第64話
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国立中央図書館。
豪華絢爛な意匠の本館と別館。
古書特有の朽ちた樹木のような香りが微かに鼻をくすぐり、
「んんんんんん~~~~~」
書物が隙間なく、ぎっしり詰まった書架が立ち並ぶ、その一角にて。
アルは本をぺらぺらとめくりながら唸り声をあげる。
「いくら探してもこれといった錬丹術の記述はみつからないなぁ…」
彼が座るテーブルには、たくさんの本が山積みに重なっていた。
通りすがりの職員が、
「鎧…」
「鎧だ…」
鎧の姿を一目見てつぶやくが、今さらなので気にしない。
ふと、以前メイが見せた錬丹術を思い返す。
(錬丹術か…メイって子の遠隔錬金術すごかったな…あれ使えたらいいなぁ。ノックス先生の家にいた時、きけばよかった)
――メイは取り出した複数の鏃を、巨大なタンクと炭へ突き刺しながら、地面に足で円を描いた。
――そして、足元の円へ両手を押し当てた瞬間、破裂したタンクと炭から大量の水蒸気と爆発が起こる。
(リンは医学に特化した技術って言ってたけど、どういう仕組みなんだろう?)
本から顔を上げたアルが横から感じる視線に振り向くと、そこには一人の男の子が立っていた。
その目はこれでもかというほど輝いている。
「鋼の錬金術師の兄弟の、大きい鎧さんですか!?」
静かにしなければならない図書館で、少年の大声が響き渡った。
「すごい!うわーー!!うわーー!!」
その眼差しには素直な賞賛が宿っている。
表情と仕草も可愛らしい。
そのくせ媚 を売るようなイヤらしさがない。
純真そのものだった。
「本当に鎧だぁ!!うわー!!」
とにかく物怖じしない少年の態度に疑問符を浮かべつつ、
「ども」
アルは軽く会釈する。
(どこの子供だろ?)
すると少年は手に広げていた書物を覗き込んできた。
「なんの勉強をしてるんですか?」
「錬丹術だよ。シンの国の錬金術」
「へぇーー。シンの国の…」
そこで興奮気味だった少年が冷静につっこんできた。
「でも、エルリック兄弟はこの錬金術先進国アメストリスで国家資格を取れるほどの腕ききなんでしょう?なんで今更、他国のマイナーな錬金術を調べてるんですか?」
「えっ!?」
子供ならではの鋭い洞察力に、アルは思わず声をあげた。
(ボクの身体を取り戻すとか、人造人間に対抗する方法を探ってるなんて言えないよな………)
「えーと…」
まさか人造人間に対抗できる方法を探っているとも言えず、アルは言葉に詰まる。
「世界平和のためだヨ」
しかし、何かを思い至ると手の中に『LOVE&PEACE』を掲げてみせた。
「錬丹術は医学方面に特化しているというからネッ。人の命を救う技術として、新たな可能性が無いか、研究しているのサ」
「うわー!さすが噂のエルリック兄弟だぁ!!」
そう力説するアルに、少年はさらに目を輝かせる。
「アル!アルフォンス!」
すると、自分を呼ぶ声と共に足音が近づいてきた。
振り返ったアルの目に、館内を走るエドの姿を捉えた。
「仕度しろ!!行くぞ!!」
「兄さん、図書館では静かに……って、どこ行くって?」
「出発だ!ホテルの荷物まとめろ!」
その時、横から送られてくるまぶしい視線にエドは顔を向けた。
「詳しい話は行きながら…ん?どこの子供だ?」
首を傾げるエドに、少年は興奮気味に訊ねる。
「鎧さんの兄さんってことは、国家錬金術師のエドワードさん!?」
「おう」
次の瞬間、幼い相貌からさらりとこぼれた台詞に、エドは激怒することになる。
「うわぁ!!噂どおり、小さい錬金術師だぁ!!」
さすがに子供相手に激怒することはないが、頭を鷲掴んで鉄拳を見舞うべく拳を震わせた。
