第三十五訓
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木々の揺れる音が夜の江戸に響いていた。
人々が寝静まりセミの鳴き声も途切れた大江戸橋。
「ぐはァァ!!」
吹き飛ばされた侍を見下ろすのは一人の男。
「フン、たわいもない。立派なのは腰にさしたものだけか?」
男は薙刀を武器に法師武者のような服装で侍の刀を奪う。
「約束通り、得物はいただくぞ」
しかし、刀身を夜空にかざして紡いだ言葉は歓喜ではなかった。
「……これも最強とは程遠いな。侍の刃は星をも切り裂くときいたが、どうやら地球 へ来たのも無駄足だったようだ」
奪った刀を、数え切れない武器が入った籠の中へ入れる。
「――ああ、いずこにある。妖刀『星砕』」
満天の星々が、橋に佇む男の影を映し出す。
「そして…"紅天女"」
芝居がかった、何やらオーバーな悲鳴が万事屋に響く。
《アーウチ!!なんてこった!!≫
そこには、筋肉マッチョな外国人が下着姿で嘆いていた。
何故、室内で下着姿なんだとつっこみたいところだが、彼の腹にはたっぷりの脂肪が溜まっている。
≪不規則な漫画生活がたたって、おなかがまるでダブルバーガーだ!!これじゃあ、ジェニファーに嫌われちまうよ、シィーット!!》
その時、ヘアバンドをつけた女性が部屋にやって来る。
《どうしたの舞蹴 、上腕二頭筋に丸ペンがつきささって爆発した?》
漫画家の必需品である丸ペン。
細い線が描け、強弱もつけることができるので、Gペンと共に広く利用されている。
《ちがうよ!!見てくれ魔理鈴 、僕のおなかを!!》
《気をつけないとダメよ、丸ペンは人を殺傷できる程、鋭いんだから》
丸ペンに人を殺せるほどの殺傷力があるのか不明だが、刃先の鋭さが特徴である。
《だから丸ペンじゃねーっていってんだろ、クソ女 !!腹だよ》
妙に丸ペンにこだわる魔理鈴に声を荒げ、舞蹴はお腹の悩みを打ち明ける。
《大丈夫、そんな時はコレ。ダイエットマシーン「まわる~まわる~脂肪は燃えるちゃん!」》
すると、彼女は陽気な笑顔を浮かべ、どこからか取り出したフラフープを腰で回転させる。
《これを一日12時間やるだけで、みるみるおなかの肉がとれちゃうんだから~!》
《マジでか!魔理鈴!》
《今ならこれに、赤青違いの二つもつけて、なんと驚きのこの価格!!》
楽しく生活に融合させた形で印象をつけているように商品の説明をする魔理鈴。
その下にフラフープの値段が表示される。
ダイエット商品を紹介するテレビの前で、神楽が同じものを腰で回転させていた。
《十二回払い、たったこれだけで、夢のボディーが手に入っちゃうんだから~!》
《これでダブルバーガーとも、お別れだ、キャッホォォウ!!》
楽しくおかしく日常生活の一コマのように紹介している通販番組を熱心に見て舞蹴の真似をする。
「キャッホォォウ!!」
楽しそうにはしゃぐ神楽の頭を、銀時がスリッパで叩く。
「キャッホウじゃねーよ、お前!」
「それ、どっから手に入れたの」
不機嫌そうに腕を組む銀時に続いて、響古が胡乱そうに訊ねる。
「アレ、電話したらくれたヨ」
神楽はテレビを指差した後、掃除機やら電動歯ブラシやら洗剤やら何やらを両手いっぱいに抱える。
「コレもコレもくれたヨ、キャッホォォ!!」
「「ギャッボォォ!!」」
やはり彼女は通販の内容を理解していないようで、今やっていた番組で購入したものを暴露した。
あまりの商品の多さに、銀時と響古は喀血 した。
「神楽ちゃん。アレはね、テレビショッピングっていって、テレビで買い物する番組なんだ」
新八が苦笑いを浮かべて、テレビを指差して事の重大さを伝える。
