第33話
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「不老不死?」
「そういえば、この前もそんな事言う人がいたね」
「流行ってんのか?」
黒装束を纏った仮面の二人に武器を突きつけられた兄弟。
そして、いつでも撃てるよう銃に手をかけるキョウコは鋭い目つきでリンを見据える。
「どうしてそんなものを求める?」
「家庭の事情ってやつサ」
「くっだらねー」
「真剣だヨ」
「なんにせよ、これが人にものを尋ねる態度とは、思えねぇな!!」
エドは言葉の終わりと同時に裏拳を繰り出す。
「あっ、兄さん、ケンカは……」
彼にクナイを向けていた仮面の男は身体を捻って裏拳をかわし、エドに蹴りを見舞った。
アルに薄刃刀を突きつける男(老人)は、その光景に激昂した声をあげる。
「うぬれ、庶民めガ!若がこうして訊いておるのダ!貴様らこそ、立場をわきまえロ!」
「あの、ちょっと!あぶないから……」
「ぬッ…貴様も逆らうカ!!」
仲裁しようと薄刃刀を握ったアルに向けて、右手を大きく引いた。
「ちょ……ちょっと待っ……」
慌てて止める間もなく、伸ばした手を支点に回転、
「…ってェ!?」
まるで曲芸のように、腕に両手を着いた状態で蹴りを放たれ、吹っ飛ばされた。
「あで」
吹っ飛ばされた先は、兄の隣。
地面に転がったエドは顔を上げて顔を歪める。
「なろー。軽業師みたいな妙な動きしやがる」
「も~~~、最近こんなのばっかりだ」
うんざりだと言わんばかりに、涙目になりながら嘆息するアル。
最近、何かと投げ飛ばされている気がする。
「シン国の体術のようね、やり辛いよ。エド、アル」
キョウコは戦力を分析した。
突きや蹴りを放つ際、攻撃の気配を全く悟らせない。
そして、あらゆる動作が鋭い。
手足を振り回す起動が短く、小さいのだ。
それでいて、絶大な威力を宿している。
キョウコはつくづく感心した。
「でもよ」
「うん」
彼女の忠告を聞きながらも立ち上がり、表情を引き締めて言い放つ。
「「師匠より弱い!!」」
兄弟は仮面の男達と向き合い、激突した。
あっという間に遠くに姿を消す彼らを、リンは遠目で見つめる。
「あーーーア…行っちゃったヨ。血の気多いなァ。君は行かなくてよかったのかい?」
「仕方ないわ。こればっかりは諦めてるから」
「はは、良い性格してるね君」
「お褒めの言葉、どうも」
キョウコは拳銃から手を退けると、再び椅子に座り直す。
するとリンは、店員へ料理の注文を頼んだ。
「あ…おっちゃん、デザート追加ネ」
「へい」
「お勘定は、あの兄弟にツケといテ!」
「あたしは飲み物のおかわりを…ところでリン、一つ訊いてもいい?」
「かまわないヨ。ただし、スリーサイズと体重は極秘事項だからネ?」
とぼけた答えを口にするリンへ、キョウコは皮肉な視線を投げかけた。
「実は、さっきから気になってたのよね。あなたが……いえ、あなた達が賢者の石をほしがる理由」
微妙にスパイスを効かせた、辛めの質問。
リンはとぼけた笑みと緊張感のない口調を崩しはしなかった。
「さっき言ったけど、家庭の事情ってやつサ」
「その家庭の事情が、なんとなく引っかかるのよ。老いたくない、死にたくないと願うのは誰しも思う事だけど、それを強く思う時は瀕死の状態におちいってる時……身内の誰かがそうなっている、とかね。これはあたしの考えすぎ?」
「考えすぎだヨ」
言葉の各所に皮肉のエッセンスを振り撒くキョウコ。
誠意が欠けているくせに、不思議と憎めない顔つきのリン。
二人のやり取りを横で聞く者がいれば、さぞ居心地が悪かろう。
飛び降りる男を追うエドは落下の途中でパイプを棍 へと錬成、連続の刺突を繰り出すが、素早い動作でガードされる。
「せッ」
棍を首に傾くだけで避けた刹那、頭の飾り紐で固定、右手のクナイで斬りつける。
棍はバラバラに斬り飛ばされ、そこからは悲惨だった。
鋭く放たれた両手の拳で打ち抜かれる。
やられ放題である。
「…なろっ!」
ようやく反撃するも、腕を捕られてしまった。
(やべ…折られる!!)
