第四十二訓~四十四訓
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むせ返るほどの熱気。
暑苦しいほどに集う男達。
野外に設けられたリングを囲む観客席は歓喜に震えていた。
第四十二訓
夢は拳でつかめ
左目に壮絶な物語が詰まっていそうな傷を負った審判はリングに上がった中年の女性へと手を差し出す。
《赤コーナー!主婦業に嫌気がさし~、結婚生活を捨て、戦場に居場所を見つけた女~、鬼子母神春菜ァァ!!》
続いて、オーバーアクションで元アイドルの少女を紹介する。
《青コーナー!人気アイドルからスキャンダルを経て、殴り屋に転身!『でも私!歌うことは止めません!!』闘う歌姫!ダイナマイトお通ぅぅぅ!!》
ボクシングのグローブをはめた手でギターを持ち、お通はプロレス選手として試合に出た。
最近テレビでも見ないと思ったら、こんなところで格闘技って。
『お通ちゃァァァん、いけェェェェェ!!』
リングの彼女に盛大な声援を送るのは勿論、新八率いる親衛隊である。
その中には、立派に改心した八兵衛の姿もあった。
「いやいや、いけーじゃねーよ。止まった方がいいよ、彼女…変な方向にいっちゃってるよ」
「ワォ、なんでこーなったのかしら」
熱狂的に応援する親衛隊に混じり、銀時と響古は囁き合う。
「…フフ、でもいいと思うわ。闘う歌姫なんて、そうそういないわよ」
しかし、すぐに笑みを浮かべ、なんだか楽しそうに観戦する。
「お通ちゃんは歌って闘うアイドルに転向したんです!」
いや、アイドルに戦いとか必要ありませんから。
「てゆーか、タカチンコだっけ?なんでアンタもいんの?」
何気に親衛隊に混ざっている八兵衛の姿を見つけ、響古は首を捻る。
「タカチンですよ、響古さん。タカチンは友達です!親衛隊に入るのは当然です」
いやいや、なんで当然?
新八の常識がわかりません。
「人間そーゆーこと言いだしたら、危ねーんだよ」
試合が始まり、お通がギターを振り下ろして容赦なく春菜に一撃を食らわす。
女子プロレスの様子を眺めつつ、銀時は言った。
「俺のなじみだったラーメン屋も『今度カレーもメニューに出してみる』って言った直後、つぶれたよ」
昔、響古と訪れていたラーメン屋の行く末が脳裏に過ぎる。
ラーメン屋なら麺類だけ出しときゃいいものを、心機一転とか言ってカレーなんざ新メニューに加えたもんだから即閉店。
「なんちゅー例え話ですか!お通ちゃんは大丈夫です、歌い続けます」
歌い続ける人が音楽にとって、命くらい大事なギターで人を殴りますか、無理でしょ。
「…なーんかあの娘は不幸になりそーな顔しとるもんな~。俺、前から思ってたんだよ」
お通のギター攻撃に怯むことなく春菜も反撃し、右ストレートを繰り出す。
それをギターで防いだ彼女はその場で一回転。
遠心力で加速したギターを春菜の脇腹へ叩きつけた。
「――ま、響古は俺がいるから幸せだもんな~」
「いいわよ、その調子!もっと春菜をぶん殴りなさい!」
「聞いてねー上にS!!」
コイツはこうなったら当分このままだ…と頭の隅で考えつつ、神楽に話しかける。
「その点、神楽、お前は終生ちゃらんぽらんの相が出てるよ、よかったな」
「バカ言え、ちゃらんぽらんはテメーだろ。神楽、あなたはまだ若いから更生できるわよ」
女子プロレスに夢中になっていたはずの響古から、まさかの毒舌。
銀時はたまらず冷や汗を流した。
「えー。夢とはいかなるものか。持っていても辛いし、無くても悲しい」
すると、予想外の乱入者がマイクを片手にパフォーマンスを開始する。
「しかしそんな茨の道さえ、己の拳で切り開こうとするお前の姿…感動したぞォォ!!」
