第五十五訓
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「あーーー。ちょいと、ちょいと」
首から下げた笛を、ピー、と鳴らして、沖田は珍しく検問の仕事をしていた。
「は~い、ちょっと止まってェ」
「ダメだよ~、お兄さん。夜はちゃんと、提灯つけて走んないと。えーと…コレ、防犯登録してる?」
沖田の他に、丸眼鏡をかけた隊士が調べにかかる。
編み笠を深く被り、自転車を漕 いでいた男は隊士の質問に曖昧に答えた。
「あー、ちょっとわかんないスけど、友達からもらったんでェ」
「あー、そォ、買い物帰り?何それ?エロ本?エロ本か?」
沖田の怪しいつぶやきを無視して、わずらわしそうに急かす。
「あの、もういいっスか行って?忙しいんで」
「最近、この辺、下着泥棒多くてね~。しってる?怪盗フンドシ仮面…アレまた、脱獄してさァ」
女性の下着を盗み、モテない男達に配るというふんどし仮面の脱獄。
その捜査のため、通行人や自動車などを止めて調べているのである。
「僕はトランクス派なんで。じゃっ」
「あー、ちょっと、待ってお兄さん。身分を証明するものとかもってる?」
答えになっていない答えを返して、男は逃げるように自転車を漕ぐ。
「ちょっ…お兄さん!」
その途中、編み笠が風圧で飛ばされ、男の正体が明かされる。
男にしては艶のある長い黒髪。
いかにも貴公子然とした涼やかな容貌の持ち主だ。
途端、隊士が顔色を変える。
「おっ、沖田隊長、あのロン毛は!!」
テロリストとして指名手配されている桂を指差し、叫ぶ。
「みーっけ」
沖田はパトカーの中からバズーカを取り出すと、桂めがけて撃ち放った。
「カーツラぁぁぁ!!」
見開かれた目が、迫りくる砲撃で視界一面に広がる。
直後、彼の乗る自転車は粉々に破壊された。
「…あばよ、桂」
バズーカを肩にのせて台詞を吐く沖田を、屋根の上から桂が見下ろす。
「あばよ」
不意にズキリと痛みが襲う。
沖田の攻撃を避けきれなかったらしく、左の足首に傷を負っていた。
「チッ」
攘夷浪士の出没報告を受けて、パトカーのサイレンが鳴り響く。
桂は壁を伝って、負傷した足を引きずるように歩く。
「やばいな、囲まれたか。これで、俺も万事休すか…」
壁に手をついて歩いていたら、ブチッと何かが取れる音。
「ん?」
視線を移すと、理解不能な形状の小さな布切れを手にしていた。
それが女性の下着だと認識した瞬間、持ち主の女性と目が合う。
「こんばんわ。サンタクロースだよ」(裏声)
次の瞬間、女性は持っていた洗濯カゴを桂めがけてぶん投げた。
翌日、長い黒髪のカツラを被ったエリザベスが、
『こんなん見なかった?』
と書かれたボードを持って、橋の上に立っていた。
「いねーよ。そんな奴」
興味津々にエリザベスを見つめる人達の中から鋭いツッコミが入った。
あの後、下着泥棒として疑われた桂は必死に弁明、なんとか誤解は解けた。
「まったく、まぎらわしい人だね」
厨房で料理を作る女性は溜め息混じりに言う。
「ただでさえ最近は、下着ドロが流行ってるのにさ。あんな所にいたアンタも悪いんだから、その一杯で勘弁しとくれよ。ウチはラーメン屋だから、そんなもんしか出せないけど」
桂の前に侘びの品としてラーメンが出される。
「あ。私、この店の店主やってる、幾松」
「俺は桂だ、好物はそばだ」
「なんで好物言った?そば出せってか?そば出せってか?」
自己紹介の次に繰り出された台詞。
まさかこの男、初対面で喧嘩を売っているのか。
顔をしかめた幾松は、すぐに思い直す。
「それにしても、アンタ、あんな所で何してたわけ?」
桂は麺をすすって答える。
「ん?アレだ。道を間違えてな」
「へェ~、道間違えて屋根の上歩いてたんだ。天国にでも行くつもりだったのかィ?」
「違う違う、そーゆうんじゃなく…人の道的なものを」
「お前やっぱ、下着泥棒だろう!!」
下着泥棒と決めつけられて、ラーメンの丼を持って立ち上がる。
「人には言いたくない事が一つや二つあるものだ。だが、これだけは言っておく。俺は絶対、怪しい者じゃない」
