第41話

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これは数日前の話。

中央司令部の執務室。

「どう思う?」

ロイがデスクの上へと差し出した新聞を、ブレダは拾い上げる。

「ああ、聞いてますよ。マリア・ロス少尉……動きが派手やしすぎませんかね」

「うむ……」

ヒューズ殺害事件の被疑者逮捕から、あまりにも処分が早すぎる。

まるで、最初からロスを犯人に仕立てあげるような……。

どこかおかしいと感じながら、ブレダは複雑な心境で訊ねた。

「大佐、お嬢の事ですが……どう話しますか?」

「問題ない、彼女には既に話しておいた」

「ダメじゃないですか!ヒューズ准将が死んだ事実なんて……特にお嬢には隠さなきゃいけないですよ!」

断言の即答で、ブレダが怒りの灯った目で声を荒げる。

ところが、あっさり反論が返ってきた。

「それはどうかな。詰め寄ってきたのは彼女の方だし、聡明なキョウコの事だ。隠し通すのは難しい。それならいっその事、打ち明けた方が得策だ。それに――」

そこで言葉を止めると、頭を押さえ、固く目をつぶりながら懊悩する。

ふと何かを思い出したような上司の反応に、ブレダは戸惑う。

「それに……?」

「秘密にしておくと、後になって怖いからな」

キョウコが静かに、凛々しい美貌で怒る様を想像して、強張った笑みを浮かべた。

次の瞬間、机の上の電話が鳴った。

受話器を取ると、ファルマン准尉からの一般回線らしい。

≪ファルマン准尉から一般回線で通信です≫

「つなげ」

回線が切り替わると、真剣な声音でファルマンは話を切り出す。

≪大佐!ヒューズ准将殺害の件ですが…≫

≪よう、ファルマン。ちょいとでんわ貸しな≫

ファルマンの声にバリーの声が割り込み、そのまま会話は続行される。

いや、続行しないでよ、アンタ一応元死刑囚。

≪いよぉ、マスタングさん!新聞見たかい?面白い話があんだけどよ≫

「なんだと、バ…」

リー、という続きを飲み込んだ。

しばらく思案して、声の調子を変えた。

「やあバーニーか、久しぶりだな。ファルマンにねだって、仕事場まで電話をかけてくるとは。そんなに私の事が好きかね、はっはっはっ」

いかにも女性との会話を楽しむ爽やかな笑顔で話し始める。

どういう脳内構造をしていたらそんな言葉がすらすらと出てくるのか、はなはだ疑問だ。

≪いやしかし、困ったな。軍の回線を使用に使うのはいただけない≫

「やーん、ごめんなさーい。バーニー、ちょっとマスタングさんとお話ししたかっただけなの。ふたりの将来にかかわる大事なお・は・な・し」

バリーがまさかの裏声で返してきた。

それを横で聞くファルマンは、呆然とした表情だった。

なんでだろう、凄く頭が痛い、主にこめかみ辺りが。

≪しょうがないな。外の電話からかけ直すよ。待っててくれ≫

「は~~い」

それから数十分後、電話の音が鳴るや否や、

≪私だ≫

すぐさま受話器を取るとバリーが早速、吐き捨てる。

