第48話
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リンが捕獲した人造人間を、三人は緊張したような、呆然としたような面持ちで見つめる。
「捕っ……」
「……た!!」
「約束は守ったゾ、人造人間ダ!!」
リンが決死の覚悟で捕らえたグラトニーは再生を繰り返すごとに、自らの身体を締めつけていった。
(なんだ…何が起こっている?人造人間だと!?)
今の現状が理解できず、困惑するスカーの耳に、重く咆哮を上げるエンジンの音が届き、足に一発の銃弾が命中した。
「ぬぅあああ!!!」
激痛に顔を歪め、悶え苦しむスカー。
それと同時に、一台の車が急ブレーキで停まる。
そこには長い髪を翻し、眼鏡をかけた女性がハンドルを握りながら拳銃を向けていた。
「誰だ…!?」
「リザさんだわ。あたしにはわかる」
キョウコの言葉に本気で気づいていなかったのか、理解した瞬間の兄弟は間抜け面であった。
「早く乗せて!逃げるわよ!」
「ふん!!」
リンは大胆にグラトニーを持ち上げる。
その瞬間に、
「ぬおおおおおおおお」
危うく押し潰されるところだった。
それは、重すぎた。
何十キロあるのか、見た目の体積ではあり得ない重さを、この人造人間は持っていた。
持ち上げるだけでも一苦労の物体だった。
それを力任せに車へ放り込むと、自らも素早く乗り込む。
「待った、ホーク…」
キョウコはリザを呼び止めるエドの口を咄嗟に両手で塞ぐ。
「エド、素性がばれたら、リザさんの立場も大佐の立場も危ぶまれるでしょ!」
「しっ!」
すると、リザの視線がエドを捉え、口許に指を添えて内密に、との姿勢を示す。
「…あ……」
「今は無関係を装うわよ。それに、あたし達にはまだやらなきゃならない事がある…」
黙秘を確認し、リザはギアを操作して車を発進させる。
「ちょっ…ちょっと待ってよ、中…」
「アル!!」
呼び止めるアルをエドは制し、先刻と同じように忠告する。
「憲兵が見てる!無関係を装え!」
「あっ…」
後ろから次々と現れた憲兵に作戦を悟られないため、
「撃ったぞ」
「一般人か?」
「傷の男を固め!!」
今は無関係を装う。
「大佐はいけ好かねえ奴だが、信用はできる。後で情報が入るのを待とう。まず今やるべきは………」
一気に駆け出したエドは、足を引きずるスカーの頬へ拳を叩き込んだ。
「…………」
頬を殴られたスカーは瞬時に振り返り、地面に亀裂を走らせる。
「おっと!」
余裕を持って攻撃を避け、体勢を立て直す。
「捕まえるぞ、アル、キョウコ!!」
「うん!!」
「了解!!」
駆け出した三人は、同時に手の平を合わせた。
「ロックベル夫妻殺害の件、その他諸々…」
「出る所へ出て裁いてもら…うべぇ!?」
刹那、凄まじい衝撃と共に鎧が地面と並行に突き飛ばされる。
「ア、アル!?」
一瞬、何が起きたのか理解が追いつかなかった。
先程まで両手を合わせていたアルの身体を支点に、長い黒髪を三つ編みで纏めたメイの視線が、エドに向けられる。
キョウコは驚愕に目を見開く。
この細身の少女の蹴りが、今しがたそこにいたアルを吹き飛ばしたという事実が信じられないのだろう。
彼女の外見にはなんら普通の少女と変わるところはない。
ただ一つを除いて。
よく見れば少女の隣には、小さな白黒の動物がいた。
「え?」
次の瞬間、少女の飛び蹴りがエドの顔面に炸裂する。
「へぶ!!?」
「え、ちょっとこっち来ないでエド――きゃあああっ!!」
顔面に蹴りを叩き込まれたエドの身体は、真後ろにいたキョウコの身体に直撃した。
「いつつ……」
頭をさすりながらエドは身体を起こし、目を開ける――凍った。
「――」
「……………」
押し倒す形で、エドはキョウコの上に覆いかぶさっていた。
しかも地面についていたはずの手には、なんともいえない感触。
水風船?
