第五十訓~五十二訓
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――アレ?
――なんだコレ、空が真っ赤だ。
発端は、突然だった。
気がつけば、血濡れたかのごとく赤い空が視界に飛び込んだ。
――アレ?
――真っ赤なのは俺じゃねーか。
一瞬の疑問も束の間、銀時は自分が頭から血を流して倒れていることに気づく。
――アレ?
――なんで俺、こんなことになったんだっけ。
薄れていく意識の中で、ガンガンと頭痛がする。
――アレ?
――ちょっと待て、俺…。
銀時は、自分の頭の中から記憶が失われていくのを感じながら静かに目を閉じた。
第五十訓
どうでもいいことに 限ってなかなか忘れない
銀時が交通事故で病院へ搬送された、との知らせを受けた新八は息を切らせながら病院の廊下を走る。
「みんなァァ!!」
切羽詰まった、焦りに満ちた声。
響古、神楽、お登勢、キャサリンの前に走り寄った新八は、焦燥を顔に出して声を荒げた。
「銀さんは?銀さんは大丈夫なの?」
「病院で、デゲー声出すんじゃないよ、バカヤロー」
「オメーもな、ババア!」
「オメーモナ、クソガキ、ソシテ私モサ!」
新八は乱れた息を整えながら眼前の病室を見つめる。
そこは、銀時が治療を受けている病室。
中からは音も声も聞こえず、ただ嫌な静けさだけが辺りに充満する。
「心配いらんよ。車にはれられたくらいで、死ぬタマかい」
「ジャンプ買いに行った時に、はれられたらしいネ」
「いい年こいてこんなん読んでるから、こんな目に遭うのよ」
「コレヲ機会ニ、少シハ大人ニナッテホシイモノデスネ」
「まったくだ」
銀時が事故ったというのに慌てた仕草も見られず、新八はホッと息を吐いた。
(ホッ…大丈夫そうだ)
「いやー。そう言ってもらえると、はねた、こっちとしても気が楽っス。マジ、スンマセンでした」
軽薄そうな声が響古達の背後から聞こえてきた。
そこには銀時をはねた加害者がいた。
着ているのは明るい赤のシャツに、白い半ズボン。
そして、お気楽かつ能天気なノリ。
長い金髪の彼は笑顔で近づいてくる。
そのノリの軽さがいけないのか、すっくと立ち上がった響古は静かに、力強く、右の拳を握り固めて。
ぐい、っと左手で男の胸ぐらを掴み上げて。
右拳を限界まで後ろに引き絞って――。
「携帯でしゃべってたら、確認遅れちゃってぶァ!!」
腕を振るわせ、響古渾身の鉄拳、一閃。
男の顔のど真ん中にめり込んだ。
うつむいたその顔は前髪で見えないが、全身から発している怒りのオーラは凄まじかった。
男の身体は派手に吹っ飛ばされ、ゴロゴロと転がって、やがて沈黙した。
「てめーかァァ、コノヤロォォ!!銀ちゃん死んだら、てめェ、絞首刑にして携帯ストラップにしてやっからなァァァ!!」
「オルァァァ!!飛べコルァァ、飛んでみろ、出せるだけ出さんかい!!」
それに続くように神楽は号泣し、お登勢は青筋を立てて地面に次Pして動かない男を蹴りまくる。
(やっぱダメかもしれない…)
いくら加害者とはいえ必要以上にリンチする様子を目の当たりにして、新八の不安は募った。
病室を心配そうに見つめる響古に振り向く。
「響古さん…」
すると彼女は、わかりやすいほど無理した笑顔をつくった。
青白くやつれたその顔に、力強く輝く覇気は窺えない。
おそらく、事故の知らせを聞いて一目散に病院へ駆けつけてきたのだろう。
「――大丈夫ですよ」
「新八……?」
銀時の安否が気になるのは自分も同じだが、あまりにも儚げな美女を、少しでも安心させるように言う。
「銀さんが響古さんをおいて、交通事故くらいで死にませんって。ケロッと治って、ムカつくぐらい響古さんに甘えてきますよ」
「そーかもね…」
響古は表情を和らげ、微笑んだ。
「うっせェェェェ!ここどこだと思ってんだ、バカどもがァァ!!」
