第55話
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地面が、空が、景色が、全て暗闇に包まれていく。
暗く、冷たく、光すら消失してしまうほどの闇だ。
暗闇が滲み出ていき、それが周囲を黒く染め上げていった。
≪がっははははははは!!!!!≫
暗黒の領域と化した中央でよりいっそう闇に包まれた存在が異様な動きをしながら、笑い声をあげる。
その双眸は不気味に鈍く輝いていた。
≪おまえの身体、よこしな!!このグリード様が≫
「いいだろウ!!!くれてやル!!!」
≪使ってやる………って…は?≫
突然の朗報に、強欲は笑みを消して疑問符を浮かべた。
「受け入れると言ってるんだヨ!」
≪…ふつう、拒絶しねぇか?得体の知れない赤の他人だぞ?≫
呪詛、怨嗟、怨念、それら全てを含んだ聞くだけで精神を破壊する、危険な系統の声。
それらが一斉に流れ込み、
「がっ」
頭を抱え、言い難い苦痛が巡り、意識が飛びかける。
「俺はシンの皇帝になる男ダ。他人の二十や三十、受け入れるだけのでかい懐が無くてどうス…」
賢者の石がもたらす魂との拒絶に全身が震え、言葉を発しようとして失敗した。
「…ル、ぐはっッ!!」
≪がっはっは!でけぇこと言うガキだな!皇帝だと!?≫
「ああ、そうダ…皇帝になるためニ……賢者の石を手に入れるために、この国に来タ…賢者の石には不老不死の秘密ガ…ぐッ!!!」
突き刺さる魂を掴み取り、それを噛みちぎる。
「…強大な力を得られると言うじゃないカ」
口許が、強さと野望につり上がる。
見開かれた双眸は爛々と輝き、強欲を直視した。
「それをわざわざ、この身体に入れてくれると言ウ!!願ったりかなったりダ!!」
空に浮かぶ三日月のように口を裂けさせて、強欲はひとしきりに笑う。
≪がはははは!!思い切りの良い奴は好きだぜ!!おまえとはうまくやれそうだ!!だが、どうなっても知らんぞ!?後悔すんなよ!?止めるなら今のうちだぞ!?≫
死の宣告のような言葉が放たれると、リンは眉を歪ませて激昂する。
「手ぶらで帰ったら腕ぶった斬ってまで尽くしてくれた臣下に合わせる顔が無いだろがッッ!!!!!」
断末魔すらかき消されて、怒声だけが支配する。
尋常ではない威圧感に、笑い声を止めた強欲は黙り込んだ。
「力ガ…」
≪あ?≫
「力が欲しイ…手に入れるためニ…守るためニ…維持するためニ…絶対的な力が必要ダ…!リスクは元より承知!!来い強欲!!受け入れてやル!!」
強欲は、しばしの沈黙の後、三日月のような笑みを浮かべた。
≪その強欲さ…気に入ったぜ。どれ…おまえの覚悟とやら…見せてもらおう!!!≫
最初は驚いた強欲の表情が笑みに変わり、ちっぽけな人間の身体を乗っ取った。
今までにないほど痙攣を起こしたリンは覚醒し、コートを翻す。
自然に見える彼の挙動は、しかし先程とは打って変わって落ち着いていた。
口許には、三日月のような笑みがそのまま残っている。
「あーあ。うまいこと成功しやがって。くそ生意気なあのガキの容姿が残ったんだ…ムカつくなぁ、グリード」
「そう言うおまえも、気色わりィ容姿してんなオイ」
――何?
――何なの?
――今、目の前で繰り広げられてる会話は何?
戦慄する。
脳内にアラームが響き渡り、怖気と鳥肌が全身に行き渡る。
「貴様…」
憎々しげにつぶやくエンヴィーを尻目に、グラトニーは新たな兄弟の誕生に喜ぶ。
「グリード生まれたー、おめでとー、よろしくー。おで、グラトニー!あっちがエンヴィー!」
「暴食 に嫉妬 …なるほどね。よろしくな。魂を分けた兄弟さんよ」
――さっきまでと違って親しげに人造人間と話す彼は誰?
「それと…親父殿。生んでくれて感謝する」
"グリード"と呼ばれたリンは地面に片膝をつく。
「うむ。残りの兄弟は追い追い紹介する」
――人造人間の親玉を親父と呼んで跪く彼は誰なの!?
