第65話
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細長い直方体を基調とした分厚い壁には、幾重にも配管が張り巡らされている。
視界いっぱいを占める、巨大な壁を連ねる要塞を目の当たりにした兄弟は度肝を抜かれた。
「でけー!!」
ブリックズ要塞と呼ばれる場所を眺めながら、ひたすら大声をあげる。
「なんだこれーー!!ひ~~!!」
「すげーー!!高ぇーー!!」
「とっとと歩かんか、グズども!」
思わず立ち止まって広がる光景に目を奪われていると、オリヴィエが声を荒げて急 かす。
「なめたマネしてると、その頭の上のアンテナむしり取るぞ!!」
憤怒の形相でエドを睨みつけるオリヴィエ。
その頬は、怒りのあまり痙攣している。
まるで飢えた熊に標的にされた哀れな兎のごとく、エドは真っ青な顔でぶるぶる震えた。
ブリックズ要塞の端に、射撃練習場があった。
昼食後、キョウコがこの練習場にこもって、もう二時間が過ぎていた。
拳銃を構え、ひたすらターゲットを撃つ。
撃ち抜く。
射撃の反動で手を痛めるので、時折休憩を挟む。
その疲労すら心地よかった。
ペース配分も考えつつ撃ちまくっていると、気がついた時にはターゲットのストックが尽きていた。
時計に目をやって今さらながら時間の経過に気づき、拳銃を置いて後片付けに取りかかる。
そう返してから最後の一回だけと的に向き直り、射撃。
マズルフラッシュと同時に銃弾が中心に命中。
「――ふぅ」
満足感を覚えたキョウコがゴーグルを外したところで、
「射撃練習のところ失礼します」
マイルズが一声かけて練習場にやって来た。
「何でしょうか?」
「アームストロング少将がお呼びです」
それを聞いて、キョウコは僅かに顔をしかめた。
昨日も手荒い歓迎を受けたばかりだというのに……そう心の中で愚痴っていた彼女は、次の一言に首を傾げた。
「山岳警備隊が侵入者を発見したようです。どうやら侵入者はブリックズ山を登って少将に会いに来たらしい」
「ブリックズ山を登って……?侵入者はなんでわざわざ、猛吹雪の山の中を歩いて来たのかしら……」
「侵入者はまだ幼い少年と鎧でした。彼は鋼の錬金術師だと名乗り、今は医務室にいます」
マイルズの口から紡がれる驚きの言葉にキョウコは固まった。
――約束の日にしちゃ早すぎないでしょうか?
医務室へと通された兄弟は、そこで雪山での疲れを癒している。
機械鎧の接続部分に温かいタオルをのせたエドは、白衣を着た女医の言葉に耳を傾けた。
「表在性凍傷?」
「そ、いわゆるしもやけ。もう少しでカンペキ凍傷になるところだったわ」
女性技師はそう言うと、突然動かなくなった機械鎧の症状を説明する。
「こんな機械鎧で長時間、吹雪の中歩いたら金属から伝わる冷えで接続部分の肉が凍傷になるのよ。潤滑油 も変えなきゃ動きが鈍るし」
「え…バッカニアとかいう奴も、機械鎧でほいほい雪の中、動き回ってたじゃないか」
エドがふと思った疑問を口にした時、ドスドスという荒々しい足音。
「だめだ、先生!この頭、からまって取れん!!」
ご自慢の機械鎧のチェーンソー部分にアルの頭を引っさげて、バッカニアが医務室に入ってきた。
「あ!!ボクの頭!!」
「ぬ!?」
空っぽな体の鎧に指を差され、バッカニアは驚く。
「北 の機械鎧はね、柔軟性と軽量性。加えて寒さに強いものでなくてはならないの。頑丈さも大切だけど、使用者の身体に負担のかからない作りじゃないとね」
バッカニアの機械鎧は専門に任せて、女性技師はエドの凍傷具合を確認しながら話を進める。
「試行錯誤の結果生み出されたのが、ジュラルミン、炭素繊維、ニッケル銅などを組み合わせた機械鎧」
彼女の丁寧な説明に、エドはようやく納得する。
「なるほど。あの機械鎧破壊では壊せねーはずだ。"機械鎧イコール鉄が使われている"と思い込んで鉄分解したよ」
「加えてオイルも寒冷地仕様。バッカニア大尉のクロコダイルの場合、更に発動機による排気熱で肩まわりの凍傷を防いでいるのよ」
そこに、チェーンソー型の機械鎧から義手に取り替えたバッカニアがやや不満そうな表情でやって来た。