そう思った瞬間には反射的に足を動かし、
「うりゃッ」
巴投げの要領で投げ飛ばす。
しかし、敵は地面に叩きつけられる直前に受け身を取る。
「あっぶねーー」
エドもすぐ身を起き上がらせ、左腕の具合を確認する。
(くっそ…フラフラクネクネとやりにくい。命を取るまではしないみたいだが…)
男はだらりと身体の筋肉を緩め、構える。
余裕を見せているのではない。
これは、こちらの能力を見極めようとしているのだ。
「…ったく、いきなり賢者の石だ、不老不死だとケンカふっかけてきやがって。あの野郎、何を考えてやがる!?」
これほどの達人を相手に、どうやって攻め崩す?
重要なのは観察することだ。
きわどい勝負の場に立つ時ほど、目と頭が冴える。
敵の一挙手投足。
表情。
視線。
勝機につながる気配は一つも見逃さない。
敵の性格を見極め、思惑を読み、行動を見定める。
観察し、考える。
「あいつだ、あいつ!いけ好かねえ糸目のチャラチャラした野郎!何を考えてんだ、あの馬鹿は!!」
リンに対して悪口を言った直後、いきなり男が近づいてきた。
「え」
神速の鋭い指先で、目を狙ってきたのだ。
「うがっ!?」
仰け反ったエドの額から鮮血が舞う。
あと半瞬遅れれば、黄金色の目は無惨に潰され、抉られたことだろう。
しかし、エドもただ避けるつもりはなかった。
攻撃のために振るった足が首に回され、蹴り倒す。
「ぐ…」
初めて、完全には見切れなかった男が苦痛に喘ぐのを聞いた。
「へえ…いきなり急所来たね。やっぱおめー、うちの師匠より弱え!」
額から流れる血を舌で拭い、エドは勝機を見出した。
もう一人の黒装束の男に苦戦するアルは屋根から落とされ、上下逆さまの状態で腕を組んで考えていた。
「うーーん。あの人、すばしっこくて全然捕まえられないや」
「あれーー?」
すると、修理に訪れたパニーニャがアルに声をかけながら屋根から飛び降り、隣に着地する。
「ここの屋根の修理たのまれてたのに!何やってんの、アル」
「話せば長い事ながら……」
口を開いた直後、派手な音を立てて拳を振り下ろし、薄刃刀を構えながら見据えてくる老人。
剣呑な雰囲気と携える武器に、パニーニャは大体の事情を察した。
「………なんとなくわかった」
「よかった、手間がはぶけて」
店を出て一目散に逃げるアルは、並走するパニーニャに頼み事をした。
「そうだ、パニーニャ。たのみがあるんだけど」
その後ろを、勢いよく店を出た老人が後を追う。
キョウコとリンのテーブル席に、注文した品が到着した。
キョウコは鮮やかなオレンジジュースをストローで吸い込む。
しばらく飲むと、顔を上げた。
「そして、気になった事がもう一つ……あの黒ずくめの二人、あなたの護衛役でしょ?あれほどの武術ができる達人に『若』と呼ばれるなんて……よっぽどの氏族なんでしょうね」
微苦笑を浮かべているリンの懐に、キョウコは踏み込む。
「そして、家庭の事情と言った……という事は、身内の争い。不老不死の法をいち早く手に入れ、それを献上する事で地位が上がる」
組織ではなく、氏族による主導権争い。
権力争いはよくある話なので、それ自体は驚愕すべき情報ではない。
ただ、家族の争いというのは意外だった。
「いずれにしても、よからぬ企みがあってエドやアルに近づくのであれば、ただで済ませるつもりはないわ」
リンはデザートを食べながら、人懐っこい笑顔を浮かべる。
