第54話
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その時、小さく口を開けて佇んでいた"お父様"が驚きに声を漏らす。
「これは驚いた。腹から人間が…」
見覚えのある顔立ちに、エドは身内の錯覚をもたらした。
「ホーエンハイム…………?」
その名を無意識につぶやいた相手は、父親と全く同じ顔立ちの"お父様"だった。
"お父様"は、二人の上から下まで、微に入り細に入り、全身を無遠慮に眺める。
「鋼の手足…鎧……エルリック兄弟か?」
そんな彼の様子を訝しむ二人の眼前に、不意に無表情な顔が近づき、
「「うわっ」」
驚きの声をあげて後ずさる。
「それに、そっちは"氷の魔女"キョウコ・アルジェントだな」
準戦闘態勢――キョウコの警戒心にスイッチが入り、目を細める。
「…奴じゃ…ない?」
「誰かと間違えてないか?ん?待て…ホーエン…ヴァン・ホーエンハイムの事か?」
"お父様"は怪訝な表情を浮かべるが、考える素振りを見せると、
「「わっ」」
再び無表情な顔を近づけた。
「奴とはどういう関係だ?」
「気色わりーな」
「一応、父親……」
感情表現に乏しい顔つきに気味悪がるエドの代わりに、アルが質問に答える。
「父親!!!」
「わっ!!!」
大声をあげた途端、エドの頬を掌で挟み込むと、愉快そうに笑い始めた。
「驚いた!!あいつ、子供なんぞ作っておった!!はははははははははは!!」
「いでっ、いでぇ!!」
その苦悶の響きにも構わず"お父様"は質問を続ける。
「たしかおまえたちの姓は『エルリック』ではなかったか?ん?ん?」
両頬を押し潰す手を払いのけると、父親――彼の意識の中で赤の他人―――との関係性を伝える。
「『エルリック』は母方の姓だ!!ホーエンハイムと母は入籍していない!!あいつとは戸籍上の繋がりは無いんだよ!!」
「そうか…母方の姓だから気付かなかった…で?奴は今どこに?」
「知らねぇよ!!」
家族の元を去り、長いさすらいの旅に出るホーエンハイムの居場所は知るよしもない。
リンは、もう今日何度目になるのかわからない光景に圧倒され、
「………」
シャオメイは配管にしがみつき、牙を剥いて激しく怯える。
「生きていた…そうだ…」
「待て!話が見えない!」
「そんな事より、あなた何者!ホーエンさんとそっくりじゃない!」
問いにも説明にも傾注 せず、何か別のことに意識を向けている。
今の彼は、自分達を半ば無視して、ただ棒立ちしているだけ。
「あれが死ぬはずが無い…しかし、子供まで作って…」
「話きけよ!!」
うわ言のように続ける"お父様"を、全く話がかみ合っていないことにエドは頭を抱え、
「宇宙人!!」
と苛立ち紛れにつっこむ。
怒声に気がついたのか"お父様"は板で固定された彼の左腕に目を向ける。
「ぬ?ケガをしているのか?弟の方は左手が無いな」
「あ…アル、すまん!グラトニーの中におまえの左手、置いてきちまった!」
「うそ!!ちゃんとこれ、治る?」
「つーか、おまえの肉体が…」
弟の肉体が真理に取り残されている……その衝撃の報せを打ち明ける寸前に"お父様"が左腕に手を添え、
「扉の…」
話すタイミングを失った。
刹那、"お父様"が起こす求めの流れに乗って、錬成が起動する。
「「…………」」
エドとキョウコは言葉を失う。
「これでいいかな?」
"お父様"は静かに言う。
アルがおそるおそる目線を下に流すと、そこには元通りになった腕があった。
信じられない光景に目を見張ると、間髪入れずに左手を掴み上げられた。
「いっ!!!」
「骨折か」
「いででっ、いでっ、あでぇ!!!」
その瞬間、錬成反応の青白い光が発せられた。
「…………」
しばらくして、エドは固定していた板を無造作に取ると、指を動かしてみせる。
「……治った…」
(待て…今こいつ…!!)
