第39話
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研究所に殺人犯が侵入したとの知らせを受けて、増援を待つ軍人は前もっての情報がないまま警備をしていた。
「マスタング大佐は無事でしょうか。我々はこんな所で待機してていんですかね」
「しょうが無いだろ、大佐の命令なんだから。増援を呼んであると言っていたが、後ろにいたのは氷刹の錬金術師――"氷の魔女"だ」
「まさか、あんな少女が――っと、言ってるそばから来ましたよ」
待つことしばし、研究所に一台の車が停車した。
そこから出てきた人物――軍の最高ブラッドレイに、軍人は憔悴の極みに陥り、急いで敬礼をした。
「だっ……大総統閣下!?」
「侵入者ありとな?」
「はっ!西区留置所を襲った犯人が中に!マスタング大佐が"氷の魔女"を引き連れて追っています!」
周りの研究員も驚く中、自身の歩調に合わせて心持ち歩みを速める軍人の説明に、引っかかる箇所を覚えた。
たちまち表情を険しくさせる。
確認する言葉、それ自体が懸念の表明だった。
「どれ。助けに行こう」
「お待ちください!大佐の呼んだ増援部隊が、今………」
「私、一人で良い」
腰の剣を抜き放つ、ブラッドレイの歩みに恐怖の色は見えない。
むしろ、常にも増した潜在的な脅威を事前に抑える、予防措置さえあった。
キョウコ達と別れて二人で行動するリザとアルの耳に、地響きが聞こえた。
「なんの音?」
「――!」
リザは前方の足元に注意を向ける。
「…………バリーはこっちね」
男の血痕だと思われる赤い雫が、道筋をつくっていた。
ロイの持つ賢者の石から、凄まじい再生力で復活するラストは妖艶に、そして酷薄に語りかける。
「言ったはずよ。『賢者の石が核だ』と。私達はあなた達人間より、真理に近い存在。進化をとげた新たなる人間の形…とでも言っておきましょうか?」
妖艶な声がロイの背中越しに語りかけるや、突き出た細い爪が、まるでその内側をもぎ取るように開かれ、抜き取られた。
叫びすらないままに、ロイが崩れ落ちる。
あの『焔の錬金術師』が糸を切られた人形のように。
自身にとってあり得ない、考えたこともなかった事態を、
「――」
呑み込むことを拒否して立ち尽くす少女を、
「…キョウコッ、しっかり…しろ!!」
ロイが言葉で叩いた。
「――っ、う」
が、少女は指示がない、そのことにまず恐怖を抱き、
「う、ああ」
次に、何をすればいいのかわからない恐慌に揺れ、
「ああ、あ――」
最後に、極大の衝撃に襲われることで――自失した。
「――っ!!」
上司の血飛沫を顔に浴びる、という衝撃に、自失した。
血塗れになった手袋をロイから奪い、破り捨てるラストの、冷厳たる裁定が下った。
「ごめんなさいね。あなたは大事な人柱候補だから殺したくなかったんだけど。ここまで首を突っ込まれたら放っておく訳にはいかないの」
「ぐ…」
「さて、氷のお嬢ちゃんはあの通り。まだネズミが入り込んでるようだし、そちらも始末してこようかしら」
「貴様…」
「目の前で部下が冷たくなって行くのを見ながら、あなたも逝きなさい」
死線を確信して、ラストが口許をうっすらと歪めた。
次なる邪魔者を始末するために歩き出す。
「ハボック少尉…おい、ハボック!返事をしろ、ハボック!どいつもこいつも私より先に…くそっ!!貴様ッ、私より先に死ぬ事は許されんぞ!!」
倒れてピクリとも動かないハボックへ、ロイは苦悶に呻きながらも、必死に怒鳴る。
「ハボーック!!」
その怒鳴り声で、キョウコは己の引き起こした取り返しのつかない結果によって、自失を覚まされた。
「うっ、あ!」
すぐ傍、壊れた人形のように地に伏すハボック、苦悶に呻くロイ、二人を無我夢中で、なんの意味もないということを忘れ、抱き寄せる。
「あっ!あ、ああ……!」
叫びとも悲鳴ともつかない声をあげる少女の頭上、