「よからぬ企みなんて何もないヨ、一番目のキョウコ」
「一番目?」
「うん……あの群れの中で、影に強いからネ。パッと見れば、一番目は金髪の彼、二番目に君か、あの鎧くン。一対一の強さなら同じくらいだけど、群れの中の発言力みたいなのでは君の方が上でしょ?そういうのが何となくわかっちゃんだナ」
これは失礼なようでいて、エドとキョウコの二人の立ち位置を正確に言い当てている。
キョウコは微笑んだまま、ただ肩をすくめるだけだった。
こういう時は雄弁より沈黙の方が効果的になる。
「そうダ。探し物ついでに、お嫁さんもみつけて行こうかナ。キョウコ、俺のお嫁さんにならないかイ?」
「……リン、バカげた冗談はやめてちょうだい」
本気で怒った時、キョウコは何故か微笑んでしまう。
今も口許が緩くなるのを感じながら、冷たい声音で告げた。
前方の二人が走りながら何かを話している。
その内容よりも、老人はアルの姿に違和感を覚えていた。
(奇妙な…あの鎧…あれは…あり得ん)
鎧という外見……ではない、生きた人間ならば体内に流れているはずの『気』が感じられない。
にわかに信じられないことだった。
徐々に近づくにつれ、二人の会話が聞こえてくる。
「安くないよ?」
「兄さんにツケといて」
「りょーかい!」
鎧が何やら頼み事をしている。
色黒の相貌には不敵な笑みが浮かべられている。
交渉成立。
「ぬ?」
突然、二人は立ち止まり、老人を迎え撃つ。
「仲間を増やせば、どうにかなると思ったカ!!おろか者どもメ!!」
「にっ」
弾丸のように突進する老人の先で、パニーニャは不適に笑った。
持っていたクナイが地面に落ち、足が小刻みに震える。
エドの突き出した肘が腹部にめり込み、黒装束の肢体が折れ、膝を地につけて息を詰まらせる。
「…………」
「やっぱり、たいした事なかったな。部下があんなヘタレじゃ、あのリンって野郎の程度も知れてるってもんだ」
主に対する侮辱を受けた男は奥歯を噛み締め、まだそこにある身体に向けて蹴り上げた。
エドはそれを掌でいなし、思考を猛然と巡らせながら相手の弱点を見つける。
(こいつ、冷静沈着で機械みたいな奴かと思ったが、主の事貶 されたとたんに血液逆流する程、熱くなりやがんのな)
「そういえば、この前もそんな事言う人がいたね」
「流行ってんのか?」
黒装束を纏った仮面の二人に武器を突きつけられた兄弟。
そして、いつでも撃てるよう銃に手をかけるキョウコは鋭い目つきでリンを見据える。
「どうしてそんなものを求める?」
「家庭の事情ってやつサ」
「くっだらねー」
「真剣だヨ」
「なんにせよ、これが人にものを尋ねる態度とは、思えねぇな!!」
エドは言葉の終わりと同時に裏拳を繰り出す。
「あっ、兄さん、ケンカは……」
彼にクナイを向けていた仮面の男は身体を捻って裏拳をかわし、エドに蹴りを見舞った。
アルに薄刃刀を突きつける男(老人)は、その光景に激昂した声をあげる。
「うぬれ、庶民めガ!若がこうして訊いておるのダ!貴様らこそ、立場をわきまえロ!」
「あの、ちょっと!あぶないから……」
「ぬッ…貴様も逆らうカ!!」
仲裁しようと薄刃刀を握ったアルに向けて、右手を大きく引いた。
「ちょ……ちょっと待っ……」
慌てて止める間もなく、伸ばした手を支点に回転、
「…ってェ!?」
まるで曲芸のように、腕に両手を着いた状態で蹴りを放たれ、吹っ飛ばされた。
