第74話
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アルがひそかにバズクールを抜け出し、ウィンリィ達のもとに向かっている間、自分達が何もしないわけにはいかない。
エド達はキンブリーらの目を盗んで会議を始める。
「とりあえずやっかいなのはキンブリーに間違いはないんだけど…その中でも注意したいのは二つ。まず一つは彼の錬金術」
キョウコが周りの仲間達へぐるりと視線を一巡させ、言う。
それに、すかさずエドが加えた。
二人がしばしば見せる、いつも通りの錬金術のやり取りだった。
「キンブリーの右手には太陽の記号。そして左手に月の記号。すなわち陽と陰」
キンブリーの掌に刻まれた錬金術についての解説をし始めるエドは、マイルズ達にも容易に理解できるように行う。
「更に上向きと下向きの三角を組み合わせるとヘキサグラムになる。これは四大元素の全てを含む記号」
「彼は左右の手のひらを合わせる事で発動するタイプの錬成陣だったわ」
そしてキョウコが両の掌を合わせ、怒りに駆られたキンブリーが実際に見せた――両腕を大きく横に伸ばした動作から――発動の条件も分析する。
「という事は片手だけ封じればどうにかなるか?」
「……と思いたいんだが」
ブリックズ兵士の疑問を代弁してマイルズが問う。
すると、エドの表情がたちまち険しくなり、深く考え込んだ。
「あの野郎、賢者の石を持ってる。それがやっかいなんだよなぁ……」
それを受けたキョウコも厳しい面持ちで首を横に振る。
二人がここまでキンブリーを警戒するには理由があった。
人間でありながら人造人間側に加担する彼は幻の術法増幅器である賢者の石を持っていて、あまり迂闊なことはできなかった。
突然、やって来た中央の軍人はレイブン失踪の犯人捜しのために事情聴取を行う。
「レイブン中将ですか?」
威圧的な視線を浴びながらも、彼らの返答にはいささかの揺らぎもない。
「さぁ…砦から出て行った様子はないですね」
一言一言に力を込める。
後ろめたいことなど一点もないと示すように。
その姿勢を固持したまま、作業員は砦の構造に原因を持たせる。
「ここの中は複雑ですから。慣れない者が一人で歩き回って、どこかで事故に…なんて事もあり得ますよ」
最後にバッカニアのもとへ向かうと、神妙な表情で腕を組んで言い放つ。
「さぁてね…アームストロング少将と二人きりで最下層に降りてくのを見たのが最後ですな」
中央の軍人は顔を見合わせた。
そうだとしたらオリヴィエに話を聞きたいところだが、彼女は中央司令部に呼ばれてしばらくは戻ってこない。
ここまで聞いたところ、レイブン失踪の手がかりは未だ見つけられず、事情聴取は難航する。
中央司令部へと呼び出されたオリヴィエは靴音を響かせて目的の場所へと向かう。
彼女の後ろには二人の軍人が控えており、付き添いとして後に続く。
その時、部屋の扉が開いた。
「む」
そこで、部屋から出てきたばかりのロイと遭遇した。
「や。これはアームストロング少将」
「青二才のマスタングが中央勤務とはな」
途端、オリヴィエは露骨に顔をしかめて舌打ちまでする。
一度舌打ちをしてしまったからか、苛立ちを取り繕う努力を放棄し、中央勤務となったロイに向けて暗い嫉妬と共に皮肉を飛ばした。
「どんなコネを使った?」
「いや、実力じゃないですか?」
攻撃的なオリヴィエの台詞に、負けじとロイも切れ長の瞳を剣呑に細めて言い返す。
視線と視線がぶつかり合い、凄まじい火花が散る。
ゴゴゴゴゴゴ……そんな擬音が聞こえてきそうな雰囲気に、
「なに、この空気…」
二人の軍人は表情を強張らせて後ずさる。
忌々しそうに顔を歪めるオリヴィエへ、構わずロイは語りかけた。
「少将殿は、今日はどのようなご用事で?」
「大総統閣下に呼ばれて来た。北へはしばらく戻れんかもしれんな」
「ではぜひ一度、一緒に食事でも」
「おごりか?貴様が破産するまで食べていいなら行ってやるぞ」
真面目な顔で言い放つオリヴィエ。
重い沈黙。