突如、リングの真ん中に陣取る神楽は顎をしゃくってマイクを床に叩きつけた。
≪おおーっと、リング上に乱入者が!何者だァァ!?このチャイナ娘、どこの団体だァァ!?≫
「えー、私の名はアントニオ神楽…ゆえあってお通の助太刀をするアル。かかって来い、コノヤロー!ダーッ!」
リングで暴れる乱入者を呆然と見つめる響古の手を引っ張り、銀時は立ち上がった。
「ぎっ、銀!?」
それと同時、新八も顔を青ざめて踵を返す。
「…ヤバイよ。俺しらない、俺しらないよ」
「僕もしらないよ。アンタのしつけが悪いから、あんなんなるでしょーが」
「何言ってんの?子供の性格は三歳までに決まるらしーよ」
常日頃から目につく神楽のオイタの出所をなすりつけようとする二人。
この不穏な雲行きに、響古はやれやれと肩をすくめた。
いやいや、それはあなたもですよ。
「何やってんだァ、ひっこめェェ、チャイナ娘ェ。目ェつぶせ、目ェつぶせ!」
その時、会場の外に向かう三人の耳に聞き覚えのある声が届いた。
「春菜ァァ!何やってんだァ、何のために主婦やめたんだ、刺激が欲しかったんじゃないの!?」
野次といっても過言ではない声援を送る沖田と目を合わせた瞬間、微妙な空気に包まれた。
神社に掲げられた白幕の下、石段に腰かけた万事屋四人は偶然の遭遇に雑談を交えていた。
「いやー、奇遇ですねィ。今日はオフでやることもねーし、大好きな格闘技を見に来てたんでさァ。しかし旦那方も、格闘技がお好きだったとは…」
真選組隊服ではなく、袴姿の沖田は腕を組んで鳥居に寄りかかる。
「俺ァ、とくに女子格闘技が好きでしてねィ。女どもがみにくい表情でつかみ合ってるトコなんて爆笑もんでさァ」
当然のことながら、沖田の笑顔は邪悪さに満ちていた。
「なんちゅーサディスティックな楽しみ方してんの!?」
「みにくいは言い過ぎよ。せめて、打たれ強いって言ってちょうだい」
しれっと言いのけた響古にもツッコミは忘れない。
「そーゆー響古さんもサディスティックな楽しみ方してたじゃないですか!」
「一生懸命やってる人を笑うなんて最低アル。勝負の邪魔するよーな奴は、格闘技見る資格ないネ」
眉間の皺で遺憾の意を表明しながら神楽が言った。
「明らかに試合の邪魔してた奴が言うんじゃねーよ」
銀時はしかるべきダメ出しをして頭を叩く。
そして、やっぱりというか沖田は響古にアプローチする。
「やっぱり俺が惚れただけのある女でさァ。サディスト同士、仲良くしましょう」
年下のライバルに立ち向かう銀時を突き飛ばして、割り込んだ神楽が声を荒げる。
「響古とお前を一緒にするなヨ。俺が惚れたって何様か!軽い男は、響古に近づく資格はないネ!」
「何言ってやがんでィ。俺は生まれた時から響古一筋だ」
神楽と沖田は正面で視線を、まさに火花の散るように交わす。
「つくならもっとマシな嘘つくヨロシ。大体、SとSじゃ引き合わないアル!残念でした、また来週ぅー」
「俺ァ、響古のためならドMにでもなれるってんだ!なめてもらっちゃ困るぜィ」
自信満々に言い切った沖田に対して、きりきりとつり上がった凶器のごとき眼差しで睨みつける。
「…てんめェ、いけしゃあしゃあとォ……!!」
その後ろで響古に抱きつき、豊かな胸にぐりぐりと顔を押しつける銀時。
響古に甘えまくり、慰めてもらおうとしてますね。
いや、そこまでするほど傷ついたんでしょうか……絶対、違いますよねえ。
「それより旦那方、暇ならちょいとつき合いませんか?もっと面白ェ見せ物が見れるトコがあるんですがねィ」
「「面白い見せ物?」」
沖田の言葉に、二人は首を傾げる。
「まァ、付いてくらァわかりまさァ」
