第23話
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「リゼンブール~~。リゼンブールだぁよっと」
リゼンブール駅の駅長が拡声器で知らせると、バタバタ、と騒がしい足音を立てて、金髪の兄弟が走ってきた。
「駅長さん、こんにちはっ!」
「ただいま!」
脇をすり抜けて挨拶してくる。
「うぉわっ!?」
早足で改札を通り抜ける二人に驚き、駅長は首を捻る。
「あれー?おまえら、ダブリスに行ってたんじゃなかったか?」
「「うん!修業、終わったんだ!」」
「早えなぁ。リゼンブール を出てから、半年しか経ってないだろ」
指折り数えていると、改札口担当の女性が窓を開けて顔を覗かせる。
「追い出されたんじゃないだろうね」
と、不意に明るい声が響いた。
「ただいま!」
兄弟の後を追いかけに、ダブリスまで行ったキョウコが愛嬌たっぷりに挨拶する。
「キョウコちゃん!」
「ピナコさんから聞いたよ。あの二人を追っかけて、ダブリスに行ったんだってね」
「女の子が一人で知らない場所に行くなんて、危険すぎるよ。ま、無事で良かったけど」
心配そうに声をかけてくれる大人達へ、キョウコは曖昧な笑みを浮かべる。
「えへへ」
最後にぺこりと頭を下げて駅を出る。
そこでは、兄弟がキョウコを待っていた。
「それにしても、まぁ…ちょっと見ない間に、たくましくなって」
あちこちに引っ掻き傷や湿布を貼りながらも、無事に修業を終えて、三人は故郷のリゼンブールに到着した。
ロックベル家を訪れた兄弟は、出された料理を物凄い勢いで食べまくる。
その食べっぷりには、ウィンリィ達も呆れるほど。
「あきれた!電話もしないで、いきなり帰って来て『めし!』だもん!」
「しょうがねーだろ。腹減るもんは減るんだから」
「そうさね、元気そうでなによりさ。ひとまわり、たくましくなった様だし」
シチューの鍋ごと持ってきたピナコの隣では、デンが、よだれーー、と口から涎を垂らしている。
ウィンリィはキョウコを一瞥しただけで、すぐに目を逸らした。
その冷たい態度に身に覚えがあるらしいキョウコは気まずそうに目を伏せる。
「ウィンリィ、ごめんね…」
「だめ!突然いなくなったと思ったら、置き手紙だけ残すなんて!」
どうやら、兄弟を追ってキョウコまでいなくなったことに不満を感じているようだ。
キョウコは、あまりにも不機嫌な感情を親友からぶつけられ、どうしたらいいかわからないといった感じで呆然と佇んでいる。
それにいち早く気づいたデンが、慰めるようにキョウコの傍に近寄る。
やれやれ、と肩をすくめたピナコがこの場を取り繕うように語りかける。
「身長も、ずいぶん伸びたんじゃないかい?」
「え?そお?やっぱ、そう思う?」
嬉しそうに頭を掻くエド、アルは煮干しをデンにあげようとしていた。
次の瞬間、ウィンリィによる無意識の、しかし必殺のクロスカウンターが入った。
「で、どんな修業だったの?」
突如、兄弟の顔が恐怖に強張った。
そのあまりの豹変にデンは驚いてしまい、
「キャン!!」
悲痛な鳴き声をあげる。
顔面蒼白、尋常でないほどの悪寒に震える兄弟の様子に絶句して、ピナコは呆気に取られたように見つめる。
「…言いたくないなら、無理して言わなくてもいいわ。うん」
ウィンリィも、見たことがない兄弟の姿にどこか不穏なものを覚えつつ、それ以上の質問を止めた。
そこへ、近所の子供達が噂を聞きつけてやって来た。
「よう!」
「帰って来たって?」
修業を終えて帰ってきた兄弟へ、親しげに話しかける。
「おう、久しぶり!」
「さっき、帰って来たって聞いてさ…」
「ピナコ先生、こんちわ」
言いながら、もう一人はデンの頭を撫でる。
「うちの父ちゃんが、連れて来いって言うから」
「何?なんかくれんの?」
