第十六訓
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
その日、神楽は酢昆布をかじりながら、よく公園に出没する中年の男に話しかけた。
「おじちゃ~ん。おじちゃんはどーして、いつも昼間からこんな所にいるの~?」
無論、他にも友人はいる。
元々人懐っこく人見知りもしないので、友達を作るという行為は彼女にとってさほど難しいことではなかった。
「んー?それはねェ、仕事クビになっちゃったからだよ~」
「おじちゃんはどーして仕事クビになっちゃったの~?」
子供達と遊ぶ定春から視線を外し、サングラスをかけた長谷川へ向ける。
神楽のストレートな質問と、それ以上に純粋な瞳に、少なからず躊躇してしまう。
「んー。それはねェ、一時のテンションに身を任せたからだよ~」
それでも長谷川が黙り込んでしまうようなことはなかった。
彼は幼い少女に対しての忠告、あるいは義務感のようなものに突き動かされて告げる。
「お嬢ちゃんも若いからって、後先考えずに行動しない方がいいよ~。人生ってのは長いんだから」
「オメーに言われたくねーよ、負け組が」
返ってきたのは冷ややかな眼差しと辛辣な言葉だった。
「じゃーな、まるでダメなオッさん。 略してマダオ!」
追い討ちをかけるようにさらなる悪罵を飛ばし、
「うがァァァ」
「いくヨ、定春」
自分に襲いかかる定春を返り討ちにして去っていく。
「……フフ…ったく、最近のガキは」
残された長谷川はさしたる感慨を持っていない様だが、どこか達観したような口調でつぶやく。
「アレ?おかしーな。前がかすんで見えないや」
だが、サングラスに隠れる目からは涙がこぼれ、何も言い返せなかった。
――…マダオ、今の俺にはお似合いの言葉だ。
――ちょっと前までは、出世街道驀進だったのに、もののはずみであんなことしちまって。
幕府の重鎮の入国管理局に属していた頃は大勢の男達が頭を下げ、道を譲っていくほどの権力を振りかざしていた。
それがある日、惑星の皇子・ハタに暴力を振るったことから終わり、無職生活が始まったのである。
(詳しくは第二訓を読んでね)
――幕府 から切腹押しつけられて、恐いから夜逃げよーとしたら、女房が先に逃げてた。
悄然とした足取りでに戻ってきた途端に、
「ハラきれ」
上司から切腹を命じられたその日の夜、自宅に置き手紙が残されていた。
「あなたのようなマダオ(まるでダメな夫)にはついていけません。ハツ」
妻は既に夜逃げしていた。
――本当に何もかも失 くしちまった。
――俺にはグラサンしかねェ。
――いや、色んなもん失ったかわりに、手に入れたもんがある。
もはや日課となったパチンコで過ごしているところに、声がかけられる。
「よォ。また来てたのか」
働きもせず、ほぼ午前中を睡眠と遊戯に費やす男。
「どーよ、今日は。出てるか?」
――妙なツレだ。
こちらも、一日一日が暇で何もすることがない銀時だった。
勤務時間を終え、オーナーである女性に挨拶をする。
「お疲れ様でした!」
「お疲れ様」
接客としての腕も抜群だが、趣味で覚えたというコーヒーの腕も一流――そして、響古の雇い主。
それが蓮のプロフィールだ。
募集欄には『若い、できれば女の子のお手伝いを不定期でもいいから探している』と記載されていて、断固反対する銀時をなんとか説得して面接を受けたら――。
「ところで蓮さん、どうしてあたしみたいなのを雇ってくれたんですか?」
「基本的に、私だけでなんとかする店だしね。本気でやりたいって子を、パートとして常勤させる余裕もない。というわけで、忙しそうな時だけ手伝ってくれる子が欲しかったの」
