第32話
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山岳地帯の採掘場であり、屈強な炭鉱夫が生活する、ユースウェル。
以前は悪徳経営者により、極貧生活を強いられてきたが、現在は活気に満ち溢れながら暮らしている。
「カヤル!カヤルー!お父さんにお弁当、持ってって」
「はーい」
弁当を頼まれたカヤルに、通りすがりの炭鉱夫がホーリングの居場所を伝える。
「よう、カヤル。親方は今日は8番抗だぞ」
「げっ、一番はしっこかよ」
その言葉に顔をしかめ、近道を通ることにした。
「近道しよ。よっこら…」
積み上げられたボタ山を登り、降りようと足を着いた直後、何かを踏んだ。
「ぐに?」
「……もしもし、そのこおカタ…」
すると、道端で生き倒れた少女の声に驚き、
「生物!?」
カヤルは飛び上がる。
その間にも、少女は弱々しい声音で訊ねた。
「ここはどこですカ…」
「どこって…ユースウェル炭鉱だよ」
「…………アメストリス国ノ?」
「そう、アメストリスの東の終わりの国」
突如、その国名に反応した少女と子パンダは勢いよく起き上がり、滂沱と涙を流して抱きつく。
「やったわ、シャオメイ!!ついにあの大砂漠を超えて、たどり着いたのヨーーーーー!!」
「…………あの~~~~~~~」
喜びを最大限に表す様子に、理解に困惑するカヤルだったが、いきなり地面に突っ伏す少女と一匹に、
「ヒィ!!?」
と先程より大きくうろたえて飛び上がる。
「ちょっと、おい!!」
ぐぎゅ~、と少女の腹が盛大に鳴り、カヤルは持っていた弁当に視線を向けた。
包みを開けると、のりからあげ弁当(大盛)。
「おかげさまで助かりましタ!」
弁当をきれいに完食し、少女と子パンダはパンダの模様が刺繍されたハンカチで涙を拭う。
小さい割に知能が大きく発達しているらしく、表情豊かで動作は機敏だ。
「目的を果たす前に、飢えて死ぬところでしタ」
「いや、それはいいんだけどさ。俺、カヤル。君は?」
「申し遅れましタ!私はメイ・チャン。こっちはシャオメイ。シンから来ましタ」
長い黒髪を三つ編みにして、女物の漢服を身に纏う少女――メイは、自分と肩に乗るほどの小型サイズのパンダ――シャオメイを紹介する。
「シン国……って、ここからはるか東の!?大砂漠のむこうの!?」
「はイ。砂漠越えで嵐に巻きこまれて、死ぬかと思いましたヨ」
東の大国・シンとの鉄道ルートは閉鎖中。
それを徒歩で越えてきた経路に愕然とするカヤルに対し、
「てへ」
と可愛らしい仕草をする。
「うへ~~、すっげえ。そんな目にあってまで、何しに来たのさ」
メイは、たった一語で、危険な目に遭ってまでアメストリスに訪れた理由を言い表す。
「ええ、ちょっト……不老不死の法を探しにネ」
「へ?」
意味不明な言葉に首を捻る、その時、妙な音が入った。
低い、唸りの音が緩く重く、徐々に大きくなり――もっと砕いて言うと、巨大な地響きが轟いた。
「なっ…なんだぁ!?」
大地を揺るがす、細かくも強い震動。
それが徐々に範囲を広げていく、怖気を伴う実感に、二人と一匹は翻弄される。
慌てて駆けつけると、男達も轟音のあがった場所に向かうところだった。
「ビッドさん!」
「カヤル!」
「よかった、おまえは行ってなかったんだな」
「落盤だ!8番抗がやられた!」
落盤事故の急報を受け、カヤルは周りの制止を無視して走り出す。
「カヤル!」
「カヤルさン!」
「8番抗には、親父が……親父が……!!」
大事な人も関わっているはずの、緊急で危険な事柄を聞かされ、不安と焦燥の渦巻く心中、声に恐れが滲んだ。
信じられない規模の土砂崩れ――まさにその瞬間、入口が塞がれた。
脅威の光景として危険な現場に飛び出すカヤルを、なんとか押し止めようとする。
「親父!!」
「カヤル!!近付いちゃいけねぇ!!」
「なんでだよ!!」
聞く耳持たれることはない、問答無用に封殺れる。
「まだ、崩れ続けてる!!死にに行くつもりか!!」
