第二十九訓~三十一訓
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編み笠を深く被り、橋の上に座る僧侶――桂は顔を見せず、声をかける。
「誰だ?」
訊ねる声は剣呑で、警戒していると気づいた人物は小さく笑みをこぼす。
「…ククク、ヅラぁ、相変わらず幕吏 から逃げ回ってるよーだな」
真横に立っているのは、編み笠を深く被り、女物の派手な着物を纏った男だった。
口許には古風な煙管をくわえている。
「ヅラじゃない、桂だ。なんで貴様がここにいる?幕府の追跡を逃れて、京に身をひそめているときいたが」
張りつめた声で告げると、男は笑みを唇に貼りつけながら言う。
桂の警戒を嘲笑うような、余裕に満ちた笑い。
「江戸 に"紅天女"がいるって噂が入って、会いに来たんだ。ついでに祭りがあるってきいてよォ、いてもたってもいられなくなって来ちまったよ」
冗談めかした口調だが、彼が言うと冗談に聞こえない。
桂はもう一度厳しく警告を述べる。
「祭り好きも大概にするがいい。貴様は俺以上に幕府から嫌われているんだ、死ぬぞ」
だが、過激派に属する攘夷浪士は不敵に笑って警告を無視した。
「よもや、天下の将軍様が参られる祭りに、参加しないわけにはいくまい」
そこで、初めて桂の表情が強張る。
彼は、他の誰よりも強く激しく"紅天女"の再会を望んでいた。
「お前、何故それを?まさか…」
「クク、てめーの考えているような、だいそれたことをするつもりはねーよ」
編み笠の中から、その顔立ちを晒す。
どこか陰鬱な翳を漂わせた秀麗な容貌。
左目は潰れているのか、顔の半分を包帯で覆われている。
「だが、しかし面白ェだろーな。祭りの最中、将軍の首が飛ぶようなことがあったら、幕府も世の中もひっくり返るぜ」
呪詛のような言葉を紡ぎながら、その妖艶な顔が凄まじい負の感情に染まっていく。
「フフフ、ハハハハ」
眼前の男の危険を実感し、冷や汗が伝う。
男の企図、そこに込められた悪辣さに気づかされ、心底の不安に駆られた。
「…響古を巻き込むつもりはなかろうな」
「ただ会いに来たっつってんだろ」
桂の厳しい詰問を、たいして気にも止めずに答えると、
「やっと見つけたんだ」
男は編み笠の奥から低く声を漏らす。
第二十九訓
音楽なんて聴きながら受験勉強なんてできると思ってんのか お前は! もう切りなさい!
歌舞伎町の裏通り、空き家などが建ち並ぶ、一見寂れた工房。
お登勢は青筋を立て、怒りに拍車をかけて激昂する。
「コラぁぁぁぁぁ!!クソジジイぃぃぃ!!」
工事か何かをやっているのだろうが、騒音どころではない。
そんな工房には"源外庵"との看板が斜めにかかっている。
「平賀、テメッ、出てこいコノヤロォォォォォ!!」
激昂するお登勢の大声にも負けず、ガシャコン、ガシャコン、と騒音を響かせる。
お登勢の後ろには、怒りに燃える町内会のご婦人が控えていた。
「てめーは、どれだけ近所の皆様に迷惑かけてるかわかってんのかァァ!!」
「昼夜問わず、ガシャコンガシャコン!ガシャコン戦士かてめーはコノヤロー!!」
「ウチの息子なんてなァ、騒音で気ィ散っちゃって受験おちちゃったぞ、どーしてくれんだ、オイ!!」
顔を怒りに歪め、ご婦人達は声を荒げて苦情を申し立てる。
「江戸一番の発明家だかなんだかしらねーが、ガラクタばっかつくりやがって。私ら、かぶき町町内会一同も我慢の限界だ、今日こそ決着つけてやる」
極めてうるさい騒音に、お登勢は腕を組んで怒りを吐き出す。
「オイ、ヤローどもやっちまいな!!」
それに応えるように、万事屋四人がラジカセやスピーカーなどの音楽機材を抱えて出てきた。
てきぱきと準備を始め、ラジカセのスイッチを押すと歌の前奏が流れ出す。
「一番、新宿から来ました。志村新八です。よろしくお願いします」
