第63話
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整然と並ぶ、故人が眠る墓地にキョウコはいた。
持っていた大きな花束を墓前に置くと、その前に腰を下ろす。
「……お久しぶりです、ヒューズさん」
漆黒の双眸を伏せ『Maes-Hughes』と書かれた墓石を見つめる。
以前にも一度ここへ来たが、色々と混乱していたせいかこんなにゆっくりと墓参りもできなかった。
だからここに来たというのもあるが、やっぱり一番の理由はただ単に会いたくなったからだ。
ヒューズが眠る墓をじっと見つめて、キョウコは静かに口を開いた。
「今さらですけど、あなたには感謝してます。それこそ感謝してもし尽くせないくらいに…」
心が荒んだ自分を立ち直らせてくれたのはヒューズだ。
忘れかけていた家族の温かさを思い出させてくれたのも、紛れもない彼とその家族だ。
でも……できることなら生きているうちに伝えておきたかった。
「こんなあたしを好きだって言ってくれた人達もいる」
いつも無茶ばっかりして猪突猛進なバカだけど、いざとなったら誰よりも頼れる金髪の彼。
だから自分は、危なっかしい彼を全力で守ろうと思う。
「守られてばかりってのは、あたしの性に合わないんですよ」
くすりと微笑むと、蒼く澄み渡る空を仰ぎ見る。
小鳥のさえずりを聞きながら再び墓石に視線を戻すと、
「ねぇ、ヒューズさん」
とつぶやく。
黒い瞳を細め、一層ひそやかな声を発した。
「今まであまり考えないようにはしてたんです。ロス少尉の件もあったし…」
キョウコが座っている場所、地面に生える草むらに季節外れの霜が降りる。
「……あなたを殺したのは誰なの?」
次の瞬間、キョウコの全身から凄まじい冷気が吹いていた。
激しい怒りが、世界を侵食しようとしている
錬金術は、数式や幾何学図形で描かれた錬成陣という術式を発動することで、世界を改変する。
エドやキョウコのように真理を見た者だけが錬成陣や構築もなしに錬成することは例外だが、今のように組織化されていない術式が錬金術として発動することはあり得ないはずだ。
それなのに、荒れ狂う感情が、その混沌に世界を引きずり込もうとしている。
常軌を逸脱した干渉力の強さ。
このままでは、墓地がいつ氷漬けになってしまうのかわからない。
そうした激しい怒りが不意に静まる。
「…何言ってんだか」
自嘲気味に笑うと、そのまま静かに立ち上がる。
刹那、世界を塗り替えようとしていた猛烈な吹雪が霧散する。
踵を返したキョウコの後ろでは、一枚の花びらが空に舞い上がった。
帰ってきた時には、空は微かに夕焼け色へと染まっていた。
とりあえず宿へ戻ろうと足を進めていると、後ろから通り過ぎた車が横脇へと停車した。
「キョウコ!」
「……大佐?」
運転席から声をかけてきたロイは首を傾げて訊ねる。
「兄弟は一緒じゃないのか?」
「今日はちょっと野暮用があって。朝から別行動してたんです」
「そうか……乗りたまえ」
助手席の扉を開けると、キョウコは迷うことなく乗り込む。
ギアを入れて発進させると、車内にはしばしの沈黙が流れた。
「一人でどこに行っていたんだね?」
「ヒューズさんの墓参りです。こういう時にでも顔見せに行こうと思って」
「…そうか。あいつもさぞかし喜んでいるだろうな」
移り変わる景色を眺めながら、
「そうですか」
彼女の顔には穏やかな、そしてどこか哀切な微笑みが浮かんでいた。
キョウコは窓際へと頬杖をつくと、運転するロイへちらりと目を向ける。
「……大佐」
「何だね?」
「大佐はもしかして、ヒューズさんの…」
そこまで言って、キョウコは言葉を切った。
