第28話
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――幼い頃、独学で錬金術を学ぶ兄弟は父親の書斎に入り浸っていた。
(――「錬金術の本に、人造人間っていうのがあるんだ」――)
――既に真夜中、タオルケットを引っ張って寝転びながら話し合う。
(――「でも、人間を作るのはやっちゃいけない事だって書いてあったよ」――)
病死した母親をよみがえらせようとして、代償の果てに身体を失った自分達。
幼い頃に目指した人造人間が、目の前にいる。
「ありえない!人造人間が成功したなんて話、聞いた事が無い!!」
アルの声は、震えていた。
死ぬこともなく、老いることもない、不死の人間。
その奥に恐るべき広がりを感じ、凍りついた。
「『ありえない』なんて事はない。今、おまえの目の前にいるのがそれだ」
人造人間と証明するグリードの言葉は、否定することはできそうにない。
なかったことにするには体験は生々し過ぎ、知らされたことは説得力を持ち過ぎていた。
長旅の間に、すっかり見飽きた風景はいつの間にか駅のホームに入れ替わっていて、キョウコはコートを抱えて座席を立った。
「ふう……」
うだるような暑さに、シャツのボタンを外し、タイを緩める。
エドと一方的に別れ、ダブリスへと戻ってきたことに、キョウコは小さな罪悪感を覚える。
(しょうが、ないじゃない)
言い訳のように、思った。
これから何があっても、それがどんな道でも構わず進み続けることを、先程は多少の動揺を見せはしたが、だから今、迷いはないと決めている。
生きる目的があるから。
この先、殺しても、裏切っても、その罪も罰も何もかも背負っていくことになったとしても、それでも後悔はしない。
なのに、今度のことでは、エドのことでは、何もできない。
どうにかしたいと、強く強く思っているいるのに。
どうすればいいのか、わからない。
(どうして、こんな事で)
それは、目的を遂行する上で、無用どころか有害とさえ言える、余計な関わり合い……士気の維持を危うくし、多くの時間を拘束される行為『恋』の産物だった。
夫婦が経営する肉屋に帰ってくると、二人とも外出中だった。
それに、アルもいない。
店舗兼自宅を探し回ろうとしたところで、メイスンの後ろ姿を見つけた。
キョウコはすぐさま声をかける。
「メイスンさん、アルはいないんですか?」
彼はすぐに足を止め、振り返った。
しかし、その直前に、びくっ、と肩を震わせていた。
「それに、師匠もシグさんもいないし……どこに行ったか、聞いています?」
「え、ええと、知らないなぁ……はは」
曖昧な笑みを浮かべて視線を合わせようとしないメイスンに、キョウコはすぐに悟った。
「なにかあったんですか?」
こちらを見上げる彼女の表情に、メイスンは驚きと寒気、そして後悔を抱かされた。
自分が何かを間違った、と無条件で思わせる、追及の姿だった。
「え、べ、別に、これといって……」
動揺で、自然と声が上擦った。
「本当ですか?」
念を押されると、口ごもるしかない。
言ってしまってもいいのかと困惑するメイスンは無言で訴える少女の圧に耐え切れず、口を開いてしまう。
「実は、昨日からアルフォンス君が帰って来なくて……調べて聞いてみたら、その昼間、デビルズネストって酒場に出入りしてる奴らが、でかい鎧を地下に運んでたらしいんだ」
キョウコは自分の失策を悟った。
しかも、最悪な方向への予感があった。
「わかりました。場所は?」
「え…まさか、行くつもり!?」
「もちろんです」
(アル――!)