あっという間に腕が治ったのも束の間、エドは信じられない思いで視線を移す。
「ん?他に悪い所があるのか?頭か?肩か?ん?」
「ちょっ…やめ…いででで!!」
手探りで彼の身体を触ると、胸に手を押し当てた。
「ふむ、肋骨だな。これでいいか?」
「…………お?」
光が止むと同時に、自分の胸に手を当てる。
「おおおおおおおおおお!?」
折れたはずの肋骨が一瞬の内に治った事実に、兄弟は思わず顔を見合わせた。
「「………!!」」
それもそのはず――先程からなんのモーションもなしに術を発動させ、しかも鎧の装甲を薄くせずに元の厚さに生やすなどといった常人とは思えない技を見せつけられているのだ。
(この男…なんのモーションも無しに術を発動させた!)
(しかも、ボクの腕を装甲を薄くせずに、元の厚さに生やした!?)
そんな最中、"お父様"は重傷のキョウコに視線を移す。
「ん?彼女もケガをしているのではないか?」
「…っ、こいつに触るな!!」
ようやく動揺から立ち直ったエドが、伸ばされる手を振り払う。
トン、と床を鳴らす、
「そういう訳にもいかない」
サンダルの靴音に気づけば、驚いたキョウコの眼前に"お父様"が立っていた。
「彼女は最高品質の人材だ」
その傍らに立つ兄弟は、警戒していたにもかかわらず、あっさりと通り過ぎた男に驚きを隠せない。
「ふむ…異常はないが、傷が完治されていないな」
"お父様"はキョウコの身体をペタペタと触り、そして傷という傷を治してしまう。
あの、掌の傷さえも。
「おまえ達は大切な人材だからな。身体は大事にせなばいかんぞ。他にケガは?」
「あ…リンもケガ…」
声をかけると、彼は手の中にある趣味の悪い剣尖をまっすぐ突きつける。
「…なんだ、おまえハ……ありえなイ…なんだ、その中身………」
顔色を蒼白にし、震える唇を噛み、必死に恐怖を抑えている。
震える刃の先には、人造人間を造り出した金髪の男。
「なんの冗談ダ!!」
「そのまま返そう。なんだ、おまえは」
冷たい眼差しにふさわしい、冷却された声で"お父様"は応える。
「食べていいぞ、グラトニー」
「はぁーい」
「待て!こいつはオレの仲間だ!人柱 の顔に免じてだなぁ!ここはほら!なっ!」
「知らん。私には必要の無い人間だ。何故、おまえのような人間がここにいる?仲間?知った事ではない。私にとって必要かそうでないかだ」
エド達には治療を施しながらも、リンの方を全く見ない。
人間という集団については漠然と認知しながらも、個人としての人間には一切関心を持っていないのだ。
「なんだと!?」
「兄さん!」
思わず身を乗り出すエドの肩を、アルは咄嗟に掴む。
「あいつ、人造人間に『お父様』って呼ばれてる。奴らを造った張本人らしい」
その時、キョウコの身体がピクリと痙攣した。
「何!?すなわち悪人?」
暗躍する人造人間を造り出した張本人を目の前にして、
「ボコり放題?」
自身の中で決定づける。
「…っぽいけど、身体治してくれたし……」
その意味を理解できた、もう一人。
(見つけた――とうとう、見つけた――!!)
ただならぬ雰囲気を感じ取り、何事かと思ってキョウコの顔を覗き込み――そこで兄弟は、驚愕に呼吸が止まるかと思った。
「お、おいキョウコ……?」
ブルリと肩を震わせる。
乾いた血に彩られた美しい横顔。
彼女は嗤 っていた。
彼らの前では滅多に見せることのない"氷の魔女"の顔をしながら。
「気に入らないナ。その目、その態度。さすが人造人間の親玉ってところカ…人間を『おろか』と笑い捨てル…奴らと同じ目ダ」
「『おろか』?そんな事、思いはせん。おまえ達は地を這いずる羽虫を見て『おろか』と思うか?虫ケラが足掻いてもレベルが違いすぎて、なんの概観もわかないだろう?」
その瞳からは、なんの情感も窺えない。
ただ淡々と、言葉を紡ぐ。
「私がおまえ達人間に思うのは、それと同じだ」
リンは、男の無分別な理由を知り、青筋を立てる。
直後、エドは"お父様"めがけて地面に突起を錬成する。
しかし、それは地面から現れた壁によっていとも簡単に防がれてしまった。
「てめっ…こら!!」
エンヴィーが慌てたように叫ぶが、顔中から血管を浮き上がらせて、既に決定された事項を宣告する。
「だーーーーめだ!!ケガを治してもらったけど、やっぱ相容れねぇ!!どうやらそっちのヒゲが諸悪の根源らしいな!サクッとぶっとばして、サクッと帰らせてもらおうかい!!」
憤怒の視線で"お父様"を突き刺し、始末のつけ方を思案する。
怒りの剣幕であるエドに対し、リンは警戒を強めるべく出方を窺おうとする。
「待テ!あいつなんかやばいっテ!まず出方をうかがっテ…」
「ああ!?めんどくせぇ!!」
「『将を射んと欲すれば、まず馬を射よ』って言葉を知らんのカ!!」
「将を射んと欲するなら、将を射っちまえばいいだろが!!」
(馬鹿?)