未だ繰り広げられる神楽とお登勢の暴行に、看護婦が扉を開けて怒鳴る。
「いや、君もうるさい」
「おいィィィィ!!まだ入っちゃダメだって!!」
直後、看護婦の制止を無視して病室に飛び込むと、頭に包帯を巻いた銀時が身体を起こしていた。
「――銀!!」
響古は勢いに任せて銀時に抱きつく。
「なんだィ。全然元気じゃないかィ」
「心配かけて!もうジャンプなんて買わせないからネ!」
「心配しましたよ、銀さん…えらい目に遭いましたね」
「…誰?」
「え?」
銀時は何故だか不思議そうな――というよりも、思い切り不審げな眼差しを送ってくる。
「一体、誰だい、君達は?僕の知り合いなのかい?」
いきなりの爆弾発言に安心したのも束の間、響古達は白目を剥いて固まった。
医者が診断した症状に、新八達の絶叫が病院内に響き渡る。
『い゙い゙い゙い゙い゙い゙い゙い゙!!』
響古は弱々しく言葉を紡ぐ。
「記憶、喪失…?」
"記憶喪失"――それは正式には"健忘 症"と呼ばれる記憶障害の一種であり、その中でも特に事実や経験を忘れた状態を一般的にこう呼ぶ。
「ケガはどーってこのないんだがね、頭を強く打ったらしくて、その拍子に記憶もポローンって落としてきちゃったみたいだねェ」
「落としたって…そんな、自転車のカギみたいな言い方、やめてください」
医師の簡易的な説明に、新八は顔を引きつらせた。
「銀…本当に何もわからないの?新八や神楽のことも…あたしのことも…?」
「あなたは――」
響古が顔を近づけると、銀時はハッとした様子で、何かを思い出したように眉を寄せる。
しばらくして、その紅い瞳の奥が微かに揺れたように見え、もしかしたら……と期待して勢い込むが、やはりダメだった。
頭痛が走った様子で顔をしかめた銀時は、ゆっくりと首を振る。
「……すみません、全然わからないんです。一瞬、あなたの顔に――見覚えがあるような気もしたんですが、やっぱり思い出せません」
「そう……よね」
わかっていても、正面から覚えていないと言われると、やはり辛いものは辛い。
「事故前後の記憶がちょこっと消えるってのは、よくあるんだがねェ。彼の場合、自分の存在も忘れてるみたいだね…ちょっとやっかいだな」
「あの、あなたと僕の関係って…」
落ち込む響古の代わりに神楽が答えた。
「銀ちゃんと響古、恋人同士ネ」
黒髪の恋人を見つめるその瞳は、いつもの銀時ではない。
じっと見つめられ、響古の頬に朱が差し始めた。
やがて耐え切れなくなったふうに背を向ける。
「やだ、あたし、何真っ赤になってるの…あんなの、タダ目と眉がちょっと近づいただけじゃない。黒目がちょっとデカくなっただけじゃない」
響古が何か言っているが、うつむいたまま小声でつぶやいらので、新八と神楽には彼女がなんと言ったのか聞こえなかった。
「てめェ、嘘ついてんじゃねェぞ。記憶喪失なんて笑えない冗談、この娘 の前でしてんじゃねーぞ」
うつむく響古の様子にショックを受けたと勘違いしたお登勢が厳しい眼光で詰め寄る。
「あと、フリして家賃ごまかすつもりだろ」
「先生、さっきから病室に老婆の妖怪が見えるんですが、これも頭打った影響なんですか?」
「坂田さん、心配いらないよ。それは妖怪じゃない。ここは病院だぞ、幽霊くらいいる」
「先生、違います」
新八のツッコミが冷え冷えと医者に放たれる。
「あの…彼の記憶は元に戻りますか?」
おそるおそる響古が訊ねると、医者は改めて答える。
それは銀時の今後に関わる内容だった。
「人間の記憶は、枝のように複雑に絡み合っている。その枝の一本でもざわめかせれば、他の枝も徐々に動き始めていきますよ。まァ、気長に見ていきましょう」
焦らず、気長に……その言葉を受け止められず、記憶を取り戻す道のりが長く遠いような気がして考えたくなかった。
