第31話
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「お忙しいところ、申し訳ありません、大佐」
リザが労いをかけるのに、顔が引きつらないようにするのは、ロイにとっても結構な苦労だった。
徐々にはっきりしてくる光景に目を疑う。
「姐さん、誰ですか、この野郎は」
「ちょっと、静かにしてちょうだい」
謎の鎧が無遠慮にリザの腰に手を回している。
リザは肘を打ちつけて抗議する。
どう見ても、女性に危害を加える変質者である。
「……どいていたまえ、中尉。今夜の火力は、ちょっとすごいぞ」
有能な部下であると同時に一人の女性として助けるべく、発火布をはめ、背後に凄絶な炎を纏うロイに、リザは衝撃の事実を打ち明ける。
「落ち着いてください、大佐!この男、死刑になったはずのバリー・ザ・チョッパーです!」
目から入ってくる情報と、肌で感じる情報の食い違い。
何故なら誰もが知っている、猟奇的連続殺人として人々を震え上がらせ、死刑となったはずの人物。
それが目の前の鎧であることに、ロイは先の怒りを霧散し、驚きに目を見張る。
場所を廃工場に移した後、すぐさまファルマンが呼ばれた。
記憶力が優れる彼ならば、本当に謎の鎧がバリー本人なのかを確認することができる。
「09年5月3日は?」
「レイノルズだな。五番街の酒蔵の裏で殺った」
ファルマンが質問する年月日から、バリーは被害者の名前と殺害した場所を正確に答える。
「10年8月29日」
「ヘンドリック。うちの肉が不味いとかぬかしやがったから」
「08年1月5日」
「レニィとシンシア。一晩で二人殺ったのは、その時だけだ」
「……11年3月3日のガドリエル事件は?」
すると、バリーは怪訝そうな目を向けた。
「ガドリエル殺ったのは3日じゃねえ、13日だ。月のきれいな晩でよ、手元がよく見えて解体しやすかった」
「どうだ?」
後ろで様子を窺っていたロイが声をかけると、ファルマンは冷静に応じる。
「引っかけにも乗りませんね。ここまで知ってるとなると、やはり本物か…」
ロイが改めて鎧の正体に関する確信を強めたところで、バリーが口を開いた。
「んだよ!俺が偽物かと思ってんのかよ!なんならてめェら、きれいに解体してみせて…」
「やめなさい」
偽物だと疑う二人に憤慨し、物騒な発言をし出すバリーの後頭部を、リザが鉄パイプで殴る。
「やだなぁ、冗談スよ、姐さん」
「本物である事は認めよう」
ノリの軽い男に溜め息をつき、気持ちを切り替えて話の核心に切り出す。
「なぜ、死刑になったはずのおまえがここにいる?しかも、アルフォンス・エルリックと同じ、鎧の身体で」
「答える前に、こっちも質問がある。おめェら、軍人のようだが、俺がこんな身体になった事を知らなかったんだな?」
「ああ」
ロイ達が軍人と見て、バリーは軍が人体実験を行っていたことを知っていたか聞き出す。
「OK、OK!てぇ事は、第五研究所の事も知らねェな?」
「?何の事だ?」
疑問符を浮かべるロイに、バリーは第五研究所で起きた事件について詳細に語り始める。
「アルフォンスって奴と、その兄貴と黒髪の女が忍び込んで来てな。その時に闘ったのよ。なかなか強ェな、あいつ」
バリーは珍しく、真剣な口調で言った。
(忍び込んで…賢者の石か!!)
エド達が、現在廃屋となっている研究所に忍び込んだ理由は、考えればただ一つ――賢者の石。
ヒューズ殺害の犯人を知っていると推測し、アームストロングに問いつめた際、機密情報を前提とした彼の言葉が過ぎる。
(――「そう、エルリック兄弟です。彼らの探し物は、伝説級の代物ですので」――)
ほんの僅かな間に、ロイは話の意味を理解し、アームストロングから情報を得ることに成功した。
ふと、バリーが説明した中の、ある人物に思い至る。
(……黒髪?)