「ちがう、ちがう。羊小屋、直してくれって」
小屋の修復を頼まれ、ロックベル家を出た兄弟……残っているのはキョウコ、ウィンリィ、ピナコの三人である。
「あの二人もそうだけど…キョウコ、おまえも変わったね」
「え?そう?」
「大人っぽくなったよ。あたしの中では、あの二人の後を追いかけるイメージがあったんだが、今じゃ二人のお姉さんみたいな感じだね」
仮修業として兄弟が無人島にいる間、キョウコは肉屋の手伝いをなどをして過ごしていた。
そして、本修業に移った二人の鍛錬を見学し、時には傷の手当てをする。
正直、二人が傷を負うの見たくないし、はらはらと心配するキョウコは気持ちを押し込めて見守るしかない。
(変わったのは、あの二人だけじゃないんだ……)
キョウコ自身、気づいていないが、見た目の可憐らしさとは裏腹な存在感が全身に漂っていて、弱さ頼りなさを欠片も感じさせない。
「キョウコ…そっけない態度とって、ごめんね……」
と、聞こえたウィンリィの声に、どこか悲しげなものが含まれて、キョウコは彼女の思いを感じ取った。
「いいの。あたしこそ、ごめんね。今度はちゃんと伝えてから行くよ」
そして、ウィンリィの両手を包み込むように握り、にっこりと笑いかける。
何年経っても慣れることのできない、あどけなく無邪気な笑顔。
「キョウコォォォ、本当は寂しかったよぅぅ!これから、また二人でいっぱい仲良く遊んで、今日は一緒に寝ようね!」
言うや否や、頬を赤く染めたウィンリィはキョウコに抱きついた。
兄弟の方は早速、現場に行ってみると、柱が壊れて上から押し潰された小屋があった。
「うひゃー。派手に壊れたねぇ」
「この前の大風で、ぼっきりとなー。錬金術で、なんとかなんねーかな」
小屋の修復を依頼した父親が、無理矢理な笑顔を向けてこちらを気にする。
「ああ、無理しなくてもいいんだよ。いつも小さい物は直してもらってたけど…こんな大きいのは、やってもらった事ないものねぇ」
二人は軽く視線を交わすと、木の枝で小屋を覆うように練成陣を描いていく。
「柱だけでも直れば、もうけもんだよな」
「ねぇ」
錬成陣を描く兄弟に気づかず、話は続く。
ちょうど、錬成陣を描き終えた兄弟はかけ声をあげて修復に取りかかる。
「「せーの」」
刹那、押し潰された小屋が一瞬にして元通りになった。
「どう?」
「………………よろしいんじゃないでしょうか……」
修業する以前とは桁違いな、高度な技術で直してみせた二人に、一家は愕然とする。
「すんげー!!修業の成果ってやつ!?」
「前より断然、すげーー!!」
「えへん」
「えへん」
芸のない、しかし最上級の褒め言葉に、二人は鼻高々になる。
「もう、師匠を超えたんじゃない?」
「冗談!!うちの師匠 は練成陣無しで、両手ポン!でやっちゃうからね」
「へー」
「人間技じゃねーよ」
「二人とも、それはできないのか?」
「オレ達じゃ、まだまだ無理だよ~~。ははは」
エドは苦笑いを浮かべながら、イズミとの本修業を思い出す。
仮修業を終えて本修業へと移り、二人を待ち受けていたのはイズミ直々の鍛錬であった。
「うりゃっ」
「でやっ」
「練成陣の基本は、円の力。円は力の循環を示し、そこに構築式を描く事で、力の発動が可能になる」
左手で料理本を読みながら錬金術の基本を唱え、二人の攻撃を右手だけで防いでいく。
「力の流れと法則を知る事で…あらゆる事に対応できる!」
「えいっ!」
「つまり」
おもむろに、イズミは料理本を投げ捨てると、蹴り上げるアルの右足を受け止め、そのまま両手で回転させた。
「相手の流れを知り、それを利用して、相手に返す」
それを間近で見てしまったエドは開いた口がふさがらず、キョウコも目を見開く。
身体が引っ張られるように回転したアルを、そのまま地に叩きつける。
