第十五訓
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「えー。みんな、もう知ってると思うが、先日、宇宙海賊"春雨"の一派と思われる船が沈没した」
武装警察『真選組』局長の近藤は、居並ぶ隊士達にそう告げた。
時は朝、場所は屯所の広々とした和室。
「しかも聞いて驚け、コノヤロー。なんと奴らを壊滅させたのは、たった三人の侍らしい……」
だが、隊士達は全く話を聞かず、楽しそうに雑談までしている。
元々荒くれ者揃いで構成されているので、先に進まない。
「…驚くどころか、誰も聞いてねーな。トシ」
近藤の隣に座る土方が、いつの間にか持っていたバズーカを構え、轟音が響いた。
「えー。みんな、もう知ってると思うが、先日宇宙海賊"春雨"の一派と思われる船が沈没した」
そして仕切り直し。
全身煤だらけとなった隊士達は正座しながら話を聞く。
「しかも聞いて驚け、コノヤロー。なんと奴らを壊滅させたのは、たった三人の侍らしい…」
『え゙え゙え゙え゙え゙!!マジですか!?』
一遍 の説明を終えると、大袈裟な歓声があがった。
「しらじらしい。もっとナチャラルにできねーのか」
「トシ、もういい。話が進まん」
バズーカを肩に担ぐ土方を、近藤は静かに制する。
会議中にはあまり口を開かないが、いざ開くと容赦がない。
近藤はそっぽを向いて、ゴホンと咳払いしてから言う。
「この三人のうち、一人は攘夷志士の桂だ。まァ、こんな芸当ができるのは奴ぐらいしかいまい。もう一人は…なんと"紅天女"だという情報が入っている」
攘夷時代に活躍した、最強と誰もが――天人でさえも認める女侍"紅天女"。
途端、隊士達は異様な興奮を見せた。
『え゙え゙え゙え゙え゙え゙!!あの伝説のォォォ!!』
異様な興奮に気圧され、土方は訝しんで眉を寄せる。
「なんでそこは食らいつくんだ」
「圧倒的な強さとその美しい顔立ちで、最強と謳 われ、突然失踪したんですよ!」
「しらないって言う奴の方がおかしいくらいです!」
近藤は興奮する彼らをなだめると共に、一旦話を戻した。
これから口にする言葉に、重く静かに声を出す。
「春雨の連中は大量の麻薬を江戸に持ち込み売りさばいていた。攘夷党じゃなくても、連中を許せんのはわかる。だが問題はここからだ。その麻薬の密売に、幕府の官僚が一枚かんでいたとの噂がある」
その瞬間、シン、と音の静まる音が響いたように、室内が静まり返った。
幕府の官僚と海賊という、本来相容れない二つの組織が不正につながり合っている。
隊士達の狼狽を見抜き、近藤は若干声のトーンを落として続ける。
「幕府の売買を円滑に行えるよう協力する代わりに、利益の一部を海賊から受け取っていたというものだ」
全身煤だらけで真剣に聞く隊士達の中に、髪をぐしゃぐしゃにし、頬を煤で汚した沖田も同席している。
「真偽のほどは定かじゃないが、江戸に散らばる攘夷浪士は噂を聞きつけ『奸賊 討つべし』と暗殺を画策している」
暗殺を企てる攘夷浪士から、官僚の護衛が下った。
「真選組 の出番だ!!」
強く言い放つ近藤の顔には、どこまでも強烈な、燃え立つような喜悦がある。
響古は江戸の歌舞伎町の大通りを、ただ歩いていた。
冷徹に巡らす頭で、事件の発端を考える。
――そもそもの始まりは、捜し人の依頼から…そこから浮かび上がった麻薬の存在、それを売り込む宇宙海賊"春雨"……。
響古は複雑怪奇な成り行きに、眩暈のする思いだった。
彼女にとって、驚きの連続だった。
――そして、あたしが"紅天女"としる、陀絡とかいう奴。
攘夷時代の響古は、天人との戦いにはめっぽう強く、使命感と同化させているほどに一直線な部分を持っている。
しかし同時に、他者を待 まず、協調も必要としない、一人一党気質の極端な例でもあった。
銀時や桂、親しい間柄は例外だったが、それでも響古は攘夷内でも変わり種だった。
幾度も仲間内で喧嘩したことか。
いかに彼女が、人としての触れ合い、他人の群れを嫌っていたかがわかる。
――あの頃は、名前を言う必要も、理由もなかった……もし名乗ったとしても、無事に生きていられるわけがない。
夜空を凝縮させたかのような、闇の黒を点す、髪と瞳。
白い羽織を翻して、神通無比の大太刀『雪華』を振るう"紅天女"。
無敵、圧倒的、絶対的、強くて強くて強くて……目の前を塞いだ前髪を払って、髪をガシガシと掻く。
まるで、混乱する頭を刺激するように。
「――……弱音をはくのはダメ、あたしらしくない」
(しっかりしろ、響古!)
