第47話
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建設業の男が鼻歌混じりにパイプとバケツを持って、水を入れるために水道の蛇口をひねる。
それと同時に、膨れ上がった爆発が、窓枠やガラス、壁さえ砕いた。
叫びをあげるための空気が喉を通る前に、轟音で男は思わず飛び上がっていた。
「え?」
突如として爆発したビルを振り返ると、濛々と黒煙があがっており、仲間から送られる疑惑の眼差しに身の潔白を訴える。
「え?何?俺じゃないよ?」
「ちょっと退いてーーーーーーーーーーーーッ!!!」
瞬間、頭上から声が降ってくるや、爆発したビルからリンが飛び降りてきた。
骨折するには充分な高さからの飛び降りにもかかわらず、リンは恐怖を感じることなく、風を切る爽快感すら無視して着地する。
靴の底がコンクリの地面に触れてから勢いを殺すという結果に変わりはないが、事前にタイミングを取るのと取らないのでは、危険度がまるで違う。
いくらリンが卓越した身体能力を持っているとはいえ、衝撃を殺さずに着地すれば足首の辺りを骨折か、腱 を痛めるか、どんなに軽く見ても捻挫くらいはする。
これから勝負、という時に余計な怪我などしていられない。
「~~~~~~~~~~……」
靴底から硬い感触が伝わってくるのと膝を曲げ始めたのはほとんど同時だった。
屈伸運動だけで衝撃を逃がしきり、縮こまってランファンを抱えた体勢からリンは声にならない絶叫をあげる。
「~~~~~~~ッ!!」
上手く逃したとはいえ関節を軋ませた衝撃を我慢し、驚愕の中に取り残された男達を置いて逃走する。
「閃光弾に発煙弾に手榴弾とは…やれやれ、無茶をする子供だ。私も若い頃はあれ位の無茶を平気でしたものだったがな。まったく…年は取りたくないものだ。目では追えても、身体が言う事をきかん」
あまりにも無謀な、文字通り無茶をする光景に面したブラッドレイは、ただただ見つめることしかできない。
両手で目を擦るグラトニーへと向き直る。
「まだ目が使えんのか……臭いで追えるか?」
「うん」
「東から回り込んでプレッシャーをかけろ。大通りには出すな」
「はぁい」
「この先の袋小路に追い込む」
閃光弾の直撃によって視力を一時不能にされ、目を擦るグラトニーに指示を送り、眼帯を装着する。
「やれやれだ。傷の男も片付けねばならんというのに」
――どうしよう、もう、どうしたらいいのよ。
キョウコは知らず、皮膚に爪が立つほど強く拳を握っている自分に気づく。
止めようとして下手に撃たれては、意味がない。
ウィンリィの手は決して汚したくない。
兄弟が戦闘体制を崩さないまま忠告する。
「撃つな、ウィンリィ!!銃を下ろせ!!」
「そんな物、持っちゃダメだ!!ウィンリィ!!」
そんな彼女の姿に、ギリッと唇を噛みしめる。
「――あなたが、そんな物を持たないで!!」
表情を硬直させ、ビクリと身体を震わせるウィンリィを、スカーはじっと睨み据える。
「あの医者の娘か…おまえには己 れを撃つ権利がある。ただし撃てば、その瞬間に己れはおまえを敵とみなす!!」
「傷の男!!」
「てめェ、ウィンリィに手ェ出してみろ!!ぶっ」
血相を変えて言いかけたエドの言葉を遮って、スカーが赤い瞳で怒声を轟かせる。
