第十一訓
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「愛だァ?夢だァ?若い時分に必要なのは、そんな甘っちょろいもんじゃねーよ。そう…カルシウムだ。カルシウムさえとっときゃ、全てうまくいくんだよ」
唐突に始まった、銀時の熱弁。
その気だるげな顔を真面目なものに変えて、紙パックに入った苺牛乳を手に持つ。
「受験戦争、親との確執、気になるあの娘。とりあえず、カルシウムとっときゃ全てうまく…」
「いくわけねーだろ!!幾らカルシウムとってたってなァ、車にはねらりゃ、骨も折れるわ!!」
彼の無駄に大仰な理屈を、ギプスで固定された足をつり上げている新八が大声で遮る。
ただし、病院のベッドの上で。
銀時達は第三訓で車にはねられ、入院中の新八の見舞いに訪れていた。
「まあまあ。逆に、足だけで済んでよかったじゃない」
「あっ、ありがとうございます」
響古はリンゴの皮を、小振りなナイフで器用に剥いているところだった。
そして新八に差し出す。
ベッドの脇に座る銀時と神楽は、心配した素振りも見せず呑気な面持ちでいる。
「そーですね、意外と早く退院できるみたいですし。やっぱり響古さんは優しいですね…って、何アンタら勝手に食ってんの!?」
いつの間にか、彼女が剥いたリンゴを当たり前のようにシャクシャクと食べていた。
「固いこと言うなヨ(シャクシャク)、新八」
「篠木がせっかく剥いたリンゴを(シャクシャク)、俺が食わねェわけにはいかねーだろ」
「お前ら、見舞いに来たと思ったら食い物目当てか!」
言葉の端々にリンゴを咀嚼する音が混じる二人へ、思わずつっこむ新八だった。
瞬間、響古のいる方角から何かが発射された。
超高速で発射したそれ――果物ナイフは、二人の頬を掠めて壁に突き立った。
ドカッ、という刺突音の後、
「二人とも。ダメでしょ、それは入院患者のために剥いたリンゴなの」
にっこりと笑うが、それは怖いぐらいに感情のない微笑みだった。
「次は外さないわよ」
響古の冷たい視線に射すくめられ、二人はたじろいだ。
――まずい。
彼女との対決は、かなり分 が悪い。
二人はすぐさま謝った。
「「スンマセンでした」」
素直に謝る二人に頷いてから、響古はリンゴを新八の口許に運んだ。
「はい、新八。アーンして」
新八は硬直した。
何が起きたのかわからない、という顔をしている。
響古は笑顔で[#ruby=勧_すすめ]てくる。
やがて新八は頬を紅潮させて頬張った。
リンゴなのに何度も何度も咀嚼 して、この一時の旨味を味わい尽くそうとしていた。
「……美味しいです!すっごく美味しいです!」
「そう、よかった」
ハッと我に返った新八がおそるおそる視線を移す。
そこには、泣きそうな銀時が神楽に羽交い締めにされていた。
「――や、やっぱりこんなの、た、耐えられない……ああ、俺の響古が、俺の響古が新八なんかに、あーん、って。あーんって!」
羨望の眼差しで暴れる銀時を、響古はじと目で言い放つ。
「落ちつきなさい、バカ銀。新八はケガ人だから特別だって。ほら、風邪の時に食べられる特権みたいなもんさね、だから、大目に見てあげなってば!」
どうにか平静を取り戻したらしい様子の銀時が、渋い表情をつくって苺牛乳を差す。
「俺もはねられたけど、ピンピンしてんじゃねーか。毎日、コイツ飲んでるおかげだよ」
「いちご牛乳しか飲めないくせに、エラそーなんだよ!」
「んだコラァァ、コーヒー牛乳も飲めるぞ!!ちなみに響古はココア派だ!」
「ねぇ。それ、言う意味あんの?」
静かな病室にもお構いなしに、くだらない話で争う。