誰に向けてかペコリと頭を下げると、お登勢達は疑問符を浮かべる。
マイクを構え、大きく息を吸い――。
『お前ェ、それでも人間かァ、お前の母ちゃん何人だァァ!!』
びっくりするほどに下手くそなその歌声が響き渡る。
他の三人は事前に耳栓をし、お登勢達は悲痛の表情で耳を塞ぐ。
「おいィィィィィ!!ちょーちょーちょー、ストップストップストップ」
お登勢はたまらず止めさせようとし、銀時の着流しを掴む。
『いい加減にしねぇと、そのホクロひきちぎるぞー』
こめかみに青筋を立てて、カラオケで歌い続ける新八を指差す。
「オイ、止めろコラ。てめっ、何してんだコラ、私は騒音止めてくれって言ったんだよ!なんだコレ?増してるじゃねーか、二つの騒音がハーモニー奏でてるじゃねーか!」
「いじめっこだまらすには、同じよーにいじめんのが一番だ。殴られたことのない奴は、人の痛みなんてわかりゃしねーんだよ」
「わかってねーのはお前だァ、こっちゃ鼓膜破れそーなんだよ!!」
「何言ってるの、お登勢さん。一番痛いのは新八ですよ。公衆の面前で音痴、晒してんだから」
響古はそんなふうに言ったが、当の本人は気持ちよさそうに歌っている。
「なんか気持ちよさそーだけど!!」
「新八ぃ。次、私歌わせてヨ。北島 五郎の新曲手に入れたネ。ねェ…ちょっと。オイ、きーてんのか、音痴」
次は自分の番だと、神楽は演歌のCDを準備する。
だが、構わず気持ちよさそうに歌う姿に苛立ちを募らせ、
「んだよ、止めろや~」
ついにはマイクの取り合いを始めてしまった。
「ちょっと、喧嘩しないの!」
「あ~あ。何、やってんだ。あいつらしょーがねーな」
マイクの取り合いで始まった喧嘩に、銀時と響古は仲裁に入る。
「オイぃぃ!!次歌うのは俺だぞォ!!」
「おめーら、一体何しに来てんだァ!!もういい、てめーらの歌きくぐらいなら自分で歌う!貸せ!」
「てめーの歌なんてききたくねーんだよ、腐れババア黙ってろ!」
「なんだとォォ!!じゃあ、デュエットでどうだコノヤロォォ!!」
「俺は響古とデュエットすんだよ!」
「あたしは一人で歌いたいの!」
騒音そっちのけで喧嘩する五人に、ご婦人達は呆気に取られた顔で眺める。
すると、工場のシャッターが開き、背後に巨大な影。
ガチャリ。
重々しい金属音を響かせて、野武士のカラクリが出てきた。
「…え?」
「ワォ」
「え?…これが平賀サン?」
物言わぬ野武士を前にして取り合いを中断し、呆気に取られる五人。
突如、カラクリは銀時の頭を鷲掴みにして持ち上げた。
「いだだだだだ、頭とれる!頭とれるって、平賀サン!」
「平賀サン、落ち着いて!」
「止めろォォォ、平賀サン!!」
カラクリの無言と惨劇の差に現実味が湧かずに慌てふためく。
ご婦人達は銀時達と同じ反応を示し、
「キャアアア」
悲鳴をあげて逃げていく。
「たわけ、平賀は俺だ」
次に、自分こそが平賀だと名乗る老人が出てきた。
髪の毛は白いが、がっしりとした身体につなぎ服を着て、作業用のゴーグルをかけている。
「人んちの前でギャーギャー騒ぎやがって、クソガキども。少しは近所の迷惑も考えんかァァァァァ!!」
「そりゃテメーだ、クソジジイ!!てめーの奏でる騒音のおかげで近所の奴は、みんなガシャコンノイローゼなんだよ!!」
「ガシャコンなんて騒音奏でた覚えはねェ!『ガシャッウィーンガッシャン』だ!!」
直接、騒音主である老人と対峙し、怒鳴り込んで睨む。
源外も逆上して険しい眼差しでお登勢を見返す。
この数カ月、騒音を巡って事あるごとに激しく対立・対決する横で、
「ぎゃああ」
未だカラクリに捕まったままの銀時を、響古達が助けようとしていた。
「源外、アンタもいい年してんだから、いい加減、静かに生きなさいよ。あんなワケのわからんもんばっかつくって『カラクリ』に老後の面倒でも見てもらうつもりかィ」
