第34話
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頭頂部に角、口許に牙と髭という奇抜で派手な装飾の面を前に、少女は思わず無言になる。
「………………」
「オレが壊しちまった仮面、返せって言ったから。ん?」
エドは怒りに身体を震わせる様子を見て、
「あまりの出来の良さに感動してんのか?」
とんでもない勘違いする。
案の定というか、やはりお気に召さなかったようで、少女は勢いに任せて殴りかかった。
「ぐわっ!!?」
「どーーして、兄さんのセンスだとこうなるのかなぁ…」
「これだけはどうしても直らないのよねぇ…」
キョウコとアルは溜め息をついて、エドの奇抜な趣向に嘆く。
「ランファン!」
名を呼ばれて振り返ると、修復された元通りの面が少女――ランファンの手に渡された。
「アルフォンスが作ってくれたゾ。よかったナ」
リンは描かれた絵を手にして、キョウコはホッと一安心し、アルは親指を立てる。
「上手いものネ!」
細部まで見事に作り込まれたその精巧さに、ガーフィールが褒める。
「こ…こんな事されたからってッ…」
「ちゃんとお礼、言いなさいネ」
反抗するはずが、主人から先に釘を刺されてしまい、逃げ道がふさがれたランファンは素直に礼を述べる。
「……あ…アリガト…ございましタ…」
「どういたしまして」
キョウコは微笑んで、アルは両手を振って謙遜し、リンは、うんうん、と頷く。
その後ろで、エドは青筋を立てる。
「納得いかん」
ちなみに、彼が錬成した奇抜な面は笑いものにされていた。
駅のホームに残って手を振るパニーニャとガーフィールに見送られ、ラッシュバレーを後にするエド達は汽車に揺られている。
愚痴をこぼすエドの機械鎧はすっかり元通りになっていた。
「…たくよー、こちとら、先を急いでんのによぉ。おめーらのせいで直るまでにえらい時間くっちまったぞ」
「エドが壊さなければ済んだ事でしょ!」
「へーへー」
ウィンリィの小言を適当な返事で受け流し、リンへと怒りをぶつける。
「だいたいあの黒装束のせいだ!機械鎧の請求書叩きつけてやる!!」
「ははは。あの二人にはよく言っとくから、勘弁してヨ」
リンは朗らかに笑い、改めて黒装束の二人の名前を明かす。
「娘の方はランファン、じいの方がフー。家 に代々使える一族サ。よろしくナ」
ランファンとフーの名前がわかったところで、二人の姿が見えない。
(そういえば、二人の姿が見えないけど…)
膝立ちになって周りを見渡すウィンリィに、キョウコはまばたきする。
「ウィンリィ?」
「付き人が二人もいるなんて、もしかしてリンって結構いい家の坊っちゃん?」
アルの素朴な疑問に、リンは含みのある答えでキョウコに顔を向けた。
「この件についての詳しい事情は、キョウコの方がよく知ってるヨ」
エド達は彼の発言の意味を、本当に理解してないのだろう。
リンは呑気に笑いながら話を振ってくる。
丸投げだった。
キョウコにはその笑顔があまりに胡散くさく、こめかみに青筋が立つ。
「どういう事、キョウコ!?」
「ボク達がいない間に二人っきりだったけど、どういう話をしてたの!?」
「詳しく訊かせてくれっ!!」
勿論、キョウコには幼馴染みの要請に応じるつもりはない。
「さぁ、なんの事かしら?」
とつぶやいて、無心に窓の風景を眺める。
話をはぐらかれた、と思ったエドは不安を押し殺して、護衛つきの旅を鼻で笑う。
「は!!男のくせしてお付きがいなくちゃ、怖くて旅もできねーか」
「そうだねェ。子供の一人旅だと色々危ないかラ」
「子供?」
キョウコが口を挟んだ。
「リンっていくつ?」
「俺?15歳だヨ」
エド達よりも背は高く、整った顔立ちからか年上に見える。
その大人びた雰囲気を醸し出してはいても、彼はまだ15歳だった。
――ごっ……!?