呆れた表情を浮かべるリンをよそに、凄みの利いた声と共にキョウコが並ぶ。
「確かにその通りね」
「キョウコ!」
猛々しく凄絶に笑うキョウコ。
その美貌を、リンは戦慄と共に凝視する。
あんなに荒ぶる彼女など、見たことがなかった。
「長い歳月を費やして、その手がかりの一つさえ得られず、足跡の欠片さえ見つけられなかった怨敵の親玉が目の前にいる……回りくどいのは面倒くさい。とにかく将も馬もぶちのめせばいいのよ」
下された宣告に、リンは愕然とする。
しかし、今のキョウコには逆らえまい。
強烈な殺気に燃える相貌で"お父様"を見据える。
「短期決戦だ、ザコはかまってらんねぇ!!」
軽口を叩き合いながらも、その視線は油断なく敵に固定されている。
がくりと肩を落とすリンに手を置いて、アルは言った。
「その様子じゃ、長く闘えないだろ?」
「……一国の皇子が一般人に情けをかけられるとはまいったネ」
豹変する彼女の後ろ姿を見つめながら、痛む胸を押さえた。
「ザコとはよく言ってくれるね、おチビさん!!」
エンヴィーが、牙だらけの大口を開けて飛びかかかる。
「チ………」
憤怒の形相で、エドの錬成したコードや配管の濁流が、まるで洪水の溢れるように巻き上がる。
「はっは!!この程度でやられると…」
「これは驚いた。腹から人間が…」
見覚えのある顔立ちに、エドは身内の錯覚をもたらした。
「ホーエンハイム…………?」
その名を無意識につぶやいた相手は、父親と全く同じ顔立ちの"お父様"だった。
"お父様"は、二人の上から下まで、微に入り細に入り、全身を無遠慮に眺める。
「鋼の手足…鎧……エルリック兄弟か?」
そんな彼の様子を訝しむ二人の眼前に、不意に無表情な顔が近づき、
「「うわっ」」
驚きの声をあげて後ずさる。
「それに、そっちは"氷の魔女"キョウコ・アルジェントだな」
準戦闘態勢――キョウコの警戒心にスイッチが入り、目を細める。
「…奴じゃ…ない?」
「誰かと間違えてないか?ん?待て…ホーエン…ヴァン・ホーエンハイムの事か?」
"お父様"は怪訝な表情を浮かべるが、考える素振りを見せると、
「「わっ」」
再び無表情な顔を近づけた。
「奴とはどういう関係だ?」
「気色わりーな」
「一応、父親……」
感情表現に乏しい顔つきに気味悪がるエドの代わりに、アルが質問に答える。
「父親!!!」
「わっ!!!」
大声をあげた途端、エドの頬を掌で挟み込むと、愉快そうに笑い始めた。
「驚いた!!あいつ、子供なんぞ作っておった!!はははははははははは!!」
「いでっ、いでぇ!!」
その苦悶の響きにも構わず"お父様"は質問を続ける。
「たしかおまえたちの姓は『エルリック』ではなかったか?ん?ん?」
両頬を押し潰す手を払いのけると、父親――彼の意識の中で赤の他人―――との関係性を伝える。
「『エルリック』は母方の姓だ!!ホーエンハイムと母は入籍していない!!あいつとは戸籍上の繋がりは無いんだよ!!」
「そうか…母方の姓だから気付かなかった…で?奴は今どこに?」
「知らねぇよ!!」
家族の元を去り、長いさすらいの旅に出るホーエンハイムの居場所は知るよしもない。
リンは、もう今日何度目になるのかわからない光景に圧倒され、
「………」
シャオメイは配管にしがみつき、牙を剥いて激しく怯える。
「生きていた…そうだ…」
「待て!話が見えない!」
「そんな事より、あなた何者!ホーエンさんとそっくりじゃない!」
問いにも説明にも
今の彼は、自分達を半ば無視して、ただ棒立ちしているだけ。
