第1話
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彼らが流暢に話す間、ずっと無言だったキョウコが溜め息混じりに、エドも頬杖をついて胡乱げに一言、漏らす。
「『死せる者には復活を』ねぇ…」
「うさん臭ぇな」
二人が視線を移すと、ラジオからは延々と流れるレト教の教義放送。
≪祈り信じよ。されば、汝が願い、成就せり≫
祈り信じるだけで願いが叶うという謳い文句に、黄金と漆黒の双眸が細められた。
ラジオを通して放送する教会の一室では、教主のコーネロが聖書片手に教義を唱えていた。
「すべての子らに、光の恩寵 があらんことを…」
そして、ラジオのスイッチを切ると、傍に控えていた幹部がねぎらいの言葉をかける。
「おつかれ様です、教主様」
「教主様、本日もありがたいお言葉、感謝いたします」
「教主様!」
そこにロゼがやって来ると、コーネロは顔を綻ばせる。
「おお、ロゼか。いつも感心だね、えらいぞ」
「いえ、当然のことです。それで、あの…いつになったら…」
迷いながら要件を告げた時、彼は鷹揚に頷いた。
「ああ君の言いたい事はよくわかっているよ。神は君の善行をよく見られておるからね」
「それじゃあ…」
表情を明るくするロゼに、しかしコーネロは彼女の肩に手を置いて、優しく語りかける。
「だがなロゼ、今はまだその時期ではない。わかるかね?ん?」
「………そう、そう…ですよね…まだ…」
「そう、いい子だね、ロゼ」
顔をうつむかせて落胆するロゼに見えないように、コーネロは唇を歪ませて笑みを浮かべた。
三人は食事を済ませると、教会に訪れた。
ちょうどそこで、戻ってきたロゼと出くわす。
「あら。たしかさっきの…レト教に興味がおありで?」
「いや、あいにくと無宗教でね」
ロゼはその言葉を遠回しに神を信じていないと受け止めた。
「いけませんよ、そんな!神を信じうやまう事で、日々感謝と希望に生きる…なんとすばらしい事でしょう!信じればきっと、あなたの身長も伸びます!」
「んだと、コラ」
拳を握りしめて力説するロゼに、喧嘩を売られたとエドは青筋を立て詰め寄り、キョウコとアルは、どうどう、と落ち着かせる。
「悪気はないんだから」
「落ち着いて」
この話は蒸し返されたくないので、エドは強引に話題を変えた。
別に宗教の話など興味の欠片もないが、背に腹は代えられない。
「…ったく、よくそんなに真正直に信じられるもんだな」
「神に祈れば、死んだ者も生き返ると信じてるの?」
どうしてそんなに自信をもって断言するのか、呆れるように椅子に座ると、キョウコも肩をすくめて聞く。
「ええ、必ず…!」
彼女の、一切の躊躇や迷いのない答えに、二人は揃って吐息をつく。
彼はおもむろに手帳を取り出し、元素と単位を並べ始める。
「水35リットル。炭素20kg。アンモニア4リットル。石灰1.5kg。リン800g。塩分250g。硝石 100g。イオウ80g。フッ素7.5g。鉄5g。ケイ素3g。その他少量の、15の元素…」
「…は?」
「大人一人分として計算した場合の、人体の構成成分よ。今の科学ではここまで判ってるのに、実際に人体錬成に成功した例は報告されていないのが現実ね」
ぽかん、と大口を開けて唖然とするロゼに、キョウコはわかりやすく説明し、エドは手帳を広げて話を続ける。
「"足りない何か"が、なんなのか…何百年も前から科学者達が研究を重ねてきて、それでも未だに解明できていない。不毛な努力って言われてるけど、ただ祈って待ち続けるより、そっちの方が、かなり有意義だと思うけどね。ちなみにこの成分材料な。市場に行けば、子供の小遣いでも全部買えちまうぞ。人間てのはお安くできてんのな」
「人は物じゃありません!創造主への冒涜です!天罰がくだりますよ!!」
「あっはっはっ!」
「フフ」
自分の信じる宗教を冒涜された、と思い込む彼女は信者として激昂するが、二人は笑い声をあげた。