聞き間違いかと耳を疑ったのだが。
リンは軽やかに笑う。
大人びた外見と実は子供という中身が反比例ということが発覚し、唖然とする。
ショックを隠し切れないエドに、ウィンリィは小さく耳打ちする。
「…エドはもうすぐ16歳よね。キョウコは誕生日はいつ?」
「……冬生まれだから、まだ15歳」
「スタンダップ!!」
すると、エドはリンを立ち上がらせる。
黙って立ち上がる彼の横に、エドは黙って並ぶ。
「…………」
その明らかな身長差で悶絶し、苦し紛れの捨て台詞を吐いた。
「………フケ顔!!!」
深くつっこむべきかどうか悩み、胸中でツッコミを入れるアルとウィンリィ。
(逃げた………)
(逃げた……!!)
しかし、キョウコは容赦ない。
「現実を受け入れないと」
その瞬間、天井を突き破って現れた刀が真横を掠った。
「な………」
突然の事態に言葉が出ないエドが見上げると、
「リン様の悪口言っタ……」
仮面で隠された双眸をきりきりとつり上げ、怒りに満ちた低い声音でランファンが覗いてくる。
「ははは」
「あ………ランファン…」
呑気に笑うリンの隣で、アルは呆然と声を漏らす。
ふと、最初に思い立ったキョウコが顔色を変える。
「…って、ちょっとリン!あの二人、上に乗ってんの!?」
「ちょっ…大丈夫!?」
「つーか、無賃乗車だろうが!!車掌さーん!!」
慌てるキョウコに続き、エドとウィンリィも狼狽するが、リンは泰然とした態度を崩さない。
「ははははは。あの二人がそう簡単に捕まると思ってるのかイ?」
邁進する汽車の上、肌を突き刺す強烈な向かい風を、ランファンとフーは平然と屋根に正座している。
そうして落ち着いた頃、外見と中身が一致しない話題が続く。
「そういえば、キョウコは今、いくつだっけ?」
まず最初にアルが話しかけた。
「冬生まれだから、まだ15歳」
「その質問、あたしもしたんだけど……同い年には見えない魅力を感じるわ」
繊細な美貌とほっそりとした華奢なスタイル、身に纏う凛々しい雰囲気が15歳には見えなかった。
「魅力って…大げさだよ」
「エドはどうなの?キョウコのどこに魅力を感じる?」
「はぁ!?オレは……その……」
唐突に話しかけられて、思わず声が上擦った。
なんとか言葉を探している内に、自然と浮かんだのはキョウコの笑顔だった。
(――「でも、すごい回復だよね。組み手まで出来るようになってたなんて、知らなかった」――)
あの時のキョウコの言葉と笑顔。
自分を見惚れさせた、まばゆい笑顔。
「……笑顔……かな」
思うところを述懐したら、キョウコの顔は真っ赤だった。
「――っ」
そんな顔されると自分まで恥ずかしくなる……そう思って、ふと気がついた。
なんだか複数の視線を感じる。
「うわー。情熱的というより、恥ずかしい告白ねえ」
「兄さん、しばらくのうちにどんどん進化してるね……」
「これは俺も負けてられないネ。あ、真っ赤なキョウコ、可愛いヨ」
三人が口を尖らせて漏らすのは、呆れと感嘆と羨望である。
「~~~~っ」
キョウコは悶絶する。
容姿端麗で豆と鎧のお姉さん的存在、そこが個性と魅力でもある少女ながら、色恋がらみの案件には不慣れだった。
「バカーーー!!」
「ぶほぉ!!」
キョウコの罵声と共に、エドの頬に強烈な平手打ちが叩き込まれる。
生活感溢れるこみごみとした坂道に面した寂 びれたアパートの前に、一台の車が停まった。
ドアを足で閉めながら出てきたのは、ワインや果物を詰めたバスケットを手にしたハボック。
階段を登って通路に出たところで部屋の扉を叩き、声をかける。
「おい、ファルマン。俺だ、ハボックだ。見舞いに来たぜ~」
「ハボック少尉!」
「よお!大佐に様子見てこいって言われてよ」
扉から顔を覗かせたファルマンが中へ案内する。
「すみませんね」
「この近くを通る用事があったからついでだ、気にすんな。これ、大佐から見舞いの品」