「おまおまおまおまえ、もっももももももももっかい言ってみ?飛ぶよ?海王星あたり行っとく?」
「うわぁ!噂どおり『小さい』って言ったらぶち切れるんだぁ!」
破天荒な発言に至った理由を、無垢な笑顔で説明する。
しかし、彼の後ろから近づいてきた二人組の男に表情が一変した。
「セリム様から離れろ」
黒服の二人組はエドの後頭部に拳銃を突きつけた。
「セ…」
「あああ、撃っちゃだめですよぅ」
降参のために両手を挙げたエドは目を見開き、アルはおろおろとする少年を見下ろす。
椅子へ腰を下ろした兄弟は、そこで目を見張った。
「セリム・ブラッドレイ!?大総統の息子!?」
それもそのはず、目の前には正真正銘の大総統の息子とその夫人の姿があるのだから。
「ごめんなさいね。この子ずっとエドワード君にあこがれてて…」
「あこがれ!?」
「という事は、キョウコの事も知っているんですか?」
鼻息を荒くするエドの隣で、アルは聞いてみた。
「勿論よ。まだ若いのに、しかも女の子であの人の近くで働くなんて凄い事だわ」
「セリム君は錬金術が好きなの?」
「はい!僕も錬金術を習ってエドワードさんみたいな国家錬金術師になるのが夢です」
(あこがれ?)
鼻を高々とさせて舞い上がっているエドに代わり、アルが会話を円滑に進める。
「へーー」
「そして、お義父 さんの役に立ちたいんです!」
子供らしい迷いのないまっすぐな言葉。
しかし、この言葉を聞いた兄弟は彫像のように固まった。
言うまでもなく、ブラッドレイが人造人間だと知っているからだ。
「………父親思いなんだな」
彼は真実を隠し、自分から切り離した思考に換えてつぶやく。
「キング・ブラッドレイ大総統は好きか?」
「もちろんです!血のつながっていない僕を本当の子供みたいに大切にしてくれます」
「本当の子供…」
「私達夫婦に子供ができなかったので、遠縁の子を養子にもらったのよ。それがセリム」
そう言って、夫人はセリムの頭を撫でる。
「親思いで、本当にやさしい子に育ってくれました。私も主人も、この子を宝と思ってるんですよ」
「大総統は最近どうですか?どこか変わったところ………具合が悪かったりしませんか?」
「ええ、おかげさまで」
エドの質問は微妙な含みを持たせたものだったが、夫人はそれに気づかず笑顔で答えた。
「まだまだ現役でバリバリ働くつもりなのよ、あの人。もういい歳なんだから休めばいいのに」
溜め息を吐き出す夫人の姿を、兄弟はなんとも言えぬ表情で見つめる。
「あなた達も、ごめんなさいね。キョウコちゃん――彼女と一緒に旅してるんでしょ?それなのに、あの人が無理な難題ばかり押し付けて……」
「大総統の命令ならしょうがないですし!」
「むしろ、オレらと変わらない年齢で大総統の下で直々に働くのが凄いっていうか…」
彼女は賢く、強く、いかなる困難にも苦境にも立ち向かう。
美貌に加えて、己の能力への絶対的な自信を所有している彼女は、兄弟が知るどんな女性よりも存在感に満ちていた。
「エルリック兄弟の目から見ても、やっぱり彼女はすごいんですか!?」
「そうだね。氷刹の錬金術師で、キレイでかっこよくて優しい、ボクの自慢の姉さんさ」
「面倒見がよくて、いつもオレ達を引っ張って導いてくれる、大切な……」
エドは勢いにつられて一瞬、キョウコへの気持ちを口に出そうとしした。
危うく我に返り、思いとどまる。
不思議に思ったセリムが聞き返す。
「大切な?」
「大切な幼馴染みだ」
輝く金の瞳で、エドは言葉を選んだ。
意味ありげに口調を変えて紡がれたその言葉に、夫人は恋する者同士の共感から笑みをこぼす。
「あの人、昔っから仕事一辺倒でね。でも、仕事はできるけど女心はわからない唐変木 だったわ」