「それ…タダじゃなくて、買っちゃったんだよ」
「マジでか」
いまいち理解していなかった少女が目を丸くすると、銀時はすぐ返品しようと告げる。
「スグ返してこい」
「今ならまだ、間に合うから」
「オイオイ、冗談キツいぜ。ジョニー、アンジェラ」
「誰がジョニーとアンジェラだ!!」
おそらくあの番組に影響されたんだろう、二人をジョニーとアンジェラという意味不明な名前で言い出した。
「オイ、新八、手伝え。返しにいくぞ」
「ハーイ」
銀時の指示に大人しく従い、新八も両手に抱える。
今にも泣きそうな顔で訴える神楽に申し訳ない思いなのか、
「ごめんね」
響古だけが眉を下げて謝る。
「や~め~ろ~や~、ジョニー!アンジェラ!マスクウェル!」
未だ意味不明な名前で呼ぶが、立ち止まる者はおらず、銀時達は万事屋を出るのだった。
「んだよ、チキショー!!あたいがダブルバーガーになってもいいってのかよォ!!」
ふて腐れた顔と態度でソファにダイブする。
買い物を邪魔されて不機嫌な神楽が顔を上げた先には、銀時の木刀――洞爺湖が置いてあった。
銀時愛用の木刀を、どういうわけか神楽はじっと見つめ続ける。
やがて丸い頬に、にんまりとした笑みが浮かんだ。
すぐさま定春を連れて行動に移す。
少女が目指すのは、物を預かってお金を貸すことを商売とする質屋である。
「きったねー木刀だな~。それになんかコレ、カレー臭くない?」
店の主人は使い古された木刀をじっくりと眺め、不審そうに顔をしかめる。
「え?コレ、買いとれっていうの?」
「ウン。テレビショッピングで買い物したいアル」
その時の少女の顔は、子供のものである。
小さな鼻と柔らかな頬を微妙に膨らませた興奮の面持ちで、カウンターに身を乗り出す。
「なんだかよくわかんねーけど、ちょっとこりゃ引きとれねーな。そっちの変な生き物なら、買ってもいいぞ」
染みついたカレーの臭いが理由で買い取りを断られ、神楽は次の質屋へと向かう。
「くさっ!なんかカレー臭いよ、コレ。それに洞爺湖ってコレ、土産ものじゃないかィ?いらんよ、こんなの」
安い大量生産が理由で断られ、次の質屋へと向かう。
「俺はなァ、カレー嫌いなんだよ。ハヤシライスは好きだけどな」
食べ物の好みで断られ、次の質屋へと向かう。
「これは買いとれないけど~、お嬢ちゃんなら買ってあげるよ~。幾らだい~」
怪しい人物に声をかけられたりもしたが、夜兎の怪力で一発KOした。
色々な質屋を回ってみたが、どこも木刀を買い取ってはくれない。
それまで我慢していた神楽の怒りも頂点に達し――。
大江戸橋を歩く人々は、繰り広げられる凶行にぎょっとして目を剥く。
「ふんごををををを!!」
そこには、抑えられない怒りと不満を、橋を壊して八つ当たりする神楽の姿があった。
「どうして誰も買ってくれないアルかー!!この役立たずがァァ!!大体ロクに給料も、もらえねーってのによォォ、どうやってほしいモノ手に入れろゆーか、アン!?」
思い起こすのは、今日の昼間。
通販で買った品物を銀時達に返品されて、誰も使い古された木刀を買い取ってはくれない。
欲しいものが買えない。
万事屋の事実上お財布となっている響古の働きをもってしても、彼らの生活に潤いは生まれなかった。
そもそも、障害が多過ぎる。
神楽の過食暴食。
定春の規格外な大きさに合った食費。
銀時の浪費癖。
極めつけは全員合わせてトラブルメーカー故に、常日頃どっか破壊している。
その修理費たるや、過去の分を計算すれば車も夢じゃない。
「響古がお小遣いでくれるだけなんだぞォォ!!それにひきかえ、天パは先月も給料酢昆布だったしよォォ、そんな酸っぱい給料あるかァァ!!」
