第一訓
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「侍の刀はなァ、鞘におさめるもんじゃねェ。自分 の魂におさめるもんだ」
そう語る男の手には、抜き身の日本刀が掲げられている。
その身体は病に冒 され、布団に臥 していた。
「時代はもう、侍なんざ必要としてねェがよ、どんなに時代が変わろうと、人には忘れちゃならねーもんがあらぁ」
横には、まだ幼い二人の子供達が心配そうに見つめる。
「たとえ剣を捨てる時が来ても、魂におさめた、真っすぐな剣だけはなくすなっ。ゲホッ」
途端、男は苦しそうに咳き込む。
「ガハッ、ゴホッ」
「「父上!!」」
男――父親は縁側から見える空を仰ぎ、数秒、間を置いてからつぶやく。
「…ああ、雲一つない江戸の空…もう一度拝みたかったなァ…」
名残惜しむように見上げる光景は、江戸ではあり得ない物体――空飛ぶ宇宙船が飛び込んできた。
――「侍の国」。
――僕らの国が呼ばれていたのは、今は昔の話。
――かつて侍達が仰ぎ夢を馳せた江戸の空には、異郷の船が飛び交う。
――かつて侍達が肩で風を切り、歩いた街には、今は異人がふんぞり歩く。
江戸の賑わいに建つ、なんの変哲もないファミリーレストラン。
「だからバカ、おめっ…違っ…それじゃねーよ!!そこだよ、そこ!!」
そこの店長が、レジの仕事で失敗したらしい眼鏡の少年を怒鳴りつけていた。
「おめっ、今時レジ打ちなんてチンパンジーでも出来るよ!!オメー人間じゃん!一年も勤めてんじゃん!何で出来ねーんだよ!!」
「す…すみません。剣術しかやってこなかったものですから」
「てめェェェ、まだ剣ひきずってんのかァァ!!」
「ぐはっ!!」
店長は少年を殴り、罵詈雑言を浴びせる。
「侍も剣も、もうとっくに滅んだんだよ!!それをいつまで侍気どりですか、テメーは!!あん?」
明らかな侮辱の言葉は、わかりきった怒声で何倍にも増幅される。
何も言い返せない少年は、ただがっくりと頭を垂れるしかない。
「大丈夫、君?」
そう言って歩み寄ってきたのは、艶やかな黒髪を赤いリボンでポニーテールにした一人の女性だった。
「…あっ、はい、このくらい…」
顔を上げた瞬間、少年は胸中で感嘆の声をあげる。
まっすぐ見た顔の美しさに、胸が高鳴った。
いや、彼だけではなく店長も見惚れている。
「血が出てるじゃない…」
「あ、いや、ホント大じょ――」
女性は着物の胸元部分からハンカチを取り出して、少年の口許についた血を拭いた。
――綺麗なだけじゃなくて優しい人だな…。
「オイオイ。そのへんにしとけ、店長」
背後から声がかけられ、豹の頭を持つ異人が注文を頼んだ。
「オイ、少年。レジはいいから牛乳頼む」
「あ…ヘイ。ただいま」
注文を受けて、少年は厨房に向かう。
次に女性に目を留め、にんまりといやらしい笑顔になった。
「よう、姉ちゃん、美人だな。一緒にどーだ?」
にやけながら女性に話しかけるが、
「生憎、一人じゃないんで」
冷たくあしらうと踵を返す。
「なんだ、つれねーな」
「旦那ァ、甘やかしてもらっちゃ困りまさァ」
それまで居丈高な態度を取っていた店長の怒りは霧散し、口調まで変わる。
「いや、最近の侍を見てるとなんだか哀れでなァ、廃刀令で刀を奪われるわ、職を失うわ、ハローワークは失業した浪人で溢れてるらしいな」
「我々が地球 に来たばかりの頃は、事あるごとに侍達がつっかかってきたもんだが、こうなると喧嘩友達なくしたようで寂しくてな」