エンヴィーの足元で、エドとアルが驚きに口を開いた。
「グリードだと…!?」
「あのグリードなのか……?」
グリードは眉をひそめ、腰を下ろして訊ねる。
「あ?あのってどのだ?」
「覚えてない!?」
「リン…何かの冗談だよ、ね?人造人間になっちゃったって…嘘でしょ…?」
エンヴィーから聞いた内容と同じ、人造人間の製造を目の当たりにしたキョウコは、目の前の事実を許容できず、狼狽した。
「リンはリンであってグリードなんかじゃない!!そうだよね!?」
「何言ってんだ、このお嬢さん。俺はグリードだ。リンって奴じゃねぇ」
グリードは何故だか不思議そうな――というよりも、思い切り不審げな眼差しを送ってくる。
「ダブリスのデビルズネストって店で…」
「どこのグリードだ、そりゃ」
まだ聞き覚えがないらしいグリードに"お父様"が助言する。
「おまえの前のグリードだ」
「あー!なるほど!残念だが、俺はおまえらの知ってるグリードとは別モンだ」
納得のいったグリードは頭をガシガシと掻く。
「リン…は…?」
「リンって奴は友達 か?面白いガキだったぜ。奴は俺をすんなり受け入れやがった。悪いな、この入れモンはグリード様がもらっちまったぁ!!」
リンの魂を掌握した強欲は腰に手を当て、
「がっははははははははは」
愉悦の宿る笑い声をあげる。
石の中の魂との混濁が生じ、食い尽くされた。
最後に残るのは、元のものとは別の魂を宿した、人間の皮を被った化け物だけ。
グリードの哄笑が響く中、無力すぎる自分が不甲斐なさ過ぎて唇を噛みしめた。
その時、現実を拒否する兄弟の言葉が紡がれる。
「嘘だ…」
「手を出すなって…」
「勝算があるって…あいつがそんな簡単に乗っ取られるタマかよ…!!返事しろよ、リン!!リン!!」
突如として開かれた扉。
そこから現れた一匹の合成獣に、全員の視線は集中する。
「「…?」」
一拍遅れて合成獣から大量の血が噴き出した。
「「…?」」
その背後には、尾行していたスカーとメイが辺りを見回す。
「傷の男!?」
「…?と、あの時邪魔した娘!?」
「どうして、こんな所に!?」
しかし、メイの視線は三人を見ずに腕を組む"お父様"を捉えた。
「……!?」
刹那、鋭く目を細めた"お父様"と目が合った少女の顔は凍りついた。
「どうした?」
服の裾を不安げに掴まれ、不思議そうな問いに、身体を震わせながら言った。
「いやダ…あの人、いやダ…人だけど人じゃなイ………!!」
地下に潜む不気味な気配の発生源たるそれは、人に在 らざる混沌。
「ふん…たしかに、どれもこれも人ではないな」
彼の横に並ぶ、異形の本体たるエンヴィーとグラトニーを一瞥する。
「シャオメイ!!」
すると、メイの胸元にシャオメイが飛び込んでいった。
まるで人のように悲しげな表情で、涙を流しながら抱き合う。
「よかった!よかった!心配したよぉ!!」
ぱちぱちと拍手しながらコメントするグリード。
「なんか知らんけど、感動の再会?」
(鎧の錬金術師。人造人間とグル…ではない様だ。む…?)
