第十訓
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「おばちゃーん、酢昆布おくれヨ」
駄菓子屋に寄った神楽は、玩具や菓子など売られる品々にも目もくれず、迷わず酢昆布を買う。
「まいど」
その帰り道、万事屋の階段の下で子供達が集まって騒いでいた。
「人んちの前で何やってるネ、クソガキども。エロ本でも落ちてたアルか?」
声をかける神楽の姿を見た途端、馬鹿にした口調で逃げ出す。
「ウワァァァ、酢昆布娘だァァァ!!」
「逃げろォ、酸 っぱい匂いがうつるぞ!!」
そんな子供達に、神楽は酢昆布をしゃぶりながら吐き捨てる。
「フン!ガキは母ちゃんの乳でもしゃぶってな」
「ワン!」
すぐ近くで犬の鳴き声が聞こえて、神楽は振り返る。
先程、少年達が集まった場所には真っ白な毛並みの犬が捨てられていた。
段ボールには『万事屋さんへ』と書かれている。
また、驚くべき点があった。
一般の大型犬よりも遥かに体格がよく、体長二メートル前後はあろう巨大な捨て犬だった。
「わあっ」
図鑑には絶対に載っていない大型犬を見て、神楽は目を輝かせる。
万事屋の居間に設置してあるテレビには、困った動物好きのハタがコアラを抱いて映っていた。
隣には、付き添いのじぃが立っている。
《――え~、続いてのニュースです。先日、来日した央国星のハタ皇子ですが、新設された大江戸動物園を訪れ~》
「銀さん、響古さん。あの動物好きのバカ皇子、またこっちに来てたんスね」
「げ、ホントだ」
掃除をしていた新八に促され、響古は顔をしかめてテレビを見る。
話しかけられたもう一人は、ジャンプを顔に被せてソファで、ぐ~ぐ~寝息を立てていた。
「ちょっと…きいてます?」
「無駄よ。コイツ、衝撃を与えない限り起きないから」
「衝撃ってどんくらいの!?」
「ただいまヨ~」
そこへ、買い出しに行っていた神楽が帰ってきた。
「おかえり、神楽」
「あ、おかえり。トイレットペーパー、買ってきてくれた?」
新八が訊ねると、何故か袋詰めのトイレットペーパーではなく単体の一ロールだけ出した。
「はいヨ」
想定外の買い物の品に、響古と新八は胡乱な表情になる。
「……どーやって買ってきたの?」
「…神楽ちゃん、あのさァ…普通何ロールか入った奴買ってくるんじゃないの。これじゃあ、誰かおなか壊したら対応しきれないよ」
ふと神楽の背後に視線を移した響古は絶句する。
「便所紙くらいでガタガタうるさいアル。姑か、お前!」
やっと目を覚ました銀時はジャンプを顔から離し、ボリボリと首元を掻く。
「世の中には新聞紙をトイレットペーパーと呼んで暮らす貧しい侍だっているアル」
「そんな過激派いないよ、誰にきいたの?」
「銀ちゃんだよ」
ややおぼつかない意識を覚醒させ、神楽の背後にいる真っ白い巨大犬を凝視すると、目をごしごしこする。
「ダメだよ、あの人の言うこと信じちゃ」
新八は気づいた様子もなく神楽と会話を続けるが、違和感に気づく。
「ん?」
「ねェ、神楽…それは何?」
響古がたまらなく訊ねると、新八はやっと巨大犬の存在に仰天した。
「ぎゃああああああああ、なにコレェェェェ!!」
「表に落ちてたアル。カワイイでしょ?」
喉元を撫でると、犬は気持ちよさそうに目を細める。
「落ちてたじゃねーよ。お前拾ってくんなら、せめて名称のわかるもん拾ってこいや」
「定春」
「今つけたろ!明らかに、今つけたろ!」
かなり大型の捨て犬に驚き戸惑うしかない二人……ただ、彼女だけは違っていた。
「……神楽」
「響古、どーしたアルか?」
