第38話

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リンは、バリーから聞かされたという話を教えてくれた。

エドが強制的に連れて行かれた理由を聞き、アルは愕然とする。

「なんて事だ…兄さんはそのために少佐に連れて行かれたのか…!!なんで、誰も教えてくれなかったんだよ!!」

「ついでに言うと、キョウコもこの事を知らないヨ。だけど、別の場所で作戦に参加してル」

「別の場所?」

意味深めな発言に訝しむと、窓の向こうで花火が打ち上がった。

「おッ。やばい、やばイ。始まっちゃったヨ」

「何?花火?」

靴を履いて素早く準備を整えるリンに、不安そうな顔でウィンリィが聞くと、

「んーー…反撃ののろし……かナ?」

それだけ言って、笑った。

リンは真剣な表情になって、端的な問いを投げかける。

「行くかイ?」

「ヒューズさんを殺した奴の事がわかるかもしれない。ボク達の責任もあるとしたら、見届けなくちゃいけいないと思う……それに」

会いたい気持ちとは裏腹に、足が止まる。

気持ちの強さが、結果への恐怖を抱かせていた。

(自分が何者でも、どうなろうと、ただやる)

今も言葉も字義のままに、変わらず生きていることを認識する。

(あの時は、ただ怯えてばかりで)

漆黒に染まった長い髪とコートをなびかせる鮮烈な姿態が脳裏によみがえった。

(せいぜいできたのは、兄さんにしがみついて泣くだけだった)

今の自分は、平然とその場所にいる。

(でも、兄さんの言葉があったからこそ、ここにいる)

別種の喜びが混じって、倍加はせず、ただ複雑になった。

(遠かった)

世界からこぼれ落ちた自分が、ようやく、あの子のいる場所へと登っていけるようで。

(でも、ここまで来た)

日常から外れた道を辿って、この闇のように深い夜の中で、再び巡り会う。

(ここまで、来たんだよ)

「行くの?」

「うん」

いつしか抱いていた、燃え上がる高揚を声に表して、頷く。

二人の会話を傍で聞いていたウィンリィは、不安げに告げた。

「…キョウコと一緒に帰ってきたら、何があったかきちんと話してね」

「うん」

「ちゃんと…帰って来るよね?」

「うん、約束する!」

幼馴染みの不安を吹き飛ばすように、アルは力強く答えた。







地階へと伸びる頑丈な鉄製の階段の奥、薄暗い地下から声が響く。

「片づけは終わったのか?」

椅子に座る"お父様"の質問に、ラストは硬い表情で答える。

「いえ、報告は…でも、ネズミの隠れ家は間違いなく突き止められるでしょう。魂と肉体は、ひかれあうものですから」

「手抜かりは無かろうな」

「グラトニーとエンヴィーが行っています。失敗は無いでしょう」

その姿勢や視線に微塵の揺らぎも見せない。

ただ、自分達に絶対的な自信を持っていた。

敗北など、元より考慮の外にあった。







雑踏の中に向かって、他人の存在もお構いなしに突き進むキョウコの視界に、長い黒髪に露出した服装の少年が入った。

「あれは……!」

尖った容貌に汗が浮かんでいるエンヴィーへと近づき、氷で錬成したナイフを突きつけた。

「あなた、前に一度第五研究所で会ったわよね?」

不意の襲撃に目を見開いた彼は、怒りの混じった口調で告げる。

「なんで、ここに来たんだか」

キョウコは当然、不可解そうに眉を寄せる。

ナイフを向けたままのキョウコは、その総身に充溢じゅういつする存在感に、尋常ならざる戦慄を覚えさせられる。

「……あなたの名前を、おぼろげだけど覚えているわ。エンヴィー……その名で間違いない?」

「……」

名を呼ばれた身体がその時、ピクリと痙攣した。

ただならぬ雰囲気を感じ、何事かと思ってエンヴィーの顔を見つめ――そこでキョウコは、驚愕に呼吸が止まるかと思った。

その端に、飛来する鋭利な刃物が見えた。

「なっ…」

声を漏らすと、キョウコは咄嗟に飛び退き、エンヴィーがその意味するところに気づく。

それ――投げつけられたクナイは彼の額に突き刺さる。

キョウコは瞬時に救い主――もとい、無口な乱入者に気づく。

黒装束に仮面のランファンが、視線の先に立っていた。

「……あ、あたしに当たったらどうするの!?」

「心配なイ。お前なら、簡単に避けられると思っていタ」

ランファンは即答し、その件はそれで終わった。

「くっ……っっそがあ!!!三回死んだぞ!!!」

一瞬の意識の混濁から覚め、瓦礫の中から身を起こしたエンヴィーは額からクナイを抜き、奥歯を噛みしめ、怒りの怒涛に押し寄せる。

「あっ…待ちなさい!!」

エンヴィーが行方をくらました後、キョウコは肩を震わせる。

狂気の笑みが晒された顔が思い出された。

「なめやがってなめやがってなめやがって!!!」

一方、エンヴィーはホームレスに紛れて姿を変える。

(こうなったら一般人に混じって、後ろからグッサリやってやる!)

前方に、周囲の状況を確認するキョウコとランファンの姿を見つけ、クナイを構える。

(――いた!!へへ…そうそう、そのまま振り向くなよ)

ランファンの仮面が、後方に走ってくるものを捉えて振り返った時には既に、胸の中央にクナイが突き刺さった。

(なんでだぁーーーーッ!!)