「なにも弱点ばらすこと事ないだろ、先生」
「あら、いいじゃない。天下の国家錬金術師様よ?」
「本物か?」
「銀時計、持ってるって」
エドはズボンのポケットから、国家錬金術師の証である銀時計を見せつける。
時計に刻まれた紋章は確かに大総統紋章に、六芒星。
(ぬ…こんなのが少佐相当官…)
(くくく……)
少尉である自分よりも地位が上なことに悔しげなバッカニアを前に、エドは勝ち誇ったように真っ向から睨み返す。
すると、彼は怪訝な表情を浮かべた。
「待て、国家錬金術師だと…?」
そうつぶやくバッカニアの言葉は、女性技師によって掻き消された。
「マイナス7度以下の冷気に3時間以上手足をさらさないこと」
北国に滞在する忠告と共に赤いコートを顔面に投げつけた。
「凍傷の目安よ。覚えておきなさい。それと、北に長くいるつもりなら機械鎧の付け替えを勧 めるわ。さっさと寒冷地仕様にしなさい」
黒い革のつなぎを着ていると、技師はコーヒーをカップに注ぐ。
「専属の技師はいる?」
「今、ラッシュバレーにいるよ」
機械鎧の付け替えについて話していると、すぐ横から悲鳴があがった。
「ぎゃあ!!毛が!!!」
バッカニアの機械鎧に絡まったせいで、頭部についた飾り紐が短くなっている。
千切れてチリチリになった姿を鏡で見たアルは、
「かっちょ悪い…」
ひどく落ち込んだ。
「客が北国にいるってのに説明も付け替えも無し?」
「あ…いや、北に来るって話してなかったから」
「なら、出張してでも付け替えてもらえなさい。死にたくなければね」
エドに向けた彼女の瞳は真剣で、冷えた身体を温めるためだろう、湯気の立つコーヒーを差し出した。
彼はそれを黙って受け取ると、ズズッと口に含む。
「……へい」
「コーヒー代、100センズ!」
コーヒー代を請求され、思わず噴き出した。
「汚ねぇ~~~」
渋々コーヒー代を払ったエドは顔を歪め、
「東方司令部のよりまずいし」
東方司令部のコーヒーよりまずいと文句をつける。
「油断する方が悪いのよ」
思考から意識を切り替えたバッカニアが腕を組んで訊ねる。
「で?そんなノーマルな機械鎧で何しにここへ来たんだ?司令部も通さず、単身で」
「そうだ!!アームストロング少将に力を借りようと紹介状持って来たのに!!」
バッカニアの質問で、エドの雰囲気も変わった。
眉をつり上げ、オリヴィエへの不満を爆発させる。
不審者人物扱いしたり、持ってきた紹介状を破り捨てたり、あまつさえ大事な髪をむしるなどと……。
「あの女将軍、人の話も聞かんでオレのアンテナをむしるだなどと……」
「呼んだか、赤チビ」
勢いよく開かれた扉からオリヴィエが姿を現し、怒りを露にする工ドを見て言い放つ。
赤いコートを羽織っているチビだから赤チビ……なんとも安直な呼び方である。
「なんだ、文句があるなら言え」
表情を動かさないままそう言うオリヴィエを前にして、エドは先程のトラウマから顔面蒼白となった。
「あっ、キョウコ!」
しばらく落ち込んでいたアルが彼女を見つける。
一日ぶりに会う幼馴染みだった。
「おい、キョウコ!ブリックズってこんな恐ろしい場所だったのか!?知ってたならオレ達に教えろよ!!」
山の悪天候からバッカニアの戦闘と、この短時間で死ぬ思いをしたエドは声を荒げた。
そして、肝を冷やすこととなった。
キョウコが漆黒の双眸をつり上げ、こちらを睨みつけてきたからだ。
「二人とも、あれだけ人に心配をかけておきながら、その事について何も反省していないようね。ブリックズ山でさ迷っているって聞いて、どれほど不安に思っていたか――」
いきなりのお説教。
キョウコが放つ鋭い眼光で射すくめられた。
怖い。
「おまけに、まさかと思っていればこんな事に……」
「ごめんね、キョウコ。ボク達も連絡しようとは思ってたんだけど、兄さんがどうしてもブリックズに行くって聞かなくて」
「オレのせいにするな。お前だって早くキョウコに会いたいって言ってただろ。と、ところで、こんな事ってどういう事?」
慌てて兄弟は謝るが、追及は続く。
話によれば、アポなしな上に吹雪で道を見失ったために警備していたバッカニアと鉢合わせたとか…。
――よく生きてたわね!!