「あで」
吹っ飛ばされた先は、兄の隣。
地面に転がったエドは顔を上げて顔を歪める。
「なろー。軽業師みたいな妙な動きしやがる」
「も~~~、最近こんなのばっかりだ」
うんざりだと言わんばかりに、涙目になりながら嘆息するアル。
最近、何かと投げ飛ばされている気がする。
「シン国の体術のようね、やり辛いよ。エド、アル」
キョウコは戦力を分析した。
突きや蹴りを放つ際、攻撃の気配を全く悟らせない。
そして、あらゆる動作が鋭い。
手足を振り回す起動が短く、小さいのだ。
それでいて、絶大な威力を宿している。
キョウコはつくづく感心した。
「でもよ」
「うん」
彼女の忠告を聞きながらも立ち上がり、表情を引き締めて言い放つ。
「「師匠より弱い!!」」
兄弟は仮面の男達と向き合い、激突した。
あっという間に遠くに姿を消す彼らを、リンは遠目で見つめる。
「あーーーア…行っちゃったヨ。血の気多いなァ。君は行かなくてよかったのかい?」
「仕方ないわ。こればっかりは諦めてるから」
「はは、良い性格してるね君」
「お褒めの言葉、どうも」
キョウコは拳銃から手を退けると、再び椅子に座り直す。
するとリンは、店員へ料理の注文を頼んだ。
「あ…おっちゃん、デザート追加ネ」
「へい」
「お勘定は、あの兄弟にツケといテ!」
「あたしは飲み物のおかわりを…ところでリン、一つ訊いてもいい?」
「かまわないヨ。ただし、スリーサイズと体重は極秘事項だからネ?」
とぼけた答えを口にするリンへ、キョウコは皮肉な視線を投げかけた。
「実は、さっきから気になってたのよね。あなたが……いえ、あなた達が賢者の石をほしがる理由」
微妙にスパイスを効かせた、辛めの質問。
リンはとぼけた笑みと緊張感のない口調を崩しはしなかった。
「さっき言ったけど、家庭の事情ってやつサ」
「その家庭の事情が、なんとなく引っかかるのよ。老いたくない、死にたくないと願うのは誰しも思う事だけど、それを強く思う時は瀕死の状態におちいってる時……身内の誰かがそうなっている、とかね。これはあたしの考えすぎ?」
「考えすぎだヨ」
言葉の各所に皮肉のエッセンスを振り撒くキョウコ。
誠意が欠けているくせに、不思議と憎めない顔つきのリン。
二人のやり取りを横で聞く者がいれば、さぞ居心地が悪かろう。
飛び降りる男を追うエドは落下の途中でパイプを
「せッ」
棍を首に傾くだけで避けた刹那、頭の飾り紐で固定、右手のクナイで斬りつける。
棍はバラバラに斬り飛ばされ、そこからは悲惨だった。
鋭く放たれた両手の拳で打ち抜かれる。
やられ放題である。
「…なろっ!」
ようやく反撃するも、腕を捕られてしまった。
(やべ…折られる!!)
そう思った瞬間には反射的に足を動かし、
「うりゃッ」
巴投げの要領で投げ飛ばす。
しかし、敵は地面に叩きつけられる直前に受け身を取る。
「あっぶねーー」
エドもすぐ身を起き上がらせ、左腕の具合を確認する。
(くっそ…フラフラクネクネとやりにくい。命を取るまではしないみたいだが…)
男はだらりと身体の筋肉を緩め、構える。
余裕を見せているのではない。
これは、こちらの能力を見極めようとしているのだ。
「…ったく、いきなり賢者の石だ、不老不死だとケンカふっかけてきやがって。あの野郎、何を考えてやがる!?」
これほどの達人を相手に、どうやって攻め崩す?