キョウコは、これ以上の問答を必要としなかった。
早く行かなければ、それだけを思う。
「一刻も早く、場所を教えてください」
手早く聞き出すや、彼女は肉屋を出て駆け出した。
メイスンは、滅多に見ない少女の必死な姿を、ただ呆然と見送るしかなかった。
肉屋を出たキョウコは、南地区のさらに奥深くへと足を運ぶ。
健全な活気に溢れる商店街の街並みは、次第に変化していく。
いつしか、辺りはパブやスナックやバー、クラブなどといった酒類を提供を主とする飲食店がやけに目立つようになった。
店先では衣類をはだけた女性が、その色香を最大限に発揮し、ひっきりなしに客引きを行っている。
この区画はいわゆる歓楽街ーー夜の街だ。
今はまだ日の入り前であるせいか、人の賑わいもそれなりだが、日が沈めば、より大勢の人が集まり、さらなる混沌の活況を呈するだろう。
まぁ、要するに、キョウコのようなうら若い少女が気軽にほっつき歩いてよろしい場所ではなかった。
「なぁ、そこの綺麗なお嬢ちゃんよぉ……オレ達と一緒にイイコトしな……」
「邪魔」
いやらしげな笑みを浮かべて声をかけてきた三人の男達へ、キョウコは問答無用で銃口を向けた。
当てはしない。
弾丸は先頭の男の頬を掠めただけだ。
が、その示威 効果は抜群であった。
「ひっ!?いきなり撃ちやがった!?」
「に、逃げろぉぉぉぉ!?」
恐れ慄き、一目散に退散する男達には目もくれず、目的の店へと突っ走る。
やがて『DEVILS NEST』の看板が掲げられた酒場に辿り着いたキョウコは目を見開く。
「これは……」
見張りとおぼしきガラの悪い男達が全員、目を剥いて全滅。
壁に血が付着し、穴が穿 たれ、さらに錬成した跡が残されている。
(どう見ても、乗り込んだ師匠の仕業かな……)
「このまま黙って、引き下がるわけにはいかないもんね」
ボロボロになって倒れる男達の多さに思わず苦笑するが、美貌を険しくさせて地下へと通じる扉を開けて入っていく。
屈強で強面で荒くれの男達が白目を剥いて倒れている。
ここにいる中で、無傷な者はいない。
その光景の中心に、イズミがいる。
全くの無傷で、体格も桁違いなロアを力ずくでねじ伏せていた。
部下達が倒されたにもかかわらず、グリードは嘆く様子もなく唖然とする。
「おいおいおいおい。おねえさん、いきなりそりゃ無いでしょ」
「あんたが責任者?うちの者が世話になったね。連れて帰らせてもらうわ」
「それはできねえ相談だ」
張り詰める場の雰囲気に、この場に座るアルの立場は、その身の置き所と同様、非常に焦っていた。
「あっそう」
素っ気ない言葉とは裏腹に、強烈な殴打をグリードの顔面に食らわせる。
「……………」
傍目には、そう見えた。
間違いなく。
だというのに、彼女の方が痛みに顔を歪めていた。
「ほんとに、何もかもいきなりだな。指、イっちまったんじゃないの?」
殴られたグリードの頬は、そこだけ黒く硬化していた。
ガン、と押し合う力で弾け、イズミは飛び下がる。
「……!!」
見れば、彼女の握りしめた拳からは血が滲み出ていた。
「師匠!!」
先の一合、グリードの顔面が殴られたのではない、イズミの手の方が傷ついてしまったのだ。
「カンベンしてくれよ。女と戦う趣味は無ぇ」
グリードはさらに、自分の腕を硬化させる。
「…………えらく変わった体してんのね」
「まぁな。ちょっとやそっとじゃ、傷ひとつ付けられねぇぞ」
強靭なる肉体でイズミの一撃を食い止めたグリード。
その時、幼くも凛々しい声が割って入った。
「失礼するわ」
イズミの練成した扉から悠然とした様子で現れた声の主に、男達の目は奪われた。
「誰だ……てめー?」