「錬金術ってのは科学者だからね。創造主とか、神様とか、あいまいなものは信じちゃいないのよ。この世のあらゆる物質の、創造原理を解明し、真理を求める…」
上から目線で言い放つ二人に、むっ、とロゼは眉を寄せる。
「神様とか信じないオレ達科学者が、ある意味神に一番近い所にいるってのは皮肉なもんだ」
「高慢ですね。ご自分達が神と同列とでも?」
根本的なところで噛み合わない答えを返しつつ、ロゼは皮肉のジャブを一発、二人に繰り出した。
「――そういえば、どこかの神話にあったよね。エド」
「『太陽 に近づきすぎた英雄は、蝋で固めた翼をもがれ、地に落とされる』…ってな」
なんのことを言っているのか、この時はさっぱりわからず、疑問符を浮かべた。
二人が言う神話――イカロスの翼である。
イカロスは、父と共に塔に閉じ込められてしまった。
その塔を抜け出すために、鳥の羽を集めて大きな翼を造った。
大きい羽は糸で止め、小さい羽は蝋で止めた。
その時、父はイカロスに忠告する。
(――「イカロスよ、空の中くらいの高さを飛ぶのだよ。あまり低く飛ぶと霧が翼の邪魔をするし、あまり高く飛ぶと、太陽の熱で溶けてしまう」――)
だが、忠告を無視し、不用意にも太陽に近づいてしまったイカロスは羽を止めた蝋が溶けて羽を失い、落ちてしまった。
大広間で姿を見せたコーネロに向けて人々は歓声をあげ、片手を挙げて応える。
「教主様!」
「奇跡の業を!!」
「教主様ーっ」
周囲に降り注ぐ花を一つ手に取り、両手で包み込む。
刹那、ボッ、と音と淡い光が溢れ、掲げた手を開くと、花はひまわりへ姿を変えていた。
その光景を、人垣の遠目から眺める三人。
エドはトランクの上に乗り、キョウコはアルの肩に乗っている。
「念のために聞くけど…どう思う?」
「どうもこうも、あの変成反応は錬金術でしょ」
「だよなぁ…」
「それにしては、法則が…」
「あ」
歓喜に湧く雑踏の中、一際目立つ鎧を一瞥し、そして三人に気づいたロゼが声をかけた。
「三人とも、来てらしたのですね。どうです!まさに奇跡の力でしょう、コーネロ様は太陽神の御子です!」
「いや。ありゃー、どう見ても錬金術だよ。コーネロってのは、ペテン野郎だ」
どこまでも奇跡の業を否定するエドに、ロゼの頬に青筋が立つ。
「でも、法則無視してるんだよねぇ」
「うーーーーーーーん。それだよな」
「法則?…って、え?今の声って」
ロゼが不思議そうに、きょろきょろと辺りを見回す。
頭上から聞こえる、黒髪の少女の声。
いくら探しても、その姿は見当たらない。
一方、キョウコは信者の歓声に応えるコーネロを厳しく見据える。
「一般人が見たら、錬金術ってのは無制限になんでも出せる、便利な術と思われてるけど、実際にはきちんと法則があるの。大雑把に言えば、質量保存の法則と自然摂理の法則ね」
ただ、見据える――その奥では、冷静な分析を、まるで軽く積み木でもするかのように行っている。
そんな後付の本能のごとき勘から得た結論として、彼女は主張する。
「術師の中には、四大元素や三原質を引き合いに出す人もいるけど…」
キョウコの説明に理解できない+その声の主がどこにいるのかわからないで困惑するロゼ。
「キョウコ、キョウコ」
「ん?」
「いいかげん降りてこいよ。そんなところから説明しても、全然わかんねーよ」
エドに言われ、キョウコは初めて真下にいるロゼに気づく。
「ロゼ!?ごめんなさい、すぐ降りるから!アル、ありがと」
「いえいえ」
キョウコは降りようと片足を上げた。
スカートの丈は極端に短いというわけではなかったのだが、それでもやはり、肩に乗るなんて大胆なことをすると、裾がまくれ上がってしまい、足ほぼ全体が剥き出しになる。
下着が見えないのが、不思議なくらいだった。
そんな状態では、男でなくてもスカート周辺に目が行ってしまう。
輝かんばかりの生足が、エドの網膜を灼 く。
――はっ。