視界一面、落ちた土砂、砕けた線路、全ての破壊の痕跡が、猛然と怒涛を進める。
「近付けないって…だまって見てるしかないのかよ!!畜生!!」
思いもよらなかった事態の中、一縷 の望みでいつしか自分達を助け、街を復興してくれた人物に託して、一人の名を叫ぶ。
「こんな時、キョウコ姉ちゃんがいてくれたら……!」
その名は、エドではなかった。
「だったラ、近付けなければいいんですよネ」
どうしようもない状況下、答えが返ってきた。
メイが、袖口から鏃 のような武器を取り出す。
疑問符を浮かべる僅かな間に、地面に木の棒で錬成陣――円形の中に五茫星――を描き、その周りに鏃を突き刺す。
「え?」
「動いちゃダメですヨ」
両手の間に残りの鏃を構えた瞬間、油断した二人の前後スレスレを挟んで、投擲による加速が炭鉱に切っ先を向ける。
叫びすらあげることもかなわず、二人は倒れた。
投擲した鏃は瓦礫に突き刺さると、メイは両手を錬成陣に合わせる。
刹那、五茫星の大きな錬成陣が浮き上がり、瓦礫の一塊の全ては動き出す。
継ぎ合わされ、張り直し、瓦礫の果てから帰ってくる。
崩壊した形跡を止めず、元に戻る。
ほどなく目の前に、常日頃見慣れた炭鉱が復元して、修復は完了した。
全てが直った驚きに目を見開いていると、
「ゲホ、ゴホ!!」
と咳き込んで、男達の声が聞こえてくる。
「オイ、なんだ今の!!」
「ゲホ、ゴホ」
「明かりだ」
「外か!?」
狭間から照らす外の光を目指して歩いてきたホーリングは、目の前で固まる息子や仲間達と遭遇する。
「お?あれ?カヤル?どーなってんだ?」
『………………』
これほど大規模な修復をしてみせた人物に、皆の注視が向けられると、メイは笑顔を浮かべて告げた。
「一飯の恩でス」
一拍、空気の爆ぜるような歓呼の声が沸き上がった。
『うおおおおおおおおおおお』
後はもう、言葉にならない。
軒昂 の意気を咆哮に変え、心中の歓喜を轟音にして、男達はどこまでも叫び続ける。
「ロープとハシゴ、持って来い!!」
「全員、無事かーーっ!!!」
「おい、どうなってるのか説明しろ、カヤル。おーい…」
耳に痛いほどの叫喚の中、落盤事故に巻き込まれたホーリングだけは何が起こったのかわからず、困惑していた。
夜になっても笑顔が絶えず、
「うわははははははははは」
誰もが楽しく酒を酌み交わす。
「さぁ、じゃんじゃん飲みねェ!!」
これでもかとばかりなたくさんのごちそうと男達の笑顔に、メイは照れくさそうに、しかし表情を緩める。
「おい!食いもんが足りねぇぞ!」
「「へぇい!」」
命令されて答えるのは、かつてヨキの部下だった男達が両手に皿を持って走り回る。
「あんたは命の恩人だ!!飲め!!飲んでくれ!!」
「コッタさん、子供に飲ませちゃダメよ」
夫人がメイに酒を進めるのを注意する傍ら、シャオメイが豪快にビールを飲む様を見て、
『うおーー』
と子供達と大人は仰天する。
普通のパンダの主食は笹や竹の子。
だが、一気に飲み干すというシャオメイの酒豪は凄まじい。
「錬金術師に助けられたのは、二度目だ」
意味深めな発言に、メイは疑問符を浮かべる。
ホーリングの言葉に続き、他の男達も会話に加わる。
「ああ、エルリック兄弟ともう一人、ちょいと有名な錬金術師がいてな。俺達がこうやって笑って暮らしていられるのも、そいつらのおかげさ」
「兄のエドワード・エルリックとキョウコ・アルジェントってのがやり手の錬金術師でよ」
「12と13の時に、最年少で国家錬金術師になったって。今は15か16かなぁ」
当時を思い出しつつ、次第に二人の容姿の話に変わる。
「金髪金目で、ちょいと目立つ風貌だったな」
「黒髪黒目で、まだ幼いのにすっげー美人だ」
「赤いコートと三つ編みも目立ってたぞ」
「黒いコートで、腰にベルトを巻いて銃を提げてたな」
「最年少ですごい錬金術師…三つ編みの目立つ少年……?黒い髪の美人な少女……?」
――天才錬金術師、エドワード・エルリック様!!