グリードが、生唾を飲み込みながら訊ねた。
既に興味は、新たな少女に移りつつある。
まっすぐな黒髪も好みだし、何よりその肢体が堪らない。
小柄ながらも均整の取れたスタイルと相まって、スカートから伸びる脚も細い。
顔立ちも幼さを残しているが、その凛々しい美貌は、もう女として花開きつつある。
ところが、キョウコはそんな彼らの行動など無視して、アルを見つめる。
さっきの凛々しい声とは正反対の、優しい声を紡ぐ。
「アル…どうして、一人で行ったりしたの」
「……えっ?」
「どうして相談も無しに行ったの。そんなに、あたしが信用ならなかった?」
「ちっ、ちが…!」
戸惑うような声で、アルは申し訳ない思いと共に顔を上げた。
「あまり、一人で突っ走ると危ないよ。アルにもしもの事があったら、あたしもエドも心配するんだから」
「キョウコ…ごめん」
「こういう時は、謝らない」
思わず突いて出た謝罪の言葉を、彼女は求めていない。
だからアルはもう一度、言う。
「来てくれて、ありがとう」
キョウコは満足げに頷いた。
鎧の中から一部始終見ていたマーテルが茶化すように言う。
「何、あの子、あんたの彼女?」
「ち、違う!……と言いたいところだけど、近いうちにそうなれたらいいなぁと……」
表情を揺らしてキョウコへの思いを吐露するアルは、ハッとして辺りを見回す。
「……あ、兄さん…兄さんは来てないの!?」
自分だけ先に帰って来たとは言えず、キョウコは動揺しながらも告げる。
「まだ、帰って来てないけど…」
「あれ?兄貴は死んだって…」
「一言も、言ってないよ」
アルは、直接本人から聞かされた情報を、キョウコとイズミに暴露する。
「師匠、キョウコ!!この人、人造人間なんです!!」
「おまっ…いきなり、バラすなよ」
自分の秘密を暴露され、うろたえるグリード。
「なっ…何を言い出す…」
イズミは愕然と硬直し、キョウコも驚き戸惑う。
「だから!!」
いきなり、目の前の男が伝説の人造人間だと告げられ、二人は思わず顔を見合わせる。
「ボク達が元の身体に戻るヒントを持ってるんですよ!!兄さんに知らせないと!!」
人造人間は、人間として認識されており、その錬成は不可能であるというのが一般論だ。
また、これまで実際に人造人間を錬成した例はなく、大きな犠牲を伴う危険な術として恐れられている。
それら、錬金術師として把握している二人は目の前の事実を受け入れられず、呆然とする。
「「……本当に、人造人間?」」
「なんだよ、おまえ肉体を取り戻したいのか?その身体、便利でいいじゃん」
「いくない!!」
「ああ、そいつボコって、秘密を吐かせりゃいいのね」
暴力で解決しようと提案するイズミだが、殴った手の甲から血が流れている。
「そうだけど………うわー!!」
「師匠、ケガひどいよ!!無理!!無理!!」
キョウコとアルは顔を青ざめて必死に説得した。
「そーだよ。俺、女いたぶるのいやだし。俺はこいつの魂の練成とやらを知りたいだけだ」
「そんな事を知って、どーするつもりよ!」
「もう、面倒くせぇや、グリードさん。この女と子供 、斬っちゃいましょ…げふぅ」
四人の間に口を割って入ったドルチェットの顔面を、師弟の振り上げた拳が放たれ、その言葉を封じる。
犬との錬成によって生まれた合成獣をパンチ二発で気絶。
『ドルチェットーーーーー!!』
その場に居合わせた全員が悲痛に叫んだ。
――その頃のシグさん。
イズミの後を追って歓楽街に訪れたシグは困っていた。
「あらーーー、いい男ーーー」
媚びを隠そうともせず、女は近づく。
シグは少し顔をしかめ、彼女の職業に思いを馳せた。