アルの姿を見つけ、続いて二人を視界に入れた途端、声を張り上げた。
「鋼の錬金術師と氷刹の錬金術師!」
「エ!?」
鋼(もしくは氷刹)の固有名詞を聞いたメイが、血相を変えた。
「どこでス!?エドワード様とキョウコ様はどコ!?」
「あれだ、あれ」
「どこにもいないじゃないですか!」
「だから、アレだと言っている。あの小柄なのが、鋼の錬金術師だ」
エンヴィーに押さえつけられている、アレ呼ばわりした自分を指差すスカーの言葉に、
「今、チビってきこえたぞ」
エドは青筋を立てる。
「確実に空耳じゃない?」
「きこえたのが空耳って、何だよそれ」
「幻聴しか無いだろ、兄さん」
すると、キョウコとアルが辛辣な言葉を投げかけた。
「そっか……幻聴気にするあまりストレスで身長が伸びないんだね……悪い事は言わない、今すぐ医者に行きなさい」
「行けるんだったら、とっくにコイツの腕から逃げ出してるっつーの!」
何かを諦めたように首を横に振るキョウコに、苛立った声をあげるエド。
そうやって、二人が息の詰まるような緊迫した状況下でぎゃあぎゃあ騒いでいる時――。
メイに、まるで雷でも落ちたかのような衝撃が走った。
脳裏に過ぎるのは、これまでメイが作り上げてきたエドとの妄想。
「つかまえてごらんなさーい」
「はははははは、まてまてーー」
白い砂浜を、長身の爽やか青年と笑いながら駆けていき、
「ほほほほほ」
「ははははは」
遊園地で恋人同士が乗るだろうメリーゴーランドを楽しみ、
「こいつう」
「いやぁん」
トロピカルドリンクを二つのストローで飲み合い、
「むすめさんをぼくに」
「ばっかもーーん、キサマとは身分がちがうわ」
「あれぇ」
二人の交際を猛反対する父親(ヨキ)からちゃぶ台返しをされ、
「ごめんなさい、私が皇女だったばかりに」
「恋は障害があればあるほど燃えあがるモノさ」
身分の差に嘆くメイの肩を抱いて慰める。
夢見る少女特有の妄想を広げ、そうして作り上げた像がガラガラと崩れ去り、メイは滂沱と涙を流して叫んだ。
「乙女の純情を弄 んだわね、この飯粒男ーッ!!!」
「なんだと、この飯粒女!!」
幼馴染みと弟の両名から注視が向けられた。
キョウコの軽蔑しきった視線。
アルの非難するような視線。
その二つにさらされて、エドはたじろいだ。
「兄さん、あの娘に何したんだよ!?責任とんなよ!!」
「なんもしてねぇ!!」
「まさか、あんな小さな子にまで手を出したの!?前々からだけど見損なったわ!」
「何もしてねぇ!!キョウコはツッコミ所が多すぎて対処できねえよ!」
「ウィンリィに青春くさい事言っといてこれかよ!」
正直が一番だと己に言い聞かせていたら、こんなことまで言われてしまった。
「ばっ…!なんでここで、あいつの名前が出てくんだよ!!」
暗く、冷たく、光すら消失してしまうほどの闇だ。
暗闇が滲み出ていき、それが周囲を黒く染め上げていった。
≪がっははははははは!!!!!≫
暗黒の領域と化した中央でよりいっそう闇に包まれた存在が異様な動きをしながら、笑い声をあげる。
その双眸は不気味に鈍く輝いていた。
≪おまえの身体、よこしな!!このグリード様が≫
「いいだろウ!!!くれてやル!!!」
≪使ってやる………って…は?≫
突然の朗報に、強欲は笑みを消して疑問符を浮かべた。
「受け入れると言ってるんだヨ!」
≪…ふつう、拒絶しねぇか?得体の知れない赤の他人だぞ?≫
呪詛、怨嗟、怨念、それら全てを含んだ聞くだけで精神を破壊する、危険な系統の声。
それらが一斉に流れ込み、
「がっ」
頭を抱え、言い難い苦痛が巡り、意識が飛びかける。
「俺はシンの皇帝になる男ダ。他人の二十や三十、受け入れるだけのでかい懐が無くてどうス…」
賢者の石がもたらす魂との拒絶に全身が震え、言葉を発しようとして失敗した。
「…ル、ぐはっッ!!」
≪がっはっは!でけぇこと言うガキだな!皇帝だと!?≫
「ああ、そうダ…皇帝になるためニ……賢者の石を手に入れるために、この国に来タ…賢者の石には不老不死の秘密ガ…ぐッ!!!」
突き刺さる魂を掴み取り、それを噛みちぎる。
「…強大な力を得られると言うじゃないカ」
口許が、強さと野望につり上がる。
見開かれた双眸は爛々と輝き、強欲を直視した。
「それをわざわざ、この身体に入れてくれると言ウ!!願ったりかなったりダ!!」
空に浮かぶ三日月のように口を裂けさせて、強欲はひとしきりに笑う。
≪がはははは!!思い切りの良い奴は好きだぜ!!おまえとはうまくやれそうだ!!だが、どうなっても知らんぞ!?後悔すんなよ!?止めるなら今のうちだぞ!?≫
死の宣告のような言葉が放たれると、リンは眉を歪ませて激昂する。