「……食事はあきらめます」
ややあって、ロイはその言葉が冗談ではないように聞こえて、
「本当に破産させられそうだ」
ぼそりとつぶやく。
「なんだ、胆 とサイフの小さい男だな」
食事の誘いはキャンセルとなり、オリヴィエは厳しい口調で斬り捨てる。
彼女は若くして大佐まで昇りつめた男が気に食わなかった。
そんな彼女の心中を知ってか知らずか、ロイがなんということもなく話を続ける。
「ところで、私の部下のキョウコ・アルジェントの事ですが――」
「……」
能面のように固まったオリヴィエの顔、右の眉が僅かに強張りの動きを見せた。
僅か13歳で国家錬金術師を取得した少女がブリックズ要塞に派遣にきた頃を思い出す。
その歳で国家資格を取得とはいえ、屈強な兵士が集う要塞に居合わせるのは明らかに場違いだ。
だが、派遣している事実こそが、彼女が本物であるという保証でもある。
果たして彼女が真に強いか否か確認するために、オリヴィエ自らテストした。
形の上では見事な勝利であっても、キョウコのような若輩の一手がオリヴィエほどの名手に立ち向かったのは間違いない。
無体に打ち倒すのは惜しい、その芽を摘むより、きちんと教え導いて育て上げてこそであろうと。
そういうわけで義兄弟の契りを結び、義姉として導くことにした。
それをロイが、
「私の部下が――」
と誰の許可を得てキョウコを扱っているのか。
不機嫌にならないわけがなかった。
兄弟と共に旅をする前はロイの下で働いていたた。
だから今、彼がそれを口にするのはなんらおかしくはないが、オリヴィエが感じるものに変わりがあるわけではない。
「――いつの間に義理の姉妹の関係になられたのですか?」
「なんだ、お前はそんな事も知らないのか」
平然と受け答えしているが、代わりに声は恐ろしいほどに冷えている。
「お恥ずかしながら。しかし……どういう経緯でキョウコを認め、義兄弟の契りを結ぶまでに?」
「……」
オリヴィエの眉がひそかに、しかしギリギリと音を立てるように、半ミリつり上がった。
「簡単な事だ。キョウコがブリックズの掟に真にふさわしいかテストし、認めたまでだ。私の攻撃に戦意喪失する事なく果敢にぶつかる者は滅多にいなかった。しかし、キョウコは見事やってのけた――ふふふ、僅か13歳の少女がこの難行に成功するとは……」
オリヴィエは意気揚々と胸の内を語り、満足げに微笑む。
恐ろしくも雪の女王と知り合い、思いのほか親しくなったようだ。
ほんの少しでも目を離すと、その隙に決定的な仕事をやってのける黒髪の少女にひそかに感じ入り、ロイは思わず半眼になる。
いつの間にかキョウコの麗しい義姉となった後ろ姿を見つめた。
「ではせめて、麗しい少将殿に似合いの花でも贈るとしましょう。セントラルには良い花屋が多いですから」
せめてもの手向けとして、オリヴィエに花を贈ることにした。
「そうか」
オリヴィエは振り返ることもなく、手を挙げて応えた。
広い中に一人だけ屹立するオリヴィエに、その耳を圧して響き渡る重い声。
「さて、アームストロング少将」
ブラッドレイの口から、彼女の心臓を鷲掴みにする言葉が放たれる。
「レイブン中将の行方不明の件について訊こう。何をした?」
(これは騙しきれんな)
単刀直入な質問に、オリヴィエは回りくどい態度を止めた。
「閣下」
ブラットレイの口から告げられたレイブンを引き合いに出して、逆に訊ねる。
「閣下ともあろうお方が、あのような粗忽者を傍に置いておられるとはどういう事でしょうか?」
もはやわかり切っている。
そこに一片の悪意がなくとも、人造人間の行いはいともたやすく世界を害しうるのだと。
「始末したのかね?」
「要らんでしょう、あれは。あのような口先だけの口の軽い輩がいては閣下のためになりません」
「君の独断で?」
「ええ、私自らの手で。なんなら現場を掘ってください。血のついた私の手袋が一緒に埋まっています」
あっさりとレイブン殺害を認め、証拠隠滅のために投げ捨てた手袋までも自供する。
「レイブン中将は君に何を言った?」