「鏡見てみ。怪しい長髪がうつってるから」
「違う、コレはアレだぞ、貴様。天気見てんだぞ、マジだから」
横目で窓の外を窺うと、真選組が通行人に尋問をしていた。
「チッ、ひどい天気だ」
ずるずると麺をすすり、眉をひそめる。
「幾松殿、すまぬが、もうしばし、雨宿りさせてもらえぬだろうか?」
「雨?そんなもの降ってたかィ?」
真選組に見つからず、かつ疑わられずに難を逃れるには、どうすればいいのか。
桂はしばし思案した後、神妙な声音で口を開いた。
「………正直に言おう。実は、俺は全国のラーメン屋を修行して回るラーメン求道者でな。君の技にほれた。ぜひ、勉強させてほしい」
「さっき、そば好きって言ってなかったっけ」
「ラーメンもそばも似たようなものだ。なんか、長いじゃん」
「お前にラーメンを語る資格はねェ!!」
幾松は投げやりな桂の発言を一蹴する。
「大体、こんな所で働いたって、得られるものなんてありゃしないよ。来る客といえば」
すると、店の引き戸がガラリと開く。
開いた戸の隙間から、嫌味のある笑みを浮かべた男が顔を覗かせていた。
「い~くまっちゃん、げ~んき?」
幾松は眉根を険しく寄せ、溜め息をついた。
軽々しく声をかける男の後ろから、次々と二人の男も店に入ってくる。
「なんだよ、つれねーな。かわいい弟が遊びに来てやったんだぜ」
ニヤニヤと笑みを浮かべる男に、幾松は鼻で笑った。
「ハン、弟だ?冗談よしてくれ。大吾が死んで、アンタと私はもう、何のつながりもありゃしないよ」
「つれねーこと言うなよ。一人残された兄嫁を心配して、こうしてちょくちょく見に来てやってるのによォ」
どうやら男は幾松の義弟らしく、仲間と共にカウンター席に座る。
「ここは、元々兄貴の店だぜ。奴が死んで、俺がこの店もらうはずだったところを、お前がどーしてもっていうからゆずってやったんだ」
勿体ぶった口上で金をちらつかせる。
彼が幾松のもとに訪れた理由は、亡くなった兄の形見である店の土地目当てだ。
「ちょっとくらい、分け前もらってもバチはあたらんだろ」
「また金かィ?もういい加減に…」
声を荒げた幾松が振り返ると、ラーメン店に不釣り合いな給仕服を着た桂が勝手に接客していた。
「いらっしゃいまっせー。メニューの注文はお決まりですか?」
「おいィィィ、勝手に何やってんだ、ってか何料理屋!?」
「オイオイ。いつからバイトなんて雇った?」
「バイトじゃない、桂だ」
義弟が首を傾げて訊ねると、いつもの答えが返ってくる。
さらに頼んでもいない注文を取る。
「メニューの方は?じゃっ、三人ともチャーハンで?」
「いや、チャーハンなんて一言も言ってないから」
「別に俺達ゃ、メシ食いに来たわけじゃねーんだよ、去 ね去ね」
部外者をさっさと退散させたい男達の思惑とは裏腹に、桂はなおも留まる。
「では、当店お勧めのコースはいかがでしょう。Bコース?」
「ああ、もうBコースでもオフコースでもいいから、少し黙っててくれ。俺は幾松と大事な話があんの」
「じゃっ、幾松殿ォ。チャーハン三つ、お願いしまーす」
勝手にチャーハン三人分を注文した。
「結局チャーハンかいィィィ!!」
「チャーハンは前菜です。Bコースは他に、メインディッシュとデザートがあります」
「きいたことねーよ、こんな充実した前菜!」
フルコースに出される前菜は食欲をそそることが目的であるため、量が少ないのが一般的。
傍迷惑な桂を無視し、義弟はカウンター越しに詰め寄る。
「うるせーな、ほっとけよ。それより幾松、早く金よこせ。困ってんだよ」
話がそこに及んだ時、幾松はちらりとも顔を向けようとはしなかった。
ただし、冷たい声音で言い放つ。
「……金はこないだ渡したので最後だって言ったろ。それに、私きいたんだから。アンタら攘夷だなんだとウソぶいて、明里屋の金蔵 、襲撃したらしいじゃないか」
「国を救うという大事の前では、強盗なんざ小事よ。俺達、攘夷志士には金が必要なんだよ!」
幾松の常識的な反論を義弟は一言で却下する。
"攘夷志士"の単語に"何を今さら。そんなことはわかっているはず"というニュアンスを込めて。
