第三十八訓~三十九訓
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決して静かとは言えない新宿の歌舞伎町。
だが言い方を変えれば、活気があるとも促されよう。
にぎやかで、明るく、活気のある町。
そして包み隠さず言えば、やかましい町。
歌舞伎町には今日も近所迷惑な怒号が響き渡っていた。
「ふざけんじゃねェェェェ!!テメーの蛮行によって、どれだけの人々が苦しんでるのか、わかってんのかァァ!!」
「やかましーわ、クソババぁぁ!!回覧板まわすの遅れたくらいで、何でそこまで言われなきゃならねーんだァァ!?」
図太い、汚い、耳障りの悪い声。
三重苦が見事に揃った怒鳴り声は、道のど真ん中で繰り広げられていた。
「いいかァ!!かぶき町は確かに、浄も不浄も混ざりあったムチャクチャな街だ!!だが、だからこそ、あたしらは自分のルールだけは守って生きていかなきゃならねーんだよ!」
「んなこと言ってババァ、お前、こないだ燃えるゴミの日にジャンプ出してたじゃねーかよ」
スナックお登勢の女将。
かまっ娘倶楽部のオーナー。
二人は歌舞伎町で名の知れた人物。
それだけに迷惑過ぎる怒鳴り声でも、誰も文句が言えない。
「ちげー、アレはお前、二階に住んでる奴が…」
「とぼけんじゃねーよ!アンタ、かぶき町の女帝とか言われて調子に乗ってんじゃねーの!?」
二人の怒鳴り合う大声で、二階の万事屋から銀時と響古が顔を出す。
「んだよ、うるせーな」
「何?何事?」
銀時は眠たそうに目を擦り、響古は怪訝そうに眉を寄せる。
穏やかな昼下がり、人々が最も活動的と言えるこの時間こそが、彼の目覚めの時。
今し方布団から抜け出したばかりの彼は、いつものように焦点が定まらない瞳のまま、不機嫌な声で言った。
「オイ、うるせーんだよ、そこの妖怪二匹。今、何時だと思ってんだ。そして俺の血圧がいくつだと思ってんだ」
「うるせーんだよ、このダメ人間が!!」
「まっとうな人間は、とっくに活動始めてんだよ!」
怒鳴り合っていた二人は同時に振り向き、怠惰な男を糾弾する。
未だ意識が眠りと覚醒の狭間を漂う銀時は不審たっぷりに告げた。
「お前ら、自分のこと人間だと思ってんのか?それは遠い昔の話だよ」
「銀、それはちょっと言い過ぎじゃ――ワォ」
響古が驚きの声を漏らす。
刹那、強い衝撃が襲ったかと思えば今まで二階にいた銀時は地面に引きずり落とされた。
「私にたてついたからには、落とし前つけてもらうよ。コイツは預かるからね」
かまっ娘倶楽部のオーナーの手によって粛清された銀時は白目を剥いて気絶。
「好きにしな」
お登勢はあっさりと言い放った。
そして、目線を上げて黒髪の美女に発言を求める。
「いいだろ、響古」
「えェ、お好きにどうぞ」
ひらひらと手を軽く振って、響古は即答する。
ちょうど買い物帰りの新八と神楽が、銀時の襟首を掴んで去っていく人物の後ろ姿を遠目に見ていた。
「新八ィ。あのモンスター、何アル?」
「ん?アレはお登勢さんと同じく、この街を支えるかぶき町四天王の一人、鬼神マドマゼール西郷」
かまっ娘倶楽部オーナーにして、歌舞伎町四天王の一角を担う人物――マドマーゼル西郷。
見た目はただの厳ついオカマだが、侮るべからず。
彼……いや、彼女はその巨体を武器にオカマを蔑む輩を一掃してきた恐ろしい人物だ。
第三十八訓
オカマは男のバカさも女のズルさも全部知ってる
その後、買い物を済ませた新八と神楽に先程の出来事を説明する。
「なるほど。それで、銀ちゃんがモンスター・マドレーヌに拉致られたアルか」
「違うよ、神楽ちゃん!マドマゼール西郷」
美味しそうなお菓子のボケにつっこんだ新八は、ひどく落ち着かない様子だった。
だが響古は不安に感じてはなかった。
あのオーナーのことだ。
気高く生きるオカマのなんたるかを教えるに決まっている。
今頃は面白いことになっているかもしれない。
全て読み切った上で、響古は鷹揚としていた。
「さっきも言ったでしょう、新八?彼女に逆らっちゃいけないってわかってたことだし。だからしばらく放っておいて、その後で連れて帰って来るわ」
落ち着きのない少年に悠然と忠告する。
「は、はあ……」
「ま、銀のことだから割とやっていけるだろうし。心配するだけ損だわ」
数時間後に出来上がる銀時の姿態を想像し、響古は笑みが収まらなかった。
歌舞伎町で経営する店は、スナックやバーに限られたことではない。
少し特殊な店が"男も女も遊びに来てネ"と看板の掲げてある『かまっ娘倶楽部』である。
「みんな~。今日から入ってもらうことになった、パー子ちゃんよ」
