第37話
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留置所に身柄を拘束されたところを、侵入者のバリーに協力の交換条件として解放されたリンは単刀直入に切り出す。
バリーとの同行は、不老不死の入手に近づけるかもしれない、絶好の立ち位置である。
「だからよォ!オレをこんな身体にした研究者はもう死んじまってるから、不老不死とかそういうのはわかんねーんだよ」
「そりゃ無いでしョ」
ただし、答えはあまり期待できないものだった。
「おーい」
話の輪に放置されたファルマンが呼びかけるが、リン達はそれを無視。
「交換条件だヨ!留置所で手伝っただロ!」
「それはおめェを脱走させてやった事でチャラだ」
「おーい」
構わず、別の視点から交渉を進める。
「そっちじゃなくて、東の…」
「あー、そっちか。どーっすかな~~~~~~」
「おーい」
何度声をかけても全く聞こえていないようで、沸騰しそうな感情を、しかしなんとか抑えつける。
すると、バリーからある提案が出た。
「そーだ。おめェ、アルフォンスとかいう奴と知り合いだろ?あいつもオレと似たような身体だからそいつに訊くといいぞ」
「ああ、あの鎧、やっぱりカ!」
「おーい」
「よし、ちょっと行って来ル!何かあったら信号出せよ、ランファン」
「ハイ」
その納得がいく回答を判断し、リンはランファンに言い残してアパートを出る。
「おーい」
「行ってらっしぇい」
気楽に見送るバリーの後ろで、いい加減焦れてきたファンルマンは怒鳴った。
「おい!!いいかげん、説明しろ!!」
「うっせーな。おめェの役割は『留置所襲撃犯に脅されて、ボロアパートに監禁されていたあわれな軍人A』だよ」
「はぁ?」
監視役から勝手に役割を変更され、ファルマンは頓狂な声をあげる。
「あの…」
思わずランファンに声をかけるが、清々しいほどに無視される。
「俺、ここの家主だよな…?な?」
自分の居場所がないことに絶望し、悲痛に訴えると、
「そーだよ」
返ってきた答えは、非常に投げやりなものだった。
翌日、キョウコはロイに呼び出され中央司令部にいた。
執務室へと通されると、ロイが座る仕事用のデスクに、リザ達のデスクも置いてある。
そして自分の席があることに驚きを隠せなかった。
「キョウコ?どうかしたか?」
「あ、いえ。なんでもないです」
キョウコは首を振った。
気にしていても仕方ない。
確かにキョウコはロイの部下だが、それはあくまでも国家錬金術師になるべく、政治力や外交センスなど磨くためだ。
どのみち、兄弟と旅をしているからロイのもとで働く機会は少ない。
訝しそうにするロイへ、キョウコは訊ねる。
「尋ねても、いいですか?」
「なんでも訊いてくれ」
「どうして、あたしを呼び出したんですか」
「やっぱり気になるかい?」
ロイはすかさずにこりと微笑んだ。
ロスの事件報告書を作成してほしい、との理由で呼んだのである。
「……………大佐、わざわざ司令部に呼び出した理由は……これですか?」
冷たく突き放した声に、仕事中の軍人はその場から逃げ出したくなった。
細めた両目で見据えてくるキョウコの様子は、爆発三秒前といった感じだ。
ペンの先で机をトントン叩いている様子も、如実に苛立ちを伝えてくる。
「ただ自分が書くのが面倒くさいだけ……この事をリザさんに知られても、あたしは助けませんよ」
「大丈夫だよ。彼女は今、休みだから」
「なるほど。リザさんがいない機を見計らって、あたしを呼び出したわけですね……」
溜め息をついて、書き終えた報告書を渡す。
ロイはざっと目を通し、頷いた。
「……いいだろう。これで提出しておく」
「お願いします」
「ああ、そうだ。最近、神経を詰めさせ過ぎたな。これで一段落つくだろう。今のうちにゆっくり休むといい」
きょとん、とキョウコの漆黒の瞳が大きく見開かれた。
