第50話
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メキメキと音を立てて、その巨躯の輪郭が揺れ始める。
そうして姿を現したのは、不敵に笑うエンヴィーだった。
「やあ。鋼のおチビさん。それとキョウコも久しぶりだぁ!」
「…どぁぁ」
怒りに震える声と共に大股で進むエドに、キョウコの口の端が痙攣する。
「エ、エド…?」
「るぇぇ、がぁ…」
「へ?」
「ミジンコゾウリムシドチビかーーーッ!!!」
間髪入れずに突っ込んでいくエドの跳び蹴りを、
「おわっ!!?」
エンヴィーはギリギリで避け、背後にあった木が『く』の字に曲がる。
「……エンヴィーはそこまで言ってないよ」
あぁ……頭に血が昇って全然聞こえてない。
これにはさすがのエンヴィーも後ずさり、前に出した両手を振って戦う気はないと示す。
「ちょっと待ちなよ!!おチビさんとやりあう気は…」
「5回目ェ!!!」
追い討ちのように放たれたアッパーカットが鼻先を掠める。
物凄い剣幕のエドに追いつめられたエンヴィーは幹に身体を張りつけ、訳がわからない、といった感じに叫ぶ。
「なっ…なっ…なんの話だよ!!」
途端、火の点いたような怒鳴り声が続く。
「さっきと今ので2回!!そして、第五研究所の地下でオレの事を3回チビって言った!!忘れたとは言わせねェぞ!!」
怒号を聞いたキョウコとアルは顔を引きつらせ、呆れ気味に返すエンヴィーは押される。
「…すごい、よく覚えてるね…」
「…すンごい記憶力…」
「ここで会ったが百年目だぜエエエ、エンヴィィィィ!!!」
妙にギラつく目でエンヴィーへと口汚く罵声をぶつける……なんだろう、この異様な目つきは。
その後ろにいるアルは兄の悪人面に現実逃避し、リンは冷めた声で眺め、
「化物…」
「もはや顔は悪以外の何者でもないね」
キョウコはめまいを感じた。
彼の表情がヤバいです。
非情に嫌らしい顔してます。
間違っても主人公側がしちゃいけない顔です。
近くの木から丸太を錬成し、エンヴィーめがけて突き飛ばす。
躊躇ない攻撃にエンヴィーは顔を歪め、
「げ」
丸太が直撃する寸前に上へ跳ぶ。
「挑発しちゃダメだよ、兄さん!!」
「落ち着いて、頭を冷やしなさい」
アルが暴れるエドの腕を掴み、キョウコは両手を合わせて冷気を作り出す。
リンは不意に、幹を蹴って跳躍する足音に気づく。
木の枝に飛び乗ってグラトニーの傍へ着地したエンヴィーは嘆息する。
「血の気多いなぁ、も~~~~」
すると、未だ興奮の収まらないグラトニーが叫ぶ。
「マスタングが!!ラストの敵 がいた!!飲む!!飲む!!飲んでやる!!」
「ああ?その辺にはいなかったぞ。もう逃げたんじゃないのか?それに大佐 は飲んじゃダメだ」
「そんなぁ…ラスト…ラストの敵なのに…」
ぐすぐすと涙を流してグラトニーはうなだれ、エンヴィーはリンを一瞥する。
「ふん…」
異国の青年がキョウコにまとわりつき、傍に来るのは認めがたい。
敵意を込めて睨みつける。
「まーたおまえか、糸目の」
「ドーモ。今日は俺に捕まりに来てくれたのかナ?」
軽い口調で声をかけるリンは視線をキョウコに移し、何かを訴えてきた。
――この機会を逃す手はない。
三人の中でも勘が異様に鋭いリンの報告に、キョウコも頷き返す。
すっと顔を上げ、可憐な唇で口を開く。
「エンヴィー、今日は何をしにここへ来たの?」
ここに来た理由を訊ねるつもりだろう。
リンは口をつむぐことにした。
キョウコの聡明な話しぶりを聞いて、腕をグラトニーの頭に乗っける。
「コイツを迎えに来ただけだよ……と言いたいところだけど、そいつだけはぶっ殺しとかないとね」
「……ダメって言ったら?」
「キョウコ、襲っていい?」
「絶対ダメ」
「じゃあ、その糸目殺すからどいてて」
少年と見えるエンヴィーは、長い前髪の下から得体の知れない笑顔を向ける。
――何、その二択…!