再び窓の外へと視線を移すと、
「なんでもありません」
口をつぐむ。
ロイは思案げに、長い黒髪が揺れる背中を眺めていたが、視界を前に戻した。
「相変わらずだな、君は…と、あそこにいるのはアルフォンスじゃないか?」
「え?」
遠くに目を凝らすと、そこには確かにアルの姿があった。
シャオメイを捜索中なのか、周りをきょろきょろと見回している。
「アルは目立つからいい目印ですね」
「彼がいるという事は鋼のも一緒か」
「多分ですけど。エドは小さくてここからじゃ確認できないですね」
「まったくだ」
キョウコの物言いにフッと小さく笑いながら、彼はハンドルを大きく切った。
「本日も白黒ネコの情報無し…」
周りを見渡すアルの傍ら、すっかり疲れ切ったエドはベンチに座りうなだれる。
額に汗を浮かべ、長い長い溜め息を漏らす。
「あ~~~~~、も~~~~~。捜し始めて、もう何日だよ」
「もう、中央にはいないのかなぁ」
時間と労力を使った捜索にもかかわらず、いっこうにシャオメイの行方は掴めない。
「はーーー……そろそろ宿に戻るか…」
今日は諦めて宿に戻ろうと立ち上がった途端、
「ん?」
急に目つきが鋭くなった。
「どうしたの、兄さん?」
「いや、今確かに小さいって……あ、いやオレには関係ねェんだけどさ」
注意深く辺りを警戒すると、アルが首を傾ける。
その時、兄弟の真横に一台の車が止まった。
「鋼の!」
運転席から声をかけてきたロイに、エドはぎょっとする。
「げっ、大佐!!何故ここに」
「あ、エド。やっぱりここにいたのね」
「あ?それどういう意味だ…ってキョウコ!?」
「ごめんね、突然いなくなっちゃって」
助手席から顔を覗かせるキョウコに、エドは思わず車の窓枠に身を乗り出した。
「おまっ、今までどこに…つーかどうして大佐と一緒なんだよ!」
「え?大佐とはさっきたまたま会ってね。宿まで送ってもらうところだったの」
「…二人でどっか行ってたんじゃねェよな」
車の中にいる二人に不審げな眼差しを投げかける。
「まさか、そんなわけないじゃん」
「一丁前に嫉妬とは生意気だぞ、鋼の」
「悪いかよ!」
すると、エドはムッとした声を張り上げる。
ロイはその様子に一瞬目を瞬くと、エドとキョウコの顔を交互に見合わせる。
なんともバツが悪そうに顔を背ける彼女を横目に、ロイは意味深な笑みを浮かべた。
そして、兄弟の居場所がわかった理由について答える。
「何故って…アルフォンスは遠くからでもよく目立つ」
「そうでした…」
「何をしているんだね?」
「人捜し……だけど、収穫無いから宿に戻ろうとしてたところ」
「じゃあ、乗るといい。ちょうど君達の宿の近くに用事があって行くところだ」
兄弟が後部座席に座るのを確認すると、ロイは車を発進させる。
宿に着くまでの間、車内でこれまでの経緯を説明する。
「なるほど…シン国の錬金術は少し毛色が違うようだな」
シャオメイの似顔絵を眺め、ロイは先程の説明をしばし吟味する。
「そのネコ見つけたらたのむよ」
「わかった。機会があれば、他の人に訊いておこう」
「本当は大佐に借りなんざ作りたくねぇんだけどよ」
ぶつぶつと唇を尖らせるエドの言葉に、ロイは思い出した。
「そうだ、借りといえば!」
大総統府で借りた金を返せと、後ろへ手を差し出す。
「金を返したまえ。大総統府で小銭貸しただろう」
「チッ!覚えてやがったか!しょーが無 ぇな!」
舌打ちをしながら渋々財布を取り出すエド。
その生意気な口調に、三人は内心でチンピラ…とつぶやいた。
「いくらだっけ?500センズ?」
「520センズだ。ごまかすな」
「んだよ、こまけーこと気にしてたら大物になれねーぞ?」