静かな声音で紡がれたお登勢の言葉を、源外は大声で遮った。
「うっせーよババア!何度、来よーが俺ァ、工場はたたまねェ!!帰れ!」
そして、傍に控える野武士のカラクリに指示する。
「オイ、三郎!!かまうこたァねェ、力ずくで追い出せ!!」
《御意》
命令を受けたカラクリ――三郎は、銀時を掴んでいる腕を振り上げると、源外めがけて投げ飛ばした。
「ん?アレ?オイ、ちょっ…」
戸惑う源外は銀時と衝突し、唖然とする皆の前で同時に倒れた。
部品の詰まった段ボール箱を抱え、所狭しと置かれたカラクリに感嘆する。
「うわ~、カラクリの山だ。これ全部、平賀サンがつくったんですか?」
じっくりと観察する新八に続いて、
「「んしょ、んしょ」」
響古と神楽も次々と部品を運び出す。
源外はというと柱に縛りつけられ、じたばたと暴れていた。
「てめーら、何勝手に引っ越しの準備進めてんだァ、ちきしょォォ!!縄ほどけェェ、脱糞するぞコノヤロォォ!!」
随分、頭に血が上がっているらしく強硬手段に入る。
「フフ。そんなことしたら、鼻からオイル飲ませますよ」
「ねーちゃん、それだけは勘弁!!」
だが、響古が浮かべる悪魔の微笑みにより、ぶるぶる震えて首を振った。
「オイ。茶頼むわ」
≪御意≫
手伝いもせずに胡座をかく銀時は、三郎に命令する。
赤の他人にこき使われている光景を見せつけられ、源外は怒鳴った。
「三郎ォォ!!てめェ、何こき使われてんだァ!!助けんかい!!」
「いや~。実にイイモのつくってるじゃねーか、ジーさん。ウチにも一つくんねー?このポンコツ君」
憎らしい笑顔を向ける銀時の頭に、熱々の茶が溢れた。
「あれ?」
狙ったかのように銀時にかかる茶。
その熱さに飛び上がり、のた打ち回る。
「誰だ?」
訊ねる声は剣呑で、警戒していると気づいた人物は小さく笑みをこぼす。
「…ククク、ヅラぁ、相変わらず
真横に立っているのは、編み笠を深く被り、女物の派手な着物を纏った男だった。
口許には古風な煙管をくわえている。
「ヅラじゃない、桂だ。なんで貴様がここにいる?幕府の追跡を逃れて、京に身をひそめているときいたが」
張りつめた声で告げると、男は笑みを唇に貼りつけながら言う。
桂の警戒を嘲笑うような、余裕に満ちた笑い。
「
冗談めかした口調だが、彼が言うと冗談に聞こえない。
桂はもう一度厳しく警告を述べる。
「祭り好きも大概にするがいい。貴様は俺以上に幕府から嫌われているんだ、死ぬぞ」
だが、過激派に属する攘夷浪士は不敵に笑って警告を無視した。
「よもや、天下の将軍様が参られる祭りに、参加しないわけにはいくまい」
そこで、初めて桂の表情が強張る。
彼は、他の誰よりも強く激しく"紅天女"の再会を望んでいた。
「お前、何故それを?まさか…」
「クク、てめーの考えているような、だいそれたことをするつもりはねーよ」
編み笠の中から、その顔立ちを晒す。
どこか陰鬱な翳を漂わせた秀麗な容貌。
左目は潰れているのか、顔の半分を包帯で覆われている。
「だが、しかし面白ェだろーな。祭りの最中、将軍の首が飛ぶようなことがあったら、幕府も世の中もひっくり返るぜ」
呪詛のような言葉を紡ぎながら、その妖艶な顔が凄まじい負の感情に染まっていく。
「フフフ、ハハハハ」
眼前の男の危険を実感し、冷や汗が伝う。
男の企図、そこに込められた悪辣さに気づかされ、心底の不安に駆られた。
「…響古を巻き込むつもりはなかろうな」
「ただ会いに来たっつってんだろ」
桂の厳しい詰問を、たいして気にも止めずに答えると、
「やっと見つけたんだ」
男は編み笠の奥から低く声を漏らす。
第二十九訓
音楽なんて聴きながら受験勉強なんてできると思ってんのか お前は! もう切りなさい!
