第40話
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「リゼンブール~~、リゼンブールだぁよっと」
リゼンブール駅の駅長が拡声器で知らせると、中央から戻ってきたエドが声をかける。
「駅長さん、こんちはー」
「よう…って、ありゃ?キョウコちゃんと弟はどうした?」
不思議そうな顔で振り向くと、エドは既に改札を通り抜ける。
「セントラルに置いて来た。オレは誘拐されて来た」
いきなり簡潔に説明され、駅長は首を傾げる。
駅を出て歩くことしばし、エドは隣に並ぶ――強制的に連れ出した首謀者のアームストロングに視線を移す。
「なあ少佐、何企んでるのか、いいかげん話せよ」
「んーー?ふふふ」
ご機嫌な様子で、にんまりと不敵な浮かべている。
そんなアームストロングの放つ不思議な笑みに気圧され、エドは顔をしかめる。
「んだよ、気色悪いなぁ」
「む!いたな」
「どうも、アームストロング少佐――と、よう大将」
そこにいたのは、腹ごしらえをしながら待つ、私服姿のブレダ。
「なんで、ブレダ少尉?」
無関係のブレダがいることにエドは呆気に取られ、アームストロングは白い歯を見せて笑みを浮かべた。
ブレダと合流し、何故に無関係の人間までいるのか、彼には見当もつかない。
ただ、機械鎧の修理だと信じて疑問を投げかける。
「オレの機械鎧修理に付いて来る気かよ?」
「そんな所付いてく気も連れてくヒマも無い」
ブレダはぶっきらぼうな声音で斬り捨て、
「こっち来い」
目を丸くするエドを促し、店へと入る。
扉を開けると、丸い黒縁眼鏡をかけた老人が出迎えた。
「や、どーもー」
「出入国コーディネーターのミスター・ハンだ」
「よろしくネ。フーさんから話は聞いてるよ」
「フーって…あのじいさんか」
「さっそく出国のルートについてだが」
顔を合わせた途端に進める話し合いを、置いてけぼりのエドが口を開いて重大な報告を言う。
「出国?オレ、パスポート持ってないよ」
「バカヤロ。パスポートがあったら足が付いちまうだろが」
「それって、密……」
不穏な単語を発する直前、口を手で塞がれる。
目を見開いた先には、剣呑な目つきで黙殺する三人。
その剣呑な空気に驚きを、自分の扱いに不満を覚えていたが、この状況で否やのあろうはずもない。
それに、この行為が重要な確認作業であることも理解していた。
「…のヤローども。何を企んでるか知らねーけど、つまんねぇ事だったら承知しねーぞ!」
口を塞ぐ手を離し、勢いよく椅子に座ると開き直った。
「で?どこに行く気だ?」
「東だ!」
ブレダは行き先を告げる。
端から機械鎧の修理に行く気などなかったのである。
それを口実に、彼らの参集している理由は、まさにそれだった。
薄暗い地下、侵入者の役目を放棄したと聞きつけ、エンヴィーは激昂する。
「なんでだ!!なんで生かして帰した!!奴ら、この近くまで来て、しかもラストを殺したんだぞ!!おまえの役目は侵入者の始末だったろうが!!」
特段恐れた様子もなく、ブラッドレイは答えない。
「ラスト……ラスト、死んじゃった…」
常に行動を共にしてきたラストが死亡したことで、誰よりも悲しむグラトニーは涙をこぼす。
「そうだ!奴ら、入院中だろ!医療事故に見せかけて殺っちゃえよ!!今からでも遅くない!!ここまでなめられっぱなしでいられるか!!」
既に独演状態となってるエンヴィーは身体を声を震わせ、訴える。
彼女が死んだ、もう二度と戻らない――その無慈悲な現象を受け入れられないグラトニーは、しきりにラストの名前を呼ぶ。
「ラスト…ラス……」
焦燥に顔を歪めるエンヴィーの疑問を"お父様"が別の言葉で代弁する。
「ラース…なぜ、焔の錬金術師を逃がした」
「利用できるから生かして帰しました」
すると、パイプとコードが溢れ出す椅子から立ち上がる拍子に、首筋から覗く接続部分が露になった。
そのままブラッドレイに近づき、穏やかな声をかける。
「使えるか?」
「ロイ・マスタング…彼は優しすぎる…それが強さであり、弱点でもあるのです。扉を開けさせてみましょう」