露出の高い格好で店先に佇むーー該当する職業は一つだけ。
「つかまっちゃった…」
「遊んでってーー」
「飲んでってーー」
彼女達はシグの腕に抱きついてきた。
男慣れし、媚びと色気を充分に含んだその動作は、紛 うことなき客引きの手練。
(――「錬金術の本に、人造人間っていうのがあるんだ」――)
――既に真夜中、タオルケットを引っ張って寝転びながら話し合う。
(――「でも、人間を作るのはやっちゃいけない事だって書いてあったよ」――)
病死した母親をよみがえらせようとして、代償の果てに身体を失った自分達。
幼い頃に目指した人造人間が、目の前にいる。
「ありえない!人造人間が成功したなんて話、聞いた事が無い!!」
アルの声は、震えていた。
死ぬこともなく、老いることもない、不死の人間。
その奥に恐るべき広がりを感じ、凍りついた。
「『ありえない』なんて事はない。今、おまえの目の前にいるのがそれだ」
人造人間と証明するグリードの言葉は、否定することはできそうにない。
なかったことにするには体験は生々し過ぎ、知らされたことは説得力を持ち過ぎていた。
長旅の間に、すっかり見飽きた風景はいつの間にか駅のホームに入れ替わっていて、キョウコはコートを抱えて座席を立った。
「ふう……」
うだるような暑さに、シャツのボタンを外し、タイを緩める。
エドと一方的に別れ、ダブリスへと戻ってきたことに、キョウコは小さな罪悪感を覚える。
(しょうが、ないじゃない)
言い訳のように、思った。
これから何があっても、それがどんな道でも構わず進み続けることを、先程は多少の動揺を見せはしたが、だから今、迷いはないと決めている。
生きる目的があるから。
この先、殺しても、裏切っても、その罪も罰も何もかも背負っていくことになったとしても、それでも後悔はしない。
なのに、今度のことでは、エドのことでは、何もできない。
どうにかしたいと、強く強く思っているいるのに。
どうすればいいのか、わからない。
(どうして、こんな事で)
それは、目的を遂行する上で、無用どころか有害とさえ言える、余計な関わり合い……士気の維持を危うくし、多くの時間を拘束される行為『恋』の産物だった。
夫婦が経営する肉屋に帰ってくると、二人とも外出中だった。
それに、アルもいない。
店舗兼自宅を探し回ろうとしたところで、メイスンの後ろ姿を見つけた。
キョウコはすぐさま声をかける。
「メイスンさん、アルはいないんですか?」
彼はすぐに足を止め、振り返った。
しかし、その直前に、びくっ、と肩を震わせていた。
「それに、師匠もシグさんもいないし……どこに行ったか、聞いています?」
「え、ええと、知らないなぁ……はは」
曖昧な笑みを浮かべて視線を合わせようとしないメイスンに、キョウコはすぐに悟った。
「なにかあったんですか?」
こちらを見上げる彼女の表情に、メイスンは驚きと寒気、そして後悔を抱かされた。
自分が何かを間違った、と無条件で思わせる、追及の姿だった。
「え、べ、別に、これといって……」
動揺で、自然と声が上擦った。
「本当ですか?」
念を押されると、口ごもるしかない。
言ってしまってもいいのかと困惑するメイスンは無言で訴える少女の圧に耐え切れず、口を開いてしまう。
「実は、昨日からアルフォンス君が帰って来なくて……調べて聞いてみたら、その昼間、デビルズネストって酒場に出入りしてる奴らが、でかい鎧を地下に運んでたらしいんだ」
キョウコは自分の失策を悟った。
しかも、最悪な方向への予感があった。
「わかりました。場所は?」
「え…まさか、行くつもり!?」
「もちろんです」
(アル――!)