長年連れ添ったパートナーの女心に対する鈍感さに呆れて、自嘲が漏れた。
そして、ブラッドレイと初めて会った見合いの出来事を話し始める。
「もー、失礼な男で私、ビンタを張ってしまってねぇ!それが縁でお付き合いを始めて!最初のデートがこれまた…」
ひっきりなしにまくし立てる夫人に、聞き手に徹していた兄弟は放心するしかなかった。
「…ってあらいけない!のろけ話になってしまったわね!ほほ!ほほほ!」
ブラッドレイの動向から始まった夫人ののろけ話を聞き終え、兄弟は邸宅に帰る二人を見送った。
「またお話ししてくださいねー!」
セリムは車内からこちらに大きく手を振る。
憧れの少年と話をすることができて嬉しそうな息子の姿を見て、夫人は顔を綻ばせる。
「よかったわね、セリム。エドワード君とお話しできて」
「はい!帰ったらお義父さんに自慢しよう!」
セリムは満面の笑顔で頷き、早速ブラッドレイに話すべく弾んだ声を出した。
親子を見送った兄弟は、複雑な心境で佇む。
「…奥さんも息子さんも、大総統が人造人間だって知らないのかな」
「どうかな」
そう言いながら、エドは改めて真実を知ることのもどかしさを感じる。
「知ってても知らなくてもキツいよな」
微かに細める目には複雑に色を変える感情が渦巻いていた。
四方を山や森に囲まれているという外界から隔絶された北方司令部。
北部でスカーの目撃情報があったとの報せがあり、一斉に動き出す。
そんな状況の中で、キンブリーは腕を組んで悠然と座っていた。
「傷の男の情報はまだですか?」
「はっ!申し訳ありません。全力で捜索中であります」
それは「さっさと見つけろ」という言外の指示。
上から目線の物言いに、大人しく従うしかない軍人は頭を下げる。
突如現れては横柄に指示するキンブリーに、怪訝そうな者もいれば迷惑そうに見つめる者もいた。
「なんですか、あの偉そうな男は」
不機嫌も露に顔をしかめる彼の質問は当然のものと言える。
「しっ!だまって全面協力しなきゃいけないんだってよ。なんせ、中央のお偉いさんの命令だからな」
豪華絢爛な意匠の本館と別館。
古書特有の朽ちた樹木のような香りが微かに鼻をくすぐり、
「んんんんんん~~~~~」
書物が隙間なく、ぎっしり詰まった書架が立ち並ぶ、その一角にて。
アルは本をぺらぺらとめくりながら唸り声をあげる。
「いくら探してもこれといった錬丹術の記述はみつからないなぁ…」
彼が座るテーブルには、たくさんの本が山積みに重なっていた。
通りすがりの職員が、
「鎧…」
「鎧だ…」
鎧の姿を一目見てつぶやくが、今さらなので気にしない。
ふと、以前メイが見せた錬丹術を思い返す。
(錬丹術か…メイって子の遠隔錬金術すごかったな…あれ使えたらいいなぁ。ノックス先生の家にいた時、きけばよかった)
――メイは取り出した複数の鏃を、巨大なタンクと炭へ突き刺しながら、地面に足で円を描いた。
――そして、足元の円へ両手を押し当てた瞬間、破裂したタンクと炭から大量の水蒸気と爆発が起こる。
(リンは医学に特化した技術って言ってたけど、どういう仕組みなんだろう?)
本から顔を上げたアルが横から感じる視線に振り向くと、そこには一人の男の子が立っていた。
その目はこれでもかというほど輝いている。
「鋼の錬金術師の兄弟の、大きい鎧さんですか!?」
静かにしなければならない図書館で、少年の大声が響き渡った。
「すごい!うわーー!!うわーー!!」
その眼差しには素直な賞賛が宿っている。
表情と仕草も可愛らしい。
そのくせ
純真そのものだった。
「本当に鎧だぁ!!うわー!!」
とにかく物怖じしない少年の態度に疑問符を浮かべつつ、
「ども」
アルは軽く会釈する。
(どこの子供だろ?)