「あなたは殺さないわ。でも、仲間を助けさせない」
抵抗を与えられぬまま、爪を象 った瞬速の攻撃を食らっていた。
「ああああっ!」
焼けつくような激痛に美貌を歪め、服越しに全身を抉る。
しかも、右手の爪も伸ばし、刺突の勢いのまま全身、地面へと叩きつけられる。
「――ッ!!」
岩ごと砕き潰される打撃力に、叫びの欠片も漏らせない。
穴の開いた両手からは血が溢れ出し、身動きすらままならなかった。
振りほどくだけの力の持ち合わせも、既にない。
「勝負、ありね。あなたは大事な人柱だから可愛い顔を傷物にはしたくなかったんだけど、ここで二人が死に行く様を大人しく見てなさい」
ラストは緊迫した状況には構わず、次の殲滅へと向かう。
「……大佐…?ハボック…さん」
凛々しさの割れた、虚ろな瞳で視線を向ける。
まるで、持ち去られたものを追いかけるように。
「……大佐…ハボックさ……」
――もう、何度目だろう。
――自分の無力に嘆くのは。
――そして、大切な人が血の海に横たわっているのを見るのは。
「……い、や…死なな、いで…死なないで……死なないで…!」
思い出したあの瞬間の衝撃が、声に滲む。
滲んで、すぐに溢れ出す。
恐怖だけでなく、苦しみと悲しみと悔しさを混ぜた、涙として。
(お願い。もう、誰も死んでほしくないの)
――もう誰も死んでほしくないの、大切な人がいなくなるなんて考えたくもないの。
――あたしはまた繰り返すの……?
――因果の鎖に縛られたまま、何一つ守れないまま、何一つできないまま……。
足が動く。
感覚なんてわからない。
少しでも動かしただけで激痛だ。
でも、動く。
全身が震えて止まらない。
それでも、少しずつ身体が上がっていく。
痛い、痛い。
だけど、動く。
動ける。
二人に近づくまで我慢すればいいだけのこと。
――ふざけるな!!
「死なせる――もんかああああ!!」
痛みで意識を失いそうだ。
歯を食いしばってないと死んでしまいそうだ。
「動け!!動け、このオンボロが!!」
だけど、それがどうした。
「動けぇえぇえぇ!!」
それがどうした!
一歩動かすごとに血だまりができ、ついでに両手からも流れ出す。
「こんなもの、あの人達が!二人が死んでしまうのに比べたら、どうって事ない!!」
(あたしの命?あたしの命が助かるせいで他の人が死ぬなんてありえない、助けてみせる)
渾身の力を込めて、血塗れの両手を合わせた。
「もう、絶望も後悔もたくさんなのよ!!」
刹那、全てが動き出し、秘された力が、世界へと放り出される。
キョウコを中心とした、錬成の渦と光が起こる。
そして、右手はロイに、左手はハボックに。
二人同時の治療の錬金術を始める。
――あたしの血を代価にし、輸血しながら傷を塞がなくてはいけない。
――初めての、命をかけた錬成…………成功させてやる!!
血痕を辿って歩いていくと、一際大きな部屋に到達した。
奥には不可思議な模様をした扉があり、その前に血塗れの肉体が動かずに倒れていて、鎧姿のバリーが立っていた。
「遅かったね、姐さん」
その時、鼻を突く腐敗臭にリザは鼻を押さえる。
(!?腐敗臭?)
「へっへっへ。みっとも無ェ物、見せちまったなァ。見ろよ、オレの肉体。こんなに腐っちまってよゥ……」
皮膚は爛れ、肉が化膿し、膿が溜まっている。
人体はここまで腐ることができるのか。
「バリーの肉体によそ者の魂をぶち込んだから、ズレが生じたんだろうよ。元々別物だった同士だ、反発して当然だわな」
アルに視線を投げかけるバリーは、肉体と魂が紙一重であると理解していたから。
自分も同じである、その理由を、痛々しいまでに感じる。
――そうだ…他人の魂と肉体は本来、相容れないもの…この身体も、鉄の塊にヒトの魂。
改めてその言葉を反芻し、初めて気づかされる。
――ボク達が目的を果たすその日まで拒絶反応を起こさずにいてくれる保証は無いんだ、兄さん……!!