響古は自分に言い聞かせるようにつぶやく。
すると、和風造りの豪邸屋敷の門の前に、黒い隊服を着た男達が立っていた。
その隊服に見覚えがある響古はひそかに頷き、まっすぐ進んでいく。
「……麻薬の密売に、幕府の官僚が一枚かんでいたとの噂がある――すでに噂じゃなくて、事実だよ」
屋敷の見張りをしている彼――真選組監察の山崎 退が暇そうにブツブツとつぶやいていると、黒髪の美女が近寄ってきた。
「へぇ。どうやってしったの?」
「勝手に屋敷の中を色々調べてみたら、倉庫から麻薬がどっさり…」
美女は目を丸くした。
「ワォ。間違いなくクロじゃない」
「じゃあ、自分達がしてることって無意味じゃないスか?」
しかし、山崎の不満は解消されないようで、なおも愚痴をこぼして固まった。
――誰だ、俺は誰と話しているんだ。
――空耳?幻聴?多重人格?
――ほら、きっとアレだ。思い違いだうんそうに違いない。
必死に自分を説得して振り返り、美女と目が合う。
「うわァァァ!?」
山崎は悲鳴をあげ、飛びずさった。
お約束のリアクションをしてくれた彼の顔を見つつ、響古は笑みを浮かべる。
「んっふふ。やっと気づいた」
「だ、誰ですか、あなた!?いつからここに!?」
「ま、そーんなに前ではないけど。しいて言うなら、あなたが呑気なところにつけこんだ、って感じかしら」
「……それよりもなんです、盗み聞きとは」
山崎は素直な感想を口にした。
すると、響古は鼻ではんっと笑い、豊かな胸を張って答えた。
「これは盗み聞きではないわ。物陰にコソコソと潜み、姿を見られないように気を配ってこその盗み聞きよ。これ以上ないほど堂々としているじゃないの、あたしは」
これほど凛々しく、そして不遜 に笑う女性を山崎は初めて見た。
なんでこんなに偉そうなんだという反発と、その華麗さへの感嘆が両方込み上げてくる。
丈の短い着物に黒羽織を纏い、出るところを見事に押し出した長身。
山崎とほとんど目線が並んでいる。
勿論、その貫録は比べ物にならない。
「……ここは、幕府官僚の屋敷ですよ。一般人は立ち入り禁止、一体ここに来た理由はなんですか?」
「理由?」
遺憾の意を表する山崎に、響古は髪を掻き上げて告げる。
「……ただの好奇心」
愛用のアイマスクをつけて寝ている隊士に、不機嫌な声がかかる。
「こんの野郎は…寝てる時まで人をおちょくった顔しやがって」
官僚の護衛の真っ最中にもかかわらず、一人だけ惰眠している沖田に、土方が刀を突きつけて起こす。
「オイ起きろ、コラ。警備中に惰眠をむさぼるたァ、どーゆー了見だ」
沖田はやっと目を覚まし、アイマスクを外した。
「なんだよ母ちゃん、今日は日曜だぜィ。ったく、おっちょこちょいなんだから~」
「今日は火曜だ!!」
やる気の見られない発言につっこみ、スカーフを引っ張って叱責する。
「てめー、こうしてる間にテロリストが乗り込んできたらどーすんだ?仕事なめんなよ、コラ」
「俺がいつ仕事なめたってんです?俺がなめてんは、土方さんだけでさァ」
「よーし!!勝負だ、剣を抜けェェェェ!!」
相手の挑発にすっかり護衛のことなど忘れていると、げんこつが飛んできた。
「「い゙っ!?」」
二人同時に小さな悲鳴をあげ、膝をつく。