せめて神楽ちゃん、サブヒロインなんだから。
物凄く目が据わった顔をしないの。
「なんで響古は天パの彼女なんじゃァァァ!!」
美しいだけでなく聡明な美女と、造りは悪くないくせに堕落した性格が減点対象の男――その二人のカップルが不釣り合いだと喚く。
夜兎のとてつもない怪力に加え、あらゆる物体でも壊せる木刀のおまけつき。
木造の橋が、ぴしりと音を立てて広がる。
「お、おお、おい!橋が…!!」
木刀の攻撃で威力が拡散し、地震のような揺れが人々を動揺させる。
怒りに任せて壊し続けていると、ついに橋の中央が崩壊してしまった。
『ぎゃああああああ』
真ん中からひしゃげ、崩れる大江戸橋に、人々は悲鳴をあげて逃げ出す。
やっと落ち着きを取り戻すと、真っ二つになった橋に座り、酢昆布をしゃぶる。
「ハァー。もう、帰るに帰れないヨ。あんなに大事にしてたモノ、勝手に持ち出してしまったネ。きっと怒ってるヨ」
神楽は眉を下げて反省する。
肩を落としていると突如、法師武者の格好をした男が現れ、薙刀を振り下ろしてきた。
神楽は咄嗟に木刀を振りかぶり、敵の攻撃に合わせて受け止める。
木刀と薙刀の刀身がぶつかり合い、剣呑な声音で口を開く。
「何アルか、お前?」
突如襲いかかった男は質問には答えず、顔には大きな歓喜が浮かび上がっていた。
「小娘。その木刀、どこで手に入れた?橋をも両断するその力、ついに見つけたぞ。妖刀『星砕』…」
喜びを声に滲ませて、鍔迫り合いになる。
直後、神楽は目を眇めて無防備な足を打った。
「ぐはっ!!」
体勢を崩した男はひっくり返って、見事に川に落ちる。
「フハハ、やってくれたな、小娘!」
咳き込みながら見上げると、少女は通りかかった同心に声をかけていた。
「おまわりサンおまわりサン、あそこに変質者アル。なんか橋も壊してました」
「何!!やい、テメー、動くな!!」
一般人の通報に同心は声を張り上げる。
「え?ちょ待っ…おい、待てェェ!!」
器物損壊で罪をなすりつけられ、男は水を掻く手足を動かして声をあげる。
人々が寝静まりセミの鳴き声も途切れた大江戸橋。
「ぐはァァ!!」
吹き飛ばされた侍を見下ろすのは一人の男。
「フン、たわいもない。立派なのは腰にさしたものだけか?」
男は薙刀を武器に法師武者のような服装で侍の刀を奪う。
「約束通り、得物はいただくぞ」
しかし、刀身を夜空にかざして紡いだ言葉は歓喜ではなかった。
「……これも最強とは程遠いな。侍の刃は星をも切り裂くときいたが、どうやら
奪った刀を、数え切れない武器が入った籠の中へ入れる。
「――ああ、いずこにある。妖刀『星砕』」
満天の星々が、橋に佇む男の影を映し出す。
「そして…"紅天女"」
芝居がかった、何やらオーバーな悲鳴が万事屋に響く。
《アーウチ!!なんてこった!!≫
そこには、筋肉マッチョな外国人が下着姿で嘆いていた。
何故、室内で下着姿なんだとつっこみたいところだが、彼の腹にはたっぷりの脂肪が溜まっている。
≪不規則な漫画生活がたたって、おなかがまるでダブルバーガーだ!!これじゃあ、ジェニファーに嫌われちまうよ、シィーット!!》
その時、ヘアバンドをつけた女性が部屋にやって来る。
《どうしたの
漫画家の必需品である丸ペン。
細い線が描け、強弱もつけることができるので、Gペンと共に広く利用されている。
《ちがうよ!!見てくれ
《気をつけないとダメよ、丸ペンは人を殺傷できる程、鋭いんだから》
丸ペンに人を殺せるほどの殺傷力があるのか不明だが、刃先の鋭さが特徴である。
《だから丸ペンじゃねーっていってんだろ、クソ
妙に丸ペンにこだわる魔理鈴に声を荒げ、舞蹴はお腹の悩みを打ち明ける。
