第八訓
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すっかり暗くなった空に飾り立てられた街灯が、色とりどりの光を振り撒いていた。
そこに『スナックすまいる』という、妙が働いているスナックがある。
彼女は今、客の愚痴を相槌を打って聞いていた。
「どーせ、俺なんてケツ毛ボーボーだしさァ。女にモテるわけないんだよ」
「そんなことないですよ。男らしくて、素敵じゃありませんか」
今日の客は、延々と続く愚痴の独奏会の様相を呈していたが、それもようやく終焉を迎える。
この程度で仕事を放棄する柔 な精神は持ち合わせていないが、愚痴ばかりというのはやはり、よろしくないわね、と妙はネガティブな話題から解放されたと考えてホッと一息ついた。
「じゃあ、きくけどさァ、もしお妙さんの彼氏がさァ、ケツが毛だるまだったら、どーするよ?」
……のだが、どうやら彼女の早とちりのようだった。
物凄く答えに困る質問が、事態の深刻さを如実に物語っていた。
そんなことで深刻さの度合いを測るのは、どこか間違っているような気もしたが。
この状況下で、彼女はなんと応えるべきか。
「ケツ毛ごと愛します」
覚悟が決まった。
きっぱりとした言葉で己の意思を伝える。
目を閉じ、唇を僅かに綻ばせる。
アルカイックスマイル。
そう呼ぶのがふさわしい、穏やかな微笑みだった。
男はその荘厳さに不意に気づき、驚愕してしまった。
――菩薩…全ての不浄を包み込む、まるで菩薩だ。
不意に、妙が視線を動かした。
男の注目に気づき、まっすぐこちらを見つめてくる。
そして首を傾げた。
翌朝、新八を驚かせたのは、姉の口から飛び出た結婚の申し出だった。
「何ィィィ!!結婚申しこまれたって!?」
朝食の準備をしていた新八はテーブルに身を乗り出し、目を見張る。
「マジでございますか、姉上!!」
「マジですよ。お店のお客さんに、昨日、突然ね」
オーバー気味に驚く弟とは反対に、妙は穏やかに相槌を打つ。
「で…何て?」
「フフ…勿論丁重にお断りしたけど、びっくりしたわ~。初めて会ったのに、あんなにしつこく迫ってくるなんて」
妙は和やかな笑顔とサラリとした口調で説明を付け加える。
「あんまりしつこいから、鼻にストレート決めて逃げてきたわ」
新八にはそう言って、にっこりと笑う姉が恐ろしく感じた。
相当、今の微笑みの素敵さと台詞のギャップが怖かったらしい。
「そ…そーですか…どんな人か、僕も見たか…」
次の発言がなんとなくためらわれる空気の中、
「んしょんしょ」
塀の外から男が電柱によじ登る。
それは昨夜、妙に結婚を申し込み、見事に撃沈させられた客だった。
「お妙さァァァん!!結婚してくれェェェ!!一度や二度フラれたくらいじゃ、俺は倒れんよ!!」
鼻に絆創膏を貼り、周りに聞こえるほどの大声でアプローチする。
実に近所迷惑ですが、男は止まらない。
「女はさァ、愛するより愛される方が幸せなんだよ!!って母ちゃんが言ってた」
そこへ、通報を受けたらしい同心がやって来た。
「こらァァァァ、何やってんだ、近所迷惑だ、降りてこいコノヤロー!!」
「お巡りさん、落ち着けェェ!!俺は泥棒は泥棒でも、恋泥棒さ!!」
「何、満ち足りた顔してんだ!!全然うまくねーんだよ!!降りてこい!!」
「お妙さァァん!!顔だけでも出してくれないかな~!!」
電柱によじ登り、大声をあげる、という姿は朝、しかも大通りということで、これ以上ないくらいに目立っていた。
彼が放つ異様な重圧を前に言葉を失い、新八は呆然と立ち尽くす。
すると、妙はテーブルの上に置いてあった灰皿を手に取って姿を現す。
「お妙さん!!」