「殺すか!?それもいいだろう!!どちらかが滅ぶまで憎しみの連鎖は止められん!!」
「――っ!!」
キョウコの身体は強張り、激情で顔色を失ったウィンリィは銃を握る手に力を込める。
「だが忘れるな!!あの内乱で先に引き鉄を引いたのはアメストリス人!!貴様らである事を!!」
「だめだ…撃つなよ…たのむから撃つなよ…!!」
「早く銃を下ろしてここから離れるんだ!!ウィンリィ!」
声とも呼べない喘ぎだけを搾り出し、
「だって…父さん、母さん……」
代わりに身体は極度の恐れから萎縮して、銃を持つ手はカタカタと震える。
「早く!!」
エドがスカーに、アルがウィンリィに叫ぶが、返事は来ない。
それぞれに敵意だけがみなぎっているのがわかる。
キョウコは苦渋の沈黙を保ったまま、アルに話しかける。
「……アル、傷の男の事頼んでいい?」
「分かった。ウィンリィをお願い」
キョウコは決め、弾切れになった拳銃に弾倉を挿し替え、一気にウィンリィの方へと駆け出した。
「撃てないのなら、戦場 から出て行け。邪魔だ」
錬金術を発動させようとしたスカーに気づいて、速度を上げた。
「勝手にほざいてなさいよ!」
と、彼の進路を。
錬成を遮るものが。
銃弾による発砲音だった。
疑問は半秒持たず、憤怒と破壊衝動に変わる。
照準をしっかりと合わせ、射撃を続けながら接近する。
銃弾はスカーに到達する前に、右腕の見えない障壁によって阻まれる。
キョウコは障壁の同じ箇所に負荷がかかるように、狙いを一点に集中させた。
意識をウィンリィから逸らすことに成功し、既にスカーはこちらに振り向いている。
「あなたを撃つ前に、ウィンリィを殺す前に、あたしを殺りなさいよ。ウィンリィ以上に、あなたはあたしに殺意があるでしょう?」
「キョウコ!?」
それは、立てた襟と緩めたタイという"氷の魔女"装束を纏ったキョウコ。
雪を舞い散らす幻想の姿は《スノー・ブラック》の銃口を突きつけてくる。
「良く理解しているじゃないか」
スカーの声を受け、キョウコは鼻で笑った。
「幼少時に世界の全てが解ったら、誰でもこうなるわよ」
「お前は己れを殺せるのか」
「殺したくなんかない、ホントは殺しちゃいけない。あたし達が先にあなた達を殺して、殲滅させたんだから」
「……おまえは……死にたいのか」
「いいえ」
キョウコはその言葉に首を振った。
即答、と言っていいくらいの速さだった。
「死ぬより、生きるのが辛いだけ」
スカーは一瞬信じられない、と表情をしたが、そうか、と言うと右腕に力を込めた。
瞬間、隆起した地面が周囲に巻き、そして前に溢れた。
圧力の実感を伴う凄まじい破裂音が、路地で爆ぜ溢れた。
エドとキョウコは横に跳ぶ。
分解された破片が二人の額に直撃し、どろりと血が流れるが、一切気にせずエドは壁を蹴り上げ、キョウコは全霊を持って引鉄を引き絞る。
「……っ、らァ!!!」
彼を分解するために突き出された破壊の右腕を、機械の右腕を支点に勢いをつけて空中を一回転。
そして二人が動き始めた瞬間、アルも飛び出した。
宙を舞うエドは、まだ銃を握るウィンリィに叫んだ。
「撃つなぁああああああ!!!」
その必死な叫びに、ウィンリィの表情が動転に揺れる。
着地したエドがウィンリィとスカーの間に入った瞬間、寸前で右腕が突き出される。
(止まった!?)