「不死の軍団について。この国の成り立ちについて。"氷の魔女"について。人造人間について。そして、閣下の正体……訊きもしない事を色々と教えてくれました」
最初はレイブンの気持ちを刺激するよう、表向き不老不死に興味を示す口振りで持ちかけた。
ところが、ああもベラベラと、自分の絶対的優位を見せつけるような口の軽さで教えてくれた。
余裕のふうを見せる小物を容赦なく始末した雪の女王は人造人間を見据える。
それはもはや個人に対してではなく――さながら、世界の裏側に隠された巨大な悪意を垣間見てしまったように。
「…君はそれを聞いた上で私の呼び出しに応じたのか」
その、暗躍する人造人間の話を聞いた上で呼び出しに応じたオリヴィエに、ブラッドレイは僅か危機感を抱いた。
大度 に構える強敵の貫禄を感じ取ったからである。
「ええ。あの阿呆の座っていた席を私にください、閣下」
ブラッドレイは驚きを隠せなかった。
彼は知った――これが脅しているのではなく、ただ事実を述べているに過ぎないということを。
オリヴィエがレイブンを始末したせいで、上層部の席が一つ、空席となった。
彼女にとって、呼び出しに応じた要点はそこにあったのだと。
「ふ……」
中将の死に対する感傷など一切なく、笑みが浮かぶ。
「はーーっはっはっは!!面白い!!それでこそ…だ!!」
笑いごとのようにブラッドレイは語り、その明るさとは裏腹に、オリヴィエの表情はますます厳しくなっていく。
「気に入った!強 かに足掻けよ、人間!」
立ち上がるとオリヴィエの真正面まで近づき、鋭い眼光でもって告げた。
「よろしい!君に席を与えよう。代わりにブリックズ砦は私の手の者が治めるが、いいな?」
「どうぞ、ご随意に。手塩にかけて育てた屈強な兵達です。必ずや、閣下のお気に召す事でしょう」
誰にもそんな拒否権がないことを承知で出された許可に、オリヴィエには『No』以外の選択肢はなかった。
ブラッドレイに案内されるがまま部屋の奥へと進むと、そこには軍上層部の人間が集まり、円卓に着座していた。
「ようこそ、オリヴィエ・ミラ・アームストロング少将。さぁ、席へ」
空席となったレイブンの座席を示し、軍人達はオリヴィエを歓迎する。
エド達はキンブリーらの目を盗んで会議を始める。
「とりあえずやっかいなのはキンブリーに間違いはないんだけど…その中でも注意したいのは二つ。まず一つは彼の錬金術」
キョウコが周りの仲間達へぐるりと視線を一巡させ、言う。
それに、すかさずエドが加えた。
二人がしばしば見せる、いつも通りの錬金術のやり取りだった。
「キンブリーの右手には太陽の記号。そして左手に月の記号。すなわち陽と陰」
キンブリーの掌に刻まれた錬金術についての解説をし始めるエドは、マイルズ達にも容易に理解できるように行う。
「更に上向きと下向きの三角を組み合わせるとヘキサグラムになる。これは四大元素の全てを含む記号」
「彼は左右の手のひらを合わせる事で発動するタイプの錬成陣だったわ」
そしてキョウコが両の掌を合わせ、怒りに駆られたキンブリーが実際に見せた――両腕を大きく横に伸ばした動作から――発動の条件も分析する。
「という事は片手だけ封じればどうにかなるか?」
「……と思いたいんだが」
ブリックズ兵士の疑問を代弁してマイルズが問う。
すると、エドの表情がたちまち険しくなり、深く考え込んだ。
「あの野郎、賢者の石を持ってる。それがやっかいなんだよなぁ……」
それを受けたキョウコも厳しい面持ちで首を横に振る。
二人がここまでキンブリーを警戒するには理由があった。
人間でありながら人造人間側に加担する彼は幻の術法増幅器である賢者の石を持っていて、あまり迂闊なことはできなかった。
突然、やって来た中央の軍人はレイブン失踪の犯人捜しのために事情聴取を行う。
「レイブン中将ですか?」
威圧的な視線を浴びながらも、彼らの返答にはいささかの揺らぎもない。
「さぁ…砦から出て行った様子はないですね」
一言一言に力を込める。
後ろめたいことなど一点もないと示すように。
