第十二訓~十四訓
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万事屋の前に佇む彼の名は桂 小太郎、攘夷志士である。
その肩書きは本来ならばこんなに日の高い時間に堂々と出歩けるものではないのだが、よほど気づかれない自信があるのか、それともよほど危機感がないのか。
「ごめんくださ~い、桂ですけど~」
呼び鈴を押し、馬鹿正直に名乗る。
しかし返ってきたのは静寂であった。
「………………」
できることなら無理矢理にでも協力を取りつけたかったのだが、本人が不在となればそれも不可能である。
「チッ、留守か。事は一刻を争うというのに…」
二人のことはひとまず諦めて帰ろうとする桂だったが、引き戸が開いた。
戸を開ける知能があるなら言葉も通じると思ったのか、二人の所在を訊ねる。
「…すっ、すみません。銀時くんと響古ちゃんいますか?」
「…………」
当然、定春は無言。
どうしたものかと悩む桂だったが、意志の疎通ができぬ以上、長居するだけ無駄なことは明白だ。
「…あの…じゃあ、茶菓子だけでも置いていくんで、どうぞ食べてく…」
次の瞬間、定春に頭から噛みつかれた。
「あ」
一瞬何が起きたかわからなかったもののすぐに痛みが追いつき、断末魔のような悲鳴をあげる。
第十二訓
全国のコギャルども門限は守れ
カコン、と涼しげな鹿威しの音が響く。
その日、万事屋はとある屋敷に呼ばれていた。
敷地からその風格も桁違いに敷居が高そうなところを見ると、そのお家柄は相当なものだとわかる。
勿論こうして四人が出向いてきたのは他でもない、ここの家主が万事屋に依頼をしてきたからである。
挨拶もそこそこに、本日の依頼内容が告げられた。
「…いや、今でも二日三日家を空けることはあったんだがね。さすがに一週間となると…」
手入れの行き届いた見事な庭には、神楽が鹿威しを興味深そうに眺める。
だが、朝まで飲み歩いていた銀時は目の焦点が合っていなく、出された茶を溢していた。
「連絡は一切ないし、友達にきいても、誰も何も知らんときた」
情けない彼の代わりに響古が話を聞き、
「しっかりしてくださいよ。だから、あんま飲むなっていったんスよ」
新八が憮然とした表情で袖を引っ張る。
「親の私が言うのもなんだが、キレイな娘だから、何かよからぬことに巻き込まれているのではないかと…」
そう言って渡された写真は、お世辞にも綺麗とは言えないガングロギャルだった。
「そーっスねェ…なにか…こう、巨大な…ハムをつくる機械とかに巻き込まれている可能性がありますね」
「いや、そーゆんじゃなくて、なんか事件とかに巻き込まれてんじゃないかと…」
「事件?あー、ハム事件とか?」
まともな会話は難しいと判断し、響古と新八が冷ややかな声で斬り捨てる。
「オイ、たいがいにしろよ。せっかくきた仕事、パーにするつもりか?」
「お前、もうしゃべるな」
銀時の反抗心が消滅し、大人しく口を閉じる。
「でも、本当にこの依頼、あたし達でいいのでしょうか?警察に相談した方がいいと思いますけど」
よそ行きの淑女めいた口調と共に、響古が訊ねる。
「そんな大事にはできん」
好意で切り出したにもかかわらず、やはり警察という言葉が出れば、急に家主はその顔を曇らせる。
「我が家は幕府開府以来、徳川家に仕えてきた由緒正しき家柄。夜な夜な遊び歩いているなどと知れたら、一族の恥だ。なんとか、内密のうちに連れ帰ってほしい」
依頼人の娘がよく通っていたというクラブに足を運ぶ。
少し離れた場所にいても聞こえてくる騒がしい音は、中に入れば耳がおかしくなるほどの大音量だ。
「あーー?知らねーよ、こんな女」
バーテンダーである鶏の天人に、先程の写真を見せる。
「この店によく遊びに来てたゆーたヨ」
「んなこと言われてもよォ、嬢ちゃん。地球人の顔なんて見分けつかねーんだよ…名前とかは?」
「えーと、ハ…ハム子…」
依頼の内容を聞いていなかった神楽は、迷うように目線を上にずらしてから答えた。
「ウソつくんじゃねェ、明らかに、今つけたろ!!そんな投げやりな名前つける親がいるか!!」
「忘れたけど、なんかそんなん」
「オイぃぃぃ!!ホント捜す気あんのかァ!?」
離れたテーブル席にいる新八は二人の会話を聞いて、不安を湧き上がらせる。
「銀さん、響古さん…神楽ちゃんに任せてたら、永遠に仕事終わりませんよ」
「あー。もういいんだよ。どーせ、どっかの男の家にでも転がりこんでんだろ。あのバカ娘…アホらしくてやってられるかよ。ハム買って帰りゃ、あのオッサンもごまかせるだろ」
「せめて焼いて焦がさなきゃ、ごまかせないって」