マシュマロ?
ゴムボール?
そのどれにも当てはまらない、温かく柔らかなふくらみだった。
ただでさえ早かった心臓が鼓動を加速させた。
「――」
言葉が出てこない。
頭の中にあるのは、
「掌サイズだな」
という率直すぎる感想しか浮かばなかった。
キョウコの表情に変化はない。
ただ、ほんのりと顔が赤いことだけはわかった。
「だ、大丈夫」
苦し紛れに、エドがそう言った。
何が大丈夫なのか自分でもよくわからないが、とにかくこの状況をやり過ごすための言葉を探す。
「オレ」
「………」
「オレ――巨乳派だから!」
………チャキ。
「ごめんウソ!そういう問題じゃなかったです!言い訳です血迷いました許してください!」
額に銃口を突きつけられて、エドは両手を挙げて降参の構えを取った。
キョウコは真っ赤になりながら身体を起こし、ゴリゴリと銃口を押しつけてくる。
「……うぅぅぅ、うううううっ」
恥ずかしそうに唸っている。
てっきり冷たく平手打ち一発とか、
「風穴空かせる!」
の一言だけとかそういう展開を予測していたのだが。
涙目になっている。
結構可愛いとこあるな、とかそんなことを考えてしまう。
そしてこれは撃たれる。
確実に撃たれる。
「待て!落ち着けキョウコ!」
「さっさと――どきなさぁぁぁいっ!!」
引鉄に力がこもる。
死を覚悟するエド。
メイは華麗に地面に着地するとカンフーのようなポーズを決め、勝ち気な瞳で告げた。
「無事ですか、傷の男さン!!わが恩人の下僕さんに寄ってたかって何をするんですか、この豆男!!」
その不遜さは年齢に不相応でありながら、見惚れるほどである。
しかし、聞き捨てならない単語にエドは過敏に反応し、怒鳴り散らす。
「んだと、豆女!!」
ふと首筋に悪寒を感じて振り返ると、キョウコが拳銃を二丁構えてこちらににじり寄ってきた。
「わ、悪かったキョウコ!つーか元はと言えば、あの豆女がオレの顔面を蹴り飛ばしたからであって…!」
憲兵から見れば、謎の少女がスカーを守った、という異常事態である。
「なんだ!?奴の仲間か!?」
「子供だぞ!?」
「お嬢ちゃん、退くんだ!!巻き込まれたいのか!?」
「むむッ!!多勢に無勢!!ここは退却でス!!」
メイは取り出した複数の鏃を、巨大なタンクと炭へ突き刺しながら、地面に足で円を描いた。
そして、足元の円へ両手を押し当てた瞬間、破裂したタンクと炭から大量の水蒸気と爆発が起こった。
「なんだとォ!?」
「ぶわっ!!」
驚愕するエド達と憲兵の視界が水蒸気に覆われ、思わず進撃の足を止める。
崩れ立っていたスカーは貴重な退避の時を得た。
彼我の度肝を抜いた当の本人はスカーの身体を支えていた。
「ちくしょー、見えね……くっ…そ…傷の男ーーッ!!」
リンを連れたリザは車を運転して、隠れ家へと猛スピードで走らせる。
「ブレダ少尉から話は聞いてるわ、リン・ヤオ。このまま隠れ家に行くわね」
「ちょっと待っタ、仲間が一人いル!拾ってくレ!」
「ええ!?そんな余裕無いわよ!?」
「頼ム!!今、死にそうになってるんダ!!俺が迎えに行くのを待ってル!!」
「……手早く頼むわよ」
文句を言いながらも、リザは心を切り替えた。
その時、スカーが出没した近辺を捜索するブラッドレイとすれ違う。
(む……あの女は確か、マスタングの飼い犬…)
リンの案内に従って、アクセルを踏むリザの変装にブラッドレイは気づき、
「なんだ、あぶないなー」
「あー、びっくりしたー」
何も知らない憲兵はリンの乗る車を後方から唖然として見つめる。