彼らの話を元にして、夢見る少女特有の妄想を広げ、そうして作り上げたエドは、こんな感じ。
(超長身・かしこそう・さわやか)
メイの脳内には、長身の爽やか青年が微笑みかける。
「やあ!!」
(誰じゃ)
――そして、キョウコ・アルジェント様!!
(美人・かしこそう・スタイル抜群)
「こんな感じ?」
メイの脳内には、スタイル抜群で長身の美女が微笑みかける。
「あとは……そーいえば髪の色、珍しかったな」
「確かに。目の色も黒なんてよ。しかも真っ黒なコートなんか羽織って、こう、なんか――いてっ!?」
唐突に、割と痛い肘打ちが入った。
酔いに揺れる声の中に、どこか切迫した響きがある。
「おい」
「……あ、すまん」
「その二人に会えますカ!?」
「え?さぁ、どうかな…軍属だから、どっかの司令部に行けば、会えるんじゃね―の?」
「決めましタ!!エドワード様とキョウコ様にお会いして、この国の錬金術を教えてもらいまス!!」
賑わっていた声が途切れ、遮っていた人壁が開いていく。
拳を握りしめて決意し、メイは手を振りながら皆に礼を述べて、早々に宿屋を出た。
「では皆さん、ごちそうさマ!!ごきげんよウ!!」
すぐさま汽車に乗り、まだ見ぬエドへと好意を思い馳せる。
――待っててくださイ、エドワード様~~~~。
「行ってしまった…」
命の恩人の少女の旅立ちを、ただ呆然と見送る親子は、
「「あ」」
と思い出したように声を揃える。
「片方がすんげーチビだって教えるの忘れてた」
ユースウェルから遥か南のラッシュバレーは、今日も人々の活気に満ち溢れている。
あちこちに機械鎧の店が建ち並ぶその中、看板を掲げたガーフィール工房の店先、ウィンリィはドミニクの紹介で働いていた。
「ウィンリィちゃん、グラインダのディスク、替えといて」
「はいはーい」
「これ片付けたら、休憩にしましょ」
「はーい!」
恰幅な体格ながら女口調のガーフィールの発言に、ウィンリィは元気よく返事する。
「テツ君、足の具合どお?」
「ばっちり!また頼むね、ウィンリィお姉ちゃん!」
常連客の親子を見送り、彼女は小さく息をつく。
「いよっ、ウィンリィさん。本日も良い天気で、ごきげんうるわしゅう」
そこに軽快な声がかけられ、何故か笑顔を張りつかせて日の丸の扇を持つ兄弟とキョウコが手を振って立っていた。
「エド!アル!キョウコ!」
「いやぁ、商売繁盛してらっしゃるようで、なによりでござんすねぇ!」
「もーー、本当にいつも連絡無しなんだからー。どうしたのよ、急に」
満足げなウィンリィは、笑って訊ねる。
ボロボロの機械鎧を見せた途端、キョウコは、何故か笑顔のままの幼馴染みに仁王の憤怒する様を連想した。
あくまで笑顔のまま、彼女はスパナを振り上げた。
以前は悪徳経営者により、極貧生活を強いられてきたが、現在は活気に満ち溢れながら暮らしている。
「カヤル!カヤルー!お父さんにお弁当、持ってって」
「はーい」
弁当を頼まれたカヤルに、通りすがりの炭鉱夫がホーリングの居場所を伝える。
「よう、カヤル。親方は今日は8番抗だぞ」
「げっ、一番はしっこかよ」
その言葉に顔をしかめ、近道を通ることにした。
「近道しよ。よっこら…」
積み上げられたボタ山を登り、降りようと足を着いた直後、何かを踏んだ。
「ぐに?」
「……もしもし、そのこおカタ…」
すると、道端で生き倒れた少女の声に驚き、
「生物!?」
カヤルは飛び上がる。