他の入院患者が迷惑そうにしていると、看護婦が甲高い声音で一喝する。
「やかましーわ!!他の患者さんの迷惑なんだよ!!今まさに、デッド・オア・アライブをさまよう患者さんだっていんだよ、ボケが!!」
「あ…スンマセン」
患者の傍で怒鳴る看護婦の方が、もっとうるさいです。
「ワォ。エライのと相部屋ね」
「えぇ、もう長くはないらしいですよ」
新八の向かい側のベッドに、一人の老人が横たわっている。
よく眠っているようで、人口呼吸器から送られる酸素を吸い、吐き、パジャマのややはだけた薄い胸をゆったりと上下させている。
「僕が来てからずっと、あの調子なんです」
「そのわりには、家族が誰も来てねーな」
周りには家族らしき人は来ておらず、白衣を着た医者が付き添っていた。
「あの歳まで、ずっと独り者だったらしいですよ。相当な遊び人だったって噂です」
「まっ、人間死ぬときゃ独りさ。響古には俺がずっと傍にいてやるから」
「それはどーも。そろそろいこうかしら」
「そーだな。万事屋の仕事もあることだし」
軽口を交わし、二人は椅子から立ち上がる。
「万事屋ァァァァァ!!」
「ぎゃああああ!!」
その時、今まで眠っていた老人が突然起き上がったかと思うと大声をあげ、医者は悲鳴をあげた。
「今…万事屋って…言ったな…それ何?なんでも…して…くれんの?」
荒い息遣いでヨロヨロと歩いてくる老人に、四人は恐怖のあまり後ずさる。
「いや…なんでもって言っても、死者の蘇生は無理よ!!」
「ちょっ…こっち来んな!!のわァァァ!!」
全身全霊を込めた拒絶で怯える四人の前に、一本のかんざしが差し出された。
「え、コレ…かんざし?」
それは、衰弱した老人から告げられた人捜しの依頼であった。
「コ…コレ、コイツの持ち主捜してくれんか?」
早速、人捜しのために街を出た銀時達は聞き込みを開始した。
依頼人の証言から得た、かんざしの持ち主が働いていたという場所は、別の団子屋が店を構えていた。
「団子屋『かんざし』?そんなん、知らねーな」
その団子屋の店主に聞くと、きっぱりと言う。
「昔、この辺にあったってきいたぜ」
「ダメだ俺ァ、三日以上前のことは思い出せねェ。それよりよォ、銀時お前たまったツケ払ってけよ」
常時金欠状態であるのに、銀時達は団子屋で一服する。
特に神楽は、大量の団子を底なしの胃袋に入れ続けている。
「響古ちゃん、もう一本おまけしてやるよ」
「ありがとうございます」
店主から団子を渡され、響古は顔を綻ばせる。
素朴な甘みの団子は彼女の好みと一致していて、満足げだ。
「その『かんざし』で奉公してた綾乃って娘を捜してんだ。娘っつっても、五十年前の話だから、今はバーさんだろーけどな」
「ダメだ俺ァ。四十以上の女には興味ねーから。それよりよォ銀時、お前たまったツケ払ってけよ」
銀時の質問に答えるついで、後払いで溜まった団子の代金を要求する。
「響古ちゃん、もう一本おまけしてやるよ」
……かと思えば、響古に団子を渡した。
「いつもいつも、ありがとうございます」
響古はニコニコと笑い、美味しそうに頬張る。
店主は、表情にはあまり出さないようにしているものの、彼の口許は明らかに緩んでいた。
一方の新八はまだ入院中で、ベッドに横たわる老人から話を聞いていた。
「初恋の人?」
「笑ってくれて構わんぞ。こんなジジーが死に際に色気づきおって…とは」
「そんな事ないですよって」
誰もが一度は経験する、思春期の少年少女にとっては世界すら揺るがす、それが――。
痴情のもつれ。
淡い青春グラフィティ。
甘酸っぱい初恋。