「それって、休暇……いいんですか?」
「もちろんだ、旅行にでもいくといい。アームストロング少佐も休暇を申請したと訊くぞ」
キョウコは少し考えるように見上げた後、花のような笑顔を咲かせる。
「………そうですか。あんな事件の後ですし、心を癒す意味でもゆっくりしてきて欲しいですね」
「君も行ってはどうだ?働きすぎは身体によくないぞ」
そう告げると、ロイは可愛らしく包装された小さな箱を差し出してくる。
「疲れた身体には甘いものだ。受け取りたまえ」
「あ…ありがとうございます」
それを受け取ると同時に、誰にもわからないように、メモ用紙を小さく折り畳んだものをキョウコの手に握らせてきた。
ハッとする幼い部下に目配せして、笑みを向ける。
「では、ご苦労だった」
「はい。大佐も仕事サボらないで下さいね。戻ってきたら書類の山とか嫌ですよ」
「はは。努力するよ」
キョウコも微笑んで手厳しく言い、執務室を出た。
黒髪の少女が去った後、ロイは楽しそうに、電話の相手である女性と会話する。
「やあ、エリザベス!元気かい?」
≪あら、ロイさん、いつもお電話ありがとう。また仕事中?≫
「ああ、どうしても君の声が聴きたくなってね」
≪お上手ね。でも、あまりサボるとこわ~い副官に怒られるんじゃないの?≫
「大丈夫だよ。彼女は今、休みだから」
「最近、仕事がひとつ片付いてね。私の肩の荷が軽くなったから休み取らせた」
≪いいわね。私はしばらく店に出ずっぱりで家に帰れないかも≫
軍の電話回線を使い、仕事中にもかかわらず、こうして会話を楽しむロイの姿に仕事中の軍人は――キョウコの時とは別の意味で――眉を寄せる。
「どうよ、あれ」
「ホークアイ中尉が休みになったとたん、あれだ」
そうして席を立ち、不満を吐露し始めた。
「本当にあの人『お守り』だったんだな…」
「ふつうに仕事中に軍の回線で女に電話かけるかぁ?どういう神経してんだ」
不満を綴 るごとに、そんな言葉が紡がれる。
呆れの眼差しを送られていることを知らないロイと女性の会話は、まだ続いていた。
「私も中央に来てから休み無しだったからね。そろそろ休暇を取ろうと思ってる」
≪あら。どこかへおでかけ?≫
「最近、釣りにはまっててね。一緒にどうだ」
周囲には趣味の魚釣りと思わせているが、それは全く別の意味で行っていた。
ロイから手渡された包みをほどくと、中身はチョコレートだった。
チョコレートの甘みをたっぷり味わってから、キョウコは先程のメモを開く。
彼女にとって本題である事柄。
今回の事件報告に対する、返事。
「……」
勿論、感情を交えて書いたりはしなかった。
ただ、これまで調べたヒューズの事件とその関連性から黒幕の反撃へと、連なる事実を全て、自分の視点から綴っている。
「うん」
自然と頷く。
決断は早く、その紙をくしゃっと丸める。
音もなく、手の中にあるそれが結露を飛び越し、霜が貼りついた――まさしくキョウコの手の中で。
渦を巻いて流れ出す冷気によって、紙はその存在意義をなくす。
証拠隠滅を完了したキョウコは、廊下でアームストロングと出くわした。
「アームストロング少佐!」
「む?キョウコ・アルジェントではないか」
「休暇、とられたんですよね?気を付けて旅行、行ってきてください」
その言葉に、アームストロングは笑って頷いてくれた。
小高い丘に建てられた多くの墓の中に『マース・ヒューズ』と刻まれた墓標が一つ。
墓前に積み重ねられた花束の上に、新たに花束をのせる。
「遅くなってすいません――殉職で二階級特進、ヒューズ准将……ずいぶん、出世したんですね」
手を合わせ、そこから彼へと声が届くよう、祈る。
彼に向けて、今の少女にできることの、それも一つ。
(仲間ができました。きっと彼らのまっすぐさは、傷ついたあたしを救ってくれます。だから、どうか。あたしの罪を許してください、裁くなら――の手で。あたしはそれまで生きています)
