第27話
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その日の夜、店の掃除を任せたアルがいないことに気づいたメイスンが疑問符を浮かべた。
「あれー?アルフォンス君、まだ帰って来てないんですか?」
「何やってんだろね、あの子は!」
「ちょっと心配ですね」
憤然とするイズミだったが、メイスンは不安げな声音を滲ませる。
「…………誘拐されてたりして」
メイスンの真剣な表情から発せられた言葉に、イズミとシグは目を細めた。
その場が重苦しく沈むような静寂に包まれる。
「まっさかーーー」
「そうっスよねーー」
だがそれも一瞬、三人は冗談だと言うように笑い合った。
謎の三人組にさらわれてきた彼は、薄暗い格子牢に閉じ込められているわけでもない。
両手と足を鎖で拘束されて、鎧の中には監視役としてマーテルが潜んでいる。
「悪いわね。あたし、監視役だから。中に入られて気持ち悪いでしょうけど、がまんしてちょうだい」
「いいよ、もう慣れたから。中にある血印にはさわらないでね。ボク、この世にいられなくなっちゃうから」
鎧の中の血印に視線を移し、マーテルは面白そうに笑みを浮かべる。
「あんた、面白い身体よね」
「おねえさんも、ただの人じゃないよね」
鎧に魂を宿したアルから言われて、普通の人間ではないマーテルは己の正体を打ち明ける。
「……合成獣 って知ってる?あたしの身体はね、ヘビと合成されてるの」
「う…うそでしょ!?そんなの、成功するはずない…!!」
「失礼ね!ここに、こうして成功例がいるのに!」
疑惑の言葉を投げかけるアルに、マーテルは蛇の合成獣にされた経緯を語る。
「あたし、元は軍人だったのよ。南部国境戦で大ケガしてね。半分死にかけてたところを軍の研究機関に運ばれて、実験体にされた。で、この身体を手に入れた」
彼女の滑らかな語り口を、アルは呆然と聞くばかりであった。
それでも、ようやく言葉を見つけて口に出す。
「…ひどい!!」
「何が?」
「軍がそんな実験をしていたなんて…それにそんな身体にされて…!!ひどすぎるよ!!」
「ふふ…たしかに、非人道的な実験よね。地雷で身体半分ふっ飛ばされて、気がついたらヘビの身体だもんね」
もう一人の監視役、ドルチェットが煙管に火をつけつつ、施設で行われていた残酷な実験の詳細を語る。
「ああ。俺達の意思なんざ、おかまい無しだ。クソ科学者ども、俺達を実験動物と同じ目で見てやがった。そうさ。実験所にゃ、たくさんの失敗作がいたぜ」
――一切、光の差し込まない、昏く狭い施設の中で、男も女も容赦なく実験体にされ、牢獄に閉じ込められた。
「だがその中で、俺達は成功例として生き延びた。生をつかんだ」
――少ない成功例として適合したドルチェットは、そこに閉じ込められた者達を険しく見つめる。
「放っておきゃ、そのまま死んでたこの身だ。合成獣だろーがなんだろーが、生き残った者 の勝ち…上出来の人生だろ」
「そっちのお兄さんは、なんと合成させられたの?」
「当ててみな」
「見てなさいよ。あいつ、片足上げて小便するわよ」
「しねェよ、バカ!!」
仲間からひどい中傷を浴びせられて、ドルチェットは激怒する。
マーテルのヒントからある動物を連想し、アルはおそるおそる口を開いた。
「犬……なの?」
「ああ。けっこう便利だぜ、この身体」
先程の怖気は未だ残っているが、目の前のドルチェットがあまりに無頓着に、しかも気楽に話すので、アルは話題への緊張感もなく、言う。
「前向きなんだね」
「前向きすぎてよ、クソつまんねー実験所を飛び出して来ちまった。ここは、そんなちょいと訳ありの表の世界じゃ生きて行けない奴らばっかりさ」
その時、入り口から荒くれ共の集団が現れた。
集団の先頭には、サングラスをかけた男。
道を歩けば、往来の札付きチンピラすら避けて歩きそうな威圧感と迫力を纏っている。
「こいつが?」
「ええ」
ロアに話しかけると、サングラスの男は悠然と歩み寄ってくる。
「おー、すげえ!本当にからっぽだぜ」
「わっ」
いきなり頭部を外すと、中に人がいないことを確認し、乱暴に元の場所に置かれた。