「グラトニー!焔の大佐とエルリック兄弟、キョウコはダメだが、あの糸目は飲ませてやる。腹減ってるだろ?頭からバックリいっちゃいな!」
目が細められていくにつれて、邪悪、としか表現しようのない笑みがその顔を覆い、グラトニーに念押しする。
「いいかい?くれぐれも兄弟とキョウコは飲んじゃダメだ。あの糸目だけだぞ」
「うん!」
同じく機会を求めていたようにエドも不敵に笑い、
「おっとぉ?光明が見えて来たぜ」
「どうやら、あたし達三人は狩れないみたいだね、あちらさん」
彼の表情を見て考えを察したのか、キョウコが言い、
「おまけに、グラトニーを少し大人しくしてくれたよ」
さらにアルも加わった。
「て事ハ…」
リンは刀を持ち直し、三人が考えていることを把握しているようで、準備万端。
「こうだ!!」
エドは手を合わせると、エンヴィーとグラトニーの間に壁を錬成して遮断させる。
「そっちは任せたぞ、リン!!」
その合図と共にエド達はグラトニーへ邁進し、リンはエンヴィーと対峙する。
「キョウコの周りの男は、みんな邪魔なんだよね」
「しつこい男は嫌われるヨ」
「…まず、おまえをぶっ殺してやる」
「じゃあ、まずおまえを捕まえてやるヨ」
エンヴィーは笑みの中に、まるで牙を剥くように白い歯を覗かせ、リンは冷や汗を流しながら口の端をつり上げる。
滑るように地を踏み込んでリンは青竜刀を振るい、エンヴィーは両手をかざして襲いかかってくる斬撃を受け流す。
「…っとォ!!」
凄まじい斬撃を繰り出し回避しながら再び繰り出す攻防。
一秒間にお互い打ち合う手数だけが気が狂わんほどに多い。
「…のヤロ、さすが『キング・ブラッドレイ』と切り結んだって言うだけはあるな!」
「お褒めの言葉、ドーモ。あんたハ……」
リンは敵を見ているようで、その実もっと遠くを見ていた。
それが次の攻撃を放ちながら十手先を見据えて戦術を組み立てている目である。
「奴と違って、スキだらけダ!!」
防御のために挙げた右手を片手で受け止め、持ち替えた青竜刀で無防備な脇腹を薙ぐ。
手応えはあったにもかかわらず、
「にっ」
エンヴィーは不気味に笑った。
次の瞬間、リンの首に長く伸びた腕が巻きつく。
「かかったな」
「なる程…肉を斬らせて骨を断つ…カ」
「前の闘いでおまえは一筋縄でいかないのを知ったからね。どうだい?おまえらニンゲンにはできない芸当だろ?」
それを満足げに眺めて、舌なめずりをする。
「さぁて…絞殺されたいか?咬み殺されたいか?」
ギチギチと巻きついた右腕が蛇に、左腕が剣に変形する。
「それとも、斬り刻まれたいか?」
「グ…」
首で腕が絞まり、締めつける力で骨が軋み、青竜刀を落としてしまう。
「…そんじゃ、斬り刻む方向デ……」
刹那、爪先にかぶせた砂を撒き散らし、エンヴィーの視界を歪ませる。
その隙を見逃さず、巻きついた腕を引っ張り、剣に変形した腕を握ると、絞めつけていた腕を斬る。
途中で落下する青竜刀をしっかり握りしめ、頸動脈に強烈な一太刀を浴びせた。
「ヤ……ロウ…目潰しなんて、セコい手使いやがって…」
さすがの人造人間も、この直撃には身体を後方によろめかせ、膝をついた。
「家柄のせいで、小さい頃から暗殺の危機にさらされ続けてるんでネ。強くセコくならざるを得なかったんだヨ」