すると少年は手に広げていた書物を覗き込んできた。
「なんの勉強をしてるんですか?」
「錬丹術だよ。シンの国の錬金術」
「へぇーー。シンの国の…」
そこで興奮気味だった少年が冷静につっこんできた。
「でも、エルリック兄弟はこの錬金術先進国アメストリスで国家資格を取れるほどの腕ききなんでしょう?なんで今更、他国のマイナーな錬金術を調べてるんですか?」
「えっ!?」
子供ならではの鋭い洞察力に、アルは思わず声をあげた。
(ボクの身体を取り戻すとか、人造人間に対抗する方法を探ってるなんて言えないよな………)
「えーと…」
まさか人造人間に対抗できる方法を探っているとも言えず、アルは言葉に詰まる。
「世界平和のためだヨ」
しかし、何かを思い至ると手の中に『LOVE&PEACE』を掲げてみせた。
「錬丹術は医学方面に特化しているというからネッ。人の命を救う技術として、新たな可能性が無いか、研究しているのサ」
「うわー!さすが噂のエルリック兄弟だぁ!!」
そう力説するアルに、少年はさらに目を輝かせる。
「アル!アルフォンス!」
すると、自分を呼ぶ声と共に足音が近づいてきた。
振り返ったアルの目に、館内を走るエドの姿を捉えた。
「仕度しろ!!行くぞ!!」
「兄さん、図書館では静かに……って、どこ行くって?」
「出発だ!ホテルの荷物まとめろ!」
その時、横から送られてくるまぶしい視線にエドは顔を向けた。
「詳しい話は行きながら…ん?どこの子供だ?」
首を傾げるエドに、少年は興奮気味に訊ねる。
「鎧さんの兄さんってことは、国家錬金術師のエドワードさん!?」
「おう」
次の瞬間、幼い相貌からさらりとこぼれた台詞に、エドは激怒することになる。
「うわぁ!!噂どおり、小さい錬金術師だぁ!!」
さすがに子供相手に激怒することはないが、頭を鷲掴んで鉄拳を見舞うべく拳を震わせた。
「おまおまおまおまえ、もっももももももももっかい言ってみ?飛ぶよ?海王星あたり行っとく?」
「うわぁ!噂どおり『小さい』って言ったらぶち切れるんだぁ!」
破天荒な発言に至った理由を、無垢な笑顔で説明する。
しかし、彼の後ろから近づいてきた二人組の男に表情が一変した。
「セリム様から離れろ」
黒服の二人組はエドの後頭部に拳銃を突きつけた。
「セ…」
「あああ、撃っちゃだめですよぅ」
降参のために両手を挙げたエドは目を見開き、アルはおろおろとする少年を見下ろす。
椅子へ腰を下ろした兄弟は、そこで目を見張った。
「セリム・ブラッドレイ!?大総統の息子!?」
それもそのはず、目の前には正真正銘の大総統の息子とその夫人の姿があるのだから。
「ごめんなさいね。この子ずっとエドワード君にあこがれてて…」
「あこがれ!?」
「という事は、キョウコの事も知っているんですか?」
鼻息を荒くするエドの隣で、アルは聞いてみた。
「勿論よ。まだ若いのに、しかも女の子であの人の近くで働くなんて凄い事だわ」
「セリム君は錬金術が好きなの?」
「はい!僕も錬金術を習ってエドワードさんみたいな国家錬金術師になるのが夢です」
(あこがれ?)