ついでと言う割に、面倒見のいいハボックはロイからの見舞い品を渡す。
「ああ、どうも」
「どうだ、調子は」
「芳しくありませんね。早く仕事に戻りたいですよ」
極めて平和ボケしたやり取りに微妙な居心地の悪さを覚えていると、散らかったテーブルを陣取るチェスがあり、自堕落にソファに座るバリーが迎えた。
「よーう、タバコの兄ちゃん。毎度、どーも」
「どうだ、バリー。一回でも勝てたか?」
「ダメだぁ。ぜんぜん勝てねぇよ。せっかくマスタングとかいう奴が遊び道具を持って来てくれたけど、退屈でしょーがねぇ。なぁ、夜中なら人を斬って来ていいだろ?」
「ふざけんな、馬鹿野郎」
物騒な発言の割に冗談めかした口調のようだが、ハボックは斬り捨てる。
「その大佐の方は、あれからどうです?」
ワインや果物を詰めたバスケットでカモフラージュされた中身から出てきたのは、一丁の拳銃。
「さぁな」
「さぁなって…」
「書類と格闘してるみたいだけど、俺は手出しできねーからわかんねーや」
バリーに煙草を吹きかけ、
「おーー、おもしれぇ」
「なにすんでぃ、あんちゃん」
頭部の空いた穴から煙があがるという遊びに興じる。
弾倉を装填し、ロイに命令された……バリーの監視のため、外に出られない毎日から不満を漏らす。
「実際、私はいつまでここにいればいいんですか。もう10日も籠 りっぱなしで、どうにかなりそうですよ。せめて、先行き明るい話でもあれば、耐えられるんですけどね」
「先行き明るい話か」
思考を働かせ、明るい話題はないか、と探る彼はある事実に思い至り、にやりと笑った。
「……………言い忘れてたが、ひとつあるぜ!」
もったいぶるように一呼吸置いて、満面の笑みで告げる。
「俺に彼女ができた!!!」
どうでもいいハボックの報告に、ファルマンは顔を引きつらせる。
「こっちに引っ越して来て、色々困ってた時にやさしくされてさぁ。もー、めっちゃいい女!!」
「なぁ、その女、斬ったら楽しそうか!?なぁなぁ!!」
早くも恋人ができたことに惚気 るハボックと見当違いな意見を述べるバリー。
「………もう帰ってください…」
ファルマンは悲壮感に涙を流して帰りを促した。
「………………」
「オレが壊しちまった仮面、返せって言ったから。ん?」
エドは怒りに身体を震わせる様子を見て、
「あまりの出来の良さに感動してんのか?」
とんでもない勘違いする。
案の定というか、やはりお気に召さなかったようで、少女は勢いに任せて殴りかかった。
「ぐわっ!!?」
「どーーして、兄さんのセンスだとこうなるのかなぁ…」
「これだけはどうしても直らないのよねぇ…」
キョウコとアルは溜め息をついて、エドの奇抜な趣向に嘆く。
「ランファン!」
名を呼ばれて振り返ると、修復された元通りの面が少女――ランファンの手に渡された。
「アルフォンスが作ってくれたゾ。よかったナ」
リンは描かれた絵を手にして、キョウコはホッと一安心し、アルは親指を立てる。
「上手いものネ!」
細部まで見事に作り込まれたその精巧さに、ガーフィールが褒める。
「こ…こんな事されたからってッ…」
「ちゃんとお礼、言いなさいネ」
反抗するはずが、主人から先に釘を刺されてしまい、逃げ道がふさがれたランファンは素直に礼を述べる。
「……あ…アリガト…ございましタ…」
「どういたしまして」
キョウコは微笑んで、アルは両手を振って謙遜し、リンは、うんうん、と頷く。
その後ろで、エドは青筋を立てる。
「納得いかん」
ちなみに、彼が錬成した奇抜な面は笑いものにされていた。
駅のホームに残って手を振るパニーニャとガーフィールに見送られ、ラッシュバレーを後にするエド達は汽車に揺られている。
愚痴をこぼすエドの機械鎧はすっかり元通りになっていた。
「…たくよー、こちとら、先を急いでんのによぉ。おめーらのせいで直るまでにえらい時間くっちまったぞ」
