第84話
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長き冬を越えて、春を迎えた空は雲一つない。
四月も下旬に入ると、浮き立つ春の香りも、慣れに薄れ出す。
今やそれは、そよ風としてリゼンブールに舞い込んでいた。
「ガロッドさんの記録~~。15分32秒~~」
大勢の村人達が見守る中、司会者が記録を読みあげる。
「遅っ!!」
「さぼってんじゃねーぞ、ガロッド!!」
「うるせー!!」
外野からの野次に、挑戦者は苛立たしげに言った。
「次の挑戦者は?」
「羊の丸焼き、できたぞー」
この日、リゼンブールでは年に一度の伝統行事『羊祭り』が開催されていた。
広がる草原に羊の毛刈りが行われ、楽しげな笑い声が響き渡り、屋台では羊の丸焼きができあがった。
村人達はにぎやかで軽快な祭りの雰囲気を存分に楽しむのであった。
「いいねー。俺も祭りに行きてー」
「あとでお肉もらってきてあげるから仕事しなさいな」
リゼンブールの玄関口に当たる鉄道の駅。
そこには、軍を迎える仕事で羊祭りに行けず、愚痴をこぼす駅長がいた。
さりげなく彼を励ます彼女の姿は、長年連れ添った夫婦のようにも見える。
「ほら。来ましたよ」
その時、装甲列車が力強く蒸気の煙を吐いて地を駆けてきた。
やがて列車はリゼンブールへと辿り着き、停車すると、青い軍服姿の男達が一斉に出てくる。
その姿を視界に入れた駅長はすぐさま駆け寄り、敬礼をして出迎える。
「お待ちしておりました」
「うむ。世話になるな」
駅長に挨拶する軍人――マイルズは、ふと村のにぎやかな雰囲気に気づいて訊ねた。
「む…祭りかね」
「ええ。リゼンブール名物、春の羊祭りです」
普段お目にかかる蒸気機関の鉄道車とは違う、武装された装甲列車を見た子供達が、
「装甲列車だ」
「軍人さん、なんかくれー」
「わーー」
と興味深そうに遠目から眺めていた。
「そんな日にすまない。素通りする予定だったのだが、車両の調子が悪くてな」
「整備士、呼びましょうか?」
にっこりと笑う表情とは裏腹に心の中では、いかにも嫌そうに言い捨てていた。
(さくっと直してさくっと行ってくれ)
「いや、結構だ。東軍の演習場に着いてからきちんと点検する」
ドラクマによる襲撃のせいで、春に延期された東方・北方軍の合同演習。
マイルズら北方軍が乗る装甲列車は東に向かう最中、列車の調子が悪いとのことでリゼンブールへと停まったのである。
「そうだ。ひとつ頼みがあるのだが」
「なんでしょう?」
「水の補給をしたいのだが」
「ああ、いいですよ。いくらでもどうぞ」
合図を受けて、車両後部の荷台に載せられた金属製のタンクが運び出された。
「よーし。タンク降ろせー!」
周りは、どこを見ても自然。
迎えた光景は、緩やかな起伏を描きながら広がる広漠 とした牧草地だ。
草原に囲まれた、小高い丘の連なりと鬱蒼と茂る林で構成される地平線の果てまで敷き詰められている。
午前という時間帯も相まって、やや気温は低いが空気は澄んでおり、天気もいい。
流れる綿菓子のような雲が、ゆっくりと緩やかな風に流れていく。
なんとも牧歌的で平和な光景が、そこには広がっていた。
草原に囲まれた長い一本道を歩いて着いた先、一軒の家を目指して一般人の格好をした男達はタンクを乗せた荷車を引いて歩く。
玄関前に立つと、扉に手をかけたが、ガチャガチャ、と音がするだけで動かない。
鍵が閉まっていた。
「玄関が閉まってる」
「留守か?」
留守のようで、男はタンクへと声をかけた。
「着いたよ。お嬢ちゃん」
すると、タンクの中からウィンリィが蓋を押し上げて顔を覗かせた。
「ありがとうございます」
いい加減、タンクの中にいるのも限界に近かったため、大きく息を吐いた。
中央へ来た際にブラッドレイにマークされた彼女は、人柱候補である兄弟を軍につなぎとめ、軍令に従わせる切り札として人質にされてしまった。