その時、ちょうど注文された品が運ばれてきた。
チャーハンを食べながら豪語する義弟の頬に、
「ぶぼ」
幾松は容赦ない平手打ちを食らわせる。
チャーハンを噴き出し、彼は椅子から崩れ落ちた。
「何が攘夷だァ!?金がほしいだけのゴロツキが、カッコつけてんじゃないよ!!外で屯 してる真選組も、アンタらなんか相手にしないだろーよ小物が!!」
尻もちをつく義弟を見下ろす幾松は、我慢しきれなかったというふうに怒りに震える顔つきで叱責する。
「だから嫌いなんだよ、あんたらみたいな連中!あんたらみたいなのがいなければ、大吾も…」
激昂する幾松の瞳に浮かんだ揺らぎ。
うっすらと涙が滲んでいた。
「んだァァ、このアマッ!」
義弟は叩かれた頬を押さえ、怒鳴り返した。
「メインディッシュ、お待ちしました」
すると、緊迫した空気を読まない桂がメインディッシュを運んできた。
「うるせーんだよ、あっち行…って、またチャーハンんんん!?メインディッシュもチャーハン!?」
「エビチャーハンです。デザートの方は、冷えたボソボソのチャーハンになっております」
「チャーハン三昧じゃねーか!!何ィ!?そのチャーハンへのあくなき執念は!?どこから湧いてくるの!?」
お腹いっぱいになりそうなコース料理に驚いていると、身体に異変が起こった。
突如、ぎゅるぎゅると腹が鳴り、
「はうっ!!」
その場に屈み込む。
その強烈な下痢は、他の二人にも発生していた。
「なんだ!?急に腹が!!」
「俺も」
「ヤベッ、これ…便意を通りこして、殺意だ!!」
激しい下痢に顔を歪め、急いでトイレへと直行する。
「か…厠!!」
「入ってまーす」
トイレの扉を開けたところで、既に桂が入っていた。
「てめェェ、チャ…チャーハンに何か入れたな!!チキショオオオ!!覚えてろ!!ぐおっ!!」
一服盛られた。
下剤の混入に今さらながら気づいた義弟は捨て台詞を吐いて店から出る。
「あっ、ヤベ、コレッ…あっ、あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙」
腹を押さえる状態で、
「うぐおおお」
呻いて去っていく男達を、幾松は呆然と見つめた。
首から下げた笛を、ピー、と鳴らして、沖田は珍しく検問の仕事をしていた。
「は~い、ちょっと止まってェ」
「ダメだよ~、お兄さん。夜はちゃんと、提灯つけて走んないと。えーと…コレ、防犯登録してる?」
沖田の他に、丸眼鏡をかけた隊士が調べにかかる。
編み笠を深く被り、自転車を
「あー、ちょっとわかんないスけど、友達からもらったんでェ」
「あー、そォ、買い物帰り?何それ?エロ本?エロ本か?」
沖田の怪しいつぶやきを無視して、わずらわしそうに急かす。
「あの、もういいっスか行って?忙しいんで」
「最近、この辺、下着泥棒多くてね~。しってる?怪盗フンドシ仮面…アレまた、脱獄してさァ」
女性の下着を盗み、モテない男達に配るというふんどし仮面の脱獄。
その捜査のため、通行人や自動車などを止めて調べているのである。
「僕はトランクス派なんで。じゃっ」
「あー、ちょっと、待ってお兄さん。身分を証明するものとかもってる?」
答えになっていない答えを返して、男は逃げるように自転車を漕ぐ。
「ちょっ…お兄さん!」
その途中、編み笠が風圧で飛ばされ、男の正体が明かされる。
男にしては艶のある長い黒髪。
いかにも貴公子然とした涼やかな容貌の持ち主だ。
途端、隊士が顔色を変える。
「おっ、沖田隊長、あのロン毛は!!」
テロリストとして指名手配されている桂を指差し、叫ぶ。
「みーっけ」
沖田はパトカーの中からバズーカを取り出すと、桂めがけて撃ち放った。
「カーツラぁぁぁ!!」
見開かれた目が、迫りくる砲撃で視界一面に広がる。
直後、彼の乗る自転車は粉々に破壊された。
「…あばよ、桂」
バズーカを肩にのせて台詞を吐く沖田を、屋根の上から桂が見下ろす。
「あばよ」
不意にズキリと痛みが襲う。
沖田の攻撃を避けきれなかったらしく、左の足首に傷を負っていた。
「チッ」