。
豹の異人は牛乳を持ってきた少年の足を引っかけて、盛大に転ばせる。
少年は前の席に突っ込んでしまい、そこは先程の女性が座る席で、もう一人……男が座っていた。
彼らはその滑稽さを嘲笑う。
――二十年前、突如江戸に舞い降りた異人、「天人」。
――彼らの台頭により、侍は弱体化の一途 をたどる。
――剣も地位も、もぎ取られ、
溢した牛乳を片づけ始めると、突然前髪を掴み上げられ、無理矢理謝罪される。
「何やってんだ、新八!!スンマセン、お客さん!!オラッおめーが謝んだよ」
――誇りも何も、僕らは捨て去った。
――いや…侍だけじゃない。
――この国に住まう者は、きっとみんな、もう…。
彼らの嘲笑、この世界の残酷さが少年――新八を翻弄する。
「「おい」」
不意に聞こえた声に見上げると、あの女性と一緒にいた男が立っている。
「がふっ!!」
男のパンチと女性の蹴りを同時に食らい、店長は見事なくらい吹っ飛んだ。
「わっ!!」
新八が驚いていると、周囲の豹の天人達は何が起こったのかわからず騒然としていたが、ようやく一人が我に返った。
「なっ、なんだァ!?」
「何事だァ!!」
殴りかかった男は銀髪の天然パーマ、黒の半袖の上から着流しを纏った格好、蹴りを放った女性は膝丈の着物に黒い羽織姿で――二人とも、腰に木刀を提げていた。
――!?侍!?
帯刀が許されない時代の中、日本刀を模した木刀の存在に目を見張る。
全員が振り返り、邪魔者を睨みつける。
「なんだ、貴様らァ!!」
「廃刀令の御時世に、木刀なんぞぶらさげておって!!」
その輪の中心で、激昂する天人へと気の抜けた目線を向けて、男はつぶやく。
「ギャーギャーギャーギャー、やかましいんだよ、発情期ですかコノヤロー」
男らしく引き締まった鋭さが、天然パーマと気だるげな目によって相当、減免されている。
全体に、倦怠と弛緩の雰囲気があった。
「見ろコレ…」
「アンタ達が騒ぐもんだから、あたしと銀のチョコレートパフェが、お前コレ…」
そう言って二人が見せたのは、中身がこぼれてしまったグラス。
「まるまるこぼれちゃったじゃねーか!!」
激怒する男は木刀を振り上げ、脳天に一撃。
「…きっ…貴様ァ、何をするかァァ!!」
「我々を誰だと思って…」
豹の天人の言葉には耳も貸さず、続けて怒声をあげる。
「俺ァなァ!!医者に血糖値高過ぎって言われて…パフェなんて週一でしか食えねーんだぞ!!」
そして、男は残りの二人を木刀で気絶させた。
逃げ惑う客の悲鳴が響き、ただ一人、新八は放心状態で見つめる。
――そいつは、侍というにはあまりに荒々しく、しかし、チンピラというにはあまりに…。
「店長にいっとけ。味はよかったぜ。行くぞ、響古」
男は我が道を行くがごとく、ファミレスを出る。
――真っすぐな目をした男だった。
「あいよ…あ、君」
「はっ、はいっ!」
響古、と呼ばれた女性は天人や店長を蹴飛ばしながら向かってくる。
「あ、あの…何でしょーか?」
無様に動揺しきった新八に、響古は確認するかのようにじっと見つめる。
「ん~…それほど、ひどいケガはないみたいね」
「こ、このくらい、平気です」
「そう?よかった」
柔和な笑みが、ぱぁっと浮かぶ。
見たことのないくらい整った顔立ちだが、それ以上に、近くにいるだけで伝わってくる意志の強さが、その美貌をさらに輝くものにしているようだった。
――本当に、なんて綺麗な人なんだろう。
「それじゃあね」