目の前の人間も、発している声も同じだというのに全く知らない人としゃべっている感覚である。
響古の手は震え、若干動揺を表情に出してしまった。
記憶を失った以外、身体の傷はたいしたものではなく、今日中に退院が許された。
「万事屋銀ちゃん。ここが僕の住まいなんですか?」
今、六人がいるのは万事屋の前。
『万事屋銀ちゃん』の見慣れた外観、響古達と一緒に営んでいた経緯を説明する。
「そーです。銀さんはここで、なんでも屋を営んでいたんですよ」
「あたし達と一緒にね」
「なんでも屋…ダメだ、何も思い出せない」
すると、彼らはここぞとばかりに鬱憤を晴らそうと悪口中傷を口にした。
「まァ、なんでも屋っつーか、ほとんどなんにもやってないやプー太郎だったアル」
「プぅぅぅ!?この年でプぅぅぅ!?」
「響古さんの稼いだお金で生活してましたし」
「えェェェ!?ヒモ!?僕、ヒモ!?」
ぎょっと目を見開いて周囲の面々を見渡した銀時に構わず続ける。
「おまけに、年中死んだ魚のような目をして、響古のことが好きで好きで、人目もはばからずいちゃいちゃして、ぐーたら生きる屍のよう男だったアル」
「いい年こいて少年ジャンプ読んで、血糖値高め。家賃も払わないしね」
「アト、オ登勢サンノオ金強奪トカ、シテマシタヨネ」
「それはお前だろーが!!」
ちゃっかり自分のしでかした行いを銀時のせいにする。
勿論、お登勢のツッコミが飛んできた。
「どーです、何か思い出しました?」
「思い出せないっつーか、思い出したくないんですけど…」
言いたいことを言い過ぎて、本来の目的を見失いかけた響古達。
全て事実だが、あまりの中傷に銀時は記憶を呼び戻す気を失いかけている。
「しっかりしろォォ!!もっとダメになれ!!良心なんか捨てちまえ、それが銀時だ!!」
響古は、言いすぎたな、と反省。
手を伸ばして、顔を押さえていない方の銀時の手を握った。
「銀、焦らないで。少しずつ思い出せばいいから」
彼が少しでも早く記憶を取り戻してくれるよう強く祈って――にこ、と微笑みかけた。
その瞬間だった。
「………っ!」
――なんだコレ、空が真っ赤だ。
発端は、突然だった。
気がつけば、血濡れたかのごとく赤い空が視界に飛び込んだ。
――アレ?
――真っ赤なのは俺じゃねーか。
一瞬の疑問も束の間、銀時は自分が頭から血を流して倒れていることに気づく。
――アレ?
――なんで俺、こんなことになったんだっけ。
薄れていく意識の中で、ガンガンと頭痛がする。
――アレ?
――ちょっと待て、俺…。
銀時は、自分の頭の中から記憶が失われていくのを感じながら静かに目を閉じた。
第五十訓
どうでもいいことに 限ってなかなか忘れない
銀時が交通事故で病院へ搬送された、との知らせを受けた新八は息を切らせながら病院の廊下を走る。
「みんなァァ!!」
切羽詰まった、焦りに満ちた声。
響古、神楽、お登勢、キャサリンの前に走り寄った新八は、焦燥を顔に出して声を荒げた。
「銀さんは?銀さんは大丈夫なの?」
「病院で、デゲー声出すんじゃないよ、バカヤロー」
「オメーもな、ババア!」
「オメーモナ、クソガキ、ソシテ私モサ!」
新八は乱れた息を整えながら眼前の病室を見つめる。
そこは、銀時が治療を受けている病室。
中からは音も声も聞こえず、ただ嫌な静けさだけが辺りに充満する。
「心配いらんよ。車にはれられたくらいで、死ぬタマかい」
「ジャンプ買いに行った時に、はれられたらしいネ」
「いい年こいてこんなん読んでるから、こんな目に遭うのよ」
「コレヲ機会ニ、少シハ大人ニナッテホシイモノデスネ」
「まったくだ」
銀時が事故ったというのに慌てた仕草も見られず、新八はホッと息を吐いた。
(ホッ…大丈夫そうだ)
「いやー。そう言ってもらえると、はねた、こっちとしても気が楽っス。マジ、スンマセンでした」