「その黒髪の女というのは、黒いコートを羽織って黒い拳銃を持っていなかったか?」
「えーっと、そうだなぁ。俺が見たところ、コートも拳銃も持ってなかったぜ………あ」
記憶の片隅から該当する人物を引っ張り出し、思い出したように声をあげた。
「拳銃と言えば、氷の弾丸を俺の頭にぶつけてきたな。油断してたとはいえ、暗闇で命中したもんだから、戦闘にかなり慣れてるぜ」
「……バリー、詳しく話せ!」
残酷な真実の確認への、間髪入れずロイは詰め寄る。
それは、揺るがないと決めた、強い意思の表明だった。
「へっへっへ。俺の身体をこんなにした奴らにチクらないで、かつ俺を処分しないってェなら、洗いざらい吐いてもいいぜ」
「いいだろう!」
ロイは、バリーが紡ぎ出そうとしている言葉に集中し、不適な笑みを閃かせた。
バリーの話――第五研究所で行われていた実験の詳細を、ロイは手帳に書き込む。
「まとめるとだな……第五研究所では、不完全ではあるが、賢者の石が作られていた。材料は生きた人間だった。研究所はすでに崩壊し、証拠を探そうにも無理……」
軍の旧研究施設では、表向きは人体実験を禁じる法を作っておきながら、裏では軍そのものが人体実験を行っていた。
研究所の隣にはおあつらえ向きの刑務所。
そこに収監された囚人は表向きには刑務所内の絞首台で死んだことにしておいて、生きたままこっそり、研究所に移動される。
「軍の施設と研究員が関わっていた…となると、軍上層部も一枚噛んでいるな。ラストとエンヴィーという者がつながっている…その二人の容姿は?」
「ラストっつーのは、こう……ボンキュッボンで、斬ったら柔らかそーなの」
バリーは両手で、ラストの豊満な肢体を表現する。
「エンヴィーは、あー、少し骨っぽそうだな。身体も小さいし、斬りごたえ無さそうな…どうかした?」
「いや、もういい…」
容姿などの身体的特徴よりも、バリーの個人的な見解が多い。
議論のできない相手との会話に疲れつつ、質問を変える。
「では、おまえの魂を錬成したのはそいつらか?」
答えの性質を考えれば、はぐらかしても、あるいは黙秘してもおかしくはなかった。
「いいや、研究者どもの仕事だ。それに俺のは、錬成とはちょっと違うな」
だがバリーは、あっさり回答した。
あまり、秘密を守ろうという姿勢が見えない。
第五研究所も崩壊し、番人としての役目がなくなった今、自由の身だ。
「生きたまま、身体から魂ひっぺがされて、この鎧に移されただけさァ。なんせ、無理矢理ひっぺがすもんだからな。その苦痛たるや…サクっと死刑にしてくれた方が幸せだと思ったぜ」
その軽い口振りやなんでもない態度に、かえって残虐さを感じ、リザやファルマンは表情を強張らせる。
「その研究者を調べましょうか?実験を指示した者の素性がわかるかも…」
「無理だな」
ファルマンの提案を即座に撤回し、バリーはその内容を補足する。
「そいつら、石の材料に使われちまったよ。研究所が崩壊する数日前にな。誰一人、残ってやしねェよ」
「口封じ兼研究材料か。無駄の無い事だ…」
とんでもない話だ。
それが、ここまでバリーの説明を聞いていたファルマンの感想だった。
証拠隠滅兼研究材料という用意周到なやり方に、恐れを混ぜて言う。
「もう、石を作る必要が無くなったという事でしょうか?」
「軍上層部がらみの組織と、賢者の石………バリー・ザ・チョッパー、最後にひとつ訊こう」
重大な脅威にロイは一つ一つ整理するよう装い、バリーに近づく。
凶悪に細められた双眸を向け、刃物のような鋭さを込めて告げた。
「一か月と少し前、中央の電話ボックスで軍将校を殺害したのはおまえか?」
リザとファルマンは、まさか、と目を見開き、顔を見合わせる。
凄絶な威圧感が、ロイの身体と冷酷な意思を宿した目から発散され、バリーはうろたえる。
「知らねェよ!そいつ、斬り裂かれてたのか?」
覚えのないことを指摘されれば、やはり首を傾げてしてしまう。
先程までの楽天的だったバリーの怯えた反応に、これ以上の追及を止めた。