「アホなマネさせんじゃねェよ、ボケナス」

外に出たロイが電話ボックスに入り、ブレダは見張り役として付き添っている。

「いや、おまえが機転のきく奴で助かったよ。軍の回線だと、盗聴のおそれがあるからな」

≪さっきの話の続きだがな。マリア・ロスを留置所から出してやるよ≫

ロイは余計な話を好まない。

単刀直入に聞く。

「どうやってだ?」

バリーも笑みを交えながら簡潔に答えた。

「正面から堂々とだよ。げっへっへ。ああ…そうだ、うん。ああ、あの倉庫街なら2番通路がいいぜ。うす暗くて人を殺すにゃいい場所だ」

早々に積極策を提示する。

さすがセントラルを恐怖に陥れたバリー・ザ・チョッパーだ。

あまり誉めたくはないが、殺しに関しては誰にも負けない。

≪憲兵や一般人は殺すなよ≫

「わかってるよ。姐さんにゃ怒られたくねェからな。さて、まず何から始めようか」

≪そうだな。まず………≫

不意に、バリーからの視線に、ファルマンは嫌な予感を覚える。

「なんだ?」

≪ファルマンは殺人鬼に監禁されている事に…なんの音だ?≫

受話器の向こうから、鈍器か何かで殴るような、とてつもなく鈍い音がした。

「説明すンの面倒くせェから、気絶してもらった」

≪…そうか≫

考えるよりも先に身体が動いたバリーの報告に、ロイはそう言うしかなかった。







バリーとの通話を終えて、ロイは手帳にメモした用紙をブレダに渡した。

「豚の骨と肉…炭素…アンモニア…なんですか?」

疑問を浮かべる間にも、

「石炭、リン、イオウ」

用紙に羅列された単語を述べていく。

「焼死体をでっちあげる」

「じっ…人体錬成!?」

なんのためらいもなく、あっさり告げられた人体錬成の表明に、ブレダは驚愕した。

「バカ言うな。あくまで『人間の焼死体のようなもの』だ。完全な人体である必要は無いから、内臓や諸器官も適当でいい」

「そんなもん、検屍に出されたら一発でバレますよ!」

その鑑定がもたらす結果に、これまでにない類の不安を露にする彼を、しかしロイは断ち切った。

「検屍などできない位、ケシ炭にする」

「歯の治療痕で判断されたらどうするんですか」

「ロス少尉の歯科カルテの写しはホークアイ中尉が入手済みだ。人間の歯の主成分はカルシウムとリン、あと少々のナトリウム等。そして、治療に使われる金歯・銀歯…材料さえ揃えば、錬成は容易い」

部下の消極意見に対し、ロイは早々に積極策を提示する。

「…………錬成できるんですか?」

「専門ではないが、それなりに知識は持っている。焼死体を作るのは得意だ。急げ」

訊ねる仕草も重い、ブレダの鋭い洞察に答えつつ、ロイは現状の対策の身を考える。







場所は変わって、クセルクセス遺跡。

ここまでロスを連れてきたフーは淡々と続ける。

「その後留置所でバリーと不法入国で捕まった若が遭遇し、取引しタ。バリーの身体の秘密を教えてもらうかわりに、マリア・ロスを我らが使った密入国ルートで国外に出ス。わしが若より受けた命令は、この女を東へ運ぶこト」