そこには、握り拳をつくった近藤が立っていた。
「仕事中に何、遊んでんだァァァ!!お前らは何か!?修学旅行気分か!?枕投げかコノヤロー!!」
大声で叱咤する近藤、しかし彼も頭を殴られた。
「い゙っ」
殴ったのは護衛対象の官僚である。
「お前が一番うるさいわァァァ!!ただでさえ、気が立ってるというのに」
表情の読みづらいカエルの顔で怒号を飛ばす。
「あ、スンマセン」
「まったく、役立たずの猿めが!」
憤然と吐き捨て、天人は乱暴な足取りで去っていく。
かなり怒っているようだ。
「なんだィありゃ。こっちは命がけで、身辺警護してやってるってのに」
「お前は寝てただろ」
そして、気づいた。
軽やかな足取りでこちらへ近づいてくる、やたらと見覚えのある人物に。
「フフフ。結局三人とも、叱られちゃいましたね」
聞くはずのない女性の声。
驚く三人の視線の先には、響古の姿があった。
「待て、お前がなんでここにいる!?」
「おぉ!響古さんじゃありませんか」
艶やかな黒髪は長く、大和撫子めいた印象がある。
だが、それだけではここまで目立たない。
彼女を引き立てているのは、身に纏う華麗な雰囲気なのだろう。
衆目を集めることが当然と言わんばかりの不遜さと、気高いまでの誇り高さ。
両者が絶妙のバランスで釣り合う、覇気に満ちた表情が生み出すものだ。
「こんにちは、ストーカーさん」
「違います!俺の名前は近藤 勲です!」
「あら失礼。お名前の方をきいてなかったので……」
武装警察『真選組』局長の近藤は、居並ぶ隊士達にそう告げた。
時は朝、場所は屯所の広々とした和室。
「しかも聞いて驚け、コノヤロー。なんと奴らを壊滅させたのは、たった三人の侍らしい……」
だが、隊士達は全く話を聞かず、楽しそうに雑談までしている。
元々荒くれ者揃いで構成されているので、先に進まない。
「…驚くどころか、誰も聞いてねーな。トシ」
近藤の隣に座る土方が、いつの間にか持っていたバズーカを構え、轟音が響いた。
「えー。みんな、もう知ってると思うが、先日宇宙海賊"春雨"の一派と思われる船が沈没した」
そして仕切り直し。
全身煤だらけとなった隊士達は正座しながら話を聞く。
「しかも聞いて驚け、コノヤロー。なんと奴らを壊滅させたのは、たった三人の侍らしい…」
『え゙え゙え゙え゙え゙!!マジですか!?』
「しらじらしい。もっとナチャラルにできねーのか」
「トシ、もういい。話が進まん」
バズーカを肩に担ぐ土方を、近藤は静かに制する。
会議中にはあまり口を開かないが、いざ開くと容赦がない。
近藤はそっぽを向いて、ゴホンと咳払いしてから言う。
「この三人のうち、一人は攘夷志士の桂だ。まァ、こんな芸当ができるのは奴ぐらいしかいまい。もう一人は…なんと"紅天女"だという情報が入っている」
攘夷時代に活躍した、最強と誰もが――天人でさえも認める女侍"紅天女"。
途端、隊士達は異様な興奮を見せた。
『え゙え゙え゙え゙え゙え゙!!あの伝説のォォォ!!』
異様な興奮に気圧され、土方は訝しんで眉を寄せる。
「なんでそこは食らいつくんだ」
「圧倒的な強さとその美しい顔立ちで、最強と
「しらないって言う奴の方がおかしいくらいです!」