尋常ならざる臨機応変な判断と、類まれなる運動神経。
そして、今まで経験してきた修羅場の数々が、この状況を切り抜けさせた。
「俺の未来の花嫁は、人造人間なんかに渡さなイ。どうだイ。前も言ったが、大人しく捕まってくれりゃ、危害は加えなイ。こっちは賢者の石の情報を持ち帰ればいいんダ」
エンヴィーが仮面を脱いで元の素顔を見せた。
すなわち、鬼の形相を。
「糞が…ニンゲンふぜいが見下してんじゃねぇ!!」
「人間なめるなヨ、人造人間!!」
リンも荒々しい表情を前面に押し出し、迎え撃つ。
グラトニーの捕獲へと邁進するキョウコは兄弟に目をやり、改めて指示を下す。
「グラトニーの周りを吸い込む力にはくれぐれも気をつける事!もう一回捕まえる!」
まさに威令と響く声を受け、心身を引き締める。
「「OK!!」」
すかさずエドは地面に大きく深い井戸を錬成、
「あれーーーーー」
グラトニーは真っ逆さまに落ちていった。
「よし、捕った!!」
自信満々に言い放つが、肋骨を伸ばし這い上がってきた。
「あぶないな、も~~~」
「そういやこいつ、肋骨伸びるんだった…」
「そう簡単にはいかないって事だね」
「にゃろ!!」
地面から拳を錬成し打ちつけると、グラトニーは呆気なく転倒する。
「いたぁい」
敵が体勢を整える間に疾走、すかさず右回し蹴りを繰り出すが、
「せッ!!」
グラトニーはその蹴りをうっとうしそうに避け、腕を突き出した。
「あう~~~~。じゃま~~」
「ぶわっ!!」
咄嗟に後ろへ下がると、太い腕が真横を通り過ぎ、エドは肝を冷やした。
「おまえら、食べちゃダメなの~~~。あっちの糸目が食べたいの~~」
エドに気を取られている間に、
「はッ!!」
キョウコが飛びかかり、強烈な回し蹴りを炸裂させる。
「じゃましないで~~~」
「まだまだ!!」
回し蹴りの勢いをそのままに足を組み替えると、続く二撃目を繰り出す。
狙い過 たずキョウコの放ったハイキックがグラトニーの顔面に直撃。
「アル、お願い!!」
「了解!!」
衝撃で吹っ飛ばされると共に、アルは後ろから羽交い締めに受け止める。
「捕まえた!!」
「よっしゃ、いいぞ、アル!!」
「捕まえたけど、どうしよう!!」
アルの腕の中で、グラトニーは滅茶苦茶に暴れる。
「待って!今、鎖を錬成するから!!」
そう言って錬成しようとした瞬間、
「え」
グラトニーはアルの腕を掴むと、そのまま軽々と持ち上げ、投げ飛ばす。
「えい」
「おっ…わあ!!」
同時に振り向いた二人は飛んでくるアルの姿に青ざめた。
「エド、アル!!」
草木が潰れる音と共に仲良く転がってきた兄弟に、リンは振り返る。
「おいおい、こっちの邪魔すんナ…」
「リン、構えて!!」
「……ヨ!!」
隙を窺い、間合いを一気に詰め、息を呑むリンを薙ぎ倒す動きで狙ってきたエンヴィーの拳を避け、足を切り飛ばす。
「く…あ゙あ゙っ!!」
刀が肉を引き裂き、痛みに悲鳴をあげ、凄まじい勢いで地面に倒れた。
止めを刺そうと振り上げるリンが視界に入り、彼はランファへと姿を変えた。
途端、目を見開き、一瞬の躊躇を見せる。
(はっは!!止まった!!やれ!!グラトニー!!)