その言 には、偽りではあり得ない重みが感じられた。
"お父様"は、良案と思える申し出に、僅か心動かれたように口の端をつり上げ、踵を返した。
「任せたぞ」
「はっ」
「焔の錬金術師はラースに一任する」
「あ……」
"お父様"が笑みを浮かべた時点で決定となり、エンヴィーは小さく声をあげた後、ブラッドレイに詰め寄る。
「…っ!おい、ラース!奴ら、本当に生かしておくつもりか!!」
「兵力を削 いで飼い殺しにしておく。任せておけ」
一夜明けた今、キョウコ達が入院する病院へ行ったアルはそこで、フュリーと遭遇した。
「アルフォンス君!」
「フェリー曹長!」
「お見舞いかい?」
壊れた鎧を保護するために布を金具で止めたアルの姿を見て、フュリーは苦笑する。
「…って、どっちかと言うと君の方が重傷だよね」
「やっぱり目立つかなぁ、恥ずかしいなぁ」
「名誉の負傷だよ。はずかしがる事無いさ」
フュリーからの言葉でアルはようやく元気を取り戻した足取りで廊下を歩くと、大部屋から怒鳴り声が響いた。
「この馬鹿者!」
部下から聞かされた――ラストの罠にまんまとかかり、上司の死という衝撃に自失した話に、ロイは叱責する。
「敵の言葉を信じて戦意喪失だと!?ホークアイ中尉ともあろう者があきれるな!」
「申し訳ありません」
直立するリザは、目を閉じて唇を引き結んでいた。
誰だってわかる辛さが唇の端から滲み、絞り出すようなその声に構わず、ロイは続ける。
「うろたえるな!思考を止めるな!生きる事をあきらめるな!!軍人なら、私の副官ならもっと毅然としていろ」
「はい」
「引き続き、私の背中を任せる。精進しろ」
ためらう彼女が言いやすいように助け舟を出す。
そこに、ハボックが割って入り、先程の雰囲気を一瞬で壊した。
「大佐も人の事、言えないでしょーが。司令官がのこのこと戦場に出て来ちまって」
「うるさいな!!」
一時の怒りを沈静化したロイは余計な一言で再び怒鳴る。
その拍子に焼いた傷口が痛み出し、
「つーー…」
と腹部を押さえて呻く。
「あまり怒鳴らんでください。腹にひびく」
「貴様それが命の恩人に対する言葉か。キョウコに治療された挙句、私にもされおって」
「キョウコ限定ならそれは感謝してますが、もうちょっと上手く焼いてくださいよ。このヤケドっ腹じゃ、女の子に嫌われちまう」
「ぜいたく言うな!おまえはレア!私はミディアム!どうだ、私の方がヒサンだろう!!」
「誰が焼き加減の話をしてますか!!」
話の噛み合わない口論をする二人の終結は、同時に痛み出した傷口によって中断された。
「「~~~~~……」」
痛みに歪む顔を横に向ければ、そこには三人目の入院患者がいた。
寝顔は、安らかでも苦しげでもなかった。
昏睡状態であることを知らされていなければ、ただ眼をつぶっているようにしか見られない。
"氷の魔女"と恐れられた錬金術師、凛々しさと貫録に満ちた美貌、それら激しさもいずこかに消え去って、今は一人の少女として、ひたすらに眠っている。
「……キョウコはまだ目が覚めんのか?」
「…はい。手術の際の麻酔がまだ効いているようです。医師の話では失血死で死んでもおかしくは無い、生きていたのが不思議だったと…おそらく、無茶な錬成を行ったのではないかと……」
「………」
内心、その姿に込み上げてくるものを感じたロイは、しかし見かけだけは納得できない表情で声を漏らす。
「だいたい、何故この私が野郎と同室なのだ。ふつうは美人看護師付き個室だろうが!」
「我慢してください。敵が寝首を掻きに来るかもしれない状況ですから、部屋は一緒の方が護衛しやすいんです」
リザが呆れた様子で答えると、ロイは指先を向けて指摘した。
「それだ!何故、奴らはこの絶好の機会に我々を殺しに来ない!?死人がいつ出てもおかしくないこの病院という場所で…何故だ?」
不穏分子を釣り上げる作戦の最中に負傷し、入院中のロイ達を暗殺することなど容易い。
なのに何故か、人造人間は殺しに来ない。
ロイは疑問を募らせる。