蓮はたぶん、優しいだけの人ではない。
周囲の募集者から比べると、若干年齢が上だろう面接で、
「あなた、採用」
と宣言した時にそれはわかっている。
「ちょっといいなって思う、可愛くて素直な女の子を傍に置いて働くのはね……たぶん、響古ちゃんが想像する以上に私の疲れを忘れさせてくれるのよ。ふふっ、今度教えてあげましょうか?」
たまに変なことをつぶやく人でもあった。
もしかしたら常連の人がいつか言っていた。
(――「蓮さんって、ぜったいそっち方面の人だよね!だって仕草がとっても色っぽいもん!」――)
このバイトの雇用形態や時給はこちらにも都合がよく、基本的に蓮も好きだし、店の常連の人々も好きだった。
ならば、それで十分ではないか。
また、ここで働くことは別の仕事や出会いをもたらしてくれる。
バイトを終えての帰宅途中で、響古はある人物の後ろ姿を見つけた。
「こんなところで会うなんて奇遇ね、十四郎」
呼ばれて、土方は振り向く。
顔立ちは整っており、なかなかの男前。
くわえ煙草と冷徹な眼差しが目を惹く。
「あぁ、お前か」
眼前に、鼻先に立てた人差し指を突きつけられた。
「違うでしょう」
ちっちっちっ……と横に振られる。
「お前じゃなくて、響古でしょう、ね?」
漆黒の瞳でじっと見つめてくる。
とても有無とは言えない。
「……響古」
「はあい」
響古の凛々しい顔立ちが、笑顔に溶ける。
前髪のかかった細い眉毛や、切れ上がった目許、つやつやした唇が、土方に彼女の喜びを伝えてくれる。
――ったく、どーにも性格の掴めねェ女だな。
覇気と力強さに満ちた相貌に、ゆるぎない強さを湛えた黒い瞳。
艶やかな黒髪を、赤いリボンでポニーテールにしている美女は(黙っていれば)華麗な印象を周囲に与えるのだ。
「新聞、見たわよ。『攘夷志士大量検挙。幕府要人犯罪シンジゲートとの癒着に衝撃』。おてがらじゃない」
「その現場にいて俺達と一緒に戦ったお前が言うことか。攘夷浪士を捕まえている間にちゃっかりトンズラしちまうし」
溜め息と共に土方が言うと、響古は笑みを浮かべる。
「マスコミに嗅ぎつけられたら大変な騒ぎになるしね。でも、後悔はしてないわ。あんなに面白いことが起きたというのに、その中心から遠ざかるなんてバカ、断じてできないからね!」
攘夷浪士とのゴタゴタを『面白い』と言い切る響古の神経。
改めて感心した。
また、もう一つの可能性にも気づいて、ひそかに感謝した。
もしかしたら、彼女は麻薬疑惑の狭間に悩む真選組を配慮して、共にいることを選んでくれたのではないかと――。
自惚れかもしれないが、何故かそう思えたのだ。
「そーいえば、十四郎…ケムい」
「しょーがねーだろ」
響古は眉を寄せて、パタパタと手を振る。
この行動に、彼の胸に悪戯心がむくむくと湧き出してくる。
「響古」
「何――わぷっ!?」
その瞬間、吸い込んだ煙を響古の顔に吹きつけた。
「…ちょっ、何すんの!ケムい!」
顔面に充満する煙に響古は咳き込み、勝ち気な黒い瞳に涙まで浮かんでいる。
――あ………こーゆう表情するんだ。
不覚だった。
不覚にも涙を浮かべながら怒る彼女を、ちょっと可愛いと思ってしまった。
響古はすぐに顔を上げ、涙を手で拭い、そうして怒鳴る。
「いきなり何すんのよ!」
その尻に突然、蹴りが入って土方は前につんのめった。
「っうぉ!?な、何すんだよ!」
「こっちのセリフよ!いきなり煙吹きかけて、嫌がらせのつもり!?」
「だからって蹴っ飛ばすか、普通!?」
「蹴っ飛ばすの!普通は!!」
凄まじい迫力で断言され、煙草を抜き取られた。
「あっ!?煙草…」
す、と煙草の持ってない手が上がった。
――殴られる!?