銀時と響古は憂鬱の翳でネタを引っ張る。
「ごまかせるわけねーだろ!アンタら、どれだけハムでひっぱるつもりだ!!」
「ワリーけど、二日酔いで調子ワリーんだよ。適当にやっといて、新ちゃん」
未だ酒の酔いが抜けない銀時は席を立ち、そのままフラフラと行ってしまった。
「ちょっ、銀さん!!」
焦った新八が立ち上がった拍子に、通行人にぶつかる。
「あ、スンマセン」
服の埃を払う天人は、神経質そうな細く尖った顔。
縁なし眼鏡を貫いて走る眼光が強烈な鋭さを持っている。
「…小僧、どこに目ェつけて歩いてんだ」
表情通りの不機嫌そのものといった声で、天人は新八に手を伸ばす。
いきなり触れられ、新八はびくっと身じろぎする。
彼の指先には、見える見えないギリギリの埃が僅かに付着していた。
「肩にゴミなんぞ乗せて、よく恥ずかしげもなく歩けるな。少しは身だしなみに気を配りやがれ…」
フッと息で払い落とすと、何故か響古の方を一瞥してから通り過ぎた。
不審な感覚を覚えたのは、目つきのせいか。
――なんだ、あの人…響古さんを見てた…。
彼が響古に向けていた視線は、およそ彼女に向けるべき親愛や憧れの眼差しとは、全くかけ離れていたものだった。
見定めるような、向けられる視線に込められた、好奇の眼差し。
「響古~!新八~!」
そこへ、バーテンダーと話していたはずの神楽が戻ってきた。
「もう、めんどくさいから、これでごまかすことにしたヨ」
神楽が連れてきたのは、捜し人とは全く無関係の人間だった。
しかも男である。
「どいつもこいつも、仕事をなんだと思ってんだ、チクショー!」
「響古、ダメアルか?」
「上出来よ。あとは黒くしてヅラかぶせて着替えさせて依頼完了。早く、この店出ましょう」
さっさと依頼を遂行して帰りたいという内心を露にする響古に、新八は声を荒げる。
「無理だって!!大体、これでごまかせるわけないだろ、ハム子じゃなくてハム男じゃねーか!」
浴びせられたツッコミによって一気に上昇したストレスをぶつけるように、美女と少女はチッと舌打ちする。
「ハムなんか、どれ食ったって同じじゃねーか、クソが」
「てめーもハムでひっぱてんじゃねーか、クソが」
「何?反抗期!?」
「反抗期なんてとうの昔に終わったわ、眼鏡」
「アンタ、いくつだよ!?」
ところが、このツッコミを聞いた響古は美貌を歪めて吐き捨てる。
「それと、思春期の女の子はデリケートなんだから扱いに気をつけろや、童貞」
「どどどど童貞ちゃうわ!!」
何故か関西弁になる新八。
しかし、響古の首に両腕を絡める神楽を見て目を見張った。
(何、この扱いの差の違い!?ってか、前より密着度高くね!?)
突然、少女が連れてきた男が倒れる。
「ハム男ォォォォ!!」
「オイぃぃぃ、駄キャラが無駄にシーン使うんじゃねーよ!!」
何気に新八が辛辣なことを言う。
「ハム男、あんなに飲むからヨ」
そこで、響古と新八はある異変に気づく。
――コイツ…酔っ払ってるんじゃない……。
男の目は虚ろで、鼻と口からは汁が垂れ、
「エヘヘ」
と不気味に笑っていた。
呼気からは、酒の臭いが感じられない。
明らかに正気を失っている男の身体を持ち上げ、バーテンダーが移動させる。
「あー、もう、いいからいいから。あと俺やるから、お客さんはあっちいってて…ったく、しょーがねーな。どいつもこいつもシャブシャブシャブシャブ」
「シャブ?」
「この辺でなァ、最近、新種の麻薬が出回ってんの。なんか相当ヤバイやつらしーから、お客さんたちも気をつけなよ!」
"麻薬"という危険な単語に、響古の警戒心にスイッチが入った。
それは新八も同じようで、不安を滲ませて店内を見渡す。
「響古さん…この店、なんか変じゃないですか?」
「長居するところじゃないわね…ちょっと銀を捜してくるから、二人は待ってて!」
「はい!」
「行ってらっしゃいヨ~」
響古は凛々しい笑みを浮かべると、銀時を捜しに走り出した。
新八とぶつかった天人が、響古の脳裏に過ぎる。
天人の顔に、驚愕以上の巨大な歓喜が浮かび上がった。
「まさか――そうなのか」
その声の意味を理解する余裕は、響古にはなかった。
ただ、その表情に何かを感じた。
長年探し続けてきた人物、そんな安易な喜びの放出では決してなかった。
そして、それを確定づけるように天人は言った。
「まさか、まさか、これほど早く見つかるとは……ク、クク、クククク…」
胸の奥底からの笑いを響かせて通過する天人の様子に、背筋に悪寒が走る。
その時、前方に屈強な体格の天人達が立ちはだかり、進行を阻んだ。
「お姉さん、こっちは立入禁止だ」