「エドが壊さなければ済んだ事でしょ!」
「へーへー」
ウィンリィの小言を適当な返事で受け流し、リンへと怒りをぶつける。
「だいたいあの黒装束のせいだ!機械鎧の請求書叩きつけてやる!!」
「ははは。あの二人にはよく言っとくから、勘弁してヨ」
リンは朗らかに笑い、改めて黒装束の二人の名前を明かす。
「娘の方はランファン、じいの方がフー。
ランファンとフーの名前がわかったところで、二人の姿が見えない。
(そういえば、二人の姿が見えないけど…)
膝立ちになって周りを見渡すウィンリィに、キョウコはまばたきする。
「ウィンリィ?」
「付き人が二人もいるなんて、もしかしてリンって結構いい家の坊っちゃん?」
アルの素朴な疑問に、リンは含みのある答えでキョウコに顔を向けた。
「この件についての詳しい事情は、キョウコの方がよく知ってるヨ」
エド達は彼の発言の意味を、本当に理解してないのだろう。
リンは呑気に笑いながら話を振ってくる。
丸投げだった。
キョウコにはその笑顔があまりに胡散くさく、こめかみに青筋が立つ。
「どういう事、キョウコ!?」
「ボク達がいない間に二人っきりだったけど、どういう話をしてたの!?」
「詳しく訊かせてくれっ!!」
勿論、キョウコには幼馴染みの要請に応じるつもりはない。
「さぁ、なんの事かしら?」
とつぶやいて、無心に窓の風景を眺める。
話をはぐらかれた、と思ったエドは不安を押し殺して、護衛つきの旅を鼻で笑う。
「は!!男のくせしてお付きがいなくちゃ、怖くて旅もできねーか」
「そうだねェ。子供の一人旅だと色々危ないかラ」
「子供?」
キョウコが口を挟んだ。
「リンっていくつ?」
「俺?15歳だヨ」
エド達よりも背は高く、整った顔立ちからか年上に見える。
その大人びた雰囲気を醸し出してはいても、彼はまだ15歳だった。
――ごっ……!?
聞き間違いかと耳を疑ったのだが。
リンは軽やかに笑う。
大人びた外見と実は子供という中身が反比例ということが発覚し、唖然とする。
ショックを隠し切れないエドに、ウィンリィは小さく耳打ちする。
「…エドはもうすぐ16歳よね。キョウコは誕生日はいつ?」
「……冬生まれだから、まだ15歳」
「スタンダップ!!」
すると、エドはリンを立ち上がらせる。
黙って立ち上がる彼の横に、エドは黙って並ぶ。
「…………」
その明らかな身長差で悶絶し、苦し紛れの捨て台詞を吐いた。
「………フケ顔!!!」
深くつっこむべきかどうか悩み、胸中でツッコミを入れるアルとウィンリィ。
(逃げた………)
(逃げた……!!)
しかし、キョウコは容赦ない。
「現実を受け入れないと」
その瞬間、天井を突き破って現れた刀が真横を掠った。
「な………」
突然の事態に言葉が出ないエドが見上げると、
「リン様の悪口言っタ……」
仮面で隠された双眸をきりきりとつり上げ、怒りに満ちた低い声音でランファンが覗いてくる。
「ははは」
「あ………ランファン…」
呑気に笑うリンの隣で、アルは呆然と声を漏らす。
ふと、最初に思い立ったキョウコが顔色を変える。
「…って、ちょっとリン!あの二人、上に乗ってんの!?」
「ちょっ…大丈夫!?」
「つーか、無賃乗車だろうが!!車掌さーん!!」
慌てるキョウコに続き、エドとウィンリィも狼狽するが、リンは泰然とした態度を崩さない。
「ははははは。あの二人がそう簡単に捕まると思ってるのかイ?」
邁進する汽車の上、肌を突き刺す強烈な向かい風を、ランファンとフーは平然と屋根に正座している。
そうして落ち着いた頃、外見と中身が一致しない話題が続く。
「そういえば、キョウコは今、いくつだっけ?」
まず最初にアルが話しかけた。
「冬生まれだから、まだ15歳」
「その質問、あたしもしたんだけど……同い年には見えない魅力を感じるわ」