そう思った。
だが、上げられた響古の手は、土方の口を覆うように当てられる。
そのまま、決して唇には触れずに柔らかく押し返された。
彼女は手を口から離すと、にやりと笑う。
「……ま。このあたしに悪戯するなんていい度胸は、誉めてあげるけど」
響古は、ふふと笑い、煙草を彼の口に戻してやった。
土方は最初、呆然としていた。
細い人差し指に目線がいく。
そこで初めて、自分が今、何をされたのか悟ったようだった。
目を丸くした彼の端正な顔が、ぴきっと固まり、その頬がじわじわと赤くなっていく。
「何、顔赤くしてんだィ、ムッツリ土方」
突如として現れた沖田が割って入ってきた。
「薄々気づいてはいましたが、まさか唇に指添えただけで真っ赤になるとは……どんだけ純情ですかねー」
これ見よがしで冷たい声が耳に届き、頬を紅潮させて固まる土方。
「そ…総悟!?」
「響古、先日は世話になりました。あれだけ大勢の浪士を相手に果敢に攻めるとは…惚れ直しましたよ」
「まーね。伊達に腰に木刀提げてるわけじゃないから」
沖田は響古の腕を取り、自分の方へと引き寄せた。
「テメー、一体どこに行ってやがった、見廻り中だぞ!そして離れろ!」
憤る土方へ、沖田は悪びれもせず言い切る。
「いやでィ。土方さんだって仕事中に響古とイチャついてたじゃねーですか」
「サボってた奴が偉そうなこと言ってんじゃねェェ!!」
勢いからか身体を寄せて、真正面からぴたりと響古にくっついた。
――え?え?
――……えェェェェ!?
――何コレ、まさかの展開ィィィィ!?
熱い。
背中の沖田の身体は、自分よりも年下だが隊服の上からでもわかるくらい、それなりに筋肉がついている。
正面の土方の身体は自分よりも背が高く、煙草の匂いが鼻先を掠める。
顔が、耳が、身体の全てが熱い。
――……ちょっと待て。
――あたし、そんな呑気に考えてる余裕なんかないわよね。
響古はそんなことをぼんやり考えていると、熱さなのか赤くなっていた頬に、さらなる赤味が増した。
「おじちゃ~ん。おじちゃんはどーして、いつも昼間からこんな所にいるの~?」
無論、他にも友人はいる。
元々人懐っこく人見知りもしないので、友達を作るという行為は彼女にとってさほど難しいことではなかった。
「んー?それはねェ、仕事クビになっちゃったからだよ~」
「おじちゃんはどーして仕事クビになっちゃったの~?」
子供達と遊ぶ定春から視線を外し、サングラスをかけた長谷川へ向ける。
神楽のストレートな質問と、それ以上に純粋な瞳に、少なからず躊躇してしまう。
「んー。それはねェ、一時のテンションに身を任せたからだよ~」
それでも長谷川が黙り込んでしまうようなことはなかった。
彼は幼い少女に対しての忠告、あるいは義務感のようなものに突き動かされて告げる。
「お嬢ちゃんも若いからって、後先考えずに行動しない方がいいよ~。人生ってのは長いんだから」
「オメーに言われたくねーよ、負け組が」
返ってきたのは冷ややかな眼差しと辛辣な言葉だった。
「じゃーな、まるでダメなオッさん。 略してマダオ!」
追い討ちをかけるようにさらなる悪罵を飛ばし、
「うがァァァ」
「いくヨ、定春」
自分に襲いかかる定春を返り討ちにして去っていく。
「……フフ…ったく、最近のガキは」
残された長谷川はさしたる感慨を持っていない様だが、どこか達観したような口調でつぶやく。
「アレ?おかしーな。前がかすんで見えないや」
だが、サングラスに隠れる目からは涙がこぼれ、何も言い返せなかった。
――…マダオ、今の俺にはお似合いの言葉だ。
――ちょっと前までは、出世街道驀進だったのに、もののはずみであんなことしちまって。
