀時もエスカルゴを投げつけ、執事にぶつける。
凄惨なリンチの始まりだった。
「お手伝いさん、俺は箸、もってきて」
「コレ、ちょっと違うんじゃないスか?」
「呼ぶ時…っていうか、もはやリンチじゃん」
「あってるって、半笑いやめたじゃん…アレ?泣いてる?」
エスカルゴを投げつけるのを止め、何故か殴り始める銀時と神楽。
改めてエスカルゴの食べ方が問われたその時、それを頭に乗せた老人が現れ、勝手に料理を食べていた。
「誰だアレ、オイ。え?かたつむりの妖精?」
「頭の上に乗せてるヨ。でんでん虫」
「え?あーゆーカンジじなの?あーゆーカンジでいいの?」
「なるほど。アレが『えすかるご』の使い方なのね」
勝手に料理を食べる老人をそのままに、四人も食事を始める。
しばらくして、小太りの男性が柔和な笑みを浮かべて食堂に入ってきた。
「万事屋さ~ん、すいませ~ん、遅れて。ちょっと母の体調が悪くて」
用事で遅れた男性は食堂に入った途端、ぎょっとした。
食事を愉しむ万事屋四人と老人、そして後ろの執事までもが頭にエスカルゴを乗せている。
「何やってんですかァァ、アンタらァァァ」
というわけで、依頼人のツッコミで仕切り直しとなった。
「スイマッセン。僕ら、こういうのあんまり慣れてないもので」
開口一番、新八は謝る。
依頼人は朗らかに笑って許してくれた。
「アッハッハッハッ。いや、いいんですよ。それより、さっそく父と仲良くなったようで、安心しましたよ」
「え?父?」
「ええ。実はそれ、僕の父でして。今回、あなた達を呼んだのは、父の世話をしてもらおうと思ってのことなんです」
銀時がおもむろに視線を向けると、自分の料理を食べている老人に声を荒げる。
「てめっ!エスカルゴジジイ、それは俺の…」
「誰がピタゴラスの定理じゃああああ!!」
老人はいきなり、彼の頭にフォークを突き刺す。
一瞬の迷いもなく繰り出された切っ先で血が噴き出し、
「ギャアアアア」
哀れな男の悲鳴が響いた。
「すいません。あの、ウチの父ちょっと、痴呆の方が進んでおりまして」
依頼人は申し訳なさそうに苦笑して、今回の依頼について話し始めた。
「一代で角屋をここまで大きくして、江戸一番の花火師と言われていた程の人だったんですが、倒れた母の面倒を見るといって引退して以来、様子がおかしくなって」
老人――彼の父親は昔、一人前になるにも10年が必要だと言われている難易度の高い花火師の職業を一代で築き上げた。
今は隠居して病気になった妻の面倒を見ているらしい。
「夜中に徘徊したり、外に出たきり二、三日戻ってこなかったり、手に負えなくなってきまして…」
ところが、ここ最近になって夜中に徘徊、外出したまま戻って来なかったりと不可解な行動が続いているのだ。
この後、食事はつつがなく進む。
豪華な料理を食べ終え、四人は老人の世話を始めた。
「よーし、よーし」
広い庭へと移動すると、ペットのゴールデンレトリバーを撫でる。
「ジャンクロードワンダム、今日も毛だらけだな、お前。なんで顔まで毛、生えてんだ。よーし、よーし」
早速、自分の撫でているものが犬だと理解できていない。
すると、動物好きの神楽も瞳を輝かせて撫でてやる。
「へェ。ジャンノクソーマンダムっていうんだ、カワイイネ」
「違う違う。ジャンクソーマミレだ」
「へェー。クソマミレジャンっていうんだ、カワイイネ」
「そうそう。マイケルJドックスってんだ」
見事に話が噛み合っていない光景を、縁側で銀時達が眺めていた。
すぐ横には『太郎』とつけられた犬小屋がある。
「…気が合うみたいですね」
「話はかみあってないけどね。それにしても、男はモロいわね」
しみじみと言えば、彼女の膝枕で横になる銀時も頷く。