それを知ると、自ら危険を承知で軍から身を隠し、こうして装甲列車に潜り込んだのだった。
「玄関に鍵がかかってるんだが」
「今日は春の羊祭りだからばっちゃんとデン、一緒に出かけてるんだと思います」
男がウィンリィをタンクから出してやると、彼女は住み慣れた我が家へと案内する。
「こっち。勝手口から入れるわ」
「隠れる所はあるのかい?」
「ええ。大きい地下室があるの。そこならしばらく大丈夫だと思う」
後に続いてウィンリィの暮らす家の勝手口の扉を開けると、最初に見たのは大量の工具箱と作りかけの機械鎧だった。
「おー、機械鎧だらけ」
「作りかけはさわらないでね。ばっちゃんに怒られるから」
物珍しそうに周囲を見渡す二人に注意すると、ギシギシうなる階段の上、自分の部屋へとのぼる。
「はぁ…久しぶりの我が家…」
久しぶりの自室はホコリっぽく、窓にカーテンも閉まったきりで薄暗い。
放置されていて、部屋の全てがホコリをかぶって、静寂と沈滞の空気によどんでいた。
「う~~~。部屋の中がホコリっぽいな~。明日、掃除しなきゃ…」
次の言葉が途切れたのは、シャツをはだけてタンクトップを脱ごうとした瞬間だった。
ふと視線を向けた先――ベッドに、金髪の少年と黒髪の少女が色々と乱れた状態で抱き合っていた。
「えっ」
「はっ?」
なんとも気まずいタイミングで帰宅してきた待ち人に、エドとキョウコは抱き合った体勢のまま、目を見開いてきょとんと見た。
見つめ合う三人。
お互い半裸を晒し合う。
ウィンリィは既にタンクトップに手をかけており、上半身を露にしようとしていた。
一方、エドとキョウコは……不幸中の幸いだが、選んだ体位のため、肝心な部分はウィンリィからうまい具合に隠れていた。
特にキョウコの方は、エドにピッタリとくっついていたため、白い裸身が見事に隠れ、秘すべき部分は晒されていないが……問題はそこではない。
静止する時の中、まずキョウコが反応した。
「あ、お邪魔してます」
ウィンリィはうろたえきった表情で二人を見つめ、耐えきれなかったように怒鳴り声をあげた。
「乙女の部屋でナニをやっとるかーーーっ!!!」
「わーーー!!!」
いや、怒るのも最もです。
エドは急いでキョウコから離れて、足早に服を着た。
ウィンリィの怒号を聞きつけて、彼女を自宅まで連れてきてくれた男達が階段をのぼってやって来た。
「不審者か!?」
「大丈夫か、お嬢ちゃん!!」
「わーーーー!!!」
右手には銃が握られ、銃口は既にこちらへと向いていた。
迂闊なことに、エドは完全な無防備状態である。
キョウコも、エドの後ろから驚いた顔で男達を目視していた。
どう動けばいいかわからなかった。
「なんだ、どうした、侵入者か!?」
「大丈夫か、氷刹に小僧!」
「きゃーーー!!!」
エドの悲鳴を聞きつけて、銃を持ったハインケルとダリウスがやって来た。
「ばうわうわう、がるるるる!!!」
「あいたーー!!!」
飼い主の悲鳴を聞きつけて、羊祭りから帰ってきたデンがハインケルの尻に噛みついた。
「なにやってんだ、おまえら」
「ギャワーン!!!」
騒ぎを聞きつけて、呆れた表情のグリードがデンの襟首を掴んでひょいと持ち上げた。
それからしばらく、ウィンリィの部屋は阿鼻叫喚の場と化した。
「まぁまぁ」
キョウコが全員に落ち着くよう呼びかけると、互いに睨み合いながら銃口を向け合う男達との間に割って入った。
「みんな、とりあえず銃をおろして。一旦、冷静になろう」
そう穏やかになだめると、男達はゆっくりと冷静さを取り戻し、改めてお互いの顔を見る。
そして、見覚えのある顔に驚きの声をあげた。
「あれ?おまえら、ブリックズの…」
「そう言う貴様らはキンブリーの部下の…!!」
銃口が下がることで部屋の阿鼻叫喚は収まり、キョウコは口許に笑みをつくった。
「……?」
ウィンリィは、怪訝と疑惑の眼差しをキョウコに注いで……次にグリードに視線を移して目を見開いた。