その姿勢を固持したまま、作業員は砦の構造に原因を持たせる。
「ここの中は複雑ですから。慣れない者が一人で歩き回って、どこかで事故に…なんて事もあり得ますよ」
最後にバッカニアのもとへ向かうと、神妙な表情で腕を組んで言い放つ。
「さぁてね…アームストロング少将と二人きりで最下層に降りてくのを見たのが最後ですな」
中央の軍人は顔を見合わせた。
そうだとしたらオリヴィエに話を聞きたいところだが、彼女は中央司令部に呼ばれてしばらくは戻ってこない。
ここまで聞いたところ、レイブン失踪の手がかりは未だ見つけられず、事情聴取は難航する。
中央司令部へと呼び出されたオリヴィエは靴音を響かせて目的の場所へと向かう。
彼女の後ろには二人の軍人が控えており、付き添いとして後に続く。
その時、部屋の扉が開いた。
「む」
そこで、部屋から出てきたばかりのロイと遭遇した。
「や。これはアームストロング少将」
「青二才のマスタングが中央勤務とはな」
途端、オリヴィエは露骨に顔をしかめて舌打ちまでする。
一度舌打ちをしてしまったからか、苛立ちを取り繕う努力を放棄し、中央勤務となったロイに向けて暗い嫉妬と共に皮肉を飛ばした。
「どんなコネを使った?」
「いや、実力じゃないですか?」
攻撃的なオリヴィエの台詞に、負けじとロイも切れ長の瞳を剣呑に細めて言い返す。
視線と視線がぶつかり合い、凄まじい火花が散る。
ゴゴゴゴゴゴ……そんな擬音が聞こえてきそうな雰囲気に、
「なに、この空気…」
二人の軍人は表情を強張らせて後ずさる。
忌々しそうに顔を歪めるオリヴィエへ、構わずロイは語りかけた。
「少将殿は、今日はどのようなご用事で?」
「大総統閣下に呼ばれて来た。北へはしばらく戻れんかもしれんな」
「ではぜひ一度、一緒に食事でも」
「おごりか?貴様が破産するまで食べていいなら行ってやるぞ」
真面目な顔で言い放つオリヴィエ。
重い沈黙。
「……食事はあきらめます」
ややあって、ロイはその言葉が冗談ではないように聞こえて、
「本当に破産させられそうだ」
ぼそりとつぶやく。
「なんだ、
食事の誘いはキャンセルとなり、オリヴィエは厳しい口調で斬り捨てる。
彼女は若くして大佐まで昇りつめた男が気に食わなかった。
そんな彼女の心中を知ってか知らずか、ロイがなんということもなく話を続ける。
「ところで、私の部下のキョウコ・アルジェントの事ですが――」
「……」
能面のように固まったオリヴィエの顔、右の眉が僅かに強張りの動きを見せた。
僅か13歳で国家錬金術師を取得した少女がブリックズ要塞に派遣にきた頃を思い出す。
その歳で国家資格を取得とはいえ、屈強な兵士が集う要塞に居合わせるのは明らかに場違いだ。
だが、派遣している事実こそが、彼女が本物であるという保証でもある。
果たして彼女が真に強いか否か確認するために、オリヴィエ自らテストした。
形の上では見事な勝利であっても、キョウコのような若輩の一手がオリヴィエほどの名手に立ち向かったのは間違いない。
無体に打ち倒すのは惜しい、その芽を摘むより、きちんと教え導いて育て上げてこそであろうと。
そういうわけで義兄弟の契りを結び、義姉として導くことにした。
それをロイが、
「私の部下が――」
と誰の許可を得てキョウコを扱っているのか。
不機嫌にならないわけがなかった。
兄弟と共に旅をする前はロイの下で働いていたた。
だから今、彼がそれを口にするのはなんらおかしくはないが、オリヴィエが感じるものに変わりがあるわけではない。
「――いつの間に義理の姉妹の関係になられたのですか?」
「なんだ、お前はそんな事も知らないのか」
平然と受け答えしているが、代わりに声は恐ろしいほどに冷えている。
「お恥ずかしながら。しかし……どういう経緯でキョウコを認め、義兄弟の契りを結ぶまでに?」
「……」
オリヴィエの眉がひそかに、しかしギリギリと音を立てるように、半ミリつり上がった。