すると病室の扉が開いて、アルとフュリーが見舞いにやって来た。
「お取り込み中、失礼します」
「お見舞いに来ました」
ボロボロになった鎧の姿を視界に入れ、リザは驚きを露にする。
「アルフォンス君!出歩いて大丈夫なの?君、命を狙われてもおかしくない状況なのよ!?」
「大丈夫です。人造人間の気配がわかる人が付いて来てるんで」
リザの不安は最もだが、アルは心強い味方がいると告げる。
病院の屋上、旗の上に器用に立つランファンがいた。
「人造人間の気配…?」
「どういう…?」
「ボクもよくわからない」
言った自分でさえも理解できない答えに悩んだところで、もう一つのベッドに歩み寄る。
「キョウコは、まだ……?」
「えぇ…まだ手術の麻酔が効いているみたいで……医師の話だと、無茶な錬成を行った事が原因で………」
アルは、自分にとっての希望を見つめた。
視線の先にあるものは、安らかでも苦しげでもない、昏々 とした眠り。
時を凍らせたかのように、汗の一玉も浮かべず呼気も微かな相貌。
アルには、彼女の全てが、エドを待って佇む振る舞いであるように思えてならなかった。
あるいは、心細さからそう思いたいだけなのかもしれない、とわかって、それでも強くのしかかってくる重く冷たい世界から打ち払う希望としての、少女の目覚めを望んだ。
「キョウコ」
勿論、キョウコはその一言だけで目覚めるほど、殊勝 な駄々っ子ではない。
「キョウコ、起こった事、全部聞いたよ」
自然と、声を眠りの彼方へと届けるように、シーツから出された包帯まみれの手に手を置いて、語り出した。
「巻き込ませないために、一人で罪をかぶったんだね。でもボク達には、間違いなく意味はあったよ。兄さんに、ウィンリィに、ボクにとっても。手段が乱暴であっても、行き違いがいくつあっても……何より」
ほんの微か、置いた手に、力が入った。
「キョウコに守られてばかりじゃいられない」
開かない目を見つめて、その開くことを願って、言う。
「国家錬金術師だとか、そんな理由があろうとなかろと、他の人達がどう思おうと、キョウコが自分自身をどう思おうと……ボクだって男だ。女の子を守る事に、絶対の意味があるんだ」
リゼンブール駅の駅長が拡声器で知らせると、中央から戻ってきたエドが声をかける。
「駅長さん、こんちはー」
「よう…って、ありゃ?キョウコちゃんと弟はどうした?」
不思議そうな顔で振り向くと、エドは既に改札を通り抜ける。
「セントラルに置いて来た。オレは誘拐されて来た」
いきなり簡潔に説明され、駅長は首を傾げる。
駅を出て歩くことしばし、エドは隣に並ぶ――強制的に連れ出した首謀者のアームストロングに視線を移す。
「なあ少佐、何企んでるのか、いいかげん話せよ」
「んーー?ふふふ」
ご機嫌な様子で、にんまりと不敵な浮かべている。
そんなアームストロングの放つ不思議な笑みに気圧され、エドは顔をしかめる。
「んだよ、気色悪いなぁ」
「む!いたな」
「どうも、アームストロング少佐――と、よう大将」
そこにいたのは、腹ごしらえをしながら待つ、私服姿のブレダ。
「なんで、ブレダ少尉?」
無関係のブレダがいることにエドは呆気に取られ、アームストロングは白い歯を見せて笑みを浮かべた。
ブレダと合流し、何故に無関係の人間までいるのか、彼には見当もつかない。
ただ、機械鎧の修理だと信じて疑問を投げかける。
「オレの機械鎧修理に付いて来る気かよ?」
「そんな所付いてく気も連れてくヒマも無い」
ブレダはぶっきらぼうな声音で斬り捨て、
「こっち来い」
目を丸くするエドを促し、店へと入る。
扉を開けると、丸い黒縁眼鏡をかけた老人が出迎えた。
「や、どーもー」
「出入国コーディネーターのミスター・ハンだ」
「よろしくネ。フーさんから話は聞いてるよ」
「フーって…あのじいさんか」
「さっそく出国のルートについてだが」
顔を合わせた途端に進める話し合いを、置いてけぼりのエドが口を開いて重大な報告を言う。
「出国?オレ、パスポート持ってないよ」