歌舞伎町の裏通り、空き家などが建ち並ぶ、一見寂れた工房。
お登勢は青筋を立て、怒りに拍車をかけて激昂する。
「コラぁぁぁぁぁ!!クソジジイぃぃぃ!!」
工事か何かをやっているのだろうが、騒音どころではない。
そんな工房には"源外庵"との看板が斜めにかかっている。
「平賀、テメッ、出てこいコノヤロォォォォォ!!」
激昂するお登勢の大声にも負けず、ガシャコン、ガシャコン、と騒音を響かせる。
お登勢の後ろには、怒りに燃える町内会のご婦人が控えていた。
「てめーは、どれだけ近所の皆様に迷惑かけてるかわかってんのかァァ!!」
「昼夜問わず、ガシャコンガシャコン!ガシャコン戦士かてめーはコノヤロー!!」
「ウチの息子なんてなァ、騒音で気ィ散っちゃって受験おちちゃったぞ、どーしてくれんだ、オイ!!」
顔を怒りに歪め、ご婦人達は声を荒げて苦情を申し立てる。
「江戸一番の発明家だかなんだかしらねーが、ガラクタばっかつくりやがって。私ら、かぶき町町内会一同も我慢の限界だ、今日こそ決着つけてやる」
極めてうるさい騒音に、お登勢は腕を組んで怒りを吐き出す。
「オイ、ヤローどもやっちまいな!!」
それに応えるように、万事屋四人がラジカセやスピーカーなどの音楽機材を抱えて出てきた。
てきぱきと準備を始め、ラジカセのスイッチを押すと歌の前奏が流れ出す。
「一番、新宿から来ました。志村新八です。よろしくお願いします」
誰に向けてかペコリと頭を下げると、お登勢達は疑問符を浮かべる。
マイクを構え、大きく息を吸い――。
『お前ェ、それでも人間かァ、お前の母ちゃん何人だァァ!!』
びっくりするほどに下手くそなその歌声が響き渡る。
他の三人は事前に耳栓をし、お登勢達は悲痛の表情で耳を塞ぐ。
「おいィィィィィ!!ちょーちょーちょー、ストップストップストップ」
お登勢はたまらず止めさせようとし、銀時の着流しを掴む。
『いい加減にしねぇと、そのホクロひきちぎるぞー』
こめかみに青筋を立てて、カラオケで歌い続ける新八を指差す。
「オイ、止めろコラ。てめっ、何してんだコラ、私は騒音止めてくれって言ったんだよ!なんだコレ?増してるじゃねーか、二つの騒音がハーモニー奏でてるじゃねーか!」
「いじめっこだまらすには、同じよーにいじめんのが一番だ。殴られたことのない奴は、人の痛みなんてわかりゃしねーんだよ」
「わかってねーのはお前だァ、こっちゃ鼓膜破れそーなんだよ!!」
「何言ってるの、お登勢さん。一番痛いのは新八ですよ。公衆の面前で音痴、晒してんだから」
響古はそんなふうに言ったが、当の本人は気持ちよさそうに歌っている。
「なんか気持ちよさそーだけど!!」
「新八ぃ。次、私歌わせてヨ。北島 五郎の新曲手に入れたネ。ねェ…ちょっと。オイ、きーてんのか、音痴」
次は自分の番だと、神楽は演歌のCDを準備する。
だが、構わず気持ちよさそうに歌う姿に苛立ちを募らせ、
「んだよ、止めろや~」
ついにはマイクの取り合いを始めてしまった。
「ちょっと、喧嘩しないの!」
「あ~あ。何、やってんだ。あいつらしょーがねーな」
マイクの取り合いで始まった喧嘩に、銀時と響古は仲裁に入る。
「オイぃぃ!!次歌うのは俺だぞォ!!」
「おめーら、一体何しに来てんだァ!!もういい、てめーらの歌きくぐらいなら自分で歌う!貸せ!」
「てめーの歌なんてききたくねーんだよ、腐れババア黙ってろ!」
「なんだとォォ!!じゃあ、デュエットでどうだコノヤロォォ!!」
「俺は響古とデュエットすんだよ!」