「いや、知らないならいい。さて、ファルマン准尉。帰っていいぞ」
「はっ」
「そして、今夜聞いた事は忘れてくれ」
ロイにそう言われ、バリーに視線を移す。
鎧に定着された魂だけの存在と、秘密裏に行われていた実験の真実。
それは確かに、知らない方が幸せだったのかもしれない。
「わかるだろう?危ない橋だ。私に付き合って、おまえまで渡る必要は無い」
「ふむ……たしかに」
顎に手を当てて考え込んだ後、持ち前の記憶力を発揮して苦笑する。
「しかし、大佐。残念な事に、私は記憶力が良すぎましてね。忘れろと言われても、無理な相談ですよ。乗りかかった舟です、行く所まで付き合いますよ。私に出来る事があれば、なんなりと言ってください」
いや、確かに彼の言う通りだ。
そこに思い至らなかった自分の浅はかさが情けなく、同時に協力してくれる直属の部下に感謝する気持ちのロイだった。
「ファルマン…すまんな、感謝する」
感謝する気持ちを素早く切り替え、上司として命令する。
「では早速だが、こいつをたのむ」
「は?」
「一般市民および我々以外の軍関係者に見付からん場所に拘束しておけ!私は調べ物があるので、軍に戻る!」
スラスラともっともらしい弁舌を繰り広げるロイを、リザは感心しながら見ていた。
面倒事を押しつけるとわかっていても、騙されてしまいそうだ。
「ああ、おまえの休みは取っといてやるから、バリー をしっかり見張っておけよ!」
早口で言いまくしたてられ、理解が追いつけないファルマンに、用は済んだと態度で示すように、ロイとリザはさっさと帰る。
「たのんだぞ!」
「バリー!その人は斬っちゃダメよ!」
踵を返す二人を見て、ファルマンは咄嗟に呼び止めようとするが、その肩を掴んで、グッと引き寄せる手があった。
振り返ると、バリーが笑みを浮かべていた。
「あいあい~」
呑気に手を振るバリー。
その場に取り残されたファルマンは呆然と突っ立つ。
「ま、仲良くやろうぜ。肉が硬そうなダンナ」
「……………」
慰めるようにバリーに肩を叩かれ、ファルマンは憂鬱な気持ちになってうなだれる。
人使いが荒いロイに、今の発言を撤回したい、と痛感するのは、もう遅すぎた。
リザが労いをかけるのに、顔が引きつらないようにするのは、ロイにとっても結構な苦労だった。
徐々にはっきりしてくる光景に目を疑う。
「姐さん、誰ですか、この野郎は」
「ちょっと、静かにしてちょうだい」
謎の鎧が無遠慮にリザの腰に手を回している。
リザは肘を打ちつけて抗議する。
どう見ても、女性に危害を加える変質者である。
「……どいていたまえ、中尉。今夜の火力は、ちょっとすごいぞ」
有能な部下であると同時に一人の女性として助けるべく、発火布をはめ、背後に凄絶な炎を纏うロイに、リザは衝撃の事実を打ち明ける。
「落ち着いてください、大佐!この男、死刑になったはずのバリー・ザ・チョッパーです!」
目から入ってくる情報と、肌で感じる情報の食い違い。
何故なら誰もが知っている、猟奇的連続殺人として人々を震え上がらせ、死刑となったはずの人物。
それが目の前の鎧であることに、ロイは先の怒りを霧散し、驚きに目を見張る。
場所を廃工場に移した後、すぐさまファルマンが呼ばれた。
記憶力が優れる彼ならば、本当に謎の鎧がバリー本人なのかを確認することができる。
「09年5月3日は?」
「レイノルズだな。五番街の酒蔵の裏で殺った」
ファルマンが質問する年月日から、バリーは被害者の名前と殺害した場所を正確に答える。
「10年8月29日」
「ヘンドリック。うちの肉が不味いとかぬかしやがったから」
「08年1月5日」
「レニィとシンシア。一晩で二人殺ったのは、その時だけだ」
「……11年3月3日のガドリエル事件は?」
すると、バリーは怪訝そうな目を向けた。
「ガドリエル殺ったのは3日じゃねえ、13日だ。月のきれいな晩でよ、手元がよく見えて解体しやすかった」
「どうだ?」
後ろで様子を窺っていたロイが声をかけると、ファルマンは冷静に応じる。