兄弟の素直な回答は、キョウコの頭痛を増長させた。
そんな三人を眺める、オリヴィエの探るような眼差し。
だが三人に視線を送ったのはごく短時間だった。
「さて、私の弟、アレックスと親しくしていると聞いた」
近くの椅子に腰を下ろす彼女の前に兄弟は並んだ。
キョウコはマイルズと一緒にオリヴィエの後ろに立つ。
「…………アレックスは元気か?」
家族でさえも容赦なく斬り捨てる厳しい表情の中で、瞳だけが穏やかさを宿している。
(あれ…紹介状を読まないで破り捨てるくらいだから仲悪いと思ったら…)
(なんだかんだで弟思い?)
紹介状を破り捨てるだけに仲が悪いと思っていた分、その問いかけに兄弟は顔を見合わせる。
「ええ!相変わらず筋肉もりもりで!」
なんだかんだで弟思いなのかと思いつつ、正直に答えた。
「「とても元気です!」」
しかしその答えはオリヴィエのお気に召さなかったようで、強烈な舌打ちが返ってきた。
(「ちっ!!」!?)
残念ながら兄弟には彼女の舌打ちがどんな意味を持っているのか理解できなかった。
「まあ、いい」
キョウコは顔には出さなかったものの、兄弟の反応に共感していた。
そこは家族が元気だと聞いて喜ぶところだろう、と思う。
それで気が済んだのか、それともどうでもいいのか、オリヴィエは本題に入る。
「エドワード・エルリックとアルフォンス・エルリックだったな。司令部も通さず、私に会いに来た理由を聞かせろ。その鎧が空っぽな理由も包み隠さず全てだ」
視界いっぱいを占める、巨大な壁を連ねる要塞を目の当たりにした兄弟は度肝を抜かれた。
「でけー!!」
ブリックズ要塞と呼ばれる場所を眺めながら、ひたすら大声をあげる。
「なんだこれーー!!ひ~~!!」
「すげーー!!高ぇーー!!」
「とっとと歩かんか、グズども!」
思わず立ち止まって広がる光景に目を奪われていると、オリヴィエが声を荒げて
「なめたマネしてると、その頭の上のアンテナむしり取るぞ!!」
憤怒の形相でエドを睨みつけるオリヴィエ。
その頬は、怒りのあまり痙攣している。
まるで飢えた熊に標的にされた哀れな兎のごとく、エドは真っ青な顔でぶるぶる震えた。
ブリックズ要塞の端に、射撃練習場があった。
昼食後、キョウコがこの練習場にこもって、もう二時間が過ぎていた。
拳銃を構え、ひたすらターゲットを撃つ。
撃ち抜く。
射撃の反動で手を痛めるので、時折休憩を挟む。
その疲労すら心地よかった。
ペース配分も考えつつ撃ちまくっていると、気がついた時にはターゲットのストックが尽きていた。
時計に目をやって今さらながら時間の経過に気づき、拳銃を置いて後片付けに取りかかる。
そう返してから最後の一回だけと的に向き直り、射撃。
マズルフラッシュと同時に銃弾が中心に命中。
「――ふぅ」
満足感を覚えたキョウコがゴーグルを外したところで、
「射撃練習のところ失礼します」
マイルズが一声かけて練習場にやって来た。
「何でしょうか?」
「アームストロング少将がお呼びです」
それを聞いて、キョウコは僅かに顔をしかめた。
昨日も手荒い歓迎を受けたばかりだというのに……そう心の中で愚痴っていた彼女は、次の一言に首を傾げた。
「山岳警備隊が侵入者を発見したようです。どうやら侵入者はブリックズ山を登って少将に会いに来たらしい」
「ブリックズ山を登って……?侵入者はなんでわざわざ、猛吹雪の山の中を歩いて来たのかしら……」
「侵入者はまだ幼い少年と鎧でした。彼は鋼の錬金術師だと名乗り、今は医務室にいます」
マイルズの口から紡がれる驚きの言葉にキョウコは固まった。
――約束の日にしちゃ早すぎないでしょうか?