祈りの持つ意味を、少女は知らない。
吹き込む風が、墓前の花束を揺らした。
エド達が滞在している軍のホテルの一室で、ウィンリィは鎧を磨くアルの手伝いをしている。
「よく見たらいっぱい傷ついてる。ハードな旅してるのね」
「はは…」
ウィンリィは言いかけて踏みとどまり、しばしの沈黙が流れる。
それを打ち破るかのように、とある一つの事柄を問いかけ、確かめたい衝動に駆られる。
「兄さん。キョウコ、帰って来ないね」
部屋の様子を一目見れば、わかりきっていた。
しかし、それでもなお、一縷の望みを絆に託して、問いかけ、確かめたかった。
ベッドに横になるエドを見ながら、彼は続ける。
「キョウコ、このまま帰って来なかったらどうしよう…」
「そん時はそん時だ。また二人で元に戻る方法を探せばいい」
「二人でって……兄さんはそれでいいの?」
「いいワケねぇだろ!!」
突然、声を荒げて起き上がったエドを、驚いた二人は凝視した。
「だけど、それはキョウコ自身が決める事だ」
微かに瞳を翳らせ、声をこぼす。
それだけ言って、再びベッドに寝転ぶ。
昨日のキョウコは、誰が見てもムリをしていることは明らかだった。
(だからこそ、自分にだけは弱さを見せてほしい、そう思うオレはとことんどうかしてる)
自らの身を顧 みず、兄弟のためにスカーにさえ立ち向かった少女が、人知れず泣いていた。
自分の見ていないところで、きっと涙を押し殺して我慢しようとするのだろう。
今までいつも、そうしてきたように。
「……な、何だよ、変な目つきして」
金髪の少女から注視が向けられた。
「エド、あんた昨日、キョウコになんかしたんじゃないでしょうね?」
「――べっ、べべべべべ別にオレは何もしてねぇけど」
たちまち赤面し、あからさまに狼狽するエドを、ウィンリィは犯人を見つけた探偵のような視線で睨みつける。
「エド、あんた…」
「兄さん…抜け駆けはよくないよ」
悪い意味で絶妙なアルの言葉に、たまらずエドは叫んだ。
「な、何なんだおまえら!そんな疑った目でオレを見るんじゃねー!」
疑惑とひんしゅくの視線に耐えかねた後、ウィンリィは彼らの今後について訊ねる。
バリーとの同行は、不老不死の入手に近づけるかもしれない、絶好の立ち位置である。
「だからよォ!オレをこんな身体にした研究者はもう死んじまってるから、不老不死とかそういうのはわかんねーんだよ」
「そりゃ無いでしョ」
ただし、答えはあまり期待できないものだった。
「おーい」
話の輪に放置されたファルマンが呼びかけるが、リン達はそれを無視。
「交換条件だヨ!留置所で手伝っただロ!」
「それはおめェを脱走させてやった事でチャラだ」
「おーい」
構わず、別の視点から交渉を進める。
「そっちじゃなくて、東の…」
「あー、そっちか。どーっすかな~~~~~~」
「おーい」
何度声をかけても全く聞こえていないようで、沸騰しそうな感情を、しかしなんとか抑えつける。
すると、バリーからある提案が出た。
「そーだ。おめェ、アルフォンスとかいう奴と知り合いだろ?あいつもオレと似たような身体だからそいつに訊くといいぞ」
「ああ、あの鎧、やっぱりカ!」
「おーい」
「よし、ちょっと行って来ル!何かあったら信号出せよ、ランファン」
「ハイ」
その納得がいく回答を判断し、リンはランファンに言い残してアパートを出る。
「おーい」
「行ってらっしぇい」
気楽に見送るバリーの後ろで、いい加減焦れてきたファンルマンは怒鳴った。
「おい!!いいかげん、説明しろ!!」
「うっせーな。おめェの役割は『留置所襲撃犯に脅されて、ボロアパートに監禁されていたあわれな軍人A』だよ」
「はぁ?」
監視役から勝手に役割を変更され、ファルマンは頓狂な声をあげる。
「あの…」
思わずランファンに声をかけるが、清々しいほどに無視される。
「俺、ここの家主だよな…?な?」
自分の居場所がないことに絶望し、悲痛に訴えると、