「よろしくな、ボウズ」
「むっ」
小さくあがる声には、微かな怒りがあった。
「俺はグリードってんだ。仲良くやろうや」
サングラスの奥から覗く目線は鋭くも、険がない。
その手の甲に、円を描くように尾を呑み込む蛇の刺青が刻まれていた。
「あ……ウロボロスの入れ墨……!!」
「ん?これ、知ってるのか?」
「…中央でその印を持つ、あやしい人に会った」
「ありゃ!中央の奴らと接触済みかよ!どいつだ?ラストのババァか?スロウスの、のろま野郎か?まぁ、いいや」
「お兄さん達、悪い人?」
「お兄さんって年じゃねぇ、いい人でもねぇなぁ。さて、アル…なんとかって言ったか」
男――グリードはアルの前にしゃがみ込み、凄まじく異様な響きを持つ言葉を問いかける。
「魂のみで死ぬ事の無い身体ってのは、どんな気分だ?」
魂のみという不確かな存在を聞いた瞬間、頭を怒りで塗り潰され、逆に冷静さを取り戻す。
彼は驚くほどの冷静さで口を開いた。
「どうしてボクの事、知ってるのさ」
「がっはっは!!どうしてかって!?おまえ、イーストシティで殺人鬼と闘った事があったろ」
――国家錬金術師を狙うスカーと戦い、エドは右腕の機械鎧を粉々に破壊され、アルは鎧の銅部分を大きく抉るように破壊された。
「その時に、憲兵や一般人に見られてんだよ、おまえさんはよ。現場の司令官が箝口令 を敷いたみたいだが、人の口に戸は立てられねぇってな。裏の情報網を流れて、俺の耳に入った訳よ」
※箝口令……他人に話す事を禁ずる命令。
――アルは駆けつけた軍によって保護されたが、その時に鎧の右半分が大きく欠落し、中身が空っぽだと知れ渡ってしまう。
アルは驚きに眼を見開いた。
昨日、三人の前に現れた物乞いも、限られた人間しか知らない自分達の秘密を知っている素振りを見せていた。
そして今、目の前にいるグリードこそ、誘拐を企てた主犯だと確信する。
「しかも、その場所に"氷の魔女"がいた」
「"氷の魔女"……」
「ん?有名だぜ、知らねーのか?どこまでが噂で、どこまでが真実なのかはわかんねーと人は言うが……俺達は知ってる」
その二つ名は"氷刹"。
漆黒の髪と瞳を煌めかせ、黒のコートを纏う、氷雪系最強の錬金術師。
軍はそれを、畏怖と憐憫と侮蔑と嘲笑を込めて"氷の魔女"と、そう呼ぶ。
まさか、その人物が自分の幼馴染みだとは、言えるわけがない。
「"氷の魔女"についての一番やばい噂は、伝えられている逸話が全部事実だって事だ」
待ち焦がれる煌めきに向けて、笑みを浮かべる。
爽やかさなど微塵もない、征服すべき獲物を見つけた猛獣の、狂熱の笑みである。
たまらない喜悦を、そのまま言葉に変える。
「まだ子供 とはいえ、絶世の美貌と言われている。あと十年もすれば、俺好みのいい女になるだろうなぁ」
自分にとって、姉のような存在であり、同時に恋する少女を"氷の魔女"と称して、ごく自然に語っているのである。
不機嫌にならないわけがなかった。
「それで、ボクを連れて来て、どうするつもり?」
「個人の魂を錬成し、他の物に定着させる…………やりようによっては、永遠の命を手に入れるんじゃねぇか?なぁ?」
その行動原理は当然、己が欲望を充足させるため。
「俺は強欲だからよ、金も欲しい!女も欲しい!地位も!名誉も!!この世の全てが欲しい!!!そして、永遠の命も………だ!!」
喜悦に表情を歪め、愉悦とも焦燥とも取れる声が、こぼれ落ちる。
「わかるか?おまえには、その可能性がある。協力してもらおう。いやだと言うなら、解体してでも手に入れるぞ、魂の秘密をな」
耳障りな声は、アルがそれを発動するのに十分な時間続いた。
「くだらない。お兄さんはやっぱり悪い人だ」
「あ?」
そう吐き捨てた時には、床に石で練成陣を描き終えていた。
刹那、錬金術で発動した石の鉄槌が、グリードの腹部へと鋭く重い打撃を叩き込む。
「油断したね!こんな鎖くらい、錬金術で……」
次に、鎖を断ち切るべく再び練成陣を描こうとしたが、
「…どうするって?」
強烈な打撃を食らったにもかかわらず、無傷のグリードが傲然と立っていた。
代わりに、錬成した石の鉄槌が砕かれる。