(やってくれたな、若僧………)
すれ違い様だが、自分達を出し抜いた異国の少年に、ブラッドレイはひそかに讃嘆の声をあげた。
戦場の輪から外れていたヨキは、追いつめられた状況を知らせる。
「だめだ旦那!この先も憲兵が走り回ってる!しばらくここから動かない方が…」
フードつきのコートを羽織ったスカーが小さく唸る。
「む……」
一時たりとも気も抜けない長期戦で消耗しきっており、せめてと座って体力の回復に努めているのである。
そんな彼を気遣うように、メイが傷の具合を診 る。
「弾は貫通してまス。とにかく、止血しないト…」
「何をする」
「錬丹術で傷口を塞ぎまス」
先程の鏃を、負傷した脚を囲むように地面に突き刺し、治療する。
まばゆい光が薄れた後、傷口の出血は見事にふさがっていた。
「……!!」
「本当に血が止まったよ!すごいな!その術があれば、医者いらずだ!」
「いえ、万能じゃないですヨ。大地に龍脈という力の流れがあるように、人間の身体の中にも力の流れがありますかラ…流れが止まってしまっている所は治せませン。あとは無い腕を生やしたりも無理でス」
錬丹術の根幹は、世界や大地、人間など全ての物質が持つ流れを理解し正すこと。
錬丹術は、この流れを感じることで使うことができる。
「そうなの?」
「傷の男さんの入れ墨は、錬丹術にこの国の錬金術のミックスしたようナ…」
真面目な表情で語るメイの話に、錬金術の知識がないヨキは顔をしかめて疑問符を浮かべる。
思い返せば、語気強く弾劾する少女が告げたのは、はっきりと記憶している。
(――「返してよ!!」――)
狂乱と激情の瞳が、そこにこもっていた。
考えもしなかった、今まであった光景が崩れること、それが呼び水となって全てが変化する予感に、自分でも驚くほどの動揺を覚えたのだった。
(……己も、あんな目をしているのか…)
つい先程まで憤怒の形相だったスカーは一転、耐えるように目を伏せる。
「どこまで行っても憎しみは憎しみしか生まんのか…」
「?何か言いましたかい?」
「…いや」
「いけねえ!!憲兵隊が近くまで来てる!逃げるぞ!」
「ハイ!シャオメイ、逃げル…」
メイは隣にいるはずの子パンダに振り返る。
「………アレ?」
そこには見慣れた白黒の動物の姿はおらず、呆然とその場に立ち尽くした。
スカーとの戦いで傷ついた身体の手当てを済ませ、エド達は軍の車両へと乗り込んだ。
その車内で、頭に包帯を巻いたエドは機嫌が悪い彼女の端正な顔を覗き込み、次にアルへと視線を移す。
『…………』
彼の手の中で、子パンダのシャオメイが震え上がっていた。
「なんだそれ」
「さっき拾っちゃった…」
「見た事ない動物ね。白黒の…ネコ?」
アメストリスでは見たことのない珍しい動物に、キョウコも視線を向ける。
「おまえ、この非常時に何をのんきな!!捨ててこい!!」
「だってかわいそうだよ!こんなにふるえて!」
「そりゃ、こんなにでかい手につかまれりゃビビるだろ!!」
「えーー?」
ムムムムと唸り、シャオメイは眼前に突き出されたエドの指を、牙を剥き出しにして噛みついた。
「ギャーーーーーーース!!!」
あまりの痛さにエドは絶叫する。
「捨てろ、こんなケダモノ!!今すぐ車窓から捨てろ!!」
「ワォ、見かけによらず凶暴なのね」
げしげしと鎧を蹴るエドに、キョウコはシャオメイをじっと眺めていた。
新発見した珍獣の生態を観察するような、思慮深げな顔つきで……。
「ひどいな、兄さん。あ」
シャオメイは、今度はアルの指に噛みつく。