「手ぶらで帰ったら腕ぶった斬ってまで尽くしてくれた臣下に合わせる顔が無いだろがッッ!!!!!」
断末魔すらかき消されて、怒声だけが支配する。
尋常ではない威圧感に、笑い声を止めた強欲は黙り込んだ。
「力ガ…」
≪あ?≫
「力が欲しイ…手に入れるためニ…守るためニ…維持するためニ…絶対的な力が必要ダ…!リスクは元より承知!!来い強欲!!受け入れてやル!!」
強欲は、しばしの沈黙の後、三日月のような笑みを浮かべた。
≪その強欲さ…気に入ったぜ。どれ…おまえの覚悟とやら…見せてもらおう!!!≫
最初は驚いた強欲の表情が笑みに変わり、ちっぽけな人間の身体を乗っ取った。
今までにないほど痙攣を起こしたリンは覚醒し、コートを翻す。
自然に見える彼の挙動は、しかし先程とは打って変わって落ち着いていた。
口許には、三日月のような笑みがそのまま残っている。
「あーあ。うまいこと成功しやがって。くそ生意気なあのガキの容姿が残ったんだ…ムカつくなぁ、グリード」
「そう言うおまえも、気色わりィ容姿してんなオイ」
――何?
――何なの?
――今、目の前で繰り広げられてる会話は何?
戦慄する。
脳内にアラームが響き渡り、怖気と鳥肌が全身に行き渡る。
「貴様…」
憎々しげにつぶやくエンヴィーを尻目に、グラトニーは新たな兄弟の誕生に喜ぶ。
「グリード生まれたー、おめでとー、よろしくー。おで、グラトニー!あっちがエンヴィー!」
「
――さっきまでと違って親しげに人造人間と話す彼は誰?
「それと…親父殿。生んでくれて感謝する」
"グリード"と呼ばれたリンは地面に片膝をつく。
「うむ。残りの兄弟は追い追い紹介する」
――人造人間の親玉を親父と呼んで跪く彼は誰なの!?
エンヴィーの足元で、エドとアルが驚きに口を開いた。
「グリードだと…!?」
「あのグリードなのか……?」
グリードは眉をひそめ、腰を下ろして訊ねる。
「あ?あのってどのだ?」
「覚えてない!?」
「リン…何かの冗談だよ、ね?人造人間になっちゃったって…嘘でしょ…?」
エンヴィーから聞いた内容と同じ、人造人間の製造を目の当たりにしたキョウコは、目の前の事実を許容できず、狼狽した。
「リンはリンであってグリードなんかじゃない!!そうだよね!?」
「何言ってんだ、このお嬢さん。俺はグリードだ。リンって奴じゃねぇ」
グリードは何故だか不思議そうな――というよりも、思い切り不審げな眼差しを送ってくる。
「ダブリスのデビルズネストって店で…」
「どこのグリードだ、そりゃ」
まだ聞き覚えがないらしいグリードに"お父様"が助言する。
「おまえの前のグリードだ」
「あー!なるほど!残念だが、俺はおまえらの知ってるグリードとは別モンだ」
納得のいったグリードは頭をガシガシと掻く。
「リン…は…?」
「リンって奴は
リンの魂を掌握した強欲は腰に手を当て、
「がっははははははははは」
愉悦の宿る笑い声をあげる。
石の中の魂との混濁が生じ、食い尽くされた。
最後に残るのは、元のものとは別の魂を宿した、人間の皮を被った化け物だけ。
グリードの哄笑が響く中、無力すぎる自分が不甲斐なさ過ぎて唇を噛みしめた。
その時、現実を拒否する兄弟の言葉が紡がれる。
「嘘だ…」
「手を出すなって…」
「勝算があるって…あいつがそんな簡単に乗っ取られるタマかよ…!!返事しろよ、リン!!リン!!」
突如として開かれた扉。
そこから現れた一匹の合成獣に、全員の視線は集中する。
「「…?」」
一拍遅れて合成獣から大量の血が噴き出した。
「「…?」」
その背後には、尾行していたスカーとメイが辺りを見回す。
「傷の男!?」
「…?と、あの時邪魔した娘!?」
「どうして、こんな所に!?」
しかし、メイの視線は三人を見ずに腕を組む"お父様"を捉えた。
「……!?」
刹那、鋭く目を細めた"お父様"と目が合った少女の顔は凍りついた。
「どうした?」
服の裾を不安げに掴まれ、不思議そうな問いに、身体を震わせながら言った。
「いやダ…あの人、いやダ…人だけど人じゃなイ………!!」
地下に潜む不気味な気配の発生源たるそれは、人に
「ふん…たしかに、どれもこれも人ではないな」
彼の横に並ぶ、異形の本体たるエンヴィーとグラトニーを一瞥する。
「シャオメイ!!」
すると、メイの胸元にシャオメイが飛び込んでいった。
まるで人のように悲しげな表情で、涙を流しながら抱き合う。
「よかった!よかった!心配したよぉ!!」
ぱちぱちと拍手しながらコメントするグリード。
「なんか知らんけど、感動の再会?」
(鎧の錬金術師。人造人間とグル…ではない様だ。む…?)