不意をつかれ、突き出した掌が頭部に添えられた直後、アルは地に叩きつけられた。
「まぁ、落ち着け。な」
そのまま万力のような力で押さえつけられ、身動きを許さない。
「――っと、悪いな、マーテル。おまえが中に入ってんの、忘れてた」
鎧の中では、頭を打ちつけられたマーテルが目を回していた。
「がっはっは!!思い切りが良い奴は好きだ!おまえ、見所があるぞ!」
アルから攻撃する気配が失せたことを察したグリードは、思い切りのよさを評価する。
「だが、これじゃあ、全っ然ダメだ。俺を倒したきゃ、これくらいやらねぇと」
その瞬間、後ろに控えていたロアが持っていた斧を振り回し、グリードの頭部を深々と抉 った。
「え?」
半分陥没した頭部からは真っ赤な血が噴き出し、床に倒れたまま動かなくなった身体を、皆は騒ぐでもなく平然としている。
「ちょっ…なんて事するんだ!!仲間で………しょ」
戸惑いに溢れるアルの眼前で、変貌が始まった。
己の血を全身から滴らせながら起き上がり、骨に肉と皮がまとわれ、髪が伸びる。
「あ゙…あ゙ー、あ゙ー、これで一回死亡だ」
ぐるりと首を回して、頭部を叩き割られたはずのグリードは復活した。
緩やかに広がるドス黒い血に、グリードは半眼になってロアを睨みつける。
「おい。もうちっと、きれいにやれねぇのか」
「はっ…申し訳ありません」
部下に苦情を言ったところで、アルへと向き直る。
「――と、こんな具合なんでな、ハンパじゃダメだぜ」
「不死身…?いや、まさかそんな…!!」
アルの声は、震えていた。
死ぬこともなく、老いることもない、不死の人間。
その奥に恐るべき広がりを感じ、凍りついた。
「そう、こんな身体だが、不死身って訳じゃないんだな。人造人間 って知ってるだろ?」
グリードはためらいなく言い放つ。
再びアルの前にしゃがみ込み、己の正体を打ち明ける。
「人工的に造り出された人間、人ならざる人。今、おまえの目の前にいるのがそれだ。ちょいと丈夫に造られちまったんでな、こんなナリでも、もう二百年近く生きてる」
「ありえない!!人造人間が成功したなんて話、聞いた事が無い!!」
人造人間は人間として認識されており、その錬成は不可能であるというのが一般論だ。
また、これまで実際に人造人間を錬成した例はなく、大きな犠牲を伴う危険な術として恐れられている。
「がっはっは!!」
「あれー?アルフォンス君、まだ帰って来てないんですか?」
「何やってんだろね、あの子は!」
「ちょっと心配ですね」
憤然とするイズミだったが、メイスンは不安げな声音を滲ませる。
「…………誘拐されてたりして」
メイスンの真剣な表情から発せられた言葉に、イズミとシグは目を細めた。
その場が重苦しく沈むような静寂に包まれる。
「まっさかーーー」
「そうっスよねーー」
だがそれも一瞬、三人は冗談だと言うように笑い合った。
謎の三人組にさらわれてきた彼は、薄暗い格子牢に閉じ込められているわけでもない。
両手と足を鎖で拘束されて、鎧の中には監視役としてマーテルが潜んでいる。
「悪いわね。あたし、監視役だから。中に入られて気持ち悪いでしょうけど、がまんしてちょうだい」
「いいよ、もう慣れたから。中にある血印にはさわらないでね。ボク、この世にいられなくなっちゃうから」
鎧の中の血印に視線を移し、マーテルは面白そうに笑みを浮かべる。
「あんた、面白い身体よね」
「おねえさんも、ただの人じゃないよね」
鎧に魂を宿したアルから言われて、普通の人間ではないマーテルは己の正体を打ち明ける。
「……
「う…うそでしょ!?そんなの、成功するはずない…!!」
「失礼ね!ここに、こうして成功例がいるのに!」
疑惑の言葉を投げかけるアルに、マーテルは蛇の合成獣にされた経緯を語る。
「あたし、元は軍人だったのよ。南部国境戦で大ケガしてね。半分死にかけてたところを軍の研究機関に運ばれて、実験体にされた。で、この身体を手に入れた」
彼女の滑らかな語り口を、アルは呆然と聞くばかりであった。
それでも、ようやく言葉を見つけて口に出す。
「…ひどい!!」
「何が?」