桜色の着物にツインテールのカツラをつけ、濃いメイクを施した人物が注目の的となっていた。
「いやだ~、カ~ワ~イ~イ~。何、パー子って?」
「天然パーマのパー子よ」
「ちょっとォ、ママ~勘弁してよ~、私の客とられちゃうわ~」
今や西郷の手により見事にオカマへとジョブチェンジ。
"パー子"なんて可愛い源氏名までもらい、すっかりかまっ娘倶楽部の仲間入りだ。
「スイマセン、おなか痛いんで早退しまーす」
「逃げられないわよ~」
頭を鷲掴みにされ、さらに貫録十分な面相を近づけられ、もう逃げ場がなくなる。
「かぶき町で生きてくってことがどうゆうことか、アンタに教えてやるよ」
「いや、もう知ってますから、住んでるんで」
「アンタが化け物呼ばわりしたオカマ達がどれ程、気高く生きているか教えてやるよ」
「いや、もうホント勘弁してください。一応、僕主人公なんで、恋人もいるんで」
パー子(銀時)が穏便にしようとしても、勝手に話を進めていく。
「オラ。新入りに、オカマ道叩き込んでやんな!」
西郷は言い分を却下し、オネェ達の方へ突き飛ばした。
突き飛ばされたパー子は馴染み深い顔を見つける。
黒を口調とした着物で長い黒髪を左側に結い、濃いメイクを施した人物に訊ねた。
「何やってんだ、ヅラ」
何故か、女装した桂がオネェ達の中に混じっていた。
「ヅラじゃない、ヅラ子だ」
いつもなら本名を言うはずが、源氏名で訂正する。
響古が原付に乗ってある場所に向かう途中、空き地から子供達の声が聞こえてきた。
「オイ、カマ野郎!かかってきてみろよ!」
「オラオラ、どーした?」
一旦、原付を止めて空き地を覗く。
そこには、よっちゃんとその子分が自分達よりも小柄な少年に罵倒を浴びせていた。
「コラ、そこで何してるの」
声をかけると、よっちゃんはわかりやすいほど驚いた表情で響古を見た。
「げっ、響古姉!」
「『げっ』ってなによ。とにかく、いじめるの止めなさい。反撃しないのわかってて束になっていじめるのは最低よ」
胸の前で腕を組んで言い放つと二人は硬直し、響古が言った『最低』発言が頭を駆け巡る。
「今日はこの辺で勘弁してやらァ!!」
「響古姉がかばってくれたからって、調子にのるんじゃねーぞ!」
その後、二人が憧れの女性による最低発言によって涙を流したのは男同士の友情によって、誰にも知られなかったそうな。
「……君、大丈夫?」
響古は地面にへたり込んでいた少年に声をかけ、着物についた土を払う。
幼い少年は顔を真っ赤にして、年上の美女を見つめる。
「ケガはない…どーしたの?顔が真っ赤」
「あ、あの…ありがとう、お姉ちゃん!」
素早く立ち上がって走っていく少年を、響古は呆然と見送った。
――その日、桂とエリザベスは目に入ったそば屋に立ち寄る。
――天ぷらそば二人前を注文し、出来上がるのを待つだけだが、いっこうに注文した品が来ない。
「オイ親父、天そばはまだか?」
「ヘイ、少々お待ちくだせェ」
「少々だと?これだけ時間があれば、カップラーメン何個つくれると思っているんだ?」
――エリザベスが青筋を浮かばせて立ち上がる。
「よせ。エリザベス」
――今にも掴みかからん勢いのペットの前に手を出して争いを止める。
「最近は不逞浪人に対する取り締まりも厳しくなっている。こんな所で、無闇に目立った真似をするな」
「ヘイ、お待ち」
――すると、主人は隣の客に注文の品を出した。
「貴様ァァァァ!!その者より俺の方が、先に注文を頼んだのを忘れたかァァ!!」
――ついさっきエリザベスに注意した言葉も忘れ、桂は腰の刀に手をかける。
「お侍様、勘弁してくだせェ。この方は特別な…」
――激昂する客の剣幕に身をすくめ、店主は抗議しようとする。
――だが、桂の怒りは収まらない。
「いかなる客に対しても平等に接するのが貴様らの道であろう。そこになおれ、成敗してやる」
――今にも斬りかからんとする飼い主を、エリザベスが焦って羽交い絞めにする。
――その時、騒ぎに見兼ねた客が声をかけてきた。
「いやね~、お侍さん、こんな事でムキにならないでよ~。ホラ、私のあげるから」
「化け物はだまっていろ」
――次の瞬間、強い衝撃が襲ったかと思えば桂は店の端まで吹っ飛ばされる。
「オイ、誰が化け物だって!?」
――化け物扱いされた客のマドマーゼル西郷は鬼の形相で詰め寄った。
回想終了。
「…ということだ」
パー子(銀時)とヅラ子(桂)は三味線の音に合わせて踊りを披露していた。
「以来、なんとか脱け出す機会をうかがっているんだが」
両手に持った扇を翻し、腰を振るヅラ子から叱責が飛ぶ。
「オイ、そこ腰をもっと振れェェ!!」