従者へと姿を変えた後の硬直が、僅かに反応を遅らせた
邪魔者を飲み込むべく、グラトニーの腹が膨れ上がった。
そうして姿を現したのは、不敵に笑うエンヴィーだった。
「やあ。鋼のおチビさん。それとキョウコも久しぶりだぁ!」
「…どぁぁ」
怒りに震える声と共に大股で進むエドに、キョウコの口の端が痙攣する。
「エ、エド…?」
「るぇぇ、がぁ…」
「へ?」
「ミジンコゾウリムシドチビかーーーッ!!!」
間髪入れずに突っ込んでいくエドの跳び蹴りを、
「おわっ!!?」
エンヴィーはギリギリで避け、背後にあった木が『く』の字に曲がる。
「……エンヴィーはそこまで言ってないよ」
あぁ……頭に血が昇って全然聞こえてない。
これにはさすがのエンヴィーも後ずさり、前に出した両手を振って戦う気はないと示す。
「ちょっと待ちなよ!!おチビさんとやりあう気は…」
「5回目ェ!!!」
追い討ちのように放たれたアッパーカットが鼻先を掠める。
物凄い剣幕のエドに追いつめられたエンヴィーは幹に身体を張りつけ、訳がわからない、といった感じに叫ぶ。
「なっ…なっ…なんの話だよ!!」
途端、火の点いたような怒鳴り声が続く。
「さっきと今ので2回!!そして、第五研究所の地下でオレの事を3回チビって言った!!忘れたとは言わせねェぞ!!」
怒号を聞いたキョウコとアルは顔を引きつらせ、呆れ気味に返すエンヴィーは押される。
「…すごい、よく覚えてるね…」
「…すンごい記憶力…」
「ここで会ったが百年目だぜエエエ、エンヴィィィィ!!!」
妙にギラつく目でエンヴィーへと口汚く罵声をぶつける……なんだろう、この異様な目つきは。
その後ろにいるアルは兄の悪人面に現実逃避し、リンは冷めた声で眺め、
「化物…」
「もはや顔は悪以外の何者でもないね」
キョウコはめまいを感じた。
彼の表情がヤバいです。
非情に嫌らしい顔してます。
間違っても主人公側がしちゃいけない顔です。
近くの木から丸太を錬成し、エンヴィーめがけて突き飛ばす。
躊躇ない攻撃にエンヴィーは顔を歪め、
「げ」
丸太が直撃する寸前に上へ跳ぶ。
「挑発しちゃダメだよ、兄さん!!」
「落ち着いて、頭を冷やしなさい」
アルが暴れるエドの腕を掴み、キョウコは両手を合わせて冷気を作り出す。
リンは不意に、幹を蹴って跳躍する足音に気づく。
木の枝に飛び乗ってグラトニーの傍へ着地したエンヴィーは嘆息する。
「血の気多いなぁ、も~~~~」
すると、未だ興奮の収まらないグラトニーが叫ぶ。
「マスタングが!!ラストの
「ああ?その辺にはいなかったぞ。もう逃げたんじゃないのか?それに
「そんなぁ…ラスト…ラストの敵なのに…」
ぐすぐすと涙を流してグラトニーはうなだれ、エンヴィーはリンを一瞥する。
「ふん…」
異国の青年がキョウコにまとわりつき、傍に来るのは認めがたい。
敵意を込めて睨みつける。
「まーたおまえか、糸目の」
「ドーモ。今日は俺に捕まりに来てくれたのかナ?」
軽い口調で声をかけるリンは視線をキョウコに移し、何かを訴えてきた。
――この機会を逃す手はない。
三人の中でも勘が異様に鋭いリンの報告に、キョウコも頷き返す。
すっと顔を上げ、可憐な唇で口を開く。
「エンヴィー、今日は何をしにここへ来たの?」
ここに来た理由を訊ねるつもりだろう。
リンは口をつむぐことにした。
キョウコの聡明な話しぶりを聞いて、腕をグラトニーの頭に乗っける。
「コイツを迎えに来ただけだよ……と言いたいところだけど、そいつだけはぶっ殺しとかないとね」
「……ダメって言ったら?」
「キョウコ、襲っていい?」
「絶対ダメ」
「じゃあ、その糸目殺すからどいてて」
少年と見えるエンヴィーは、長い前髪の下から得体の知れない笑顔を向ける。
――何、その二択…!