興奮からくる赤らみに顔まで染めて、
「コレ、カワイイ~!」
思い切り、神楽命名『定春』に抱きついた。
「そーヨ、定春カワイイネ!」
「うん!すっごくカワイイ!!」
響古は、その美貌を蕩 かすように緩ませながら定春を撫でる。
普段の奔放さがウソのような可憐な笑顔に、新八も神楽も、あるいは銀時さえも見惚れる。
しばし、華麗において凛々しい美女のデレッぷりを堪能した後、神楽が手紙を渡した。
「これ…首輪に挟まってたヨ」
受け取った新八が書かれた内容を読み上げる。
「えーと…万事屋さんへ。申し訳ありませんが、ウチのペットもらってください」
「………それだけか?」
捨てた事情などを省略された文書に呆れる銀時の横で、
「よーしよしよし」
神楽はあやすような口調で撫で回す。
「(笑)と書いてあります」
ふざけた内容に、銀時は手紙を破りながらつっこんだ。
「笑えるかァァァァァァ!!(怒)」
「うわっ!!」
しかも(笑)に対抗してか、語尾に(怒)をつけてつっこんだ。
「要するに、捨ててっただけじゃねーか!!万事屋つったってなァ、ボランティアじゃねーんだよ!!捨ててこい!!」
「嫌アル!!こんな寒空の下放っぽいたら、死んでしまうヨ!!」
「大丈夫だよ、オメー。定春なら一人でもやっていけるさ」
「アンタ、定春の何を知ってんの!?」
「ねぇ、銀」
その時、銀時の着流しを引っ張って、響古が声をかけた。
「……飼っちゃ、ダメなの?」
彼女の憂いに揺れる瞳が、正面からじっと銀時の顔を見つめる。
切ない、必死な眼差し。
銀時はめまいにも似た感覚を味わった。
――ちょっ、そんな切なそうな目で…しかも、上目遣いとかやめてくんない?
――ホント、ヤバイって!
――いや、何がヤバイんだ?
お前の思考がヤバイだろ。
そんな葛藤をしながら、しかし銀時は心を鬼にする。
「悪ィな、響古。わかってくれるよな。定は…」
訴えかけるように手を伸ばした途端、定春の大きな顎で噛みつかれてしまった。
『あ』
犬の牙に頭から丸呑みに噛みつかれた銀時は勿論、他の三人も驚いた。
こうして男達の説得も失敗に終わり、一同は公園へと移動するのだった。
「定春ぅ~!!こっち来るアルよ~!!ウフフフフ!!」
神楽は満面の笑みで定春と戯れる。
だが、定春が地響きを立てながら走り回るせいで、周りの子供達は怯えている。
その光景を眺めるのは、頭や手などの至るところに包帯を巻いた銀時と新八。
「……いや~、スッカリなついちゃって。ほほえましい限りだね、新八君」
「そーっスね。女の子にはやっぱり大きな犬が似合いますよ、銀さん」
「ウフフ。神楽ったら、あんなにはしゃいじゃって」
二人の姿が凄いことになっている一方、響古は綺麗な顔のままニコニコとしている。
「響古~、こっち来るアルよ~!」
「じゃ、ちょっと行ってくる」
響古はベンチから立ち上がると、神楽と定春の方へ向かった。
ぐるぐると巻きつけた包帯から覗く懐疑 的な目で、二人は目の前の光景を眺める。
「僕らにはなんでなつかないんだろうか、新八君」
「なんとか捨てようとしているのが、野生のカンでわかるんですよ、銀さん」
ちょこまかと逃げる少女と美女を、定春は猛然とした足取りで追う。
前足の一撃や、牙や爪で打ちのめし、引っかけようとする。
時折、強烈な体当たりを仕掛け、小動物じみた標的を押し潰そうとする。
「なんで響古とアイツにはなつくんだろう、新八君」
「なついてはいませんよ、銀さん」
響古の場合、何も言わずに優しく微笑みました。
そう、ただ微笑んだだけなのです。