次の瞬間、顔面に灰皿が投げつけられ、男は電柱から落ちた。
「よかったじゃねーか、嫁のもらい手があってよォ」
事情を聞き終え、銀時はパフェを食べつつ祝福する。
隣には響古がチョコレートケーキを、神楽かジャンボラーメンを食べていた。
三人の向かいには新八と妙が座り、神妙な表情で悩みを打ち明ける。
「帯刀してたってことは、幕臣かなんか?」
「玉の輿じゃねーか。本性バレないうちに籍入れとけ、籍!」
「それ、どーゆう意味?」
妙は身を乗り出して銀時の頭を掴むと、テーブルに叩きつける。
「話を元に戻すけど。妙、続けて」
「はい。最初は、そのうち諦めるだろうと思って、たいして気になかったんだけど………気がついたら、どこに行ってもあの男の姿がある事に気づいて。あぁ、異常だって」
――買い物をしている時、前に置かれた野菜箱の中から"つき合って"というボードを掲げて交際を申し出る。
――電車に乗っている時も、物凄い剣幕で"お友達から"と書かれたボードを掲げて、交際をしつこく迫る。
「……それってもはや、ストーカーじゃない」
すると、店主がストップウォッチを見ながらカウントを始める。
「ハイ、あと30秒」
ちなみに、神楽は『ジャンボラーメン 3分以内に食べれば食事代 無料』にチャレンジしていた。
「ハイハイ、ラストスパート。噛まないで飲み込め、神楽。頼むぞ、金持ってきてねーんだから」
「きーてんの、アンタら!!」
ラーメンを貪るように食べる神楽を応援する銀時。
新八が堪らずつっこむと、やる気のない眼差しで報酬を要求する。
「んだよ、俺にどーしろっての。仕事の依頼なら、出すもん出してもらわにゃ」
「銀さん、僕もう2か月も給料もらってないんスけど、出るとこ出てもいいんですよ」
「あたし、キャバクラのバイトでもしよっかな~」
「ストーカーめェェ!!どこだァァァ!!成敗してくれるわっ!!」
しかし二人の一言で一転、やる気満々になる。
(扱いやすい奴。 by 新八)
(銀は単純だからね。 by ォォォ)
「何だァァァ!!やれるものならやってみろ!!」
その時、他の客が座っているテーブルの下から、噂のストーカー男が這い出てきた。
「ホントにいたよ」
「ワォ、ゴリラだ」
顎にヒゲをたくわえた面相は貫録十分で、身体つきもとても逞しい。
粗にして野だが卑ではない。
野生から飛び出てきたゴリラさながらだ。
「ストーカーと呼ばれて出てくるとは、バカな野郎だ。己がストーカーであることを認めたか?」
「人は皆、愛を求め続けるストーカーよ」
不意に、男は目を見開いた。
たまたま目線の先にいた、長い黒髪が麗しい美女、ォォォを見つけたのである。
「天女…高貴さと美しい覇気に満ちている、まるで天女だ…」
ォォォは一度頷くと、
「うん」
唇に微笑みを浮かべて、率直に感想を口にした。
「あなたが妙につきまとってる、ゴリラ顔の気持ち悪いストーカーね」
「ガ~~~~~ン!!」
ォォォの容赦ないストレートなご感想に男は突然、頭の上に石が落ちてきたかのような勢いで顔から床にダイブした。
「て、天女にストーカーって言われてしまった……」
キツイ言葉に耐性がないのか、男はすっかり意気消沈する。
が、立ち直りも早いのか、ォォォに話しかける。
「あの、お名前はなんとおっしゃるのですか…いや、お妙さん、別に下心があるとかじゃなくて仲良くなろう…みたいな?」
「誰もきいてねーよ」
何故か言い訳に聞こえる言葉を、歯に衣すら着せない返答で斬り捨てる。
粗にして野だが卑ではない。
異常な執着をストーカーと連想させるが、一途な愛には変わりない。
ォォォは顎に手を当てて考え込んだ後、微笑んで受け入れた。
「響古ォォォです」