「大丈夫、痛くないよ、おちついて」
エドとキョウコの視線が注がれる中、アルは笑顔を浮かべてなだめる。
シャオメイは気づいてしまった。
自分の牙に指を噛みつかれ、平然と笑顔まで浮かべている。
指がシャオメイの鋭すぎる牙をがっちりと食い止めている。
本来なら、噛みつかれて血が噴き出してもおかしくないのに。
挙げ句に、もう一つの事実にも気づいた。
脳内にピラミッド型の枠組みが浮かび、独自の身分制度を作り上げる。
頂点からアル、メイと自分、スカー、飛んでバクテリアに分別され、その最下層にはエドとヨキがいる。
「着きました」
すると、目的地の憲兵司令部に到着したらしく、車は止まった。
三人は車から降り、ウィンリィが保護されている目的地へと向かう。
「どうぞ、こちらに」
「どうも」
憲兵の案内でスカー騒動で慌ただしい廊下を進み、
「中に入っててね」
アルはシャオメイを鎧の中へと避難させる。
「はい。メガネの女が発砲を…白いコート着用で…」
「車種は?S14タイプ?」
彼らは無視しているが、あちこちで暴走するスカーのあげる被害だけが増えている。
その中での最大項目、リザが変装した謎の女性の発砲報告があげられた。
「ああ、今はやりの。金持ちのボンボンが乗ってるような」
憲兵が、ある部屋の前で立ち止まった。
開けてくれた部屋の中へ、三人は足を踏み入れる。
「あ……無事だった…」
「ウィンリィ…」
椅子に座るウィンリィの無事な姿に、エドとキョウコは安堵の息をついた。
しかし、その前方に腰かける人物に思わず息を呑んだ。
「やあ、鋼の錬金術師と氷刹の錬金術師」
軍の最高権力者のブラッドレイが座っていた。
「ブラッドレイ大総統!」
「捕っ……」
「……た!!」
「約束は守ったゾ、人造人間ダ!!」
リンが決死の覚悟で捕らえたグラトニーは再生を繰り返すごとに、自らの身体を締めつけていった。
(なんだ…何が起こっている?人造人間だと!?)
今の現状が理解できず、困惑するスカーの耳に、重く咆哮を上げるエンジンの音が届き、足に一発の銃弾が命中した。
「ぬぅあああ!!!」
激痛に顔を歪め、悶え苦しむスカー。
それと同時に、一台の車が急ブレーキで停まる。
そこには長い髪を翻し、眼鏡をかけた女性がハンドルを握りながら拳銃を向けていた。
「誰だ…!?」
「リザさんだわ。あたしにはわかる」
キョウコの言葉に本気で気づいていなかったのか、理解した瞬間の兄弟は間抜け面であった。
「早く乗せて!逃げるわよ!」
「ふん!!」
リンは大胆にグラトニーを持ち上げる。
その瞬間に、
「ぬおおおおおおおお」
危うく押し潰されるところだった。
それは、重すぎた。
何十キロあるのか、見た目の体積ではあり得ない重さを、この人造人間は持っていた。
持ち上げるだけでも一苦労の物体だった。
それを力任せに車へ放り込むと、自らも素早く乗り込む。
「待った、ホーク…」
キョウコはリザを呼び止めるエドの口を咄嗟に両手で塞ぐ。
「エド、素性がばれたら、リザさんの立場も大佐の立場も危ぶまれるでしょ!」
「しっ!」
すると、リザの視線がエドを捉え、口許に指を添えて内密に、との姿勢を示す。
「…あ……」
「今は無関係を装うわよ。それに、あたし達にはまだやらなきゃならない事がある…」
黙秘を確認し、リザはギアを操作して車を発進させる。
「ちょっ…ちょっと待ってよ、中…」
「アル!!」
呼び止めるアルをエドは制し、先刻と同じように忠告する。
「憲兵が見てる!無関係を装え!」