一歩間違えば取り返しがつかないほどに、エドは命がけの錬成を実行した。
生前の姿とあまりにもかけ離れた身体に魂を放り込めば、下手をすれば違和感で狂ってしまう。
地面に巨大なクレーターができるほどの衝撃――拳を打ちつけた箇所から、ひび割れが放射状に走る。
ランファンは地面に拳が叩きつけられる直前に地面を蹴り、跳ぶ。
「くっ………」
しかし、間一髪で直撃は免れたが、粉砕された地面は細かい破片となって視界を塞ぐ。
宙に取り残された飾り紐を引っ張り、エンヴィーは獰猛な笑みを浮かべる。
「やっと……つかまえたぁ!!」
「………!!」
次の瞬間、飛来した青竜刀が脇腹に突き刺さり、
「いっ…」
咄嗟に放してしまった。
新たな傷口にエンヴィーが気を取られている隙に、ランファンは柄を握り、そのまま青竜刀を振るう。
強烈な一太刀を浴びせられ、傷口が開き、
「がはっ」
と吐血する。
ピンチを脱したランファンの耳に、必死な声が届く。
「ランファン!!早く剣を返せ!!おねがい!!」
「若!!」
視線を向ければ、グラトニーに追いかけられる主に、慌てて青竜刀を返す。
宙を回る半瞬でそれは捕らえられ、本来の持ち主の手に帰 す。
青竜刀をまっすぐ構え、こちらに向かってくるグラトニーを真正面から斬る。
斬撃をまともに食らい、二つに割れるグラトニーは、
「んしょ」
次の一瞬で、顔面をくっつけた。
「…もうヤダ、こいつ」
もう何度目かもわからない光景にうんざり気分のリンは降参を求める。
「なぁ、そろそろ大人しく捕まってくれないかナ。悪いようにはたぶんしないからサ」
響き渡る喧騒に、何事かと訝しんだホームレスが足を止め、
「ケンカか?」
「なんだ、ありゃ」
それを発端に、にわかに騒がしくなる。
「…………」
注目を集めていることに、血混じりの唾を吐き捨てたエンヴィーは億劫そうに顔をしかめる。
「マスタング大佐は無事でしょうか。我々はこんな所で待機してていんですかね」
「しょうが無いだろ、大佐の命令なんだから。増援を呼んであると言っていたが、後ろにいたのは氷刹の錬金術師――"氷の魔女"だ」
「まさか、あんな少女が――っと、言ってるそばから来ましたよ」
待つことしばし、研究所に一台の車が停車した。
そこから出てきた人物――軍の最高ブラッドレイに、軍人は憔悴の極みに陥り、急いで敬礼をした。
「だっ……大総統閣下!?」
「侵入者ありとな?」
「はっ!西区留置所を襲った犯人が中に!マスタング大佐が"氷の魔女"を引き連れて追っています!」
周りの研究員も驚く中、自身の歩調に合わせて心持ち歩みを速める軍人の説明に、引っかかる箇所を覚えた。
たちまち表情を険しくさせる。
確認する言葉、それ自体が懸念の表明だった。
「どれ。助けに行こう」
「お待ちください!大佐の呼んだ増援部隊が、今………」
「私、一人で良い」
腰の剣を抜き放つ、ブラッドレイの歩みに恐怖の色は見えない。
むしろ、常にも増した潜在的な脅威を事前に抑える、予防措置さえあった。
キョウコ達と別れて二人で行動するリザとアルの耳に、地響きが聞こえた。
「なんの音?」
「――!」
リザは前方の足元に注意を向ける。
「…………バリーはこっちね」
男の血痕だと思われる赤い雫が、道筋をつくっていた。
ロイの持つ賢者の石から、凄まじい再生力で復活するラストは妖艶に、そして酷薄に語りかける。
「言ったはずよ。『賢者の石が核だ』と。私達はあなた達人間より、真理に近い存在。進化をとげた新たなる人間の形…とでも言っておきましょうか?」
妖艶な声がロイの背中越しに語りかけるや、突き出た細い爪が、まるでその内側をもぎ取るように開かれ、抜き取られた。
叫びすらないままに、ロイが崩れ落ちる。
あの『焔の錬金術師』が糸を切られた人形のように。