「女は、旦那が死んでもけっこう元気にやってくもんなのよ、意外と。でも男ときたら嫁さんに先立たれると、みるみる弱っていっちまうもんなァ、悲しいかな」
小指を鼻の奥に突っ込んで、気だるげに話す銀時は締まらない申告をする。
「ま、俺も響古に先立たれることがあったら、あの世の果てまで追いかけていっちまうだろーな」
「アラ、あたしがそう簡単に死ぬと思って?冗談はよしなさい、銀」
にっこりと微笑む黒髪の恋人の顔を見て、銀時は顔を引きつらせた。
どうやら失言だったらしい。
気づかなかった。
「痛っ、響古、ちょっと本気でひはははは(いたたたた)」
冷たい微笑みを浮かべた響古は銀時の頬を白い指でつねる。
「いや、まだ奥さん、死んでませんし。響古さんがいないとアンタ、ホント駄目人間だから」
新八、まずそこをつっこむ。
そして、依頼人から聞かされた話では、父親がおかしくなったのは妻の看病を始めてからだと言う。
「三年前に倒れてから、もうもうずっと寝たきりなんですって。その面倒見るって花火やめたのに、そのせいでボケちゃうなんて…やっぱり花火好きだったんだ」
別室では重い病に臥 せった老婆を、付き添いの家政婦が甲斐甲斐しく世話している。
「そう思うと、なんか、おじいちゃんもかわいそ…クソジジイぃぃぃぃ、何やってんだァァァ!!」
松の木に登る老人の姿を見た途端、新八の心は同情から怒りへと素早い変化を遂げた。
「愛人に会いにいくんだって」
老人と楽しそうに話していた神楽が説明する。
「いるかァァァァ、んなもん!!また、屋敷ぬけだしてフラフラするつもりだよ、降りてこいィィ!!」
「キャホゥゥゥ」
新八が声を張り上げて叫ぶが、老人は奇声をあげて全く降りてくる気配がない。
「どけ」
彼は唐突に、馴染みの声を聞いた。
振り向く。
こちらに近づいてくるのは銀時と響古だった。
「響古」
「あいよ」
老人を大人しくさせる意思を目に込めると、響古はいつもと変わらぬ華麗さで頷く。
二人は木刀をバットのように握りしめた。
軽く振るだけで風が唸りをあげる。
「「わたァァァァ!!」」
直後、思い切り振りかぶって松の木をへし折ってしまった。
「え゙え゙え゙え゙え゙!!」
新八が驚きのあまり絶叫する。
――河川敷には、差し渡された裸電の明かりとスピーカーの喧騒、これでもかという雑踏で、光と音と人、全てをごった返しにして、祭りという非日常の熱狂を現出させていた。
「オーイ、見てるか、アレ、アレ!」
――河川敷に溢れ返る人波の中、男が打ち上げられる破裂の音に負けないくらいの大声で花火を指差す。
「アレ、俺つくった花火!!見た?見た?」
「うるっさいねー、恥ずかしいから、デカイ声出すんじゃないよ!!」
――傍らに座る女性はその大声に耐えかね、怒鳴る。
「なんだか、いびつな形してるねェ」
「小さい事、ガタガタ言うなや~。冷めるわ~、ホント冷めるわ~」
「フフ。でもやっぱり、花火ってキレイね」
――女性は目を細めて、夜空を鮮やかに染める大輪の花火を見つめる。
「ほんの一瞬だけ、キレイな花咲かせて、あっという間に散ってしまう。まるで、私ら人間みたいじゃないか」
――一抹の寂しさを胸に抱く間にも次の花火が上がり、闇を照らした。
豪華な和風造りの屋敷に招待された万事屋四人は食堂に通されるなり、豪華な料理を振る舞われた。
「オイオイオイ。なんだ、こりゃ。コレ、どう見てもかたつむりじゃねーか。何?いやがらせ?」
「コレ、アレですよ。『えすかるご』だかなんだかいう、高級料理っスよ。多分」
落ち着かない気分を持て余しながら、たくさんの料理が並べられたテーブルを観察する。
中でも目を惹くのが、皿に置かれた食用カタツムリ。
前菜として食卓に供されるフランス料理のエスカルゴである。
「マジでか」
「きいたことがあるわ。確か『ふるこーす』とかいうの…」