幕府の重鎮の入国管理局に属していた頃は大勢の男達が頭を下げ、道を譲っていくほどの権力を振りかざしていた。
それがある日、惑星の皇子・ハタに暴力を振るったことから終わり、無職生活が始まったのである。
(詳しくは第二訓を読んでね)
――
悄然とした足取りでに戻ってきた途端に、
「ハラきれ」
上司から切腹を命じられたその日の夜、自宅に置き手紙が残されていた。
「あなたのようなマダオ(まるでダメな夫)にはついていけません。ハツ」
妻は既に夜逃げしていた。
――本当に何もかも
――俺にはグラサンしかねェ。
――いや、色んなもん失ったかわりに、手に入れたもんがある。
もはや日課となったパチンコで過ごしているところに、声がかけられる。
「よォ。また来てたのか」
働きもせず、ほぼ午前中を睡眠と遊戯に費やす男。
「どーよ、今日は。出てるか?」
――妙なツレだ。
こちらも、一日一日が暇で何もすることがない銀時だった。
勤務時間を終え、オーナーである女性に挨拶をする。
「お疲れ様でした!」
「お疲れ様」
接客としての腕も抜群だが、趣味で覚えたというコーヒーの腕も一流――そして、響古の雇い主。
それが蓮のプロフィールだ。
募集欄には『若い、できれば女の子のお手伝いを不定期でもいいから探している』と記載されていて、断固反対する銀時をなんとか説得して面接を受けたら――。
「ところで蓮さん、どうしてあたしみたいなのを雇ってくれたんですか?」
「基本的に、私だけでなんとかする店だしね。本気でやりたいって子を、パートとして常勤させる余裕もない。というわけで、忙しそうな時だけ手伝ってくれる子が欲しかったの」
蓮はたぶん、優しいだけの人ではない。
周囲の募集者から比べると、若干年齢が上だろう面接で、
「あなた、採用」
と宣言した時にそれはわかっている。
「ちょっといいなって思う、可愛くて素直な女の子を傍に置いて働くのはね……たぶん、響古ちゃんが想像する以上に私の疲れを忘れさせてくれるのよ。ふふっ、今度教えてあげましょうか?」
たまに変なことをつぶやく人でもあった。
もしかしたら常連の人がいつか言っていた。
(――「蓮さんって、ぜったいそっち方面の人だよね!だって仕草がとっても色っぽいもん!」――)
このバイトの雇用形態や時給はこちらにも都合がよく、基本的に蓮も好きだし、店の常連の人々も好きだった。
ならば、それで十分ではないか。
また、ここで働くことは別の仕事や出会いをもたらしてくれる。
バイトを終えての帰宅途中で、響古はある人物の後ろ姿を見つけた。
「こんなところで会うなんて奇遇ね、十四郎」
呼ばれて、土方は振り向く。
顔立ちは整っており、なかなかの男前。
くわえ煙草と冷徹な眼差しが目を惹く。
「あぁ、お前か」
眼前に、鼻先に立てた人差し指を突きつけられた。
「違うでしょう」
ちっちっちっ……と横に振られる。
「お前じゃなくて、響古でしょう、ね?」
漆黒の瞳でじっと見つめてくる。
とても有無とは言えない。
「……響古」
「はあい」
響古の凛々しい顔立ちが、笑顔に溶ける。
前髪のかかった細い眉毛や、切れ上がった目許、つやつやした唇が、土方に彼女の喜びを伝えてくれる。
――ったく、どーにも性格の掴めねェ女だな。
覇気と力強さに満ちた相貌に、ゆるぎない強さを湛えた黒い瞳。
艶やかな黒髪を、赤いリボンでポニーテールにしている美女は(黙っていれば)華麗な印象を周囲に与えるのだ。
「新聞、見たわよ。『攘夷志士大量検挙。幕府要人犯罪シンジゲートとの癒着に衝撃』。おてがらじゃない」
「その現場にいて俺達と一緒に戦ったお前が言うことか。攘夷浪士を捕まえている間にちゃっかりトンズラしちまうし」