攘夷浪士の出没報告を受けて、パトカーのサイレンが鳴り響く。
桂は壁を伝って、負傷した足を引きずるように歩く。
「やばいな、囲まれたか。これで、俺も万事休すか…」
壁に手をついて歩いていたら、ブチッと何かが取れる音。
「ん?」
視線を移すと、理解不能な形状の小さな布切れを手にしていた。
それが女性の下着だと認識した瞬間、持ち主の女性と目が合う。
「こんばんわ。サンタクロースだよ」(裏声)
次の瞬間、女性は持っていた洗濯カゴを桂めがけてぶん投げた。
翌日、長い黒髪のカツラを被ったエリザベスが、
『こんなん見なかった?』
と書かれたボードを持って、橋の上に立っていた。
「いねーよ。そんな奴」
興味津々にエリザベスを見つめる人達の中から鋭いツッコミが入った。
あの後、下着泥棒として疑われた桂は必死に弁明、なんとか誤解は解けた。
「まったく、まぎらわしい人だね」
厨房で料理を作る女性は溜め息混じりに言う。
「ただでさえ最近は、下着ドロが流行ってるのにさ。あんな所にいたアンタも悪いんだから、その一杯で勘弁しとくれよ。ウチはラーメン屋だから、そんなもんしか出せないけど」
桂の前に侘びの品としてラーメンが出される。
「あ。私、この店の店主やってる、幾松」
「俺は桂だ、好物はそばだ」
「なんで好物言った?そば出せってか?そば出せってか?」
自己紹介の次に繰り出された台詞。
まさかこの男、初対面で喧嘩を売っているのか。
顔をしかめた幾松は、すぐに思い直す。
「それにしても、アンタ、あんな所で何してたわけ?」
桂は麺をすすって答える。
「ん?アレだ。道を間違えてな」
「へェ~、道間違えて屋根の上歩いてたんだ。天国にでも行くつもりだったのかィ?」
「違う違う、そーゆうんじゃなく…人の道的なものを」
「お前やっぱ、下着泥棒だろう!!」
下着泥棒と決めつけられて、ラーメンの丼を持って立ち上がる。
「人には言いたくない事が一つや二つあるものだ。だが、これだけは言っておく。俺は絶対、怪しい者じゃない」
「鏡見てみ。怪しい長髪がうつってるから」
「違う、コレはアレだぞ、貴様。天気見てんだぞ、マジだから」
横目で窓の外を窺うと、真選組が通行人に尋問をしていた。
「チッ、ひどい天気だ」
ずるずると麺をすすり、眉をひそめる。
「幾松殿、すまぬが、もうしばし、雨宿りさせてもらえぬだろうか?」
「雨?そんなもの降ってたかィ?」
真選組に見つからず、かつ疑わられずに難を逃れるには、どうすればいいのか。
桂はしばし思案した後、神妙な声音で口を開いた。
「………正直に言おう。実は、俺は全国のラーメン屋を修行して回るラーメン求道者でな。君の技にほれた。ぜひ、勉強させてほしい」
「さっき、そば好きって言ってなかったっけ」
「ラーメンもそばも似たようなものだ。なんか、長いじゃん」
「お前にラーメンを語る資格はねェ!!」
幾松は投げやりな桂の発言を一蹴する。
「大体、こんな所で働いたって、得られるものなんてありゃしないよ。来る客といえば」
すると、店の引き戸がガラリと開く。
開いた戸の隙間から、嫌味のある笑みを浮かべた男が顔を覗かせていた。
「い~くまっちゃん、げ~んき?」
幾松は眉根を険しく寄せ、溜め息をついた。
軽々しく声をかける男の後ろから、次々と二人の男も店に入ってくる。
「なんだよ、つれねーな。かわいい弟が遊びに来てやったんだぜ」
ニヤニヤと笑みを浮かべる男に、幾松は鼻で笑った。
「ハン、弟だ?冗談よしてくれ。大吾が死んで、アンタと私はもう、何のつながりもありゃしないよ」
「つれねーこと言うなよ。一人残された兄嫁を心配して、こうしてちょくちょく見に来てやってるのによォ」
どうやら男は幾松の義弟らしく、仲間と共にカウンター席に座る。
「ここは、元々兄貴の店だぜ。奴が死んで、俺がこの店もらうはずだったところを、お前がどーしてもっていうからゆずってやったんだ」
勿体ぶった口上で金をちらつかせる。
彼が幾松のもとに訪れた理由は、亡くなった兄の形見である店の土地目当てだ。
「ちょっとくらい、分け前もらってもバチはあたらんだろ」