自身にとってあり得ない、考えたこともなかった事態を、
「――」
呑み込むことを拒否して立ち尽くす少女を、
「…キョウコッ、しっかり…しろ!!」
ロイが言葉で叩いた。
「――っ、う」
が、少女は指示がない、そのことにまず恐怖を抱き、
「う、ああ」
次に、何をすればいいのかわからない恐慌に揺れ、
「ああ、あ――」
最後に、極大の衝撃に襲われることで――自失した。
「――っ!!」
上司の血飛沫を顔に浴びる、という衝撃に、自失した。
血塗れになった手袋をロイから奪い、破り捨てるラストの、冷厳たる裁定が下った。
「ごめんなさいね。あなたは大事な人柱候補だから殺したくなかったんだけど。ここまで首を突っ込まれたら放っておく訳にはいかないの」
「ぐ…」
「さて、氷のお嬢ちゃんはあの通り。まだネズミが入り込んでるようだし、そちらも始末してこようかしら」
「貴様…」
「目の前で部下が冷たくなって行くのを見ながら、あなたも逝きなさい」
死線を確信して、ラストが口許をうっすらと歪めた。
次なる邪魔者を始末するために歩き出す。
「ハボック少尉…おい、ハボック!返事をしろ、ハボック!どいつもこいつも私より先に…くそっ!!貴様ッ、私より先に死ぬ事は許されんぞ!!」
倒れてピクリとも動かないハボックへ、ロイは苦悶に呻きながらも、必死に怒鳴る。
「ハボーック!!」
その怒鳴り声で、キョウコは己の引き起こした取り返しのつかない結果によって、自失を覚まされた。
「うっ、あ!」
すぐ傍、壊れた人形のように地に伏すハボック、苦悶に呻くロイ、二人を無我夢中で、なんの意味もないということを忘れ、抱き寄せる。
「あっ!あ、ああ……!」
叫びとも悲鳴ともつかない声をあげる少女の頭上、
「あなたは殺さないわ。でも、仲間を助けさせない」
抵抗を与えられぬまま、爪を
「ああああっ!」
焼けつくような激痛に美貌を歪め、服越しに全身を抉る。
しかも、右手の爪も伸ばし、刺突の勢いのまま全身、地面へと叩きつけられる。
「――ッ!!」
岩ごと砕き潰される打撃力に、叫びの欠片も漏らせない。
穴の開いた両手からは血が溢れ出し、身動きすらままならなかった。
振りほどくだけの力の持ち合わせも、既にない。
「勝負、ありね。あなたは大事な人柱だから可愛い顔を傷物にはしたくなかったんだけど、ここで二人が死に行く様を大人しく見てなさい」
ラストは緊迫した状況には構わず、次の殲滅へと向かう。
「……大佐…?ハボック…さん」
凛々しさの割れた、虚ろな瞳で視線を向ける。
まるで、持ち去られたものを追いかけるように。
「……大佐…ハボックさ……」
――もう、何度目だろう。
――自分の無力に嘆くのは。
――そして、大切な人が血の海に横たわっているのを見るのは。
「……い、や…死なな、いで…死なないで……死なないで…!」
思い出したあの瞬間の衝撃が、声に滲む。
滲んで、すぐに溢れ出す。
恐怖だけでなく、苦しみと悲しみと悔しさを混ぜた、涙として。
(お願い。もう、誰も死んでほしくないの)
――もう誰も死んでほしくないの、大切な人がいなくなるなんて考えたくもないの。
――あたしはまた繰り返すの……?
――因果の鎖に縛られたまま、何一つ守れないまま、何一つできないまま……。
足が動く。
感覚なんてわからない。
少しでも動かしただけで激痛だ。
でも、動く。
全身が震えて止まらない。
それでも、少しずつ身体が上がっていく。
痛い、痛い。
だけど、動く。
動ける。
二人に近づくまで我慢すればいいだけのこと。
――ふざけるな!!
「死なせる――もんかああああ!!」
痛みで意識を失いそうだ。
歯を食いしばってないと死んでしまいそうだ。
「動け!!動け、このオンボロが!!」
だけど、それがどうした。
「動けぇえぇえぇ!!」
それがどうした!