近藤は興奮する彼らをなだめると共に、一旦話を戻した。
これから口にする言葉に、重く静かに声を出す。
「春雨の連中は大量の麻薬を江戸に持ち込み売りさばいていた。攘夷党じゃなくても、連中を許せんのはわかる。だが問題はここからだ。その麻薬の密売に、幕府の官僚が一枚かんでいたとの噂がある」
その瞬間、シン、と音の静まる音が響いたように、室内が静まり返った。
幕府の官僚と海賊という、本来相容れない二つの組織が不正につながり合っている。
隊士達の狼狽を見抜き、近藤は若干声のトーンを落として続ける。
「幕府の売買を円滑に行えるよう協力する代わりに、利益の一部を海賊から受け取っていたというものだ」
全身煤だらけで真剣に聞く隊士達の中に、髪をぐしゃぐしゃにし、頬を煤で汚した沖田も同席している。
「真偽のほどは定かじゃないが、江戸に散らばる攘夷浪士は噂を聞きつけ『
暗殺を企てる攘夷浪士から、官僚の護衛が下った。
「
強く言い放つ近藤の顔には、どこまでも強烈な、燃え立つような喜悦がある。
響古は江戸の歌舞伎町の大通りを、ただ歩いていた。
冷徹に巡らす頭で、事件の発端を考える。
――そもそもの始まりは、捜し人の依頼から…そこから浮かび上がった麻薬の存在、それを売り込む宇宙海賊"春雨"……。
響古は複雑怪奇な成り行きに、眩暈のする思いだった。
彼女にとって、驚きの連続だった。
――そして、あたしが"紅天女"としる、陀絡とかいう奴。
攘夷時代の響古は、天人との戦いにはめっぽう強く、使命感と同化させているほどに一直線な部分を持っている。
しかし同時に、他者を
銀時や桂、親しい間柄は例外だったが、それでも響古は攘夷内でも変わり種だった。
幾度も仲間内で喧嘩したことか。
いかに彼女が、人としての触れ合い、他人の群れを嫌っていたかがわかる。
――あの頃は、名前を言う必要も、理由もなかった……もし名乗ったとしても、無事に生きていられるわけがない。
夜空を凝縮させたかのような、闇の黒を点す、髪と瞳。
白い羽織を翻して、神通無比の大太刀『雪華』を振るう"紅天女"。
無敵、圧倒的、絶対的、強くて強くて強くて……目の前を塞いだ前髪を払って、髪をガシガシと掻く。
まるで、混乱する頭を刺激するように。
「――……弱音をはくのはダメ、あたしらしくない」
(しっかりしろ、響古!)
響古は自分に言い聞かせるようにつぶやく。
すると、和風造りの豪邸屋敷の門の前に、黒い隊服を着た男達が立っていた。
その隊服に見覚えがある響古はひそかに頷き、まっすぐ進んでいく。
「……麻薬の密売に、幕府の官僚が一枚かんでいたとの噂がある――すでに噂じゃなくて、事実だよ」
屋敷の見張りをしている彼――真選組監察の山崎 退が暇そうにブツブツとつぶやいていると、黒髪の美女が近寄ってきた。
「へぇ。どうやってしったの?」
「勝手に屋敷の中を色々調べてみたら、倉庫から麻薬がどっさり…」
美女は目を丸くした。
「ワォ。間違いなくクロじゃない」
「じゃあ、自分達がしてることって無意味じゃないスか?」
しかし、山崎の不満は解消されないようで、なおも愚痴をこぼして固まった。
――誰だ、俺は誰と話しているんだ。
――空耳?幻聴?多重人格?