響古は小さく微笑むと、後を追うように店を出ていった。
店を出た二人の後ろ姿を見つめ、新八は未だ放心する。
あまりに荒々しすぎて、あまりに強すぎて、言葉が出てこない。
「ハイハイ、ちょっとどけてェ!!」
その些細な感動の中で、騒ぎを聞きつけた同心が駆けつける。
「あっ!!いたいた!!」
「お前か、木刀振り回してる侍は!!」
新八の姿を見た途端、犯人だと決めつけるがの如く包囲する。
「おーし。動くなよ」
「ちょっ…待って、違いますって!!」
「オイ弥七!!中調べろ!!」
流れから取り残された新八は困惑するが、もう一人が店内で倒れる豹の天人を発見する。
「あーあ、茶斗蘭星 の天人でさァ。こりゃ国際問題になるぜ…エライ事してくれたな」
「だから僕は違いますって!!犯人はもう、とっくに逃げたの!!」
「ハイハイ、犯人はみんなそう言うの。言い訳は凶器隠してから言いなさいよ。よし、じゃあ調書とるから、署まで来て」
身の潔白を訴えるが、相手にしてくれない。
「…アレ?」
不意に視線を下に向けると、腰には男が使っていた――血の滴る木刀があった。
「あれェェェェ!?」
ファミレスでの暴行を少年になすりつけて原付を運転するのは原作の主人公、坂田 銀時である。
「あ~やっぱ、ダメだなオイ」
その後ろに乗るのはこの夢小説のヒロイン、篠木 響古。
「全く、せっかくのパフェをまるまるこぼしやがって、あンのハゲ店長とネコ野郎!もう一発蹴っとけばよかった」
その容姿からは想像できないであろう、天人や店長の暴言が吐き出されていた。
「糖分とらねーと、なんかイライラす……」
響古がふと視線を下ろすと、銀時の腰に下がっている木刀がないことに気づく。
「…アレ?銀『洞爺湖』は?」
「あ~、アレな……」
「おいィィィィ!!」
突如後ろから聞こえた大声に振り向くと、大量の汗を流す新八が木刀を持って追いかけてきた。
ファミレスからずっと走ってきたらしく、すっかりバテている。
「よくも人を身代わりにしてくれたなコノヤロー!!アンタのせいで、もう何もかもメチャクチャだァ!!」
「律儀な子だな、木刀返しに来てくれたの。いいよ、あげちゃう。どうせ修学旅行で浮かれて買った奴だし」
「忘れてきちゃったの?ドジだなぁ、銀。君、ありがとう!」
「違うわァァ!!役人からやっとこさ逃げてきたんだよ!!違うって言ってんのに、侍の話なんて誰も聞きゃしないんだ!!しまいにゃ、店長まで僕が下手人だって」
涙目で訴えるが、銀時は鼻をほじって軽く返す。
そう語る男の手には、抜き身の日本刀が掲げられている。
その身体は病に
「時代はもう、侍なんざ必要としてねェがよ、どんなに時代が変わろうと、人には忘れちゃならねーもんがあらぁ」
横には、まだ幼い二人の子供達が心配そうに見つめる。
「たとえ剣を捨てる時が来ても、魂におさめた、真っすぐな剣だけはなくすなっ。ゲホッ」
途端、男は苦しそうに咳き込む。
「ガハッ、ゴホッ」
「「父上!!」」
男――父親は縁側から見える空を仰ぎ、数秒、間を置いてからつぶやく。
「…ああ、雲一つない江戸の空…もう一度拝みたかったなァ…」
名残惜しむように見上げる光景は、江戸ではあり得ない物体――空飛ぶ宇宙船が飛び込んできた。
――「侍の国」。
――僕らの国が呼ばれていたのは、今は昔の話。
――かつて侍達が仰ぎ夢を馳せた江戸の空には、異郷の船が飛び交う。
――かつて侍達が肩で風を切り、歩いた街には、今は異人がふんぞり歩く。