床に粘り気のある紅い液体が滴っている。

粘り気のある紅い液体……そう、血だ。

そして、周りには散乱した銃弾。

ガチン、ガチン、と音が響いている。

弾切れ。

鷹の眼を持つ彼女がいくら引鉄を引こうと、暴食の名を持つ人造人間・グラトニーに新たな風穴を開けたりはしない。

今にもグラトニーに握り潰されそうなリザの手から、拳銃が滑り落ちた。

「もうおわり?おわり?食べていい?」

舌なめずりをするグラトニーは、その大きな口を開いた。

「………!!」

頭蓋が噛み砕かれる、と思って目をつむった瞬間、獣の咆哮が聞こえた。

それに聞き覚えがあった彼女は、思わず目を見開く。

「ハヤテ号!?」

ネーミングセンスゼロながらしつけた愛犬を呼ぶ。

ハヤテ号はグラトニーの肩口に噛みつき、その肉を噛み裂こうとする。

「あううぅ、うるさい~~~~。じゃま~~~~~~~~」

グラトニーがハヤテ号を振り落とそうと、両手を使った。

「く…」

リザは素早く体制を立て直し、横に跳んで締めつけられていた首を押さえ、

「かは…ごほ、ごほっ」

咳をして酸素を取り入れる。

「中尉!!」

瞬間、飛んできた拳銃を受け取ると、ハヤテ号が退避したのを確認して、駆けつけたフュリーとトリガーを引きまくる。

弾丸の威力で、だんだんと後ずさりを始めるグラトニーだったが、その弾丸もなくなった。

その巨体が味方し、壁枠に引っかかる。

「弾切れ?弾切れ?」

そして例の顔で、にやぁ、と笑う。

「それじゃ、いただきま~~~す」

絶体絶命、と思った時だった。

紅い閃光が奔り、グラトニーは爆発と共に真っ逆さまに落ちた。

こんなことをできる錬金術師は、彼しかいない。

「た…大佐!!」

部屋の入り口に、息を切らしたロイがいた。







エンヴィーは状況の戸惑いと不手際への焦りの中、手摺に跳び乗って、後方に引き返した。

「くっ…そ!グラトニー!!何やってる!!手をか……せ…」

そして一瞬、彼が自分めがけて落てくることに気づき、

「のおおおおおおおおお」

重力で加速したグラトニーの巨体が直撃し、その細身の身体を押し潰した。

砲弾のようなそれは、屋上から一階までの手摺を一息にぶち抜いて落ち、全てを破壊させた。

「……のバカ!!なんで焼豚になってんだよ!!」

エンヴィーは輪郭を揺らめかせ、犬の姿に変える。

(ちぃっ…ここは一度逃げて、体勢を立て直す…!!)

逃げ道を塞ぐように、銃とクナイを構えるキョウコとランファンが立つ。

「姿を変えても無駄ダ」

(な…だから、なんでわかるんだよ!!)

その時、足を踏み出す鎧の音が聞こえ、振り返ると、

(あああ!?)

何も知らないアルとリンに出くわした。

前門の虎、後門の狼。

追い討ちをかけるように、

「いっ」

二本のクナイが左目と額に突き刺さり、変身が解けた。

「………!!」

突如、犬から人間へと姿を変えた光景に、アルとリンは驚きに息を呑む。

「な……なんだ、今の…」

エンヴィーに目をやったアルは、彼の左足にウロボロスの入れ墨を発見する。

「このっ…ブッ…殺…潰してやるぞ!!」

「?こちらさん、変わった中身してるネ」

エンヴィーの姿形を微妙に訝しく思って、リンは目を開いた。

「………このっ、次から次へと始末しなきゃならない奴が増えやがって…」

キョウコ、大丈夫だっタ?」

リンが声をかけながら、キョウコの腕を引いて後ろに下げた。

「てめぇ…キョウコに気安く触ってんじゃねぇよ」

キョウコは俺のお嫁さんになる人だからネ。ケガをさせるワケにはいかないのサ」

「なっ――ちょっと待って、一言もお嫁さんなんて言ってないし!?」

リンの突然の爆弾発言に、キョウコが思わず顔を真っ赤にして叫ぶ。

案の定、エンヴィーが凶悪な形相ですごむ。

「ふーん…おまえ、そんなに殺されたいんだ?」

「独占欲の強い男は嫌われるヨ?」

「ちょっ、二人とも!っていうか何か話ズレちゃってない!?」

「上等だ……っ!ぶっ殺してやる!!」

「やれるもんなラ」

(何故か)いつの間にか争奪戦になってしまい、キョウコの声が耳に入ることのないまま続く。

「…っとに、キョウコがいなきゃもっとやりやすいのに」

エンヴィーが低い声で毒づくと、

「ふっかーつ」

黒焦げから復活したグラトニーがやって来た。

「エンヴィー、こいつら、食べていいの?」

「よっしゃ!行け!食え!丸かじれ!あ、だけどー…」

「ねー、エンヴィー」

何か言いかけたエンヴィーを遮ったグラトニーは、キョウコを指差した。

「あの子は食べなくていいー?」

それを聞いたエンヴィーが驚いたように目を見開き、どこか拍子抜けしたように言った。

「まぁ……最初からそのつもりだったけど、キョウコは絶対ダメだからな」

「わかったー」

キョウコ、二人とも知り合いなのカ?」
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