「グラトニー!焔の大佐とエルリック兄弟、キョウコはダメだが、あの糸目は飲ませてやる。腹減ってるだろ?頭からバックリいっちゃいな!」
目が細められていくにつれて、邪悪、としか表現しようのない笑みがその顔を覆い、グラトニーに念押しする。
「いいかい?くれぐれも兄弟とキョウコは飲んじゃダメだ。あの糸目だけだぞ」
「うん!」
同じく機会を求めていたようにエドも不敵に笑い、
「おっとぉ?光明が見えて来たぜ」
「どうやら、あたし達三人は狩れないみたいだね、あちらさん」
彼の表情を見て考えを察したのか、キョウコが言い、
「おまけに、グラトニーを少し大人しくしてくれたよ」
さらにアルも加わった。
「て事ハ…」
リンは刀を持ち直し、三人が考えていることを把握しているようで、準備万端。
「こうだ!!」
エドは手を合わせると、エンヴィーとグラトニーの間に壁を錬成して遮断させる。
「そっちは任せたぞ、リン!!」
その合図と共にエド達はグラトニーへ邁進し、リンはエンヴィーと対峙する。
「キョウコの周りの男は、みんな邪魔なんだよね」
「しつこい男は嫌われるヨ」
「…まず、おまえをぶっ殺してやる」
「じゃあ、まずおまえを捕まえてやるヨ」
エンヴィーは笑みの中に、まるで牙を剥くように白い歯を覗かせ、リンは冷や汗を流しながら口の端をつり上げる。
滑るように地を踏み込んでリンは青竜刀を振るい、エンヴィーは両手をかざして襲いかかってくる斬撃を受け流す。
「…っとォ!!」
凄まじい斬撃を繰り出し回避しながら再び繰り出す攻防。
一秒間にお互い打ち合う手数だけが気が狂わんほどに多い。
「…のヤロ、さすが『キング・ブラッドレイ』と切り結んだって言うだけはあるな!」
「お褒めの言葉、ドーモ。あんたハ……」
リンは敵を見ているようで、その実もっと遠くを見ていた。
それが次の攻撃を放ちながら十手先を見据えて戦術を組み立てている目である。
「奴と違って、スキだらけダ!!」
防御のために挙げた右手を片手で受け止め、持ち替えた青竜刀で無防備な脇腹を薙ぐ。
手応えはあったにもかかわらず、
「にっ」
エンヴィーは不気味に笑った。
次の瞬間、リンの首に長く伸びた腕が巻きつく。
「かかったな」
「なる程…肉を斬らせて骨を断つ…カ」
「前の闘いでおまえは一筋縄でいかないのを知ったからね。どうだい?おまえらニンゲンにはできない芸当だろ?」
それを満足げに眺めて、舌なめずりをする。
「さぁて…絞殺されたいか?咬み殺されたいか?」
ギチギチと巻きついた右腕が蛇に、左腕が剣に変形する。
「それとも、斬り刻まれたいか?」
「グ…」
首で腕が絞まり、締めつける力で骨が軋み、青竜刀を落としてしまう。
「…そんじゃ、斬り刻む方向デ……」
刹那、爪先にかぶせた砂を撒き散らし、エンヴィーの視界を歪ませる。
その隙を見逃さず、巻きついた腕を引っ張り、剣に変形した腕を握ると、絞めつけていた腕を斬る。
途中で落下する青竜刀をしっかり握りしめ、頸動脈に強烈な一太刀を浴びせた。
「ヤ……ロウ…目潰しなんて、セコい手使いやがって…」
さすがの人造人間も、この直撃には身体を後方によろめかせ、膝をついた。
「家柄のせいで、小さい頃から暗殺の危機にさらされ続けてるんでネ。強くセコくならざるを得なかったんだヨ」