響古は優雅な振る舞いを心がけてはいた。
しかし、落ち着かないのも事実だった。
割と空腹ではあったが、料理を食べるのもなんとなくためらわれる。
何しろ食べ方がわからない。
「ちょっと、ちょっと。コレ、今回の仕事は期待できるんじゃないスか、いきなりのおもてなしがコレだもん」
貧乏人丸出しの会話を繰り広げ、期待を膨らます新八。
すると、銀時は諭すように言った。
「バカヤロー、舞いあがってんな。こんなモン食ったら大恥かくぞ。俺達はなァ、マナーを試されてるんだよ」
四人の後ろには、坊主頭の執事がにこやかな笑みを浮かべて控えている。
「見ろ、お手伝いさん、半笑いだろ?」
「ホントネ。でも、そしたら、このでんでん虫、何に使うアルか?」
「観察かしら?」
響古が難しい顔で言えば、新八は胡乱な表情になる。
「料理に出されてる、生命反応のないものの何を観察するんスか」
「皿だよ響古、これに食い
「皿って…皿の上に乗ってるじゃないスか、既に」
「コーヒーカップだって、皿の上に乗ってるんだろーが。なんかそんなんがオシャレなんだよ」
依頼人を待つ合間に低く響く、貧乏人丸出しの会話。
「お前らホントッ、田舎モノな」
呆れた口調で毒を吐いたのは勿論、神楽だった。
「あ、響古は違うアルヨ。私の見とくネ」
男達にだけ毒を吐き、唇を笑みの形に歪める。
すると上半身を捻って、後ろめがけてエスカルゴを投げた。
「すいませーん、水おかわりィィ!!」
ブーメランのように回転するエスカルゴは執事に命中する。
「あー、なるほど。お手伝いさん呼ぶ時に使うんだ。だから円盤状なんだ」
次いで、銀時もエスカルゴを投げつけ、執事にぶつける。
凄惨なリンチの始まりだった。
「お手伝いさん、俺は箸、もってきて」
「コレ、ちょっと違うんじゃないスか?」
「呼ぶ時…っていうか、もはやリンチじゃん」
「あってるって、半笑いやめたじゃん…アレ?泣いてる?」
エスカルゴを投げつけるのを止め、何故か殴り始める銀時と神楽。
改めてエスカルゴの食べ方が問われたその時、それを頭に乗せた老人が現れ、勝手に料理を食べていた。
「誰だアレ、オイ。え?かたつむりの妖精?」
「頭の上に乗せてるヨ。でんでん虫」
「え?あーゆーカンジじなの?あーゆーカンジでいいの?」
「なるほど。アレが『えすかるご』の使い方なのね」
勝手に料理を食べる老人をそのままに、四人も食事を始める。
しばらくして、小太りの男性が柔和な笑みを浮かべて食堂に入ってきた。
「万事屋さ~ん、すいませ~ん、遅れて。ちょっと母の体調が悪くて」
用事で遅れた男性は食堂に入った途端、ぎょっとした。
食事を愉しむ万事屋四人と老人、そして後ろの執事までもが頭にエスカルゴを乗せている。
「何やってんですかァァ、アンタらァァァ」
というわけで、依頼人のツッコミで仕切り直しとなった。
「スイマッセン。僕ら、こういうのあんまり慣れてないもので」
開口一番、新八は謝る。
依頼人は朗らかに笑って許してくれた。
「アッハッハッハッ。いや、いいんですよ。それより、さっそく父と仲良くなったようで、安心しましたよ」
「え?父?」
「ええ。実はそれ、僕の父でして。今回、あなた達を呼んだのは、父の世話をしてもらおうと思ってのことなんです」
銀時がおもむろに視線を向けると、自分の料理を食べている老人に声を荒げる。
「てめっ!エスカルゴジジイ、それは俺の…」
「誰がピタゴラスの定理じゃああああ!!」
老人はいきなり、彼の頭にフォークを突き刺す。
一瞬の迷いもなく繰り出された切っ先で血が噴き出し、
「ギャアアアア」
哀れな男の悲鳴が響いた。
「すいません。あの、ウチの父ちょっと、痴呆の方が進んでおりまして」
依頼人は申し訳なさそうに苦笑して、今回の依頼について話し始めた。