「これも、力の循環」
「てて…」
次の瞬間、先程投げ捨てた料理本が彼の顔面に落ちた。
「あう」
「体感するのが、一番いい」
イズミは次の標的をエドへと変えて、怖い笑顔で手招きする。
「NOーーーーー!!」
玉砕覚悟で突進していったエドは空中に投げ飛ばされた。
キョウコの仕事はひたすら鍛錬を見学、そして怪我の手当て。
その頃には、二人は満身創痍 の体 となっていた。
草むらの上に力なく、ぐったりと横たわる。
「流れを受け入れて理解した上で、創造する者…」
息の一つさえあげていないイズミはエドの鼻に絆創膏を貼り、頭を軽く叩く。
「それが、錬金術師。世の中は常に大きな流れにしたがって流れている。人が死ぬのも、生まれるのも、その流れのうち。だから、人を生き返らせようなんて事はしてはいけない」
まるで、自分達の思惑を見透かされているようで、二人は顔を見合わせて気まずそうに表情を歪め、キョウコは顔をうつむかせる。
「…そろそろ、昼ごはんの時間だね」
イズミは立ち上がると、こほこほ、と小さく咳をして、午後の予定を立てる。
「今日は何にしようかな。午後から、地獄の特訓メニューBプランだから、高カロリーなものを…」
午後の予定を聞いた兄弟は嫌そうに顔を歪めて、不満そうな声をあげる。
「「うえー!!?」」
「口ごたえしない」
問答無用とばかりに、再び宙に投げ飛ばされた。
「「NOーーー!!」」
上下逆さまになって宙を舞う兄弟を心配そうに見つめるキョウコに、イズミが声をかける。
「食事の仕度ができるまで、さっさと復習しておきなさい。キョウコ、手伝っておくれ」
「は…はい!」
体勢を立て直すこともできず、尻もちをついたエドは諦めたように返事する。
「うへ~~~~い」
「えーと、力の循環と構築式と…でも、師匠は手のひらを合わせただけで練成してましたよね」
アルは両手を合わせて、一生懸命イズミの教えを理解しようとしている。
「「うんうん」」
エドとキョウコも素直に頷く。
「両手で輪を作るのが、円を表してるってのはわかるんですけど。構築式はどこに?」
実際に錬金術を使う時には、必ず錬成陣が必要になる。
錬成陣というのは、錬金術の力を発動させるためのもので、円形が基本だ。
ここでの円は「力の循環」を示していて、そこに構築式を描くことで初めて力の発動が可能になる。
「私自身が構築式みたいなものかな」
「さっぱりわかんねー」
「どうやったら、できるんですか?」
ふと湧いた疑問を、錬金術の師匠にぶつけてみた。
イズミは何故か、僅かに眉をひそめ、口をつぐんでしまう。
「……真理にたどり着けば、できるようになるかもね」
やがて、どこか重たい実感を伴った声音でつぶやいた。
イズミの口から告げられた真理という言葉。
父親の書斎にある本や文献を読んで調べてみたが、それに当てはまる内容は書かれておらず、未だわからなかった。
(真理……)
いかなる場合にも通用する妥当な知識や認識。
的確な分析と論理的な思索を巡らせてみたものの、どうしてそれが答えを出すのかが、この時のキョウコにはわからなかった。
「真理か……うーーん……」
どうやら、エドも同じことを考えているようで、うんうんと唸っている。
おもむろに両手を合わせ、壁を触る。
だが、練成特有の光は起きず、辺りは静寂に包まれた。
「できねーーーーーっ!!」
ふて腐れたように床に寝そべるなり、手をジタバタさせる。
「結局、真理ってやつ、教えてくれなかったもんなぁ!!」
「そりゃ、あれだよ、兄さん」
一方、文献のページをめくるアルが苦笑いを浮かべて、落ち着きのないエドに語りかける。
「地道に研究を続けて、自分の力で真理にたどり着けって事だよ」
「地道にか…よっし!もう一回、人体練成の理論を組み立てるぞ!」