目の前の光景が信じられない。
この距離なら外すことはない。
だというのに、エドは健在している。
倒れてもいない。
血も出ていない。
開いたはずのは風穴はどこにもない。
そこにあるのは、ウィンリィをかばうエドと、右腕を突き出した状態で黙り込むスカーの姿だけだった。
――砕け落ちた、家宅の石塀 。
――焼け落ちた、部屋の梁 。
――それらを覆い隠して立ちのぼる、濛々たる黒い煙。
――強制的に退けられたスカーは驚きの声をあげる。
「兄者!?」
「伏せろ!!」
――兄であり唯一の家族であった彼は、両腕に刻まれた奇妙な入れ墨を広げて、スカーをかばう。
乱れた前髪から血と汗の混じった形相を覗かせ、荒々しく息を吐くエドは、しっかりと拳銃を押さえ込む。
――目の前を近くを彼方を埋めて、錬成陣が刻まれた掌を突き出す国家錬金術師。
「兄者!!」
――男が浮かべる、嘲笑。
かつて自分に向けられた、その嘲笑をかばうために死んだ兄と、目の前の光景が重なって躊躇する。
「――はっ!」
その状態で静止している隙に、キョウコの蹴りが見舞う。
「貴様……っ!」
キョウコの蹴りではあまりにも効果がないらしく、今度は彼女に右腕を向けた。
重量のあるアルの膝蹴りが見舞い、腕をかばう。
「くっ…」
続けて掌を合わせると地面を隆起させて袋小路に追い込むが、麻痺から復活したらしいスカーは後ろの塀を分解して、その穴に飛び込んだ。
「バカ兄!!何やってんだよ!!二人いっぺんに死ぬ気か!!早くウィンリィ!を安全な所へ!!」
「え…あっ」
「ウィンリィ、こっちに!」
素早くウィンリィを安全な位置に誘導させ、しゃがみ込む。
そこでようやく、彼女が未だ銃を持っていると気づいたエドは告げる。
「ウィンリィ、銃をはなせ!!」
キョウコは静かに、淡々と言葉を紡ぎ、
「銃を捨てて、お願い」
引鉄にかかっていた指をそっと外す。
不意に、拳銃を握る彼女の抵抗が、僅かに弱まったのを感じた。
その蒼い瞳から涙がこぼれる。
「撃てなかった…敵 なのに…」
「撃たないでくれ。たのむから」
「だって…父さんと母さんを殺したんだよ…なんで……エドもアルもキョウコも、殺され…っ、どうして……!!」
思い出したあの瞬間が、声に滲む。
滲んで、すぐに溢れ出す。
恐怖だけでなく、苦しみと悲しみと悔しさを混ぜた、涙として。
涙が、とめどなく落ちる。
ウィンリィの嗚咽をただ聞き、二人は語りかける。
「ウィンリィ、おまえはさ…ラッシュバレーで赤ん坊取り上げて、母子 救っただろ。オレに立ち上がるための手と足をくれただろ。おまえの手は人を殺す手じゃない、人を生かす手だ」
それと同時に、膨れ上がった爆発が、窓枠やガラス、壁さえ砕いた。
叫びをあげるための空気が喉を通る前に、轟音で男は思わず飛び上がっていた。
「え?」
突如として爆発したビルを振り返ると、濛々と黒煙があがっており、仲間から送られる疑惑の眼差しに身の潔白を訴える。
「え?何?俺じゃないよ?」
「ちょっと退いてーーーーーーーーーーーーッ!!!」
瞬間、頭上から声が降ってくるや、爆発したビルからリンが飛び降りてきた。
骨折するには充分な高さからの飛び降りにもかかわらず、リンは恐怖を感じることなく、風を切る爽快感すら無視して着地する。
靴の底がコンクリの地面に触れてから勢いを殺すという結果に変わりはないが、事前にタイミングを取るのと取らないのでは、危険度がまるで違う。
いくらリンが卓越した身体能力を持っているとはいえ、衝撃を殺さずに着地すれば足首の辺りを骨折か、
これから勝負、という時に余計な怪我などしていられない。
「~~~~~~~~~~……」
靴底から硬い感触が伝わってくるのと膝を曲げ始めたのはほとんど同時だった。
屈伸運動だけで衝撃を逃がしきり、縮こまってランファンを抱えた体勢からリンは声にならない絶叫をあげる。
「~~~~~~~ッ!!」
上手く逃したとはいえ関節を軋ませた衝撃を我慢し、驚愕の中に取り残された男達を置いて逃走する。
「閃光弾に発煙弾に手榴弾とは…やれやれ、無茶をする子供だ。私も若い頃はあれ位の無茶を平気でしたものだったがな。まったく…年は取りたくないものだ。目では追えても、身体が言う事をきかん」
あまりにも無謀な、文字通り無茶をする光景に面したブラッドレイは、ただただ見つめることしかできない。
両手で目を擦るグラトニーへと向き直る。