なのに怖いです、マジ怖いです、超怖いです。
慈愛に溢れた、まるで聖母のような微笑みなのに、伝わってくるのは何故か恐怖です。
噛みつこうとした定春が固まっちゃいましたよ。
「何か動物の本能的な部分で、響古さんに逆らっちゃダメって感じたんでしょう」
どうやら響古、あの僅かな間に群れの序列をはっきりさせたようです。
「襲われてるけど、神楽ちゃがものともしてないんですよ、銀さん」
全長二メートルの巨大犬。
対するは年齢14歳くらいの小柄な少女。
体格で言えば大幅に負けている。
しかし、それで怯む神楽ではない。
猛スピードで地響きを立てる定春の突進を、
「アハハハハ。じゃれるな、じゃれるな」
笑顔で豪快に受け止める。
「なるほど。そーなのか、新八君」
やがて、遊び疲れた二人はベンチへ戻ってきた。
フー、と一息ついてベンチに座る満足げな少女に、銀時が言う。
「楽しそーだな、オイ」
「ウン。私、動物好きネ。女の子はみんな、カワイイもの好きヨ、そこに理由いらない」
「…アレ、カワイイか?」
「カワイイヨ!こんなに動物になつかれたの初めて」
こちらめがけて突っ込んできた定春と激突し、神楽は吹っ飛んだ。
「神楽ちゃん、いい加減気づいたら?」
危険を察した三人は既にベンチから立って避難する。
「私、昔ペット飼ったことアル。定春一号」
お返し、とばかりに飛び蹴りを食らわせて、神楽は昔飼っていたペットについて話し始めた。
「ごっさ可愛かった定春一号、私もごっさ可愛がったネ。定春一号、外で飼ってたんだけど、ある日、私どーしても一緒に寝たくて、親に内緒で抱いて眠ったネ」
神楽の脳裏に、かつて兎と戯れた記憶が過ぎる。
犬よりも遥かに小さい、可憐な子兎。
頭をや背中を撫でれば気持ちよさそうに目を細める。
ある夜、親に内緒でペットと一緒に眠った。
「そしたら思いの他寝苦しくて、悪夢見たヨ」
――苦悶に歪める神楽の腕の中で、
「うがァァァァァ」
――万力で挟み込まれた兎は押し潰された。
「散々うなされて起きたら、定春…カッチコッチになってたアル」
駄菓子屋に寄った神楽は、玩具や菓子など売られる品々にも目もくれず、迷わず酢昆布を買う。
「まいど」
その帰り道、万事屋の階段の下で子供達が集まって騒いでいた。
「人んちの前で何やってるネ、クソガキども。エロ本でも落ちてたアルか?」
声をかける神楽の姿を見た途端、馬鹿にした口調で逃げ出す。
「ウワァァァ、酢昆布娘だァァァ!!」
「逃げろォ、
そんな子供達に、神楽は酢昆布をしゃぶりながら吐き捨てる。
「フン!ガキは母ちゃんの乳でもしゃぶってな」
「ワン!」
すぐ近くで犬の鳴き声が聞こえて、神楽は振り返る。
先程、少年達が集まった場所には真っ白な毛並みの犬が捨てられていた。
段ボールには『万事屋さんへ』と書かれている。
また、驚くべき点があった。
一般の大型犬よりも遥かに体格がよく、体長二メートル前後はあろう巨大な捨て犬だった。
「わあっ」
図鑑には絶対に載っていない大型犬を見て、神楽は目を輝かせる。
万事屋の居間に設置してあるテレビには、困った動物好きのハタがコアラを抱いて映っていた。
隣には、付き添いのじぃが立っている。
《――え~、続いてのニュースです。先日、来日した央国星のハタ皇子ですが、新設された大江戸動物園を訪れ~》
「銀さん、響古さん。あの動物好きのバカ皇子、またこっちに来てたんスね」
「げ、ホントだ」
掃除をしていた新八に促され、響古は顔をしかめてテレビを見る。
話しかけられたもう一人は、ジャンプを顔に被せてソファで、ぐ~ぐ~寝息を立てていた。