医務室へと通された兄弟は、そこで雪山での疲れを癒している。
機械鎧の接続部分に温かいタオルをのせたエドは、白衣を着た女医の言葉に耳を傾けた。
「表在性凍傷?」
「そ、いわゆるしもやけ。もう少しでカンペキ凍傷になるところだったわ」
女性技師はそう言うと、突然動かなくなった機械鎧の症状を説明する。
「こんな機械鎧で長時間、吹雪の中歩いたら金属から伝わる冷えで接続部分の肉が凍傷になるのよ。
「え…バッカニアとかいう奴も、機械鎧でほいほい雪の中、動き回ってたじゃないか」
エドがふと思った疑問を口にした時、ドスドスという荒々しい足音。
「だめだ、先生!この頭、からまって取れん!!」
ご自慢の機械鎧のチェーンソー部分にアルの頭を引っさげて、バッカニアが医務室に入ってきた。
「あ!!ボクの頭!!」
「ぬ!?」
空っぽな体の鎧に指を差され、バッカニアは驚く。
「
バッカニアの機械鎧は専門に任せて、女性技師はエドの凍傷具合を確認しながら話を進める。
「試行錯誤の結果生み出されたのが、ジュラルミン、炭素繊維、ニッケル銅などを組み合わせた機械鎧」
彼女の丁寧な説明に、エドはようやく納得する。
「なるほど。あの機械鎧破壊では壊せねーはずだ。"機械鎧イコール鉄が使われている"と思い込んで鉄分解したよ」
「加えてオイルも寒冷地仕様。バッカニア大尉のクロコダイルの場合、更に発動機による排気熱で肩まわりの凍傷を防いでいるのよ」
そこに、チェーンソー型の機械鎧から義手に取り替えたバッカニアがやや不満そうな表情でやって来た。
「なにも弱点ばらすこと事ないだろ、先生」
「あら、いいじゃない。天下の国家錬金術師様よ?」
「本物か?」
「銀時計、持ってるって」
エドはズボンのポケットから、国家錬金術師の証である銀時計を見せつける。
時計に刻まれた紋章は確かに大総統紋章に、六芒星。
(ぬ…こんなのが少佐相当官…)
(くくく……)
少尉である自分よりも地位が上なことに悔しげなバッカニアを前に、エドは勝ち誇ったように真っ向から睨み返す。
すると、彼は怪訝な表情を浮かべた。
「待て、国家錬金術師だと…?」
そうつぶやくバッカニアの言葉は、女性技師によって掻き消された。
「マイナス7度以下の冷気に3時間以上手足をさらさないこと」
北国に滞在する忠告と共に赤いコートを顔面に投げつけた。
「凍傷の目安よ。覚えておきなさい。それと、北に長くいるつもりなら機械鎧の付け替えを
黒い革のつなぎを着ていると、技師はコーヒーをカップに注ぐ。
「専属の技師はいる?」
「今、ラッシュバレーにいるよ」
機械鎧の付け替えについて話していると、すぐ横から悲鳴があがった。
「ぎゃあ!!毛が!!!」
バッカニアの機械鎧に絡まったせいで、頭部についた飾り紐が短くなっている。
千切れてチリチリになった姿を鏡で見たアルは、
「かっちょ悪い…」
ひどく落ち込んだ。
「客が北国にいるってのに説明も付け替えも無し?」
「あ…いや、北に来るって話してなかったから」
「なら、出張してでも付け替えてもらえなさい。死にたくなければね」
エドに向けた彼女の瞳は真剣で、冷えた身体を温めるためだろう、湯気の立つコーヒーを差し出した。
彼はそれを黙って受け取ると、ズズッと口に含む。
「……へい」
「コーヒー代、100センズ!」
コーヒー代を請求され、思わず噴き出した。
「汚ねぇ~~~」
渋々コーヒー代を払ったエドは顔を歪め、
「東方司令部のよりまずいし」
東方司令部のコーヒーよりまずいと文句をつける。
「油断する方が悪いのよ」
思考から意識を切り替えたバッカニアが腕を組んで訊ねる。