「また金かィ?もういい加減に…」
声を荒げた幾松が振り返ると、ラーメン店に不釣り合いな給仕服を着た桂が勝手に接客していた。
「いらっしゃいまっせー。メニューの注文はお決まりですか?」
「おいィィィ、勝手に何やってんだ、ってか何料理屋!?」
「オイオイ。いつからバイトなんて雇った?」
「バイトじゃない、桂だ」
義弟が首を傾げて訊ねると、いつもの答えが返ってくる。
さらに頼んでもいない注文を取る。
「メニューの方は?じゃっ、三人ともチャーハンで?」
「いや、チャーハンなんて一言も言ってないから」
「別に俺達ゃ、メシ食いに来たわけじゃねーんだよ、
部外者をさっさと退散させたい男達の思惑とは裏腹に、桂はなおも留まる。
「では、当店お勧めのコースはいかがでしょう。Bコース?」
「ああ、もうBコースでもオフコースでもいいから、少し黙っててくれ。俺は幾松と大事な話があんの」
「じゃっ、幾松殿ォ。チャーハン三つ、お願いしまーす」
勝手にチャーハン三人分を注文した。
「結局チャーハンかいィィィ!!」
「チャーハンは前菜です。Bコースは他に、メインディッシュとデザートがあります」
「きいたことねーよ、こんな充実した前菜!」
フルコースに出される前菜は食欲をそそることが目的であるため、量が少ないのが一般的。
傍迷惑な桂を無視し、義弟はカウンター越しに詰め寄る。
「うるせーな、ほっとけよ。それより幾松、早く金よこせ。困ってんだよ」
話がそこに及んだ時、幾松はちらりとも顔を向けようとはしなかった。
ただし、冷たい声音で言い放つ。
「……金はこないだ渡したので最後だって言ったろ。それに、私きいたんだから。アンタら攘夷だなんだとウソぶいて、明里屋の
「国を救うという大事の前では、強盗なんざ小事よ。俺達、攘夷志士には金が必要なんだよ!」
幾松の常識的な反論を義弟は一言で却下する。
"攘夷志士"の単語に"何を今さら。そんなことはわかっているはず"というニュアンスを込めて。
その時、ちょうど注文された品が運ばれてきた。
チャーハンを食べながら豪語する義弟の頬に、
「ぶぼ」
幾松は容赦ない平手打ちを食らわせる。
チャーハンを噴き出し、彼は椅子から崩れ落ちた。
「何が攘夷だァ!?金がほしいだけのゴロツキが、カッコつけてんじゃないよ!!外で
尻もちをつく義弟を見下ろす幾松は、我慢しきれなかったというふうに怒りに震える顔つきで叱責する。
「だから嫌いなんだよ、あんたらみたいな連中!あんたらみたいなのがいなければ、大吾も…」
激昂する幾松の瞳に浮かんだ揺らぎ。
うっすらと涙が滲んでいた。
「んだァァ、このアマッ!」
義弟は叩かれた頬を押さえ、怒鳴り返した。
「メインディッシュ、お待ちしました」
すると、緊迫した空気を読まない桂がメインディッシュを運んできた。
「うるせーんだよ、あっち行…って、またチャーハンんんん!?メインディッシュもチャーハン!?」
「エビチャーハンです。デザートの方は、冷えたボソボソのチャーハンになっております」
「チャーハン三昧じゃねーか!!何ィ!?そのチャーハンへのあくなき執念は!?どこから湧いてくるの!?」
お腹いっぱいになりそうなコース料理に驚いていると、身体に異変が起こった。
突如、ぎゅるぎゅると腹が鳴り、
「はうっ!!」
その場に屈み込む。
その強烈な下痢は、他の二人にも発生していた。
「なんだ!?急に腹が!!」
「俺も」
「ヤベッ、これ…便意を通りこして、殺意だ!!」
激しい下痢に顔を歪め、急いでトイレへと直行する。
「か…厠!!」
「入ってまーす」
トイレの扉を開けたところで、既に桂が入っていた。
「てめェェ、チャ…チャーハンに何か入れたな!!チキショオオオ!!覚えてろ!!ぐおっ!!」
一服盛られた。
下剤の混入に今さらながら気づいた義弟は捨て台詞を吐いて店から出る。
「あっ、ヤベ、コレッ…あっ、あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙」
腹を押さえる状態で、
「うぐおおお」
呻いて去っていく男達を、幾松は呆然と見つめた。