「あっ…」
後ろから次々と現れた憲兵に作戦を悟られないため、
「撃ったぞ」
「一般人か?」
「傷の男を固め!!」
今は無関係を装う。
「大佐はいけ好かねえ奴だが、信用はできる。後で情報が入るのを待とう。まず今やるべきは………」
一気に駆け出したエドは、足を引きずるスカーの頬へ拳を叩き込んだ。
「…………」
頬を殴られたスカーは瞬時に振り返り、地面に亀裂を走らせる。
「おっと!」
余裕を持って攻撃を避け、体勢を立て直す。
「捕まえるぞ、アル、キョウコ!!」
「うん!!」
「了解!!」
駆け出した三人は、同時に手の平を合わせた。
「ロックベル夫妻殺害の件、その他諸々…」
「出る所へ出て裁いてもら…うべぇ!?」
刹那、凄まじい衝撃と共に鎧が地面と並行に突き飛ばされる。
「ア、アル!?」
一瞬、何が起きたのか理解が追いつかなかった。
先程まで両手を合わせていたアルの身体を支点に、長い黒髪を三つ編みで纏めたメイの視線が、エドに向けられる。
キョウコは驚愕に目を見開く。
この細身の少女の蹴りが、今しがたそこにいたアルを吹き飛ばしたという事実が信じられないのだろう。
彼女の外見にはなんら普通の少女と変わるところはない。
ただ一つを除いて。
よく見れば少女の隣には、小さな白黒の動物がいた。
「え?」
次の瞬間、少女の飛び蹴りがエドの顔面に炸裂する。
「へぶ!!?」
「え、ちょっとこっち来ないでエド――きゃあああっ!!」
顔面に蹴りを叩き込まれたエドの身体は、真後ろにいたキョウコの身体に直撃した。
「いつつ……」
頭をさすりながらエドは身体を起こし、目を開ける――凍った。
「――」
「……………」
押し倒す形で、エドはキョウコの上に覆いかぶさっていた。
しかも地面についていたはずの手には、なんともいえない感触。
水風船?
マシュマロ?
ゴムボール?
そのどれにも当てはまらない、温かく柔らかなふくらみだった。
ただでさえ早かった心臓が鼓動を加速させた。
「――」
言葉が出てこない。
頭の中にあるのは、
「掌サイズだな」
という率直すぎる感想しか浮かばなかった。
キョウコの表情に変化はない。
ただ、ほんのりと顔が赤いことだけはわかった。
「だ、大丈夫」
苦し紛れに、エドがそう言った。
何が大丈夫なのか自分でもよくわからないが、とにかくこの状況をやり過ごすための言葉を探す。
「オレ」
「………」
「オレ――巨乳派だから!」
………チャキ。
「ごめんウソ!そういう問題じゃなかったです!言い訳です血迷いました許してください!」
額に銃口を突きつけられて、エドは両手を挙げて降参の構えを取った。
キョウコは真っ赤になりながら身体を起こし、ゴリゴリと銃口を押しつけてくる。
「……うぅぅぅ、うううううっ」
恥ずかしそうに唸っている。
てっきり冷たく平手打ち一発とか、
「風穴空かせる!」
の一言だけとかそういう展開を予測していたのだが。
涙目になっている。
結構可愛いとこあるな、とかそんなことを考えてしまう。
そしてこれは撃たれる。
確実に撃たれる。
「待て!落ち着けキョウコ!」
「さっさと――どきなさぁぁぁいっ!!」
引鉄に力がこもる。
死を覚悟するエド。
メイは華麗に地面に着地するとカンフーのようなポーズを決め、勝ち気な瞳で告げた。
「無事ですか、傷の男さン!!わが恩人の下僕さんに寄ってたかって何をするんですか、この豆男!!」
その不遜さは年齢に不相応でありながら、見惚れるほどである。
しかし、聞き捨てならない単語にエドは過敏に反応し、怒鳴り散らす。