「で?そんなノーマルな機械鎧で何しにここへ来たんだ?司令部も通さず、単身で」
「そうだ!!アームストロング少将に力を借りようと紹介状持って来たのに!!」
バッカニアの質問で、エドの雰囲気も変わった。
眉をつり上げ、オリヴィエへの不満を爆発させる。
不審者人物扱いしたり、持ってきた紹介状を破り捨てたり、あまつさえ大事な髪をむしるなどと……。
「あの女将軍、人の話も聞かんでオレのアンテナをむしるだなどと……」
「呼んだか、赤チビ」
勢いよく開かれた扉からオリヴィエが姿を現し、怒りを露にする工ドを見て言い放つ。
赤いコートを羽織っているチビだから赤チビ……なんとも安直な呼び方である。
「なんだ、文句があるなら言え」
表情を動かさないままそう言うオリヴィエを前にして、エドは先程のトラウマから顔面蒼白となった。
「あっ、キョウコ!」
しばらく落ち込んでいたアルが彼女を見つける。
一日ぶりに会う幼馴染みだった。
「おい、キョウコ!ブリックズってこんな恐ろしい場所だったのか!?知ってたならオレ達に教えろよ!!」
山の悪天候からバッカニアの戦闘と、この短時間で死ぬ思いをしたエドは声を荒げた。
そして、肝を冷やすこととなった。
キョウコが漆黒の双眸をつり上げ、こちらを睨みつけてきたからだ。
「二人とも、あれだけ人に心配をかけておきながら、その事について何も反省していないようね。ブリックズ山でさ迷っているって聞いて、どれほど不安に思っていたか――」
いきなりのお説教。
キョウコが放つ鋭い眼光で射すくめられた。
怖い。
「おまけに、まさかと思っていればこんな事に……」
「ごめんね、キョウコ。ボク達も連絡しようとは思ってたんだけど、兄さんがどうしてもブリックズに行くって聞かなくて」
「オレのせいにするな。お前だって早くキョウコに会いたいって言ってただろ。と、ところで、こんな事ってどういう事?」
慌てて兄弟は謝るが、追及は続く。
話によれば、アポなしな上に吹雪で道を見失ったために警備していたバッカニアと鉢合わせたとか…。
――よく生きてたわね!!
兄弟の素直な回答は、キョウコの頭痛を増長させた。
そんな三人を眺める、オリヴィエの探るような眼差し。
だが三人に視線を送ったのはごく短時間だった。
「さて、私の弟、アレックスと親しくしていると聞いた」
近くの椅子に腰を下ろす彼女の前に兄弟は並んだ。
キョウコはマイルズと一緒にオリヴィエの後ろに立つ。
「…………アレックスは元気か?」
家族でさえも容赦なく斬り捨てる厳しい表情の中で、瞳だけが穏やかさを宿している。
(あれ…紹介状を読まないで破り捨てるくらいだから仲悪いと思ったら…)
(なんだかんだで弟思い?)
紹介状を破り捨てるだけに仲が悪いと思っていた分、その問いかけに兄弟は顔を見合わせる。
「ええ!相変わらず筋肉もりもりで!」
なんだかんだで弟思いなのかと思いつつ、正直に答えた。
「「とても元気です!」」
しかしその答えはオリヴィエのお気に召さなかったようで、強烈な舌打ちが返ってきた。
(「ちっ!!」!?)
残念ながら兄弟には彼女の舌打ちがどんな意味を持っているのか理解できなかった。
「まあ、いい」
キョウコは顔には出さなかったものの、兄弟の反応に共感していた。
そこは家族が元気だと聞いて喜ぶところだろう、と思う。
それで気が済んだのか、それともどうでもいいのか、オリヴィエは本題に入る。
「エドワード・エルリックとアルフォンス・エルリックだったな。司令部も通さず、私に会いに来た理由を聞かせろ。その鎧が空っぽな理由も包み隠さず全てだ」