エドが身体を起き上がらせるのを一瞥して、キョウコは一つの決意を胸に秘めた。
「…早く、お母さんに会いたいな」
「「うん」」
キョウコの言葉に、二人も共感するように頷いた。
リゼンブール駅の駅長が拡声器で知らせると、バタバタ、と騒がしい足音を立てて、金髪の兄弟が走ってきた。
「駅長さん、こんにちはっ!」
「ただいま!」
脇をすり抜けて挨拶してくる。
「うぉわっ!?」
早足で改札を通り抜ける二人に驚き、駅長は首を捻る。
「あれー?おまえら、ダブリスに行ってたんじゃなかったか?」
「「うん!修業、終わったんだ!」」
「早えなぁ。
指折り数えていると、改札口担当の女性が窓を開けて顔を覗かせる。
「追い出されたんじゃないだろうね」
と、不意に明るい声が響いた。
「ただいま!」
兄弟の後を追いかけに、ダブリスまで行ったキョウコが愛嬌たっぷりに挨拶する。
「キョウコちゃん!」
「ピナコさんから聞いたよ。あの二人を追っかけて、ダブリスに行ったんだってね」
「女の子が一人で知らない場所に行くなんて、危険すぎるよ。ま、無事で良かったけど」
心配そうに声をかけてくれる大人達へ、キョウコは曖昧な笑みを浮かべる。
「えへへ」
最後にぺこりと頭を下げて駅を出る。
そこでは、兄弟がキョウコを待っていた。
「それにしても、まぁ…ちょっと見ない間に、たくましくなって」
あちこちに引っ掻き傷や湿布を貼りながらも、無事に修業を終えて、三人は故郷のリゼンブールに到着した。
ロックベル家を訪れた兄弟は、出された料理を物凄い勢いで食べまくる。
その食べっぷりには、ウィンリィ達も呆れるほど。
「あきれた!電話もしないで、いきなり帰って来て『めし!』だもん!」
「しょうがねーだろ。腹減るもんは減るんだから」
「そうさね、元気そうでなによりさ。ひとまわり、たくましくなった様だし」
シチューの鍋ごと持ってきたピナコの隣では、デンが、よだれーー、と口から涎を垂らしている。
ウィンリィはキョウコを一瞥しただけで、すぐに目を逸らした。
その冷たい態度に身に覚えがあるらしいキョウコは気まずそうに目を伏せる。
「ウィンリィ、ごめんね…」
「だめ!突然いなくなったと思ったら、置き手紙だけ残すなんて!」
どうやら、兄弟を追ってキョウコまでいなくなったことに不満を感じているようだ。
キョウコは、あまりにも不機嫌な感情を親友からぶつけられ、どうしたらいいかわからないといった感じで呆然と佇んでいる。
それにいち早く気づいたデンが、慰めるようにキョウコの傍に近寄る。
やれやれ、と肩をすくめたピナコがこの場を取り繕うように語りかける。
「身長も、ずいぶん伸びたんじゃないかい?」
「え?そお?やっぱ、そう思う?」
嬉しそうに頭を掻くエド、アルは煮干しをデンにあげようとしていた。
次の瞬間、ウィンリィによる無意識の、しかし必殺のクロスカウンターが入った。
「で、どんな修業だったの?」
突如、兄弟の顔が恐怖に強張った。
そのあまりの豹変にデンは驚いてしまい、
「キャン!!」
悲痛な鳴き声をあげる。
顔面蒼白、尋常でないほどの悪寒に震える兄弟の様子に絶句して、ピナコは呆気に取られたように見つめる。
「…言いたくないなら、無理して言わなくてもいいわ。うん」
ウィンリィも、見たことがない兄弟の姿にどこか不穏なものを覚えつつ、それ以上の質問を止めた。
そこへ、近所の子供達が噂を聞きつけてやって来た。
「よう!」
「帰って来たって?」
修業を終えて帰ってきた兄弟へ、親しげに話しかける。
「おう、久しぶり!」
「さっき、帰って来たって聞いてさ…」
「ピナコ先生、こんちわ」
言いながら、もう一人はデンの頭を撫でる。
「うちの父ちゃんが、連れて来いって言うから」
「何?なんかくれんの?」
「ちがう、ちがう。羊小屋、直してくれって」
