第49話
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
その口から絶命の叫喚をも溶かして流す、壮絶な衝撃が、建物を丸呑みに喰らう。
周囲の誰もがそれに驚き注目する、あるいは余波に巻き込まれて倒れる。
床に尻餅をついたエドとキョウコは戦慄し、その惨状を眺める。
二人が半秒前まで立っていた場所は深く抉られ、地面が剥き出しになっていた。
「な……何しやがった、こいつ……!!」
その余韻である中から、一つの人影が現れる。
ついでのように、小屋が人影へと吸い込まれた。
割れた腹から左右に開いた肋骨を覗かせるグラトニーが、凶暴な眼光で睨みつける。
細かく重く質感を響かせて、巨大な扉が閉まった。
廊下の脇に並ぶ灯りが、一人の帰還者を照らす。
大総統官邸の廊下を進むブラッドレイの耳に、感情のこもらない低い声が届いた。
≪「ラース」≫
その声は第七の人造人間「プライド」。
エンヴィーをも黙らせたその姿は見せようとせず、聞く者は、まるで威圧されているかのような錯覚まで覚えさせられる。
が、ブラッドレイは怯まない。
「…『プライド』か」
≪傷の男に逃げられたそうじゃないですか≫
「ああ。おまけに、グラトニーが何者かに捕まったようだ」
≪なんですって!?≫
平静を常とする彼の声が驚きに上擦った。
≪どうしたのですか、しっかりやってくれないと困りますよ。最近奴らに振り回されっぱなしではないですか。詰めも甘いし、君らしくないですね≫
確かに、計画の最終手段として生み出された人造人間のはずだが、それにしても、プライドとしてはにわかには信じがたいことだった。
「ああ、そうだな」
≪…嬉しそうですね≫
聞かれたブラッドレイは、僅かに顔を綻ばせた。
「否定はせんよ。少し…楽しい」
≪予定外の事が立て続けに起こっているのにですか?≫
「だからこそだ。60年前…生まれてすぐに『キング・ブラッドレイ』のレールの上に乗せられ、こうして今、父上の予定通りにこの国のトップに座っている。邪魔する者はいなかった…否、父上が排除した」
武勲を奏 し、独裁者として昇りつめたのも、大規模な殲滅作戦を指揮したのも、全ては大いなる「計画」のため。
「才能を開花させつつあったキョウコ・アルジェントを指揮下に引き入れ、予定通りの台本を用意され、私はそのままに生きてきた」
≪しかし、ここに来てレールをはずれるような事が引き起こされている……と?≫
「マスタング大佐とエルリック兄弟と外の国から来た者達…いずれ、キョウコ・アルジェントも私の指揮から抜け出すと言い出す。若い者にいい様に掻き回されているのだぞ。この老獪 な我々が」
≪何が言いたいのですか≫
「若者の時代がすぐそこまで来ているのかもしれんぞ。プライドよ」
自身の築いてきた生涯を感じて、半ば自嘲する。
自分なりの推測を交えた発言から間を置いて、プライドは口を開く。
≪……ラース。君は長く人間と接しすぎた≫
「そうかもしれんな」
≪忘れないでください。我々は人間 が「化物」とよぶ存在だという事を≫
「わかっている」
ブラッドレイは、それまで綻ばせていた表情を険しくさせて断言した。
≪……先程の君の反逆ともとれる発言は父上には報告しないでおきましょう≫
返す言葉もなく、おかしげに笑う。
「ははは。それは助かる」
≪で、グラトニーはどうします?≫
「うむ。憲兵隊の集めた情報からだいたいだが、グラトニーのいる場所がわかった。連れ去ったのはホークアイ中尉。加えて、マスタング大佐が昼から市内の視察に出ていて、まだ戻って来ていないそうだぞ」
ブラッドレイは雑多な情報の中から必要なもの――その中での最大項目、グラトニーの居場所を突き止め、報告をあげる。
人造人間にさらわれてきたマルコーは、薄暗い格子牢に閉じ込められているわけでもない。
縄や鎖で拘束されているわけでもない。
シャツとズボンを纏う様相は、虜囚の惨めさなど微塵も感じさせない。
ただ、事実しては、全き幽閉である。
彼が自由行動を許されているのは、この大きな空間のみ。
「ドクター、ご飯ですよっと」