キョウコは、これ以上の問答を必要としなかった。
早く行かなければ、それだけを思う。
「一刻も早く、場所を教えてください」
手早く聞き出すや、彼女は肉屋を出て駆け出した。
メイスンは、滅多に見ない少女の必死な姿を、ただ呆然と見送るしかなかった。
肉屋を出たキョウコは、南地区のさらに奥深くへと足を運ぶ。
健全な活気に溢れる商店街の街並みは、次第に変化していく。
いつしか、辺りはパブやスナックやバー、クラブなどといった酒類を提供を主とする飲食店がやけに目立つようになった。
店先では衣類をはだけた女性が、その色香を最大限に発揮し、ひっきりなしに客引きを行っている。
この区画はいわゆる歓楽街ーー夜の街だ。
今はまだ日の入り前であるせいか、人の賑わいもそれなりだが、日が沈めば、より大勢の人が集まり、さらなる混沌の活況を呈するだろう。
まぁ、要するに、キョウコのようなうら若い少女が気軽にほっつき歩いてよろしい場所ではなかった。
「なぁ、そこの綺麗なお嬢ちゃんよぉ……オレ達と一緒にイイコトしな……」
「邪魔」
いやらしげな笑みを浮かべて声をかけてきた三人の男達へ、キョウコは問答無用で銃口を向けた。
当てはしない。
弾丸は先頭の男の頬を掠めただけだ。
が、その
「ひっ!?いきなり撃ちやがった!?」
「に、逃げろぉぉぉぉ!?」
恐れ慄き、一目散に退散する男達には目もくれず、目的の店へと突っ走る。
やがて『DEVILS NEST』の看板が掲げられた酒場に辿り着いたキョウコは目を見開く。
「これは……」
見張りとおぼしきガラの悪い男達が全員、目を剥いて全滅。
壁に血が付着し、穴が
(どう見ても、乗り込んだ師匠の仕業かな……)
「このまま黙って、引き下がるわけにはいかないもんね」
ボロボロになって倒れる男達の多さに思わず苦笑するが、美貌を険しくさせて地下へと通じる扉を開けて入っていく。
屈強で強面で荒くれの男達が白目を剥いて倒れている。
ここにいる中で、無傷な者はいない。
その光景の中心に、イズミがいる。
全くの無傷で、体格も桁違いなロアを力ずくでねじ伏せていた。
部下達が倒されたにもかかわらず、グリードは嘆く様子もなく唖然とする。
「おいおいおいおい。おねえさん、いきなりそりゃ無いでしょ」
「あんたが責任者?うちの者が世話になったね。連れて帰らせてもらうわ」
「それはできねえ相談だ」
張り詰める場の雰囲気に、この場に座るアルの立場は、その身の置き所と同様、非常に焦っていた。
「あっそう」
素っ気ない言葉とは裏腹に、強烈な殴打をグリードの顔面に食らわせる。
「……………」
傍目には、そう見えた。
間違いなく。
だというのに、彼女の方が痛みに顔を歪めていた。
「ほんとに、何もかもいきなりだな。指、イっちまったんじゃないの?」
殴られたグリードの頬は、そこだけ黒く硬化していた。
ガン、と押し合う力で弾け、イズミは飛び下がる。
「……!!」
見れば、彼女の握りしめた拳からは血が滲み出ていた。
「師匠!!」
先の一合、グリードの顔面が殴られたのではない、イズミの手の方が傷ついてしまったのだ。
「カンベンしてくれよ。女と戦う趣味は無ぇ」
グリードはさらに、自分の腕を硬化させる。
「…………えらく変わった体してんのね」
「まぁな。ちょっとやそっとじゃ、傷ひとつ付けられねぇぞ」
強靭なる肉体でイズミの一撃を食い止めたグリード。
その時、幼くも凛々しい声が割って入った。
「失礼するわ」
イズミの練成した扉から悠然とした様子で現れた声の主に、男達の目は奪われた。
「誰だ……てめー?」
グリードが、生唾を飲み込みながら訊ねた。
既に興味は、新たな少女に移りつつある。