「軍がそんな実験をしていたなんて…それにそんな身体にされて…!!ひどすぎるよ!!」
「ふふ…たしかに、非人道的な実験よね。地雷で身体半分ふっ飛ばされて、気がついたらヘビの身体だもんね」
もう一人の監視役、ドルチェットが煙管に火をつけつつ、施設で行われていた残酷な実験の詳細を語る。
「ああ。俺達の意思なんざ、おかまい無しだ。クソ科学者ども、俺達を実験動物と同じ目で見てやがった。そうさ。実験所にゃ、たくさんの失敗作がいたぜ」
――一切、光の差し込まない、昏く狭い施設の中で、男も女も容赦なく実験体にされ、牢獄に閉じ込められた。
「だがその中で、俺達は成功例として生き延びた。生をつかんだ」
――少ない成功例として適合したドルチェットは、そこに閉じ込められた者達を険しく見つめる。
「放っておきゃ、そのまま死んでたこの身だ。合成獣だろーがなんだろーが、生き残った
「そっちのお兄さんは、なんと合成させられたの?」
「当ててみな」
「見てなさいよ。あいつ、片足上げて小便するわよ」
「しねェよ、バカ!!」
仲間からひどい中傷を浴びせられて、ドルチェットは激怒する。
マーテルのヒントからある動物を連想し、アルはおそるおそる口を開いた。
「犬……なの?」
「ああ。けっこう便利だぜ、この身体」
先程の怖気は未だ残っているが、目の前のドルチェットがあまりに無頓着に、しかも気楽に話すので、アルは話題への緊張感もなく、言う。
「前向きなんだね」
「前向きすぎてよ、クソつまんねー実験所を飛び出して来ちまった。ここは、そんなちょいと訳ありの表の世界じゃ生きて行けない奴らばっかりさ」
その時、入り口から荒くれ共の集団が現れた。
集団の先頭には、サングラスをかけた男。
道を歩けば、往来の札付きチンピラすら避けて歩きそうな威圧感と迫力を纏っている。
「こいつが?」
「ええ」
ロアに話しかけると、サングラスの男は悠然と歩み寄ってくる。
「おー、すげえ!本当にからっぽだぜ」
「わっ」
いきなり頭部を外すと、中に人がいないことを確認し、乱暴に元の場所に置かれた。
「よろしくな、ボウズ」
「むっ」
小さくあがる声には、微かな怒りがあった。
「俺はグリードってんだ。仲良くやろうや」
サングラスの奥から覗く目線は鋭くも、険がない。
その手の甲に、円を描くように尾を呑み込む蛇の刺青が刻まれていた。
「あ……ウロボロスの入れ墨……!!」
「ん?これ、知ってるのか?」
「…中央でその印を持つ、あやしい人に会った」
「ありゃ!中央の奴らと接触済みかよ!どいつだ?ラストのババァか?スロウスの、のろま野郎か?まぁ、いいや」
「お兄さん達、悪い人?」
「お兄さんって年じゃねぇ、いい人でもねぇなぁ。さて、アル…なんとかって言ったか」
男――グリードはアルの前にしゃがみ込み、凄まじく異様な響きを持つ言葉を問いかける。
「魂のみで死ぬ事の無い身体ってのは、どんな気分だ?」
魂のみという不確かな存在を聞いた瞬間、頭を怒りで塗り潰され、逆に冷静さを取り戻す。
彼は驚くほどの冷静さで口を開いた。
「どうしてボクの事、知ってるのさ」
「がっはっは!!どうしてかって!?おまえ、イーストシティで殺人鬼と闘った事があったろ」
――国家錬金術師を狙うスカーと戦い、エドは右腕の機械鎧を粉々に破壊され、アルは鎧の銅部分を大きく抉るように破壊された。
「その時に、憲兵や一般人に見られてんだよ、おまえさんはよ。現場の司令官が
※箝口令……他人に話す事を禁ずる命令。
――アルは駆けつけた軍によって保護されたが、その時に鎧の右半分が大きく欠落し、中身が空っぽだと知れ渡ってしまう。
アルは驚きに眼を見開いた。
昨日、三人の前に現れた物乞いも、限られた人間しか知らない自分達の秘密を知っている素振りを見せていた。
そして今、目の前にいるグリードこそ、誘拐を企てた主犯だと確信する。
「しかも、その場所に"氷の魔女"がいた」
「"氷の魔女"……」
「ん?有名だぜ、知らねーのか?どこまでが噂で、どこまでが真実なのかはわかんねーと人は言うが……俺達は知ってる」
その二つ名は"氷刹"。
漆黒の髪と瞳を煌めかせ、黒のコートを纏う、氷雪系最強の錬金術師。