「まだ目が使えんのか……臭いで追えるか?」
「うん」
「東から回り込んでプレッシャーをかけろ。大通りには出すな」
「はぁい」
「この先の袋小路に追い込む」
閃光弾の直撃によって視力を一時不能にされ、目を擦るグラトニーに指示を送り、眼帯を装着する。
「やれやれだ。傷の男も片付けねばならんというのに」
――どうしよう、もう、どうしたらいいのよ。
キョウコは知らず、皮膚に爪が立つほど強く拳を握っている自分に気づく。
止めようとして下手に撃たれては、意味がない。
ウィンリィの手は決して汚したくない。
兄弟が戦闘体制を崩さないまま忠告する。
「撃つな、ウィンリィ!!銃を下ろせ!!」
「そんな物、持っちゃダメだ!!ウィンリィ!!」
そんな彼女の姿に、ギリッと唇を噛みしめる。
「――あなたが、そんな物を持たないで!!」
表情を硬直させ、ビクリと身体を震わせるウィンリィを、スカーはじっと睨み据える。
「あの医者の娘か…おまえには
「傷の男!!」
「てめェ、ウィンリィに手ェ出してみろ!!ぶっ」
血相を変えて言いかけたエドの言葉を遮って、スカーが赤い瞳で怒声を轟かせる。
「殺すか!?それもいいだろう!!どちらかが滅ぶまで憎しみの連鎖は止められん!!」
「――っ!!」
キョウコの身体は強張り、激情で顔色を失ったウィンリィは銃を握る手に力を込める。
「だが忘れるな!!あの内乱で先に引き鉄を引いたのはアメストリス人!!貴様らである事を!!」
「だめだ…撃つなよ…たのむから撃つなよ…!!」
「早く銃を下ろしてここから離れるんだ!!ウィンリィ!」
声とも呼べない喘ぎだけを搾り出し、
「だって…父さん、母さん……」
代わりに身体は極度の恐れから萎縮して、銃を持つ手はカタカタと震える。
「早く!!」
エドがスカーに、アルがウィンリィに叫ぶが、返事は来ない。
それぞれに敵意だけがみなぎっているのがわかる。
キョウコは苦渋の沈黙を保ったまま、アルに話しかける。
「……アル、傷の男の事頼んでいい?」
「分かった。ウィンリィをお願い」
キョウコは決め、弾切れになった拳銃に弾倉を挿し替え、一気にウィンリィの方へと駆け出した。
「撃てないのなら、
錬金術を発動させようとしたスカーに気づいて、速度を上げた。
「勝手にほざいてなさいよ!」
と、彼の進路を。
錬成を遮るものが。
銃弾による発砲音だった。
疑問は半秒持たず、憤怒と破壊衝動に変わる。
照準をしっかりと合わせ、射撃を続けながら接近する。
銃弾はスカーに到達する前に、右腕の見えない障壁によって阻まれる。
キョウコは障壁の同じ箇所に負荷がかかるように、狙いを一点に集中させた。
意識をウィンリィから逸らすことに成功し、既にスカーはこちらに振り向いている。
「あなたを撃つ前に、ウィンリィを殺す前に、あたしを殺りなさいよ。ウィンリィ以上に、あなたはあたしに殺意があるでしょう?」
「キョウコ!?」
それは、立てた襟と緩めたタイという"氷の魔女"装束を纏ったキョウコ。
雪を舞い散らす幻想の姿は《スノー・ブラック》の銃口を突きつけてくる。
「良く理解しているじゃないか」
スカーの声を受け、キョウコは鼻で笑った。
「幼少時に世界の全てが解ったら、誰でもこうなるわよ」
「お前は己れを殺せるのか」
「殺したくなんかない、ホントは殺しちゃいけない。あたし達が先にあなた達を殺して、殲滅させたんだから」
「……おまえは……死にたいのか」
「いいえ」
キョウコはその言葉に首を振った。
即答、と言っていいくらいの速さだった。
「死ぬより、生きるのが辛いだけ」
スカーは一瞬信じられない、と表情をしたが、そうか、と言うと右腕に力を込めた。
瞬間、隆起した地面が周囲に巻き、そして前に溢れた。
圧力の実感を伴う凄まじい破裂音が、路地で爆ぜ溢れた。
エドとキョウコは横に跳ぶ。
分解された破片が二人の額に直撃し、どろりと血が流れるが、一切気にせずエドは壁を蹴り上げ、キョウコは全霊を持って引鉄を引き絞る。
「……っ、らァ!!!」
彼を分解するために突き出された破壊の右腕を、機械の右腕を支点に勢いをつけて空中を一回転。
そして二人が動き始めた瞬間、アルも飛び出した。
宙を舞うエドは、まだ銃を握るウィンリィに叫んだ。
「撃つなぁああああああ!!!」
その必死な叫びに、ウィンリィの表情が動転に揺れる。
着地したエドがウィンリィとスカーの間に入った瞬間、寸前で右腕が突き出される。
(止まった!?)