財布から取り出した小銭をロイに渡そうとしたところで、手の中のそれをじっと見つめる。
そして、強く握りしめた。
「やっぱまだ借りとく。大佐が大総統になったら返してやるよ」
大総統に登りつめるという飽くなき野望を彼に話したのは誰なのか。
ロイは疑問をぶつけてみる。
「…誰に聞いた?」
「ホークアイ中尉に。イシュヴァールの事も教えてもらった」
「……………」
話題から避けていたイシュヴァール戦も隠すことなく副官は話したらしい。
「鋼の」
宿に到着した三人が外に出ると、ロイは唐突に呼びかけた。
「あ?」
「金は貸したままにしておく。必ず返してもらうぞ」
「んじゃ、そん時ゃ、また小銭借りるさ。『民主制になったら返してやる』ってな。それも返したら、また借りて何か約束取り付けるぞ」
「…つまり、私はかなり長生きせねばならんという事か」
溜め息混じりにロイはつぶやき、ハンドルに顎をのせる。
「そーだよ。中尉とかに心配させてんじゃねーよ」
眉を寄せてエドが言うと、キョウコも凛々しく言い放つ。
「リザさんに何かあったら、許しませんからね」
「…君は少しくらい私の心配をしたらどうだね、キョウコ」
言うべきことはしっかりと言う幼い部下に、ロイは実に複雑な表情を浮かべた。
「送ってくれてどーもな」
「ああ、またな」
軽い別れの挨拶を済ませて見送っていると、一人の女性の前で停車。
「おまたせ、マデリーン」
「もーー、ロイさん遅い-ー」
洒脱 な笑みを浮かべるロイは女性の肩に手を置いて、車へとエスコートする。
「どっかの女と遊んでて遅くなったんじゃないの?」
「ばかだなぁ、君と二股かけられるほど器用じゃないよ」
仲睦まじく会話する二人の後ろ姿を見ながら、兄弟は愕然とした。
すると、隣から伝わってくるヒンヤリとした空気に怯えることになる。
「「ひっ!」」
キョウコの表情はいつもの可憐な微笑みだが、額には青筋がくっきりと浮かんでいた。
持っていた大きな花束を墓前に置くと、その前に腰を下ろす。
「……お久しぶりです、ヒューズさん」
漆黒の双眸を伏せ『Maes-Hughes』と書かれた墓石を見つめる。
以前にも一度ここへ来たが、色々と混乱していたせいかこんなにゆっくりと墓参りもできなかった。
だからここに来たというのもあるが、やっぱり一番の理由はただ単に会いたくなったからだ。
ヒューズが眠る墓をじっと見つめて、キョウコは静かに口を開いた。
「今さらですけど、あなたには感謝してます。それこそ感謝してもし尽くせないくらいに…」
心が荒んだ自分を立ち直らせてくれたのはヒューズだ。
忘れかけていた家族の温かさを思い出させてくれたのも、紛れもない彼とその家族だ。
でも……できることなら生きているうちに伝えておきたかった。
「こんなあたしを好きだって言ってくれた人達もいる」
いつも無茶ばっかりして猪突猛進なバカだけど、いざとなったら誰よりも頼れる金髪の彼。
だから自分は、危なっかしい彼を全力で守ろうと思う。
「守られてばかりってのは、あたしの性に合わないんですよ」
くすりと微笑むと、蒼く澄み渡る空を仰ぎ見る。
小鳥のさえずりを聞きながら再び墓石に視線を戻すと、
「ねぇ、ヒューズさん」
とつぶやく。
黒い瞳を細め、一層ひそやかな声を発した。
「今まであまり考えないようにはしてたんです。ロス少尉の件もあったし…」
キョウコが座っている場所、地面に生える草むらに季節外れの霜が降りる。
「……あなたを殺したのは誰なの?」
次の瞬間、キョウコの全身から凄まじい冷気が吹いていた。
激しい怒りが、世界を侵食しようとしている