その笑みに、男は完全に顔を真っ赤にする。
「――あっ。いや、お妙さん、これは心変わりなどではなく…」
「だからきいてねーよ。あんまり、ォォォさんに近寄らないでくれません?」
妙が氷のような笑みと共に牽制するが、銀時に話しかける。
「ときに貴様、お妙さんとォォォさんと親しげに話しているが、一体どーゆー関係だ。うらやましいこと山の如しだ」
すると、ォォォの眼差しと目が合う。
頷きかけてくる年上の美女を見た途端、銀時の腕に自分の腕を絡めた。
「許嫁ですぅ。私、この人と春に結婚するの」
「そーなの?でも、俺にはォォォが…」
「もう、あんな事もこんな事もしてるんです。だから、私のことは諦めて」
「いや、あんな事もこんな事もは、ォォォだけ…」
演技の途中から口を挟む銀時の鳩尾に、ォォォは肘を突き刺す。
「あ…あんな事もこんな事も、そんな事もだとォォォォォ!!」
「いや、そんな事はしてないですよ」
段々険しい表情になっていくと、新八が冷静につっこむ。
「いやっ!!いいんだ、お妙さん!!」
その途端、急に芝居がかかった、調子っぱずれな叫びをあげる。
「君がどんな人生を歩んでようと、俺はありのままの君を受けとめるよ。君がケツ毛ごと俺を愛してくれたように」
「愛してねーよ」
ゴリラ顔の上に勘違いとストーカー、やっぱり厄介です。
男は銀時を指差し、悲鳴に近い声で叫んだ。
「オイ、白髪パーマ!!お前がお妙さんの許嫁だろーと関係ない!お前なんかより、俺の方がお妙さんを愛してる!!」
「え。俺が愛してんのはォォォだし」
「決闘しろ!!お妙さんをかけて!!」
平坦な声音で反論する銀時を無視して、力の限り宣言する。
決闘の場所は大江戸橋の下、砂利の敷かれた河原に選ばれた。
橋の上から、ォォォ達が固唾を呑んで見守る。
「よけいなウソつかなきゃよかったわ。なんだか、かえって大変な状況になってる気が…」
「なってる気が…じゃなくて、実際になってるし」
「それに、あの人、多分強い…決闘を前にあの落ち着きぶりは、死線をくぐり抜けてきた証拠よ」
そこに『スナックすまいる』という、妙が働いているスナックがある。
彼女は今、客の愚痴を相槌を打って聞いていた。
「どーせ、俺なんてケツ毛ボーボーだしさァ。女にモテるわけないんだよ」
「そんなことないですよ。男らしくて、素敵じゃありませんか」
今日の客は、延々と続く愚痴の独奏会の様相を呈していたが、それもようやく終焉を迎える。
この程度で仕事を放棄する
「じゃあ、きくけどさァ、もしお妙さんの彼氏がさァ、ケツが毛だるまだったら、どーするよ?」
……のだが、どうやら彼女の早とちりのようだった。
物凄く答えに困る質問が、事態の深刻さを如実に物語っていた。
そんなことで深刻さの度合いを測るのは、どこか間違っているような気もしたが。
この状況下で、彼女はなんと応えるべきか。
「ケツ毛ごと愛します」
覚悟が決まった。
きっぱりとした言葉で己の意思を伝える。
目を閉じ、唇を僅かに綻ばせる。
アルカイックスマイル。
そう呼ぶのがふさわしい、穏やかな微笑みだった。
男はその荘厳さに不意に気づき、驚愕してしまった。
――菩薩…全ての不浄を包み込む、まるで菩薩だ。
不意に、妙が視線を動かした。
男の注目に気づき、まっすぐこちらを見つめてくる。
そして首を傾げた。
翌朝、新八を驚かせたのは、姉の口から飛び出た結婚の申し出だった。
「何ィィィ!!結婚申しこまれたって!?」
朝食の準備をしていた新八はテーブルに身を乗り出し、目を見張る。
「マジでございますか、姉上!!」
「マジですよ。お店のお客さんに、昨日、突然ね」
オーバー気味に驚く弟とは反対に、妙は穏やかに相槌を打つ。
「で…何て?」