その間にも、少女は弱々しい声音で訊ねた。
「ここはどこですカ…」
「どこって…ユースウェル炭鉱だよ」
「…………アメストリス国ノ?」
「そう、アメストリスの東の終わりの国」
突如、その国名に反応した少女と子パンダは勢いよく起き上がり、滂沱と涙を流して抱きつく。
「やったわ、シャオメイ!!ついにあの大砂漠を超えて、たどり着いたのヨーーーーー!!」
「…………あの~~~~~~~」
喜びを最大限に表す様子に、理解に困惑するカヤルだったが、いきなり地面に突っ伏す少女と一匹に、
「ヒィ!!?」
と先程より大きくうろたえて飛び上がる。
「ちょっと、おい!!」
ぐぎゅ~、と少女の腹が盛大に鳴り、カヤルは持っていた弁当に視線を向けた。
包みを開けると、のりからあげ弁当(大盛)。
「おかげさまで助かりましタ!」
弁当をきれいに完食し、少女と子パンダはパンダの模様が刺繍されたハンカチで涙を拭う。
小さい割に知能が大きく発達しているらしく、表情豊かで動作は機敏だ。
「目的を果たす前に、飢えて死ぬところでしタ」
「いや、それはいいんだけどさ。俺、カヤル。君は?」
「申し遅れましタ!私はメイ・チャン。こっちはシャオメイ。シンから来ましタ」
長い黒髪を三つ編みにして、女物の漢服を身に纏う少女――メイは、自分と肩に乗るほどの小型サイズのパンダ――シャオメイを紹介する。
「シン国……って、ここからはるか東の!?大砂漠のむこうの!?」
「はイ。砂漠越えで嵐に巻きこまれて、死ぬかと思いましたヨ」
東の大国・シンとの鉄道ルートは閉鎖中。
それを徒歩で越えてきた経路に愕然とするカヤルに対し、
「てへ」
と可愛らしい仕草をする。
「うへ~~、すっげえ。そんな目にあってまで、何しに来たのさ」
メイは、たった一語で、危険な目に遭ってまでアメストリスに訪れた理由を言い表す。
「ええ、ちょっト……不老不死の法を探しにネ」
「へ?」
意味不明な言葉に首を捻る、その時、妙な音が入った。
低い、唸りの音が緩く重く、徐々に大きくなり――もっと砕いて言うと、巨大な地響きが轟いた。
「なっ…なんだぁ!?」
大地を揺るがす、細かくも強い震動。
それが徐々に範囲を広げていく、怖気を伴う実感に、二人と一匹は翻弄される。
慌てて駆けつけると、男達も轟音のあがった場所に向かうところだった。
「ビッドさん!」
「カヤル!」
「よかった、おまえは行ってなかったんだな」
「落盤だ!8番抗がやられた!」
落盤事故の急報を受け、カヤルは周りの制止を無視して走り出す。
「カヤル!」
「カヤルさン!」
「8番抗には、親父が……親父が……!!」
大事な人も関わっているはずの、緊急で危険な事柄を聞かされ、不安と焦燥の渦巻く心中、声に恐れが滲んだ。
信じられない規模の土砂崩れ――まさにその瞬間、入口が塞がれた。
脅威の光景として危険な現場に飛び出すカヤルを、なんとか押し止めようとする。
「親父!!」
「カヤル!!近付いちゃいけねぇ!!」
「なんでだよ!!」
聞く耳持たれることはない、問答無用に封殺れる。
「まだ、崩れ続けてる!!死にに行くつもりか!!」
視界一面、落ちた土砂、砕けた線路、全ての破壊の痕跡が、猛然と怒涛を進める。
「近付けないって…だまって見てるしかないのかよ!!畜生!!」
思いもよらなかった事態の中、
「こんな時、キョウコ姉ちゃんがいてくれたら……!」
その名は、エドではなかった。