一人、ベッドに座ってうなだれている彼のもとに、世話役のエンヴィーが持ってきた。
テーブルの上に手をつけていない食事を見つけ、確認するように言う。
「あれ?また手をつけてないの?だめだなぁ、あんたは元人柱候補なんだから、元気を保ってもらわなきゃ」
今日も今日とて同じやり取りを交わしたマルコーは表情を身体を硬くして、つぶやく。
「……………色々と考えていた…人柱とはなんなのだ。私に何をさせるつもりだ」
「それはヒミツ。なぁに、大人しく従ってくれりゃ、そのうち面白いものが見られるよ」
「面白いものだと……?」
マルコーは、そこに不穏の匂いを感じる。
「強大な賢者の石を作るために、この国の人々を大量に巻き込もうとしているのに……!!」
円と五角形で描かれた錬成陣をアメストリスの地形になぞらえると、東西南は陥落し、残るは北のドラクマ。
「今、貴様らがやっているのは、この国を全部利用して、巨大な錬成陣を作る事…その錬成陣は…賢者の石を作るためのものではないのか?そして次に血を見るのは…北だ!」
命が多く失われ、しかもこれさえ、前触れに過ぎない。
賢者の石をつくるとなれば、未曽有 の大きな戦い、壮絶な死闘が再演されるのは必至だった。
「は!おしい!いい線いってる」
妖しく、そして恐ろしい、悪魔のような笑みを浮かべ、エンヴィーは見下す。
「いい線?」
「そう、次は北だね。で?気付いたところで今のあんたに何ができる?今まで何もしなかったあんたに!!」
耳元で囁く彼は微笑んでいる。
楽しそうに、面白そうに、嬉しそうに。
「『余計な事をしたら、この村を消してやる』と脅されて…この国の人民が危機に陥りつつあることに気付きながら、何もしなかっただろう?」
純粋な疑問をぶつけるように、エンヴィーはマルコーに問う。
ここで何を言っても無駄だ。
どんな言葉をかけようとも、それは無意味だ。
どんな言葉で誤魔化そうとしても、過去は、変わらない。
その笑顔は嘲笑で。
その微笑みは冷笑で。
どうしようもなく、マルコーを凍りつかせた。
「天秤にかけりゃ簡単なコトなのに!この国の人口とあんたが医者をしていたあの村の人口とを秤 にかけりゃ、どっちが多いか一目瞭然なのに!ちっぽけなあの村を見捨てりゃ、より多くの人間を助けられたかもしれないのに!」
小馬鹿にするように、からかうように、冗談でも言うように両手を広げるエンヴィー。
その残酷な語感に、マルコーは堪らず大声で叫んだ。
「…人の命は足し算や引き算ではない!!」
「は!ははははは!そうだよねぇ!それがあんた達"人間"だよねぇ!!」
笑い声をあげつつ、反応は軽く、酷薄に返す。
「この前、殺した男もそうだった。奴の妻の姿に化けてみせたら、手を出せなくて逆転のカードを逃した」
手にしたナイフを勢いよく振り落とし、ステーキへと突き刺す。
「付け入りやすくて助かるよ、人間」
声にはおかしみが混ざっていた。
それは、深い理解の上に立って無知を嘲笑う、凶悪なおかしみだった。
マルコーは、その言葉の意味と、声に込められた凶悪さに全てが麻痺したようになって、言葉を失う。
「何を無駄話している、エンヴィー」
そこに、いきなり声が響いた。
「ブラッドレイ大総統…!!」
「久しいな、マルコー。元気そうで何よりだ」
マルコーは全く唐突な驚愕と戦慄に包まれた。
「…………!!」
負の衝撃に絶句した彼に構わず、ブラッドレイはエンヴィーに視線を移した。
「グラトニーがマスタング組に捕まった」
「はぁ!?おいおい、何やってんだ!焔の大佐はおまえが責任持つって言ってただろう!?それに、そっちはプライドも付いてたはずだ!」
「グラトニーが捕まった時は現場にいなかった」
「あいつ…!!余計な時だけ現場に出てくるくせして!!」
苦虫を噛み潰す顔で吐き捨てるエンヴィーに向けて、ブラッドレイは続ける。
「グラトニーが連れ込まれた先はだいたいの目星がついている。迎えに行ってやってくれ」
「……………」
呆気に取られる彼は溜め息をつき、肉汁の滴るステーキを一口齧 る。
「…っとにしょーがないなぁ。暴走してなきゃいいけど」
小屋の惨状を目撃した瞬間、外で見張りをしていたリザは唖然とした。