軽薄そうな声が響古達の背後から聞こえてきた。
そこには銀時をはねた加害者がいた。
着ているのは明るい赤のシャツに、白い半ズボン。
そして、お気楽かつ能天気なノリ。
長い金髪の彼は笑顔で近づいてくる。
そのノリの軽さがいけないのか、すっくと立ち上がった響古は静かに、力強く、右の拳を握り固めて。
ぐい、っと左手で男の胸ぐらを掴み上げて。
右拳を限界まで後ろに引き絞って――。
「携帯でしゃべってたら、確認遅れちゃってぶァ!!」
腕を振るわせ、響古渾身の鉄拳、一閃。
男の顔のど真ん中にめり込んだ。
うつむいたその顔は前髪で見えないが、全身から発している怒りのオーラは凄まじかった。
男の身体は派手に吹っ飛ばされ、ゴロゴロと転がって、やがて沈黙した。
「てめーかァァ、コノヤロォォ!!銀ちゃん死んだら、てめェ、絞首刑にして携帯ストラップにしてやっからなァァァ!!」
「オルァァァ!!飛べコルァァ、飛んでみろ、出せるだけ出さんかい!!」
それに続くように神楽は号泣し、お登勢は青筋を立てて地面に次Pして動かない男を蹴りまくる。
(やっぱダメかもしれない…)
いくら加害者とはいえ必要以上にリンチする様子を目の当たりにして、新八の不安は募った。
病室を心配そうに見つめる響古に振り向く。
「響古さん…」
すると彼女は、わかりやすいほど無理した笑顔をつくった。
青白くやつれたその顔に、力強く輝く覇気は窺えない。
おそらく、事故の知らせを聞いて一目散に病院へ駆けつけてきたのだろう。
「――大丈夫ですよ」
「新八……?」
銀時の安否が気になるのは自分も同じだが、あまりにも儚げな美女を、少しでも安心させるように言う。
「銀さんが響古さんをおいて、交通事故くらいで死にませんって。ケロッと治って、ムカつくぐらい響古さんに甘えてきますよ」
「そーかもね…」
響古は表情を和らげ、微笑んだ。
「うっせェェェェ!ここどこだと思ってんだ、バカどもがァァ!!」
未だ繰り広げられる神楽とお登勢の暴行に、看護婦が扉を開けて怒鳴る。
「いや、君もうるさい」
「おいィィィィ!!まだ入っちゃダメだって!!」
直後、看護婦の制止を無視して病室に飛び込むと、頭に包帯を巻いた銀時が身体を起こしていた。
「――銀!!」
響古は勢いに任せて銀時に抱きつく。
「なんだィ。全然元気じゃないかィ」
「心配かけて!もうジャンプなんて買わせないからネ!」
「心配しましたよ、銀さん…えらい目に遭いましたね」
「…誰?」
「え?」
銀時は何故だか不思議そうな――というよりも、思い切り不審げな眼差しを送ってくる。
「一体、誰だい、君達は?僕の知り合いなのかい?」
いきなりの爆弾発言に安心したのも束の間、響古達は白目を剥いて固まった。
医者が診断した症状に、新八達の絶叫が病院内に響き渡る。
『い゙い゙い゙い゙い゙い゙い゙い゙!!』
響古は弱々しく言葉を紡ぐ。
「記憶、喪失…?」
"記憶喪失"――それは正式には"
「ケガはどーってこのないんだがね、頭を強く打ったらしくて、その拍子に記憶もポローンって落としてきちゃったみたいだねェ」
「落としたって…そんな、自転車のカギみたいな言い方、やめてください」
医師の簡易的な説明に、新八は顔を引きつらせた。
「銀…本当に何もわからないの?新八や神楽のことも…あたしのことも…?」
「あなたは――」
響古が顔を近づけると、銀時はハッとした様子で、何かを思い出したように眉を寄せる。
しばらくして、その紅い瞳の奥が微かに揺れたように見え、もしかしたら……と期待して勢い込むが、やはりダメだった。
頭痛が走った様子で顔をしかめた銀時は、ゆっくりと首を振る。
「……すみません、全然わからないんです。一瞬、あなたの顔に――見覚えがあるような気もしたんですが、やっぱり思い出せません」
「そう……よね」
わかっていても、正面から覚えていないと言われると、やはり辛いものは辛い。