錬金術は、数式や幾何学図形で描かれた錬成陣という術式を発動することで、世界を改変する。
エドやキョウコのように真理を見た者だけが錬成陣や構築もなしに錬成することは例外だが、今のように組織化されていない術式が錬金術として発動することはあり得ないはずだ。
それなのに、荒れ狂う感情が、その混沌に世界を引きずり込もうとしている。
常軌を逸脱した干渉力の強さ。
このままでは、墓地がいつ氷漬けになってしまうのかわからない。
そうした激しい怒りが不意に静まる。
「…何言ってんだか」
自嘲気味に笑うと、そのまま静かに立ち上がる。
刹那、世界を塗り替えようとしていた猛烈な吹雪が霧散する。
踵を返したキョウコの後ろでは、一枚の花びらが空に舞い上がった。
帰ってきた時には、空は微かに夕焼け色へと染まっていた。
とりあえず宿へ戻ろうと足を進めていると、後ろから通り過ぎた車が横脇へと停車した。
「キョウコ!」
「……大佐?」
運転席から声をかけてきたロイは首を傾げて訊ねる。
「兄弟は一緒じゃないのか?」
「今日はちょっと野暮用があって。朝から別行動してたんです」
「そうか……乗りたまえ」
助手席の扉を開けると、キョウコは迷うことなく乗り込む。
ギアを入れて発進させると、車内にはしばしの沈黙が流れた。
「一人でどこに行っていたんだね?」
「ヒューズさんの墓参りです。こういう時にでも顔見せに行こうと思って」
「…そうか。あいつもさぞかし喜んでいるだろうな」
移り変わる景色を眺めながら、
「そうですか」
彼女の顔には穏やかな、そしてどこか哀切な微笑みが浮かんでいた。
キョウコは窓際へと頬杖をつくと、運転するロイへちらりと目を向ける。
「……大佐」
「何だね?」
「大佐はもしかして、ヒューズさんの…」
そこまで言って、キョウコは言葉を切った。
再び窓の外へと視線を移すと、
「なんでもありません」
口をつぐむ。
ロイは思案げに、長い黒髪が揺れる背中を眺めていたが、視界を前に戻した。
「相変わらずだな、君は…と、あそこにいるのはアルフォンスじゃないか?」
「え?」
遠くに目を凝らすと、そこには確かにアルの姿があった。
シャオメイを捜索中なのか、周りをきょろきょろと見回している。
「アルは目立つからいい目印ですね」
「彼がいるという事は鋼のも一緒か」
「多分ですけど。エドは小さくてここからじゃ確認できないですね」
「まったくだ」
キョウコの物言いにフッと小さく笑いながら、彼はハンドルを大きく切った。
「本日も白黒ネコの情報無し…」
周りを見渡すアルの傍ら、すっかり疲れ切ったエドはベンチに座りうなだれる。
額に汗を浮かべ、長い長い溜め息を漏らす。
「あ~~~~~、も~~~~~。捜し始めて、もう何日だよ」
「もう、中央にはいないのかなぁ」
時間と労力を使った捜索にもかかわらず、いっこうにシャオメイの行方は掴めない。
「はーーー……そろそろ宿に戻るか…」
今日は諦めて宿に戻ろうと立ち上がった途端、
「ん?」
急に目つきが鋭くなった。
「どうしたの、兄さん?」
「いや、今確かに小さいって……あ、いやオレには関係ねェんだけどさ」
注意深く辺りを警戒すると、アルが首を傾ける。
その時、兄弟の真横に一台の車が止まった。
「鋼の!」
運転席から声をかけてきたロイに、エドはぎょっとする。
「げっ、大佐!!何故ここに」
「あ、エド。やっぱりここにいたのね」
「あ?それどういう意味だ…ってキョウコ!?」
「ごめんね、突然いなくなっちゃって」
助手席から顔を覗かせるキョウコに、エドは思わず車の窓枠に身を乗り出した。
「おまっ、今までどこに…つーかどうして大佐と一緒なんだよ!」