「引っかけにも乗りませんね。ここまで知ってるとなると、やはり本物か…」
ロイが改めて鎧の正体に関する確信を強めたところで、バリーが口を開いた。
「んだよ!俺が偽物かと思ってんのかよ!なんならてめェら、きれいに解体してみせて…」
「やめなさい」
偽物だと疑う二人に憤慨し、物騒な発言をし出すバリーの後頭部を、リザが鉄パイプで殴る。
「やだなぁ、冗談スよ、姐さん」
「本物である事は認めよう」
ノリの軽い男に溜め息をつき、気持ちを切り替えて話の核心に切り出す。
「なぜ、死刑になったはずのおまえがここにいる?しかも、アルフォンス・エルリックと同じ、鎧の身体で」
「答える前に、こっちも質問がある。おめェら、軍人のようだが、俺がこんな身体になった事を知らなかったんだな?」
「ああ」
ロイ達が軍人と見て、バリーは軍が人体実験を行っていたことを知っていたか聞き出す。
「OK、OK!てぇ事は、第五研究所の事も知らねェな?」
「?何の事だ?」
疑問符を浮かべるロイに、バリーは第五研究所で起きた事件について詳細に語り始める。
「アルフォンスって奴と、その兄貴と黒髪の女が忍び込んで来てな。その時に闘ったのよ。なかなか強ェな、あいつ」
バリーは珍しく、真剣な口調で言った。
(忍び込んで…賢者の石か!!)
エド達が、現在廃屋となっている研究所に忍び込んだ理由は、考えればただ一つ――賢者の石。
ヒューズ殺害の犯人を知っていると推測し、アームストロングに問いつめた際、機密情報を前提とした彼の言葉が過ぎる。
(――「そう、エルリック兄弟です。彼らの探し物は、伝説級の代物ですので」――)
ほんの僅かな間に、ロイは話の意味を理解し、アームストロングから情報を得ることに成功した。
ふと、バリーが説明した中の、ある人物に思い至る。
(……黒髪?)
「その黒髪の女というのは、黒いコートを羽織って黒い拳銃を持っていなかったか?」
「えーっと、そうだなぁ。俺が見たところ、コートも拳銃も持ってなかったぜ………あ」
記憶の片隅から該当する人物を引っ張り出し、思い出したように声をあげた。
「拳銃と言えば、氷の弾丸を俺の頭にぶつけてきたな。油断してたとはいえ、暗闇で命中したもんだから、戦闘にかなり慣れてるぜ」
「……バリー、詳しく話せ!」
残酷な真実の確認への、間髪入れずロイは詰め寄る。
それは、揺るがないと決めた、強い意思の表明だった。
「へっへっへ。俺の身体をこんなにした奴らにチクらないで、かつ俺を処分しないってェなら、洗いざらい吐いてもいいぜ」
「いいだろう!」
ロイは、バリーが紡ぎ出そうとしている言葉に集中し、不適な笑みを閃かせた。
バリーの話――第五研究所で行われていた実験の詳細を、ロイは手帳に書き込む。
「まとめるとだな……第五研究所では、不完全ではあるが、賢者の石が作られていた。材料は生きた人間だった。研究所はすでに崩壊し、証拠を探そうにも無理……」
軍の旧研究施設では、表向きは人体実験を禁じる法を作っておきながら、裏では軍そのものが人体実験を行っていた。
研究所の隣にはおあつらえ向きの刑務所。
そこに収監された囚人は表向きには刑務所内の絞首台で死んだことにしておいて、生きたままこっそり、研究所に移動される。
「軍の施設と研究員が関わっていた…となると、軍上層部も一枚噛んでいるな。ラストとエンヴィーという者がつながっている…その二人の容姿は?」
「ラストっつーのは、こう……ボンキュッボンで、斬ったら柔らかそーなの」
バリーは両手で、ラストの豊満な肢体を表現する。
「エンヴィーは、あー、少し骨っぽそうだな。身体も小さいし、斬りごたえ無さそうな…どうかした?」
「いや、もういい…」
容姿などの身体的特徴よりも、バリーの個人的な見解が多い。
議論のできない相手との会話に疲れつつ、質問を変える。
「では、おまえの魂を錬成したのはそいつらか?」
答えの性質を考えれば、はぐらかしても、あるいは黙秘してもおかしくはなかった。