《大丈夫、そんな時はコレ。ダイエットマシーン「まわる~まわる~脂肪は燃えるちゃん!」》
すると、彼女は陽気な笑顔を浮かべ、どこからか取り出したフラフープを腰で回転させる。
《これを一日12時間やるだけで、みるみるおなかの肉がとれちゃうんだから~!》
《マジでか!魔理鈴!》
《今ならこれに、赤青違いの二つもつけて、なんと驚きのこの価格!!》
楽しく生活に融合させた形で印象をつけているように商品の説明をする魔理鈴。
その下にフラフープの値段が表示される。
ダイエット商品を紹介するテレビの前で、神楽が同じものを腰で回転させていた。
《十二回払い、たったこれだけで、夢のボディーが手に入っちゃうんだから~!》
《これでダブルバーガーとも、お別れだ、キャッホォォウ!!》
楽しくおかしく日常生活の一コマのように紹介している通販番組を熱心に見て舞蹴の真似をする。
「キャッホォォウ!!」
楽しそうにはしゃぐ神楽の頭を、銀時がスリッパで叩く。
「キャッホウじゃねーよ、お前!」
「それ、どっから手に入れたの」
不機嫌そうに腕を組む銀時に続いて、響古が胡乱そうに訊ねる。
「アレ、電話したらくれたヨ」
神楽はテレビを指差した後、掃除機やら電動歯ブラシやら洗剤やら何やらを両手いっぱいに抱える。
「コレもコレもくれたヨ、キャッホォォ!!」
「「ギャッボォォ!!」」
やはり彼女は通販の内容を理解していないようで、今やっていた番組で購入したものを暴露した。
あまりの商品の多さに、銀時と響古は
「神楽ちゃん。アレはね、テレビショッピングっていって、テレビで買い物する番組なんだ」
新八が苦笑いを浮かべて、テレビを指差して事の重大さを伝える。
「それ…タダじゃなくて、買っちゃったんだよ」
「マジでか」
いまいち理解していなかった少女が目を丸くすると、銀時はすぐ返品しようと告げる。
「スグ返してこい」
「今ならまだ、間に合うから」
「オイオイ、冗談キツいぜ。ジョニー、アンジェラ」
「誰がジョニーとアンジェラだ!!」
おそらくあの番組に影響されたんだろう、二人をジョニーとアンジェラという意味不明な名前で言い出した。
「オイ、新八、手伝え。返しにいくぞ」
「ハーイ」
銀時の指示に大人しく従い、新八も両手に抱える。
今にも泣きそうな顔で訴える神楽に申し訳ない思いなのか、
「ごめんね」
響古だけが眉を下げて謝る。
「や~め~ろ~や~、ジョニー!アンジェラ!マスクウェル!」
未だ意味不明な名前で呼ぶが、立ち止まる者はおらず、銀時達は万事屋を出るのだった。
「んだよ、チキショー!!あたいがダブルバーガーになってもいいってのかよォ!!」
ふて腐れた顔と態度でソファにダイブする。
買い物を邪魔されて不機嫌な神楽が顔を上げた先には、銀時の木刀――洞爺湖が置いてあった。
銀時愛用の木刀を、どういうわけか神楽はじっと見つめ続ける。
やがて丸い頬に、にんまりとした笑みが浮かんだ。
すぐさま定春を連れて行動に移す。
少女が目指すのは、物を預かってお金を貸すことを商売とする質屋である。
「きったねー木刀だな~。それになんかコレ、カレー臭くない?」
店の主人は使い古された木刀をじっくりと眺め、不審そうに顔をしかめる。
「え?コレ、買いとれっていうの?」
「ウン。テレビショッピングで買い物したいアル」
その時の少女の顔は、子供のものである。
小さな鼻と柔らかな頬を微妙に膨らませた興奮の面持ちで、カウンターに身を乗り出す。
「なんだかよくわかんねーけど、ちょっとこりゃ引きとれねーな。そっちの変な生き物なら、買ってもいいぞ」
染みついたカレーの臭いが理由で買い取りを断られ、神楽は次の質屋へと向かう。
「くさっ!なんかカレー臭いよ、コレ。それに洞爺湖ってコレ、土産ものじゃないかィ?いらんよ、こんなの」