小屋の修復を頼まれ、ロックベル家を出た兄弟……残っているのはキョウコ、ウィンリィ、ピナコの三人である。
「あの二人もそうだけど…キョウコ、おまえも変わったね」
「え?そう?」
「大人っぽくなったよ。あたしの中では、あの二人の後を追いかけるイメージがあったんだが、今じゃ二人のお姉さんみたいな感じだね」
仮修業として兄弟が無人島にいる間、キョウコは肉屋の手伝いをなどをして過ごしていた。
そして、本修業に移った二人の鍛錬を見学し、時には傷の手当てをする。
正直、二人が傷を負うの見たくないし、はらはらと心配するキョウコは気持ちを押し込めて見守るしかない。
(変わったのは、あの二人だけじゃないんだ……)
キョウコ自身、気づいていないが、見た目の可憐らしさとは裏腹な存在感が全身に漂っていて、弱さ頼りなさを欠片も感じさせない。
「キョウコ…そっけない態度とって、ごめんね……」
と、聞こえたウィンリィの声に、どこか悲しげなものが含まれて、キョウコは彼女の思いを感じ取った。
「いいの。あたしこそ、ごめんね。今度はちゃんと伝えてから行くよ」
そして、ウィンリィの両手を包み込むように握り、にっこりと笑いかける。
何年経っても慣れることのできない、あどけなく無邪気な笑顔。
「キョウコォォォ、本当は寂しかったよぅぅ!これから、また二人でいっぱい仲良く遊んで、今日は一緒に寝ようね!」
言うや否や、頬を赤く染めたウィンリィはキョウコに抱きついた。
兄弟の方は早速、現場に行ってみると、柱が壊れて上から押し潰された小屋があった。
「うひゃー。派手に壊れたねぇ」
「この前の大風で、ぼっきりとなー。錬金術で、なんとかなんねーかな」
小屋の修復を依頼した父親が、無理矢理な笑顔を向けてこちらを気にする。
「ああ、無理しなくてもいいんだよ。いつも小さい物は直してもらってたけど…こんな大きいのは、やってもらった事ないものねぇ」
二人は軽く視線を交わすと、木の枝で小屋を覆うように練成陣を描いていく。
「柱だけでも直れば、もうけもんだよな」
「ねぇ」
錬成陣を描く兄弟に気づかず、話は続く。
ちょうど、錬成陣を描き終えた兄弟はかけ声をあげて修復に取りかかる。
「「せーの」」
刹那、押し潰された小屋が一瞬にして元通りになった。
「どう?」
「………………よろしいんじゃないでしょうか……」
修業する以前とは桁違いな、高度な技術で直してみせた二人に、一家は愕然とする。
「すんげー!!修業の成果ってやつ!?」
「前より断然、すげーー!!」
「えへん」
「えへん」
芸のない、しかし最上級の褒め言葉に、二人は鼻高々になる。
「もう、師匠を超えたんじゃない?」
「冗談!!うちの
「へー」
「人間技じゃねーよ」
「二人とも、それはできないのか?」
「オレ達じゃ、まだまだ無理だよ~~。ははは」
エドは苦笑いを浮かべながら、イズミとの本修業を思い出す。
仮修業を終えて本修業へと移り、二人を待ち受けていたのはイズミ直々の鍛錬であった。
「うりゃっ」
「でやっ」
「練成陣の基本は、円の力。円は力の循環を示し、そこに構築式を描く事で、力の発動が可能になる」
左手で料理本を読みながら錬金術の基本を唱え、二人の攻撃を右手だけで防いでいく。
「力の流れと法則を知る事で…あらゆる事に対応できる!」
「えいっ!」
「つまり」
おもむろに、イズミは料理本を投げ捨てると、蹴り上げるアルの右足を受け止め、そのまま両手で回転させた。
「相手の流れを知り、それを利用して、相手に返す」
それを間近で見てしまったエドは開いた口がふさがらず、キョウコも目を見開く。
身体が引っ張られるように回転したアルを、そのまま地に叩きつける。
「これも、力の循環」
「てて…」
次の瞬間、先程投げ捨てた料理本が彼の顔面に落ちた。
「あう」
「体感するのが、一番いい」