エドは固く瞼を閉じ、首を振って、網膜に焼きついた生足映像を追い出す。
その間に、キョウコは華麗に着地していた。
「ごめんね、ロゼ。びっくりしたでしょ?」
「…あっ、いえ、そんなことは…」
キョウコが眉を下げて謝ると、ロゼは頬を赤らめて、慌てて首と手を横に振る。
キョウコは、どう説明したものか迷うように、右手の人差し指を揺らしてから言い直した。
「えーとね、質量が一の物からは、同じく一の物しか、水の性質の物からは、同じく水属性の物しか錬成できないってこと」
「つまり、錬金術の基本は『等価交換』!!何かを得ようとするなら、それと同等の代価が必要って事だ。その法則を無視して、あのおっさんは錬成しちまってんだ」
「だからいいかげん、奇跡の業を信じたらどうですか、三人とも!」
声を荒げるロゼを置いて、三人は確信に迫り始める。
「兄さん、キョウコ、ひょっとして」
「確率は高いわね。ひょっとすると…」
エドは金の相貌を険しくさせると、ロゼの方へ意気揚々に振り返る。
「おねぇさん、ボク達、この宗教に興味もっちゃったなぁ!ぜひ教主様とお話したいんだけど、案内してくれるぅ?」
「まあ!やっと信じてくれたのですね!」
エドの心変わりに、ロゼは目を輝かせる。
奇跡の業のパフォーマンスが終わり、コーネロが部屋でくつろいでいると、扉をノックして幹部が入ってくる。
「教主、面会を求める者が来ております。子供二人と鎧を着た三人組で、エルリック兄弟とアルジェントと名乗ってますが…」
「なんだそれは。私は忙しい、帰ってもらえ」
休憩がてらに、紅茶を飲んでいたコーネロは訝しむ。
言葉さえ並べば、怪しい客人だ。
「!いや待て、エルリック兄弟だと?エドワード・エルリックか!?」
「はぁ。たしか子供の方が、そう名乗ってましたな…お知り合いで?」
するとコーネロは頭を押さえ、固く目をつぶりながら懊悩する。
「~~~ッ…まずい事になった!"鋼の錬金術師"エドワード・エルリックと"氷刹の錬金術師"キョウコ・アルジェントだ!」
国家錬金術師――軍部に忠誠を掲げる人間の訪問に、幹部は戦慄した。
そして、パニックは遅れてやって来る。
「なっ…こんなちっこいガキ共でしたよ!?冗談でしょう!?」
「『死せる者には復活を』ねぇ…」
「うさん臭ぇな」
二人が視線を移すと、ラジオからは延々と流れるレト教の教義放送。
≪祈り信じよ。されば、汝が願い、成就せり≫
祈り信じるだけで願いが叶うという謳い文句に、黄金と漆黒の双眸が細められた。
ラジオを通して放送する教会の一室では、教主のコーネロが聖書片手に教義を唱えていた。
「すべての子らに、光の
そして、ラジオのスイッチを切ると、傍に控えていた幹部がねぎらいの言葉をかける。
「おつかれ様です、教主様」
「教主様、本日もありがたいお言葉、感謝いたします」
「教主様!」
そこにロゼがやって来ると、コーネロは顔を綻ばせる。
「おお、ロゼか。いつも感心だね、えらいぞ」
「いえ、当然のことです。それで、あの…いつになったら…」
迷いながら要件を告げた時、彼は鷹揚に頷いた。
「ああ君の言いたい事はよくわかっているよ。神は君の善行をよく見られておるからね」
「それじゃあ…」
表情を明るくするロゼに、しかしコーネロは彼女の肩に手を置いて、優しく語りかける。
「だがなロゼ、今はまだその時期ではない。わかるかね?ん?」
「………そう、そう…ですよね…まだ…」
「そう、いい子だね、ロゼ」
顔をうつむかせて落胆するロゼに見えないように、コーネロは唇を歪ませて笑みを浮かべた。
三人は食事を済ませると、教会に訪れた。
ちょうどそこで、戻ってきたロゼと出くわす。
「あら。たしかさっきの…レト教に興味がおありで?」
「いや、あいにくと無宗教でね」
ロゼはその言葉を遠回しに神を信じていないと受け止めた。
「いけませんよ、そんな!神を信じうやまう事で、日々感謝と希望に生きる…なんとすばらしい事でしょう!信じればきっと、あなたの身長も伸びます!」