江戸の賑わいに建つ、なんの変哲もないファミリーレストラン。
「だからバカ、おめっ…違っ…それじゃねーよ!!そこだよ、そこ!!」
そこの店長が、レジの仕事で失敗したらしい眼鏡の少年を怒鳴りつけていた。
「おめっ、今時レジ打ちなんてチンパンジーでも出来るよ!!オメー人間じゃん!一年も勤めてんじゃん!何で出来ねーんだよ!!」
「す…すみません。剣術しかやってこなかったものですから」
「てめェェェ、まだ剣ひきずってんのかァァ!!」
「ぐはっ!!」
店長は少年を殴り、罵詈雑言を浴びせる。
「侍も剣も、もうとっくに滅んだんだよ!!それをいつまで侍気どりですか、テメーは!!あん?」
明らかな侮辱の言葉は、わかりきった怒声で何倍にも増幅される。
何も言い返せない少年は、ただがっくりと頭を垂れるしかない。
「大丈夫、君?」
そう言って歩み寄ってきたのは、艶やかな黒髪を赤いリボンでポニーテールにした一人の女性だった。
「…あっ、はい、このくらい…」
顔を上げた瞬間、少年は胸中で感嘆の声をあげる。
まっすぐ見た顔の美しさに、胸が高鳴った。
いや、彼だけではなく店長も見惚れている。
「血が出てるじゃない…」
「あ、いや、ホント大じょ――」
女性は着物の胸元部分からハンカチを取り出して、少年の口許についた血を拭いた。
――綺麗なだけじゃなくて優しい人だな…。
「オイオイ。そのへんにしとけ、店長」
背後から声がかけられ、豹の頭を持つ異人が注文を頼んだ。
「オイ、少年。レジはいいから牛乳頼む」
「あ…ヘイ。ただいま」
注文を受けて、少年は厨房に向かう。
次に女性に目を留め、にんまりといやらしい笑顔になった。
「よう、姉ちゃん、美人だな。一緒にどーだ?」
にやけながら女性に話しかけるが、
「生憎、一人じゃないんで」
冷たくあしらうと踵を返す。
「なんだ、つれねーな」
「旦那ァ、甘やかしてもらっちゃ困りまさァ」
それまで居丈高な態度を取っていた店長の怒りは霧散し、口調まで変わる。
「いや、最近の侍を見てるとなんだか哀れでなァ、廃刀令で刀を奪われるわ、職を失うわ、ハローワークは失業した浪人で溢れてるらしいな」
「我々が
。
豹の異人は牛乳を持ってきた少年の足を引っかけて、盛大に転ばせる。
少年は前の席に突っ込んでしまい、そこは先程の女性が座る席で、もう一人……男が座っていた。
彼らはその滑稽さを嘲笑う。
――二十年前、突如江戸に舞い降りた異人、「天人」。
――彼らの台頭により、侍は弱体化の
――剣も地位も、もぎ取られ、
溢した牛乳を片づけ始めると、突然前髪を掴み上げられ、無理矢理謝罪される。
「何やってんだ、新八!!スンマセン、お客さん!!オラッおめーが謝んだよ」
――誇りも何も、僕らは捨て去った。
――いや…侍だけじゃない。
――この国に住まう者は、きっとみんな、もう…。
彼らの嘲笑、この世界の残酷さが少年――新八を翻弄する。
「「おい」」
不意に聞こえた声に見上げると、あの女性と一緒にいた男が立っている。
「がふっ!!」
男のパンチと女性の蹴りを同時に食らい、店長は見事なくらい吹っ飛んだ。
「わっ!!」
新八が驚いていると、周囲の豹の天人達は何が起こったのかわからず騒然としていたが、ようやく一人が我に返った。
「なっ、なんだァ!?」
「何事だァ!!」
殴りかかった男は銀髪の天然パーマ、黒の半袖の上から着流しを纏った格好、蹴りを放った女性は膝丈の着物に黒い羽織姿で――二人とも、腰に木刀を提げていた。
――!?侍!?