「…何これ」
小屋の半分が、地面ごと深く削り取られていた。
まるで莫大な力が膨張でもしたかのように、綺麗さっぱりと消え失せていた。
「大佐!!ちょっと、何が起こって…大佐!!」
「止まれ、中尉!!」
ロイの制止に、咄嗟に足を止めた彼女の持つライフル銃の半分が衝撃に飲み込まれ、消失した。
その頃、衝撃を免れるために尻餅をついたり余波に巻き込まれて倒れたりと、騒ぎの元は混乱していた。
「――ちょ、誰よあたしのお尻触ってるの!」
「今はそれどころではないだろう、キョウコ!」
「もしかして大佐!?酷い!!セクハラ大佐!」
「大佐!!こんな状況で何やってんだよ!!」
「君達こそ、この状況下で何を言ってるんだ!!」
彼らの言い争いに反応したらしく、リザの呼ぶ声が聞こえる。
「大佐、キョウコちゃん、どこですか、大……!!」
夜の闇に浮かび上がるのは、腹が割れ肋骨が剥き出しとなったグラトニー。
素早く拳銃を構えたリザは、
「…………!?」
別方向からあがった物音に反射し、二丁の拳銃を交差するように構える。
瓦礫の山から顔を出したロイとノックス、その上に重なるアル。
「大佐!!」
さらに近くの瓦礫の山から顔を出したエドとキョウコ。
「おい、大丈夫かキョウコ?」
「……痛い、たんこぶ出来た。エドに思い切り押し倒されたから」
「紛らわしい言い方すんな!そこは守ってくれてありがとうだろ!」
「たんこぶ作ってくれてありがとう」
「憎たらしい言い方すんなアホ!」
エドに腕を引かれて立ち上がり、キョウコはグラトニーを見据える。
「挑発するな、中尉!!そいつの狙いは私だ!!」
「マスタング………!!」
ロイの声から標的を認識した途端、骨が伸び、周りを吸い込む力が迸り出る。
グラトニーからの不可視の攻撃からエド達は逃げ惑い、リンはランファンのいる部屋に駆け寄る。
「ランファン!!」
「何があったのですか」
「ここから離れるぞ」
割れた腹から左右に開いた肋骨を覗かせるグラトニーから、暴風を吹き込んだような耳障りな音が響く。
鼓膜を嫌悪に震わせながら、リンは心底理解した。
「化物が…腹の中に化物を飼っていた…周りをバックリ飲み込みやがった!!」
あまりにも冒涜的でグロテスクな見た目には先程、感じていた気配以上の規模と現象の複雑さを持っている。
このおぞましい存在は、確かに化け物としか呼びようがない。
周囲の誰もがそれに驚き注目する、あるいは余波に巻き込まれて倒れる。
床に尻餅をついたエドとキョウコは戦慄し、その惨状を眺める。
二人が半秒前まで立っていた場所は深く抉られ、地面が剥き出しになっていた。
「な……何しやがった、こいつ……!!」
その余韻である中から、一つの人影が現れる。
ついでのように、小屋が人影へと吸い込まれた。
割れた腹から左右に開いた肋骨を覗かせるグラトニーが、凶暴な眼光で睨みつける。
細かく重く質感を響かせて、巨大な扉が閉まった。
廊下の脇に並ぶ灯りが、一人の帰還者を照らす。
大総統官邸の廊下を進むブラッドレイの耳に、感情のこもらない低い声が届いた。
≪「ラース」≫
その声は第七の人造人間「プライド」。
エンヴィーをも黙らせたその姿は見せようとせず、聞く者は、まるで威圧されているかのような錯覚まで覚えさせられる。
が、ブラッドレイは怯まない。
「…『プライド』か」
≪傷の男に逃げられたそうじゃないですか≫
「ああ。おまけに、グラトニーが何者かに捕まったようだ」
≪なんですって!?≫
平静を常とする彼の声が驚きに上擦った。
≪どうしたのですか、しっかりやってくれないと困りますよ。最近奴らに振り回されっぱなしではないですか。詰めも甘いし、君らしくないですね≫
確かに、計画の最終手段として生み出された人造人間のはずだが、それにしても、プライドとしてはにわかには信じがたいことだった。
「ああ、そうだな」
≪…嬉しそうですね≫
聞かれたブラッドレイは、僅かに顔を綻ばせた。
「否定はせんよ。少し…楽しい」
≪予定外の事が立て続けに起こっているのにですか?≫