「事故前後の記憶がちょこっと消えるってのは、よくあるんだがねェ。彼の場合、自分の存在も忘れてるみたいだね…ちょっとやっかいだな」
「あの、あなたと僕の関係って…」
落ち込む響古の代わりに神楽が答えた。
「銀ちゃんと響古、恋人同士ネ」
黒髪の恋人を見つめるその瞳は、いつもの銀時ではない。
じっと見つめられ、響古の頬に朱が差し始めた。
やがて耐え切れなくなったふうに背を向ける。
「やだ、あたし、何真っ赤になってるの…あんなの、タダ目と眉がちょっと近づいただけじゃない。黒目がちょっとデカくなっただけじゃない」
響古が何か言っているが、うつむいたまま小声でつぶやいらので、新八と神楽には彼女がなんと言ったのか聞こえなかった。
「てめェ、嘘ついてんじゃねェぞ。記憶喪失なんて笑えない冗談、この
うつむく響古の様子にショックを受けたと勘違いしたお登勢が厳しい眼光で詰め寄る。
「あと、フリして家賃ごまかすつもりだろ」
「先生、さっきから病室に老婆の妖怪が見えるんですが、これも頭打った影響なんですか?」
「坂田さん、心配いらないよ。それは妖怪じゃない。ここは病院だぞ、幽霊くらいいる」
「先生、違います」
新八のツッコミが冷え冷えと医者に放たれる。
「あの…彼の記憶は元に戻りますか?」
おそるおそる響古が訊ねると、医者は改めて答える。
それは銀時の今後に関わる内容だった。
「人間の記憶は、枝のように複雑に絡み合っている。その枝の一本でもざわめかせれば、他の枝も徐々に動き始めていきますよ。まァ、気長に見ていきましょう」
焦らず、気長に……その言葉を受け止められず、記憶を取り戻す道のりが長く遠いような気がして考えたくなかった。
目の前の人間も、発している声も同じだというのに全く知らない人としゃべっている感覚である。
響古の手は震え、若干動揺を表情に出してしまった。
記憶を失った以外、身体の傷はたいしたものではなく、今日中に退院が許された。
「万事屋銀ちゃん。ここが僕の住まいなんですか?」
今、六人がいるのは万事屋の前。
『万事屋銀ちゃん』の見慣れた外観、響古達と一緒に営んでいた経緯を説明する。
「そーです。銀さんはここで、なんでも屋を営んでいたんですよ」
「あたし達と一緒にね」
「なんでも屋…ダメだ、何も思い出せない」
すると、彼らはここぞとばかりに鬱憤を晴らそうと悪口中傷を口にした。
「まァ、なんでも屋っつーか、ほとんどなんにもやってないやプー太郎だったアル」
「プぅぅぅ!?この年でプぅぅぅ!?」
「響古さんの稼いだお金で生活してましたし」
「えェェェ!?ヒモ!?僕、ヒモ!?」
ぎょっと目を見開いて周囲の面々を見渡した銀時に構わず続ける。
「おまけに、年中死んだ魚のような目をして、響古のことが好きで好きで、人目もはばからずいちゃいちゃして、ぐーたら生きる屍のよう男だったアル」
「いい年こいて少年ジャンプ読んで、血糖値高め。家賃も払わないしね」
「アト、オ登勢サンノオ金強奪トカ、シテマシタヨネ」
「それはお前だろーが!!」
ちゃっかり自分のしでかした行いを銀時のせいにする。
勿論、お登勢のツッコミが飛んできた。
「どーです、何か思い出しました?」
「思い出せないっつーか、思い出したくないんですけど…」
言いたいことを言い過ぎて、本来の目的を見失いかけた響古達。
全て事実だが、あまりの中傷に銀時は記憶を呼び戻す気を失いかけている。
「しっかりしろォォ!!もっとダメになれ!!良心なんか捨てちまえ、それが銀時だ!!」
響古は、言いすぎたな、と反省。
手を伸ばして、顔を押さえていない方の銀時の手を握った。
「銀、焦らないで。少しずつ思い出せばいいから」
彼が少しでも早く記憶を取り戻してくれるよう強く祈って――にこ、と微笑みかけた。
その瞬間だった。
「………っ!」