「あれが死ぬはずが無い…しかし、子供まで作って…」
「話きけよ!!」
うわ言のように続ける"お父様"を、全く話がかみ合っていないことにエドは頭を抱え、
「宇宙人!!」
と苛立ち紛れにつっこむ。
怒声に気がついたのか"お父様"は板で固定された彼の左腕に目を向ける。
「ぬ?ケガをしているのか?弟の方は左手が無いな」
「あ…アル、すまん!グラトニーの中におまえの左手、置いてきちまった!」
「うそ!!ちゃんとこれ、治る?」
「つーか、おまえの肉体が…」
弟の肉体が真理に取り残されている……その衝撃の報せを打ち明ける寸前に"お父様"が左腕に手を添え、
「扉の…」
話すタイミングを失った。
刹那、"お父様"が起こす求めの流れに乗って、錬成が起動する。
「「…………」」
エドとキョウコは言葉を失う。
「これでいいかな?」
"お父様"は静かに言う。
アルがおそるおそる目線を下に流すと、そこには元通りになった腕があった。
信じられない光景に目を見張ると、間髪入れずに左手を掴み上げられた。
「いっ!!!」
「骨折か」
「いででっ、いでっ、あでぇ!!!」
その瞬間、錬成反応の青白い光が発せられた。
「…………」
しばらくして、エドは固定していた板を無造作に取ると、指を動かしてみせる。
「……治った…」
(待て…今こいつ…!!)
あっという間に腕が治ったのも束の間、エドは信じられない思いで視線を移す。
「ん?他に悪い所があるのか?頭か?肩か?ん?」
「ちょっ…やめ…いででで!!」
手探りで彼の身体を触ると、胸に手を押し当てた。
「ふむ、肋骨だな。これでいいか?」
「…………お?」
光が止むと同時に、自分の胸に手を当てる。
「おおおおおおおおおお!?」
折れたはずの肋骨が一瞬の内に治った事実に、兄弟は思わず顔を見合わせた。
「「………!!」」
それもそのはず――先程からなんのモーションもなしに術を発動させ、しかも鎧の装甲を薄くせずに元の厚さに生やすなどといった常人とは思えない技を見せつけられているのだ。
(この男…なんのモーションも無しに術を発動させた!)
(しかも、ボクの腕を装甲を薄くせずに、元の厚さに生やした!?)
そんな最中、"お父様"は重傷のキョウコに視線を移す。
「ん?彼女もケガをしているのではないか?」
「…っ、こいつに触るな!!」
ようやく動揺から立ち直ったエドが、伸ばされる手を振り払う。
トン、と床を鳴らす、
「そういう訳にもいかない」
サンダルの靴音に気づけば、驚いたキョウコの眼前に"お父様"が立っていた。
「彼女は最高品質の人材だ」
その傍らに立つ兄弟は、警戒していたにもかかわらず、あっさりと通り過ぎた男に驚きを隠せない。
「ふむ…異常はないが、傷が完治されていないな」
"お父様"はキョウコの身体をペタペタと触り、そして傷という傷を治してしまう。
あの、掌の傷さえも。
「おまえ達は大切な人材だからな。身体は大事にせなばいかんぞ。他にケガは?」
「あ…リンもケガ…」
声をかけると、彼は手の中にある趣味の悪い剣尖をまっすぐ突きつける。
「…なんだ、おまえハ……ありえなイ…なんだ、その中身………」
顔色を蒼白にし、震える唇を噛み、必死に恐怖を抑えている。
震える刃の先には、人造人間を造り出した金髪の男。
「なんの冗談ダ!!」
「そのまま返そう。なんだ、おまえは」
冷たい眼差しにふさわしい、冷却された声で"お父様"は応える。
「食べていいぞ、グラトニー」
「はぁーい」
「待て!こいつはオレの仲間だ!