「バカヤロ。パスポートがあったら足が付いちまうだろが」
「それって、密……」
不穏な単語を発する直前、口を手で塞がれる。
目を見開いた先には、剣呑な目つきで黙殺する三人。
その剣呑な空気に驚きを、自分の扱いに不満を覚えていたが、この状況で否やのあろうはずもない。
それに、この行為が重要な確認作業であることも理解していた。
「…のヤローども。何を企んでるか知らねーけど、つまんねぇ事だったら承知しねーぞ!」
口を塞ぐ手を離し、勢いよく椅子に座ると開き直った。
「で?どこに行く気だ?」
「東だ!」
ブレダは行き先を告げる。
端から機械鎧の修理に行く気などなかったのである。
それを口実に、彼らの参集している理由は、まさにそれだった。
薄暗い地下、侵入者の役目を放棄したと聞きつけ、エンヴィーは激昂する。
「なんでだ!!なんで生かして帰した!!奴ら、この近くまで来て、しかもラストを殺したんだぞ!!おまえの役目は侵入者の始末だったろうが!!」
特段恐れた様子もなく、ブラッドレイは答えない。
「ラスト……ラスト、死んじゃった…」
常に行動を共にしてきたラストが死亡したことで、誰よりも悲しむグラトニーは涙をこぼす。
「そうだ!奴ら、入院中だろ!医療事故に見せかけて殺っちゃえよ!!今からでも遅くない!!ここまでなめられっぱなしでいられるか!!」
既に独演状態となってるエンヴィーは身体を声を震わせ、訴える。
彼女が死んだ、もう二度と戻らない――その無慈悲な現象を受け入れられないグラトニーは、しきりにラストの名前を呼ぶ。
「ラスト…ラス……」
焦燥に顔を歪めるエンヴィーの疑問を"お父様"が別の言葉で代弁する。
「ラース…なぜ、焔の錬金術師を逃がした」
「利用できるから生かして帰しました」
すると、パイプとコードが溢れ出す椅子から立ち上がる拍子に、首筋から覗く接続部分が露になった。
そのままブラッドレイに近づき、穏やかな声をかける。
「使えるか?」
「ロイ・マスタング…彼は優しすぎる…それが強さであり、弱点でもあるのです。扉を開けさせてみましょう」
その
"お父様"は、良案と思える申し出に、僅か心動かれたように口の端をつり上げ、踵を返した。
「任せたぞ」
「はっ」
「焔の錬金術師はラースに一任する」
「あ……」
"お父様"が笑みを浮かべた時点で決定となり、エンヴィーは小さく声をあげた後、ブラッドレイに詰め寄る。
「…っ!おい、ラース!奴ら、本当に生かしておくつもりか!!」
「兵力を
一夜明けた今、キョウコ達が入院する病院へ行ったアルはそこで、フュリーと遭遇した。
「アルフォンス君!」
「フェリー曹長!」
「お見舞いかい?」
壊れた鎧を保護するために布を金具で止めたアルの姿を見て、フュリーは苦笑する。
「…って、どっちかと言うと君の方が重傷だよね」
「やっぱり目立つかなぁ、恥ずかしいなぁ」
「名誉の負傷だよ。はずかしがる事無いさ」
フュリーからの言葉でアルはようやく元気を取り戻した足取りで廊下を歩くと、大部屋から怒鳴り声が響いた。
「この馬鹿者!」
部下から聞かされた――ラストの罠にまんまとかかり、上司の死という衝撃に自失した話に、ロイは叱責する。
「敵の言葉を信じて戦意喪失だと!?ホークアイ中尉ともあろう者があきれるな!」
「申し訳ありません」
直立するリザは、目を閉じて唇を引き結んでいた。
誰だってわかる辛さが唇の端から滲み、絞り出すようなその声に構わず、ロイは続ける。
「うろたえるな!思考を止めるな!生きる事をあきらめるな!!軍人なら、私の副官ならもっと毅然としていろ」
「はい」
「引き続き、私の背中を任せる。精進しろ」
ためらう彼女が言いやすいように助け舟を出す。
そこに、ハボックが割って入り、先程の雰囲気を一瞬で壊した。
「大佐も人の事、言えないでしょーが。司令官がのこのこと戦場に出て来ちまって」
「うるさいな!!」
一時の怒りを沈静化したロイは余計な一言で再び怒鳴る。
その拍子に焼いた傷口が痛み出し、
「つーー…」
と腹部を押さえて呻く。
「あまり怒鳴らんでください。腹にひびく」