溜め息と共に土方が言うと、響古は笑みを浮かべる。
「マスコミに嗅ぎつけられたら大変な騒ぎになるしね。でも、後悔はしてないわ。あんなに面白いことが起きたというのに、その中心から遠ざかるなんてバカ、断じてできないからね!」
攘夷浪士とのゴタゴタを『面白い』と言い切る響古の神経。
改めて感心した。
また、もう一つの可能性にも気づいて、ひそかに感謝した。
もしかしたら、彼女は麻薬疑惑の狭間に悩む真選組を配慮して、共にいることを選んでくれたのではないかと――。
自惚れかもしれないが、何故かそう思えたのだ。
「そーいえば、十四郎…ケムい」
「しょーがねーだろ」
響古は眉を寄せて、パタパタと手を振る。
この行動に、彼の胸に悪戯心がむくむくと湧き出してくる。
「響古」
「何――わぷっ!?」
その瞬間、吸い込んだ煙を響古の顔に吹きつけた。
「…ちょっ、何すんの!ケムい!」
顔面に充満する煙に響古は咳き込み、勝ち気な黒い瞳に涙まで浮かんでいる。
――あ………こーゆう表情するんだ。
不覚だった。
不覚にも涙を浮かべながら怒る彼女を、ちょっと可愛いと思ってしまった。
響古はすぐに顔を上げ、涙を手で拭い、そうして怒鳴る。
「いきなり何すんのよ!」
その尻に突然、蹴りが入って土方は前につんのめった。
「っうぉ!?な、何すんだよ!」
「こっちのセリフよ!いきなり煙吹きかけて、嫌がらせのつもり!?」
「だからって蹴っ飛ばすか、普通!?」
「蹴っ飛ばすの!普通は!!」
凄まじい迫力で断言され、煙草を抜き取られた。
「あっ!?煙草…」
す、と煙草の持ってない手が上がった。
――殴られる!?
そう思った。
だが、上げられた響古の手は、土方の口を覆うように当てられる。
そのまま、決して唇には触れずに柔らかく押し返された。
彼女は手を口から離すと、にやりと笑う。
「……ま。このあたしに悪戯するなんていい度胸は、誉めてあげるけど」
響古は、ふふと笑い、煙草を彼の口に戻してやった。
土方は最初、呆然としていた。
細い人差し指に目線がいく。
そこで初めて、自分が今、何をされたのか悟ったようだった。
目を丸くした彼の端正な顔が、ぴきっと固まり、その頬がじわじわと赤くなっていく。
「何、顔赤くしてんだィ、ムッツリ土方」
突如として現れた沖田が割って入ってきた。
「薄々気づいてはいましたが、まさか唇に指添えただけで真っ赤になるとは……どんだけ純情ですかねー」
これ見よがしで冷たい声が耳に届き、頬を紅潮させて固まる土方。
「そ…総悟!?」
「響古、先日は世話になりました。あれだけ大勢の浪士を相手に果敢に攻めるとは…惚れ直しましたよ」
「まーね。伊達に腰に木刀提げてるわけじゃないから」
沖田は響古の腕を取り、自分の方へと引き寄せた。
「テメー、一体どこに行ってやがった、見廻り中だぞ!そして離れろ!」
憤る土方へ、沖田は悪びれもせず言い切る。
「いやでィ。土方さんだって仕事中に響古とイチャついてたじゃねーですか」
「サボってた奴が偉そうなこと言ってんじゃねェェ!!」
勢いからか身体を寄せて、真正面からぴたりと響古にくっついた。
――え?え?
――……えェェェェ!?
――何コレ、まさかの展開ィィィィ!?
熱い。
背中の沖田の身体は、自分よりも年下だが隊服の上からでもわかるくらい、それなりに筋肉がついている。
正面の土方の身体は自分よりも背が高く、煙草の匂いが鼻先を掠める。
顔が、耳が、身体の全てが熱い。
――……ちょっと待て。
――あたし、そんな呑気に考えてる余裕なんかないわよね。
響古はそんなことをぼんやり考えていると、熱さなのか赤くなっていた頬に、さらなる赤味が増した。