「あたしは一人で歌いたいの!」
騒音そっちのけで喧嘩する五人に、ご婦人達は呆気に取られた顔で眺める。
すると、工場のシャッターが開き、背後に巨大な影。
ガチャリ。
重々しい金属音を響かせて、野武士のカラクリが出てきた。
「…え?」
「ワォ」
「え?…これが平賀サン?」
物言わぬ野武士を前にして取り合いを中断し、呆気に取られる五人。
突如、カラクリは銀時の頭を鷲掴みにして持ち上げた。
「いだだだだだ、頭とれる!頭とれるって、平賀サン!」
「平賀サン、落ち着いて!」
「止めろォォォ、平賀サン!!」
カラクリの無言と惨劇の差に現実味が湧かずに慌てふためく。
ご婦人達は銀時達と同じ反応を示し、
「キャアアア」
悲鳴をあげて逃げていく。
「たわけ、平賀は俺だ」
次に、自分こそが平賀だと名乗る老人が出てきた。
髪の毛は白いが、がっしりとした身体につなぎ服を着て、作業用のゴーグルをかけている。
「人んちの前でギャーギャー騒ぎやがって、クソガキども。少しは近所の迷惑も考えんかァァァァァ!!」
「そりゃテメーだ、クソジジイ!!てめーの奏でる騒音のおかげで近所の奴は、みんなガシャコンノイローゼなんだよ!!」
「ガシャコンなんて騒音奏でた覚えはねェ!『ガシャッウィーンガッシャン』だ!!」
直接、騒音主である老人と対峙し、怒鳴り込んで睨む。
源外も逆上して険しい眼差しでお登勢を見返す。
この数カ月、騒音を巡って事あるごとに激しく対立・対決する横で、
「ぎゃああ」
未だカラクリに捕まったままの銀時を、響古達が助けようとしていた。
「源外、アンタもいい年してんだから、いい加減、静かに生きなさいよ。あんなワケのわからんもんばっかつくって『カラクリ』に老後の面倒でも見てもらうつもりかィ」
静かな声音で紡がれたお登勢の言葉を、源外は大声で遮った。
「うっせーよババア!何度、来よーが俺ァ、工場はたたまねェ!!帰れ!」
そして、傍に控える野武士のカラクリに指示する。
「オイ、三郎!!かまうこたァねェ、力ずくで追い出せ!!」
《御意》
命令を受けたカラクリ――三郎は、銀時を掴んでいる腕を振り上げると、源外めがけて投げ飛ばした。
「ん?アレ?オイ、ちょっ…」
戸惑う源外は銀時と衝突し、唖然とする皆の前で同時に倒れた。
部品の詰まった段ボール箱を抱え、所狭しと置かれたカラクリに感嘆する。
「うわ~、カラクリの山だ。これ全部、平賀サンがつくったんですか?」
じっくりと観察する新八に続いて、
「「んしょ、んしょ」」
響古と神楽も次々と部品を運び出す。
源外はというと柱に縛りつけられ、じたばたと暴れていた。
「てめーら、何勝手に引っ越しの準備進めてんだァ、ちきしょォォ!!縄ほどけェェ、脱糞するぞコノヤロォォ!!」
随分、頭に血が上がっているらしく強硬手段に入る。
「フフ。そんなことしたら、鼻からオイル飲ませますよ」
「ねーちゃん、それだけは勘弁!!」
だが、響古が浮かべる悪魔の微笑みにより、ぶるぶる震えて首を振った。
「オイ。茶頼むわ」
≪御意≫
手伝いもせずに胡座をかく銀時は、三郎に命令する。
赤の他人にこき使われている光景を見せつけられ、源外は怒鳴った。
「三郎ォォ!!てめェ、何こき使われてんだァ!!助けんかい!!」
「いや~。実にイイモのつくってるじゃねーか、ジーさん。ウチにも一つくんねー?このポンコツ君」
憎らしい笑顔を向ける銀時の頭に、熱々の茶が溢れた。
「あれ?」
狙ったかのように銀時にかかる茶。
その熱さに飛び上がり、のた打ち回る。