「んだと、コラ」
拳を握りしめて力説するロゼに、喧嘩を売られたとエドは青筋を立て詰め寄り、キョウコとアルは、どうどう、と落ち着かせる。
「悪気はないんだから」
「落ち着いて」
この話は蒸し返されたくないので、エドは強引に話題を変えた。
別に宗教の話など興味の欠片もないが、背に腹は代えられない。
「…ったく、よくそんなに真正直に信じられるもんだな」
「神に祈れば、死んだ者も生き返ると信じてるの?」
どうしてそんなに自信をもって断言するのか、呆れるように椅子に座ると、キョウコも肩をすくめて聞く。
「ええ、必ず…!」
彼女の、一切の躊躇や迷いのない答えに、二人は揃って吐息をつく。
彼はおもむろに手帳を取り出し、元素と単位を並べ始める。
「水35リットル。炭素20kg。アンモニア4リットル。石灰1.5kg。リン800g。塩分250g。
「…は?」
「大人一人分として計算した場合の、人体の構成成分よ。今の科学ではここまで判ってるのに、実際に人体錬成に成功した例は報告されていないのが現実ね」
ぽかん、と大口を開けて唖然とするロゼに、キョウコはわかりやすく説明し、エドは手帳を広げて話を続ける。
「"足りない何か"が、なんなのか…何百年も前から科学者達が研究を重ねてきて、それでも未だに解明できていない。不毛な努力って言われてるけど、ただ祈って待ち続けるより、そっちの方が、かなり有意義だと思うけどね。ちなみにこの成分材料な。市場に行けば、子供の小遣いでも全部買えちまうぞ。人間てのはお安くできてんのな」
「人は物じゃありません!創造主への冒涜です!天罰がくだりますよ!!」
「あっはっはっ!」
「フフ」
自分の信じる宗教を冒涜された、と思い込む彼女は信者として激昂するが、二人は笑い声をあげた。
「錬金術ってのは科学者だからね。創造主とか、神様とか、あいまいなものは信じちゃいないのよ。この世のあらゆる物質の、創造原理を解明し、真理を求める…」
上から目線で言い放つ二人に、むっ、とロゼは眉を寄せる。
「神様とか信じないオレ達科学者が、ある意味神に一番近い所にいるってのは皮肉なもんだ」
「高慢ですね。ご自分達が神と同列とでも?」
根本的なところで噛み合わない答えを返しつつ、ロゼは皮肉のジャブを一発、二人に繰り出した。
「――そういえば、どこかの神話にあったよね。エド」
「『
なんのことを言っているのか、この時はさっぱりわからず、疑問符を浮かべた。
二人が言う神話――イカロスの翼である。
イカロスは、父と共に塔に閉じ込められてしまった。
その塔を抜け出すために、鳥の羽を集めて大きな翼を造った。
大きい羽は糸で止め、小さい羽は蝋で止めた。
その時、父はイカロスに忠告する。
(――「イカロスよ、空の中くらいの高さを飛ぶのだよ。あまり低く飛ぶと霧が翼の邪魔をするし、あまり高く飛ぶと、太陽の熱で溶けてしまう」――)
だが、忠告を無視し、不用意にも太陽に近づいてしまったイカロスは羽を止めた蝋が溶けて羽を失い、落ちてしまった。
大広間で姿を見せたコーネロに向けて人々は歓声をあげ、片手を挙げて応える。
「教主様!」
「奇跡の業を!!」
「教主様ーっ」
周囲に降り注ぐ花を一つ手に取り、両手で包み込む。
刹那、ボッ、と音と淡い光が溢れ、掲げた手を開くと、花はひまわりへ姿を変えていた。
その光景を、人垣の遠目から眺める三人。
エドはトランクの上に乗り、キョウコはアルの肩に乗っている。
「念のために聞くけど…どう思う?」
「どうもこうも、あの変成反応は錬金術でしょ」
「だよなぁ…」
「それにしては、法則が…」
「あ」
歓喜に湧く雑踏の中、一際目立つ鎧を一瞥し、そして三人に気づいたロゼが声をかけた。
「三人とも、来てらしたのですね。どうです!まさに奇跡の力でしょう、コーネロ様は太陽神の御子です!」
「いや。ありゃー、どう見ても錬金術だよ。コーネロってのは、ペテン野郎だ」