「んだと、豆女!!」
ふと首筋に悪寒を感じて振り返ると、キョウコが拳銃を二丁構えてこちらににじり寄ってきた。
「わ、悪かったキョウコ!つーか元はと言えば、あの豆女がオレの顔面を蹴り飛ばしたからであって…!」
憲兵から見れば、謎の少女がスカーを守った、という異常事態である。
「なんだ!?奴の仲間か!?」
「子供だぞ!?」
「お嬢ちゃん、退くんだ!!巻き込まれたいのか!?」
「むむッ!!多勢に無勢!!ここは退却でス!!」
メイは取り出した複数の鏃を、巨大なタンクと炭へ突き刺しながら、地面に足で円を描いた。
そして、足元の円へ両手を押し当てた瞬間、破裂したタンクと炭から大量の水蒸気と爆発が起こった。
「なんだとォ!?」
「ぶわっ!!」
驚愕するエド達と憲兵の視界が水蒸気に覆われ、思わず進撃の足を止める。
崩れ立っていたスカーは貴重な退避の時を得た。
彼我の度肝を抜いた当の本人はスカーの身体を支えていた。
「ちくしょー、見えね……くっ…そ…傷の男ーーッ!!」
リンを連れたリザは車を運転して、隠れ家へと猛スピードで走らせる。
「ブレダ少尉から話は聞いてるわ、リン・ヤオ。このまま隠れ家に行くわね」
「ちょっと待っタ、仲間が一人いル!拾ってくレ!」
「ええ!?そんな余裕無いわよ!?」
「頼ム!!今、死にそうになってるんダ!!俺が迎えに行くのを待ってル!!」
「……手早く頼むわよ」
文句を言いながらも、リザは心を切り替えた。
その時、スカーが出没した近辺を捜索するブラッドレイとすれ違う。
(む……あの女は確か、マスタングの飼い犬…)
リンの案内に従って、アクセルを踏むリザの変装にブラッドレイは気づき、
「なんだ、あぶないなー」
「あー、びっくりしたー」
何も知らない憲兵はリンの乗る車を後方から唖然として見つめる。
(やってくれたな、若僧………)
すれ違い様だが、自分達を出し抜いた異国の少年に、ブラッドレイはひそかに讃嘆の声をあげた。
戦場の輪から外れていたヨキは、追いつめられた状況を知らせる。
「だめだ旦那!この先も憲兵が走り回ってる!しばらくここから動かない方が…」
フードつきのコートを羽織ったスカーが小さく唸る。
「む……」
一時たりとも気も抜けない長期戦で消耗しきっており、せめてと座って体力の回復に努めているのである。
そんな彼を気遣うように、メイが傷の具合を
「弾は貫通してまス。とにかく、止血しないト…」
「何をする」
「錬丹術で傷口を塞ぎまス」
先程の鏃を、負傷した脚を囲むように地面に突き刺し、治療する。
まばゆい光が薄れた後、傷口の出血は見事にふさがっていた。
「……!!」
「本当に血が止まったよ!すごいな!その術があれば、医者いらずだ!」
「いえ、万能じゃないですヨ。大地に龍脈という力の流れがあるように、人間の身体の中にも力の流れがありますかラ…流れが止まってしまっている所は治せませン。あとは無い腕を生やしたりも無理でス」
錬丹術の根幹は、世界や大地、人間など全ての物質が持つ流れを理解し正すこと。
錬丹術は、この流れを感じることで使うことができる。
「そうなの?」
「傷の男さんの入れ墨は、錬丹術にこの国の錬金術のミックスしたようナ…」
真面目な表情で語るメイの話に、錬金術の知識がないヨキは顔をしかめて疑問符を浮かべる。
思い返せば、語気強く弾劾する少女が告げたのは、はっきりと記憶している。
(――「返してよ!!」――)
狂乱と激情の瞳が、そこにこもっていた。