何やら怪しい雰囲気を漂わせる言い方。
こういうのは関わるとろくなことがない。
普段なら面倒だと誰もついていかないが……不審感があるからこそ、そこに何かがあると思わずにはいられない。
四人は彼の後を追い、石段を下りていった。
太陽の光が差し込まない薄暗い路地へ、沖田は案内する。
怪しげな商人達から、どう見ても堅気の人間じゃない者まで多くが目につく。
「オイオイ、どこだよココ?悪の組織のアジトじゃねェのか?」
「アジトじゃねェよ、旦那。裏世界の住人たちの社交場でさァ」
神楽は、見るからに怪しい男が開いている露店の商品を手に取ろうとしており、新八にチャイナ服を引っ張られていた。
「ここでは、表の連中は決して目にすることができねェ、面白ェ見せ物が行われてんでさァ」
場所どころか空気さえも危うい道を、四人はただ案内されるがまま歩く。
薄暗い道を歩き続け、階段を登り、入り口に到達した。
急に前が開け、広い場所へ出た。
途端、耳を突く歓声が空間を揺らす。
「ここは…」
「地下闘技場?」
見晴らしのいい半円形の闘技場には多くの観客が押しかけ、血なまぐさい剣闘士競技を見物していた。
「煉獄関…」
剣闘選手が入場し、袴姿の浪人と鬼の仮面をつけた大柄な男が中央に佇んでいる。
「ここで行われているのは」
対峙する二人は地を蹴ると、己の得物に手をかける。
「正真正銘の」
一瞬の交錯を経て、浪人の男は背中から血飛沫をあげて絶命した。
「殺し合いでさァ」
勝敗は、一瞬で決した。
秒殺、という表現があるが、今の試合には五秒もかかっていない。
「勝者、鬼道丸!!」
司会者の堂々宣言と共に、ギャラリーから歓声が沸き立つ。
「こんな事が…」
「賭け試合か…」
銀時と新八は重々しく口を開く。
響古は目を細く眇 め、拳を強く握りしめた。
「こんな時代だ、侍は稼ぎ口を探すのも容易じゃねェ。命知らずの浪人どもが金ほしさに斬り合いを演じるわけでさァ」
暑苦しいほどに集う男達。
野外に設けられたリングを囲む観客席は歓喜に震えていた。
第四十二訓
夢は拳でつかめ
左目に壮絶な物語が詰まっていそうな傷を負った審判はリングに上がった中年の女性へと手を差し出す。
《赤コーナー!主婦業に嫌気がさし~、結婚生活を捨て、戦場に居場所を見つけた女~、鬼子母神春菜ァァ!!》
続いて、オーバーアクションで元アイドルの少女を紹介する。
《青コーナー!人気アイドルからスキャンダルを経て、殴り屋に転身!『でも私!歌うことは止めません!!』闘う歌姫!ダイナマイトお通ぅぅぅ!!》
ボクシングのグローブをはめた手でギターを持ち、お通はプロレス選手として試合に出た。
最近テレビでも見ないと思ったら、こんなところで格闘技って。
『お通ちゃァァァん、いけェェェェェ!!』
リングの彼女に盛大な声援を送るのは勿論、新八率いる親衛隊である。
その中には、立派に改心した八兵衛の姿もあった。
「いやいや、いけーじゃねーよ。止まった方がいいよ、彼女…変な方向にいっちゃってるよ」
「ワォ、なんでこーなったのかしら」
熱狂的に応援する親衛隊に混じり、銀時と響古は囁き合う。
「…フフ、でもいいと思うわ。闘う歌姫なんて、そうそういないわよ」
しかし、すぐに笑みを浮かべ、なんだか楽しそうに観戦する。
「お通ちゃんは歌って闘うアイドルに転向したんです!」
いや、アイドルに戦いとか必要ありませんから。
「てゆーか、タカチンコだっけ?なんでアンタもいんの?」
何気に親衛隊に混ざっている八兵衛の姿を見つけ、響古は首を捻る。
「タカチンですよ、響古さん。タカチンは友達です!親衛隊に入るのは当然です」
いやいや、なんで当然?