重要なのは観察することだ。
きわどい勝負の場に立つ時ほど、目と頭が冴える。
敵の一挙手投足。
表情。
視線。
勝機につながる気配は一つも見逃さない。
敵の性格を見極め、思惑を読み、行動を見定める。
観察し、考える。
「あいつだ、あいつ!いけ好かねえ糸目のチャラチャラした野郎!何を考えてんだ、あの馬鹿は!!」
リンに対して悪口を言った直後、いきなり男が近づいてきた。
「え」
神速の鋭い指先で、目を狙ってきたのだ。
「うがっ!?」
仰け反ったエドの額から鮮血が舞う。
あと半瞬遅れれば、黄金色の目は無惨に潰され、抉られたことだろう。
しかし、エドもただ避けるつもりはなかった。
攻撃のために振るった足が首に回され、蹴り倒す。
「ぐ…」
初めて、完全には見切れなかった男が苦痛に喘ぐのを聞いた。
「へえ…いきなり急所来たね。やっぱおめー、うちの師匠より弱え!」
額から流れる血を舌で拭い、エドは勝機を見出した。
もう一人の黒装束の男に苦戦するアルは屋根から落とされ、上下逆さまの状態で腕を組んで考えていた。
「うーーん。あの人、すばしっこくて全然捕まえられないや」
「あれーー?」
すると、修理に訪れたパニーニャがアルに声をかけながら屋根から飛び降り、隣に着地する。
「ここの屋根の修理たのまれてたのに!何やってんの、アル」
「話せば長い事ながら……」
口を開いた直後、派手な音を立てて拳を振り下ろし、薄刃刀を構えながら見据えてくる老人。
剣呑な雰囲気と携える武器に、パニーニャは大体の事情を察した。
「………なんとなくわかった」
「よかった、手間がはぶけて」
店を出て一目散に逃げるアルは、並走するパニーニャに頼み事をした。
「そうだ、パニーニャ。たのみがあるんだけど」
その後ろを、勢いよく店を出た老人が後を追う。
キョウコとリンのテーブル席に、注文した品が到着した。
キョウコは鮮やかなオレンジジュースをストローで吸い込む。
しばらく飲むと、顔を上げた。
「そして、気になった事がもう一つ……あの黒ずくめの二人、あなたの護衛役でしょ?あれほどの武術ができる達人に『若』と呼ばれるなんて……よっぽどの氏族なんでしょうね」
微苦笑を浮かべているリンの懐に、キョウコは踏み込む。
「そして、家庭の事情と言った……という事は、身内の争い。不老不死の法をいち早く手に入れ、それを献上する事で地位が上がる」
組織ではなく、氏族による主導権争い。
権力争いはよくある話なので、それ自体は驚愕すべき情報ではない。
ただ、家族の争いというのは意外だった。
「いずれにしても、よからぬ企みがあってエドやアルに近づくのであれば、ただで済ませるつもりはないわ」
リンはデザートを食べながら、人懐っこい笑顔を浮かべる。
「よからぬ企みなんて何もないヨ、一番目のキョウコ」
「一番目?」
「うん……あの群れの中で、影に強いからネ。パッと見れば、一番目は金髪の彼、二番目に君か、あの鎧くン。一対一の強さなら同じくらいだけど、群れの中の発言力みたいなのでは君の方が上でしょ?そういうのが何となくわかっちゃんだナ」
これは失礼なようでいて、エドとキョウコの二人の立ち位置を正確に言い当てている。
キョウコは微笑んだまま、ただ肩をすくめるだけだった。
こういう時は雄弁より沈黙の方が効果的になる。
「そうダ。探し物ついでに、お嫁さんもみつけて行こうかナ。キョウコ、俺のお嫁さんにならないかイ?」
「……リン、バカげた冗談はやめてちょうだい」
本気で怒った時、キョウコは何故か微笑んでしまう。
今も口許が緩くなるのを感じながら、冷たい声音で告げた。
前方の二人が走りながら何かを話している。
その内容よりも、老人はアルの姿に違和感を覚えていた。
(奇妙な…あの鎧…あれは…あり得ん)
鎧という外見……ではない、生きた人間ならば体内に流れているはずの『気』が感じられない。
にわかに信じられないことだった。
徐々に近づくにつれ、二人の会話が聞こえてくる。
「安くないよ?」
「兄さんにツケといて」
「りょーかい!」
鎧が何やら頼み事をしている。
色黒の相貌には不敵な笑みが浮かべられている。
交渉成立。
「ぬ?」
突然、二人は立ち止まり、老人を迎え撃つ。
「仲間を増やせば、どうにかなると思ったカ!!おろか者どもメ!!」
「にっ」
弾丸のように突進する老人の先で、パニーニャは不適に笑った。
持っていたクナイが地面に落ち、足が小刻みに震える。
エドの突き出した肘が腹部にめり込み、黒装束の肢体が折れ、膝を地につけて息を詰まらせる。
「…………」
「やっぱり、たいした事なかったな。部下があんなヘタレじゃ、あのリンって野郎の程度も知れてるってもんだ」
主に対する侮辱を受けた男は奥歯を噛み締め、まだそこにある身体に向けて蹴り上げた。
エドはそれを掌でいなし、思考を猛然と巡らせながら相手の弱点を見つける。
(こいつ、冷静沈着で機械みたいな奴かと思ったが、主の事