「ちょっと…きいてます?」
「無駄よ。コイツ、衝撃を与えない限り起きないから」
「衝撃ってどんくらいの!?」
「ただいまヨ~」
そこへ、買い出しに行っていた神楽が帰ってきた。
「おかえり、神楽」
「あ、おかえり。トイレットペーパー、買ってきてくれた?」
新八が訊ねると、何故か袋詰めのトイレットペーパーではなく単体の一ロールだけ出した。
「はいヨ」
想定外の買い物の品に、響古と新八は胡乱な表情になる。
「……どーやって買ってきたの?」
「…神楽ちゃん、あのさァ…普通何ロールか入った奴買ってくるんじゃないの。これじゃあ、誰かおなか壊したら対応しきれないよ」
ふと神楽の背後に視線を移した響古は絶句する。
「便所紙くらいでガタガタうるさいアル。姑か、お前!」
やっと目を覚ました銀時はジャンプを顔から離し、ボリボリと首元を掻く。
「世の中には新聞紙をトイレットペーパーと呼んで暮らす貧しい侍だっているアル」
「そんな過激派いないよ、誰にきいたの?」
「銀ちゃんだよ」
ややおぼつかない意識を覚醒させ、神楽の背後にいる真っ白い巨大犬を凝視すると、目をごしごしこする。
「ダメだよ、あの人の言うこと信じちゃ」
新八は気づいた様子もなく神楽と会話を続けるが、違和感に気づく。
「ん?」
「ねェ、神楽…それは何?」
響古がたまらなく訊ねると、新八はやっと巨大犬の存在に仰天した。
「ぎゃああああああああ、なにコレェェェェ!!」
「表に落ちてたアル。カワイイでしょ?」
喉元を撫でると、犬は気持ちよさそうに目を細める。
「落ちてたじゃねーよ。お前拾ってくんなら、せめて名称のわかるもん拾ってこいや」
「定春」
「今つけたろ!明らかに、今つけたろ!」
かなり大型の捨て犬に驚き戸惑うしかない二人……ただ、彼女だけは違っていた。
「……神楽」
「響古、どーしたアルか?」
興奮からくる赤らみに顔まで染めて、
「コレ、カワイイ~!」
思い切り、神楽命名『定春』に抱きついた。
「そーヨ、定春カワイイネ!」
「うん!すっごくカワイイ!!」
響古は、その美貌を
普段の奔放さがウソのような可憐な笑顔に、新八も神楽も、あるいは銀時さえも見惚れる。
しばし、華麗において凛々しい美女のデレッぷりを堪能した後、神楽が手紙を渡した。
「これ…首輪に挟まってたヨ」
受け取った新八が書かれた内容を読み上げる。
「えーと…万事屋さんへ。申し訳ありませんが、ウチのペットもらってください」
「………それだけか?」
捨てた事情などを省略された文書に呆れる銀時の横で、
「よーしよしよし」
神楽はあやすような口調で撫で回す。
「(笑)と書いてあります」
ふざけた内容に、銀時は手紙を破りながらつっこんだ。
「笑えるかァァァァァァ!!(怒)」
「うわっ!!」
しかも(笑)に対抗してか、語尾に(怒)をつけてつっこんだ。
「要するに、捨ててっただけじゃねーか!!万事屋つったってなァ、ボランティアじゃねーんだよ!!捨ててこい!!」
「嫌アル!!こんな寒空の下放っぽいたら、死んでしまうヨ!!」
「大丈夫だよ、オメー。定春なら一人でもやっていけるさ」
「アンタ、定春の何を知ってんの!?」
「ねぇ、銀」
その時、銀時の着流しを引っ張って、響古が声をかけた。
「……飼っちゃ、ダメなの?」
彼女の憂いに揺れる瞳が、正面からじっと銀時の顔を見つめる。
切ない、必死な眼差し。
銀時はめまいにも似た感覚を味わった。
――ちょっ、そんな切なそうな目で…しかも、上目遣いとかやめてくんない?
――ホント、ヤバイって!
――いや、何がヤバイんだ?