「フフ…勿論丁重にお断りしたけど、びっくりしたわ~。初めて会ったのに、あんなにしつこく迫ってくるなんて」
妙は和やかな笑顔とサラリとした口調で説明を付け加える。
「あんまりしつこいから、鼻にストレート決めて逃げてきたわ」
新八にはそう言って、にっこりと笑う姉が恐ろしく感じた。
相当、今の微笑みの素敵さと台詞のギャップが怖かったらしい。
「そ…そーですか…どんな人か、僕も見たか…」
次の発言がなんとなくためらわれる空気の中、
「んしょんしょ」
塀の外から男が電柱によじ登る。
それは昨夜、妙に結婚を申し込み、見事に撃沈させられた客だった。
「お妙さァァァん!!結婚してくれェェェ!!一度や二度フラれたくらいじゃ、俺は倒れんよ!!」
鼻に絆創膏を貼り、周りに聞こえるほどの大声でアプローチする。
実に近所迷惑ですが、男は止まらない。
「女はさァ、愛するより愛される方が幸せなんだよ!!って母ちゃんが言ってた」
そこへ、通報を受けたらしい同心がやって来た。
「こらァァァァ、何やってんだ、近所迷惑だ、降りてこいコノヤロー!!」
「お巡りさん、落ち着けェェ!!俺は泥棒は泥棒でも、恋泥棒さ!!」
「何、満ち足りた顔してんだ!!全然うまくねーんだよ!!降りてこい!!」
「お妙さァァん!!顔だけでも出してくれないかな~!!」
電柱によじ登り、大声をあげる、という姿は朝、しかも大通りということで、これ以上ないくらいに目立っていた。
彼が放つ異様な重圧を前に言葉を失い、新八は呆然と立ち尽くす。
すると、妙はテーブルの上に置いてあった灰皿を手に取って姿を現す。
「お妙さん!!」
次の瞬間、顔面に灰皿が投げつけられ、男は電柱から落ちた。
「よかったじゃねーか、嫁のもらい手があってよォ」
事情を聞き終え、銀時はパフェを食べつつ祝福する。
隣には響古がチョコレートケーキを、神楽かジャンボラーメンを食べていた。
三人の向かいには新八と妙が座り、神妙な表情で悩みを打ち明ける。
「帯刀してたってことは、幕臣かなんか?」
「玉の輿じゃねーか。本性バレないうちに籍入れとけ、籍!」
「それ、どーゆう意味?」
妙は身を乗り出して銀時の頭を掴むと、テーブルに叩きつける。
「話を元に戻すけど。妙、続けて」
「はい。最初は、そのうち諦めるだろうと思って、たいして気になかったんだけど………気がついたら、どこに行ってもあの男の姿がある事に気づいて。あぁ、異常だって」
――買い物をしている時、前に置かれた野菜箱の中から"つき合って"というボードを掲げて交際を申し出る。
――電車に乗っている時も、物凄い剣幕で"お友達から"と書かれたボードを掲げて、交際をしつこく迫る。
「……それってもはや、ストーカーじゃない」
すると、店主がストップウォッチを見ながらカウントを始める。
「ハイ、あと30秒」
ちなみに、神楽は『ジャンボラーメン 3分以内に食べれば食事代 無料』にチャレンジしていた。
「ハイハイ、ラストスパート。噛まないで飲み込め、神楽。頼むぞ、金持ってきてねーんだから」
「きーてんの、アンタら!!」
ラーメンを貪るように食べる神楽を応援する銀時。
新八が堪らずつっこむと、やる気のない眼差しで報酬を要求する。
「んだよ、俺にどーしろっての。仕事の依頼なら、出すもん出してもらわにゃ」
「銀さん、僕もう2か月も給料もらってないんスけど、出るとこ出てもいいんですよ」
「あたし、キャバクラのバイトでもしよっかな~」
「ストーカーめェェ!!どこだァァァ!!成敗してくれるわっ!!」
しかし二人の一言で一転、やる気満々になる。
(扱いやすい奴。 by 新八)
(銀は単純だからね。 by ォォォ)