「この歳まで所帯も持たんで、女のケツばかり追いかけてきたが、何故かな…死に際になって思い出すのは、あの人の笑顔ばかりでなァ」
目を閉じて真っ先に思い浮かぶのは、これまで追いかけてきた見目麗しいた女性達ではなく、たった一人の少女の笑顔。
老人は懐かしそうに、初恋の少女――綾乃の思い出を語る。
「あれは本当にキレーな人じゃった…いつもかんざし挿してちゃきゃき働く、巷 でも評判の娘でのう。男どもはあの人目当てに団子屋に通いつめ、みーんなブクブクに肥え太っておったわ」
巷で評判の看板娘として働く綾乃の姿に見惚れ、見事に肥え太った男達。
当時は少年だった老人もその一人だったが、こちらは建物の影からこっそり覗いていた。
「わしもそうしたかっが、金もないし、何よりウブじゃった。せいぜい物陰からあの人の働く姿見るので精一杯よ。そんなある日」
――いつものように物影から綾乃を覗いていると、彼女は突然振り返ってきた。
――驚いた少年は顔を赤くして、素早く建物に隠れる。
「フフ…また来てらしたの。いい加減、こっちいらっしゃいな」
――少年の存在に気づいていた綾乃は話しかける。
さすがに話しかけられたせいか、逃げるタイミングを失った。
少年はごまかしを諦め、長椅子に腰かける。
綾乃も長椅子に座ると、湯呑みを差し出した。
「いつもあそこからのぞいてたの、私、知ってましたよ。よっぽど好きなのね」
自分の恋心に気づかれたと勘違いし、口に含んだ茶を思わず噴き出す。
すると、少年の前に団子が置かれた。
「ハイ」
「え?」
疑問符を浮かべると、綾乃は人差し指を口許に添えて微笑んだ。
「どうぞ…食べたかったんでしょ?でも、みんなには内緒ですよ」
――彼女はわしの思いには気づいとらんかった。
――それは幸いだったかもしれん。
――なんせ横にいるだけでわしゃ、倒れそうだったから。
――当然、団子も喉を通らん。
元々純情で物影から覗くだけでも精一杯なのに、好きな人を目の前にして緊張がピークに達し、
「うがごっ」
よく噛まないせいで団子を喉に詰まらせる。
「ちょっ、大丈夫ですか?誰か来てェェェ!!」
唐突に始まった、銀時の熱弁。
その気だるげな顔を真面目なものに変えて、紙パックに入った苺牛乳を手に持つ。
「受験戦争、親との確執、気になるあの娘。とりあえず、カルシウムとっときゃ全てうまく…」
「いくわけねーだろ!!幾らカルシウムとってたってなァ、車にはねらりゃ、骨も折れるわ!!」
彼の無駄に大仰な理屈を、ギプスで固定された足をつり上げている新八が大声で遮る。
ただし、病院のベッドの上で。
銀時達は第三訓で車にはねられ、入院中の新八の見舞いに訪れていた。
「まあまあ。逆に、足だけで済んでよかったじゃない」
「あっ、ありがとうございます」
響古はリンゴの皮を、小振りなナイフで器用に剥いているところだった。
そして新八に差し出す。
ベッドの脇に座る銀時と神楽は、心配した素振りも見せず呑気な面持ちでいる。
「そーですね、意外と早く退院できるみたいですし。やっぱり響古さんは優しいですね…って、何アンタら勝手に食ってんの!?」
いつの間にか、彼女が剥いたリンゴを当たり前のようにシャクシャクと食べていた。
「固いこと言うなヨ(シャクシャク)、新八」
「篠木がせっかく剥いたリンゴを(シャクシャク)、俺が食わねェわけにはいかねーだろ」
「お前ら、見舞いに来たと思ったら食い物目当てか!」
言葉の端々にリンゴを咀嚼する音が混じる二人へ、思わずつっこむ新八だった。
瞬間、響古のいる方角から何かが発射された。
超高速で発射したそれ――果物ナイフは、二人の頬を掠めて壁に突き立った。
ドカッ、という刺突音の後、