まさか、こんなところに彼がいるとは思わなかったからだ。
「リン!?」
「あ?こいつ の知り合いか?」
ウィンリィが疑問府を浮かべながらグリードを見る。
なんだかよくわからないでいると、キョウコは皆に向けてこう言った。
「詳しい説明はこれからするから、とりあえず静かにお願いします。あたし達もあなた方もここにいるのがバレたらまずいでしょう?」
空気を読んでか、エド、キョウコ、ウィンリィ、デン以外の全員が部屋から出ていった。
すると、ウィンリィがエドに対して威嚇するように鋭い一瞥。
すると向こうも、なんらかの気配を感じ取ったらしい。
びくりと背筋を震わせた。
「………心配した」
ぐっと、微かに目許に涙に潤ませ、鼻をすする。
「お…おう、すまん。そっちこそ、無事で…」
無事に再会できたのはいいのだけれど、問題は彼女の手に持っている凶器。
「それはそれとして、なんであんたがあたしの部屋で見ず知らずの女とイチャついてんのよ」
「…この部屋が一番、外から来る人間を見張り易 かったんだよ」
ウィンリィの手に持っていたのはお馴染みのスパナ。
最初の質問前に殴った傷の上からさらにボコボコに殴りにされて悲鳴すら上げる暇なかった。
キョウコは静かにエドに合掌した。
デンはおっかなびっくりエドを見ている。
「……キョウコの事を見ず知らずって、仮にも親友に向かってその言葉はひどくねぇか?」
ウィンリィの奴、何言ってんだ、とでも言いたげな目でエドが立ち上がる。
「はぁ?あたしに同性の友達なんて、そんなの――……」
不思議そうに訊ねるウィンリィはエドに視線をやり、キョウコを見つめた。
何かに気づいたように眉根を寄せる。
「……ん?ん?」
ずいずいと顔を寄せていく。
数秒の間を置いてから、記憶を引き出すことに成功したらしい。
艶やかな黒髪のショートカットの少女の顔が、長い黒髪を一つ結びにした幼馴染みの面影と重なった。
「――キョウコ……?」
「うん。あたしの名前は、キョウコだよ」
まるでキョウコを知らないような驚きに歪む金髪の幼馴染みの反応に、エドは疑問を抱いた。
「なんだいなんだい!むさくるしいのが増えてるじゃないか!」
その時、新たな第三者の声が響き渡る。
階段をのぼってピナコが姿を現し、リゼンブールへと帰ってきた孫娘の姿を前にして目を丸くする。
「ウィンリィ?」
「ばっちゃん!」
「………無事だったんだね」
「……ただいま。心配かけてごめんね」
孫娘の生存を確認して、ホッと胸をなでおろしたピナコは男達へと険しい眼差しを向けた。
「――で、あんたらは?」
険しい眼差しを向けられた二人は居住まいを正すように、帽子を取って揃って頭を下げる。
「おさわがせして申し訳ありません」
「ウィンリィさんの護衛のブリックズ兵であります」
すると、戸惑い気味の眼差しがエドの背後に向けられる。
エドはキョウコの他に、予想外の同行者を伴っていた。
「えっと…」
大柄で引き締まった身体つきのハインケルとダリウスが立っている。
無言の圧力というべきプレッシャーにさらされて、ウィンリィは思わず萎縮してしまった。
「少し前から地下にかくまってもらってんだ」
「リン…は、なんだか少し雰囲気変わったね」
リンが纏う不思議な迫力と威圧感に気圧され、ウィンリィは戸惑いを隠せない。
「あ」
エドは何かを察したように、妙な緊張感を覚えながら言葉に詰まった。
「あーー……言ってなかったっけ…」
だがエドが次の言葉を発するより先に、グリードは言葉を重ねた。
「グリードだ。よろしくな」
「……は?」
不敵に口の端をつり上げるグリードに、与えられた情報を消化しきれずに戸惑いを隠せないウィンリィに対して、エドは気まずそうに頬を掻いた。
彼女のそんな反応は織り込み済みとばかり、キョウコは笑みを浮かべた。
あの後、羊祭りから帰ってきたピナコも交えて今までの経緯をお互いに話した。