新八の常識がわかりません。
「人間そーゆーこと言いだしたら、危ねーんだよ」
試合が始まり、お通がギターを振り下ろして容赦なく春菜に一撃を食らわす。
女子プロレスの様子を眺めつつ、銀時は言った。
「俺のなじみだったラーメン屋も『今度カレーもメニューに出してみる』って言った直後、つぶれたよ」
昔、響古と訪れていたラーメン屋の行く末が脳裏に過ぎる。
ラーメン屋なら麺類だけ出しときゃいいものを、心機一転とか言ってカレーなんざ新メニューに加えたもんだから即閉店。
「なんちゅー例え話ですか!お通ちゃんは大丈夫です、歌い続けます」
歌い続ける人が音楽にとって、命くらい大事なギターで人を殴りますか、無理でしょ。
「…なーんかあの娘は不幸になりそーな顔しとるもんな~。俺、前から思ってたんだよ」
お通のギター攻撃に怯むことなく春菜も反撃し、右ストレートを繰り出す。
それをギターで防いだ彼女はその場で一回転。
遠心力で加速したギターを春菜の脇腹へ叩きつけた。
「――ま、響古は俺がいるから幸せだもんな~」
「いいわよ、その調子!もっと春菜をぶん殴りなさい!」
「聞いてねー上にS!!」
コイツはこうなったら当分このままだ…と頭の隅で考えつつ、神楽に話しかける。
「その点、神楽、お前は終生ちゃらんぽらんの相が出てるよ、よかったな」
「バカ言え、ちゃらんぽらんはテメーだろ。神楽、あなたはまだ若いから更生できるわよ」
女子プロレスに夢中になっていたはずの響古から、まさかの毒舌。
銀時はたまらず冷や汗を流した。
「えー。夢とはいかなるものか。持っていても辛いし、無くても悲しい」
すると、予想外の乱入者がマイクを片手にパフォーマンスを開始する。
「しかしそんな茨の道さえ、己の拳で切り開こうとするお前の姿…感動したぞォォ!!」
突如、リングの真ん中に陣取る神楽は顎をしゃくってマイクを床に叩きつけた。
≪おおーっと、リング上に乱入者が!何者だァァ!?このチャイナ娘、どこの団体だァァ!?≫
「えー、私の名はアントニオ神楽…ゆえあってお通の助太刀をするアル。かかって来い、コノヤロー!ダーッ!」
リングで暴れる乱入者を呆然と見つめる響古の手を引っ張り、銀時は立ち上がった。
「ぎっ、銀!?」
それと同時、新八も顔を青ざめて踵を返す。
「…ヤバイよ。俺しらない、俺しらないよ」
「僕もしらないよ。アンタのしつけが悪いから、あんなんなるでしょーが」
「何言ってんの?子供の性格は三歳までに決まるらしーよ」
常日頃から目につく神楽のオイタの出所をなすりつけようとする二人。
この不穏な雲行きに、響古はやれやれと肩をすくめた。
いやいや、それはあなたもですよ。
「何やってんだァ、ひっこめェェ、チャイナ娘ェ。目ェつぶせ、目ェつぶせ!」
その時、会場の外に向かう三人の耳に聞き覚えのある声が届いた。
「春菜ァァ!何やってんだァ、何のために主婦やめたんだ、刺激が欲しかったんじゃないの!?」
野次といっても過言ではない声援を送る沖田と目を合わせた瞬間、微妙な空気に包まれた。
神社に掲げられた白幕の下、石段に腰かけた万事屋四人は偶然の遭遇に雑談を交えていた。
「いやー、奇遇ですねィ。今日はオフでやることもねーし、大好きな格闘技を見に来てたんでさァ。しかし旦那方も、格闘技がお好きだったとは…」
真選組隊服ではなく、袴姿の沖田は腕を組んで鳥居に寄りかかる。
「俺ァ、とくに女子格闘技が好きでしてねィ。女どもがみにくい表情でつかみ合ってるトコなんて爆笑もんでさァ」
当然のことながら、沖田の笑顔は邪悪さに満ちていた。
「なんちゅーサディスティックな楽しみ方してんの!?」
「みにくいは言い過ぎよ。せめて、打たれ強いって言ってちょうだい」