「二人とも。ダメでしょ、それは入院患者のために剥いたリンゴなの」
にっこりと笑うが、それは怖いぐらいに感情のない微笑みだった。
「次は外さないわよ」
響古の冷たい視線に射すくめられ、二人はたじろいだ。
――まずい。
彼女との対決は、かなり
二人はすぐさま謝った。
「「スンマセンでした」」
素直に謝る二人に頷いてから、響古はリンゴを新八の口許に運んだ。
「はい、新八。アーンして」
新八は硬直した。
何が起きたのかわからない、という顔をしている。
響古は笑顔で[#ruby=勧_すすめ]てくる。
やがて新八は頬を紅潮させて頬張った。
リンゴなのに何度も何度も
「……美味しいです!すっごく美味しいです!」
「そう、よかった」
ハッと我に返った新八がおそるおそる視線を移す。
そこには、泣きそうな銀時が神楽に羽交い締めにされていた。
「――や、やっぱりこんなの、た、耐えられない……ああ、俺の響古が、俺の響古が新八なんかに、あーん、って。あーんって!」
羨望の眼差しで暴れる銀時を、響古はじと目で言い放つ。
「落ちつきなさい、バカ銀。新八はケガ人だから特別だって。ほら、風邪の時に食べられる特権みたいなもんさね、だから、大目に見てあげなってば!」
どうにか平静を取り戻したらしい様子の銀時が、渋い表情をつくって苺牛乳を差す。
「俺もはねられたけど、ピンピンしてんじゃねーか。毎日、コイツ飲んでるおかげだよ」
「いちご牛乳しか飲めないくせに、エラそーなんだよ!」
「んだコラァァ、コーヒー牛乳も飲めるぞ!!ちなみに響古はココア派だ!」
「ねぇ。それ、言う意味あんの?」
静かな病室にもお構いなしに、くだらない話で争う。
他の入院患者が迷惑そうにしていると、看護婦が甲高い声音で一喝する。
「やかましーわ!!他の患者さんの迷惑なんだよ!!今まさに、デッド・オア・アライブをさまよう患者さんだっていんだよ、ボケが!!」
「あ…スンマセン」
患者の傍で怒鳴る看護婦の方が、もっとうるさいです。
「ワォ。エライのと相部屋ね」
「えぇ、もう長くはないらしいですよ」
新八の向かい側のベッドに、一人の老人が横たわっている。
よく眠っているようで、人口呼吸器から送られる酸素を吸い、吐き、パジャマのややはだけた薄い胸をゆったりと上下させている。
「僕が来てからずっと、あの調子なんです」
「そのわりには、家族が誰も来てねーな」
周りには家族らしき人は来ておらず、白衣を着た医者が付き添っていた。
「あの歳まで、ずっと独り者だったらしいですよ。相当な遊び人だったって噂です」
「まっ、人間死ぬときゃ独りさ。響古には俺がずっと傍にいてやるから」
「それはどーも。そろそろいこうかしら」
「そーだな。万事屋の仕事もあることだし」
軽口を交わし、二人は椅子から立ち上がる。
「万事屋ァァァァァ!!」
「ぎゃああああ!!」
その時、今まで眠っていた老人が突然起き上がったかと思うと大声をあげ、医者は悲鳴をあげた。
「今…万事屋って…言ったな…それ何?なんでも…して…くれんの?」
荒い息遣いでヨロヨロと歩いてくる老人に、四人は恐怖のあまり後ずさる。
「いや…なんでもって言っても、死者の蘇生は無理よ!!」
「ちょっ…こっち来んな!!のわァァァ!!」
全身全霊を込めた拒絶で怯える四人の前に、一本のかんざしが差し出された。
「え、コレ…かんざし?」
それは、衰弱した老人から告げられた人捜しの依頼であった。
「コ…コレ、コイツの持ち主捜してくれんか?」
早速、人捜しのために街を出た銀時達は聞き込みを開始した。
依頼人の証言から得た、かんざしの持ち主が働いていたという場所は、別の団子屋が店を構えていた。