尋常ならざる臨機応変な判断と、類まれなる運動神経。
そして、今まで経験してきた修羅場の数々が、この状況を切り抜けさせた。
「俺の未来の花嫁は、人造人間なんかに渡さなイ。どうだイ。前も言ったが、大人しく捕まってくれりゃ、危害は加えなイ。こっちは賢者の石の情報を持ち帰ればいいんダ」
エンヴィーが仮面を脱いで元の素顔を見せた。
すなわち、鬼の形相を。
「糞が…ニンゲンふぜいが見下してんじゃねぇ!!」
「人間なめるなヨ、人造人間!!」
リンも荒々しい表情を前面に押し出し、迎え撃つ。
グラトニーの捕獲へと邁進するキョウコは兄弟に目をやり、改めて指示を下す。
「グラトニーの周りを吸い込む力にはくれぐれも気をつける事!もう一回捕まえる!」
まさに威令と響く声を受け、心身を引き締める。
「「OK!!」」
すかさずエドは地面に大きく深い井戸を錬成、
「あれーーーーー」
グラトニーは真っ逆さまに落ちていった。
「よし、捕った!!」
自信満々に言い放つが、肋骨を伸ばし這い上がってきた。
「あぶないな、も~~~」
「そういやこいつ、肋骨伸びるんだった…」
「そう簡単にはいかないって事だね」
「にゃろ!!」
地面から拳を錬成し打ちつけると、グラトニーは呆気なく転倒する。
「いたぁい」
敵が体勢を整える間に疾走、すかさず右回し蹴りを繰り出すが、
「せッ!!」
グラトニーはその蹴りをうっとうしそうに避け、腕を突き出した。
「あう~~~~。じゃま~~」
「ぶわっ!!」
咄嗟に後ろへ下がると、太い腕が真横を通り過ぎ、エドは肝を冷やした。
「おまえら、食べちゃダメなの~~~。あっちの糸目が食べたいの~~」
エドに気を取られている間に、
「はッ!!」
キョウコが飛びかかり、強烈な回し蹴りを炸裂させる。
「じゃましないで~~~」
「まだまだ!!」
回し蹴りの勢いをそのままに足を組み替えると、続く二撃目を繰り出す。
狙い
「アル、お願い!!」
「了解!!」
衝撃で吹っ飛ばされると共に、アルは後ろから羽交い締めに受け止める。
「捕まえた!!」
「よっしゃ、いいぞ、アル!!」
「捕まえたけど、どうしよう!!」
アルの腕の中で、グラトニーは滅茶苦茶に暴れる。
「待って!今、鎖を錬成するから!!」
そう言って錬成しようとした瞬間、
「え」
グラトニーはアルの腕を掴むと、そのまま軽々と持ち上げ、投げ飛ばす。
「えい」
「おっ…わあ!!」
同時に振り向いた二人は飛んでくるアルの姿に青ざめた。
「エド、アル!!」
草木が潰れる音と共に仲良く転がってきた兄弟に、リンは振り返る。
「おいおい、こっちの邪魔すんナ…」
「リン、構えて!!」
「……ヨ!!」
隙を窺い、間合いを一気に詰め、息を呑むリンを薙ぎ倒す動きで狙ってきたエンヴィーの拳を避け、足を切り飛ばす。
「く…あ゙あ゙っ!!」
刀が肉を引き裂き、痛みに悲鳴をあげ、凄まじい勢いで地面に倒れた。
止めを刺そうと振り上げるリンが視界に入り、彼はランファへと姿を変えた。
途端、目を見開き、一瞬の躊躇を見せる。
(はっは!!止まった!!やれ!!グラトニー!!)
従者へと姿を変えた後の硬直が、僅かに反応を遅らせた
邪魔者を飲み込むべく、グラトニーの腹が膨れ上がった。