しれっと言いのけた響古にもツッコミは忘れない。
「そーゆー響古さんもサディスティックな楽しみ方してたじゃないですか!」
「一生懸命やってる人を笑うなんて最低アル。勝負の邪魔するよーな奴は、格闘技見る資格ないネ」
眉間の皺で遺憾の意を表明しながら神楽が言った。
「明らかに試合の邪魔してた奴が言うんじゃねーよ」
銀時はしかるべきダメ出しをして頭を叩く。
そして、やっぱりというか沖田は響古にアプローチする。
「やっぱり俺が惚れただけのある女でさァ。サディスト同士、仲良くしましょう」
年下のライバルに立ち向かう銀時を突き飛ばして、割り込んだ神楽が声を荒げる。
「響古とお前を一緒にするなヨ。俺が惚れたって何様か!軽い男は、響古に近づく資格はないネ!」
「何言ってやがんでィ。俺は生まれた時から響古一筋だ」
神楽と沖田は正面で視線を、まさに火花の散るように交わす。
「つくならもっとマシな嘘つくヨロシ。大体、SとSじゃ引き合わないアル!残念でした、また来週ぅー」
「俺ァ、響古のためならドMにでもなれるってんだ!なめてもらっちゃ困るぜィ」
自信満々に言い切った沖田に対して、きりきりとつり上がった凶器のごとき眼差しで睨みつける。
「…てんめェ、いけしゃあしゃあとォ……!!」
その後ろで響古に抱きつき、豊かな胸にぐりぐりと顔を押しつける銀時。
響古に甘えまくり、慰めてもらおうとしてますね。
いや、そこまでするほど傷ついたんでしょうか……絶対、違いますよねえ。
「それより旦那方、暇ならちょいとつき合いませんか?もっと面白ェ見せ物が見れるトコがあるんですがねィ」
「「面白い見せ物?」」
沖田の言葉に、二人は首を傾げる。
「まァ、付いてくらァわかりまさァ」
何やら怪しい雰囲気を漂わせる言い方。
こういうのは関わるとろくなことがない。
普段なら面倒だと誰もついていかないが……不審感があるからこそ、そこに何かがあると思わずにはいられない。
四人は彼の後を追い、石段を下りていった。
太陽の光が差し込まない薄暗い路地へ、沖田は案内する。
怪しげな商人達から、どう見ても堅気の人間じゃない者まで多くが目につく。
「オイオイ、どこだよココ?悪の組織のアジトじゃねェのか?」
「アジトじゃねェよ、旦那。裏世界の住人たちの社交場でさァ」
神楽は、見るからに怪しい男が開いている露店の商品を手に取ろうとしており、新八にチャイナ服を引っ張られていた。
「ここでは、表の連中は決して目にすることができねェ、面白ェ見せ物が行われてんでさァ」
場所どころか空気さえも危うい道を、四人はただ案内されるがまま歩く。
薄暗い道を歩き続け、階段を登り、入り口に到達した。
急に前が開け、広い場所へ出た。
途端、耳を突く歓声が空間を揺らす。
「ここは…」
「地下闘技場?」
見晴らしのいい半円形の闘技場には多くの観客が押しかけ、血なまぐさい剣闘士競技を見物していた。
「煉獄関…」
剣闘選手が入場し、袴姿の浪人と鬼の仮面をつけた大柄な男が中央に佇んでいる。
「ここで行われているのは」
対峙する二人は地を蹴ると、己の得物に手をかける。
「正真正銘の」
一瞬の交錯を経て、浪人の男は背中から血飛沫をあげて絶命した。
「殺し合いでさァ」
勝敗は、一瞬で決した。
秒殺、という表現があるが、今の試合には五秒もかかっていない。
「勝者、鬼道丸!!」
司会者の堂々宣言と共に、ギャラリーから歓声が沸き立つ。
「こんな事が…」
「賭け試合か…」
銀時と新八は重々しく口を開く。
響古は目を細く
「こんな時代だ、侍は稼ぎ口を探すのも容易じゃねェ。命知らずの浪人どもが金ほしさに斬り合いを演じるわけでさァ」