「団子屋『かんざし』?そんなん、知らねーな」
その団子屋の店主に聞くと、きっぱりと言う。
「昔、この辺にあったってきいたぜ」
「ダメだ俺ァ、三日以上前のことは思い出せねェ。それよりよォ、銀時お前たまったツケ払ってけよ」
常時金欠状態であるのに、銀時達は団子屋で一服する。
特に神楽は、大量の団子を底なしの胃袋に入れ続けている。
「響古ちゃん、もう一本おまけしてやるよ」
「ありがとうございます」
店主から団子を渡され、響古は顔を綻ばせる。
素朴な甘みの団子は彼女の好みと一致していて、満足げだ。
「その『かんざし』で奉公してた綾乃って娘を捜してんだ。娘っつっても、五十年前の話だから、今はバーさんだろーけどな」
「ダメだ俺ァ。四十以上の女には興味ねーから。それよりよォ銀時、お前たまったツケ払ってけよ」
銀時の質問に答えるついで、後払いで溜まった団子の代金を要求する。
「響古ちゃん、もう一本おまけしてやるよ」
……かと思えば、響古に団子を渡した。
「いつもいつも、ありがとうございます」
響古はニコニコと笑い、美味しそうに頬張る。
店主は、表情にはあまり出さないようにしているものの、彼の口許は明らかに緩んでいた。
一方の新八はまだ入院中で、ベッドに横たわる老人から話を聞いていた。
「初恋の人?」
「笑ってくれて構わんぞ。こんなジジーが死に際に色気づきおって…とは」
「そんな事ないですよって」
誰もが一度は経験する、思春期の少年少女にとっては世界すら揺るがす、それが――。
痴情のもつれ。
淡い青春グラフィティ。
甘酸っぱい初恋。
「この歳まで所帯も持たんで、女のケツばかり追いかけてきたが、何故かな…死に際になって思い出すのは、あの人の笑顔ばかりでなァ」
目を閉じて真っ先に思い浮かぶのは、これまで追いかけてきた見目麗しいた女性達ではなく、たった一人の少女の笑顔。
老人は懐かしそうに、初恋の少女――綾乃の思い出を語る。
「あれは本当にキレーな人じゃった…いつもかんざし挿してちゃきゃき働く、
巷で評判の看板娘として働く綾乃の姿に見惚れ、見事に肥え太った男達。
当時は少年だった老人もその一人だったが、こちらは建物の影からこっそり覗いていた。
「わしもそうしたかっが、金もないし、何よりウブじゃった。せいぜい物陰からあの人の働く姿見るので精一杯よ。そんなある日」
――いつものように物影から綾乃を覗いていると、彼女は突然振り返ってきた。
――驚いた少年は顔を赤くして、素早く建物に隠れる。
「フフ…また来てらしたの。いい加減、こっちいらっしゃいな」
――少年の存在に気づいていた綾乃は話しかける。
さすがに話しかけられたせいか、逃げるタイミングを失った。
少年はごまかしを諦め、長椅子に腰かける。
綾乃も長椅子に座ると、湯呑みを差し出した。
「いつもあそこからのぞいてたの、私、知ってましたよ。よっぽど好きなのね」
自分の恋心に気づかれたと勘違いし、口に含んだ茶を思わず噴き出す。
すると、少年の前に団子が置かれた。
「ハイ」
「え?」
疑問符を浮かべると、綾乃は人差し指を口許に添えて微笑んだ。
「どうぞ…食べたかったんでしょ?でも、みんなには内緒ですよ」
――彼女はわしの思いには気づいとらんかった。
――それは幸いだったかもしれん。
――なんせ横にいるだけでわしゃ、倒れそうだったから。
――当然、団子も喉を通らん。
元々純情で物影から覗くだけでも精一杯なのに、好きな人を目の前にして緊張がピークに達し、
「うがごっ」
よく噛まないせいで団子を喉に詰まらせる。
「ちょっ、大丈夫ですか?誰か来てェェェ!!」