安い大量生産が理由で断られ、次の質屋へと向かう。
「俺はなァ、カレー嫌いなんだよ。ハヤシライスは好きだけどな」
食べ物の好みで断られ、次の質屋へと向かう。
「これは買いとれないけど~、お嬢ちゃんなら買ってあげるよ~。幾らだい~」
怪しい人物に声をかけられたりもしたが、夜兎の怪力で一発KOした。
色々な質屋を回ってみたが、どこも木刀を買い取ってはくれない。
それまで我慢していた神楽の怒りも頂点に達し――。
大江戸橋を歩く人々は、繰り広げられる凶行にぎょっとして目を剥く。
「ふんごををををを!!」
そこには、抑えられない怒りと不満を、橋を壊して八つ当たりする神楽の姿があった。
「どうして誰も買ってくれないアルかー!!この役立たずがァァ!!大体ロクに給料も、もらえねーってのによォォ、どうやってほしいモノ手に入れろゆーか、アン!?」
思い起こすのは、今日の昼間。
通販で買った品物を銀時達に返品されて、誰も使い古された木刀を買い取ってはくれない。
欲しいものが買えない。
万事屋の事実上お財布となっている響古の働きをもってしても、彼らの生活に潤いは生まれなかった。
そもそも、障害が多過ぎる。
神楽の過食暴食。
定春の規格外な大きさに合った食費。
銀時の浪費癖。
極めつけは全員合わせてトラブルメーカー故に、常日頃どっか破壊している。
その修理費たるや、過去の分を計算すれば車も夢じゃない。
「響古がお小遣いでくれるだけなんだぞォォ!!それにひきかえ、天パは先月も給料酢昆布だったしよォォ、そんな酸っぱい給料あるかァァ!!」
せめて神楽ちゃん、サブヒロインなんだから。
物凄く目が据わった顔をしないの。
「なんで響古は天パの彼女なんじゃァァァ!!」
美しいだけでなく聡明な美女と、造りは悪くないくせに堕落した性格が減点対象の男――その二人のカップルが不釣り合いだと喚く。
夜兎のとてつもない怪力に加え、あらゆる物体でも壊せる木刀のおまけつき。
木造の橋が、ぴしりと音を立てて広がる。
「お、おお、おい!橋が…!!」
木刀の攻撃で威力が拡散し、地震のような揺れが人々を動揺させる。
怒りに任せて壊し続けていると、ついに橋の中央が崩壊してしまった。
『ぎゃああああああ』
真ん中からひしゃげ、崩れる大江戸橋に、人々は悲鳴をあげて逃げ出す。
やっと落ち着きを取り戻すと、真っ二つになった橋に座り、酢昆布をしゃぶる。
「ハァー。もう、帰るに帰れないヨ。あんなに大事にしてたモノ、勝手に持ち出してしまったネ。きっと怒ってるヨ」
神楽は眉を下げて反省する。
肩を落としていると突如、法師武者の格好をした男が現れ、薙刀を振り下ろしてきた。
神楽は咄嗟に木刀を振りかぶり、敵の攻撃に合わせて受け止める。
木刀と薙刀の刀身がぶつかり合い、剣呑な声音で口を開く。
「何アルか、お前?」
突如襲いかかった男は質問には答えず、顔には大きな歓喜が浮かび上がっていた。
「小娘。その木刀、どこで手に入れた?橋をも両断するその力、ついに見つけたぞ。妖刀『星砕』…」
喜びを声に滲ませて、鍔迫り合いになる。
直後、神楽は目を眇めて無防備な足を打った。
「ぐはっ!!」
体勢を崩した男はひっくり返って、見事に川に落ちる。
「フハハ、やってくれたな、小娘!」
咳き込みながら見上げると、少女は通りかかった同心に声をかけていた。
「おまわりサンおまわりサン、あそこに変質者アル。なんか橋も壊してました」
「何!!やい、テメー、動くな!!」
一般人の通報に同心は声を張り上げる。
「え?ちょ待っ…おい、待てェェ!!」
器物損壊で罪をなすりつけられ、男は水を掻く手足を動かして声をあげる。