「他の場所に行ってくれねーか?」
「人を捜してるだけだから…どいてくれる?」
響古は漆黒の相貌を強めて前へ進み出た。
「なんなら、手伝ってやろーか?」
そんな彼女の後ろで、仲間の天人が忍び寄る。
「悪いけど……ッ」
瞬間、響古は片方の腕を掴むと、そのままの勢いで一本背負い、床に容赦なく叩きつけた。
「お断りするわっ!」
途端、にやにやと笑う彼らの顔色が、一瞬にして驚きと恐怖に変わった。
「――もう一度言わないとわからないようね」
響古は投げ飛ばした天人の背中を踏みつけると、
「どきなさい。でないと痛い目、見るわよ」
鋭い漆黒の双眸で見据えながら、腰に提げた木刀を抜く。
駆け込んだ便器に座り、下痢の治まらない銀時は二日酔いと格闘する。
「あ゙~~~」
気絶しそうな嘔吐と気持ち悪さに苛まれる中、独り言を外聞なく撒き散らす。
「もう二度と、酒なんて飲まねェ。いや、毎回言ってるけど、今回はホント、マジで誓うよ…」
何度も繰り返される二日酔いに苦しまれるが、今回だけはきっぱり止めようと決意する。
「誰に誓おう。お天気お姉さんに誓おう…やっぱり響古に誓おう」
黒髪の恋人に誓う途中、個室の扉がノックされた。
「ハイ、入ってま…」
「いつものちょうだい」
「はァ?」
質問の意味がわからないまま素っ頓狂な声をあげると、扉の外にいた人物は激昂する。
「早く…いつものちょうだいって言ってんじゃん!!アレがないと、私もうダメなの!!」
「い…いつものって言われても、いつものより水っぽいんですけど」
銀時は戸惑うように便器に視線を落とす。
「何しらばっくれてんのよ、金のない私は、もうお払い箱ってわけ!!いいわよ、アンタらのこと、警察にタレこんでやるから」
話が全く噛み合わない。
「ちょっと待て、お前、え?警察に言う?別にいいけど、お前…何が?って言われるよ」
扉一枚隔てた向こう、銃声が聞こえた。
タイルの隙間から赤い雫が流れている。
鮮やかな、赤い血が。
「誰に話しかけてんだ、ボケが…もう、てめーには用はねーよ、ブタ女!」
銀時には言葉の意味はわからなかったが、侮蔑のニュアンスだけは伝わった。
尋常ではない状況に木刀を握り、扉を蹴破って飛び出す。
視界に飛び込んできた光景は、凶暴な天人達に引きずられる捜し人の姿。
「なんじゃ、お前」
突然現れた闖入者である銀時を、天人は睨みつける。
鼓膜が震えるほどの音楽が聴覚を刺激し、気持ちよさそうに踊る。
暗がりの中、新八と神楽は落ち着かないように辺りを見回す。
「遅いな、二人とも。どうも嫌なカンジがするんだ、この店…響古さんの言う通り、早く出た方がいいよ」
「私捜してくるヨ」
そう言って立ち上がろうとした神楽の頬に、銃口が突きつけられる。
いつの間にか、二人の周囲に大勢の天人が集まっていた。
全員が凶暴な顔つきで、一人が底意地の悪い口調で声をかける。
「てめーらか。コソコソ嗅ぎ回ってる奴らってのはよ」
「なっ…なんだ、アンタら」
「とぼけんじゃねーよ。最近ずーっと、俺達のこと嗅ぎ回ってたじゃねーか、ん?そんなに知りたきゃ教えてやるよ。宇宙海賊"春雨"の恐ろしさをな!」
突きつけられた言葉に新八の顔が強張り、神楽の幼い顔に険しさが宿った。
血のついた手を必死に伸ばし、少女は麻薬を欲する。
「ちょうだい。アレを早く…お願い」
だが、それは虚空を掴むばかり。
床に伏す捜し人を発見した銀時は、目の前に広がる光景に苦笑する。
「ハム子ォ。悪かったなァ、オイ。男は男でもお前、エライのにひっかかったみてーだな」
「陀絡さん、なんか妙なのが混ざっちまいましたけど…どーします?ちょっと、きいてますか?」
妙な輩が混じった対応を考え、洗面所にいるリーダー格の天人に話しかけた。
「チクショ、とれねェ。どーしてくれんだ、おろしたてだぞ、この服」
新八とぶつかった天人――陀絡は血のついた服を必死に洗っていた。
「汚ねェメス豚の血がよォ!ベットリ付いてとれねェよ!!」
さらに不機嫌さを増した眼光で、過剰に汚れを気にするあまりゴシゴシと洗う。
「陀絡さんってば、きいてます?」
なおも話しかけると、
「げふっ」
いきなり蹴り飛ばされた。
「身だしなみ整えてる時は、声かけんじゃねーつったろーが!」
陀絡は傲慢に吐き捨てると、見下すようにこちらを見る。
「なんか困った事があったらとりあえず、殺っときゃいいんだよ。パパッと殺って帰るぞ。これから会わなきゃいけねェ用事もあるし、夕方から見てェ、ドラマの再放送があんだ」
自らの正当性を露ほど疑わず、腰に提げた剣を構える。
「俺も、彼女と一緒に見る約束してんだ」
銀時もまた、臨戦態勢で木刀を構えた。