「はーー…そんな事が…」
「てな訳で、今こいつら俺の手下」
四月も下旬に入ると、浮き立つ春の香りも、慣れに薄れ出す。
今やそれは、そよ風としてリゼンブールに舞い込んでいた。
「ガロッドさんの記録~~。15分32秒~~」
大勢の村人達が見守る中、司会者が記録を読みあげる。
「遅っ!!」
「さぼってんじゃねーぞ、ガロッド!!」
「うるせー!!」
外野からの野次に、挑戦者は苛立たしげに言った。
「次の挑戦者は?」
「羊の丸焼き、できたぞー」
この日、リゼンブールでは年に一度の伝統行事『羊祭り』が開催されていた。
広がる草原に羊の毛刈りが行われ、楽しげな笑い声が響き渡り、屋台では羊の丸焼きができあがった。
村人達はにぎやかで軽快な祭りの雰囲気を存分に楽しむのであった。
「いいねー。俺も祭りに行きてー」
「あとでお肉もらってきてあげるから仕事しなさいな」
リゼンブールの玄関口に当たる鉄道の駅。
そこには、軍を迎える仕事で羊祭りに行けず、愚痴をこぼす駅長がいた。
さりげなく彼を励ます彼女の姿は、長年連れ添った夫婦のようにも見える。
「ほら。来ましたよ」
その時、装甲列車が力強く蒸気の煙を吐いて地を駆けてきた。
やがて列車はリゼンブールへと辿り着き、停車すると、青い軍服姿の男達が一斉に出てくる。
その姿を視界に入れた駅長はすぐさま駆け寄り、敬礼をして出迎える。
「お待ちしておりました」
「うむ。世話になるな」
駅長に挨拶する軍人――マイルズは、ふと村のにぎやかな雰囲気に気づいて訊ねた。
「む…祭りかね」
「ええ。リゼンブール名物、春の羊祭りです」
普段お目にかかる蒸気機関の鉄道車とは違う、武装された装甲列車を見た子供達が、
「装甲列車だ」
「軍人さん、なんかくれー」
「わーー」
と興味深そうに遠目から眺めていた。
「そんな日にすまない。素通りする予定だったのだが、車両の調子が悪くてな」
「整備士、呼びましょうか?」
にっこりと笑う表情とは裏腹に心の中では、いかにも嫌そうに言い捨てていた。
(さくっと直してさくっと行ってくれ)
「いや、結構だ。東軍の演習場に着いてからきちんと点検する」
ドラクマによる襲撃のせいで、春に延期された東方・北方軍の合同演習。
マイルズら北方軍が乗る装甲列車は東に向かう最中、列車の調子が悪いとのことでリゼンブールへと停まったのである。
「そうだ。ひとつ頼みがあるのだが」
「なんでしょう?」
「水の補給をしたいのだが」
「ああ、いいですよ。いくらでもどうぞ」
合図を受けて、車両後部の荷台に載せられた金属製のタンクが運び出された。
「よーし。タンク降ろせー!」
周りは、どこを見ても自然。
迎えた光景は、緩やかな起伏を描きながら広がる
草原に囲まれた、小高い丘の連なりと鬱蒼と茂る林で構成される地平線の果てまで敷き詰められている。
午前という時間帯も相まって、やや気温は低いが空気は澄んでおり、天気もいい。
流れる綿菓子のような雲が、ゆっくりと緩やかな風に流れていく。
なんとも牧歌的で平和な光景が、そこには広がっていた。
草原に囲まれた長い一本道を歩いて着いた先、一軒の家を目指して一般人の格好をした男達はタンクを乗せた荷車を引いて歩く。
玄関前に立つと、扉に手をかけたが、ガチャガチャ、と音がするだけで動かない。
鍵が閉まっていた。
「玄関が閉まってる」
「留守か?」
留守のようで、男はタンクへと声をかけた。
「着いたよ。お嬢ちゃん」
すると、タンクの中からウィンリィが蓋を押し上げて顔を覗かせた。
「ありがとうございます」
いい加減、タンクの中にいるのも限界に近かったため、大きく息を吐いた。
中央へ来た際にブラッドレイにマークされた彼女は、人柱候補である兄弟を軍につなぎとめ、軍令に従わせる切り札として人質にされてしまった。
それを知ると、自ら危険を承知で軍から身を隠し、こうして装甲列車に潜り込んだのだった。