フーの役目は情報交換を条件に、ロスを連れて帰国すること。

そこで世話になったハンへと視線を移した。

「そこでハン氏に連絡を取っタ。彼には我々がアメストリスに入る時、世話になっタ」

「逃走先が決まったら、あとは…」

ブレダは訳知り顔で口の端をつり上げる。







――エド達がロスを追いかけていった、あの日の夜。


――キョウコとの一戦で勝利したロイは気絶した少女の身体を壁に預けて、彼女を待つ。


「マリア・ロスだな」


――裏道へと逃げ込んだロスの目に、コートを着込んだロイの姿が飛び込んできた。


――彼はゴミ箱の蓋を開け、ひそかに仕込んでおいた偽の人体を取り出す。


「ひっ」

「ダミーだ」

「は!?」

「君は今夜、ここで死ぬ」


――発火布を掲げ、爆発が起きたと思えば、あっという間に一つの焼死体が完成する。


「は……」

「ぼさっとするな」

「え?え?」


――呆気に取られるロスの手を、素早くロイが引く。


「わわわっ」


――乱暴にゴミ箱に投げ込まれ、慌てる彼女の頭上に空いた穴から、


「しーー」


――人差し指を立てたハボックが顔を出す。


「わ……」

「早く!…っと」


――彼は手を引くロスの腕輪をペンチで切り、


「失礼」


――ゴミ箱を伝って、それをロイに手渡した。


「大佐!」

「む。おっと。これを忘れてはいかん」


――細い鎖で編まれたそれは、たんなるアクセサリーではない、名前と番号が刻まれた腕輪である。


「これで良し………と」


――その時、壁越しに聞こえてきた声にハボックは壁に耳を張りつけた。


――壁の向こうから聞こえるエドの怒声に、


「どういう事だ、説明しろ」


――困ったように頭を掻く。


「ありゃ?鋼の大将?まいったな…予定外だ」


――壁越しから届くエドの弾劾するような物言いに、


「なんでだまってた!!」


――ハボックは気まずそうに目を逸らしたが、すぐにロイならなんとかしてくれるだろう、と頭を切り替えた。


「まぁ、大佐がなんとかしてくれるだろう。行くぞ」


――未だ困惑するロスを手招きし、ハボックはその場を後にした。







「そのまま、ファルマンがいるアパート近くのスラムに潜んで待機。そこで、じいさんと落ち合った」

ブレダの言葉に、フーは黙って頷く。


――頭まで覆うフードを纏い、ロスとブレダは身を隠して待機する。


「やっ」


――そこに、呑気に声をかけてきたリンと護衛のフーと合流、それぞれが別行動を始める。


「私はそのままフーさんに同行」

「ここで合流する約束をして、俺は別行動」

そして、エドを連れ出したアームストロングは腕を組んで自信ありげに口を開く。

「我輩は『リゼンブールで待つ』とだけ、ブレダ少尉から連絡を受けてな。エドワード・エルリックの機械鎧修理を理由に、ごく自然に移動してみせた訳だ」

(拉致り方が自然じゃねぇっつーの)

ごく自然に、という単語を強調され、そんな感想を抱きつつ、これまでの経緯を全て聞き終えた。

「じゃあ、キョウコがオレ達の傍にいなかった理由は……?」

喉の奥から絞り出されるようなエドの言葉に、ブレダは鼻を鳴らした。

「隠し事はできないって事さ。あっさりお嬢にバレてな」

小さな違和感を誘うブレダの言葉に、エドはその意図するところをくみ取って思い至る。

(バレて……もしかして、あの時か!)

中央の軍法会議所でロイとリザに出会った時、話があると言った彼女はいきなり走り出し、自分達を追い越していった。

既に、ロイとリザの態度に疑問を持ち、おそらく兄弟の部屋に置かれた新聞を見たに違いない。

そして、ロイの立てた作戦のメンバーとして行動している。

「大将と一緒にお嬢も連れ出すという案も出たんだがな、国家錬金術師二人を連れ出すとなると怪しまれるという理由で却下された」

エドは脱力したように、近くの岩へと寄りかかる。

キョウコは…オレがここにいる事を知ってるのか?」

「いや、お嬢もこの事は知らない」

「なんつうか、その…キョウコがオレの知らないところで大佐と一緒に行動してる思うと……なんか、凄ェイライラする」

ロイの嫌味な顔が浮かんだ。

彼の思惑がキョウコに絡んでいることだけは確かだ。

思わずつぶやくエドの隣で、ブレダは小さく息をつく。

「おーい、大将。ヤキモチも大概にしろよ」

「なっ、誰が…!」

額に汗を滲ませたエドは顔を赤くして、思わず立ち上がる。

「さて…とにかく情報が欲しい。こっちは大佐が得た情報をあずかって来た。お互い、隠し事無しで情報交換といこう」

ロイから預かってきた手帳を取り出し、早速本題に入った。







アームストロングによって描かれた人造人間の絵を囲み、エド達は話し合う。

彼が描いた絵は相変わらずうまい。

「こんな感じか?」

「そうそう」

アームストロングが確かめるように聞くと、エドは頷く。

「このエンヴィーってのがエドワード君とキョウコちゃんを運んで来た人ね」

「このボンキュってのが『ラスト』?」

ロスが真剣な顔で似顔絵を確認し、ブレダはラストの妖艶な美貌に鼻息を荒くする。

「人造人間など、本当に存在するのか?」

「そう言いたい気持ちもわかる」

考えれば考えるほど湧いてくる疑問に、鼻息を荒くするブレダ以外、皆は頭を抱える。
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