繊細な美貌とほっそりとした華奢なスタイル、身に纏う凛々しい雰囲気が15歳には見えなかった。
「魅力って…大げさだよ」
「エドはどうなの?キョウコのどこに魅力を感じる?」
「はぁ!?オレは……その……」
唐突に話しかけられて、思わず声が上擦った。
なんとか言葉を探している内に、自然と浮かんだのはキョウコの笑顔だった。
(――「でも、すごい回復だよね。組み手まで出来るようになってたなんて、知らなかった」――)
あの時のキョウコの言葉と笑顔。
自分を見惚れさせた、まばゆい笑顔。
「……笑顔……かな」
思うところを述懐したら、キョウコの顔は真っ赤だった。
「――っ」
そんな顔されると自分まで恥ずかしくなる……そう思って、ふと気がついた。
なんだか複数の視線を感じる。
「うわー。情熱的というより、恥ずかしい告白ねえ」
「兄さん、しばらくのうちにどんどん進化してるね……」
「これは俺も負けてられないネ。あ、真っ赤なキョウコ、可愛いヨ」
三人が口を尖らせて漏らすのは、呆れと感嘆と羨望である。
「~~~~っ」
キョウコは悶絶する。
容姿端麗で豆と鎧のお姉さん的存在、そこが個性と魅力でもある少女ながら、色恋がらみの案件には不慣れだった。
「バカーーー!!」
「ぶほぉ!!」
キョウコの罵声と共に、エドの頬に強烈な平手打ちが叩き込まれる。
生活感溢れるこみごみとした坂道に面した
ドアを足で閉めながら出てきたのは、ワインや果物を詰めたバスケットを手にしたハボック。
階段を登って通路に出たところで部屋の扉を叩き、声をかける。
「おい、ファルマン。俺だ、ハボックだ。見舞いに来たぜ~」
「ハボック少尉!」
「よお!大佐に様子見てこいって言われてよ」
扉から顔を覗かせたファルマンが中へ案内する。
「すみませんね」
「この近くを通る用事があったからついでだ、気にすんな。これ、大佐から見舞いの品」
ついでと言う割に、面倒見のいいハボックはロイからの見舞い品を渡す。
「ああ、どうも」
「どうだ、調子は」
「芳しくありませんね。早く仕事に戻りたいですよ」
極めて平和ボケしたやり取りに微妙な居心地の悪さを覚えていると、散らかったテーブルを陣取るチェスがあり、自堕落にソファに座るバリーが迎えた。
「よーう、タバコの兄ちゃん。毎度、どーも」
「どうだ、バリー。一回でも勝てたか?」
「ダメだぁ。ぜんぜん勝てねぇよ。せっかくマスタングとかいう奴が遊び道具を持って来てくれたけど、退屈でしょーがねぇ。なぁ、夜中なら人を斬って来ていいだろ?」
「ふざけんな、馬鹿野郎」
物騒な発言の割に冗談めかした口調のようだが、ハボックは斬り捨てる。
「その大佐の方は、あれからどうです?」
ワインや果物を詰めたバスケットでカモフラージュされた中身から出てきたのは、一丁の拳銃。
「さぁな」
「さぁなって…」
「書類と格闘してるみたいだけど、俺は手出しできねーからわかんねーや」
バリーに煙草を吹きかけ、
「おーー、おもしれぇ」
「なにすんでぃ、あんちゃん」
頭部の空いた穴から煙があがるという遊びに興じる。
弾倉を装填し、ロイに命令された……バリーの監視のため、外に出られない毎日から不満を漏らす。
「実際、私はいつまでここにいればいいんですか。もう10日も
「先行き明るい話か」
思考を働かせ、明るい話題はないか、と探る彼はある事実に思い至り、にやりと笑った。
「……………言い忘れてたが、ひとつあるぜ!」
もったいぶるように一呼吸置いて、満面の笑みで告げる。
「俺に彼女ができた!!!」
どうでもいいハボックの報告に、ファルマンは顔を引きつらせる。
「こっちに引っ越して来て、色々困ってた時にやさしくされてさぁ。もー、めっちゃいい女!!」
「なぁ、その女、斬ったら楽しそうか!?なぁなぁ!!」
早くも恋人ができたことに
「………もう帰ってください…」
ファルマンは悲壮感に涙を流して帰りを促した。