「そーだよ」
返ってきた答えは、非常に投げやりなものだった。
翌日、キョウコはロイに呼び出され中央司令部にいた。
執務室へと通されると、ロイが座る仕事用のデスクに、リザ達のデスクも置いてある。
そして自分の席があることに驚きを隠せなかった。
「キョウコ?どうかしたか?」
「あ、いえ。なんでもないです」
キョウコは首を振った。
気にしていても仕方ない。
確かにキョウコはロイの部下だが、それはあくまでも国家錬金術師になるべく、政治力や外交センスなど磨くためだ。
どのみち、兄弟と旅をしているからロイのもとで働く機会は少ない。
訝しそうにするロイへ、キョウコは訊ねる。
「尋ねても、いいですか?」
「なんでも訊いてくれ」
「どうして、あたしを呼び出したんですか」
「やっぱり気になるかい?」
ロイはすかさずにこりと微笑んだ。
ロスの事件報告書を作成してほしい、との理由で呼んだのである。
「……………大佐、わざわざ司令部に呼び出した理由は……これですか?」
冷たく突き放した声に、仕事中の軍人はその場から逃げ出したくなった。
細めた両目で見据えてくるキョウコの様子は、爆発三秒前といった感じだ。
ペンの先で机をトントン叩いている様子も、如実に苛立ちを伝えてくる。
「ただ自分が書くのが面倒くさいだけ……この事をリザさんに知られても、あたしは助けませんよ」
「大丈夫だよ。彼女は今、休みだから」
「なるほど。リザさんがいない機を見計らって、あたしを呼び出したわけですね……」
溜め息をついて、書き終えた報告書を渡す。
ロイはざっと目を通し、頷いた。
「……いいだろう。これで提出しておく」
「お願いします」
「ああ、そうだ。最近、神経を詰めさせ過ぎたな。これで一段落つくだろう。今のうちにゆっくり休むといい」
きょとん、とキョウコの漆黒の瞳が大きく見開かれた。
「それって、休暇……いいんですか?」
「もちろんだ、旅行にでもいくといい。アームストロング少佐も休暇を申請したと訊くぞ」
キョウコは少し考えるように見上げた後、花のような笑顔を咲かせる。
「………そうですか。あんな事件の後ですし、心を癒す意味でもゆっくりしてきて欲しいですね」
「君も行ってはどうだ?働きすぎは身体によくないぞ」
そう告げると、ロイは可愛らしく包装された小さな箱を差し出してくる。
「疲れた身体には甘いものだ。受け取りたまえ」
「あ…ありがとうございます」
それを受け取ると同時に、誰にもわからないように、メモ用紙を小さく折り畳んだものをキョウコの手に握らせてきた。
ハッとする幼い部下に目配せして、笑みを向ける。
「では、ご苦労だった」
「はい。大佐も仕事サボらないで下さいね。戻ってきたら書類の山とか嫌ですよ」
「はは。努力するよ」
キョウコも微笑んで手厳しく言い、執務室を出た。
黒髪の少女が去った後、ロイは楽しそうに、電話の相手である女性と会話する。
「やあ、エリザベス!元気かい?」
≪あら、ロイさん、いつもお電話ありがとう。また仕事中?≫
「ああ、どうしても君の声が聴きたくなってね」
≪お上手ね。でも、あまりサボるとこわ~い副官に怒られるんじゃないの?≫
「大丈夫だよ。彼女は今、休みだから」
「最近、仕事がひとつ片付いてね。私の肩の荷が軽くなったから休み取らせた」
≪いいわね。私はしばらく店に出ずっぱりで家に帰れないかも≫
軍の電話回線を使い、仕事中にもかかわらず、こうして会話を楽しむロイの姿に仕事中の軍人は――キョウコの時とは別の意味で――眉を寄せる。
「どうよ、あれ」
「ホークアイ中尉が休みになったとたん、あれだ」
そうして席を立ち、不満を吐露し始めた。
「本当にあの人『お守り』だったんだな…」
「ふつうに仕事中に軍の回線で女に電話かけるかぁ?どういう神経してんだ」
不満を
呆れの眼差しを送られていることを知らないロイと女性の会話は、まだ続いていた。