鼻を高々とさせて舞い上がっているエドに代わり、アルが会話を円滑に進める。
「へーー」
「そして、お
子供らしい迷いのないまっすぐな言葉。
しかし、この言葉を聞いた兄弟は彫像のように固まった。
言うまでもなく、ブラッドレイが人造人間だと知っているからだ。
「………父親思いなんだな」
彼は真実を隠し、自分から切り離した思考に換えてつぶやく。
「キング・ブラッドレイ大総統は好きか?」
「もちろんです!血のつながっていない僕を本当の子供みたいに大切にしてくれます」
「本当の子供…」
「私達夫婦に子供ができなかったので、遠縁の子を養子にもらったのよ。それがセリム」
そう言って、夫人はセリムの頭を撫でる。
「親思いで、本当にやさしい子に育ってくれました。私も主人も、この子を宝と思ってるんですよ」
「大総統は最近どうですか?どこか変わったところ………具合が悪かったりしませんか?」
「ええ、おかげさまで」
エドの質問は微妙な含みを持たせたものだったが、夫人はそれに気づかず笑顔で答えた。
「まだまだ現役でバリバリ働くつもりなのよ、あの人。もういい歳なんだから休めばいいのに」
溜め息を吐き出す夫人の姿を、兄弟はなんとも言えぬ表情で見つめる。
「あなた達も、ごめんなさいね。キョウコちゃん――彼女と一緒に旅してるんでしょ?それなのに、あの人が無理な難題ばかり押し付けて……」
「大総統の命令ならしょうがないですし!」
「むしろ、オレらと変わらない年齢で大総統の下で直々に働くのが凄いっていうか…」
彼女は賢く、強く、いかなる困難にも苦境にも立ち向かう。
美貌に加えて、己の能力への絶対的な自信を所有している彼女は、兄弟が知るどんな女性よりも存在感に満ちていた。
「エルリック兄弟の目から見ても、やっぱり彼女はすごいんですか!?」
「そうだね。氷刹の錬金術師で、キレイでかっこよくて優しい、ボクの自慢の姉さんさ」
「面倒見がよくて、いつもオレ達を引っ張って導いてくれる、大切な……」
エドは勢いにつられて一瞬、キョウコへの気持ちを口に出そうとしした。
危うく我に返り、思いとどまる。
不思議に思ったセリムが聞き返す。
「大切な?」
「大切な幼馴染みだ」
輝く金の瞳で、エドは言葉を選んだ。
意味ありげに口調を変えて紡がれたその言葉に、夫人は恋する者同士の共感から笑みをこぼす。
「あの人、昔っから仕事一辺倒でね。でも、仕事はできるけど女心はわからない
長年連れ添ったパートナーの女心に対する鈍感さに呆れて、自嘲が漏れた。
そして、ブラッドレイと初めて会った見合いの出来事を話し始める。
「もー、失礼な男で私、ビンタを張ってしまってねぇ!それが縁でお付き合いを始めて!最初のデートがこれまた…」
ひっきりなしにまくし立てる夫人に、聞き手に徹していた兄弟は放心するしかなかった。
「…ってあらいけない!のろけ話になってしまったわね!ほほ!ほほほ!」
ブラッドレイの動向から始まった夫人ののろけ話を聞き終え、兄弟は邸宅に帰る二人を見送った。
「またお話ししてくださいねー!」
セリムは車内からこちらに大きく手を振る。
憧れの少年と話をすることができて嬉しそうな息子の姿を見て、夫人は顔を綻ばせる。
「よかったわね、セリム。エドワード君とお話しできて」
「はい!帰ったらお義父さんに自慢しよう!」
セリムは満面の笑顔で頷き、早速ブラッドレイに話すべく弾んだ声を出した。
親子を見送った兄弟は、複雑な心境で佇む。
「…奥さんも息子さんも、大総統が人造人間だって知らないのかな」
「どうかな」
そう言いながら、エドは改めて真実を知ることのもどかしさを感じる。
「知ってても知らなくてもキツいよな」
微かに細める目には複雑に色を変える感情が渦巻いていた。
四方を山や森に囲まれているという外界から隔絶された北方司令部。
北部でスカーの目撃情報があったとの報せがあり、一斉に動き出す。
そんな状況の中で、キンブリーは腕を組んで悠然と座っていた。
「傷の男の情報はまだですか?」
「はっ!申し訳ありません。全力で捜索中であります」
それは「さっさと見つけろ」という言外の指示。
上から目線の物言いに、大人しく従うしかない軍人は頭を下げる。
突如現れては横柄に指示するキンブリーに、怪訝そうな者もいれば迷惑そうに見つめる者もいた。
「なんですか、あの偉そうな男は」
不機嫌も露に顔をしかめる彼の質問は当然のものと言える。
「しっ!だまって全面協力しなきゃいけないんだってよ。なんせ、中央のお偉いさんの命令だからな」