「だからこそだ。60年前…生まれてすぐに『キング・ブラッドレイ』のレールの上に乗せられ、こうして今、父上の予定通りにこの国のトップに座っている。邪魔する者はいなかった…否、父上が排除した」
武勲を
「才能を開花させつつあったキョウコ・アルジェントを指揮下に引き入れ、予定通りの台本を用意され、私はそのままに生きてきた」
≪しかし、ここに来てレールをはずれるような事が引き起こされている……と?≫
「マスタング大佐とエルリック兄弟と外の国から来た者達…いずれ、キョウコ・アルジェントも私の指揮から抜け出すと言い出す。若い者にいい様に掻き回されているのだぞ。この
≪何が言いたいのですか≫
「若者の時代がすぐそこまで来ているのかもしれんぞ。プライドよ」
自身の築いてきた生涯を感じて、半ば自嘲する。
自分なりの推測を交えた発言から間を置いて、プライドは口を開く。
≪……ラース。君は長く人間と接しすぎた≫
「そうかもしれんな」
≪忘れないでください。我々は
「わかっている」
ブラッドレイは、それまで綻ばせていた表情を険しくさせて断言した。
≪……先程の君の反逆ともとれる発言は父上には報告しないでおきましょう≫
返す言葉もなく、おかしげに笑う。
「ははは。それは助かる」
≪で、グラトニーはどうします?≫
「うむ。憲兵隊の集めた情報からだいたいだが、グラトニーのいる場所がわかった。連れ去ったのはホークアイ中尉。加えて、マスタング大佐が昼から市内の視察に出ていて、まだ戻って来ていないそうだぞ」
ブラッドレイは雑多な情報の中から必要なもの――その中での最大項目、グラトニーの居場所を突き止め、報告をあげる。
人造人間にさらわれてきたマルコーは、薄暗い格子牢に閉じ込められているわけでもない。
縄や鎖で拘束されているわけでもない。
シャツとズボンを纏う様相は、虜囚の惨めさなど微塵も感じさせない。
ただ、事実しては、全き幽閉である。
彼が自由行動を許されているのは、この大きな空間のみ。
「ドクター、ご飯ですよっと」
一人、ベッドに座ってうなだれている彼のもとに、世話役のエンヴィーが持ってきた。
テーブルの上に手をつけていない食事を見つけ、確認するように言う。
「あれ?また手をつけてないの?だめだなぁ、あんたは元人柱候補なんだから、元気を保ってもらわなきゃ」
今日も今日とて同じやり取りを交わしたマルコーは表情を身体を硬くして、つぶやく。
「……………色々と考えていた…人柱とはなんなのだ。私に何をさせるつもりだ」
「それはヒミツ。なぁに、大人しく従ってくれりゃ、そのうち面白いものが見られるよ」
「面白いものだと……?」
マルコーは、そこに不穏の匂いを感じる。
「強大な賢者の石を作るために、この国の人々を大量に巻き込もうとしているのに……!!」
円と五角形で描かれた錬成陣をアメストリスの地形になぞらえると、東西南は陥落し、残るは北のドラクマ。
「今、貴様らがやっているのは、この国を全部利用して、巨大な錬成陣を作る事…その錬成陣は…賢者の石を作るためのものではないのか?そして次に血を見るのは…北だ!」
命が多く失われ、しかもこれさえ、前触れに過ぎない。
賢者の石をつくるとなれば、
「は!おしい!いい線いってる」
妖しく、そして恐ろしい、悪魔のような笑みを浮かべ、エンヴィーは見下す。
「いい線?」
「そう、次は北だね。で?気付いたところで今のあんたに何ができる?今まで何もしなかったあんたに!!」
耳元で囁く彼は微笑んでいる。
楽しそうに、面白そうに、嬉しそうに。
「『余計な事をしたら、この村を消してやる』と脅されて…この国の人民が危機に陥りつつあることに気付きながら、何もしなかっただろう?」
純粋な疑問をぶつけるように、エンヴィーはマルコーに問う。
ここで何を言っても無駄だ。
どんな言葉をかけようとも、それは無意味だ。
どんな言葉で誤魔化そうとしても、過去は、変わらない。
その笑顔は嘲笑で。
その微笑みは冷笑で。
どうしようもなく、マルコーを凍りつかせた。
「天秤にかけりゃ簡単なコトなのに!この国の人口とあんたが医者をしていたあの村の人口とを
小馬鹿にするように、からかうように、冗談でも言うように両手を広げるエンヴィー。