「私も中央に来てから休み無しだったからね。そろそろ休暇を取ろうと思ってる」
≪あら。どこかへおでかけ?≫
「最近、釣りにはまっててね。一緒にどうだ」
周囲には趣味の魚釣りと思わせているが、それは全く別の意味で行っていた。
ロイから手渡された包みをほどくと、中身はチョコレートだった。
チョコレートの甘みをたっぷり味わってから、キョウコは先程のメモを開く。
彼女にとって本題である事柄。
今回の事件報告に対する、返事。
「……」
勿論、感情を交えて書いたりはしなかった。
ただ、これまで調べたヒューズの事件とその関連性から黒幕の反撃へと、連なる事実を全て、自分の視点から綴っている。
「うん」
自然と頷く。
決断は早く、その紙をくしゃっと丸める。
音もなく、手の中にあるそれが結露を飛び越し、霜が貼りついた――まさしくキョウコの手の中で。
渦を巻いて流れ出す冷気によって、紙はその存在意義をなくす。
証拠隠滅を完了したキョウコは、廊下でアームストロングと出くわした。
「アームストロング少佐!」
「む?キョウコ・アルジェントではないか」
「休暇、とられたんですよね?気を付けて旅行、行ってきてください」
その言葉に、アームストロングは笑って頷いてくれた。
小高い丘に建てられた多くの墓の中に『マース・ヒューズ』と刻まれた墓標が一つ。
墓前に積み重ねられた花束の上に、新たに花束をのせる。
「遅くなってすいません――殉職で二階級特進、ヒューズ准将……ずいぶん、出世したんですね」
手を合わせ、そこから彼へと声が届くよう、祈る。
彼に向けて、今の少女にできることの、それも一つ。
(仲間ができました。きっと彼らのまっすぐさは、傷ついたあたしを救ってくれます。だから、どうか。あたしの罪を許してください、裁くなら――の手で。あたしはそれまで生きています)
祈りの持つ意味を、少女は知らない。
吹き込む風が、墓前の花束を揺らした。
エド達が滞在している軍のホテルの一室で、ウィンリィは鎧を磨くアルの手伝いをしている。
「よく見たらいっぱい傷ついてる。ハードな旅してるのね」
「はは…」
ウィンリィは言いかけて踏みとどまり、しばしの沈黙が流れる。
それを打ち破るかのように、とある一つの事柄を問いかけ、確かめたい衝動に駆られる。
「兄さん。キョウコ、帰って来ないね」
部屋の様子を一目見れば、わかりきっていた。
しかし、それでもなお、一縷の望みを絆に託して、問いかけ、確かめたかった。
ベッドに横になるエドを見ながら、彼は続ける。
「キョウコ、このまま帰って来なかったらどうしよう…」
「そん時はそん時だ。また二人で元に戻る方法を探せばいい」
「二人でって……兄さんはそれでいいの?」
「いいワケねぇだろ!!」
突然、声を荒げて起き上がったエドを、驚いた二人は凝視した。
「だけど、それはキョウコ自身が決める事だ」
微かに瞳を翳らせ、声をこぼす。
それだけ言って、再びベッドに寝転ぶ。
昨日のキョウコは、誰が見てもムリをしていることは明らかだった。
(だからこそ、自分にだけは弱さを見せてほしい、そう思うオレはとことんどうかしてる)
自らの身を
自分の見ていないところで、きっと涙を押し殺して我慢しようとするのだろう。
今までいつも、そうしてきたように。
「……な、何だよ、変な目つきして」
金髪の少女から注視が向けられた。
「エド、あんた昨日、キョウコになんかしたんじゃないでしょうね?」
「――べっ、べべべべべ別にオレは何もしてねぇけど」
たちまち赤面し、あからさまに狼狽するエドを、ウィンリィは犯人を見つけた探偵のような視線で睨みつける。
「エド、あんた…」
「兄さん…抜け駆けはよくないよ」
悪い意味で絶妙なアルの言葉に、たまらずエドは叫んだ。
「な、何なんだおまえら!そんな疑った目でオレを見るんじゃねー!」
疑惑とひんしゅくの視線に耐えかねた後、ウィンリィは彼らの今後について訊ねる。