考えもしなかった、今まであった光景が崩れること、それが呼び水となって全てが変化する予感に、自分でも驚くほどの動揺を覚えたのだった。
(……己も、あんな目をしているのか…)
つい先程まで憤怒の形相だったスカーは一転、耐えるように目を伏せる。
「どこまで行っても憎しみは憎しみしか生まんのか…」
「?何か言いましたかい?」
「…いや」
「いけねえ!!憲兵隊が近くまで来てる!逃げるぞ!」
「ハイ!シャオメイ、逃げル…」
メイは隣にいるはずの子パンダに振り返る。
「………アレ?」
そこには見慣れた白黒の動物の姿はおらず、呆然とその場に立ち尽くした。
スカーとの戦いで傷ついた身体の手当てを済ませ、エド達は軍の車両へと乗り込んだ。
その車内で、頭に包帯を巻いたエドは機嫌が悪い彼女の端正な顔を覗き込み、次にアルへと視線を移す。
『…………』
彼の手の中で、子パンダのシャオメイが震え上がっていた。
「なんだそれ」
「さっき拾っちゃった…」
「見た事ない動物ね。白黒の…ネコ?」
アメストリスでは見たことのない珍しい動物に、キョウコも視線を向ける。
「おまえ、この非常時に何をのんきな!!捨ててこい!!」
「だってかわいそうだよ!こんなにふるえて!」
「そりゃ、こんなにでかい手につかまれりゃビビるだろ!!」
「えーー?」
ムムムムと唸り、シャオメイは眼前に突き出されたエドの指を、牙を剥き出しにして噛みついた。
「ギャーーーーーーース!!!」
あまりの痛さにエドは絶叫する。
「捨てろ、こんなケダモノ!!今すぐ車窓から捨てろ!!」
「ワォ、見かけによらず凶暴なのね」
げしげしと鎧を蹴るエドに、キョウコはシャオメイをじっと眺めていた。
新発見した珍獣の生態を観察するような、思慮深げな顔つきで……。
「ひどいな、兄さん。あ」
シャオメイは、今度はアルの指に噛みつく。
「大丈夫、痛くないよ、おちついて」
エドとキョウコの視線が注がれる中、アルは笑顔を浮かべてなだめる。
シャオメイは気づいてしまった。
自分の牙に指を噛みつかれ、平然と笑顔まで浮かべている。
指がシャオメイの鋭すぎる牙をがっちりと食い止めている。
本来なら、噛みつかれて血が噴き出してもおかしくないのに。
挙げ句に、もう一つの事実にも気づいた。
脳内にピラミッド型の枠組みが浮かび、独自の身分制度を作り上げる。
頂点からアル、メイと自分、スカー、飛んでバクテリアに分別され、その最下層にはエドとヨキがいる。
「着きました」
すると、目的地の憲兵司令部に到着したらしく、車は止まった。
三人は車から降り、ウィンリィが保護されている目的地へと向かう。
「どうぞ、こちらに」
「どうも」
憲兵の案内でスカー騒動で慌ただしい廊下を進み、
「中に入っててね」
アルはシャオメイを鎧の中へと避難させる。
「はい。メガネの女が発砲を…白いコート着用で…」
「車種は?S14タイプ?」
彼らは無視しているが、あちこちで暴走するスカーのあげる被害だけが増えている。
その中での最大項目、リザが変装した謎の女性の発砲報告があげられた。
「ああ、今はやりの。金持ちのボンボンが乗ってるような」
憲兵が、ある部屋の前で立ち止まった。
開けてくれた部屋の中へ、三人は足を踏み入れる。
「あ……無事だった…」
「ウィンリィ…」
椅子に座るウィンリィの無事な姿に、エドとキョウコは安堵の息をついた。
しかし、その前方に腰かける人物に思わず息を呑んだ。
「やあ、鋼の錬金術師と氷刹の錬金術師」
軍の最高権力者のブラッドレイが座っていた。
「ブラッドレイ大総統!」