目の前の光景が信じられない。
この距離なら外すことはない。
だというのに、エドは健在している。
倒れてもいない。
血も出ていない。
開いたはずのは風穴はどこにもない。
そこにあるのは、ウィンリィをかばうエドと、右腕を突き出した状態で黙り込むスカーの姿だけだった。
――砕け落ちた、家宅の
――焼け落ちた、部屋の
――それらを覆い隠して立ちのぼる、濛々たる黒い煙。
――強制的に退けられたスカーは驚きの声をあげる。
「兄者!?」
「伏せろ!!」
――兄であり唯一の家族であった彼は、両腕に刻まれた奇妙な入れ墨を広げて、スカーをかばう。
乱れた前髪から血と汗の混じった形相を覗かせ、荒々しく息を吐くエドは、しっかりと拳銃を押さえ込む。
――目の前を近くを彼方を埋めて、錬成陣が刻まれた掌を突き出す国家錬金術師。
「兄者!!」
――男が浮かべる、嘲笑。
かつて自分に向けられた、その嘲笑をかばうために死んだ兄と、目の前の光景が重なって躊躇する。
「――はっ!」
その状態で静止している隙に、キョウコの蹴りが見舞う。
「貴様……っ!」
キョウコの蹴りではあまりにも効果がないらしく、今度は彼女に右腕を向けた。
重量のあるアルの膝蹴りが見舞い、腕をかばう。
「くっ…」
続けて掌を合わせると地面を隆起させて袋小路に追い込むが、麻痺から復活したらしいスカーは後ろの塀を分解して、その穴に飛び込んだ。
「バカ兄!!何やってんだよ!!二人いっぺんに死ぬ気か!!早くウィンリィ!を安全な所へ!!」
「え…あっ」
「ウィンリィ、こっちに!」
素早くウィンリィを安全な位置に誘導させ、しゃがみ込む。
そこでようやく、彼女が未だ銃を持っていると気づいたエドは告げる。
「ウィンリィ、銃をはなせ!!」
キョウコは静かに、淡々と言葉を紡ぎ、
「銃を捨てて、お願い」
引鉄にかかっていた指をそっと外す。
不意に、拳銃を握る彼女の抵抗が、僅かに弱まったのを感じた。
その蒼い瞳から涙がこぼれる。
「撃てなかった…
「撃たないでくれ。たのむから」
「だって…父さんと母さんを殺したんだよ…なんで……エドもアルもキョウコも、殺され…っ、どうして……!!」
思い出したあの瞬間が、声に滲む。
滲んで、すぐに溢れ出す。
恐怖だけでなく、苦しみと悲しみと悔しさを混ぜた、涙として。
涙が、とめどなく落ちる。
ウィンリィの嗚咽をただ聞き、二人は語りかける。
「ウィンリィ、おまえはさ…ラッシュバレーで赤ん坊取り上げて、