「いいや、研究者どもの仕事だ。それに俺のは、錬成とはちょっと違うな」
だがバリーは、あっさり回答した。
あまり、秘密を守ろうという姿勢が見えない。
第五研究所も崩壊し、番人としての役目がなくなった今、自由の身だ。
「生きたまま、身体から魂ひっぺがされて、この鎧に移されただけさァ。なんせ、無理矢理ひっぺがすもんだからな。その苦痛たるや…サクっと死刑にしてくれた方が幸せだと思ったぜ」
その軽い口振りやなんでもない態度に、かえって残虐さを感じ、リザやファルマンは表情を強張らせる。
「その研究者を調べましょうか?実験を指示した者の素性がわかるかも…」
「無理だな」
ファルマンの提案を即座に撤回し、バリーはその内容を補足する。
「そいつら、石の材料に使われちまったよ。研究所が崩壊する数日前にな。誰一人、残ってやしねェよ」
「口封じ兼研究材料か。無駄の無い事だ…」
とんでもない話だ。
それが、ここまでバリーの説明を聞いていたファルマンの感想だった。
証拠隠滅兼研究材料という用意周到なやり方に、恐れを混ぜて言う。
「もう、石を作る必要が無くなったという事でしょうか?」
「軍上層部がらみの組織と、賢者の石………バリー・ザ・チョッパー、最後にひとつ訊こう」
重大な脅威にロイは一つ一つ整理するよう装い、バリーに近づく。
凶悪に細められた双眸を向け、刃物のような鋭さを込めて告げた。
「一か月と少し前、中央の電話ボックスで軍将校を殺害したのはおまえか?」
リザとファルマンは、まさか、と目を見開き、顔を見合わせる。
凄絶な威圧感が、ロイの身体と冷酷な意思を宿した目から発散され、バリーはうろたえる。
「知らねェよ!そいつ、斬り裂かれてたのか?」
覚えのないことを指摘されれば、やはり首を傾げてしてしまう。
先程までの楽天的だったバリーの怯えた反応に、これ以上の追及を止めた。
「いや、知らないならいい。さて、ファルマン准尉。帰っていいぞ」
「はっ」
「そして、今夜聞いた事は忘れてくれ」
ロイにそう言われ、バリーに視線を移す。
鎧に定着された魂だけの存在と、秘密裏に行われていた実験の真実。
それは確かに、知らない方が幸せだったのかもしれない。
「わかるだろう?危ない橋だ。私に付き合って、おまえまで渡る必要は無い」
「ふむ……たしかに」
顎に手を当てて考え込んだ後、持ち前の記憶力を発揮して苦笑する。
「しかし、大佐。残念な事に、私は記憶力が良すぎましてね。忘れろと言われても、無理な相談ですよ。乗りかかった舟です、行く所まで付き合いますよ。私に出来る事があれば、なんなりと言ってください」
いや、確かに彼の言う通りだ。
そこに思い至らなかった自分の浅はかさが情けなく、同時に協力してくれる直属の部下に感謝する気持ちのロイだった。
「ファルマン…すまんな、感謝する」
感謝する気持ちを素早く切り替え、上司として命令する。
「では早速だが、こいつをたのむ」
「は?」
「一般市民および我々以外の軍関係者に見付からん場所に拘束しておけ!私は調べ物があるので、軍に戻る!」
スラスラともっともらしい弁舌を繰り広げるロイを、リザは感心しながら見ていた。
面倒事を押しつけるとわかっていても、騙されてしまいそうだ。
「ああ、おまえの休みは取っといてやるから、
早口で言いまくしたてられ、理解が追いつけないファルマンに、用は済んだと態度で示すように、ロイとリザはさっさと帰る。
「たのんだぞ!」
「バリー!その人は斬っちゃダメよ!」
踵を返す二人を見て、ファルマンは咄嗟に呼び止めようとするが、その肩を掴んで、グッと引き寄せる手があった。
振り返ると、バリーが笑みを浮かべていた。
「あいあい~」
呑気に手を振るバリー。
その場に取り残されたファルマンは呆然と突っ立つ。
「ま、仲良くやろうぜ。肉が硬そうなダンナ」
「……………」
慰めるようにバリーに肩を叩かれ、ファルマンは憂鬱な気持ちになってうなだれる。
人使いが荒いロイに、今の発言を撤回したい、と痛感するのは、もう遅すぎた。