イズミは次の標的をエドへと変えて、怖い笑顔で手招きする。
「NOーーーーー!!」
玉砕覚悟で突進していったエドは空中に投げ飛ばされた。
キョウコの仕事はひたすら鍛錬を見学、そして怪我の手当て。
その頃には、二人は
草むらの上に力なく、ぐったりと横たわる。
「流れを受け入れて理解した上で、創造する者…」
息の一つさえあげていないイズミはエドの鼻に絆創膏を貼り、頭を軽く叩く。
「それが、錬金術師。世の中は常に大きな流れにしたがって流れている。人が死ぬのも、生まれるのも、その流れのうち。だから、人を生き返らせようなんて事はしてはいけない」
まるで、自分達の思惑を見透かされているようで、二人は顔を見合わせて気まずそうに表情を歪め、キョウコは顔をうつむかせる。
「…そろそろ、昼ごはんの時間だね」
イズミは立ち上がると、こほこほ、と小さく咳をして、午後の予定を立てる。
「今日は何にしようかな。午後から、地獄の特訓メニューBプランだから、高カロリーなものを…」
午後の予定を聞いた兄弟は嫌そうに顔を歪めて、不満そうな声をあげる。
「「うえー!!?」」
「口ごたえしない」
問答無用とばかりに、再び宙に投げ飛ばされた。
「「NOーーー!!」」
上下逆さまになって宙を舞う兄弟を心配そうに見つめるキョウコに、イズミが声をかける。
「食事の仕度ができるまで、さっさと復習しておきなさい。キョウコ、手伝っておくれ」
「は…はい!」
体勢を立て直すこともできず、尻もちをついたエドは諦めたように返事する。
「うへ~~~~い」
「えーと、力の循環と構築式と…でも、師匠は手のひらを合わせただけで練成してましたよね」
アルは両手を合わせて、一生懸命イズミの教えを理解しようとしている。
「「うんうん」」
エドとキョウコも素直に頷く。
「両手で輪を作るのが、円を表してるってのはわかるんですけど。構築式はどこに?」
実際に錬金術を使う時には、必ず錬成陣が必要になる。
錬成陣というのは、錬金術の力を発動させるためのもので、円形が基本だ。
ここでの円は「力の循環」を示していて、そこに構築式を描くことで初めて力の発動が可能になる。
「私自身が構築式みたいなものかな」
「さっぱりわかんねー」
「どうやったら、できるんですか?」
ふと湧いた疑問を、錬金術の師匠にぶつけてみた。
イズミは何故か、僅かに眉をひそめ、口をつぐんでしまう。
「……真理にたどり着けば、できるようになるかもね」
やがて、どこか重たい実感を伴った声音でつぶやいた。
イズミの口から告げられた真理という言葉。
父親の書斎にある本や文献を読んで調べてみたが、それに当てはまる内容は書かれておらず、未だわからなかった。
(真理……)
いかなる場合にも通用する妥当な知識や認識。
的確な分析と論理的な思索を巡らせてみたものの、どうしてそれが答えを出すのかが、この時のキョウコにはわからなかった。
「真理か……うーーん……」
どうやら、エドも同じことを考えているようで、うんうんと唸っている。
おもむろに両手を合わせ、壁を触る。
だが、練成特有の光は起きず、辺りは静寂に包まれた。
「できねーーーーーっ!!」
ふて腐れたように床に寝そべるなり、手をジタバタさせる。
「結局、真理ってやつ、教えてくれなかったもんなぁ!!」
「そりゃ、あれだよ、兄さん」
一方、文献のページをめくるアルが苦笑いを浮かべて、落ち着きのないエドに語りかける。
「地道に研究を続けて、自分の力で真理にたどり着けって事だよ」
「地道にか…よっし!もう一回、人体練成の理論を組み立てるぞ!」
エドが身体を起き上がらせるのを一瞥して、キョウコは一つの決意を胸に秘めた。
「…早く、お母さんに会いたいな」
「「うん」」
キョウコの言葉に、二人も共感するように頷いた。