一歩動かすごとに血だまりができ、ついでに両手からも流れ出す。
「こんなもの、あの人達が!二人が死んでしまうのに比べたら、どうって事ない!!」
(あたしの命?あたしの命が助かるせいで他の人が死ぬなんてありえない、助けてみせる)
渾身の力を込めて、血塗れの両手を合わせた。
「もう、絶望も後悔もたくさんなのよ!!」
刹那、全てが動き出し、秘された力が、世界へと放り出される。
キョウコを中心とした、錬成の渦と光が起こる。
そして、右手はロイに、左手はハボックに。
二人同時の治療の錬金術を始める。
――あたしの血を代価にし、輸血しながら傷を塞がなくてはいけない。
――初めての、命をかけた錬成…………成功させてやる!!
血痕を辿って歩いていくと、一際大きな部屋に到達した。
奥には不可思議な模様をした扉があり、その前に血塗れの肉体が動かずに倒れていて、鎧姿のバリーが立っていた。
「遅かったね、姐さん」
その時、鼻を突く腐敗臭にリザは鼻を押さえる。
(!?腐敗臭?)
「へっへっへ。みっとも無ェ物、見せちまったなァ。見ろよ、オレの肉体。こんなに腐っちまってよゥ……」
皮膚は爛れ、肉が化膿し、膿が溜まっている。
人体はここまで腐ることができるのか。
「バリーの肉体によそ者の魂をぶち込んだから、ズレが生じたんだろうよ。元々別物だった同士だ、反発して当然だわな」
アルに視線を投げかけるバリーは、肉体と魂が紙一重であると理解していたから。
自分も同じである、その理由を、痛々しいまでに感じる。
――そうだ…他人の魂と肉体は本来、相容れないもの…この身体も、鉄の塊にヒトの魂。
改めてその言葉を反芻し、初めて気づかされる。
――ボク達が目的を果たすその日まで拒絶反応を起こさずにいてくれる保証は無いんだ、兄さん……!!
一歩間違えば取り返しがつかないほどに、エドは命がけの錬成を実行した。
生前の姿とあまりにもかけ離れた身体に魂を放り込めば、下手をすれば違和感で狂ってしまう。
地面に巨大なクレーターができるほどの衝撃――拳を打ちつけた箇所から、ひび割れが放射状に走る。
ランファンは地面に拳が叩きつけられる直前に地面を蹴り、跳ぶ。
「くっ………」
しかし、間一髪で直撃は免れたが、粉砕された地面は細かい破片となって視界を塞ぐ。
宙に取り残された飾り紐を引っ張り、エンヴィーは獰猛な笑みを浮かべる。
「やっと……つかまえたぁ!!」
「………!!」
次の瞬間、飛来した青竜刀が脇腹に突き刺さり、
「いっ…」
咄嗟に放してしまった。
新たな傷口にエンヴィーが気を取られている隙に、ランファンは柄を握り、そのまま青竜刀を振るう。
強烈な一太刀を浴びせられ、傷口が開き、
「がはっ」
と吐血する。
ピンチを脱したランファンの耳に、必死な声が届く。
「ランファン!!早く剣を返せ!!おねがい!!」
「若!!」
視線を向ければ、グラトニーに追いかけられる主に、慌てて青竜刀を返す。
宙を回る半瞬でそれは捕らえられ、本来の持ち主の手に
青竜刀をまっすぐ構え、こちらに向かってくるグラトニーを真正面から斬る。
斬撃をまともに食らい、二つに割れるグラトニーは、
「んしょ」
次の一瞬で、顔面をくっつけた。
「…もうヤダ、こいつ」
もう何度目かもわからない光景にうんざり気分のリンは降参を求める。
「なぁ、そろそろ大人しく捕まってくれないかナ。悪いようにはたぶんしないからサ」
響き渡る喧騒に、何事かと訝しんだホームレスが足を止め、
「ケンカか?」
「なんだ、ありゃ」
それを発端に、にわかに騒がしくなる。
「…………」
注目を集めていることに、血混じりの唾を吐き捨てたエンヴィーは億劫そうに顔をしかめる。