「一代で角屋をここまで大きくして、江戸一番の花火師と言われていた程の人だったんですが、倒れた母の面倒を見るといって引退して以来、様子がおかしくなって」
老人――彼の父親は昔、一人前になるにも10年が必要だと言われている難易度の高い花火師の職業を一代で築き上げた。
今は隠居して病気になった妻の面倒を見ているらしい。
「夜中に徘徊したり、外に出たきり二、三日戻ってこなかったり、手に負えなくなってきまして…」
ところが、ここ最近になって夜中に徘徊、外出したまま戻って来なかったりと不可解な行動が続いているのだ。
この後、食事はつつがなく進む。
豪華な料理を食べ終え、四人は老人の世話を始めた。
「よーし、よーし」
広い庭へと移動すると、ペットのゴールデンレトリバーを撫でる。
「ジャンクロードワンダム、今日も毛だらけだな、お前。なんで顔まで毛、生えてんだ。よーし、よーし」
早速、自分の撫でているものが犬だと理解できていない。
すると、動物好きの神楽も瞳を輝かせて撫でてやる。
「へェ。ジャンノクソーマンダムっていうんだ、カワイイネ」
「違う違う。ジャンクソーマミレだ」
「へェー。クソマミレジャンっていうんだ、カワイイネ」
「そうそう。マイケルJドックスってんだ」
見事に話が噛み合っていない光景を、縁側で銀時達が眺めていた。
すぐ横には『太郎』とつけられた犬小屋がある。
「…気が合うみたいですね」
「話はかみあってないけどね。それにしても、男はモロいわね」
しみじみと言えば、彼女の膝枕で横になる銀時も頷く。
「女は、旦那が死んでもけっこう元気にやってくもんなのよ、意外と。でも男ときたら嫁さんに先立たれると、みるみる弱っていっちまうもんなァ、悲しいかな」
小指を鼻の奥に突っ込んで、気だるげに話す銀時は締まらない申告をする。
「ま、俺も響古に先立たれることがあったら、あの世の果てまで追いかけていっちまうだろーな」
「アラ、あたしがそう簡単に死ぬと思って?冗談はよしなさい、銀」
にっこりと微笑む黒髪の恋人の顔を見て、銀時は顔を引きつらせた。
どうやら失言だったらしい。
気づかなかった。
「痛っ、響古、ちょっと本気でひはははは(いたたたた)」
冷たい微笑みを浮かべた響古は銀時の頬を白い指でつねる。
「いや、まだ奥さん、死んでませんし。響古さんがいないとアンタ、ホント駄目人間だから」
新八、まずそこをつっこむ。
そして、依頼人から聞かされた話では、父親がおかしくなったのは妻の看病を始めてからだと言う。
「三年前に倒れてから、もうもうずっと寝たきりなんですって。その面倒見るって花火やめたのに、そのせいでボケちゃうなんて…やっぱり花火好きだったんだ」
別室では重い病に
「そう思うと、なんか、おじいちゃんもかわいそ…クソジジイぃぃぃぃ、何やってんだァァァ!!」
松の木に登る老人の姿を見た途端、新八の心は同情から怒りへと素早い変化を遂げた。
「愛人に会いにいくんだって」
老人と楽しそうに話していた神楽が説明する。
「いるかァァァァ、んなもん!!また、屋敷ぬけだしてフラフラするつもりだよ、降りてこいィィ!!」
「キャホゥゥゥ」
新八が声を張り上げて叫ぶが、老人は奇声をあげて全く降りてくる気配がない。
「どけ」
彼は唐突に、馴染みの声を聞いた。
振り向く。
こちらに近づいてくるのは銀時と響古だった。
「響古」
「あいよ」
老人を大人しくさせる意思を目に込めると、響古はいつもと変わらぬ華麗さで頷く。
二人は木刀をバットのように握りしめた。
軽く振るだけで風が唸りをあげる。
「「わたァァァァ!!」」
直後、思い切り振りかぶって松の木をへし折ってしまった。
「え゙え゙え゙え゙え゙!!」
新八が驚きのあまり絶叫する。