「知らん。私には必要の無い人間だ。何故、おまえのような人間がここにいる?仲間?知った事ではない。私にとって必要かそうでないかだ」
エド達には治療を施しながらも、リンの方を全く見ない。
人間という集団については漠然と認知しながらも、個人としての人間には一切関心を持っていないのだ。
「なんだと!?」
「兄さん!」
思わず身を乗り出すエドの肩を、アルは咄嗟に掴む。
「あいつ、人造人間に『お父様』って呼ばれてる。奴らを造った張本人らしい」
その時、キョウコの身体がピクリと痙攣した。
「何!?すなわち悪人?」
暗躍する人造人間を造り出した張本人を目の前にして、
「ボコり放題?」
自身の中で決定づける。
「…っぽいけど、身体治してくれたし……」
その意味を理解できた、もう一人。
(見つけた――とうとう、見つけた――!!)
ただならぬ雰囲気を感じ取り、何事かと思ってキョウコの顔を覗き込み――そこで兄弟は、驚愕に呼吸が止まるかと思った。
「お、おいキョウコ……?」
ブルリと肩を震わせる。
乾いた血に彩られた美しい横顔。
彼女は
彼らの前では滅多に見せることのない"氷の魔女"の顔をしながら。
「気に入らないナ。その目、その態度。さすが人造人間の親玉ってところカ…人間を『おろか』と笑い捨てル…奴らと同じ目ダ」
「『おろか』?そんな事、思いはせん。おまえ達は地を這いずる羽虫を見て『おろか』と思うか?虫ケラが足掻いてもレベルが違いすぎて、なんの概観もわかないだろう?」
その瞳からは、なんの情感も窺えない。
ただ淡々と、言葉を紡ぐ。
「私がおまえ達人間に思うのは、それと同じだ」
リンは、男の無分別な理由を知り、青筋を立てる。
直後、エドは"お父様"めがけて地面に突起を錬成する。
しかし、それは地面から現れた壁によっていとも簡単に防がれてしまった。
「てめっ…こら!!」
エンヴィーが慌てたように叫ぶが、顔中から血管を浮き上がらせて、既に決定された事項を宣告する。
「だーーーーめだ!!ケガを治してもらったけど、やっぱ相容れねぇ!!どうやらそっちのヒゲが諸悪の根源らしいな!サクッとぶっとばして、サクッと帰らせてもらおうかい!!」
憤怒の視線で"お父様"を突き刺し、始末のつけ方を思案する。
怒りの剣幕であるエドに対し、リンは警戒を強めるべく出方を窺おうとする。
「待テ!あいつなんかやばいっテ!まず出方をうかがっテ…」
「ああ!?めんどくせぇ!!」
「『将を射んと欲すれば、まず馬を射よ』って言葉を知らんのカ!!」
「将を射んと欲するなら、将を射っちまえばいいだろが!!」
(馬鹿?)
呆れた表情を浮かべるリンをよそに、凄みの利いた声と共にキョウコが並ぶ。
「確かにその通りね」
「キョウコ!」
猛々しく凄絶に笑うキョウコ。
その美貌を、リンは戦慄と共に凝視する。
あんなに荒ぶる彼女など、見たことがなかった。
「長い歳月を費やして、その手がかりの一つさえ得られず、足跡の欠片さえ見つけられなかった怨敵の親玉が目の前にいる……回りくどいのは面倒くさい。とにかく将も馬もぶちのめせばいいのよ」
下された宣告に、リンは愕然とする。
しかし、今のキョウコには逆らえまい。
強烈な殺気に燃える相貌で"お父様"を見据える。
「短期決戦だ、ザコはかまってらんねぇ!!」
軽口を叩き合いながらも、その視線は油断なく敵に固定されている。
がくりと肩を落とすリンに手を置いて、アルは言った。
「その様子じゃ、長く闘えないだろ?」
「……一国の皇子が一般人に情けをかけられるとはまいったネ」
豹変する彼女の後ろ姿を見つめながら、痛む胸を押さえた。
「ザコとはよく言ってくれるね、おチビさん!!」
エンヴィーが、牙だらけの大口を開けて飛びかかかる。
「チ………」
憤怒の形相で、エドの錬成したコードや配管の濁流が、まるで洪水の溢れるように巻き上がる。
「はっは!!この程度でやられると…」