――ほら、きっとアレだ。思い違いだうんそうに違いない。
必死に自分を説得して振り返り、美女と目が合う。
「うわァァァ!?」
山崎は悲鳴をあげ、飛びずさった。
お約束のリアクションをしてくれた彼の顔を見つつ、響古は笑みを浮かべる。
「んっふふ。やっと気づいた」
「だ、誰ですか、あなた!?いつからここに!?」
「ま、そーんなに前ではないけど。しいて言うなら、あなたが呑気なところにつけこんだ、って感じかしら」
「……それよりもなんです、盗み聞きとは」
山崎は素直な感想を口にした。
すると、響古は鼻ではんっと笑い、豊かな胸を張って答えた。
「これは盗み聞きではないわ。物陰にコソコソと潜み、姿を見られないように気を配ってこその盗み聞きよ。これ以上ないほど堂々としているじゃないの、あたしは」
これほど凛々しく、そして
なんでこんなに偉そうなんだという反発と、その華麗さへの感嘆が両方込み上げてくる。
丈の短い着物に黒羽織を纏い、出るところを見事に押し出した長身。
山崎とほとんど目線が並んでいる。
勿論、その貫録は比べ物にならない。
「……ここは、幕府官僚の屋敷ですよ。一般人は立ち入り禁止、一体ここに来た理由はなんですか?」
「理由?」
遺憾の意を表する山崎に、響古は髪を掻き上げて告げる。
「……ただの好奇心」
愛用のアイマスクをつけて寝ている隊士に、不機嫌な声がかかる。
「こんの野郎は…寝てる時まで人をおちょくった顔しやがって」
官僚の護衛の真っ最中にもかかわらず、一人だけ惰眠している沖田に、土方が刀を突きつけて起こす。
「オイ起きろ、コラ。警備中に惰眠をむさぼるたァ、どーゆー了見だ」
沖田はやっと目を覚まし、アイマスクを外した。
「なんだよ母ちゃん、今日は日曜だぜィ。ったく、おっちょこちょいなんだから~」
「今日は火曜だ!!」
やる気の見られない発言につっこみ、スカーフを引っ張って叱責する。
「てめー、こうしてる間にテロリストが乗り込んできたらどーすんだ?仕事なめんなよ、コラ」
「俺がいつ仕事なめたってんです?俺がなめてんは、土方さんだけでさァ」
「よーし!!勝負だ、剣を抜けェェェェ!!」
相手の挑発にすっかり護衛のことなど忘れていると、げんこつが飛んできた。
「「い゙っ!?」」
二人同時に小さな悲鳴をあげ、膝をつく。
そこには、握り拳をつくった近藤が立っていた。
「仕事中に何、遊んでんだァァァ!!お前らは何か!?修学旅行気分か!?枕投げかコノヤロー!!」
大声で叱咤する近藤、しかし彼も頭を殴られた。
「い゙っ」
殴ったのは護衛対象の官僚である。
「お前が一番うるさいわァァァ!!ただでさえ、気が立ってるというのに」
表情の読みづらいカエルの顔で怒号を飛ばす。
「あ、スンマセン」
「まったく、役立たずの猿めが!」
憤然と吐き捨て、天人は乱暴な足取りで去っていく。
かなり怒っているようだ。
「なんだィありゃ。こっちは命がけで、身辺警護してやってるってのに」
「お前は寝てただろ」
そして、気づいた。
軽やかな足取りでこちらへ近づいてくる、やたらと見覚えのある人物に。
「フフフ。結局三人とも、叱られちゃいましたね」
聞くはずのない女性の声。
驚く三人の視線の先には、響古の姿があった。
「待て、お前がなんでここにいる!?」
「おぉ!響古さんじゃありませんか」
艶やかな黒髪は長く、大和撫子めいた印象がある。
だが、それだけではここまで目立たない。
彼女を引き立てているのは、身に纏う華麗な雰囲気なのだろう。
衆目を集めることが当然と言わんばかりの不遜さと、気高いまでの誇り高さ。
両者が絶妙のバランスで釣り合う、覇気に満ちた表情が生み出すものだ。
「こんにちは、ストーカーさん」
「違います!俺の名前は近藤 勲です!」
「あら失礼。お名前の方をきいてなかったので……」