軍はそれを、畏怖と憐憫と侮蔑と嘲笑を込めて"氷の魔女"と、そう呼ぶ。
まさか、その人物が自分の幼馴染みだとは、言えるわけがない。
「"氷の魔女"についての一番やばい噂は、伝えられている逸話が全部事実だって事だ」
待ち焦がれる煌めきに向けて、笑みを浮かべる。
爽やかさなど微塵もない、征服すべき獲物を見つけた猛獣の、狂熱の笑みである。
たまらない喜悦を、そのまま言葉に変える。
「まだ
自分にとって、姉のような存在であり、同時に恋する少女を"氷の魔女"と称して、ごく自然に語っているのである。
不機嫌にならないわけがなかった。
「それで、ボクを連れて来て、どうするつもり?」
「個人の魂を錬成し、他の物に定着させる…………やりようによっては、永遠の命を手に入れるんじゃねぇか?なぁ?」
その行動原理は当然、己が欲望を充足させるため。
「俺は強欲だからよ、金も欲しい!女も欲しい!地位も!名誉も!!この世の全てが欲しい!!!そして、永遠の命も………だ!!」
喜悦に表情を歪め、愉悦とも焦燥とも取れる声が、こぼれ落ちる。
「わかるか?おまえには、その可能性がある。協力してもらおう。いやだと言うなら、解体してでも手に入れるぞ、魂の秘密をな」
耳障りな声は、アルがそれを発動するのに十分な時間続いた。
「くだらない。お兄さんはやっぱり悪い人だ」
「あ?」
そう吐き捨てた時には、床に石で練成陣を描き終えていた。
刹那、錬金術で発動した石の鉄槌が、グリードの腹部へと鋭く重い打撃を叩き込む。
「油断したね!こんな鎖くらい、錬金術で……」
次に、鎖を断ち切るべく再び練成陣を描こうとしたが、
「…どうするって?」
強烈な打撃を食らったにもかかわらず、無傷のグリードが傲然と立っていた。
代わりに、錬成した石の鉄槌が砕かれる。
不意をつかれ、突き出した掌が頭部に添えられた直後、アルは地に叩きつけられた。
「まぁ、落ち着け。な」
そのまま万力のような力で押さえつけられ、身動きを許さない。
「――っと、悪いな、マーテル。おまえが中に入ってんの、忘れてた」
鎧の中では、頭を打ちつけられたマーテルが目を回していた。
「がっはっは!!思い切りが良い奴は好きだ!おまえ、見所があるぞ!」
アルから攻撃する気配が失せたことを察したグリードは、思い切りのよさを評価する。
「だが、これじゃあ、全っ然ダメだ。俺を倒したきゃ、これくらいやらねぇと」
その瞬間、後ろに控えていたロアが持っていた斧を振り回し、グリードの頭部を深々と
「え?」
半分陥没した頭部からは真っ赤な血が噴き出し、床に倒れたまま動かなくなった身体を、皆は騒ぐでもなく平然としている。
「ちょっ…なんて事するんだ!!仲間で………しょ」
戸惑いに溢れるアルの眼前で、変貌が始まった。
己の血を全身から滴らせながら起き上がり、骨に肉と皮がまとわれ、髪が伸びる。
「あ゙…あ゙ー、あ゙ー、これで一回死亡だ」
ぐるりと首を回して、頭部を叩き割られたはずのグリードは復活した。
緩やかに広がるドス黒い血に、グリードは半眼になってロアを睨みつける。
「おい。もうちっと、きれいにやれねぇのか」
「はっ…申し訳ありません」
部下に苦情を言ったところで、アルへと向き直る。
「――と、こんな具合なんでな、ハンパじゃダメだぜ」
「不死身…?いや、まさかそんな…!!」
アルの声は、震えていた。
死ぬこともなく、老いることもない、不死の人間。
その奥に恐るべき広がりを感じ、凍りついた。
「そう、こんな身体だが、不死身って訳じゃないんだな。
グリードはためらいなく言い放つ。
再びアルの前にしゃがみ込み、己の正体を打ち明ける。
「人工的に造り出された人間、人ならざる人。今、おまえの目の前にいるのがそれだ。ちょいと丈夫に造られちまったんでな、こんなナリでも、もう二百年近く生きてる」
「ありえない!!人造人間が成功したなんて話、聞いた事が無い!!」
人造人間は人間として認識されており、その錬成は不可能であるというのが一般論だ。
また、これまで実際に人造人間を錬成した例はなく、大きな犠牲を伴う危険な術として恐れられている。
「がっはっは!!」