まっすぐな黒髪も好みだし、何よりその肢体が堪らない。
小柄ながらも均整の取れたスタイルと相まって、スカートから伸びる脚も細い。
顔立ちも幼さを残しているが、その凛々しい美貌は、もう女として花開きつつある。
ところが、キョウコはそんな彼らの行動など無視して、アルを見つめる。
さっきの凛々しい声とは正反対の、優しい声を紡ぐ。
「アル…どうして、一人で行ったりしたの」
「……えっ?」
「どうして相談も無しに行ったの。そんなに、あたしが信用ならなかった?」
「ちっ、ちが…!」
戸惑うような声で、アルは申し訳ない思いと共に顔を上げた。
「あまり、一人で突っ走ると危ないよ。アルにもしもの事があったら、あたしもエドも心配するんだから」
「キョウコ…ごめん」
「こういう時は、謝らない」
思わず突いて出た謝罪の言葉を、彼女は求めていない。
だからアルはもう一度、言う。
「来てくれて、ありがとう」
キョウコは満足げに頷いた。
鎧の中から一部始終見ていたマーテルが茶化すように言う。
「何、あの子、あんたの彼女?」
「ち、違う!……と言いたいところだけど、近いうちにそうなれたらいいなぁと……」
表情を揺らしてキョウコへの思いを吐露するアルは、ハッとして辺りを見回す。
「……あ、兄さん…兄さんは来てないの!?」
自分だけ先に帰って来たとは言えず、キョウコは動揺しながらも告げる。
「まだ、帰って来てないけど…」
「あれ?兄貴は死んだって…」
「一言も、言ってないよ」
アルは、直接本人から聞かされた情報を、キョウコとイズミに暴露する。
「師匠、キョウコ!!この人、人造人間なんです!!」
「おまっ…いきなり、バラすなよ」
自分の秘密を暴露され、うろたえるグリード。
「なっ…何を言い出す…」
イズミは愕然と硬直し、キョウコも驚き戸惑う。
「だから!!」
いきなり、目の前の男が伝説の人造人間だと告げられ、二人は思わず顔を見合わせる。
「ボク達が元の身体に戻るヒントを持ってるんですよ!!兄さんに知らせないと!!」
人造人間は、人間として認識されており、その錬成は不可能であるというのが一般論だ。
また、これまで実際に人造人間を錬成した例はなく、大きな犠牲を伴う危険な術として恐れられている。
それら、錬金術師として把握している二人は目の前の事実を受け入れられず、呆然とする。
「「……本当に、人造人間?」」
「なんだよ、おまえ肉体を取り戻したいのか?その身体、便利でいいじゃん」
「いくない!!」
「ああ、そいつボコって、秘密を吐かせりゃいいのね」
暴力で解決しようと提案するイズミだが、殴った手の甲から血が流れている。
「そうだけど………うわー!!」
「師匠、ケガひどいよ!!無理!!無理!!」
キョウコとアルは顔を青ざめて必死に説得した。
「そーだよ。俺、女いたぶるのいやだし。俺はこいつの魂の練成とやらを知りたいだけだ」
「そんな事を知って、どーするつもりよ!」
「もう、面倒くせぇや、グリードさん。この女と
四人の間に口を割って入ったドルチェットの顔面を、師弟の振り上げた拳が放たれ、その言葉を封じる。
犬との錬成によって生まれた合成獣をパンチ二発で気絶。
『ドルチェットーーーーー!!』
その場に居合わせた全員が悲痛に叫んだ。
――その頃のシグさん。
イズミの後を追って歓楽街に訪れたシグは困っていた。
「あらーーー、いい男ーーー」
媚びを隠そうともせず、女は近づく。
シグは少し顔をしかめ、彼女の職業に思いを馳せた。
露出の高い格好で店先に佇むーー該当する職業は一つだけ。
「つかまっちゃった…」
「遊んでってーー」
「飲んでってーー」
彼女達はシグの腕に抱きついてきた。
男慣れし、媚びと色気を充分に含んだその動作は、