アルの姿を見つけ、続いて二人を視界に入れた途端、声を張り上げた。
「鋼の錬金術師と氷刹の錬金術師!」
「エ!?」
鋼(もしくは氷刹)の固有名詞を聞いたメイが、血相を変えた。
「どこでス!?エドワード様とキョウコ様はどコ!?」
「あれだ、あれ」
「どこにもいないじゃないですか!」
「だから、アレだと言っている。あの小柄なのが、鋼の錬金術師だ」
エンヴィーに押さえつけられている、アレ呼ばわりした自分を指差すスカーの言葉に、
「今、チビってきこえたぞ」
エドは青筋を立てる。
「確実に空耳じゃない?」
「きこえたのが空耳って、何だよそれ」
「幻聴しか無いだろ、兄さん」
すると、キョウコとアルが辛辣な言葉を投げかけた。
「そっか……幻聴気にするあまりストレスで身長が伸びないんだね……悪い事は言わない、今すぐ医者に行きなさい」
「行けるんだったら、とっくにコイツの腕から逃げ出してるっつーの!」
何かを諦めたように首を横に振るキョウコに、苛立った声をあげるエド。
そうやって、二人が息の詰まるような緊迫した状況下でぎゃあぎゃあ騒いでいる時――。
メイに、まるで雷でも落ちたかのような衝撃が走った。
脳裏に過ぎるのは、これまでメイが作り上げてきたエドとの妄想。
「つかまえてごらんなさーい」
「はははははは、まてまてーー」
白い砂浜を、長身の爽やか青年と笑いながら駆けていき、
「ほほほほほ」
「ははははは」
遊園地で恋人同士が乗るだろうメリーゴーランドを楽しみ、
「こいつう」
「いやぁん」
トロピカルドリンクを二つのストローで飲み合い、
「むすめさんをぼくに」
「ばっかもーーん、キサマとは身分がちがうわ」
「あれぇ」
二人の交際を猛反対する父親(ヨキ)からちゃぶ台返しをされ、
「ごめんなさい、私が皇女だったばかりに」
「恋は障害があればあるほど燃えあがるモノさ」
身分の差に嘆くメイの肩を抱いて慰める。
夢見る少女特有の妄想を広げ、そうして作り上げた像がガラガラと崩れ去り、メイは滂沱と涙を流して叫んだ。
「乙女の純情を
「なんだと、この飯粒女!!」
幼馴染みと弟の両名から注視が向けられた。
キョウコの軽蔑しきった視線。
アルの非難するような視線。
その二つにさらされて、エドはたじろいだ。
「兄さん、あの娘に何したんだよ!?責任とんなよ!!」
「なんもしてねぇ!!」
「まさか、あんな小さな子にまで手を出したの!?前々からだけど見損なったわ!」
「何もしてねぇ!!キョウコはツッコミ所が多すぎて対処できねえよ!」
「ウィンリィに青春くさい事言っといてこれかよ!」
正直が一番だと己に言い聞かせていたら、こんなことまで言われてしまった。
「ばっ…!なんでここで、あいつの名前が出てくんだよ!!」