「だったラ、近付けなければいいんですよネ」
どうしようもない状況下、答えが返ってきた。
メイが、袖口から
疑問符を浮かべる僅かな間に、地面に木の棒で錬成陣――円形の中に五茫星――を描き、その周りに鏃を突き刺す。
「え?」
「動いちゃダメですヨ」
両手の間に残りの鏃を構えた瞬間、油断した二人の前後スレスレを挟んで、投擲による加速が炭鉱に切っ先を向ける。
叫びすらあげることもかなわず、二人は倒れた。
投擲した鏃は瓦礫に突き刺さると、メイは両手を錬成陣に合わせる。
刹那、五茫星の大きな錬成陣が浮き上がり、瓦礫の一塊の全ては動き出す。
継ぎ合わされ、張り直し、瓦礫の果てから帰ってくる。
崩壊した形跡を止めず、元に戻る。
ほどなく目の前に、常日頃見慣れた炭鉱が復元して、修復は完了した。
全てが直った驚きに目を見開いていると、
「ゲホ、ゴホ!!」
と咳き込んで、男達の声が聞こえてくる。
「オイ、なんだ今の!!」
「ゲホ、ゴホ」
「明かりだ」
「外か!?」
狭間から照らす外の光を目指して歩いてきたホーリングは、目の前で固まる息子や仲間達と遭遇する。
「お?あれ?カヤル?どーなってんだ?」
『………………』
これほど大規模な修復をしてみせた人物に、皆の注視が向けられると、メイは笑顔を浮かべて告げた。
「一飯の恩でス」
一拍、空気の爆ぜるような歓呼の声が沸き上がった。
『うおおおおおおおおおおお』
後はもう、言葉にならない。
「ロープとハシゴ、持って来い!!」
「全員、無事かーーっ!!!」
「おい、どうなってるのか説明しろ、カヤル。おーい…」
耳に痛いほどの叫喚の中、落盤事故に巻き込まれたホーリングだけは何が起こったのかわからず、困惑していた。
夜になっても笑顔が絶えず、
「うわははははははははは」
誰もが楽しく酒を酌み交わす。
「さぁ、じゃんじゃん飲みねェ!!」
これでもかとばかりなたくさんのごちそうと男達の笑顔に、メイは照れくさそうに、しかし表情を緩める。
「おい!食いもんが足りねぇぞ!」
「「へぇい!」」
命令されて答えるのは、かつてヨキの部下だった男達が両手に皿を持って走り回る。
「あんたは命の恩人だ!!飲め!!飲んでくれ!!」
「コッタさん、子供に飲ませちゃダメよ」
夫人がメイに酒を進めるのを注意する傍ら、シャオメイが豪快にビールを飲む様を見て、
『うおーー』
と子供達と大人は仰天する。
普通のパンダの主食は笹や竹の子。
だが、一気に飲み干すというシャオメイの酒豪は凄まじい。
「錬金術師に助けられたのは、二度目だ」
意味深めな発言に、メイは疑問符を浮かべる。
ホーリングの言葉に続き、他の男達も会話に加わる。
「ああ、エルリック兄弟ともう一人、ちょいと有名な錬金術師がいてな。俺達がこうやって笑って暮らしていられるのも、そいつらのおかげさ」
「兄のエドワード・エルリックとキョウコ・アルジェントってのがやり手の錬金術師でよ」
「12と13の時に、最年少で国家錬金術師になったって。今は15か16かなぁ」
当時を思い出しつつ、次第に二人の容姿の話に変わる。
「金髪金目で、ちょいと目立つ風貌だったな」
「黒髪黒目で、まだ幼いのにすっげー美人だ」
「赤いコートと三つ編みも目立ってたぞ」
「黒いコートで、腰にベルトを巻いて銃を提げてたな」
「最年少ですごい錬金術師…三つ編みの目立つ少年……?黒い髪の美人な少女……?」
――天才錬金術師、エドワード・エルリック様!!