その残酷な語感に、マルコーは堪らず大声で叫んだ。
「…人の命は足し算や引き算ではない!!」
「は!ははははは!そうだよねぇ!それがあんた達"人間"だよねぇ!!」
笑い声をあげつつ、反応は軽く、酷薄に返す。
「この前、殺した男もそうだった。奴の妻の姿に化けてみせたら、手を出せなくて逆転のカードを逃した」
手にしたナイフを勢いよく振り落とし、ステーキへと突き刺す。
「付け入りやすくて助かるよ、人間」
声にはおかしみが混ざっていた。
それは、深い理解の上に立って無知を嘲笑う、凶悪なおかしみだった。
マルコーは、その言葉の意味と、声に込められた凶悪さに全てが麻痺したようになって、言葉を失う。
「何を無駄話している、エンヴィー」
そこに、いきなり声が響いた。
「ブラッドレイ大総統…!!」
「久しいな、マルコー。元気そうで何よりだ」
マルコーは全く唐突な驚愕と戦慄に包まれた。
「…………!!」
負の衝撃に絶句した彼に構わず、ブラッドレイはエンヴィーに視線を移した。
「グラトニーがマスタング組に捕まった」
「はぁ!?おいおい、何やってんだ!焔の大佐はおまえが責任持つって言ってただろう!?それに、そっちはプライドも付いてたはずだ!」
「グラトニーが捕まった時は現場にいなかった」
「あいつ…!!余計な時だけ現場に出てくるくせして!!」
苦虫を噛み潰す顔で吐き捨てるエンヴィーに向けて、ブラッドレイは続ける。
「グラトニーが連れ込まれた先はだいたいの目星がついている。迎えに行ってやってくれ」
「……………」
呆気に取られる彼は溜め息をつき、肉汁の滴るステーキを一口
「…っとにしょーがないなぁ。暴走してなきゃいいけど」
小屋の惨状を目撃した瞬間、外で見張りをしていたリザは唖然とした。
「…何これ」
小屋の半分が、地面ごと深く削り取られていた。
まるで莫大な力が膨張でもしたかのように、綺麗さっぱりと消え失せていた。
「大佐!!ちょっと、何が起こって…大佐!!」
「止まれ、中尉!!」
ロイの制止に、咄嗟に足を止めた彼女の持つライフル銃の半分が衝撃に飲み込まれ、消失した。
その頃、衝撃を免れるために尻餅をついたり余波に巻き込まれて倒れたりと、騒ぎの元は混乱していた。
「――ちょ、誰よあたしのお尻触ってるの!」
「今はそれどころではないだろう、キョウコ!」
「もしかして大佐!?酷い!!セクハラ大佐!」
「大佐!!こんな状況で何やってんだよ!!」
「君達こそ、この状況下で何を言ってるんだ!!」
彼らの言い争いに反応したらしく、リザの呼ぶ声が聞こえる。
「大佐、キョウコちゃん、どこですか、大……!!」
夜の闇に浮かび上がるのは、腹が割れ肋骨が剥き出しとなったグラトニー。
素早く拳銃を構えたリザは、
「…………!?」
別方向からあがった物音に反射し、二丁の拳銃を交差するように構える。
瓦礫の山から顔を出したロイとノックス、その上に重なるアル。
「大佐!!」
さらに近くの瓦礫の山から顔を出したエドとキョウコ。
「おい、大丈夫かキョウコ?」
「……痛い、たんこぶ出来た。エドに思い切り押し倒されたから」
「紛らわしい言い方すんな!そこは守ってくれてありがとうだろ!」
「たんこぶ作ってくれてありがとう」
「憎たらしい言い方すんなアホ!」
エドに腕を引かれて立ち上がり、キョウコはグラトニーを見据える。
「挑発するな、中尉!!そいつの狙いは私だ!!」
「マスタング………!!」
ロイの声から標的を認識した途端、骨が伸び、周りを吸い込む力が迸り出る。
グラトニーからの不可視の攻撃からエド達は逃げ惑い、リンはランファンのいる部屋に駆け寄る。
「ランファン!!」
「何があったのですか」
「ここから離れるぞ」
割れた腹から左右に開いた肋骨を覗かせるグラトニーから、暴風を吹き込んだような耳障りな音が響く。
鼓膜を嫌悪に震わせながら、リンは心底理解した。
「化物が…腹の中に化物を飼っていた…周りをバックリ飲み込みやがった!!」
あまりにも冒涜的でグロテスクな見た目には先程、感じていた気配以上の規模と現象の複雑さを持っている。
このおぞましい存在は、確かに化け物としか呼びようがない。