帯刀が許されない時代の中、日本刀を模した木刀の存在に目を見張る。
全員が振り返り、邪魔者を睨みつける。
「なんだ、貴様らァ!!」
「廃刀令の御時世に、木刀なんぞぶらさげておって!!」
その輪の中心で、激昂する天人へと気の抜けた目線を向けて、男はつぶやく。
「ギャーギャーギャーギャー、やかましいんだよ、発情期ですかコノヤロー」
男らしく引き締まった鋭さが、天然パーマと気だるげな目によって相当、減免されている。
全体に、倦怠と弛緩の雰囲気があった。
「見ろコレ…」
「アンタ達が騒ぐもんだから、あたしと銀のチョコレートパフェが、お前コレ…」
そう言って二人が見せたのは、中身がこぼれてしまったグラス。
「まるまるこぼれちゃったじゃねーか!!」
激怒する男は木刀を振り上げ、脳天に一撃。
「…きっ…貴様ァ、何をするかァァ!!」
「我々を誰だと思って…」
豹の天人の言葉には耳も貸さず、続けて怒声をあげる。
「俺ァなァ!!医者に血糖値高過ぎって言われて…パフェなんて週一でしか食えねーんだぞ!!」
そして、男は残りの二人を木刀で気絶させた。
逃げ惑う客の悲鳴が響き、ただ一人、新八は放心状態で見つめる。
――そいつは、侍というにはあまりに荒々しく、しかし、チンピラというにはあまりに…。
「店長にいっとけ。味はよかったぜ。行くぞ、響古」
男は我が道を行くがごとく、ファミレスを出る。
――真っすぐな目をした男だった。
「あいよ…あ、君」
「はっ、はいっ!」
響古、と呼ばれた女性は天人や店長を蹴飛ばしながら向かってくる。
「あ、あの…何でしょーか?」
無様に動揺しきった新八に、響古は確認するかのようにじっと見つめる。
「ん~…それほど、ひどいケガはないみたいね」
「こ、このくらい、平気です」
「そう?よかった」
柔和な笑みが、ぱぁっと浮かぶ。
見たことのないくらい整った顔立ちだが、それ以上に、近くにいるだけで伝わってくる意志の強さが、その美貌をさらに輝くものにしているようだった。
――本当に、なんて綺麗な人なんだろう。
「それじゃあね」
響古は小さく微笑むと、後を追うように店を出ていった。
店を出た二人の後ろ姿を見つめ、新八は未だ放心する。
あまりに荒々しすぎて、あまりに強すぎて、言葉が出てこない。
「ハイハイ、ちょっとどけてェ!!」
その些細な感動の中で、騒ぎを聞きつけた同心が駆けつける。
「あっ!!いたいた!!」
「お前か、木刀振り回してる侍は!!」
新八の姿を見た途端、犯人だと決めつけるがの如く包囲する。
「おーし。動くなよ」
「ちょっ…待って、違いますって!!」
「オイ弥七!!中調べろ!!」
流れから取り残された新八は困惑するが、もう一人が店内で倒れる豹の天人を発見する。
「あーあ、
「だから僕は違いますって!!犯人はもう、とっくに逃げたの!!」
「ハイハイ、犯人はみんなそう言うの。言い訳は凶器隠してから言いなさいよ。よし、じゃあ調書とるから、署まで来て」
身の潔白を訴えるが、相手にしてくれない。
「…アレ?」
不意に視線を下に向けると、腰には男が使っていた――血の滴る木刀があった。
「あれェェェェ!?」
ファミレスでの暴行を少年になすりつけて原付を運転するのは原作の主人公、坂田 銀時である。
「あ~やっぱ、ダメだなオイ」
その後ろに乗るのはこの夢小説のヒロイン、篠木 響古。
「全く、せっかくのパフェをまるまるこぼしやがって、あンのハゲ店長とネコ野郎!もう一発蹴っとけばよかった」
その容姿からは想像できないであろう、天人や店長の暴言が吐き出されていた。
「糖分とらねーと、なんかイライラす……」
響古がふと視線を下ろすと、銀時の腰に下がっている木刀がないことに気づく。
「…アレ?銀『洞爺湖』は?」
「あ~、アレな……」
「おいィィィィ!!」
突如後ろから聞こえた大声に振り向くと、大量の汗を流す新八が木刀を持って追いかけてきた。
ファミレスからずっと走ってきたらしく、すっかりバテている。
「よくも人を身代わりにしてくれたなコノヤロー!!アンタのせいで、もう何もかもメチャクチャだァ!!」
「律儀な子だな、木刀返しに来てくれたの。いいよ、あげちゃう。どうせ修学旅行で浮かれて買った奴だし」
「忘れてきちゃったの?ドジだなぁ、銀。君、ありがとう!」
「違うわァァ!!役人からやっとこさ逃げてきたんだよ!!違うって言ってんのに、侍の話なんて誰も聞きゃしないんだ!!しまいにゃ、店長まで僕が下手人だって」
涙目で訴えるが、銀時は鼻をほじって軽く返す。