「貴様それが命の恩人に対する言葉か。キョウコに治療された挙句、私にもされおって」
「キョウコ限定ならそれは感謝してますが、もうちょっと上手く焼いてくださいよ。このヤケドっ腹じゃ、女の子に嫌われちまう」
「ぜいたく言うな!おまえはレア!私はミディアム!どうだ、私の方がヒサンだろう!!」
「誰が焼き加減の話をしてますか!!」
話の噛み合わない口論をする二人の終結は、同時に痛み出した傷口によって中断された。
「「~~~~~……」」
痛みに歪む顔を横に向ければ、そこには三人目の入院患者がいた。
寝顔は、安らかでも苦しげでもなかった。
昏睡状態であることを知らされていなければ、ただ眼をつぶっているようにしか見られない。
"氷の魔女"と恐れられた錬金術師、凛々しさと貫録に満ちた美貌、それら激しさもいずこかに消え去って、今は一人の少女として、ひたすらに眠っている。
「……キョウコはまだ目が覚めんのか?」
「…はい。手術の際の麻酔がまだ効いているようです。医師の話では失血死で死んでもおかしくは無い、生きていたのが不思議だったと…おそらく、無茶な錬成を行ったのではないかと……」
「………」
内心、その姿に込み上げてくるものを感じたロイは、しかし見かけだけは納得できない表情で声を漏らす。
「だいたい、何故この私が野郎と同室なのだ。ふつうは美人看護師付き個室だろうが!」
「我慢してください。敵が寝首を掻きに来るかもしれない状況ですから、部屋は一緒の方が護衛しやすいんです」
リザが呆れた様子で答えると、ロイは指先を向けて指摘した。
「それだ!何故、奴らはこの絶好の機会に我々を殺しに来ない!?死人がいつ出てもおかしくないこの病院という場所で…何故だ?」
不穏分子を釣り上げる作戦の最中に負傷し、入院中のロイ達を暗殺することなど容易い。
なのに何故か、人造人間は殺しに来ない。
ロイは疑問を募らせる。
すると病室の扉が開いて、アルとフュリーが見舞いにやって来た。
「お取り込み中、失礼します」
「お見舞いに来ました」
ボロボロになった鎧の姿を視界に入れ、リザは驚きを露にする。
「アルフォンス君!出歩いて大丈夫なの?君、命を狙われてもおかしくない状況なのよ!?」
「大丈夫です。人造人間の気配がわかる人が付いて来てるんで」
リザの不安は最もだが、アルは心強い味方がいると告げる。
病院の屋上、旗の上に器用に立つランファンがいた。
「人造人間の気配…?」
「どういう…?」
「ボクもよくわからない」
言った自分でさえも理解できない答えに悩んだところで、もう一つのベッドに歩み寄る。
「キョウコは、まだ……?」
「えぇ…まだ手術の麻酔が効いているみたいで……医師の話だと、無茶な錬成を行った事が原因で………」
アルは、自分にとっての希望を見つめた。
視線の先にあるものは、安らかでも苦しげでもない、
時を凍らせたかのように、汗の一玉も浮かべず呼気も微かな相貌。
アルには、彼女の全てが、エドを待って佇む振る舞いであるように思えてならなかった。
あるいは、心細さからそう思いたいだけなのかもしれない、とわかって、それでも強くのしかかってくる重く冷たい世界から打ち払う希望としての、少女の目覚めを望んだ。
「キョウコ」
勿論、キョウコはその一言だけで目覚めるほど、
「キョウコ、起こった事、全部聞いたよ」
自然と、声を眠りの彼方へと届けるように、シーツから出された包帯まみれの手に手を置いて、語り出した。
「巻き込ませないために、一人で罪をかぶったんだね。でもボク達には、間違いなく意味はあったよ。兄さんに、ウィンリィに、ボクにとっても。手段が乱暴であっても、行き違いがいくつあっても……何より」
ほんの微か、置いた手に、力が入った。
「キョウコに守られてばかりじゃいられない」
開かない目を見つめて、その開くことを願って、言う。
「国家錬金術師だとか、そんな理由があろうとなかろと、他の人達がどう思おうと、キョウコが自分自身をどう思おうと……ボクだって男だ。女の子を守る事に、絶対の意味があるんだ」