「何だァァァ!!やれるものならやってみろ!!」
その時、他の客が座っているテーブルの下から、噂のストーカー男が這い出てきた。
「ホントにいたよ」
「ワォ、ゴリラだ」
顎にヒゲをたくわえた面相は貫録十分で、身体つきもとても逞しい。
粗にして野だが卑ではない。
野生から飛び出てきたゴリラさながらだ。
「ストーカーと呼ばれて出てくるとは、バカな野郎だ。己がストーカーであることを認めたか?」
「人は皆、愛を求め続けるストーカーよ」
不意に、男は目を見開いた。
たまたま目線の先にいた、長い黒髪が麗しい美女、ォォォを見つけたのである。
「天女…高貴さと美しい覇気に満ちている、まるで天女だ…」
ォォォは一度頷くと、
「うん」
唇に微笑みを浮かべて、率直に感想を口にした。
「あなたが妙につきまとってる、ゴリラ顔の気持ち悪いストーカーね」
「ガ~~~~~ン!!」
ォォォの容赦ないストレートなご感想に男は突然、頭の上に石が落ちてきたかのような勢いで顔から床にダイブした。
「て、天女にストーカーって言われてしまった……」
キツイ言葉に耐性がないのか、男はすっかり意気消沈する。
が、立ち直りも早いのか、ォォォに話しかける。
「あの、お名前はなんとおっしゃるのですか…いや、お妙さん、別に下心があるとかじゃなくて仲良くなろう…みたいな?」
「誰もきいてねーよ」
何故か言い訳に聞こえる言葉を、歯に衣すら着せない返答で斬り捨てる。
粗にして野だが卑ではない。
異常な執着をストーカーと連想させるが、一途な愛には変わりない。
ォォォは顎に手を当てて考え込んだ後、微笑んで受け入れた。
「響古ォォォです」
その笑みに、男は完全に顔を真っ赤にする。
「――あっ。いや、お妙さん、これは心変わりなどではなく…」
「だからきいてねーよ。あんまり、ォォォさんに近寄らないでくれません?」
妙が氷のような笑みと共に牽制するが、銀時に話しかける。
「ときに貴様、お妙さんとォォォさんと親しげに話しているが、一体どーゆー関係だ。うらやましいこと山の如しだ」
すると、ォォォの眼差しと目が合う。
頷きかけてくる年上の美女を見た途端、銀時の腕に自分の腕を絡めた。
「許嫁ですぅ。私、この人と春に結婚するの」
「そーなの?でも、俺にはォォォが…」
「もう、あんな事もこんな事もしてるんです。だから、私のことは諦めて」
「いや、あんな事もこんな事もは、ォォォだけ…」
演技の途中から口を挟む銀時の鳩尾に、ォォォは肘を突き刺す。
「あ…あんな事もこんな事も、そんな事もだとォォォォォ!!」
「いや、そんな事はしてないですよ」
段々険しい表情になっていくと、新八が冷静につっこむ。
「いやっ!!いいんだ、お妙さん!!」
その途端、急に芝居がかかった、調子っぱずれな叫びをあげる。
「君がどんな人生を歩んでようと、俺はありのままの君を受けとめるよ。君がケツ毛ごと俺を愛してくれたように」
「愛してねーよ」
ゴリラ顔の上に勘違いとストーカー、やっぱり厄介です。
男は銀時を指差し、悲鳴に近い声で叫んだ。
「オイ、白髪パーマ!!お前がお妙さんの許嫁だろーと関係ない!お前なんかより、俺の方がお妙さんを愛してる!!」
「え。俺が愛してんのはォォォだし」
「決闘しろ!!お妙さんをかけて!!」
平坦な声音で反論する銀時を無視して、力の限り宣言する。
決闘の場所は大江戸橋の下、砂利の敷かれた河原に選ばれた。
橋の上から、ォォォ達が固唾を呑んで見守る。
「よけいなウソつかなきゃよかったわ。なんだか、かえって大変な状況になってる気が…」
「なってる気が…じゃなくて、実際になってるし」
「それに、あの人、多分強い…決闘を前にあの落ち着きぶりは、死線をくぐり抜けてきた証拠よ」