「簡単な事だ。キョウコがブリックズの掟に真にふさわしいかテストし、認めたまでだ。私の攻撃に戦意喪失する事なく果敢にぶつかる者は滅多にいなかった。しかし、キョウコは見事やってのけた――ふふふ、僅か13歳の少女がこの難行に成功するとは……」
オリヴィエは意気揚々と胸の内を語り、満足げに微笑む。
恐ろしくも雪の女王と知り合い、思いのほか親しくなったようだ。
ほんの少しでも目を離すと、その隙に決定的な仕事をやってのける黒髪の少女にひそかに感じ入り、ロイは思わず半眼になる。
いつの間にかキョウコの麗しい義姉となった後ろ姿を見つめた。
「ではせめて、麗しい少将殿に似合いの花でも贈るとしましょう。セントラルには良い花屋が多いですから」
せめてもの手向けとして、オリヴィエに花を贈ることにした。
「そうか」
オリヴィエは振り返ることもなく、手を挙げて応えた。
広い中に一人だけ屹立するオリヴィエに、その耳を圧して響き渡る重い声。
「さて、アームストロング少将」
ブラッドレイの口から、彼女の心臓を鷲掴みにする言葉が放たれる。
「レイブン中将の行方不明の件について訊こう。何をした?」
(これは騙しきれんな)
単刀直入な質問に、オリヴィエは回りくどい態度を止めた。
「閣下」
ブラットレイの口から告げられたレイブンを引き合いに出して、逆に訊ねる。
「閣下ともあろうお方が、あのような粗忽者を傍に置いておられるとはどういう事でしょうか?」
もはやわかり切っている。
そこに一片の悪意がなくとも、人造人間の行いはいともたやすく世界を害しうるのだと。
「始末したのかね?」
「要らんでしょう、あれは。あのような口先だけの口の軽い輩がいては閣下のためになりません」
「君の独断で?」
「ええ、私自らの手で。なんなら現場を掘ってください。血のついた私の手袋が一緒に埋まっています」
あっさりとレイブン殺害を認め、証拠隠滅のために投げ捨てた手袋までも自供する。
「レイブン中将は君に何を言った?」
「不死の軍団について。この国の成り立ちについて。"氷の魔女"について。人造人間について。そして、閣下の正体……訊きもしない事を色々と教えてくれました」
最初はレイブンの気持ちを刺激するよう、表向き不老不死に興味を示す口振りで持ちかけた。
ところが、ああもベラベラと、自分の絶対的優位を見せつけるような口の軽さで教えてくれた。
余裕のふうを見せる小物を容赦なく始末した雪の女王は人造人間を見据える。
それはもはや個人に対してではなく――さながら、世界の裏側に隠された巨大な悪意を垣間見てしまったように。
「…君はそれを聞いた上で私の呼び出しに応じたのか」
その、暗躍する人造人間の話を聞いた上で呼び出しに応じたオリヴィエに、ブラッドレイは僅か危機感を抱いた。
「ええ。あの阿呆の座っていた席を私にください、閣下」
ブラッドレイは驚きを隠せなかった。
彼は知った――これが脅しているのではなく、ただ事実を述べているに過ぎないということを。
オリヴィエがレイブンを始末したせいで、上層部の席が一つ、空席となった。
彼女にとって、呼び出しに応じた要点はそこにあったのだと。
「ふ……」
中将の死に対する感傷など一切なく、笑みが浮かぶ。
「はーーっはっはっは!!面白い!!それでこそ…だ!!」
笑いごとのようにブラッドレイは語り、その明るさとは裏腹に、オリヴィエの表情はますます厳しくなっていく。
「気に入った!
立ち上がるとオリヴィエの真正面まで近づき、鋭い眼光でもって告げた。
「よろしい!君に席を与えよう。代わりにブリックズ砦は私の手の者が治めるが、いいな?」
「どうぞ、ご随意に。手塩にかけて育てた屈強な兵達です。必ずや、閣下のお気に召す事でしょう」
誰にもそんな拒否権がないことを承知で出された許可に、オリヴィエには『No』以外の選択肢はなかった。
ブラッドレイに案内されるがまま部屋の奥へと進むと、そこには軍上層部の人間が集まり、円卓に着座していた。
「ようこそ、オリヴィエ・ミラ・アームストロング少将。さぁ、席へ」
空席となったレイブンの座席を示し、軍人達はオリヴィエを歓迎する。