「え?大佐とはさっきたまたま会ってね。宿まで送ってもらうところだったの」
「…二人でどっか行ってたんじゃねェよな」
車の中にいる二人に不審げな眼差しを投げかける。
「まさか、そんなわけないじゃん」
「一丁前に嫉妬とは生意気だぞ、鋼の」
「悪いかよ!」
すると、エドはムッとした声を張り上げる。
ロイはその様子に一瞬目を瞬くと、エドとキョウコの顔を交互に見合わせる。
なんともバツが悪そうに顔を背ける彼女を横目に、ロイは意味深な笑みを浮かべた。
そして、兄弟の居場所がわかった理由について答える。
「何故って…アルフォンスは遠くからでもよく目立つ」
「そうでした…」
「何をしているんだね?」
「人捜し……だけど、収穫無いから宿に戻ろうとしてたところ」
「じゃあ、乗るといい。ちょうど君達の宿の近くに用事があって行くところだ」
兄弟が後部座席に座るのを確認すると、ロイは車を発進させる。
宿に着くまでの間、車内でこれまでの経緯を説明する。
「なるほど…シン国の錬金術は少し毛色が違うようだな」
シャオメイの似顔絵を眺め、ロイは先程の説明をしばし吟味する。
「そのネコ見つけたらたのむよ」
「わかった。機会があれば、他の人に訊いておこう」
「本当は大佐に借りなんざ作りたくねぇんだけどよ」
ぶつぶつと唇を尖らせるエドの言葉に、ロイは思い出した。
「そうだ、借りといえば!」
大総統府で借りた金を返せと、後ろへ手を差し出す。
「金を返したまえ。大総統府で小銭貸しただろう」
「チッ!覚えてやがったか!しょーが
舌打ちをしながら渋々財布を取り出すエド。
その生意気な口調に、三人は内心でチンピラ…とつぶやいた。
「いくらだっけ?500センズ?」
「520センズだ。ごまかすな」
「んだよ、こまけーこと気にしてたら大物になれねーぞ?」
財布から取り出した小銭をロイに渡そうとしたところで、手の中のそれをじっと見つめる。
そして、強く握りしめた。
「やっぱまだ借りとく。大佐が大総統になったら返してやるよ」
大総統に登りつめるという飽くなき野望を彼に話したのは誰なのか。
ロイは疑問をぶつけてみる。
「…誰に聞いた?」
「ホークアイ中尉に。イシュヴァールの事も教えてもらった」
「……………」
話題から避けていたイシュヴァール戦も隠すことなく副官は話したらしい。
「鋼の」
宿に到着した三人が外に出ると、ロイは唐突に呼びかけた。
「あ?」
「金は貸したままにしておく。必ず返してもらうぞ」
「んじゃ、そん時ゃ、また小銭借りるさ。『民主制になったら返してやる』ってな。それも返したら、また借りて何か約束取り付けるぞ」
「…つまり、私はかなり長生きせねばならんという事か」
溜め息混じりにロイはつぶやき、ハンドルに顎をのせる。
「そーだよ。中尉とかに心配させてんじゃねーよ」
眉を寄せてエドが言うと、キョウコも凛々しく言い放つ。
「リザさんに何かあったら、許しませんからね」
「…君は少しくらい私の心配をしたらどうだね、キョウコ」
言うべきことはしっかりと言う幼い部下に、ロイは実に複雑な表情を浮かべた。
「送ってくれてどーもな」
「ああ、またな」
軽い別れの挨拶を済ませて見送っていると、一人の女性の前で停車。
「おまたせ、マデリーン」
「もーー、ロイさん遅い-ー」
「どっかの女と遊んでて遅くなったんじゃないの?」
「ばかだなぁ、君と二股かけられるほど器用じゃないよ」
仲睦まじく会話する二人の後ろ姿を見ながら、兄弟は愕然とした。
すると、隣から伝わってくるヒンヤリとした空気に怯えることになる。
「「ひっ!」」
キョウコの表情はいつもの可憐な微笑みだが、額には青筋がくっきりと浮かんでいた。