「玄関に鍵がかかってるんだが」
「今日は春の羊祭りだからばっちゃんとデン、一緒に出かけてるんだと思います」
男がウィンリィをタンクから出してやると、彼女は住み慣れた我が家へと案内する。
「こっち。勝手口から入れるわ」
「隠れる所はあるのかい?」
「ええ。大きい地下室があるの。そこならしばらく大丈夫だと思う」
後に続いてウィンリィの暮らす家の勝手口の扉を開けると、最初に見たのは大量の工具箱と作りかけの機械鎧だった。
「おー、機械鎧だらけ」
「作りかけはさわらないでね。ばっちゃんに怒られるから」
物珍しそうに周囲を見渡す二人に注意すると、ギシギシうなる階段の上、自分の部屋へとのぼる。
「はぁ…久しぶりの我が家…」
久しぶりの自室はホコリっぽく、窓にカーテンも閉まったきりで薄暗い。
放置されていて、部屋の全てがホコリをかぶって、静寂と沈滞の空気によどんでいた。
「う~~~。部屋の中がホコリっぽいな~。明日、掃除しなきゃ…」
次の言葉が途切れたのは、シャツをはだけてタンクトップを脱ごうとした瞬間だった。
ふと視線を向けた先――ベッドに、金髪の少年と黒髪の少女が色々と乱れた状態で抱き合っていた。
「えっ」
「はっ?」
なんとも気まずいタイミングで帰宅してきた待ち人に、エドとキョウコは抱き合った体勢のまま、目を見開いてきょとんと見た。
見つめ合う三人。
お互い半裸を晒し合う。
ウィンリィは既にタンクトップに手をかけており、上半身を露にしようとしていた。
一方、エドとキョウコは……不幸中の幸いだが、選んだ体位のため、肝心な部分はウィンリィからうまい具合に隠れていた。
特にキョウコの方は、エドにピッタリとくっついていたため、白い裸身が見事に隠れ、秘すべき部分は晒されていないが……問題はそこではない。
静止する時の中、まずキョウコが反応した。
「あ、お邪魔してます」
ウィンリィはうろたえきった表情で二人を見つめ、耐えきれなかったように怒鳴り声をあげた。
「乙女の部屋でナニをやっとるかーーーっ!!!」
「わーーー!!!」
いや、怒るのも最もです。
エドは急いでキョウコから離れて、足早に服を着た。
ウィンリィの怒号を聞きつけて、彼女を自宅まで連れてきてくれた男達が階段をのぼってやって来た。
「不審者か!?」
「大丈夫か、お嬢ちゃん!!」
「わーーーー!!!」
右手には銃が握られ、銃口は既にこちらへと向いていた。
迂闊なことに、エドは完全な無防備状態である。
キョウコも、エドの後ろから驚いた顔で男達を目視していた。
どう動けばいいかわからなかった。
「なんだ、どうした、侵入者か!?」
「大丈夫か、氷刹に小僧!」
「きゃーーー!!!」
エドの悲鳴を聞きつけて、銃を持ったハインケルとダリウスがやって来た。
「ばうわうわう、がるるるる!!!」
「あいたーー!!!」
飼い主の悲鳴を聞きつけて、羊祭りから帰ってきたデンがハインケルの尻に噛みついた。
「なにやってんだ、おまえら」
「ギャワーン!!!」
騒ぎを聞きつけて、呆れた表情のグリードがデンの襟首を掴んでひょいと持ち上げた。
それからしばらく、ウィンリィの部屋は阿鼻叫喚の場と化した。
「まぁまぁ」
キョウコが全員に落ち着くよう呼びかけると、互いに睨み合いながら銃口を向け合う男達との間に割って入った。
「みんな、とりあえず銃をおろして。一旦、冷静になろう」
そう穏やかになだめると、男達はゆっくりと冷静さを取り戻し、改めてお互いの顔を見る。
そして、見覚えのある顔に驚きの声をあげた。
「あれ?おまえら、ブリックズの…」
「そう言う貴様らはキンブリーの部下の…!!」
銃口が下がることで部屋の阿鼻叫喚は収まり、キョウコは口許に笑みをつくった。
「……?」
ウィンリィは、怪訝と疑惑の眼差しをキョウコに注いで……次にグリードに視線を移して目を見開いた。
まさか、こんなところに彼がいるとは思わなかったからだ。
「リン!?」
「あ?