彼らの話を元にして、夢見る少女特有の妄想を広げ、そうして作り上げたエドは、こんな感じ。
(超長身・かしこそう・さわやか)
メイの脳内には、長身の爽やか青年が微笑みかける。
「やあ!!」
(誰じゃ)
――そして、キョウコ・アルジェント様!!
(美人・かしこそう・スタイル抜群)
「こんな感じ?」
メイの脳内には、スタイル抜群で長身の美女が微笑みかける。
「あとは……そーいえば髪の色、珍しかったな」
「確かに。目の色も黒なんてよ。しかも真っ黒なコートなんか羽織って、こう、なんか――いてっ!?」
唐突に、割と痛い肘打ちが入った。
酔いに揺れる声の中に、どこか切迫した響きがある。
「おい」
「……あ、すまん」
「その二人に会えますカ!?」
「え?さぁ、どうかな…軍属だから、どっかの司令部に行けば、会えるんじゃね―の?」
「決めましタ!!エドワード様とキョウコ様にお会いして、この国の錬金術を教えてもらいまス!!」
賑わっていた声が途切れ、遮っていた人壁が開いていく。
拳を握りしめて決意し、メイは手を振りながら皆に礼を述べて、早々に宿屋を出た。
「では皆さん、ごちそうさマ!!ごきげんよウ!!」
すぐさま汽車に乗り、まだ見ぬエドへと好意を思い馳せる。
――待っててくださイ、エドワード様~~~~。
「行ってしまった…」
命の恩人の少女の旅立ちを、ただ呆然と見送る親子は、
「「あ」」
と思い出したように声を揃える。
「片方がすんげーチビだって教えるの忘れてた」
ユースウェルから遥か南のラッシュバレーは、今日も人々の活気に満ち溢れている。
あちこちに機械鎧の店が建ち並ぶその中、看板を掲げたガーフィール工房の店先、ウィンリィはドミニクの紹介で働いていた。
「ウィンリィちゃん、グラインダのディスク、替えといて」
「はいはーい」
「これ片付けたら、休憩にしましょ」
「はーい!」
恰幅な体格ながら女口調のガーフィールの発言に、ウィンリィは元気よく返事する。
「テツ君、足の具合どお?」
「ばっちり!また頼むね、ウィンリィお姉ちゃん!」
常連客の親子を見送り、彼女は小さく息をつく。
「いよっ、ウィンリィさん。本日も良い天気で、ごきげんうるわしゅう」
そこに軽快な声がかけられ、何故か笑顔を張りつかせて日の丸の扇を持つ兄弟とキョウコが手を振って立っていた。
「エド!アル!キョウコ!」
「いやぁ、商売繁盛してらっしゃるようで、なによりでござんすねぇ!」
「もーー、本当にいつも連絡無しなんだからー。どうしたのよ、急に」
満足げなウィンリィは、笑って訊ねる。
ボロボロの機械鎧を見せた途端、キョウコは、何故か笑顔のままの幼馴染みに仁王の憤怒する様を連想した。
あくまで笑顔のまま、彼女はスパナを振り上げた。