どこまでも奇跡の業を否定するエドに、ロゼの頬に青筋が立つ。
「でも、法則無視してるんだよねぇ」
「うーーーーーーーん。それだよな」
「法則?…って、え?今の声って」
ロゼが不思議そうに、きょろきょろと辺りを見回す。
頭上から聞こえる、黒髪の少女の声。
いくら探しても、その姿は見当たらない。
一方、キョウコは信者の歓声に応えるコーネロを厳しく見据える。
「一般人が見たら、錬金術ってのは無制限になんでも出せる、便利な術と思われてるけど、実際にはきちんと法則があるの。大雑把に言えば、質量保存の法則と自然摂理の法則ね」
ただ、見据える――その奥では、冷静な分析を、まるで軽く積み木でもするかのように行っている。
そんな後付の本能のごとき勘から得た結論として、彼女は主張する。
「術師の中には、四大元素や三原質を引き合いに出す人もいるけど…」
キョウコの説明に理解できない+その声の主がどこにいるのかわからないで困惑するロゼ。
「キョウコ、キョウコ」
「ん?」
「いいかげん降りてこいよ。そんなところから説明しても、全然わかんねーよ」
エドに言われ、キョウコは初めて真下にいるロゼに気づく。
「ロゼ!?ごめんなさい、すぐ降りるから!アル、ありがと」
「いえいえ」
キョウコは降りようと片足を上げた。
スカートの丈は極端に短いというわけではなかったのだが、それでもやはり、肩に乗るなんて大胆なことをすると、裾がまくれ上がってしまい、足ほぼ全体が剥き出しになる。
下着が見えないのが、不思議なくらいだった。
そんな状態では、男でなくてもスカート周辺に目が行ってしまう。
輝かんばかりの生足が、エドの網膜を
――はっ。
エドは固く瞼を閉じ、首を振って、網膜に焼きついた生足映像を追い出す。
その間に、キョウコは華麗に着地していた。
「ごめんね、ロゼ。びっくりしたでしょ?」
「…あっ、いえ、そんなことは…」
キョウコが眉を下げて謝ると、ロゼは頬を赤らめて、慌てて首と手を横に振る。
キョウコは、どう説明したものか迷うように、右手の人差し指を揺らしてから言い直した。
「えーとね、質量が一の物からは、同じく一の物しか、水の性質の物からは、同じく水属性の物しか錬成できないってこと」
「つまり、錬金術の基本は『等価交換』!!何かを得ようとするなら、それと同等の代価が必要って事だ。その法則を無視して、あのおっさんは錬成しちまってんだ」
「だからいいかげん、奇跡の業を信じたらどうですか、三人とも!」
声を荒げるロゼを置いて、三人は確信に迫り始める。
「兄さん、キョウコ、ひょっとして」
「確率は高いわね。ひょっとすると…」
エドは金の相貌を険しくさせると、ロゼの方へ意気揚々に振り返る。
「おねぇさん、ボク達、この宗教に興味もっちゃったなぁ!ぜひ教主様とお話したいんだけど、案内してくれるぅ?」
「まあ!やっと信じてくれたのですね!」
エドの心変わりに、ロゼは目を輝かせる。
奇跡の業のパフォーマンスが終わり、コーネロが部屋でくつろいでいると、扉をノックして幹部が入ってくる。
「教主、面会を求める者が来ております。子供二人と鎧を着た三人組で、エルリック兄弟とアルジェントと名乗ってますが…」
「なんだそれは。私は忙しい、帰ってもらえ」
休憩がてらに、紅茶を飲んでいたコーネロは訝しむ。
言葉さえ並べば、怪しい客人だ。
「!いや待て、エルリック兄弟だと?エドワード・エルリックか!?」
「はぁ。たしか子供の方が、そう名乗ってましたな…お知り合いで?」
するとコーネロは頭を押さえ、固く目をつぶりながら懊悩する。
「~~~ッ…まずい事になった!"鋼の錬金術師"エドワード・エルリックと"氷刹の錬金術師"キョウコ・アルジェントだ!」
国家錬金術師――軍部に忠誠を掲げる人間の訪問に、幹部は戦慄した。
そして、パニックは遅れてやって来る。
「なっ…こんなちっこいガキ共でしたよ!?冗談でしょう!?」