お前の思考がヤバイだろ。
そんな葛藤をしながら、しかし銀時は心を鬼にする。
「悪ィな、響古。わかってくれるよな。定は…」
訴えかけるように手を伸ばした途端、定春の大きな顎で噛みつかれてしまった。
『あ』
犬の牙に頭から丸呑みに噛みつかれた銀時は勿論、他の三人も驚いた。
こうして男達の説得も失敗に終わり、一同は公園へと移動するのだった。
「定春ぅ~!!こっち来るアルよ~!!ウフフフフ!!」
神楽は満面の笑みで定春と戯れる。
だが、定春が地響きを立てながら走り回るせいで、周りの子供達は怯えている。
その光景を眺めるのは、頭や手などの至るところに包帯を巻いた銀時と新八。
「……いや~、スッカリなついちゃって。ほほえましい限りだね、新八君」
「そーっスね。女の子にはやっぱり大きな犬が似合いますよ、銀さん」
「ウフフ。神楽ったら、あんなにはしゃいじゃって」
二人の姿が凄いことになっている一方、響古は綺麗な顔のままニコニコとしている。
「響古~、こっち来るアルよ~!」
「じゃ、ちょっと行ってくる」
響古はベンチから立ち上がると、神楽と定春の方へ向かった。
ぐるぐると巻きつけた包帯から覗く
「僕らにはなんでなつかないんだろうか、新八君」
「なんとか捨てようとしているのが、野生のカンでわかるんですよ、銀さん」
ちょこまかと逃げる少女と美女を、定春は猛然とした足取りで追う。
前足の一撃や、牙や爪で打ちのめし、引っかけようとする。
時折、強烈な体当たりを仕掛け、小動物じみた標的を押し潰そうとする。
「なんで響古とアイツにはなつくんだろう、新八君」
「なついてはいませんよ、銀さん」
響古の場合、何も言わずに優しく微笑みました。
そう、ただ微笑んだだけなのです。
なのに怖いです、マジ怖いです、超怖いです。
慈愛に溢れた、まるで聖母のような微笑みなのに、伝わってくるのは何故か恐怖です。
噛みつこうとした定春が固まっちゃいましたよ。
「何か動物の本能的な部分で、響古さんに逆らっちゃダメって感じたんでしょう」
どうやら響古、あの僅かな間に群れの序列をはっきりさせたようです。
「襲われてるけど、神楽ちゃがものともしてないんですよ、銀さん」
全長二メートルの巨大犬。
対するは年齢14歳くらいの小柄な少女。
体格で言えば大幅に負けている。
しかし、それで怯む神楽ではない。
猛スピードで地響きを立てる定春の突進を、
「アハハハハ。じゃれるな、じゃれるな」
笑顔で豪快に受け止める。
「なるほど。そーなのか、新八君」
やがて、遊び疲れた二人はベンチへ戻ってきた。
フー、と一息ついてベンチに座る満足げな少女に、銀時が言う。
「楽しそーだな、オイ」
「ウン。私、動物好きネ。女の子はみんな、カワイイもの好きヨ、そこに理由いらない」
「…アレ、カワイイか?」
「カワイイヨ!こんなに動物になつかれたの初めて」
こちらめがけて突っ込んできた定春と激突し、神楽は吹っ飛んだ。
「神楽ちゃん、いい加減気づいたら?」
危険を察した三人は既にベンチから立って避難する。
「私、昔ペット飼ったことアル。定春一号」
お返し、とばかりに飛び蹴りを食らわせて、神楽は昔飼っていたペットについて話し始めた。
「ごっさ可愛かった定春一号、私もごっさ可愛がったネ。定春一号、外で飼ってたんだけど、ある日、私どーしても一緒に寝たくて、親に内緒で抱いて眠ったネ」
神楽の脳裏に、かつて兎と戯れた記憶が過ぎる。
犬よりも遥かに小さい、可憐な子兎。
頭をや背中を撫でれば気持ちよさそうに目を細める。
ある夜、親に内緒でペットと一緒に眠った。
「そしたら思いの他寝苦しくて、悪夢見たヨ」
――苦悶に歪める神楽の腕の中で、
「うがァァァァァ」
――万力で挟み込まれた兎は押し潰された。
「散々うなされて起きたら、定春…カッチコッチになってたアル」