ウィンリィが疑問府を浮かべながらグリードを見る。
なんだかよくわからないでいると、キョウコは皆に向けてこう言った。
「詳しい説明はこれからするから、とりあえず静かにお願いします。あたし達もあなた方もここにいるのがバレたらまずいでしょう?」
空気を読んでか、エド、キョウコ、ウィンリィ、デン以外の全員が部屋から出ていった。
すると、ウィンリィがエドに対して威嚇するように鋭い一瞥。
すると向こうも、なんらかの気配を感じ取ったらしい。
びくりと背筋を震わせた。
「………心配した」
ぐっと、微かに目許に涙に潤ませ、鼻をすする。
「お…おう、すまん。そっちこそ、無事で…」
無事に再会できたのはいいのだけれど、問題は彼女の手に持っている凶器。
「それはそれとして、なんであんたがあたしの部屋で見ず知らずの女とイチャついてんのよ」
「…この部屋が一番、外から来る人間を見張り
ウィンリィの手に持っていたのはお馴染みのスパナ。
最初の質問前に殴った傷の上からさらにボコボコに殴りにされて悲鳴すら上げる暇なかった。
キョウコは静かにエドに合掌した。
デンはおっかなびっくりエドを見ている。
「……キョウコの事を見ず知らずって、仮にも親友に向かってその言葉はひどくねぇか?」
ウィンリィの奴、何言ってんだ、とでも言いたげな目でエドが立ち上がる。
「はぁ?あたしに同性の友達なんて、そんなの――……」
不思議そうに訊ねるウィンリィはエドに視線をやり、キョウコを見つめた。
何かに気づいたように眉根を寄せる。
「……ん?ん?」
ずいずいと顔を寄せていく。
数秒の間を置いてから、記憶を引き出すことに成功したらしい。
艶やかな黒髪のショートカットの少女の顔が、長い黒髪を一つ結びにした幼馴染みの面影と重なった。
「――キョウコ……?」
「うん。あたしの名前は、キョウコだよ」
まるでキョウコを知らないような驚きに歪む金髪の幼馴染みの反応に、エドは疑問を抱いた。
「なんだいなんだい!むさくるしいのが増えてるじゃないか!」
その時、新たな第三者の声が響き渡る。
階段をのぼってピナコが姿を現し、リゼンブールへと帰ってきた孫娘の姿を前にして目を丸くする。
「ウィンリィ?」
「ばっちゃん!」
「………無事だったんだね」
「……ただいま。心配かけてごめんね」
孫娘の生存を確認して、ホッと胸をなでおろしたピナコは男達へと険しい眼差しを向けた。
「――で、あんたらは?」
険しい眼差しを向けられた二人は居住まいを正すように、帽子を取って揃って頭を下げる。
「おさわがせして申し訳ありません」
「ウィンリィさんの護衛のブリックズ兵であります」
すると、戸惑い気味の眼差しがエドの背後に向けられる。
エドはキョウコの他に、予想外の同行者を伴っていた。
「えっと…」
大柄で引き締まった身体つきのハインケルとダリウスが立っている。
無言の圧力というべきプレッシャーにさらされて、ウィンリィは思わず萎縮してしまった。
「少し前から地下にかくまってもらってんだ」
「リン…は、なんだか少し雰囲気変わったね」
リンが纏う不思議な迫力と威圧感に気圧され、ウィンリィは戸惑いを隠せない。
「あ」
エドは何かを察したように、妙な緊張感を覚えながら言葉に詰まった。
「あーー……言ってなかったっけ…」
だがエドが次の言葉を発するより先に、グリードは言葉を重ねた。
「グリードだ。よろしくな」
「……は?」
不敵に口の端をつり上げるグリードに、与えられた情報を消化しきれずに戸惑いを隠せないウィンリィに対して、エドは気まずそうに頬を掻いた。
彼女のそんな反応は織り込み済みとばかり、キョウコは笑みを浮かべた。
あの後、羊祭りから帰ってきたピナコも交えて今までの経緯をお互いに話した。
「はーー…そんな事が…」
「てな訳で、今こいつら俺の手下」
